説明

薄地編物

【課題】絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物が有すると同様な、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感のある薄地編物を提供する。
【解決手段】R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との複合糸であって、かつ、セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とのエアー混繊糸の撚糸であり、糸繊度が40〜75dtexであり、R率8%以下のセルロース系フィラメント糸の混用率が60〜85質量%である複合糸にて、編物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄地編物に関し、更に詳しくは、絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物が有すると同様な、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感のある薄地編物に関する。
【背景技術】
【0002】
絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物は、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感があることから、極めて好ましいものではあるが、絹糸自体が高価である、絹製品、特に薄地製品における洗濯等の取扱いに繊細な注意が必要である等の問題もある。かかる絹製品における問題点を、合成繊維や化学繊維を用いて、絹製品の奏する優れた性質を保持しながら、改善するような商品や技術が永年多々検討され上市もされているが、未だ十分満足すべきものが得られていない。
【0003】
例えば、レーヨンフィラメント糸を用いた薄地編物は、光沢や発色性に優れた製品が得られるが、絹製品の奏する膨らみ感やドライ感に欠け、また通常のレーヨンフィラメント糸は、公定水分率が8%を超え、水膨潤性による洗濯収縮、形態安定性、膨潤堅牢度の問題や、保水性が高く速乾性に劣る等の問題がある。さらに薄地編物を得るためには、細繊度の糸が必要であり、細繊度のレーヨンフィラメント糸を用いた場合は、生地強度が低く商品性に欠けるという問題がある。
【0004】
公定水分率が8%を超えるレーヨンフィラメント糸における水膨潤性に係わる問題を解決するために、公定水分率8%以下のセルロース系フィラメント糸であるセルロースアセテートフィラメント糸を用いることも考えられるが、セルロースアセテートフィラメント糸はレーヨンフィラメント糸と同様に、糸強度が低く、セルロースアセテートフィラメント糸のみからなる薄地編物は、生地強度の点で問題があり、絹製品の奏する膨らみ感やドライ感に欠ける。
【0005】
また、ポリエステルフィラメント糸を、シルクライクフィラメント糸として、単糸断面を異型化した異型断面糸や収縮性が異なるフィラメント糸からなる異収縮混繊糸等が開発され、膨らみ感等の良好な編物が提案され上市されているが、ポリエステルフィラメント糸のみからなる編物では、ポリエステルフィラメント糸の高屈折率と高ヤング率による金属光沢やワキシイな硬い風合いが残り、発色性も劣り、また吸湿性が小さいためムレ感や静電気の発生等快適な着用感に欠け、満足のいく薄地編物は未だ得られていない。
【0006】
さらに、レーヨンフィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とを複合化することにより、レーヨンフィラメント糸における問題を改善することも考えられるが、ポリエステルフィラメント糸の混用率を高める必要があり、ポリエステルフィラメント糸の有する前記にような問題が顕われる。また複合化した糸による編物の染色加工中にレーヨンフィラメント糸が大きく収縮し編目が詰まるため、膨らみ感も得られ難い等の問題がある。さらに、薄地編物を得るためには、細繊度の糸が必要であり、ポリエステルフィラメント糸と複合化し、かつポリエステルフィラメント糸によるシルクライク風合いを確保するには極めて細繊度のレーヨンフィラメント糸が必要となり、かかるレーヨンフィラメント糸を得ること自体が困難で、汎用性のある薄地編物を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特2000−129533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物が有すると同様な、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感のある薄地編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、下記式で求めるR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との複合糸であって、かつ以下の条件1〜3を満足する複合糸にて、編物が構成されたことを特徴とする薄地編物、にある。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
(なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にする)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の環境下に放置し、恒量になった状態の質量であり、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。)
1.R率8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とのエアー混繊糸の撚糸である
2.糸繊度が40〜75dtexである
3.R率8%以下のセルロース系フィラメント糸の混用率が60〜85質量%である
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物が有すると同様な、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感を有する編物を、安価で生産性に優れた糸素材で獲得でき、イージーケア性にも優れた薄地編物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の編物を構成する複合糸は、前記式で求めるR率(以下、単にR率)8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とからなる。本発明におけるR率8%以下のセルロース系フィラメント糸は、セルロースを原料とした半合成繊維のフィラメント糸であり、水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸、水分率6.5%のセルロースジアセテートフィラメント糸等のセルロースアセテートフィラメント糸が挙げられる。
【0012】
セルローストリアセテートフィラメント糸、セルロースジアセテートフィラメント糸等のセルロースアセテートフィラメント糸は、その低屈折率からくる鮮明性、発色性、高級感のある光沢、適度なヤング率、分散染料可染性、適度な吸湿性、速乾性等を有する点から好ましく用いられ、特に風合いや光沢の高級感の点からセルローストリアセテートフィラメント糸がより好ましく用いられる。これらの繊維フィラメント糸の製法、単糸の繊度、断面形状等については特に限定はない。
【0013】
本発明において、R率が8%を超えるセルロース系フィラメント糸では、水膨潤性による洗濯収縮、形態安定性、膨潤堅牢度の問題や、保水性が高く速乾性に劣る等の問題が生じる。このため、複合糸におけるポリエステルフィラメント糸の混用率を高める必要があり、ポリエステルフィラメント糸の欠点である金属光沢、発色性、ワキシイな硬い風合いが強調されたものとなり、また編物の染色加工中での収縮が大きく、ポリエステルフィラメント糸との収縮差による膨らみ表現が困難で良好な薄地編物とならない。
【0014】
また、本発明におけるポリエステルフィラメント糸は、その製法や種類を特に限定するものではなく、例えばポリエステルフィラメント糸として、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸が用いられる。またフィラメント糸の単糸の断面形状、表面形状、艶、収縮性、染色性等も特に限定するものではなく、2種のポリエステル系ポリマからなる複合繊維フィラメント糸であってもよい。ポリエステルフィラメント糸は、任意の本数或いは2種以上のポリエステルフィラメント糸を組み合わせで用いられる。
【0015】
また、本発明におけるポリエステルフィラメント糸は、仮撚加工、エアー交絡加工等が施されたフィラメント糸であってもよく、得ようとする薄地編物の用途等を考慮して任意に選定される。例えば、ポリエステルフィラメント糸として高収縮糸を用いることにより、セルロース系フィラメント糸との収縮差を大きくし、より膨らみ感の優れた薄地編物を得ることができる。またポリエステルフィラメント糸として高強力糸を用いることにより、複合糸の糸繊度をより細くしたり、セルロース系フィラメント糸の混用率が85重量%を超えない範囲でポリエステルフィラメント糸の混用率をより低くすることができる。
【0016】
本発明において、編物を構成する複合糸は、R率8%以下のセルロース系フィラメント糸(以下、断らない限り、単にセルロース系フィラメント糸という)とポリエステルフィラメント糸とからなり、かつ以下の条件を満足する複合糸であることが必要である。すなわち、複合糸は、条件1として、セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とのエアー混繊糸の撚糸であることが必要である。セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とをエアー混繊せずにそのまま撚糸して用いると、フィラメントが均一に収束せずコナレ性が不十分となり、セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との染色性差、光沢差の影響が生じ易く、均一な生地表面が得られ難く、編成時に編段が生じる等の問題がある。
