説明

薄板ガラス製造方法および薄板ガラス製造装置

【課題】元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給して薄板ガラスを連続して製造する場合であっても、均質な薄板ガラスを得ることができる。
【解決手段】元板ガラス2の後端に次の元板ガラス3の先端を順次溶着して前記元板ガラスを連続供給し、前記元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造方法において、前記元板ガラス2と次の元板ガラス3との溶着時に、前記溶着接続部分が前記元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、前記溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲が前記溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して前記元板ガラスを連続供給し、前記元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造方法および薄板ガラス製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、小型の磁気ディスクに用いられる円板上のガラス基板や顕微鏡に用いられるカバーガラスなどは、薄板ガラスから製造されるが、この薄板ガラスは、元板ガラスを加熱し延伸することによって製造される。この薄板ガラスを製造する際、元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給して薄板ガラスを連続して製造する装置が知られている(特許文献1参照)。この装置では、上部搬送の第1チャック、位置決めガイドの第2チャック、および下部搬送の第3チャックを有し、各チャックを独立して動作させつつ、連携して元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着を行うようにしている。溶着方法は、接続部をバーナーで加熱軟化させ、圧接して溶着後、溶着部を引っ張ることで溶着形状を成形している。これによれば、元板ガラスの利用効率を高めつつ、均質な薄板ガラスを得ることができる。
【0003】
また、元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給して薄板ガラスを連続して製造する装置として、元板ガラスの外周寸法と同じ内周寸法を有した型を設け、この型内で元板ガラスの断面形状を維持しながら、加熱溶着するものがある(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平4−63819号公報
【特許文献2】特開2007−39260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された薄板ガラス製造装置では、バーナーを用いて溶着部のみを局所的に加熱して溶着するようにしているので、元板ガラスの物性や形状によっては、図5(a)に示すように、溶着部近傍に熱応力によるそりが発生する場合があり、特に厚さに対する幅の寸法比(アスペクト比)が40を超えるような形状でそりの発生が顕著になる。このそりが元板ガラスに発生すると元板ガラスの形状が維持されず、延伸された薄板ガラスが均質なものとならないという問題点があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載された薄板ガラス製造装置では、型を用いているため、溶着部分の表面粗さなどが劣化し、この場合も、延伸された薄板ガラスが均質なものとならないという問題点があった。
【0007】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給して薄板ガラスを連続して製造する場合であっても、均質な薄板ガラスを得ることができる薄板ガラス製造方法および薄板ガラス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給し、元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造方法であって、元板ガラスおよび次の元板ガラスは断面が長方形であり、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、溶着接続部分が元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲が溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱して元板ガラスの熱応力を緩和させ、さらに、所定範囲の元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間における最も大きい温度変化が100℃/10mm以下となるように加熱し、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着後に、溶着接続部分の温度が元板ガラスの歪点温度よりも低く、200℃以上となるように加熱制御することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は、上記の発明において、元板ガラスおよび次の元板ガラスの厚さに対する幅の寸法比は40以上であることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は、上記の発明において