説明

芳香族ポリカーボネートの製造方法

【課題】分子量分布が狭く、初期色相にも優れた品質を有する芳香族ポリカーボネートを安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、これら両原料を原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物を重合槽に連続的に供給して、エステル交換触媒を用いてエステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、(1)全製造時間を分画して設けた一以上の単位製造時間ごとに、設定エステル交換触媒量を芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択し、しかも(2)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、各設定エステル交換触媒量±0.1μモル以内の値に維持される芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、各種強度に優れている上、透明性に優れた樹脂であり、幅広い分野で利用されている。このポリカーボネートの工業的製法としては、ビスフェノールAとホスゲンを塩化メチレン溶媒中で反応させる界面重合法が一般的であるが、この方法は工業的に取り扱いの難しいホスゲンや塩化メチレンを用いる必要があることから、近年、これらの化合物を用いず、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとを原料に、無溶媒下、エステル交換反応により、ポリカーボネートを製造する方法が一部工業化されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
上記エステル交換反応を行うには、一般的にはエステル交換触媒を使用する。しかしながら、エステル交換触媒は、適切な種類や量を使用しないと芳香族ポリカーボネートの特に初期色相、溶融時の熱安定性および耐加水分解性などが悪化し、さらには分岐構造も増加するという問題点があった。これら問題点を解決するために、以前から様々な手法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献4では、エステル交換触媒として、希土類元素を使用して着色の少ない芳香族ポリカーボネート樹脂を製造しようとしているが、希土類元素は工業的に安価に手に入らないという欠点があった。また、特許文献5では、原料中のアルカリ不純物量を1ppb以下に規定し、さらにアルカリ金属化合物を芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、反応系における総量で、5×10−8〜8×10−7モルのアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下に、溶融重縮合させ、溶融時の熱安定性、色相安定性などに優れた反応生成物を得ようとしている。
【0005】
しかしながら、このように原料中のアルカリ不純物量を精密に管理し、アルカリ金属化合物などのエステル交換触媒量を極めて狭い範囲に規定したとしても、実際の芳香族ポリカーボネートの製造において、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、触媒流量が制御されずに、触媒流量にふれがあると得られた芳香族ポリカーボネートは、特に分子量分布が広く、色相が悪化して、高品質な製品を安定して製造することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−153925号公報
【特許文献2】特公平6−99552号公報
【特許文献3】特開昭63−51429号公報
【特許文献4】特開平8−81551号公報
【特許文献5】特許第2924985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、分子量分布が狭く、初期色相にも優れた品質を有する芳香族ポリカーボネートを安定して製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記事情に鑑み鋭意検討を行った結果、エステル交換触媒量を、従来行われてきた以上に、極めて精度良く制御すればよいことを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、これら両原料を原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物を重合槽に連続的に供給して、エステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、(1)全製造時間を分画して設けた一以上の単位製造時間ごとに、設定エステル交換触媒量を芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択し、しかも(2)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、各設定エステル交換触媒量±0.1μモル以内の値に維持されることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、使用するエステル交換触媒量を極めて精度良く制御でき、生成する芳香族ポリカーボネートの分子量分布が狭く、初期色相にも優れた品質を有する芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法の1例を示したフローシート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の芳香族ポリカーボネートの製造方法について、さらに具体的に説明する。本発明では、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、エステル交換法により、芳香族ポリカーボネートを製造する。
【0012】
芳香族ジヒドロキシ化合物:本発明方法の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO−で示される2価の基であり、X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、p及びqは、0又は1の整数である。なお、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0015】
代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」又は「BPA」と略す)が好ましい。
【0016】
