説明

芝生育成促進材及び芝生育成方法

【課題】廃棄物から生成される溶融スラグを芝生育成促進材として適用するにあたり、芝生の育成促進に有用というだけでなく、環境および使用者にとって安心して使用することのできる芝生育成促進材にする。
【解決手段】SiO,CaO,Al,MgO,MnOを主成分とし、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有する粒子状であって、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えた一方で、酸化鉄(FeO)を0.1質量%〜5.0質量%含んだ溶融スラグを芝生育成促進材として使用する。この溶融スラグは、好ましくは、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式の溶融炉を用いて生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝生育成促進材及び芝生育成方法に関し、例えば一般廃棄物や産業廃棄物を溶融処理することで得られる溶融スラグを基盤とした芝生育成促進材及び芝生育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、芝生の張り付け後には、芝生の根付きや発芽/発根を促進させる目的で、山砂などの目土に肥料を混ぜたものが散布されている。この目土と肥料の代替材料として、高炉スラグ等の鉱滓(鉱さい)を利用することが提唱されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、高炉スラグ等の鉱滓には、その高アルカリ特性により芝生への悪影響が懸念されること、及びスラグ同士の固結性が懸念されるなどの問題があった。
【0004】
また、廃棄物をガス化改質方式(サーモセレクト方式)で処理することによって得られるサーモスラグを、土質改質材(例えば、芝生の目土)として使用することが提唱されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2には、サーモスラグの優位性を確認するために、キューポラスラグおよび水砕スラグとの比較検討が行われている。その結果、水砕スラグは、酸化鉄(FeO)が少ない、微細化して粒度を確保するのが難しい、石炭由来の硫黄(S)が多く含まれるといった課題があり、土質改質材としては好ましくないと結論付けられている。
【0006】
しかしながら、特許文献2のように廃棄物から人工的に生成されるスラグには、サーモスラグであるか水砕スラグであるかに関わらず、環境や使用者にとって安心して使用できるという保障が、天然資源と同等又はそれ以上に要求される。すなわち、スラグを目土として使用する場合、芝生の育成に対して有用というだけでは十分とは言えず、「環境に優しい」および「使用者に優しい」ことが必要である。使用者には、スラグを散布する作業者だけでなく、施設利用者も含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−17157号公報
【特許文献2】特開2006−28380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、一般廃棄物又は産業廃棄物を溶融処理し、その溶融物を水で急速破砕することによって得られる水冷式溶融スラグは、粒度が不均一であって、しかも表面が針状又は角状になっているものが含まれるため、芝刈り時にトラブルが発生しやすく、また使用者を傷付けることが懸念される。
【0009】
さらに、特許文献2には溶出試験の結果が示されており、いずれの重金属についても土壌としての基準値を満たすことが確認されているが、環境への影響を考えると、溶出量は、より少ない方が好ましい。更に、例えば強い酸性雨が継続して降るなどの不測の悪条件にみまわれた場合に、溶出量が基準値を上回るとも限らない。
【0010】
本発明は、一例として挙げた上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、芝生の育成促進に有用というだけでなく、環境および使用者にとって安心して使用することのできる芝生育成促進材及び芝生育成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の芝生育成促進材は、SiO,CaO,Al,MgO,MnOを主成分とし、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有する粒子状の芝生育成促進材であって、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えた一方で、酸化鉄(FeO)を0.1質量%〜5.0質量%含んだ溶融スラグであることを特徴とする。
【0012】