、元板ガラスの供給方向の変位を検出するとともに、元板ガラスの押圧時にかかる荷重を測定し、検出した変位と測定した荷重とをもとに元板ガラスにかける荷重を制御することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は、上記の発明において、元板ガラスの把持時に該元板ガラスに接触する部分を加熱し、元板ガラスに接触する部分の温度が、把持される元板ガラスの接触部分の温度に近づくように制御することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は、上記の発明において、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着前における元板ガラスと次の元板ガラスとの突き合わせ時に次の元板ガラスの先端部分をガイドするガイドローラが配置される基台上から次の元板ガラスの厚さ方向の位置を測定し、次の元板ガラスの後端を把持する後端把持部が、次の元板ガラスの厚さ方向の位置の測定結果をもとに次の元板ガラスの厚さ方向の位置を補正することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造方法は、上記の発明において、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、元板ガラスおよび次の元板ガラスの移動に同期して、溶着接続部分を加熱する溶着加熱手段および所定範囲を加熱する熱応力緩和加熱手段を移動させることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる薄板ガラス製造装置は、断面が長方形の元板ガラスの後端に断面が長方形の次の元板ガラスの先端を順次溶着して元板ガラスを連続供給し、元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造装置であって、
元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着接続部分近傍に設けられ、溶着接続部分を加熱する溶着加熱手段と、溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲近傍に設けられ、該所定範囲を加熱する熱応力緩和加熱手段と、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、溶着加熱手段によって溶着接続部分が元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、熱応力緩和加熱手段によって所定範囲が溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱して元板ガラスの熱応力を緩和させつつ、所定範囲の元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間における最も大きい温度変化が100℃/10mm以下となるように制御し、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着後に、溶着接続部分の温度が元板ガラスの歪点温度よりも低く、200℃以上となるように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明にかかる薄板ガラス製造装置は、上記の発明において、元板ガラスおよび次の元板ガラスの厚さに対する幅の寸法比が40以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、溶着接続部分が元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、前記溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲が前記溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱して前記元板ガラスの熱応力を緩和させて、溶着接続部分近傍のそりの発生を抑えるようにしているとともに表面粗さにも影響を与えないため、常に均質な薄板ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態にかかる薄板ガラス製造装置の概要構成を示す模式図である。
【図2】図1に示した薄板ガラス製造装置を右側面からみた模式図である。
【図3】接続部を中心とした温度分布を示す図である。
【図4】元板ガラスの粘度と温度との関係を示す図である。
【図5】溶着時の接続部近傍の状態を示す説明図である。
【図6】融着部を用いた元板ガラスの連続供給処理を示す図である。
【図7】そり量の定義を説明する説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明にかかる薄板ガラス製造方法および薄板ガラス製造装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態)
図1は、この発明の実施の形態にかかる薄板ガラス製造装置の概要構成を示す模式図である。また、図2は、図1に示した薄板ガラス製造装置を右側面からみた模式図である。図1および図2において、この薄板ガラス製造装置1は、元板ガラス2が送り込まれ、この元板ガラス2を加熱軟化させる加熱炉5と、この加熱炉5の元板ガラス2を延伸して薄板ガラスを成形する板引ローラ6とを有する。この元板ガラス2の後端には、次の元板ガラス3の先端が突き合わされ、この突き合わされた接続部50が溶着され、連続して元板ガラス2,3を加熱炉5に供給し、連続して薄板ガラスが製造される。この薄板ガラス製造装置1は、大きく、上側把持部10、ガイド部20、溶着部30、下側把持部40、これら各部を駆動する駆動部C1〜C4、およびこれら各部と加熱炉5と板引ローラ6とを制御する制御部Cを有する。