炭酸ジエステル:本発明の原料の他の一つである炭酸ジエステルは、下記一般式(2)で示される化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基であり、2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0019】
代表的な炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートに代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略すことがある)が特に好ましい。
【0020】
これら炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、のモル比、好ましくは1.02〜1.2のモル比で用いられることが好ましい。モル比が1.001より小さくなると、製造された芳香族ポリカーボネートの末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化する傾向があり、また、モル比が1.3より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量の芳香族ポリカーボネートの製造が困難となる傾向がある。
【0021】
原料混合槽への原料の供給方法としては、液体状態の方が計量精度を高く維持し易いため、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルのうち、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。液体状態で原料を供給する場合には、計量装置としては、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いることができる。
【0022】
一方、固体状態で原料を供給する場合には、スクリュー式フィーダーのような容量を計量するものよりも、重量を計量するものを用いるのが好ましく、べルト式、ロスインウェイト式等の重量フィーダーを用いることができるが、ロスインウェイト方式が特に好ましい。
【0023】
エステル交換触媒:エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。本発明のポリカーボネート製造方法においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して0.05〜5μモル、好ましくは0.08〜4μモル、さらに好ましくは0.1〜2μモルの範囲で用いられる。
【0024】
触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成型時の流動性が低下する。アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物、等の無機アルカリ金属化合物、アルコール類、フェノール類、そして有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等がある。これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、具体的に最も好ましいセシウム化合物を挙げれば炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
【0025】
また、アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムの水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物、アルコール類、フェノール類、そして有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ土類金属化合物等がある。塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素、等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、又はストロンチウム塩等がある。
【0026】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等がある。塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド等がある。
【0027】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン,4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等がある。
【0028】
これらの触媒のうち、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。また、上記エステル交換触媒は、例えば、水、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール、上記原料芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル等の溶媒に溶解した触媒溶液の形態で用いられる。これらの溶媒中では水が好ましく、特にアルカリ金属化合物を触媒とする場合には水溶液とすることが好適である。
【0029】
芳香族ポリカーボネートの製造方法:本発明の芳香族ポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。その際、所望の物性のポリマーを安定して生産するためには、(1)全製造時間を分画して設けた一以上の単位製造時間ごとに、設定エステル交換触媒量(以下、単に「設定触媒量」という。)を芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択し、しかも(2)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量(以下、単に「実際の触媒量」という。)が、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持されることが必要である。
【0030】
エステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に撹拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。この時、重合槽に供給される芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対しての触媒量を一定に保つために、まず、その目標となる「設定触媒量」を設定することが好ましい。これは、既述の理由から芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択されることが好ましい。この設定エステル交換触媒量は、全製造時間を通して必ずしも一定値である必要はなく、全製造時間を分画して設けた一以上の単位製造時間ごとに、設定することが可能である。なお、前記の「全製造時間」又は「単位製造時間」とは、重合槽においてポリマーを安定的に生産する原料供給時間に対応し、立ち上げ時や、グレード切り替え時等の非安定時のポリマー製造時間は含まない。