ここで、溶融スラグ中に含有される鉛(Pb)は、金属状態のものを想定しているが、酸化状態のものが含まれる可能性がある。従って、たとえ酸化状態で含有された場合であっても、Pbに換算した値が50質量ppm以下であれば本発明の技術的範囲に含まれると理解される。
【0013】
前記溶融スラグは、好ましくは、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融炉で溶融処理し、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであり、さらに、生成された水冷式溶融スラグを、破砕機で破砕又は磨砕機で磨砕して、粒度調整と保水率の向上を行ったものである。破砕又は磨砕を行った後の溶融スラグの保水率は、例えば0.4〜4%である。さらに、前記溶融スラグの最大粒子径が2.5mm以下であり、且つ、粒径75μm以下の粒子が5%以下の割合で含まれる粒度分布となるように、前記粒度調整を行うことができる。
【0014】
また、本発明の芝生育成促進材は、SiO,CaO,Al,MgO,MnOを主成分とし、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有する粒子状であって、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融炉で溶融処理し、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであり、前記溶融炉が、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式であることを特徴とする。
【0015】
前記溶融炉に投入されるコークスの量が、廃棄物投入量1トン当たり100kg以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の芝生育成方法は、上記した芝生育成促進材を、ゴルフ場,公園,競技場,学校等の公共施設に植えた芝生における目土、或いは圃場の芝生における目土として使用することを特徴とする。
【0017】
用途によって適宜調節されるが、芝生育成促進材の使用量は、2mm〜20mm厚となるように散布するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有するが、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えたことによって、たとえ不測の悪条件にみまわれた場合であっても鉛の溶出を抑えることができる。その結果、環境及び使用者にとって安心して使用することが可能となる。このように鉛の含有量を抑えても酸化鉄(FeO)の含有量を0.1質量%〜5.0質量%で確保しているので、肥料成分の供給機能とスラグ外面の色効果による保温機能の相乗効果によって、芝生の育成を促進させることが可能となる。
【0019】
前記溶融スラグが、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融炉で溶融処理し、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであり、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式の溶融炉で溶融処理することによって、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えた一方で、酸化鉄(FeO)を0.1質量%〜5.0質量%含んだ溶融スラグを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に従う芝生育成促進材を生成する溶融炉の一例である。
【図2】本発明の一実施形態に従う芝生育成促進材の評価結果を示す写真である。
【図3】本発明の一実施形態に従う芝生育成促進材の評価結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態に従う芝生育成促進材及び芝生育成方法について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0022】
本実施形態に従う芝生育成促進材は、例えば一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融処理する際に得られる溶融スラグである。特に、廃棄物の溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであることが好ましい。溶融スラグは、SiO,CaO,Al,MgO,MnO,FeO,T−Fe(Total-Fe),T−S(Total-S),肥料成分,重金属等の不純物を含んでいる。これら成分の含有量は、例えば廃棄物の種別(特に、灰分の含有量)等によって変動することがあるが、長期に亘って40以上の検体を分析したところ、変動幅は[表1]に示す範囲であった。ここで、T−Fe(Total-Fe)は、M−FeとFeOとFeの和にて算出した。
