説明

菓子

【課題】卵黄を含有し加熱処理を施しているにも拘わらず、果物特有の香味が引き立つ菓子を提供する。
【解決手段】キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄、果実又は果汁、並びにコチニール色素、赤キャベツ色素及び紫イモ色素の少なくとも1種以上を配合し、加熱処理を施してなる菓子であって、前記卵黄の配合比率が卵黄全体の80%以上(固形分換算)であることを特徴とする菓子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄を含有し加熱処理を施してなる菓子において、果物の風味を引き立てる菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキー、ワッフル、スポンジケーキ、プリン等の菓子は、卵黄に焼成や蒸煮等の加熱処理を施した際に生じる特有のコク味が特徴である。しかしながら、さらに果物特有の香味を付与しようとした場合、エステルに代表される果物特有の香味成分が、卵黄の加熱風味に阻害され、消費者の要望を十分に満足することは困難であった。
【0003】
果物特有の香味を付与する方法として、特開2003−327993号公報(特許文献1)には、3−メルカプトケトン構造を有し果物様の香気特性を有する香料組成物が記載されている。しかしながら、香料特有の人工的な風味を有し、
未だ消費者の要望を十分に満足できるものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−327993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、卵黄を含有し加熱処理を施しているにも拘わらず、果物特有の香味が引き立つ菓子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、キサントフィル類を特定量以下含有する卵黄、果実又は果汁、及び特定の色素を配合し、加熱処理を施してなる菓子であって、キサントフィル類を特定量以下含有する卵黄の配合比率が、卵黄全体の特定比率以上となるように調製せしめたところ、意外にも果物特有の香味が引き立つ菓子を提供するものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄、果実又は果汁、並びにコチニール色素、赤キャベツ色素及び紫イモ色素の少なくとも1種以上を配合し、加熱処理を施してなる菓子であって、前記卵黄の配合比率が卵黄全体の80%以上(固形分換算)である菓子、
(2)コチニール色素、赤キャベツ色素及び紫イモ色素の総配合量が、0.01〜2%である(1)の菓子、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、卵黄を含有し加熱処理を施しているにも拘わらず、果物特有の香味が引き立つ菓子を提供することができる。これにより、菓子市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明の菓子は、卵黄を含有し加熱処理を施すものであれば特に限定されず、例えば、クッキー、ワッフル、スポンジケーキ、カステラ、パンケーキ、パウンドケーキ、カスタードクリーム、プリン、黄味餡等を挙げることができる。
【0011】
本発明の菓子に用いる果実又は果汁は、食用に供することであれば特に限定されず、例えば、アンズ、バナナ、イチゴ、モモ、リンゴ、ブルーベリー、マンゴー、メロン等の果実及びこれを搾った果汁が挙げられる。本発明の菓子に用いる果実又は果汁の含有量は、香味を付与できる程度に好みの量を含有すれば良く、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。果実又は果汁の含有量が前記値より少ない場合、果物特有の香味が引き立つ菓子を提供できない。
【0012】
本発明の菓子に用いるキサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄は、トウモロコシ、パプリカ、マリーゴールド等のキサントフィル類を含む飼料を与えずに一定期間以上飼育した雌鶏により産卵される。これに対し、市販の鶏卵は、トウモロコシを与えて飼育した雌鶏が産卵しており、キサントフィル類を30〜100ppm含有している。
【0013】
キサントフィル類とは、カロテノイドのうち、炭素分子、水素分子及び酸素分子を含有しているものを指し、具体的には、ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチン等が挙げられる。
【0014】
前記卵黄のキサントフィル類の含有量は、8ppm以下であり、5ppm以下が好ましく、含有しないことがより好ましい。キサントフィル類の含有量が前記値より高い場合、果物特有の香味を引き立てる本発明の効果が得られ難い。なお、キサントフィル類の含有量は、改訂食品分析ハンドブック(建帛社出版)に記載の常法を用いて、鶏卵からキサントフィル類を抽出し、453nmの吸光度を測定することにより求められる。
【0015】
本発明の菓子全体に対する、キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄の配合量は、特に限定されず、クッキー、ワッフル、スポンジケーキ、プリン等の菓子を調製する際の必要量を配合すれば良く、生卵黄換算で、5〜20%以下が好ましい。キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄の配合量が、前記範囲より少ないと、所望の菓子を調製することができない場合がある。
