説明

船舶用上下架船台

【課題】異なる大きさの船舶を上下架する場合においても、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる船舶用上下架船台を提供する。
【解決手段】水中から陸上に延びる1対の平行な軌道3の上を夫々走行台車4が走行する。走行台車4は、相互に左右方向に連結部材16で連結されている。そして、走行台車4に設けられた牽引ロープを引っ張ることにより船体1を走行台車4と共に牽引する。走行台車4は、車輪5と、車輪5が設けられた車輪台30と船体1を支持する台座6との間に揺動支持装置31を有する。台座6の上部に設けられた船体支持部6aは、船底1aの傾斜に合わせて台座6に対して揺動し、船体の底部1aに面接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海上で船舶を上架し、船舶を陸上に牽引すると共に、陸上で作業した後の船舶を海上で下架するための船舶用上下船台に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の上下架は造船所において最も危険な作業の内の1つであり、浮いている船体を架台の適位置へ固定することは、凪のときであっても大変な作業である。海上では風、波又は海水の流れ等の影響を受けやすく、これらの条件が重なると、上下架作業は更に困難になる。また、船台と船体との間の相対的位置のずれ、船台と船底との間の傾斜の違い又は地盤の傾斜変化に伴う船台と船体との接触位置の変化等の原因により、船体に予想以上に集中荷重が加わり、これが船体の凹み及び破損の発生原因となっていた。
【0003】
船台には、ボンデンと呼ばれるポール状の目印はあるが、水中での位置確認は潜水による以外は不可能であり、実際には大まかな目安により上架をしている。大型船は通常、乾ドックと呼ばれる施設で整備されるが、小型船の場合、特に100トン以下の船の場合は、通常、車輪で走行する引き上げ船台上に船体を乗せ、ロープを使用して前記船台を牽引することにより、前記船台をレ−ル上又は地盤上で走行させて、船体を海上から陸上へ引き上げる(たとえば、特許文献1及び2)。
【0004】
従来、上述した船舶を引き上げ船台上に上架する方法には、大別して腹当て式船台とキール式船台の2種類がある。図24(a)は、走行台車40と船舶41との4点の接触点が船底にある腹当て式の船台39aを示す模式的平面図であり、図24(b)は同じくその模式的側面図である。図25(a)は、走行台車40が船舶41の前部の船底に2点で接触し、船舶41の後部は船底に設けたキール42をキール用走行台車43が1点で支持するキール式船台39bを示す模式的平面図、図25(b)は同じくその模式的側面図である。このように、船台39aは船底に4箇所で接触して船舶41を支持し、船台39bは船底に3箇所で接触して船舶41を支持する。
【0005】
次に、このような船台を使用して、船舶を上架する方法について説明する。先ず、上架する船舶の船底角及び接触位置等の詳細図である上架要領図をもとに、架台の調整を行い、架台を海中へと下げる。次に、船台に設けたポール状の目印であるボンデンに深さの基準線が設けられているので、その深さまで船台を下げる。そして、船舶を船台の中央近傍まで移動させ、図26に示すように、船舶の四方からロープ44を小さな船で渡し、このロープ44を陸上まで伸ばして陸上に固定したり、又は海中の固定アンカーに縛る等して、船舶41を中心として四方向へロープ44を張り、ロープ44の張りを調整して、船舶41を4個の走行台車の中央に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−001093号公報
【特許文献2】特開平01−262284号公報
【特許文献3】特開2005−205962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、船舶41にロープ44を張り、船舶41を船台39a、39bの中央に固定しようとしても、走行台車のレール等から、船台39a、39bの左右対向方向の中央位置は認識できるものの、走行台車の走行方向、即ち前後方向の走行台車の位置は通常不明である。従って、船舶に対する船台の位置は、操作者の感に頼って、一応は調整するが、船台と船舶との間の前後位置の調整が悪ければ、船舶の引き上げと同時にロープを緩め、船舶も前方に移動させる必要がある。このため、架台と船舶との前後位置及び左右位置を確定するには、相当な人手と時間を必要とする。また、僅かな波、風又は海水の流れにも影響され易いため、これらの悪条件が少しでも増えると、更に人手と時間を費やすことになり、条件によっては、更に押し船又は曳き船等の作業船も必要とすることがある。
【0008】
船台そのものは固定台であり、普通はそれぞれの船台能力に合わせた船舶の平均的な船底傾斜に合わせた角度に作られている。しかし、上述したように、船舶を架台の適位置で固定するには、相当の経験に基づく能力が必要であり、実際には、ある程度の接触位置(船台による船舶の支持位置)のずれが生じたまま船舶が船台上に上架されている。更に、船体が小さくなるに従って、船底平坦部は少なくなり、少しの前後位置の違いで船台との接地面の角度は変わるため、船底と船台との傾斜のずれは多くなる。
【0009】
また、北海道の道東及び道北では、流氷等を避ける必要上、冬には殆どの船舶が上架されて陸上にて越冬するため、図27に示すような越冬のための上架施設が多く設けられている。この待機所においては、地盤の形状は、海辺における海底部分の傾斜は急であり、海水中から陸上に出た部分では緩く傾斜しており、更に陸上部分では平坦である。
【0010】
図28に示すように、地盤の傾斜が一定の場合には、船底と走行台車とが接触する部位と面積が変わらない。
【0011】
しかし、図29に示すように、船舶を走行台車で上架する初期は、前部台車の前端部のみ船底に接触し、荷重はその一点に集中する。その後、地盤の湾曲部では後部台車の前端と前部台車の後端のみ船底に接触する。更にその後、地盤が緩やかな湾曲部になると、後部台車及び前部台車共、中央部付近の広い範囲で船底に接触する。しかし、平坦地まで上架すると、湾曲部における接触状態とは逆となり、後部台車の後端と前部台車の前端部のみ船底に接触し、極めて狭い範囲で船舶の全重量を支えることになる。
【0012】
このように、仮に、上架初期に、船底と船台との角度が合っていたとしても、地盤の角度が変わると、船台の前後に荷重の印加位置が移動することとなり、これも凹み及び破損の一つの原因になっている。
【0013】
本願発明者は、上記問題点を解決すべく、特許文献3において、1対の平行な軌跡の上を夫々走行する左右対の走行台車にアームを設け、このアームによって船体を支持する構成の船舶用上下架船台を提案した。そして、このように構成した船舶用上下架船台を使用することにより、船体を容易に走行台車間の中央へ誘導して拘束し、船台との接触部の集中荷重を軽減することができることを開示した。また、本願発明者は、特許文献3において、船体を支持する台座を走行台車の車輪台に対して左右方向の軸まわりに揺動可能に構成することにより、船舶の牽引の過程で地盤の傾斜により船舶と地盤との間の角度が変化した場合においても、船体と台座との間の接触状態を維持する技術を提案した(特許文献3の明細書段落0030乃至0032、図9)。
【0014】
しかしながら、従来、船舶用上下架船台における各走行台車は、位置が固定されたレールの上を走行するように構成されている。従って、左右対の走行台車間の距離は一定であり、船底を支持する台座もレール上の車輪台に固定されていることから、幅方向の距離は一定である。即ち、船舶用上下架船台により小型船を牽引する場合には、図30に示すように、左右対の台座6の幅方向の最側端部間の距離が船底1aの幅よりも広くなる。この場合には、船体1が台座6から少しずれただけでも、船体1が台座6から外れてしまうことがある。また、例えば特許文献3に開示されているように、台座6が船台50の幅方向の軸まわりにのみ揺動可能な構成である場合には、海上から陸上へ向かう方向については台座6を地盤の傾斜に合わせて揺動させ、台座による船体の支持力を船体の長手方向に均一化させることは可能である。しかしながら、船底1aの船体幅方向の傾斜角度が船底1aを支持する台座6上面の傾斜角度と異なる場合においては、台座6上面と船底1aとの傾斜角度が一致しない状態で船体1が上下架船台50上に上架されて、船体1の荷重が船台50の幅方向で台座6上の1点に集中してしまい、船底1a及び台座6の凹み及び破損の原因となる。更に、船底1aの船体幅方向の端部には、図30に示すように、航行中の船舶の横揺れを防止するためのビルジキール1b等の部材が設置されていることがあり、船体1の荷重が台座6上に偏って負荷された場合、このビルジキール1b等の部材を破損してしまい、船舶の航行に支障を及ぼす虞がある。船体1の大きさが小さい程、船底1aの傾斜角度は急であることが多く、台座6と船底1aとの間の傾斜角度のずれによる船底1a及び台座6の凹み及び破損の危険性は高くなる。