【0023】
【表1】

【0024】
本実施形態の溶融スラグは、SiO,CaO,Al,MgO,MnOの主成分に加えて、化学式FeOで表すことのできる酸化鉄を、0.1質量%〜5.0質量%、好ましくは0.1質量%〜3.0質量%の範囲で含有することを特長とする。そのため当該スラグは、灰色から灰黒、灰緑間の色(灰色,灰小黒,灰黒,灰小緑,灰緑等の色)を呈しており、太陽光等を効率良く吸収して、芝生を張り付けたフィールドを保温する機能を発揮する。実際に本実施形態の溶融スラグを目土として散布したところ、芝生を張り付けたフィールドの表面温度を2〜4℃高めることができた。
【0025】
前述の保温機能は、特に、芝草が休眠から育成へと移行する早春期と、育成から休眠へと移行する晩秋期に、芝草が緑色になっている期間を長くする成果を得ている。芝草は緑色になっている期間に成長するものであり、芝草の活動期間が延ばすことによって、芝生の育成を促進させることが可能となる。
【0026】
本実施形態の溶融スラグは、銅(Cu),亜鉛(Zn),鉛(Pb)を[表1]に示す範囲で含有する。後述する溶出試験の結果からも分かるように、本実施形態の溶融スラグは、特許文献2に開示されているサーモスラグに比べて鉛(Pb)の溶出量が、おおよそ1桁少ない。その理由は、廃棄物の溶融炉として、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式の溶融炉を採用することによって、重金属(特に、鉛)の酸化反応が抑制され、これにより炉内ガス側に同伴して炉外に排出され、溶融物側に残るのが抑制されるからである。すなわち、本実施形態の溶融スラグは、芝生の育成に必要なFeO等の酸化物を豊富に含有する一方で、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下の範囲に抑えていることを特長とする。
【0027】
また本実施形態の溶融スラグのpHは8.2〜11.2の範囲であり、pHが12〜13の高炉スラグに比べて、芝生への影響が少ない。このように、本実施形態の溶融スラグは、カルシウムを豊富に含むが、芝生に悪影響を与えない適度な含有率に収めている。
【0028】
次に、本実施形態に従う溶融スラグの肥料成分を、肥料分析法で分析した結果の一例を[表2]に示す。[表2]には、比較として牛ふん堆肥の分析結果も併せて示す。[表2]に示されるように、本実施形態に従う溶融スラグは、植物にとっての三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有している。さらに、この三大栄養素に加えて、硫黄(S)、CaOとして含有されるカルシウムも芝生の育成に寄与する。
【0029】
【表2】

【0030】
さらに、本実施形態の芝生育成促進材として使用する溶融スラグは、溶融炉で生成される溶融スラグに対して破砕処理又は磨砕処理を施したものである。溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグ単独では、粒度分布が不均一であり、また表面が針状や角状になっているものが含まれる。そのため、本実施形態では、破砕装置又は磨砕装置を用いて破砕処理又は磨砕処理を行い、粒度調整を行うと共に表面を平滑化させる。
【0031】
粉砕処理又は磨砕処理は、溶融スラグ同士の衝突又は摩擦によって粉砕又は磨砕する方式であることが好ましい。そのような破砕装置としては、回転歯と固定歯を備えた破砕室内で溶融スラグを粉砕する方式(いわゆる、衝撃破砕式)の破砕装置が一例として挙げられる。また、磨砕装置としては、回転ドラムによって溶融スラグの壁面を形成し、上方から投入する溶融スラグとの間で流動及び磨砕する方式(いわゆる、高速遠心方式)の磨砕装置が一例として挙げられる。
【0032】
破砕処理又は磨砕処理による粒度調整は、溶融スラグの最大粒子径が2.5mm以下となるように処理条件を設定する。一例として、[表3]に示すような粒度分布となるように粒度調整することが好ましい。これらのデータは、実際に破砕処理、磨砕処理を行った結果である。このように粒度調整することにより、芝生の根近傍まで溶融スラグを分散させることができる。さらに、大粒のものが含まれないことによって芝刈り時のトラブルを防止することができ、表面が平滑化されたことによって使用者が怪我するのを防止することができる。
【0033】
【表3】

【0034】
