説明

船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法

【課題】海洋生物付着による船舶用プロペラの汚損を効率的に防止することができる、船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法を提供する。
【解決手段】主機関1よりも低出力の補助動力源5を備え、船舶の停泊中に補助動力源5の動力によりプロペラ2を回転させて、プロペラ2への海洋生物の付着を防止する。また、主機関1に接続された中間軸3と、プロペラ2に接続されたプロペラ軸4と、中間軸3とプロペラ軸4を連結する連結部6とを備えるとともに、補助動力源5をプロペラ軸4に接続し、船舶の航行中には、中間軸3とプロペラ軸4とを連結して、主機関1の動力によりプロペラ2を回転させ、船舶の停泊中には、中間軸3とプロペラ軸4との連結を解除して、補助動力源5の動力によりプロペラ2を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物付着による船舶用プロペラの汚損を防止する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の船体、機関冷却水の経路、プロペラ等には、フジツボなどの貝類や海藻類といった海洋生物が付着し、走行性能の悪化や耐久性の低下などの問題を引き起こしている。そのため、付着した海洋生物の定期的な除去や、海洋生物が嫌う錫などの成分が混入した塗料を塗布するなどの対策が行われてきた。しかしながら、付着した海洋生物を除去するためには定期的な陸揚げが必要で、コスト負担が大きく、また錫などの成分が混入した塗料については、その毒性が問題である。
【0003】
これに対して、海洋生物の付着が主として停泊中に生じることに着目し、流体を船体に向けて噴出させることにより、海洋生物の付着を防止するようにした発明が開示されている。例えば、特許文献1には、気体や液体を噴出させるための噴出管などの構造に特徴を有する発明が記載されている。
【0004】
また、特にプロペラ部分への海洋生物の付着を防止するものとして、特許文献2には、係留中の船舶のプロペラを袋状の水密性素材で被覆するようにした発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−337157号公報
【特許文献2】特開平9−30490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明によれば、船体など船舶全体の汚損を防止するには効果的であるが、装置が大掛かりとなってコスト負担が大きい。
【0007】
また、特許文献2に記載された発明によれば、プロペラを袋状の水密性素材で被覆するためには、潜水作業員による作業が必要となるため作業負担が大きい。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、海洋生物付着による船舶用プロペラの汚損を効率的に防止することができる、船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の船舶用プロペラ汚損防止装置は、主機関よりも低出力の補助動力源を備え、船舶の停泊中に前記補助動力源の動力によりプロペラを回転させて、プロペラへの海洋生物の付着を防止するようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の船舶用プロペラ汚損防止装置において、主機関に接続された中間軸と、プロペラに接続されたプロペラ軸と、前記中間軸と前記プロペラ軸を連結する連結部とを備えるとともに、前記補助動力源を前記プロペラ軸に接続し、船舶の航行中には、前記中間軸と前記プロペラ軸とを連結して、主機関の動力によりプロペラを回転させ、船舶の停泊中には、前記中間軸と前記プロペラ軸との連結を解除して、前記補助動力源の動力によりプロペラを回転させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明の船舶用プロペラ汚損防止方法は、船舶の停泊中にプロペラを回転させて、プロペラへの海洋生物の付着を防止するようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の船舶用プロペラ汚損防止方法において、主機関よりも低出力の補助動力源の動力により、前記プロペラを回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法によれば、船舶の停泊中にプロペラを回転させることで、停泊中のプロペラの汚損を容易に防止することができる。海洋生物の付着は主として船舶の停泊中に起こるものであるが、従来の停泊中の船舶はプロペラを回転させないため、海洋生物が付着しやすい状況になっている。これに対して、本発明ではプロペラを回転させることで、海洋生物が付着しにくい状況を作り出すことができる。
【0014】
また、本発明によれば、主機関よりも低出力の補助動力源を備え、船舶の停泊中に補助動力源の動力によりプロペラを回転させることで、低コストでプロペラを回転させることができる。本発明では海洋生物が付着しない程度の速度でプロペラを回転させればよいので、船舶を推進させるほどのスピードで回転させる必要はない。従って、主機関を運転することなく、モーター等の補助動力源の動力を用いることで、低コスト運転が可能となる。