【0015】
一方、船舶用上下架船台により大型船を牽引する場合には、図31に示すように、船底1aの左右方向の幅に比して左右対の台座6の幅方向の最側端部間の距離が小さくなる。この場合には、船体1の荷重が船台の左右方向で台座6上面に偏って負荷されると、台座6上での船体1の安定性が低下し、上架中に船体1が上下架船台50から転落してしまう危険性がある。
【0016】
この問題点を解決するためには、例えば図32に示すように、水上から陸上に伸びるレールを1対ではなく左右夫々の走行台車4ごとに3本ずつ設けるか、又は一方の走行台車4側にレール3を3本以上設け、小型船を上架する場合(図32(a))と大型船を上架する場合(図32(b))とで走行台車4を配置するレール3を使い分けると共に、左右対の走行台車4同士を連結する連結棒16の長さを走行台車4の配置によって変更して、少なくとも左右対の走行台車4間の距離だけは船体1の幅に合わせることが行われていた。しかしながら、走行台車を他のレール上に移動させるためには、クレーン又はパワーショベル等の大型の重機を使用する必要がある。即ち、船体1の上架作業のために、他のレール3上への走行台車4の移動作業、及び連結棒16の付け替え作業を実施する必要があり、船舶の上架作業に要するコストが増大する。
【0017】
一方、船底1aの傾斜角度の相違に対応するためには、上架要領図等に従って台座6上に板等を載置して台座6と船底1aとの間に生じた隙間を埋めるか、又は台座6上に形状が多少容易に変化するように砂袋等を載置して台座6と船底1aとの間に隙間が発生することを防止することが考えられる。しかしながら、これらの作業についても多大の労力を要するものである。
【0018】
上述した問題点に加え、近時、水産業界における船舶数の大幅な減少により、船舶の上下架作業、建造及び修理を行う造船所及び専門技術者の数も大幅に減少している。しかしながら、依然水産業への従事者が多い地域においては、緊急な船舶修理への対応、及び日常の整備点検のために、船舶の上下架作業についての専門的な知識を有しない、例えば漁協等の機関が中心となってこれらの作業を実施する必要がある。従って、上下架作業の簡素化が求められている。
【0019】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、異なる大きさの船舶を上下架する場合においても、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる船舶用上下架船台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る船舶用上下架船台は、水中から陸上に延びる1対の平行な軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた前方側の第1船台と、この第1船台の後方にて前記1対の軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた後方側の第2船台と、前記第1船台及び第2船台を牽引する牽引ロープと、を有する船舶用上下架船台であって、前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台の各走行台車は、車輪と、この車輪が設けられた車輪台と、船体の底部に面で接触する船体支持部と、この船体支持部を船体長手方向に延びる第1の軸のまわりに揺動可能に支持する台座と、この台座を前記車輪台に対して船体幅方向に延びる第2の軸のまわりに揺動可能に支持する揺動支持装置と、を有し、前記船体支持部は、前記台座に対して揺動することにより前記船体の底部に面接触することを特徴とする。
【0021】
上述の船舶用上下架船台は、例えば、前記船体支持部、台座及び揺動支持装置が、前記車輪台に対して船体幅方向に移動可能である。
【0022】
また、船舶用上下架船台は、例えば前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台が、
左右対の走行台車から両者間の中央に向けて回動するアームと、各アームの先端にアームに対して傾斜可能に支持されたグリップバーと、を有し、前記牽引ロープは、各グリップバーを陸に向けて牽引し、牽引ロープを引っ張ることにより、各グリップバーが前方に向けて回動し、左右対のグリップバーにより船体のキールを挟持して前記船体を牽引する。
【0023】
この場合、前記各アームを前記走行台車側に向けて付勢する弾性部材を有することができる。
【0024】
また、上述の船舶用上下架船台は、例えば前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台が、左右対の走行台車に走行方向を回動軸として夫々回動可能に支持され前記回動軸よりも走行台車対向方向外側の部分が上方に回動して船体に対し前記対向方向内側に力を付加するアームを有し、前記牽引ロープは、前記アームの回動軸よりも前記対向方向内側の部分に連結され、この牽引ロープの前記アームとの連結点よりも前記対向方向外側に配置され前記アームに対する牽引ロープの連結点から陸に向けて張架方向を転換する方向転換部材を有し、前記牽引ロープを引っ張った場合に、前記アームの前記対向方向外側の部分が前記船体に向けて回動して前記船体を左右のアームで挟持して前記船体を牽引するように構成してもよい。
【0025】
この場合には、前記牽引ロープを緩めた場合に、前記アームにおける前記対向方向外側の部分が重力で下方に回動して前記船体から離れることができる。
【0026】
本発明に係る他の船舶用上下架船台は、水中から陸上に延びる1対の平行な軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた前方側の第1船台と、この第1船台の後方にて前記1対の軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた後方側の第2船台と、前記第1船台及び第2船台を牽引する牽引ロープと、を有する船舶用上下架船台であって、前記第1船台の各走行台車は、車輪と、この車輪が設けられた車輪台と、船体の底部に面で接触する船体支持部と、この船体支持部を船体長手方向に延びる第1の軸のまわりに揺動可能に支持する台座と、この台座を前記車輪台に対して船体幅方向に延びる第2の軸のまわりに揺動可能に支持する揺動支持装置と、を有し、前記船体支持部は、前記台座に対して揺動することにより前記船体の底部に面接触し、前記第2船台は、左右対の走行台車の両者間の中央部で前記船体のキールに面で接触するキール支持部と、このキール支持部を前記第2の軸のまわりに揺動可能に支持するキール台座と、を有し、前記キール支持部は、前記キール台座に対して揺動することにより前記船体のキールに面接触することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の船舶用上下架船台は、船舶の底部に接触する船体支持部が、台座に対して第1の軸のまわりに揺動可能で、船舶底部の傾斜に合わせて揺動して面接触する。よって、船舶によって船底の傾斜角度が異なる場合においても、船体支持部の揺動角度が一意的に決まり、船体支持部が船底と全面で面接触して安定的に船体を支持する。従って、船台の左右方向(船体幅方向)の集中荷重による船体支持部及び船体の破損を防止することができる。
【0028】
また、船体支持部と船底との間に板又は砂袋等を載置しなくとも、船体支持部が積極的に揺動して船底との間に隙間が発生することを防止する。従って、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a),(b)は、本発明の第1実施形態に係る船舶用上下架船台を示す正面図である。
【図2】同じくその側面図である。
【図3】同じくその底面図である。