【0016】
卵黄全体に対する、キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄の配合比率は、固形分換算で、少なくとも80%以上であり、90%以上が好ましい。キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄の配合比率が、前記値より少ないと、果物特有の香味が卵黄の加熱風味に阻害されてしまう恐れがある。
【0017】
本発明の菓子は、コチニール色素、赤キャベツ色素、紫イモ色素の少なくとも1種以上を含有する。特に、コチニール色素を用いた場合に果物特有の香味が引き立ち非常に好ましい。
【0018】
本発明の菓子に用いるコチニール色素は、カルミン酸を主成分とする色素であり、カイガラムシ科の昆虫を乾燥させ、エタノール等の有機溶媒を加え抽出したものである。本発明の卵黄を含有し加熱処理を施してなる菓子においては、キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄と併用することで、果物特有の香味を引き立たせることができる。
【0019】
本発明の菓子において、コチニール色素の含有量は、固形分換算で、0.001〜1%が好ましく、0.005〜0.5%がより好ましい。コチニール色素の含有量が前記範囲より少ない場合、果物特有の香味が引き立つ本発明の効果が得られない。前記範囲より多い場合、含有量の増加に応じて本発明の効果が得られ難く経済的でない。
【0020】
赤キャベツとは、アブラナ科アブラナ属ヤセイカンラン種の変種であり、学名はBrassica
oleracea var. capitataである。本発明の菓子に用いる赤キャベツ色素は、抽出効率を高めるため破砕処理等を施した赤キャベツの葉に、エタノール等の有機溶媒を加え抽出した。
【0021】
本発明の菓子において、赤キャベツ色素の含有量は、固形分換算で、0.001〜1%が好ましく、0.005〜0.5%がより好ましい。赤キャベツ色素の含有量が前記範囲より少ない場合、果物特有の香味が引き立つ本発明の効果が得られ難い。前記範囲より多い場合、含有量の増加に応じて本発明の効果が得られ難く経済的でない。
【0022】
紫イモとは、ヒルガオ科サツマイモ属サツマイモ種の変種であり、学名はIpomoea batatasである。本発明の菓子に用いる紫イモ色素は、前記赤キャベツと同様に、エタノール等の有機溶媒を加え抽出した。
【0023】
本発明の菓子において、紫イモ色素の含有量は、固形分換算で、0.001〜1%が好ましく、0.005〜0.5%がより好ましい。紫イモ色素の含有量が前記範囲より少ない場合、果物特有の香味が引き立つ本発明の効果が得られ難い。前記範囲より多い場合、含有量の増加に応じて本発明の効果が得られ難く経済的でない。
【0024】
本発明の菓子の加熱処理温度は、クッキー、ワッフル、スポンジケーキ、プリン等の菓子の製造方法によって異なるが、卵黄の加熱風味は80〜180℃で加熱した時に生じる。
【0025】
本発明の菓子は、本発明の効果を損なわないものであれば、前記キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄と、コチニール色素、赤キャベツ色素、紫イモ色素の少なくとも1種以上以外の原料を配合することができる。具体的には、例えば、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ラクトース、マルトース、トレハロース、蜂蜜、水飴、還元水飴、砂糖結合水飴、オリゴ糖、還元オリゴ糖、異性化糖、転化糖、糖アルコール、澱粉を加水分解して製したデキストリン、サイクロデキストリン、還元デキストリン、イヌリン等の糖類、小麦粉、米粉等の穀粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、物理的及び/又は酵素的及び/又は化学的処理を施した澱粉、大豆油、胡麻油等の油脂類、アーモンド、ナッツペースト、ナッツ粉末等のナッツ類、果実、果汁、果肉ペースト、乾燥果実等の果実類、野菜、野菜汁、野菜ペースト、乾燥野菜等の野菜類、家禽の卵白、牛乳、濃縮乳、粉乳、乳蛋白質、発酵乳、チーズ等の乳原料、豆乳、大豆多糖類、大豆蛋白質等の大豆類、ゼラチン等の蛋白質原料、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、グアーガム、タマリンドガム、ペクチン、カラギーナン、寒天、コンニャクマンナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘多糖類、バニラフレーバー、フルーツフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、酒石酸水素カリウム等のpH調整剤、クエン酸、乳酸等の酸味料、ベーキングパウダー、重曹等の膨脹剤、塩化ナトリウム等の塩類、食物繊維、酒類、コーヒー、紅茶、抹茶、ココア、チョコレート、キャラメル等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の菓子を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0027】
〔実施例1〕
下記表1の配合表を用い、常法に従ってスポンジケーキを調製した。具体的には、ミキサー等で種比重0.4g/mLまで泡立てた後、ケーキ型に流し入れ、170℃、30分間焼成し、本発明の菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立ち優れたものであった。
【0028】
〔表1〕

