説明

薄膜の作製方法及び作製装置

【課題】各層間の界面によるエネルギー障壁の影響が緩和された積層薄膜の作製方法の提供。
【解決手段】(1)溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、(2)液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、(3)濃縮された液滴を基板14上もしくは基板14上に設けられた薄膜の上に堆積させて薄膜を形成すること、を順次行って溶質Aを含む下層を形成する下層形成工程;上記(1)〜(3)を順次行って、前記下層の上に、溶質Bを含む上層を形成する上層形成工程;並びに前記下層形成工程及び前記上層形成工程の間に、上記(1)〜(3)を順次行って、溶質A及びBを含む混合層を形成する混合層形成工程;を含むことを特徴とする薄膜の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、太陽電池等の種々のデバイス、及び反射板、偏光板等の種々の光学部材に利用可能な薄膜の作製方法、並びに薄膜の作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のネットワークの拡充や生活スタイルの多様化に伴い、フレキシブル性や大面積といった従来のSi半導体では実現困難な付加価値が電子デバイスに求められており、フィルム上に成膜可能な有機エレクトロニクスが注目されている。
有機電界発光素子、太陽電池等の種々の有機デバイスにおいて、性能向上には機能の異なる有機薄膜を積層成膜することが重要になる。薄膜の作製方法として、一般的に真空蒸着法等のドライプロセス、及びスピンコート法等のウェットプロセスが知られている。
前記ドライプロセスは、厚み一定の均一な有機薄膜を積層して成膜することが可能だが、成膜する材料に高エネルギーを加えるため熱的に不安定な有機材料には適用できず、かつ基材もガラスなどの耐熱性のある材料に限定されてしまうため、材料および基材に制約がある。また、多くか真空プロセスであることから生産性が悪いという問題があった。
【0003】
一方、ウェットプロセスは、フィルムのようなフレキシブル性のある基材上に簡易に成膜できるため、生産性や大面積化の観点では、ドライプロセスと比べ格段に優れている。例えば、有機溶剤を用いて調製された塗布液を使用する製膜方法として、非特許文献1等に記載のエクストルージョンコーティング法が知られている。当該方法によれば、積層膜の同時塗布も可能である。しかし、上記コーティング法では、塗布液にある程度の粘性が必要である。有機発光層の材料等は、溶剤に溶け難い材料が多く、粘度の高い高濃度の塗布液を調製するのは困難である。また、有機電子デバイスの各層中に、バインダー、増粘剤等を添加することは性能低下につながる場合もあるため、増粘効果のある添加剤の添加も適さない。よって、有機発光層の材料等については、固形分濃度が非常に低い希薄溶液しか調製できない場合が多い。この様な非常に低濃度の溶液を用いて、所望の特性の有機薄膜を形成するためには、当該溶液を厚く塗布する必要が生じるが、低粘度の溶液を厚く塗布するのは困難であり、結果として均一な塗膜が得られない。また、上記コーティング法で単層の薄膜を作製することはできたとしても、同様の方法で積層膜を作製しようとすると、上層の塗膜中の多量の溶媒によって、下層が溶解してしまい、積層膜の作製はさらに困難である。上層の形成時に、下層を溶解しない溶媒を使用することも考えられるが、溶媒の種類が限定されてしまう結果、その溶媒に溶解する材料しか積層成膜できないことになるため、積層成膜が可能な材料が限定されてしまうといった問題がある。
【0004】
また、スプレー法を利用した有機電界発光素子の作製法(例えば特許文献1)も提案されている。しかし、スプレー法を利用しても、下層が有機膜の場合には、積層膜を作製する際に、上層の溶媒が下層を溶解するという問題を回避するのは困難である。
また、原料液をエアロゾル化し、それを基板上に堆積することで有機薄膜を形成する方法も提案されている(例えば特許文献2)。この方法によれば、ウェットプロセスにもかかわらず、上層の溶媒によって下層を溶解しないで積層成膜が可能なため、ドライプロセス及びウェットプロセスの課題を解決できる可能性がある。
一方で、多層構造素子は、各層間の界面におけるエネルギー障壁などの問題によって性能低下が生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243421号公報
【特許文献2】特開2004−160388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記原料液をエアロゾル化して堆積する方法では、下層を溶解しないで積層成膜が可能であるが、一方で、下層−上層界面の状態のほとんどが、基板到達時のエアロゾル内に含まれる溶媒量によって決定されてしまうので、界面状態の制御を、液滴が基板に到達するまでの乾燥条件によって行う必要があり、非常に困難である。有機電界発光素子などの有機デバイスの性能向上には、有機薄膜の積層構造を必須であり、さらに、各層間の界面におけるエネルギー障壁による性能低下の影響を緩和することが重要である。
本発明は、スプレー法を利用した積層薄膜の製造方法において、下層−上層界面の状態を制御することを課題とする。
また、本発明は、各層間の界面によるエネルギー障壁の影響が緩和された積層薄膜の作製方法、及び該方法を実施可能な薄膜の作製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者が鋭意検討した結果、スプレー法を利用した積層薄膜の作製方法において、噴霧する原料液や噴霧するノズルの組み合わせなどを様々に変更することで、積層膜の界面の混合(層)の状態を自由に制御でき、さらには各層間の界面によるエネルギー障壁の影響を緩和することが可能となるとの知見を得、この知見に基づきさらに検討して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記(1)〜(3)