【図4】(a)は船底の傾斜が大きい場合の上下架船台の台座部分を示す部分拡大図、(b)は船底の傾斜が緩やかな場合の上下架船台の台座部分を示す部分拡大図である。
【図5】走行台車部分を示す側面図である。
【図6】同じくその効果を示す側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る船舶用上下架船台を示す正面図である。
【図8】同じくその側面図である。
【図9】同じくその一部底面図である。
【図10】(a)は第2実施形態に係る船舶用上下架船台を小型船に適用した場合を示す正面図、(b)は第2実施形態に係る船舶用上下架船台を大型船に適用した場合を示す正面図である。
【図11】(a),(b)は、第2実施形態に係る船舶用上下架船台の変形例である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る船舶用上下架船台による上架作業時の状態を示す正面図である。
【図13】同じくその正面図である。
【図14】同じく走行台車及びアームの構造を示す一部平面図である。
【図15】同じく走行台車及びアームの構造を示す一部正面図である。
【図16】本発明の第4実施形態に係る船舶用上下架船台を示す正面図である。
【図17】同じくそのアームと走行台車との関係を示す一部平面図である。
【図18】本発明の第5実施形態に係る船舶用上下架船台を示す側面図である。
【図19】(a)、(b)、(c)は同じくその動作を示す図である。
【図20】本発明の第6実施形態に係る船舶用上下架船台の走行台車部分を示す一部側面図である。
【図21】同じくその一部平面図である。
【図22】(a)は本発明の変形例に係る船舶用上下架船台の走行台車部分(キール台座)を示す平面図、(b)は同じく側面図である。
【図23】第1乃至第6実施形態の船台を組み合わせて使用する場合の一例を示す底面図である。
【図24】(a)、(b)は夫々従来の4箇所支持型の腹当て式船台を示す平面図及び側面図である。
【図25】(a)、(b)は夫々従来の3箇所支持型のキール式船台を示す平面図及び側面図である。
【図26】従来のロープを渡して船舶の位置調整をする方法を示す図である。
【図27】地盤の傾斜が変化する場合における従来の牽引状態を示す図である。
【図28】地盤の傾斜が一定の場合における従来の牽引状態を示す図である。
【図29】地盤の傾斜が変化する場合における従来の上下架船台による牽引状態を示す図である。
【図30】従来の船舶用上下架船台を小型船に適用した場合を示す正面図である。
【図31】従来の船舶用上下架船台を大型船に適用した場合を示す正面図である。
【図32】(a)は複数本のレールを設けた場合における小型船の牽引状態を示す図、(b)は同じく大型船の牽引状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る船舶用上下架船台を示す正面図、図2は第1実施形態に係る船舶用上下架船台を示す側面図、図3は第1実施形態に係る船舶用上下架船台を示す底面図である。船舶用上下架船台50は、水中から陸上まで敷設された1対2本の2対(計4本)のレール3の上を走行する4個の走行台車4を有する。レール3は船体1の左右に夫々1対設けられ、この1対2本のレール3の上を、各走行台車4が例えば8個の車輪5で走行する。図1に示すように、各走行台車4には、その上端部に船舶の底部1aに接触して船体1を支持する船体支持部6aと、この船体支持部6aを下方から支持する台座6とが設けられている。4個の走行台車4は、左右に対向すると共に、前後に離隔するように配置されている。また、左右対となる走行台車4同士は、車輪5が設けられた車輪台30にて1本の連結棒16で連結されており、走行台車4の左右方向(船体を上下架する際の船体幅方向)の距離が一定に保たれている。そして、前方側及び後方側の船台50は、夫々後述する台付けワイヤ61によりこの配置状態で走行する。
【0031】
図2及び図3に示すように、各走行台車4には、車輪5が夫々前後2対(計4個)ずつ設けられた車輪台30が走行台車4の前後方向に並んで1対ずつ設けられ、前後に並んだ車輪台30同士の上に、本発明の揺動支持装置としてシーソープレート31が架設されており、シーソープレート31の下側のプレート32bが車輪台30に固定されている。また、シーソープレート31の上側のプレート32a上には、台座6が固定されている。図2に示すように、各走行台車4の前方側の車輪台30にはフック14が設けられており、このフック14に本発明の牽引ロープとして台付けワイヤ61が結びつけられている。図3に示すように、台付けワイヤ61の他方の端部は、例えば上下架船台50の前方におけるレール3上に設けられた滑車台60に結びつけられている。滑車台60には左右に夫々2箇所ずつ車輪が設けられており、この車輪によってレール3上を走行する。また、滑車台60には滑車60aが設けられており、滑車台60に一端が固定された巻き上げワイヤ62が、例えば上架施設等の一定の位置に設けられた滑車63と滑車台の滑車60aとの間に巻回されている。そして、巻き上げワイヤ62の他端を引っ張ることにより、2個の滑車が回転し、滑車台60をレール3に沿って上架施設側に牽引し、台付けワイヤ61を牽引することにより、船台50を牽引する。台付けワイヤ61は、各走行台車4ごとに設けられて夫々の走行台車4を牽引するか、又は後方の走行台車4はタグロープ12、連結部材若しくは他のワイヤで前方の走行台車4に連結されており(図3)、巻き上げワイヤ62を巻き上げることによって、前方の走行台車4を車輪台60と共に牽引し、前後の上下架船台50を同時に牽引する。
【0032】
各走行台車4ごとに前後対の車輪台30に固定されたシーソープレート31の一方(下側)のプレート32bと、台座6の下部に固定された他方(下側)のプレート32aとは、水平の軸33により回転可能に連結されている。これにより、シーソープレート31は、台座6を車輪台30に対して揺動可能に支持している。シーソープレート31の揺動軸33は、船台50の左右方向(船体を上下架する際の船体幅方向)と平行であり、本発明における第2の軸である。
【0033】
台座6は、例えばアルミニウム製の枠体の内部を補強材で補強した支持部6cと、支持部6c上に固定され船体支持部6aを揺動可能に支持する揺動支持部6bとからなる。支持部6cの左右方向の外側最側端部は、上方から下方にかけて傾斜して設けられており、支持部6cの左右方向の幅は上方から下方へと広がるように構成されている。このように、台座6の外側最側端部に傾斜部を設けることにより、船体1を支持した際に斜め方向に受ける支持反力を台座6の下方で均一に分散させて、走行台車4の転倒を防止する。揺動支持部6bは、例えばアルミニウム製であり、その上部において円弧状に凹んだ曲面を有する。
【0034】
上述の船体支持部6aは、船底1aを損傷から保護するために、例えば木製であり、その下面が揺動支持部6bの凹面と同一の円弧で湾曲する凸面となっている。船体支持部6a及び揺動支持部6bの円弧状の曲面の中心軸は、例えば車輪5の前後方向(船体を上下架する際の船体長手方向)と平行であり、本発明における第1の軸である。そして、船体支持部6aの下部及び揺動支持部6bの上部において、互いに同一円弧状の凹凸面を形成することにより、船体支持部6aは揺動支持部6bに対して円弧状の曲面に沿って揺動することができる。
【0035】