【0029】
〔実施例2〕
コチニール色素0.2%をコチニール色素0.01%及び清水0.19%に置換えた以外は、実施例1に準じて、本発明の菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立ち優れたものであった。
【0030】
〔実施例3〕
コチニール色素を赤キャベツ色素に変更した以外は、実施例1に準じて、本発明の菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、実施例1よりは若干劣るものの、果物特有の香味が引き立っていた。
【0031】
〔実施例4〕
コチニール色素を紫イモ色素に変更した以外は、実施例1に準じて、本発明の菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、実施例1よりは若干劣るものの、果物特有の香味が引き立っていた。
【0032】
〔比較例1〕
液卵黄のキサントフィル類含有量を5ppmから15ppmに変更した以外は、実施例1に準じて、菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立っておらず、卵黄の加熱風味に阻害されぼやけていた。
【0033】
〔比較例2〕
液卵黄のキサントフィル類含有量を5ppmから40ppmに変更した以外は、実施例1に準じて、菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立っておらず、卵黄の加熱風味に阻害されぼやけていた。
【0034】
〔比較例3〕
コチニール色素をクチナシ色素に変更した以外は、実施例1に準じて、菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立っておらず、卵黄の加熱風味に阻害されぼやけていた。
【0035】
〔比較例4〕
コチニール色素をカラメル色素に変更した以外は、実施例1に準じて、菓子(桃のスポンジケーキ)を調製した。得られた桃のスポンジケーキは、果物特有の香味が引き立っておらず、卵黄の加熱風味に阻害されぼやけていた。
【0036】
〔実施例4〕
下記表2の配合表を用い、常法に従ってプリンを調製した。具体的には、原料を混合後、スチーマーを用いて80℃、30分間蒸し加熱を行った後、5℃まで冷却し本発明の菓子(苺のプリン)を調製した。得られた本発明の苺のプリンは、果物特有の香味が引き立ち非常に優れていた。
【0037】
〔表2〕


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサントフィル類を8ppm以下含有する卵黄、果実又は果汁、並びにコチニール色素、赤キャベツ色素及び紫イモ色素の少なくとも1種以上を配合し、加熱処理を施してなる菓子であって、前記卵黄の配合比率が卵黄全体の80%以上(固形分換算)であることを特徴とする菓子。
【請求項2】
コチニール色素、赤キャベツ色素及び紫イモ色素の総配合量が、0.001〜1%である請求項1記載の菓子。

【公開番号】特開2012−90540(P2012−90540A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239130(P2010−239130)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】