【0015】
また、本発明によれば、主機関に接続された中間軸と、プロペラに接続されたプロペラ軸と、中間軸とプロペラ軸を連結する連結部とを備えるとともに、補助動力源をプロペラ軸に接続してある。そして、船舶の航行中には、中間軸とプロペラ軸とを連結して、主機関の動力によりプロペラを回転させる。一方、船舶の停泊中には、中間軸とプロペラ軸との連結を解除して、補助動力源の動力によりプロペラを回転させる。従って、主機関と補助動力源との切り替えを容易に行うことが可能であり、船舶の航行中には、主機関の動力により船舶を推進可能な速度でプロペラを回転させることができ、船舶の停泊中には、補助動力源の動力により海洋生物が付着しない程度の速度でプロペラを回転させることができる。
【0016】
以上、本発明によれば、海洋生物付着による船舶用プロペラの汚損を効率的に防止することができる船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置を搭載した船舶の一部を示す模式図である。
【図2】連結部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法について説明する。図1は、本実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置を搭載した船舶の一部を示す模式図であり、船舶の船尾付近を示したものである。
【0019】
まず、本実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置の構成について説明する。船舶の船尾付近には機関室10が設けられており、機関室10の内部に主機関1が設置されている。また、船尾には、船舶航行の推進力を発生させるためのプロペラ2と、船舶の進行方向を制御するためのラダー9が取り付けられている。
【0020】
主機関1には中間軸3が接続されており、主機関1を運転することにより、中間軸3が回転するようになっている。一方、プロペラ2にはプロペラ軸4が接続されており、プロペラ軸4が回転することにより、プロペラ2が回転するようになっている。そして、中間軸3とプロペラ軸4は、連結部6を介して連結されるようになっており、連結部6を操作することにより、中間軸3とプロペラ軸4を自由に連結・解除できるようになっている。
【0021】
連結部6としては、例えば図2に示すような構成とすることができる。中間軸3の端部にはフランジ3aが形成されており、プロペラ軸4の端部にはフランジ4aが形成されている。そして、フランジ3aとフランジ4aを当接させて、複数箇所でボルト7とナット8を締めることにより結合する。ここで、図2においては、説明のためボルト7とナット8を2組用いた状態のものを示しているが、結合箇所は、フランジ3a,4aの円周上に沿って例えば10箇所程度設ける。連結を解除する場合には、ボルト7とナット8を緩めればよい。なお、連結部6の構成は上記構成に限定されるものではなく、中間軸3とプロペラ軸4の連結・解除が可能なものであればよい。
【0022】
さらに、プロペラ軸4には、補助動力源5が接続されている。補助動力源5は、主機関1とは別に設けられており、例えばモーター等を用いることができる。この補助動力源5は、主機関1のように船舶を推進させるほどの動力を発生する必要はなく、後述するように、プロペラ2を低速で回転させることができるものであればよい。従って、主機関1よりも低出力の動力源を用いて、主機関1を運転するよりも低コストでの運転が可能となっている。
【0023】
以上の構成により、連結部6を連結した状態では、主機関1を運転することにより、中間軸3とプロペラ軸4が回転して、主機関1の動力によりプロペラ2が回転するようになっている。また、連結部6の連結を解除した状態では、補助動力源5を運転することにより、中間軸3は回転せずプロペラ軸4のみが回転して、補助動力源5の動力によりプロペラ2が回転するようになっている。
【0024】
次に、本実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置の使用方法について説明する。まず船舶の航行中には、連結部6が連結されており、主機関1を運転してプロペラ2を回転させて、船舶を推進させる。そして、船舶が目的地の港に到着すると、連結部6の連結解除作業に移る。
【0025】
連結部6を連結しているボルト7とナット8を緩めて連結を解除する。その結果、回転軸3とプロペラ軸4は、それぞれ独立して回転可能な状態となる。次に、プロペラ軸4に接続されている補助動力源5の運転を開始する。補助動力源5を運転すると、補助動力源5の動力により、プロペラ軸4が回転し、プロペラ2が回転する。このとき、プロペラ2を、海洋生物が付着しない程度の速度で回転させる必要がある。
【0026】
ここで、プロペラ2の回転速度について説明する。船舶に付着する海洋生物の代表的なものとしてフジツボが挙げられるが、水中を浮遊するフジツボのキプリス幼生が船舶に付着するためにはある程度の水流が必要とされる。その一方で、水流が速すぎると付着したキプリス幼生の分泌する石灰分が固まらず船舶に着生することができない。一般的には、5〜8cm/s程度の水流が着生するための好条件といわれている。