次に、上述の如く構成された本実施形態の上下架船台50の動作について説明する。海水中に前後左右4個の走行台車4が1対(4本)のレール3上で走行可能に配置されている。この上下架船場の左右の走行台車4間に、船舶を自航させ、又は曳航することにより、位置させる。牽引方向の前後方向における船舶位置の調整は、自航用のプロペラを回転させることにより行い、自船を海上に設けられた前後方向の位置マークに合わせる。図3に示すように、船舶1には左右夫々の位置にタグロープ12が結びつけられており、先ずタグロープ12を陸上から牽引することにより、船舶1が海上に浮いた状態で船舶1の左右方向の中心位置を左右の走行台車4の中心位置に大まかに一致させる。次に、巻き上げワイヤ62を巻き上げることにより、前後の上下架船台50を牽引する。同時に、船舶1に結びつけられたタグロープ12を(緊張状態がゆるまない程度に)引っ張り、船舶1を上下架船台50と同時に陸上方向に牽引する。そうすると、走行台車4は、レール3に沿って陸上方向に移動し、先ず、前方側の船台50における船体支持部6aが船舶1の船底1aに近接する。その後、巻き上げワイヤ62を巻き上げ、タグロープ12を牽引すると、船体支持部6aに船舶1の重量が負荷され、船体支持部6aが船底1aに上方から押圧され、船底1aの傾斜に合わせて揺動支持部6bの曲面に沿って揺動し始める。このとき、船体1は左右対の台座6上に設けられた船体支持部6aの夫々を押圧するが、左側の走行台車4における船体支持部6aと右側の走行台車4における船体支持部6aとで押圧力が異なる場合、船体1は押圧力が大きい側から小さい側へと浮動する。従って、船体1の幅方向の中心位置が上下架船台50の中心位置に自動的に一致する。そして、左右対の走行台車4において、左側の船体支持部6aにおける押圧力と右側の船体支持部6aにおける押圧力とが等しくなった状態で、左右対の船体支持部6aは船舶の船底1aに全面で接触し、船底からの押圧力が船体支持部6aの全面において均一に分散される。その後、巻き上げワイヤ62の巻き上げ及びタグロープ12の牽引によって、船体1の前方側の重量が前方側の船台50における船体支持部6aによって完全に支持された状態になると、船体1は船台50上で安定的に支持されるため、タグロープ12の緊張状態を解いても、船体1は、その前方側の重量が安定した状態で陸上方向に上架されていく。そして、巻き上げワイヤ62の巻き上げに伴い、やがて後方側の船台50が船体1の後方側に近接し、前方側の船台50と同様に、左右対の船体支持部6bが船舶の後方側の船底1aに全面で接触する。そして、船底1aからの押圧力が船体支持部6aの全面において均一化された状態で後方側の船台50が船体1を支持し、前方側及び後方側の船台50によって船体1を陸上へと上架する。
【0036】
上下架船台50にシーソープレート31が設けられてない場合、海中から陸上まで船体1を上架する過程で、地盤の傾斜等により、船台50の前方側と後方側とでは船体支持部6aに負荷される船体1の荷重が偏り、例えば船体支持部6aの後方側において、船体1の荷重が集中して大きく負荷される。これにより、船体支持部6a及び船体1は損傷してしまうことがある。本実施形態においては、車輪台30と台座6との間に、水平軸33のまわりに回転可能なシーソープレート31(揺動支持装置)が設けられており、上架の過程で地盤が傾斜していても、図5及び6に示すように、車輪台30に対して台座6が船体幅方向に延びる軸33まわりに揺動する。これにより、走行台車4が水平の状態にあるときは、船体1からの荷重は船体支持部6aに平均的に印加されることは勿論のこと、走行台車4が傾斜している場合も、プレート32aとプレート32bとの間のなす角度が変化して、船体支持部6aは走行台車4bの前後方向にわたって均一に船体1の船底に接触することができ、船体1の重量を船体支持部6aにより均一に受けることができる。船舶1が陸上に牽引される過程で、船舶1と走行台車4との間の相対角度は種々変化するが、全ての車輪5とレール3とは常に接触し、船体1と船体支持部6aとは常に接触している。よって、船体1を安定して且つ広範囲で支えるため、小さな応力で走行台車4により支持することができ、船舶1及び船体支持部6aに集中荷重が印加されることを防止することができる。
【0037】
また、本実施形態の上下架船台50は、船舶の底部1aに接触する船体支持部6aが、台座6に対して揺動可能で、船舶底部1aの傾斜に合わせて船体長手方向に延びる軸まわりに揺動して揺動角度が決まり、船体の底部1aと面接触する。よって、図4に示すように、船舶によって船底1aの傾斜角度が異なる場合においても、船体支持部6aの揺動角度が一意的に決まる。そして、船底1aの傾斜角度が大きい場合(図4(a))においても、船底1aの傾斜角度が緩やかな場合(図4(b))においても、船体支持部1aが船底1aと全面で接触して船体1を支持する。従って、船台50の左右方向(船体幅方向)の集中荷重による船体支持部6a及び船体1の破損を防止することができる。
【0038】
更に、船体支持部6aと船底1aとの間に板又は砂袋等を載置しなくとも、船体支持部6aが積極的に揺動して船底1aとの間に隙間が発生することを防止する。従って、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる。
【0039】
なお、本実施形態においては、台座6を揺動支持部6bと支持部6cとにより別体的に構成しているが、揺動支持部6bと支持部6cとを1つの部材によって一体的に構成してもよい。また、本実施形態においては、支持部6cの左右方向の外側最側端部を上方から下方にかけて傾斜して設けているが、船台50で船舶を支持した状態で上下架作業を安定して行うことができる範囲において、支持部6c側端部に傾斜を設けなくてもよい。更に、巻き上げワイヤ62を巻回する滑車62a,63の個数を、船舶の重量により適宜増減することができる。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態の上下架船台50について説明する。図7は本発明の第2実施形態に係る船舶用上下架船台を示す正面図、図8は第2実施形態に係る船舶用上下架船台を示す側面図、図9は第2実施形態に係る船舶用上下架船台を示す一部底面図である。
【0041】
第1実施形態においては、台座6に対して揺動し、船舶底部1aの傾斜に合わせて揺動角度が決まる船体支持部6aを設けて、船体を船体支持部6aの上面全体で支持することによって集中荷重の発生を防止したが、本第2実施形態においては、左右対の走行台車間の距離が一定であることによる上下架作業の不安定化を防止する。
【0042】
本実施形態においては、図7乃至9に示すように、走行台車4の前後対の車輪台30上にシーソープレート31が直接固定されるのではなく、前後対の車輪台30同士の上に後述するスライド機構17の支持板17bが架設されて、前後の車輪台30同士が支持板17bで連結されている。そして、スライド機構17の支持板17b上に、第1の揺動機構としてシーソープレート31が載置されている。また、図10に示すように、走行台車4の車輪台30は、左右方向の幅が第1実施形態に比して大きく設けられており、左右対の車輪台30同士の内側の最側端部間の距離が、例えば平均的な小型船舶の幅(例えば3m程度)よりも小さく(図10(a))、外側の最側端部間の距離が、例えば平均的な大型船舶(例えば5m程度)よりも小さい(図10(b))。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0043】
スライド機構17は、支持板17bの上面に、例えば木製の滑り材等が適長間隔をおいて複数本並設されており、この支持板17bの滑り材上に、後述するシーソープレート31の下側のプレート32bが載置されている。スライド機構17の支持板17bは、船台50の前後方向の長さがプレート32bより若干長く、左右方向の幅が車輪台30と同程度にプレート32bより長く設けられている。また、支持板17bの4辺の夫々には、シーソープレート31が支持板17b上から転落することを防止するために、ストッパ17aが設けられている。支持板17b上の滑り材は、例えば高分子プラスチックを原料とした合成木材からなり、表面が易滑性を有する。これにより、支持板17bは、船体支持部6a及び台座6をシーソープレート31と一体的に船台50の左右方向(船体を上下架する際の船体幅方向)にスライド可能に支持している。なお、支持板17b上面の滑り材は、台座6上に船舶1を支持していない状態では、船体支持部6a、台座6及びシーソープレート31を例えば上下架作業者が押すことで左右方向(船体幅方向)にスライドすることができるが、台座6で船舶1を支持した際には、船体支持部6a、台座6及びシーソープレート31を一定の位置に保持する摩擦力を発生する程度の摩擦係数を有する。更に、スライド機構17には、車輪台30と連通するピン孔が、船台の幅方向に例えば10cm間隔で並設されており、シーソープレート31の下側のプレート32bにも同様にピン孔が設けられている。そして、図7に示すように、船体支持部6a及び台座6をシーソープレート31と一体的に船台50の幅方向にスライドさせ、所望の位置にきたときにプレート32b側からピン18を差し込んで、船体支持部6a、台座6及びシーソープレート31を一定の位置に保持することができる。これにより、船体支持部6a、台座6及びシーソープレート31を片側10cm単位で左右方向にスライド、固定することができる。
【0044】