【0017】
セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とのエアー混繊糸は、セルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とをエアージェットによってフィラメント糸相互を混繊させた糸である。かかる混繊糸の製法や条件は特に限定されるものではなく、例えばセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とを、混繊混用ノズルを用い、1.5〜2.5hPaのエアー圧でエアー混繊加工することによってエアー混繊糸を得ることもできるし、予めエアー混繊加工された糸として上市されているエアー混繊糸を用いてもよい。また、エアー混繊糸を撚糸する際は、撚糸工程でのスピンドル回転数、張力、撚数等の撚糸条件も特に限定するものではなく、例えばダブルツイスター等の撚糸機にてスピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gといった条件で任意の撚り方向に撚数300〜900T/mの撚りを施して撚糸とする。
【0018】
また、本発明における複合糸は、条件2として、その糸繊度が40〜75dtexであることが必要である。糸繊度が40dtex未満では、編物の強度が不十分となり、75dtexを超えると、生地が厚くなり、また高級感を得る際のハイゲージの編物の編成が困難になり、高級感のある薄地編物を得られ難くなる。
【0019】
さらに、本発明における複合糸は、条件3として、セルロース系フィラメント糸の混用率が60〜85質量%であることが必要である。混用率が60質量%未満では、ポリエステルフィラメント糸の金属光沢やワキシイな風合いの影響が表面化し、好適な薄地編物が得られ難く、またセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との染色性差、光沢差の影響が生じ易く、85質量%を超えると、ポリエステルフィラメント糸の繊度を限りなく細くする必要があり、編物の品種が極めて制限され、また編物の生地強度の低下、工程通過性の問題が生じ易くなる。
【0020】
本発明の薄地編物は、前記の複合糸にて編成して構成され、編物の組織、密度、目付等については特に限定はなく、得ようとする編物を考慮して任意に設定すればよいが、高級感のある薄地編物とするには、編機におけるゲージを28ゲージ以上にして編成することが好ましい。特に丸編みでは、36ゲージ、46ゲージ等のハイゲージにすることにより、編目のコンパクトな滑り感のよい、きめの細かい風合い、落ち感のよい高級感のある薄地編物が得られる。また経編みでは、従来から多用されている28ゲージでも高級感のある薄地編物が得られるが、36ゲージ等のハイゲージにすることにより、丸編みで得られると同様の編目のコンパクトな滑り感のよい、きめの細かい風合い、落ち感のよい薄地編物が得られる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例において、R率はの測定は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、下記式によって算出し、2回の平均値をJIS Z8401によって小数点以下1桁にして得た。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
また、実施例中の風合いや発色性等はハンドリング、目視によって評価した。
【0022】
(実施例1)
セルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、単糸菊型断面、R率3.5%)167dtex/40フィラメント(f)とポリエチレンテレフタレートフィラメント糸A210(三菱レイヨン社製、単糸丸型断面)22dtex/12fとのエアー混繊糸FS0402(三菱レイヨン社製)を用い、村田機械社製ダブルツイスターにて、スピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gの条件で、S撚り900T/m、Z撚り900T/mにそれぞれ撚糸し、80℃で40分の撚止めセットを行い、S撚りの複合糸とZ撚りの複合糸を作成した。得られた複合糸は繊度が62dtexで、複合糸におけるセルローストリアセテートフィラメント糸の混用率は65重量%であった。
【0023】
作成した複合糸を用い、S撚り複合糸とZ撚り複合糸を1:1に配列し、福原社製丸編機を用い、36ゲージ、釜径30インチにて天竺組織に編成した。この編成時における問題発生はなく、工程通過性のよい、生機品位の良好な編物が得られた。この生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、66コース/インチ、60ウェル/インチ、目付68g/mの薄地編物を得た。得られた編物は、絹糸様の膨らみ感やドライ感が得られ、撚糸絹様の高級感のある光沢と、編目がコンパクトで適度な透け感、肌触りが滑らかなきめの細かい風合い、落ち感のよい高級感のある編物であった。また得られた編物は、黒の発色性に優れ、編物表面が均一であり、含まれるセルローストリアセテートフィラメント糸による清涼感とソフトな感触や、適度な吸湿性により蒸れ感、ベトツキ感がなく、速乾性を有し、快適な着用感を有するものであった。