破砕処理又は磨砕処理することによる粒子の微細化は、比表面積増加と、芝草根部での反応性向上により、芝生への肥料成分の供給を促進させることができる。その結果、天然砂の目土と肥料の混合物を散布する場合と同等以上の育成効果を発揮することができる。但し、微細化した粒子は、風によって巻き上げられたり、雨によって流されたりする可能性が高くなり、目土としての役割が充分に果たせない場合がある。従って、目土としての役割を維持し、且つ、芝生への肥料成分の供給を促進させるためには、とりわけ、最大粒子径が2.5mm以下であり、且つ、粒径75μm以下の粒子が5%以下の割合で含まれる粒度分布であることが好ましい。
【0035】
さらに本実施形態の水冷式溶融スラグにあっては、破砕又は磨砕処理を施すことがもう一つの意義を持つ。すなわち、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグの場合、溶融スラグ同士の破砕又は磨砕を行うことによって保水率を向上させることができる。これにより散水や雨水を保持して芝生への水分補給を促進することができ、上述した肥料成分供給機能及び保温機能と相俟って更なる芝生育成促進が可能となる。また、芝草が枯れるのを防止することができる。実際に破砕処理を行ったスラグの保水率を測定したところ、[表4]に示される保水率となっていた。なお、[表4]の保水率(%)は、(表乾比重−絶乾比重)×100で算出される値であり、スラグの比重は、JISA1109,A1110の規定に従っている。すなわち、破砕処理することによって、0.4〜3.0%の範囲で保水率が向上している。さらに、磨砕処理を行った場合、破砕処理したスラグの保水率が0.4%であったのに対し、磨砕処理したスラグの保水率は0.53%であった。この結果に基づけば、保水率を高めるためには磨砕処理の方が約1.5倍の効果があり、保水率を最大値で4.0まで向上させること可能である。
【0036】
【表4】

【0037】
続いて、本実施形態の溶融スラグの溶出試験結果の一例を[表5]に示す。[表5]の結果から分かるように、当該スラグは、Cd,Pb,Cr+6,As,Hg,Se,F,Bのいずれも基準値を満足している。特に、Pbについては、特許文献2に開示されているサーモスラグの溶出量(平均値<0.01)とは1桁レベルの違いがあると理解できる。
【0038】
【表5】

【0039】
このような本実施形態に従う芝生育成促進材は、例えばゴルフ場,公園,競技場,学校等の公共施設に植えた芝生、或いは圃場の芝生における目土として使用することができる。勿論、散布する用途や場所が限定されることはなく、環境及び使用者にとって優しい本実施形態の芝生育成促進材は、芝生が植栽されている場所であればどこでも使用することが可能である。
【0040】
例えば芝生の目土として散布する場合、散布量の目安としては、例えば目土の層厚が2〜20mm厚となる量が一例として挙げられる。質量基準の場合は、1mあたり3.5〜35kgの散布が目安となる。
【0041】
次に、本実施形態の水冷式溶融スラグを得るための溶融炉について、図1を参照しながら説明する。但し、図1に示す溶融炉の構造は、好ましい一例であり、この構造に限定されることはない。
【0042】
図1に示す溶融炉は、シャフト式ガス化溶融炉1である(以下、単に「シャフト式溶融炉」と称す)。このシャフト式溶融炉1は、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を熱分解・ガス化し、灰分や不燃成分を溶融して炉底部から出湯する処理を一つの炉で行う。炉底部から出湯される溶融物は、冷却水を貯留する水砕ピット2に投入されて冷却・凝固され、水砕固化物(すなわち、スラグとメタル)として回収される。一方、炉上部から排出される炉内ガスは、ボイラー等の熱回収装置(不図示)によって廃熱が回収される。
【0043】
溶融物を冷却する水砕ピット2は、詳しい図示は省略しているが、溶融物を冷却・凝固するための冷却水を貯留するケーシング21と、ケーシング21内で冷却凝固されたスラグとメタルを取り出すためのスクレーパコンベア22と、溶融物の着水付近に水を噴射して溶融物を細かく分散させる水噴射ノズル23を備えている。噴射水によって細かく分散された溶融物は、ケーシング21内で冷却凝固してスラグとメタルになり、スクレーパコンベア22によってケーシング21から取り出される。スクレーパコンベア22によって取り出されたスラグとメタルは、磁選機(不図示)によって分別される。
【0044】
廃棄物は、コークス,石灰と共に炉頂部から投入される。処理される廃棄物の種類は、特に限定されることはなく、一般廃棄物,産業廃棄物のいずれであってもよい。さらに、シュレッダーダスト(ASR),掘り起こしごみ,焼却灰などの単体又は混合物、或いはこれらと可燃性ごみの混合物など、いずれの廃棄物であってもよい。また、乾留された廃棄物を投入してもよい。
【0045】