次に、上述の如く構成された本実施形態の上下架船台50の動作について説明する。本実施形態においては、先ず、上架する船舶の長さを基に、前後の船台50間の距離を調整し、船舶の幅を基に台座6の位置をスライド機構17上で移動させることにより調整し、船舶の重量を基に巻き取りワイヤを巻回する滑車の数量を調整する。次に、船舶の幅に合わせて左右のボンデン幅を調整する。船台50の調整が終了したら、船台50を海中に沈める。船台50の海中における位置は、ボンデンの位置により知る。その後の上下架船台50による船舶1の上架動作については、第1実施形態と同様である。
【0045】
本実施形態の上下架船台50は、第1実施形態と同様に、(船体幅方向に伸びる)水平軸33のまわりに回転可能なシーソープレート31(揺動支持装置)が設けられているため、台座6上の船体支持部6aは走行台車4の前後方向にわたって船体1の船底に均一に接触して、船体1の重量を船体支持部6aの前後方向において均一に受けることができ、船舶1に集中荷重が印加されることを防止することができる。
【0046】
また、船体支持部6aが台座6に対して揺動し、船底1aの傾斜角度が異なる船舶に使用した場合においても、船体支持部1aが船底1aと全面で面接触して船体1を支持する。従って、船台50の左右方向(船体幅方向)の集中荷重による船体支持部6a及び船体1の破損を防止することができる。そして、船体支持部6aと船底1aとの間に板又は砂袋等を載置しなくとも、船体支持部6aが積極的に揺動して船底1aとの間に隙間が発生することを防止する。従って、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる。
【0047】
更に、本実施形態においては、船舶の底部1aを支持する船体支持部6aが台座6及びシーソープレート31と共に車輪台30に対して左右方向(船体幅方向)に移動可能に設けられている。従って、図10に示すように、船体1の幅が小さい場合(図10(a))においても、船体1の幅が大きい場合(図10(b))においても、台座6の左右方向の最側端部間の距離を様々な幅の船体1に対して最適化することができ、汎用性が高い。そして、種々の幅の船体1に対応するためにレール3の数を増やしたり、走行台車4を船体1の幅に合わせて他のレール上に載せ替えたりしていた従来の煩雑な作業を省略しても、上下架作業を容易に且つ安定して行うことができる。また、船舶の上下架作業に要するコストを低減することができる。
【0048】
なお、本実施形態において、スライド機構17は車輪台30上に設けられているが、シーソープレート31を車輪台30上に固定すると共に、シーソープレート31上にスライド機構17を設け、台座6をシーソープレート31上で左右方向(船体幅方向)に移動可能に構成してもよい。また、図11に示すように、船台50で船舶を支持した状態で上下架作業を安定して行うことができる範囲において、支持部6c側端部に傾斜を設けなくてもよい。
【0049】
次に、本発明の第3実施形態の上下架船台50について説明する。図12は本第3実施形態に係る船舶用上下架船台による上架作業時の状態を示す正面図、図13は同じく上架作業時の上下架船台及び船舶を示す正面図、図14は1走行台車当たりの拡大平面図、図15は同じく1走行台車当たりの拡大正面図である。第1及び第2実施形態の上下架船台においては、船体支持部6aが揺動支持部6bに対して揺動可能に設けられており、船体支持部6aが船底1aに面接触するため、船体1の押圧力が左側の走行台車における船体支持部6aと右側の走行台車における船体支持部6aとで異なる場合、押圧力が大きい側から小さい側へと船体が海上で浮動して、船体1の中心位置が自動的に船台50の幅方向の中心位置に一致していた。しかしながら、例えば船体の重心位置が幅方向で船体の中心位置に存在しない場合においては、第1及び第2実施形態の上下架船台を使用した場合、船体1の重心位置が船台50の中心位置と一致するように船体が上架され、上下架船台と船体との幅方向の中心位置が一致しない場合が考えられる。本実施形態の上下架船台50には、第1又は第2実施形態の上下架船台の構成に加えて、上下架船台50と船体1との左右方向の中心位置を一致させるための構造が設けられている。即ち、本第3実施形態においては、図12及び図13に示すように、左右の対の走行台車4が相互に対向する方向(以下、対向方向)の内側の側面(図12及び13においては、台座6の側面)に、左右対の走行台車4の中央に向けて回動するアーム7が設けられている。このアーム7は、図14及び図15に示すように、走行台車4の対向方向内側の側面にユニバーサルジョイント10によりその回動軸をほぼ垂直にして回動可能に連結されており、アーム7はこのユニバーサルジョイント10により上下方向にも若干回動することができる。このユニバーサルジョイント10には勾配調節バネ13が設けられている。この勾配調節バネ13により、アーム7がほぼ水平状態に弾性的に保持されている。そして、船体1が傾いてアーム7に接触した場合に、船体及びアームの損傷を避けるために、アームは勾配調節バネ13の付勢力に抗して下降することができる。このアーム7の先端には、グリップバー9がヒンジ部11によりアーム7に対して回転可能に連結されている。そして、このグリップバー9におけるヒンジ部11の近傍の部分と、走行台車4の後端部における対向方向外側の部分とは、引張弾性力を付与する弾性部材8により連結されている。この弾性部材8はバネ又はゴム等の引張弾性力を有するものであり、グリップバー9に対して走行台車4側に向かう引張力を付与している。本実施形態の構造が設けられた船台50において、タグロープ12はグリップバー9の前端部に連結されている。
【0050】
グリップバー9は、左右対の走行台車4の1対のグリップバー9で船体1のキール2を挟持するものであり、このため、グリップバー9の対向面(キールとの接触面)にはマット又はラバーが張られている。このグリップバー9におけるアーム7との接続点(ヒンジ部11)と、走行台車4におけるアームとの接続点(ユニバーサルジョイント10)との間の長さ、即ちアーム7の長さは、左右の対向する走行台車4に設けられたもの同士が同一である。そして、アーム7は走行台車4とキール2との間の距離よりも長く、しかも、ヒンジ部11はユニバーサルジョイント10よりも走行台車牽引方向(陸に向かう方向)の後側に位置し、アーム7と走行台車4とのなす角度は、90°未満である。タグロープ12は、牽引方向の前方の走行台車4の前端に設けられたフック14に接続され、更に、その走行台車4の後端に設けられたフック15と、牽引方向の後方の走行台車4の前端に設けられたフック14との間が同様にタグロープ12により接続されている。この前方の走行台車4の後端に設けられたフック15と、後方の走行台車4の前端に設けられたフック14との間の距離(タグロープ12の長さ)は、キール2の左右のタグロープ12で同一である。
【0051】
次に、上述の如く構成された本実施形態の船舶用上下架船台の動作について説明する。本実施形態においても、第2実施形態と同様に、先ず、上架する船舶の長さを基に、前後の船台50間の距離を調整し、船舶の幅を基に台座6の位置をスライド機構17上で移動させることにより調整し、船舶の重量を基に巻き取りワイヤを巻回する滑車の数量を調整する。次に、船舶の幅に合わせて左右のボンデン幅を調整する。船台50の調整が終了したら、船台50を海中に沈め、海水中のレール3上に走行台車を配置する。船台50の海中における位置は、ボンデンの位置により知る。これにより、海水中に前後左右4個の走行台車が1対(4本)のレール3上で走行可能に配置されている。この上下架船場の左右の走行台車4間に、船舶を自航させ、又は曳航することにより、位置させる。牽引方向の前後方向における船舶位置の調整は、自航用のプロペラを回転させることにより行い、自船を海上に設けられた前後方向の位置マークに合わせる。この場合に、グリップバー9は、弾性部材8に引っ張られて、図14に二点鎖線にて示す位置にある。その後、巻き上げワイヤ62を巻き上げることにより、前後の上下架船台50を陸側に牽引し、同時に陸上から左右2本のタグロープ12を同時に牽引する。そうすると、タグロープ12に接続されたグリップバー9が牽引方向の前方に移動しようとするが、このグリップバー9はアーム7の先端に回転可能に連結されているので、ヒンジ部11がアーム7の先端の円弧状の回動軌跡に沿って移動し、ヒンジ部11でアーム7に連結されたグリップバー9もこの円弧状の回動軌跡に沿って、しかしその姿勢は走行台車4の側面及びキール2に平行にして、移動する(図15)。