【0031】
次に、この設定触媒量と、重合槽に供給される実際の触媒量との関係を、全製造時間にわたって所定範囲内に制御することが好ましい。すなわち、全製造時間が単一分画の単位製造時間である場合は、その少なくとも95%の時間は、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、設定触媒量±0.1μモル以内の値に、また、全製造時間が複数の単位製造時間に分画され、設定触媒量が変更される場合には、各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に、実際の触媒量を維持する。さらには、±0.08μモル以内に維持することが好ましく、±0.06μモル以内に維持することが特に好ましい。各単位製造時間において、実際の触媒量が、制御された値に維持される時間の割合は、少なくとも95%であるが、少なくとも99%、更に100%に近いほどより好ましい。95%より少ない時間になると、所望の分子量、末端OH基量のポリマーが安定して得られなくなり、分子量分布が広がり、ポリマー色相が悪化する傾向にある。なお、重合温度、重合時間、減圧度等の重合反応時の製造条件を変えて分子量、末端ヒドロキシ基量を維持しようとすると、重合操作が煩雑になり、安定的な生産が困難となる傾向がある。
【0032】
触媒量を、±0.1μと極めて小さな変動範囲以内に維持して、供給を続けることにより初めて、煩雑な重合操作が避けられ、分子量分布、色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性に優れたポリマーを安定的に生産できるようになる。特に、分子量分布は、上記制御により、制御をしない場合と比べて、明らかに狭くなる傾向にある。
【0033】
実際の触媒量を、設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持させるためには、重合槽に供給する触媒流量の計量精度を、維持しようとする触媒流量の精度以上にすることが必要である。そうでない場合には、触媒流量を一定に維持することが困難である。重合槽への触媒の供給方法としては、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いることがことが好ましい。なお、触媒の供給は、重合槽だけに限定するものではなく、原料調製槽でも構わない。
【0034】
触媒供給を自動制御するには、例えば、まずコンピュータに、継続的に実際の触媒流量の測定値を入力し、前述した設定触媒量と芳香族ジヒドロキシ化合物の原料調製槽への供給量より算出された設定触媒流量とを比較させる。その際、実際の触媒流量の測定値が、該設定触媒流量と異なる場合は、この結果を触媒計量・供給装置に伝え、バルブの開度等を調節して、実際の触媒流量と設定触媒流量が一致するよう制御することにより行うことができる。
【0035】
ここで、「触媒供給を自動制御する」とは、実際の触媒流量の測定間隔の適正化に十分配慮すれば、継続的な間歇測定でも、連続的な測定と同様に制御を行うことは可能であるが、安定した品質の製品を得るには、実際の触媒流量の測定は、連続的な自動測定であることが好ましい。すなわち、連続的に触媒流量を自動測定できれば、重合槽への触媒供給量を迅速且つ連続的に制御することが可能となり、その結果、一定の設定触媒流量に維持され、ポリカーボネートの分子量分布が狭くなり、さらに色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性の均一な製品が得られる。また、連続的な制御に際しては、適切な制御間隔ごとに制御態様を変更するように操作させることも可能である。
【0036】
ある設定触媒量の単位製造時間中に、実際の触媒量が、設定触媒量±0.1μモル以内の値に、どれほどの時間存在したかは、上記測定手段による測定結果から容易に判定することができる。連続的測定の場合、実際の触媒量と測定時間の関係を示す曲線より、予め設定した触媒量±0.1μモル以内にある累積時間と、±0.1μモルよりはずれた累積時間とを求めることにより、該設定触媒流量での単位製造時間の少なくとも95%の時間は、±0.1μモル以内の値に維持されていたかどうかが判定される。連続的測定ではない場合でも、継続的な測定であれば、これを統計処理する方法等により判定することができる。
【0037】
エステル交換反応は、一般的には2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜1.33Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られる芳香族ポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、低滞留時間の設定が好ましい。
【0038】
上記エステル交換反応において使用する装置は、竪型、管型又は塔型、横型のいずれの形式であってもよい。通常、タービン翼、パドル翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立製作所製)等を具備した1以上の竪型重合槽に引き続き、円盤型、かご型等の横型一軸タイプの重合槽やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、メガネ翼、格子翼((株)日立製作所製)、又はメガネ翼とポリマーの送り機能を持たせた、例えばねじりやひねり等の入った翼及び/又は傾斜がついている翼等を組み合わせたもの等を具備した、横型二軸タイプの重合槽を用いることができる。
【0039】
上記方法で製造した芳香族ポリカーボネート中には、通常、原料モノマー、触媒、エステル交換反応で副生する芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族ポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存している。なかでも、原料モノマーと芳香族ヒドロキシ化合物は、残留量が多く、耐熱老化性、耐加水分解性等の物性に悪影響を与えるので、製品化に際して除去されることが好ましい。
【0040】
それらを除去する方法は、特に制限はなく、例えば、ベント式の押出機により連続的に脱揮してもよい。その際、樹脂中に残留している塩基性エステル交換触媒を、あらかじめ酸性化合物又はその前駆体を添加し、失活させておくことにより、脱揮中の副反応を抑え、効率よく原料モノマー及び芳香族ヒドロキシ化合物を除去することができる。