【0020】
上側把持部10は、元板ガラス2,3の後端(上端)を把持する把持部11a,11bを有する。各把持部11a,11bは、前後補正ステージ11の下部に設けられる。前後補正ステージ11は、元板ガラス2,3の厚さ方向(X方向)、幅方向(Y方向)の位置を補正するとともに、各把持部11a,11bによって把持された元板ガラス2,3を供給方向(−Z方向)に移動させる。前後補正ステージ11と上部固定端との間には、ロードセル13、変位センサ12、およびシリンダ14が配設される。ロードセル13は、エアシリンダなどによって実現されるシリンダ14の押圧による荷重を測定し、変位センサ12は、シリンダ14のストローク変位を測定し、シリンダ14は、ロードセル13が測定した荷重と変位センサ12が測定したストローク変位とをもとに元板ガラス2,3の移動を制御する。なお、駆動部C1は、前後補正ステージ11の位置補正時における厚さ方向(X方向)の移動を行わせる。また、変位センサ12、ロードセル13、およびシリンダ14は、シリンダ14の制御のもとに移動制御を行ってもよいし、制御部Cの制御のもとに移動制御を行うようにしてもよい。
【0021】
ガイド部20は、元板ガラス3を新たに追加する際に、この元板ガラス3の先端(下端)が元板ガラス2の後端と突き当たる接続部50の上側(Z方向)に配置され、元板ガラス2の移動が、特に厚さ方向のぶれがないように案内する2対のガイドローラ22を有する。各対のガイドローラ22は、元板ガラス2,3の幅方向(Y方向)の端部側に設けられ、元板ガラス2,3を厚さ方向から挟むように配置される。また、ガイド部20は、ガイドローラ22が設けられる図示しない基部に設けられた前後位置測定センサ21を有する。前後位置測定センサ21は、元板ガラス2,3の幅方向の端部側に設けられ、基部と元板ガラス2,3との位置を測定する。この測定結果は、制御部Cに送られ、制御部Cによって前後補正ステージ11の位置補正がなされる。なお、ガイド部20は、制御部Cの制御のもと、駆動部C2によって供給方向(Z方向)に独立して移動するとともに、ガイドローラ22の幅方向(X方向)に移動し、1対のガイドローラ22間の広がりが制御される。
【0022】
溶着部30は、接続部50の供給方向への移動に同期して移動し、この移動は、制御部Cの制御のもと、駆動部C3によってなされる。溶着部30は、接続部50近傍で、元板ガラス2,3すなわち接続部50を挟むように対称配置された1対のSiC系ヒータ31a,31bを有した溶着ヒータ31を備える。また、溶着部30は、接続部50から上側(+Z方向)および下側(−Z方向)に元板ガラス2,3を覆うように面的に広がった1対のセラミックファイバヒータ32a,32bを有した熱応力緩和ヒータ32を備える。1対のセラミックファイバヒータ32a,32bは、元板ガラス2,3を元板ガラス2,3の表裏から挟むように対称配置される。このSiC系ヒータ31a,31bおよびセラミックファイバヒータ32a,32bの対称配置によって、元板ガラス2,3の厚さ方向の温度上昇分布あるいはガラス粘度分布が対称となり、厚さ方向の非対称性によって生じるそりを抑えることができる。
【0023】
下側把持部40は、現に加熱炉5に供給されている元板ガラス2の後端部分を把持する2対の把持部41,42、43,44を有する。各把持部41,42、43,44は、元板ガラス2の幅方向の端部で、厚さ方向から元板ガラス2を挟んで把持する。この下側把持部40は、制御部Cの制御のもと、駆動部C4によって独立して移動制御される。また、2対の把持部41,42、43,44が元板ガラス2を把持する際、元板ガラス2に接触する部分には、それぞれヒータ41a,42a、43a,44aが設けられ、把持する際の元板ガラス2の温度に近い温度となるように、制御部Cが温度制御する。これは、下側把持部40が溶着部30近くに設けられるために、下側把持部40が把持する元板ガラス2の温度が高くなっているからであり、この制御部Cによる温度制御を行うことによって、元板ガラス2の表面が荒らされることを防ぐことができる。なお、このヒータ41a,42aおよびヒータ43a,44aの各対も、厚さ方向に対して対称配置される。
【0024】
ここで、図3を参照して、溶着ヒータ31に対する加熱制御について説明する。図3は、各ヒータ位置と元板ガラス2,3の表面温度の関係を示す図である。SiC系ヒータ31a,31bは、接続部50の溶着のために加熱される。このために、制御部Cは、接続部50が、元板ガラス2,3の軟化点のガラス粘度10E7.65(ポアズ)近傍となるように加熱制御される。ここで、軟化点のガラス粘度近傍とは、ガラス粘度が10E6.9〜10E8.3の範囲である。この軟化点のガラス粘度近傍としたのは、元板ガラス2,3の変形を最小に抑えて、溶着できる粘度だからである。このため、ガラス粘度が10E9までの範囲としてもよい。この場合、溶着処理には外部の力を必要とするが、ガラス自体の変形はさらに少なくなる。なお、この元板ガラス2,3の軟化点の温度は、730℃である。また、ガラス自体の変形を小さくする観点からは、元板ガラス2,3の表面温度が歪点より高い領域においては、溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間にける最も大きい温度変化が100℃/10mmより大きくなるように加熱制御することが好ましい。なお、この元板ガラス2,3の歪点の温度は、520℃である。ここで、元板ガラス2,3のガラス粘度と温度とは、図4に示すように、ガラス粘度の測定が不可能な500℃以下の温度を除き、一意に対応づけられる。