炉本体10は、炉上部から炉底部に向かって、シャフト部11,逆円錐部(いわゆる、朝顔部)12,炉底部13を構成している。限定されることはないが、シャフト部11の上部側は、主として廃棄物が乾燥及び予熱される乾燥領域を構成し、シャフト部11の下部側から逆円錐部12の上部側は、主として廃棄物中の可燃成分が熱分解・ガス化されるガス化領域を構成し、コークスベッドが形成される炉下部は、主として灰分や乾留残渣等が溶融される加熱溶融領域を構成する。乾燥領域の温度は、例えば500〜700℃である。また加熱溶融領域の温度は、例えば1700〜1800℃である。
【0046】
炉下部には、コークスベッドを形成するコークス及び廃棄物の可燃性乾留残渣(固定炭素)を燃焼させる空気又は酸素富化した空気(以下、単に「空気等」と称す)を吹き込むための送風羽口(下段羽口)3が周方向に複数配置されている。酸素富化した空気とは、例えば酸素発生器31からの酸素を混合することによって、酸素濃度を高めた空気である。さらに、シャフト部11及び逆円錐部12の側壁には、廃棄物を燃焼させる空気等を炉内に供給する送風羽口(上段羽口)32,33が周方向に複数配置されている。
【0047】
下段羽口3及び上段羽口32,33を通じて炉内に吹き込む空気は、送風機34を用いて供給することができる。酸素富化した空気を吹き込む場合には、送風機34からの空気の流路に酸素発生器31を接続する。図1は、下段羽口3から酸素富化した空気、上段羽口32,33から空気を吹き込む構成を例示している。
【0048】
廃棄物の乾燥,熱分解のための熱源は、上段羽口32,33から吹き込まれた空気による廃棄物の燃焼熱と、下段羽口3から吹き込まれた空気又は酸素富化空気によるコークスの燃焼熱が使われる。本実施形態においては、廃棄物中の可燃成分を熱分解・ガス化されるガス化領域が還元雰囲気となるように、羽口3,32,33から吹き込む空気の量を制御する。ガス化領域を酸化雰囲気にした場合、廃棄物中に含まれる重金属が酸化されて溶融物側に残ってしまうからである。言い換えると、ガス化領域を還元雰囲気にすることによって重金属が酸化物になるのを抑え、できるだけ排ガスに同伴させて炉外に排出する。
【0049】
コークス及び廃棄物の可燃性乾留残渣の燃焼ガスは炉下部に形成されるコークスベッドの上端で最高温度となり、この領域で灰分が溶融され、溶融物が生成される。溶融物は、定期的に出湯口14から抜き出され、溶融物樋15を介して水砕ピット2に投入される。炉内に投入するコークスの量は、廃棄物投入量1トン当たり100kg以下にする。このようにコークスの量を制御することによって、[表1]に示した組成の溶融スラグを得ることができる。
【0050】
以上のとおり、本実施形態の芝生育成促進材によれば、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有するが、鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えた溶融スラグを用いることによって、たとえ不測の悪条件にみまわれた場合であっても鉛の溶出を抑えることができる。
【0051】
すなわち、溶融スラグを生成する溶融炉を、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式にしたことによって、スラグ中に含まれる鉛の量を少なくし、これにより溶出することを抑えたのである。その結果、環境及び使用者にとって安心して本実施形態の芝生育成促進材を使用することが可能となる。このように酸化状態の鉛の含有量を抑えても、芝生の育成促進に必要な酸化鉄(FeO)の含有量を0.1質量%〜5.0質量%で確保しているので、肥料成分と保温効果の相乗作用によって、芝生の育成をより確実に促進させることが可能となる。
【0052】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【実施例1】
【0053】
本実施例は、上述の実施形態に従う芝生育成促進材を散布して、その保温機能を確認した試験例である。この試験は、芝草が休眠から育成へと移行する早春期に行った。芝生育成促進材の散布量を、10mm厚とし、散布したフィールドの表面温度、その日の天気,最高気温,最低気温,風速を測定した。比較として、芝生育成促進材を散布しなかったフィールドの表面温度も測定した。その結果を[表6]に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
添付する[表6]の結果からも明らかなように、芝生育成促進材を散布したフィールドと散布しなかったフィールドとでは平均で約3℃の温度差があった。すなわち、芝生育成促進材の保温機能を確認することができた。従って、本発明の実施形態に従う芝生育成促進材を散布することによって、気温が低い春先においても芝草の育成を促進させることが可能となる。
【実施例2】
【0056】
本実施例は、実施例1の芝生育成促進材を散布してから2ヶ月が経過した後に、芝草をコア抜きで切り取り、根が切れないように分解し、根の長さを測定した試験例である。比較として、芝生育成促進材を散布しなかったフィールドの芝草に対しても同様の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0057】