【0027】
従って、本実施形態においては、プロペラ2の周囲に発生する水流が、8cm/s以上となるように、プロペラ2を回転させることで、フジツボの付着を効果的に防止することができる。例えば、直径6m相当のプロペラの場合、0.4回転/分程度の低回転で回転させることにより、8cm/s以上の水流を発生させることができる。
【0028】
なお、補助動力源5によるプロペラ2の回転は、船舶が停泊している間、常時行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法は、以上のように構成されているので、次のような作用効果を奏する。
【0030】
船舶の停泊中にプロペラ2を回転させることで、停泊中のプロペラ2の汚損を容易に防止することができる。海洋生物の付着は主として船舶の停泊中に起こるものであるが、従来の停泊中の船舶はプロペラを回転させないため、海洋生物が付着しやすい状況になっている。これに対して、本実施形態ではプロペラ2を回転させることで、海洋生物が付着しにくい状況を作り出すことができる。
【0031】
また、主機関1よりも低出力の補助動力源5を備え、船舶の停泊中に補助動力源5の動力によりプロペラ2を回転させることで、低コストでプロペラ2を回転させることができる。本実施形態では海洋生物が付着しない程度の速度でプロペラ2を回転させればよいので、船舶を推進させるほどのスピードで回転させる必要はない。従って、主機関1を運転することなく、モーター等の補助動力源5の動力を用いることで、低コスト運転が可能となる。
【0032】
また、主機関1に接続された中間軸3と、プロペラ2に接続されたプロペラ軸4と、中間軸3とプロペラ軸4を連結する連結部6とを備えるとともに、補助動力源5をプロペラ軸4に接続してある。そして、船舶の航行中には、中間軸3とプロペラ軸4とを連結して、主機関1の動力によりプロペラ2を回転させる。一方、船舶の停泊中には、中間軸3とプロペラ軸4との連結を解除して、補助動力源5の動力によりプロペラ2を回転させる。従って、主機関1と補助動力源5との切り替えを容易に行うことが可能であり、船舶の航行中には、主機関1の動力により船舶を推進可能な速度でプロペラ2を回転させることができ、船舶の停泊中には、補助動力源5の動力により海洋生物が付着しない程度の速度でプロペラ2を回転させることができる。
【0033】
以上、本実施形態に係る船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法によれば、海洋生物付着による船舶用プロペラの汚損を効率的に防止することができる船舶用プロペラ汚損防止装置及び船舶用プロペラ汚損防止方法を提供することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、プロペラ2を回転させるための動力を主機関1と補助動力源5の間で切り替えるために、中間軸3、プロペラ軸4、連結部6を用いた構成としたが、プロペラ2を主機関1とは別の補助動力源5により回転させることができる構成であれば、特に限定されるものではない。
【0035】
また、プロペラ2の回転速度は、停泊している港内の海流等の条件により適宜調整することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 主機関
2 プロペラ
3 中間軸
3a フランジ
4 プロペラ軸
4a フランジ
5 補助動力源
6 連結部
7 ボルト
8 ナット
9 ラダー
10 機関室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主機関よりも低出力の補助動力源を備え、船舶の停泊中に前記補助動力源の動力によりプロペラを回転させて、プロペラへの海洋生物の付着を防止するようにしたことを特徴とする船舶用プロペラ汚損防止装置。
【請求項2】
主機関に接続された中間軸と、プロペラに接続されたプロペラ軸と、前記中間軸と前記プロペラ軸を連結する連結部とを備えるとともに、前記補助動力源を前記プロペラ軸に接続し、
船舶の航行中には、前記中間軸と前記プロペラ軸とを連結して、主機関の動力によりプロペラを回転させ、
船舶の停泊中には、前記中間軸と前記プロペラ軸との連結を解除して、前記補助動力源の動力によりプロペラを回転させることを特徴とする請求項1に記載の船舶用プロペラ汚損防止装置。
【請求項3】
船舶の停泊中にプロペラを回転させて、プロペラへの海洋生物の付着を防止するようにしたことを特徴とする船舶用プロペラ汚損防止方法。
【請求項4】
主機関よりも低出力の補助動力源の動力により、前記プロペラを回転させることを特徴とする請求項3に記載の船舶用プロペラ汚損防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−93382(P2011−93382A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247878(P2009−247878)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(591083118)ツネイシホールディングス株式会社 (18)