また、上記は元板ガラス2,3がソーダライムガラスである場合について記載したが、使用する元板ガラス2,3の種類によって、その軟化点、歪点から加熱温度は適宜選択される。
【0025】
一方、セラミックファイバヒータ32a,32bは、SiC系ヒータ31a,31bによる接続部50の溶着を行う際、接続部50とその周囲との間の大きな粘度差あるいは温度差によって熱応力が発生することによって、そりが生じないように接続部50から周囲に向けて徐々に粘度が高くなり、あるいは温度が低くなるように、制御部Cによって加熱制御される。すなわち、セラミックファイバヒータ32a,32bは、熱応力を緩和するためのヒータである。このセラミックファイバヒータ32a,32bは、接続部50から+Z方向に300mm、−Z方向に300mmの広がりを持たせている。ここで、セラミックファイバヒータ32a,32bは、元板ガラス2の表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間にける最も大きい温度変化が100℃/10mm以下となるように制御部Cによって制御される。なお、歪点以下の領域において、温度変化が100℃/10mmより大きい領域があるとガラスに歪みが生じてしまうからである。
【0026】
上述したSiC系ヒータ31a,31bおよびセラミックファイバヒータ32a,32bの制御を行うことによって、図3に示したZ方向の特性曲線Lを得ることができる。この特性曲線Lは、SiC系ヒータ31a,31bのみを用いた溶着による特性曲線L2に比して、歪点以下の領域における温度の勾配が緩やかになり、熱応力が緩和され、図5(a)に示すような、接続部50近傍を中心に生じる、そりを抑止することができ、図5(b)に示すように、接続部50近傍がその中心に熱膨張するのみとなる。なお、図5(b)では、接続部50近傍の膨らみを強調して示している。図5(b)に示すような溶着がなされると、ガラス形状のアスペクト比が均一な薄板ガラスを製造することができる。
【0027】
また、特性曲線Lに至るまでの昇温速度を所定値内に抑える必要がある。昇温速度が速いと、熱応力によってガラスが割れる場合があるからである。この実施の形態では、150℃/minで昇温している。
【0028】
さらに、上述したように溶着部30は、接続部50の移動に同期して移動する。この移動中に接続部50の溶着が完了した場合には、溶着部30への通電をオフするが、この実施の形態では、少なくとも接続部50が、歪点のガラス粘度10E14.5(520℃)〜200℃の範囲に保持されるように制御部Cによって制御される。これによって、加熱炉5に接続部50が挿入されるまでの間、接続部50の急激な温度下降による熱応力の発生によって生じるガラスの割れを抑止することができる。
【0029】
ここで、図6を参照して、溶着部30を用いた元板ガラスの連続供給処理について説明する。なお、図6中、黒く塗りつぶされたSiC系ヒータ31,セラミックファイバヒータ32は、加熱中であることを示す。まず、図6(a)に示すように、溶着部30によって元板ガラス2,3が溶着中である状態から説明する。この状態では、上側把持部10によって元板ガラス3の後端が把持され、下側把持部40によって元板ガラス2が把持され、元板ガラス2,3は、等速度(100mm/min)で送り出される。この際、上側把持部10によって接続部50に対する押圧が制御される。また、溶着部30は、接続部50に同期して移動する。したがって、ガイド部20(ガイドローラ22)、溶着部30(溶着ヒータ31,熱応力緩和ヒータ32)、下側把持部40、および元板ガラス2,3は、等速度で送り出される。また、下側把持部40は、元板ガラスに接触する部分の温度が、接触部50の温度に近づくように制御される。これにより元板ガラスの割れが抑制される。
【0030】
その後、接続部50が位置PT2に到達すると、接続部50の溶着が完了する(図6(b))。このとき、下側把持部40による把持を解除する。その後、溶着ヒータ31をオフし、熱応力緩和ヒータ32のみの温度制御によって接続部50の温度下降を防止して、加熱炉5に元板ガラス2を送り出す(図6(c))。その後、熱応力緩和ヒータ32の下端が加熱炉5近傍に到達すると、溶着ヒータ31および熱応力緩和ヒータ32と元板ガラス2との同期をなくし、溶着ヒータ31および熱応力緩和ヒータ32を現位置で、接続部50が加熱炉5に送り出されるまで停止させる。そして、接続部50が加熱炉5に送り出された時点で、熱応力緩和ヒータ32の加熱を停止する。このとき、接続部50の温度が元板ガラスの歪点温度よりも低く、200℃以上を保ちつつ加熱炉5に投入されるように熱応力緩和ヒータ32の加熱を停止する。これにより元板ガラスの割れが抑制される。
【0031】
その後、ガイドローラ22、溶着ヒータ31,熱応力緩和ヒータ32、および下側把持部40を+Z方向に移動させ、溶着ヒータ31が位置PT1に到達したところで停止させ(図6(d))、下側把持部40で元板ガラス3の後端側を把持し、さらに上側把持部11による元板ガラス3の把持をなくし、元板ガラス3の把持の持ち替えを行う(図6(e))。この後、下側把持部40によって元板ガラス3が移動される。
【0032】