【0024】
(実施例2)
実施例1において、編成時のゲージを46ゲージのハイゲージに代えた以外は、実施例1と同様にして天竺組織に編成し、染色、仕上げ加工し、64コース/インチ、68ウェル/インチ、目付78g/mの薄地編物を得た。なお、編成時における問題発生はなく、工程通過性のよい、生機品位の良好な編物が得られた。得られた編物は、絹糸様の膨らみ感やドライ感が得られ撚糸絹様の高級感のある光沢と、編目がよりコンパクトで透け感が抑えられ、肌触りが滑らかなきめの細かい風合い、落ち感のよい高級感のある編物であった。また得られた編物は、黒の発色性に優れ、編物表面が均一であり、含まれるセルローストリアセテートフィラメント糸による清涼感とソフトな感触や、適度な吸湿性により蒸れ感、ベトツキ感がなく、速乾性を有し、快適な着用感を有するものであった。
【0025】
(比較例1)
セルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、単糸菊型断面、R率3.5%)84dtex/20fとポリエチレンテレフタレートフィラメント糸A210(三菱レイヨン社製、単糸丸型断面)22dtex/12fとのエアー混繊糸FS0802(三菱レイヨン社製)を用い、村田機械社製ダブルツイスターにて、スピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gの条件で、S撚り1200T/m、Z撚り1200T/mにそれぞれ撚糸し、80℃で40分の撚止めセットを行い、S撚りの複合糸とZ撚りの複合糸を作成した。得られた複合糸は繊度が106dtexで、複合糸におけるセルローストリアセテートフィラメント糸の混用率は80重量%であった。
【0026】
作成した複合糸を用い、S撚り複合糸とZ撚り複合糸を1:1に配列し、福原社製丸編機を用い、28ゲージ、釜径30インチにて天竺組織に編成した。この生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、46コース/インチ、40ウェル/インチ、目付92g/mの編物を得た。得られた編物は、実施例1、2で得た編物に比べ、生地が厚く、編目がルーズで透け感があり、肌触りの滑らかさ、きめの細かい風合い、落ち感のよさに欠け、高級感のある薄地編物とはいえないものであった。
【0027】
(実施例3)
実施例1で作成した複合糸を用い、S撚り複合糸とZ撚り複合糸を2:2に配列し、福原社製丸編機を用い、40ゲージ、釜径33インチにてスムース組織に編成した。この編成時における問題発生はなく、工程通過性のよい、生機品位の良好な編物が得られた。生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、54コース/インチ、70ウェル/インチ、目付148g/mの薄地編物を得た。得られた編物は、絹糸様の膨らみ感やドライ感が得られ、撚糸絹様の高級感のある光沢と、編目がコンパクトで透け感が抑えられ、肌触りが滑らかなきめの細かい風合い、落ち感のよい高級感のある編物であった。また得られた編物は、黒の発色性に優れ、編物表面が均一であり、含まれるセルローストリアセテートフィラメント糸による清涼感とソフトな感触や、適度な吸湿性により蒸れ感、ベトツキ感がなく、速乾性を有し、快適な着用感を有するものであった。
【0028】
(比較例2)
比較例1で用いたと同じエアー混繊糸FS0802(三菱レイヨン社製)を、撚糸することなく、そのまま用い、福原社製丸編機を用い、28ゲージ、釜径30インチにてスムース組織に編成した。この生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、43コース/インチ、48ウェル/インチ、目付160g/mの薄地編物を得た。得られた編物は、実施例3で得た編物に比べ、絹様のドライ感に欠け、光沢がややイラツキ気味であり、撚糸絹様の高級感のある光沢に欠け、編目がルーズで透け感があり、肌触りの滑らかさ、きめの細かい風合い、落ち感のよさに欠け、高級感のある薄地編物とはいえないものであった。
【0029】
(比較例3)
比較例1で作成した糸繊度が106dtexの複合糸を用い、S撚り複合糸とZ撚り複合糸を2:2に配列し、福原社製丸編機を用い、28ゲージ、釜径30インチにてスムース組織に編成した。この生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、48コース/インチ、48ウェル/インチ、目付185g/mの編物を得た。得られた編物は、実施例3で得た編物に比べ、生地が厚く、編目がルーズで透け感があり、肌触りの滑らかさ、きめの細かい風合い、落ち感のよさに欠け、高級感のある薄地編物とはいえないものであった。
【0030】
(比較例4)
セルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、単糸菊型断面、R率3.5%)61dtex/15fを用い、村田機械社製ダブルツイスターにて、スピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gの条件で、S撚り900T/m、Z撚り900T/mにそれぞれ撚糸し、80℃で40分の撚止めセットを行い、S撚りの複合糸とZ撚りの複合糸を作成した。得られた複合糸はセルローストリアセテートフィラメント糸のみからなるものであった。作成した複合糸を用い、S撚り複合糸とZ撚り複合糸を1:1に配列し、福原社製丸編機を用い、36ゲージ、釜径30インチにて天竺組織に編成した。この編成時においては若干の毛羽立ちが認められた。この生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、65コース/インチ、59ウェール/インチ、目付68g/mの薄地編物を得た。得られた編物は、実施例1で得られた薄地編物に比べ、膨らみ感やドライ感が劣るもであり、また生地強度が低く着用耐久性に劣るものであった。
【0031】
(実施例4)
実施例1で用いたと同じエアー混繊糸FS0402(三菱レイヨン社製)を用い、村田機械社製ダブルツイスターにて、スピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gの条件で、S撚り300T/mに撚糸し、80℃で40分の撚止めセットを行い、S撚りの複合糸を作成した。なお、得られた複合糸は繊度が62dtexで、複合糸におけるセルローストリアセテートフィラメント糸の混用率は65重量%であった。作成した複合糸を用い、カールマイヤー社製トリコット機28ゲージにてアトラス組織の経編地に編成した。この編成時における問題発生はなく、工程通過性のよい、生機品位の良好な経編物が得られた。生機を常法に従って分散染料で黒色に染色し、仕上げ加工して、仕上げ巾112cm、64コース/インチ、38ウェル/インチの薄地編物を得た。得られた編物は、絹糸様の膨らみ感やドライ感が得られ、撚糸絹様の高級感のある光沢のある編物であった。また得られた編物は、黒の発色性に優れ、編物表面が均一であり、含まれるセルローストリアセテートフィラメント糸による清涼感とソフトな感触や、適度な吸湿性により蒸れ感、ベトツキ感がなく、速乾性を有し、快適な着用感を有するものであった。
【0032】
(実施例5)
実施例4において、トリコット機におけるゲージを36ゲージに代えてアトラス組織の経編地に編成した以外は、実施例4と同様にして染色し、仕上げ加工して、仕上げ巾150cm、66コース/インチ、44ウェル/インチの薄地編物を得た。得られた編物は、絹糸様の膨らみ感やドライ感が得られ、撚糸絹様の高級感のある光沢と、編目がコンパクトで透け感が抑えられ、肌触りが滑らかなきめの細かい風合い、落ち感のよい高級感のある編物であった。また得られた編物は、黒の発色性に優れ、編物表面が均一であり、含まれるセルローストリアセテートフィラメント糸による清涼感とソフトな感触や、適度な吸湿性により蒸れ感、ベトツキ感がなく、速乾性を有し、快適な着用感を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の薄地編物は、絹糸を用いた甘撚〜強撚の薄地編物が有すると同様な、高級感のある光沢を有し、ソフトな膨らみ感があり適度な落ち感、ドライ感等の優れた風合い、快適な着用感を有する編物を、安価で生産性に優れた糸素材で構成することができ、また速乾性を有しイージーケア性にも優れたものであることから、衣料分野、特に婦人衣料のアウター、インナー等での商品をより高級化、快適化することを可能とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で求めるR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との複合糸であって、かつ以下の条件1〜3を満足する複合糸にて、編物が構成されたことを特徴とする薄地編物。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
(なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にする)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の環境下に放置し、恒量になった状態の質量であり、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。)
1.R率8%以下のセルロース系フィラメント糸とポリエステルフィラメント糸とのエアー混繊糸の撚糸である
2.糸繊度が40〜75dtexである
3.R率8%以下のセルロース系フィラメント糸の混用率が60〜85質量%である
【請求項2】
R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項1に記載の薄地編物。

【公開番号】特開2011−231416(P2011−231416A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99779(P2010−99779)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】