これにより、左右対の走行台車4から回動してきたグリップバー9は、アーム7の長さが同一であるので、左右対の走行台車4間の中央で、キール2を挟持する。仮に、船舶1の位置が、一方の走行台車4側に偏っていた場合、その偏っている側の走行台車4のグリップバー9が先に船舶1のキール2に接触する。そして、タグロープ12を更に牽引すると、このキール2に接触したグリップバー9が、キール2を、左右対の走行台車4の対向方向の中央に向けて押圧する。つまり、船舶1が偏っていた側のグリップバー9が、キール2を介して、船舶1を他方のグリップバー9が装着された相手方の走行台車4に向けて押圧する。そして、船舶1が左右方向に移動し、やがて、対のグリップバー9の双方がキール2に接触し、アーム7の長さが同一であるので、キール2が左右対の走行台車4の丁度中央に位置することになる。そして、タグロープ12を更に牽引することにより、1対のグリップバー9が走行台車4間の中央でキール2を挟持した状態で、キール2を介して船舶1を陸上に向けて牽引する。本発明は、船体によって船底の傾斜角度が異なる場合を対象としたものであるが、本実施形態においては、アーム7がこのユニバーサルジョイント10により上下方向にも回動可能に設けられている。従って、船底1aの傾斜角度が急な場合においては、図13に示すように、アーム7が矢印で示す下方向に回動する。これにより、アーム7への船底1aの衝突による損傷を防止する。更にタグロープ12を牽引すると、船体支持部6aが船底1aに近接する。そして、船体支持部6aが船底1aに当接すると、船体支持部6aは船底1aの傾斜に合わせて揺動支持部材6bに対して揺動し、船底1aを船体支持部6aの全面で均一の押圧力により支持した状態となる。これにより、船体1は、船台50上で安定的に支持される。船体1が船台50上で安定したら、タグロープ12の牽引を解除する。そうすると、アーム7は、弾性部材8の引張弾性力により、図14の二点鎖線に示す位置に格納される。そして、船台50は、船体支持部6a上で船体1を安定的に支持した状態で、巻き上げワイヤ62の巻き上げによって船体1を陸上へと上架する。
【0052】
なお、殆どの小型船には、突出したキールが設けられているので、本実施形態の船舶用上下架船台は、殆どの小型船に適用することができる。また、一旦、船体キールをグリップバー9により挟持して、船体の牽引を開始した後、船体の前後方向の位置調整をする必要が生じた場合は、単に、タグロープ12を緩めるだけで、グリップバー9は弾性部材8の付勢力により船体キールから離れ、キール2はグリップバー9による拘束から解除されるので、走行台車4の前後位置又は船舶1の前後位置を調整することにより、走行台車4と船舶1との相対的位置を調整することができる。
【0053】
本実施形態の上下架船台は、第2実施形態と同様に、スライド機構17が設けられており、左右対の走行台車4が相互に連結棒16で連結され、車輪台30間の距離が一定の状態で、船舶の底部1aを支持する船体支持部6aを台座6及びシーソープレート31と共に車輪台30に対して左右方向(船体幅方向)に移動することができるように構成されている。従って、船体支持部6a、台座6及びシーソープレート31を左右方向(船体幅方向)に移動させるだけで、種々の幅の船舶に対して台座6の左右方向の最側端部間の距離を最適化し、上下架作業を容易に且つ安定して行うことができ、汎用性が高い。また、船舶の上下架作業に要するコストも低減することができる。そして、シーソープレート31が設けられているため、船体1の荷重を船体支持部6aの前後方向において均一化し、船体支持部6aが台座6の揺動支持部6bに対して揺動可能であるため、船体1の荷重を船体支持部6aの左右方向(船体幅方向)においても均一化することができ、船舶1に集中荷重が印加されることも防止することができる。
【0054】
これに加えて、本実施形態においては、船体を船台の4個の走行台車4の左右中間に自航又は曳航により移動させた後、タグロープ12を陸に向けて牽引するだけで、グリップバー9により、船体が左右の対の走行台車4間の中央に移動して位置調整され、その後、船体が陸に向けて移動する。従って、海上でのロープ渡し及びロープの調整等の海上における煩雑な作業を必要とせず、船体を正確且つ短時間で走行台車間の中央に誘導することができる。そして、例えば船体の重心位置が船体の幅方向の中心位置と異なる場合においても、上架時にアーム7先端のグリップバー9によってキールを挟持し、船体1が船台50の中心位置と一致するため、船体の幅方向の中心位置が上下架船台の中心位置と正確に一致する。また、本実施形態においては、船体のキールをグリップバーにより拘束して船体を拘束するので船体に局部的に集中荷重が作用することを防止することができる。また、通常は上下架船が不可能な気象条件下であっても、船体の位置の微調整及び位置の確定作業を容易にすることができる。
【0055】
なお、本実施形態において、アーム7は、台座6の側面に設けられているが、船舶のキール2を左右から挟持することができれば、アーム7は船台50の車輪台30等の走行台車4の他の部分に設けられてもよい。また、本実施形態においては、船体支持部6a及び台座6は車輪台30に対して左右方向(船体幅方向)に移動可能に構成されているため、アーム7の長さによっては船舶のキール2に届かない場合が考えられる。この場合においては、種々の長さのアーム7を用意し、船体1の幅及びキール2の位置に応じて適宜アーム7を付け替えることができるように構成してもよい。
【0056】
更に、本実施形態においては、船体支持部6aを台座6及びシーソープレート31と共に車輪台30に対して左右方向(船体幅方向)に移動可能に設けたが、例えば上下架作業を行う対象の船舶の大きさが同程度である場合において、上下架船台には幅調整機能を設けなくてもよく、船体支持部1aの揺動によって船台50による支持力を均一化し、上記アームによって船舶のキールを挟持して中心位置を調整するように構成しても、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる。
【0057】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。図16は本第4実施形態の船舶用上下架船台を示す正面図、図17はアーム部分の拡大平面図である。図16及び図17に示す実施形態において、図12乃至図15に示す第3実施形態と同一構成物には、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。左右2対の走行台車4aは、レール3上を走行する車輪5と、船体1を支持する船体支持部6aと、船体支持部6aを支持する台座6とを有する。この走行台車4のうち、前方の1対の走行台車4aには、その前端部における左右対向方向(船舶の幅方向)の外側(図16においては、台座6の外側)に、船舶の牽引方向(船舶の長手方向)に平行な方向を回転軸とする支点22が設けられており、アーム20がこの支点22に回動可能に支持されている。本実施形態においては、アーム20は前方の2台の走行台車4aにのみ設けられている。但し、図16においては、一方のアーム20のみ図示しているが、対向する他方の走行台車4aにも同様のアームが図示されたアーム20と左右対称に設けられている。アーム20における支点22よりも左右対向方向の外側の部分であってその上面には、保護ラバー21が設けられている。このように、船体1と接触する面に保護ラバー21を設けることにより、船体1にアーム20が接触したときの船体1の損傷を防止するようになっている。
【0058】
一方、走行台車4aの車輪台30の前端部外側側面には、支点22よりも下方の位置に、滑車24が回転軸を垂直にして設けられている。そして、アーム20における支点22よりも走行台車の左右対向方向の内側部分の先端には、フック23が設けられており、このフック23にタグロープ12が接続され、タグロープ12は先ず左右対向方向の外側に引き出され、更に滑車24に1/4円弧長巻き架けられてその方向を90°変更し、前方に引き出されている。これにより、タグロープ12を陸上から牽引すると、タグロープ12に引っ張られてアーム20の内側端部(フック23部)が外側に向けて引張力を受け、アーム20はアーム20の外側部分が持ち上がるように回動する。このアーム20は支点22よりも対向方向外側の部分が支点22よりも対向方向内側の部分よりも長く、重量が大きい。従って、タグロープ12による牽引力がアーム20に印加されないと、アーム20はその重力により対向方向外側部分が下降する。換言すれば、アーム20の対向方向内側部分が上昇する。そこで、走行台車の対向方向内側側面には支点22と同程度の高さの位置にストッパ25が設けられており、アーム20の対向方向内側部分が上昇したときに、この部分がストッパ25に係止されてアーム20がほぼ水平状態の姿勢を超えて回転しないようになっている。また、走行台車4aの対向方向外側の側面にはストッパ26が設けられていて、アーム20の対向方向内側部分の先端がストッパ26に係止され、この部分が滑車24に当接しないようになっている。