その後、上側保持部10を最上部の位置PT0まで移動させ(図6(f))、次の元板ガラス4を把持して搬送し、ガイドローラ22を介して元板ガラス4の先端を元板ガラス3の後端に突き当て、溶着ヒータ31,熱応力緩和ヒータ32の加熱を開始する(図6(g))。その後、図6(a),図6(b)と同じように、接続部50の溶着をしつつ、元板ガラスの送り出しを行う(図6(h)),図6(i))。ここで、位置PT1と位置PT2との間で、接続部50の溶着処理が行われることになる(図6(g)〜図6(i))。
【0033】
この実施の形態では、溶着ヒータ31によって接続部50の溶着を行うとともに,熱応力緩和ヒータ32によって熱応力の発生を緩和させているので、接続部50近傍のそりの発生を抑止することができる。
【0034】
なお、この実施の形態では、元板ガラス3のガイドを、ガイドローラ22を用いて、元板ガラス3を把持せずに行っている。これは、元板ガラス3を把持した場合であって、元板ガラス2に微少なそりがある場合、元板ガラス3の先端を拘束することによる応力が生じ、把持を開放したときに、応力開放による振動が発生する場合があるからである。
【0035】
本発明に適用される元板ガラスは特に限定されないが、特に厚さに対する幅の寸法比(アスペクト比)が40を超えるような形状でそりの発生が顕著になることから、アスペクト比が40以上のものに適用すると効果が大きい。また、元板ガラスのアスペクト比が大きくなりすぎると、形状変化を抑制ことができなくなるため、アスペクト比は2000以下とすることが好ましい。
【0036】
また、本発明によれば、接続部分は加熱溶融面となるため、溶着部分の表面粗さは元板ガラスの表面粗さよりも改善される利点もある。
【0037】
(実施例1)
前述した薄板ガラス製造装置を用いて、熱膨張係数90×10−7/℃、ヤング率70GPa、軟化点温度730℃、歪点520℃の元板ガラスを接続した。なお、元板ガラスの厚さは3mm、幅は300mm、長さは600mmである。
【0038】
セラミックファイバヒータの温度を550℃に設定し、溶着接続部分の温度が730℃となるようにSiC系ヒータの温度を設定した。このとき、Z方向の元板ガラスの表面温度分布は図3の特性曲線Lとなり、元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かって最も大きい温度変化があったのは、溶着接続部分から先端側および後端側に20mmの位置から30mmの位置であり、20mmの位置における元板ガラスの表面温度は530℃であり、30mmの位置における温度は470℃であった、すなわち、最も大きい温度変化は60℃/10mmであった。接続後、そりを測定したところ0.05mmであった。
【0039】
ここで、そりは以下のように定義される。図7は、そり量について説明するための説明図であり、元板ガラスの溶着接続部分50の断面を示す図である。この場合の反り量71は、接続した元板ガラスを水平面上に置いたとき、基板面状の任意の単位長さ離れた二点間72での元板ガラスの厚さ方向の中心線73の垂直方向における最高点と最低点の差を指す。このとき、二点間の距離は300mmとした。
【0040】
(実施例2)
セラミックファイバヒータの温度を300℃に設定し、溶着接続部分の温度が730℃となるようにSiC系ヒータの温度を設定し、セラミックファイバヒータの上下両端部からガラス全体を覆うように断熱材を設置した以外は実施例1と同様に元板ガラスを接続した。このとき、Z方向の元板ガラスの表面温度分布は図3の特性曲線L1となり、元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かって最も大きい温度変化があったのは、溶着接続部分から先端側および後端側に20mmの位置から30mmの位置であり、20mmの位置における元板ガラスの表面温度は530℃であり、30mmの位置における温度は450℃であった、すなわち、最も大きい温度変化は80℃/10mmであった。接続後、そりを測定したところ0.08mmであった。
【0041】
(比較例1)
セラミックファイバヒータの電源をOFFとし、SiC系ヒータのみ用い、溶着接続部分の温度が730℃となるようにSiC系ヒータの温度を設定した以外は実施例1と同様に元板ガラスを接続した。このとき、Z方向の元板ガラスの表面温度分布は図3の特性曲線L2となり、元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、溶着接続部分から先端側および後端側に向かって最も大きい温度変化があったのは、溶着接続部分から先端側および後端側に20mmの位置から30mmの位置であり、20mmの位置における元板ガラスの表面温度は450℃であり、30mmの位置における温度は300℃であった、すなわち、最も大きい温度変化は150℃/10mmであった。接続後、そりを測定したところ5.0mmであった。
【符号の説明】
【0042】
1 薄板ガラス製造装置
2〜4 元板ガラス
5 加熱炉
6 板引ローラ
10 上側把持部
11 前後補正ステージ
11a,11b,41〜44 把持部
12 変位センサ
13 ロードセル
14 シリンダ
20 ガイド部
21 前後位置測定センサ
22 ガイドローラ
30 融着部
31 溶着ヒータ
31a,31b SiC系ヒータ
32 熱応力緩和ヒータ
32a,32b セラミックファイバフィルタ
40 下側把持部
41a〜44a ヒータ
50 接続部
C 制御部
C1〜C4 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元板ガラスの後端に次の元板ガラスの先端を順次溶着して前記元板ガラスを連続供給し、前記元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造方法であって、