【0041】
添加する酸性化合物又はその前駆体には特に制限はなく、重縮合反応に使用する塩基性エステル交換触媒を中和する効果のあるものであれば、いずれも使用できる。具体的には、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらは、単独で使用しても、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの酸性化合物又はその前駆体のうち、スルホン酸化合物又はそのエステル化合物、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル等が特に好ましい。
【0042】
これらの酸性化合物又はその前駆体の添加量は、重縮合反応に使用した塩基性エステル交換触媒の中和量に対して、0.1〜50倍モル、好ましくは0.5〜30倍モルの範囲で添加する。酸性化合物又はその前駆体を添加する時期としては、重縮合反応後であれば、いつでもよく、添加方法にも特別な制限はなく、酸性化合物又はその前駆体の性状や所望の条件に応じて、直接添加する方法、適当な溶媒に溶解して添加する方法、ペレットやフレーク状のマスターバッチを使用する方法等のいずれの方法でもよい。
【0043】
また、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の添加剤を添加し、樹脂と混練することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び比較例を説明する。なお、得られた芳香族ポリカーボネートの分析は、下記の測定方法により行った。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し以下の式より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
【0045】
[数1]
[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83
【0046】
(2)末端水酸基濃度(ppm)
四塩化チタン/酢酸法(Makromol. Chem. 88 215(1965))により、比色定量を行った。
【0047】
(3)分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定した。測定装置には、東ソー(株)製HLC−8020を、溶離液にはテトラヒドロフランを使用し、ポリスチレン換算で求め、Mw/Mnを算出した。
【0048】
(4)色相(YI)
製造した芳香族ポリカーボネートを280℃で、100mm×100mm×3mm厚のプレスシートを射出成形し、該プレスシートをカラーテスター(スガ試験機株式会社製SC−1−CH)で、色の絶対値である三刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を計算した。YI値が大きいほど着色していることを示す。
【0049】
[数2]
YI=(100/Y)×(1.28×X−1.06×Z)
【0050】
[実施例1]
図1に従って、芳香族ポリカーボネートの製造方法の実施態様を説明する。図1は、本発明の製造方法の1例を示したフローシート図である。図中、1はDPC貯槽、2は撹拌翼、3はBPAホッパー、4a,bは原料混合槽、5はDPC流量制御弁、6はBPA流量制御弁、7,10はポンプ、8は触媒流量制御弁、9はプログラム制御装置、11は触媒貯槽、12は副生物排出管、13a,b,cは竪型重合槽、14はマックスブレンド翼、15は横型重合槽及び16は格子翼である。
【0051】
窒素ガス雰囲気下120℃で調製されたジフェニルカーボネート融液、及び、窒素ガス雰囲気下計量されたビスフェノールA粉末を、それぞれ、DPC貯槽(1)から208.9モル/時及びBPAホッパー(3)から197.1モル/時(原料モル比1.060)の送量となるように、マイクロモーション式流量計及びロスインウェイト方式の重量フィーダーで計量し、窒素雰囲気下140℃に調整された原料混合槽(4a)に連続的に供給した。続いて、原料混合液を原料混合槽(4b)に、さらにポンプ(7)を介して容量100Lの第1竪型撹拌重合槽(13a)に連続的に供給した。一方、上記混合物の供給開始と同時に、触媒として2重量%の炭酸セシウム水溶液を、触媒導入管を介して、0.96mL/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.3μモル)の流量で連続供給を開始した。
【0052】
このとき、実際の触媒流量制御はBPA流量制御弁(6)で検知したBPA流量と設定触媒量より、予め組み込まれているプログラム制御装置(9)で、設定触媒流量を計算して、触媒流量制御弁(8)で測定された触媒流量と一致するように触媒流量制御弁(8)の開度をコントロールすることによって遂行した。マックスブレンド翼(14)を具備した第1竪型撹拌重合槽(13a)は、常圧、窒素雰囲気下、220℃に制御し、さらに平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0053】
槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3のマックスブレンド翼を具備した容量100Lの竪型撹拌重合槽(13b、13c)、及び第4の格子翼(16)を具備した容量150Lの横型重合槽(15)に逐次連続供給された。第2〜第4重合槽での反応条件は、それぞれ、下記のように、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるように条件設定した。
【0054】
[表1]
温度 圧力 撹拌速度
第2重合槽(13b) 220℃ 1.33×10Pa 110rpm
第3重合槽(13c) 240℃ 2.00×10Pa 75rpm
第4重合槽(15) 260℃ 66.7Pa 10rpm

【0055】
反応の間は、第2〜第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように、液面レベルの制御を行い、また、各重合槽においては、副生したフェノールを副生物排出管(12)より除去した。以上の条件下で、1500時間連続して運転した。なお、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出された芳香族ポリカーボネートは、溶融状態のまま、3段ベント口を具備した2軸押出機に導入され、p−トルエンスルホン酸ブチルをポリカーボネートに対して2.5ppm添加し、水添、脱揮した後、ペレット化した。
【0056】