【0059】
次に、上述の如く構成された本実施形態の船舶用上下架船台の動作について説明する。本実施形態においては、先ず、上架する船舶の長さを基に、前後の船台50間の距離を調整し、船舶の幅を基に台座6の位置をスライド機構17上で移動させることにより調整し、船舶の重量を基に巻き取りワイヤを巻回する滑車の数量を調整する。本実施形態においては、図16に示すように、アーム20の支点22よりも対向方向外側の部分が船体1よりも外側で回動可能に構成されている。従って、左右の台座6及びシーソープレート31間の距離が船体1の左右方向の幅よりも小さくなるように台座6の位置を調整する。次に、船舶の幅に合わせて左右のボンデン幅を調整する。船台50の調整が終了したら、船台50を海中に沈め、海水中のレール3上に走行台車を配置する。船台50の海中における位置は、ボンデンの位置により知る。その後、海水中のレール3上に走行台車を配置する。そして、この状態で上下架船場の左右の走行台車4a間に、船舶を自航させ、又は曳航することにより、位置させる。牽引方向の前後方向における船舶位置の調整は、自航用のプロペラを回転させることにより行い、自船を海上に設けられた前後方向の位置マークに合わせる。その後、巻き上げワイヤ62を巻き上げることにより、前後の上下架船台50を陸側に牽引し、同時に左右2本のタグロープ12を同時に牽引すると、左右1対のアーム20がその内側部分を引っ張ることにより、その外側部分が上方に回動し、保護ラバー21が船舶1の船底と船側との境界部分に接触する。これにより、左右1対のアーム20がその外側部分で船舶1を挟持する。この場合に、船舶1が左右のいずれかに偏っている場合は、その偏っている側のアーム20の保護ラバー21が先ず船舶の外面に接触し、船舶1を反対側のアーム20に向けて押圧する。これにより、船舶1が走行台車4間の中央に移動し、1対のアーム20が船舶の船体1を挟持する。その後、更にタグロープ12を牽引すると、船体支持部6aが船底に近接していき、やがて当接する。そして、船体支持部6aは揺動支持部6bの曲面に沿って揺動し、揺動支持部6bに対する揺動角度が船底1aの傾斜と一致する。そして、船体支持部6aの上面全体が船底に対して均一に面接触した状態となる。また、アーム20は、台座6の支点22を中心に回動し、船舶1を挟持して拘束する。そして、台座6により船舶を下方から支持し、アーム20により船舶を下方及び側方から挟持して拘束した状態で、船舶1が陸に向かって巻き上げワイヤ62の巻き上げ及びタグロープ12の牽引により牽引される。船舶1と走行台車4aとの間の相対的な位置関係を再調整する必要がある場合は、タグロープ12を緩めれば、アーム20における対向方向外側部分は重力により降下し、アーム20による船舶の拘束が解除される。その後、走行台車4aの位置を調整した後、タグロープ12を再度牽引することにより、船舶1を牽引することができる。船体1が船台50上で安定的に支持された状態になったら、タグロープ12の牽引を解除する。
【0060】
本実施形態においても、海上におけるロープがけ作業等が不要であり、走行台車4a間の中央に船舶1を移動させるだけで、あとはタグロープ12を牽引すれば、アーム20を介して船舶1が左右の対の走行台車4a間の丁度中央位置に微調整され、更に、船舶1がアーム20に挟持された状態で、陸上に向けて牽引される。従って、船舶1は船台の走行台車4aの台座6上の船体支持部6aに均一に上架され、船舶1に局部的な集中荷重が印加されることを防止できる。
【0061】
また、第1乃至第3実施形態と同様に、シーソープレート31が設けられているため、船体1の荷重を船体支持部6aの前後方向(船体長手方向)において均一化し、船体支持部6aが台座6の揺動支持部6bに対して揺動可能であるため、船体1の荷重を船体支持部6aの左右方向(船体幅方向)においても均一化することができ、船舶1に集中荷重が印加されることも防止することができる。更に、第2及び第3実施形態と同様に、船底を支持する船体支持部6aが台座6及びシーソープレート31と共に車輪台30に対して左右方向(船体幅方向)に移動可能である。従って、船体支持部6aを台座6及びシーソープレート31と共に左右方向に移動させるだけで、種々の幅の船舶に対して台座6の最側端部間の距離を最適化し、安定して上下架作業を行うことができ、汎用性も高い。また、従来の上下架作業に必要であったレール等が不要であり、走行台車4aの載せ替え作業も不要であるため、上下架作業に要する作業コストを低減することができる。
【0062】
なお、本実施形態においても、第3実施形態と同様に、上下架船台には左右方向の幅調整機能を設けなくてもよく、容易に且つ安定して上下架作業を行うことができる。
【0063】
図18は、本発明の第5実施形態に係る船舶用上下架船台を示す側面図、図19(a)乃至(c)は、同じくその動作を示す図である。図18に示すように、後方の左右対の走行台車4c間に、キール台座39を設け、このキール台座39上に船舶1のキール2を載置するようにしてもよい。但し、前方の船台4bは第1乃至第4実施形態の船台50のように、各走行台車の台座6により船体1を支持するものとする。この場合に、船舶におけるヒールピース等の突起物等に合わせて、キール台座39の高さを可変的に設けてもよい。この実施形態においては、船体1を前方の左右1対の走行台車4bの船体支持部6aにより2点で支持し、後方の走行台車4c間に掛け渡されたキール台座39により1箇所で船体を支持する。従って、本実施形態においては、3箇所で船舶1を支持することになる。このような船舶用上下架船台にも本発明を適用することが可能である。
【0064】
この場合に、図19(b)に示すように、船舶1が海中から陸上に牽引される過程で、地盤が若干傾斜していて、更にキール2も若干傾斜している場合に、キール台座2の全域でキール2に接触しており、船舶1の重量がキール台座39に均一に付加されているとすると、海中の地盤が更に急な箇所(図19(c))では、キール2とキール台座39とはキール台座39の後端部でのみ接触することになり、また、陸上の地盤が水平な箇所(図19(a))では、キール2とキール台座39とはキール台座39の前端部でのみ接触することになる。従って、船舶1のキールに対し、1点の集中荷重が印加される。
【0065】
キール2の傾斜角度は、プロペラの大きさ等によって異なる。また、上架船時の走行台車に対する船舶1の前後方向のずれによっても、キールの走行台車に対する相対角度は異なる。従って、前述の3箇所で船舶1の船体を支持する船舶用上下架船台において、船尾の走行台車は、キール2に対して1点で接触する可能性が高く、集中荷重となりやすい。
【0066】
図20はこのような不都合を解消した本発明の第6実施形態の走行台車部分を示す一部側面図、図21は同じく一部底面図である。この走行台車4dは、車輪5を支持する車輪台34を有し、左右対の走行台車4dの車輪台34間に、キール台座39を掛け渡して構成されている。このキール台座39は、各車輪台34の長手方向の中央部上に夫々端部が固定された支持部35と、この支持部35上に配置されその上にキール2を載置する保護材36とから構成されている。支持部35は上面が円弧状に凹んだ凹面を有し、保護材36はその下面が支持部35の凹面と同一の円弧で湾曲する凸面となっている。そして、保護材36の凸面を台座35の凹面に嵌め込み、両者間に介在するようにして、複数本の丸棒37をその長手方向を走行台車の対向方向に平行にして配置する。保護材36はキール2を損傷から保護するために、木材から削り出されており、支持部35の走行方向中央の下面に設けられた対向方向に延びる微細孔と、保護材36に設けられた対向方向に延びる微細孔とに紐38を通し、この紐38を結んでエンドレスにすることにより、保護材36と支持部35とが相互に拘束されている。紐38の周長は、保護材36が支持部35に対して若干回動可能であるが、支持部35上から離脱しない程度の長さである。