図2の結果からも明らかなように、芝生育成促進材を散布したフィールドの芝根の長さは平均で10.8cmであった。一方、芝生育成促進材を散布しなかったフィールドの芝根の長さは平均で7.5cmであり、約40%近くの差が見られた。さらに根の状態として、芝生育成促進材を散布したフィールドの芝根は、1か所から複数の根が生えていた。一方、芝生育成促進材を散布しなかったフィールドの芝根は、1か所から1本しか根が生えておらず、芝根の状態に大きな違いが見られた。以上の結果より、本発明の実施形態に従う芝生育成促進材に、芝根の育成を促進させる効果があることが確認された。
【実施例3】
【0058】
本実施例は、早春期において芝生の新芽がまだ出ていないときに、芝生圃場にて芝生育成試験を行った試験例である。本発明の実施形態に従う芝生育成促進材を目土として散布した芝生と、山砂を目土として散布した芝生の1ヶ月後の状態を撮影した写真を図3に示す。
【0059】
図3の結果からも明らかなように、本発明の実施形態に従う芝生育成促進材を目土として散布した芝生は、山砂を目土として散布した芝生に比べて約2倍の緑化率で育成されていた。以上の結果より、本発明の実施形態に従う芝生育成促進材に、芝草の育成を促進させる効果があることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 シャフト式ガス化溶融炉
10 炉本体
2 水砕ピット
21 ケーシング
22 スクレーパコンベア
23 水噴射ノズル
3 下段羽口
32 上段羽口
33 上段羽口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO,CaO,Al,MgO,MnOを主成分とし、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有する粒子状の芝生育成促進材であって、
鉛(Pb)の含有量を50質量ppm以下に抑えた一方で、酸化鉄(FeO)を0.1質量%〜5.0質量%含んだ溶融スラグであることを特徴とする芝生育成促進材。
【請求項2】
前記溶融スラグは、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融炉で溶融処理し、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであり、
さらに、生成された水冷式溶融スラグを、破砕機で破砕するか又は磨砕機で磨砕して、粒度調整と保水率の向上を行ったことを特徴とする請求項1に記載の芝生育成促進材。
【請求項3】
破砕又は磨砕を行った後の溶融スラグの保水率が0.4〜4%であることを特徴とする請求項2に記載の芝生育成促進材。
【請求項4】
前記溶融スラグの最大粒子径が2.5mm以下であり、且つ、粒径75μm以下の粒子が5%以下の割合で含まれる粒度分布となるように、前記粒度調整が行われていることを特徴とする請求項2に記載の芝生育成促進材。
【請求項5】
SiO,CaO,Al,MgO,MnOを主成分とし、植物の三大栄養素である窒素(N),りん酸(P),カリウム(K)を含有する粒子状の芝生育成促進材であって、
前記芝生育成促進材は、一般廃棄物及び/又は産業廃棄物を溶融炉で溶融処理し、溶融物を水で急速破砕することで生成される水冷式溶融スラグであり、
前記溶融炉が、コークスを用い、且つ、炉内を還元雰囲気にして廃棄物を乾留ガス化させる方式であることを特徴とする芝生育成促進材。
【請求項6】
前記溶融炉に投入されるコークスの量が、廃棄物投入量1トン当たり100kg以下であることを特徴とする請求項5に記載の芝生育成促進材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の芝生育成促進材を、ゴルフ場,公園,競技場,学校等の公共施設に植栽した芝生における目土、或いは圃場の芝生における目土として使用することを特徴とする芝生育成方法。
【請求項8】
前記芝生育成促進材の使用量を、2mm〜20mm厚とすることを特徴とする請求項7に記載の芝生育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−177112(P2011−177112A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44752(P2010−44752)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(505040305)株式会社ハヤシ (2)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(510042024)株式会社エヌジェイ・エコサービス (4)
【Fターム(参考)】