前記元板ガラスおよび次の元板ガラスは断面が長方形であり、
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、前記溶着接続部分が前記元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、前記溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲が前記溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱して前記元板ガラスの熱応力を緩和させ、さらに、前記所定範囲の前記元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、前記溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間における最も大きい温度変化が100℃/10mm以下となるように加熱し、
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着後に、前記溶着接続部分の温度が前記元板ガラスの歪点温度よりも低く、200℃以上となるように加熱制御する
ことを特徴とする薄板ガラス製造方法。
【請求項2】
前記元板ガラスおよび次の元板ガラスの厚さに対する幅の寸法比は40以上であることを特徴とする請求項1に記載の薄板ガラス製造方法。
【請求項3】
元板ガラスの供給方向の変位を検出するとともに、元板ガラスの押圧時にかかる荷重を測定し、検出した変位と測定した荷重とをもとに前記元板ガラスにかける荷重を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の薄板ガラス製造方法。
【請求項4】
前記元板ガラスの把持時に該元板ガラスに接触する部分を加熱し、前記元板ガラスに接触する部分の温度が、把持される元板ガラスの接触部分の温度に近づくように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の薄板ガラス製造方法。
【請求項5】
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着前における前記元板ガラスと次の元板ガラスとの突き合わせ時に前記次の元板ガラスの先端部分をガイドするガイドローラが配置される基台上から前記次の元板ガラスの厚さ方向の位置を測定し、
前記次の元板ガラスの後端を把持する後端把持部が、前記次の元板ガラスの厚さ方向の位置の測定結果をもとに前記次の元板ガラスの厚さ方向の位置を補正することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の薄板ガラス製造方法。
【請求項6】
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、前記元板ガラスおよび次の元板ガラスの移動に同期して、前記溶着接続部分を加熱する溶着加熱手段および前記所定範囲を加熱する熱応力緩和加熱手段を移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の薄板ガラス製造方法。
【請求項7】
断面が長方形の元板ガラスの後端に断面が長方形の次の元板ガラスの先端を順次溶着して前記元板ガラスを連続供給し、前記元板ガラスを加熱し延伸して薄板ガラスを連続して製造する薄板ガラス製造装置であって、
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着接続部分近傍に設けられ、前記溶着接続部分を加熱する溶着加熱手段と、
前記溶着接続部分から先端側および後端側に面的に広がる所定範囲近傍に設けられ、該所定範囲を加熱する熱応力緩和加熱手段と、
前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着時に、前記溶着加熱手段によって前記溶着接続部分が前記元板ガラスの軟化点近傍のガラス粘度となるように加熱して溶着させるとともに、前記熱応力緩和加熱手段によって前記所定範囲が前記溶着接続部分から先端側および後端側に向けて徐々に温度が低くなるように加熱して前記元板ガラスの熱応力を緩和させつつ、前記所定範囲の前記元板ガラスの表面温度が歪点以下の領域において、前記溶着接続部分から先端側および後端側に向かう任意の10mmの区間における最も大きい温度変化が100℃/10mm以下となるように制御し、前記元板ガラスと次の元板ガラスとの溶着後に、前記溶着接続部分の温度が前記元板ガラスの歪点温度よりも低く、200℃以上となるように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする薄板ガラス製造装置。
【請求項8】
前記元板ガラスおよび次の元板ガラスの厚さに対する幅の寸法比が40以上であることを特徴とする請求項7に記載の薄板ガラス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100231(P2013−100231A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−35064(P2013−35064)
【出願日】平成25年2月25日(2013.2.25)
【分割の表示】特願2008−92344(P2008−92344)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】