【0067】
このように構成された本実施形態の船舶用上下架船台においては、キール2を支持する保護材36と車輪台34に固定された支持部35とは、丸棒37を介して相互に若干回動可能であるから、船舶1の牽引の過程で、船舶1の角度と、地盤の角度とが変化しても、保護材36が支持部35に対して回動することにより、この角度の変化を吸収し、船舶1のキール2と保護材36との接触状態は、即ち、保護材36の走行方向の全域でキール2と接触する状態は維持することができる。これにより、船舶1のキール2及び船台に集中荷重が印加されることを抑制することができる。なお、本実施形態においても、船舶におけるヒールピース等の突起物等に合わせて、キール台座39の高さを可変的に設けてもよい。
【0068】
図22は上記第6実施形態の走行台車部分の変形例を示す図である。図22に示すように、本実施形態の走行台車もまた、キール台座39として構成されている。このキール台座39は、例えば船舶の後方のみを支持するために配置され、レール3上に配置された前後夫々1対ずつの走行台車4のうち、後方側の1対の走行台車間に台状のキール支持部35が設けられている。キール支持部35上は、船体キール2と対向する位置が凹状にくり抜かれており、その凹部はキール台座39の左右方向(幅方向)に対して垂直な断面において、円弧状に設けられている。そして、このキール支持部35の凹部には、半円柱状の保護材36(本発明のキール台座)が円柱軸を水平軸方向に向けて遊嵌されている。支持部35は、例えばアルミニウム等の金属であり、保護材36は上記実施形態と同様に例えば木製である。そして、保護材36は、円弧状に湾曲した面がキール支持部35の円弧状の凹面に沿って自由に揺動することができる。このように、キール台座39の揺動機構をスライド式に構成することにより、第5実施形態の走行台車において保護材36と支持部35との間の丸棒37、支持部35下面の微細孔及び紐38を設けなくてもよい。
【0069】
以上述べてきた本発明の上下架船台50において、第1乃至第4実施形態の船台は、前方側の船台と後方側の船台とで同一種類の船台を使用する場合に限らず、前方側の船台と後方側の船台とで異なる種類の船台を組み合わせて使用してもよい。例えば、図23に示すように、前方側の船台を第3実施形態の船台とし、後方側の船台を第1実施形態の船台としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1:船体(船舶)、1a:船底、2:キール、3:レール、4:走行台車、4a:走行台車、5:車輪、6:台座、6a:船体支持部、6b:揺動支持部材、6c:支持部材、7:アーム、8:弾性部材、9:グリップバー、10:ユニバーサルジョイント、11:ヒンジ部、12:タグロープ、13:バネ、14:フック、15:フック、16:連結棒、17:スライド機構、17a:ストッパ、17b:支持板、18:ピン、20:アーム、21:保護ラバー、22:支点、23:フック、24:滑車、25:ストッパ、26:ストッパ、30:車輪台、31:シーソープレート、32a:プレート、32b:プレート、33:軸、34:車輪台、35:支持部、36:保護材、37:丸棒、38:紐、39:キール台座、40:走行台車、41:船舶、44:ロープ、50:(船舶用上下架)船台、60:滑車台、60a:滑車、61:台付けワイヤ、62:巻き上げワイヤ、63:滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中から陸上に延びる1対の平行な軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた前方側の第1船台と、
この第1船台の後方にて前記1対の軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた後方側の第2船台と、
前記第1船台及び第2船台を牽引する牽引ロープと、を有する船舶用上下架船台であって、
前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台の各走行台車は、車輪と、この車輪が設けられた車輪台と、船体の底部に面で接触する船体支持部と、この船体支持部を船体長手方向に延びる第1の軸のまわりに揺動可能に支持する台座と、この台座を前記車輪台に対して船体幅方向に延びる第2の軸のまわりに揺動可能に支持する揺動支持装置と、を有し、
前記船体支持部は、前記台座に対して揺動することにより前記船体の底部に面接触することを特徴とする船舶用上下架船台。
【請求項2】
前記船体支持部、台座及び揺動支持装置は、前記車輪台に対して船体幅方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の船舶用上下架船台。
【請求項3】
前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台は、
左右対の走行台車から両者間の中央に向けて回動するアームと、各アームの先端にアームに対して傾斜可能に支持されたグリップバーと、を有し、
前記牽引ロープは、各グリップバーを陸に向けて牽引し、牽引ロープを引っ張ることにより、各グリップバーが前方に向けて回動し、左右対のグリップバーにより船体のキールを挟持して前記船体を牽引することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶用上下架船台。
【請求項4】
前記各アームを前記走行台車側に向けて付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項3に記載の船舶用上下架船台。
【請求項5】
前記第1船台又は前記第1船台及び第2船台は、
左右対の走行台車に走行方向を回動軸として夫々回動可能に支持され前記回動軸よりも走行台車対向方向外側の部分が上方に回動して船体に対し前記対向方向内側に力を付加するアームを有し、
前記牽引ロープは、前記アームの回動軸よりも前記対向方向内側の部分に連結され、
この牽引ロープの前記アームとの連結点よりも前記対向方向外側に配置され前記アームに対する牽引ロープの連結点から陸に向けて張架方向を転換する方向転換部材を有し、
前記牽引ロープを引っ張った場合に、前記アームの前記対向方向外側の部分が前記船体に向けて回動して前記船体を左右のアームで挟持して前記船体を牽引することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶用上下架船台。
【請求項6】
前記牽引ロープを緩めた場合に、前記アームにおける前記対向方向外側の部分が重力で下方に回動して前記船体から離れることを特徴とする請求項5に記載の船舶用上下架船台。
【請求項7】
水中から陸上に延びる1対の平行な軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた前方側の第1船台と、
この第1船台の後方にて前記1対の軌跡上を夫々走行する1対の左右対の走行台車と、この左右対の走行台車を連結する連結部材とを備えた後方側の第2船台と、
前記第1船台及び第2船台を牽引する牽引ロープと、を有する船舶用上下架船台であって、
前記第1船台の各走行台車は、車輪と、この車輪が設けられた車輪台と、船体の底部に面で接触する船体支持部と、この船体支持部を船体長手方向に延びる第1の軸のまわりに揺動可能に支持する台座と、この台座を前記車輪台に対して船体幅方向に延びる第2の軸のまわりに揺動可能に支持する揺動支持装置と、を有し、
前記船体支持部は、前記台座に対して揺動することにより前記船体の底部に面接触し、
前記第2船台は、左右対の走行台車の両者間の中央部で前記船体のキールに面で接触するキール支持部と、このキール支持部を前記第2の軸のまわりに揺動可能に支持するキール台座と、を有し、
前記キール支持部は、前記キール台座に対して揺動することにより前記船体のキールに面接触することを特徴とする船舶用上下架船台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2011−11680(P2011−11680A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158929(P2009−158929)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(596059934)運上船舶工業有限会社 (5)