得られた芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は15,300であり、末端水酸基濃度は、540ppmであった。また、触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測した触媒流量の連続測定データより、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.1μモル以内の時間を算出したところその割合は、全製造時間の99.4%であり、0.06μモル以内の時間の割合は、全製造時間の97.1%であった。また、分子量分布(Mw/Mn)は、2.2であり、280℃で射出成形したプレスシートの色相は、1.4であった。評価結果を表−1に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例1において、設定原料モル比を1.040、触媒流量を1.6mL/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.5μモル)、第4重合槽の温度を280℃及びp−トルエンスルホン酸ブチルをポリカーボネートに対して4.0ppm添加した他は、実施例1と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートのの評価結果を表−1に示す。
【0058】
[実施例3]
実施例2において、設定原料モル比を1.035、また触媒流量を1.9mL/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.6μモル)に設定した他は、実施例2と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートのの評価結果を表−1に示す。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、触媒として、1N NaOH水溶液を、また触媒流量を0.14L/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.7μモル)に設定した他は、実施例1と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートの評価結果を表−1に示す。
【0060】
[実施例5]
実施例2において、触媒として、1N NaOH水溶液を、また触媒流量を0.20L/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、1.0μモル)に設定した他は、実施例2と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートの評価結果を表−1に示す。
【0061】
[比較例1]
実施例1において、プログラム制御装置を設置せず、触媒流量を0.96mL/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.3μモル)に固定した他は、実施例1と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートの評価結果を表−1に示す。
【0062】
[比較例2]
実施例2において、プログラム制御装置を設置せず、触媒流量を1.6mL/時(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.5μモル)に固定した他は、実施例2と同様にして芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートの評価結果を表−1に示す。
【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、剛性と機械的強度のバランス、耐侯性、及び耐加水分解性に優れた脂肪族或いは脂環式ポリエステル系樹脂組成物を提供することができ、この樹脂組成物は、プラスチックの通常の溶融成形法により、例えば、フィルム状、シート状、繊維状、トレイ状、ボトル状、パイプ状、その他特定形状等の成形体として、生分解性を有する、包装用資材、農業用資材、土木用資材、建築用資材、漁業用資材、自動車部品、家電部品、その他工業用資材等として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0065】
1.DPC貯槽
2.撹拌翼
3.BPAホッパー
4a,b.原料混合槽
5.DPC流量制御弁
6.BPA流量制御弁
7,10.ポンプ
8.触媒流量制御弁
9.プログラム制御装置
11.触媒貯槽
12.副生物排出管
13a,b,c.竪型重合槽
14.マックスブレンド翼
15.横型重合槽
16.格子翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、これら両原料を原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物を重合槽に連続的に供給して、エステル交換触媒を用いてエステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、(1)全製造時間を分画して設けた一以上の単位製造時間ごとに、設定エステル交換触媒量を芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択し、しかも(2)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、各設定エステル交換触媒量±0.1μモル以内の値に維持されることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステルの供給量と触媒流量とを継続的に測定した後、算出される実際のエステル交換触媒量を上記設定エステル交換触媒量と一致させるように、触媒流量を自動制御することを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
上記各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対して、各設定触媒量±0.06μモル以内の値に維持されることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
上記エステル交換触媒がアルカリ金属化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208156(P2011−208156A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138540(P2011−138540)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【分割の表示】特願2001−114107(P2001−114107)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】