(1) 溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
(2) 液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
(3) 濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させて薄膜を形成すること、
を順次行って溶質Aを含む下層を形成する下層形成工程;
上記(1)〜(3)を順次行って、前記下層の上に、溶質Bを含む上層を形成する上層形成工程;並びに
前記下層形成工程及び前記上層形成工程の間に、上記(1)〜(3)を順次行って、溶質A及びBを含む混合層を形成する混合層形成工程;
を含むことを特徴とする薄膜の作製方法。
[2] 前記混合層形成工程において、溶質Aに対する溶質Bの割合が厚み方向に変化した混合層を形成することを特徴とする[1]の方法。
[3] 前記混合層形成工程において、溶質A及びBを含む混合原料液を噴霧することを特徴とする[1]又は[2]の方法。
[4] 前記混合層形成工程において、前記混合原料液中の溶質A及び溶質Bの割合を時間に応じて変化させることを特徴とする[3]の方法。
[5] 前記混合層形成工程において、原料液をそれぞれ噴霧するノズルを複数有し、ノズルごとに溶質Aに対する溶質Bの割合を変化させた原料液を供給し、順次噴霧することを特徴とする[3]の方法。
[6] 前記混合層形成工程において、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液A、及び溶質Bを含み溶質Aを含まない原料液Bを、同時に噴霧することを特徴とする[1]又は[2]の方法。
[7] 前記混合層形成工程において、原料液A及び原料液Bの噴霧量をそれぞれ、時間に応じて変化させることを特徴とする[6]の方法。
[8] 前記混合層形成工程において、原料液A及び原料液Bをそれぞれ1以上のノズルから同時に噴霧させ、時間に応じて、原料液A及びBをそれぞれ噴霧するノズルの数を変化させることを特徴とする[6]又は[7]の方法。
[9] 前記混合層形成工程を繰り返し実施して、膜厚方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した領域を形成することを特徴とする[1]〜[8]のいずれかの薄膜の作製方法。
[10] 溶質A及び/又は溶質Bがそれぞれ、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかの方法。
[11] 下層形成工程及び/又は上層形成工程がそれぞれ、有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層のいずれかを形成する工程であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれかの方法。
【0009】
[12] [1]〜[11]のいずれかの方法に用いられる有機薄膜の作製装置であって、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する、複数のノズルを備えた液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、及び
基板を固定する基板ホルダ
を備えた薄膜の作製装置。
[13] 前記基板ホルダに接続して設けられた基板を加熱する基板加熱手段をさらに備えた[12]の装置。
[14] 開口部を有するチャンバーを2つ以上有し、各チャンバーに、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、及び
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、
を備えた[13]の装置。
[15] 基板ホルダに接続して設けられた、基板を搬送可能に支持し、その被堆積面を各チャンバーの開口部に位置合わせする搬送手段を備えた[14]の装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スプレー法を利用した積層薄膜の製造方法において、下層−上層界面の状態を制御することができる。
また、本発明によれば、各層間の界面によるエネルギー障壁の影響が緩和された積層薄膜の作製方法、及び該方法を実施可能な薄膜の作製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図である。
【図2】本発明の方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図である。
【図3】本発明の方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図である。
【図4】本発明の方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図である。
【図5】二流体ノズルへの送液量の制御の一例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、
下記(1)〜(3)
(1) 溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
(2) 液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
(3) 濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させて薄膜を形成すること、
を順次行って溶質Aを含む下層を形成する下層形成工程;
上記(1)〜(3)を順次行って、前記下層の上に、溶質Bを含む上層を形成する上層形成工程;並びに
前記下層形成工程及び前記上層形成工程の間に、上記(1)〜(3)を順次行って、溶質A及びBを含む混合層を形成する混合層形成工程;
を含むことを特徴とする薄膜の作製方法に関する。
【0013】
本発明は、溶質A及びBをそれぞれ含有する下層及び上層を、エアロゾル化された原料液を堆積させて形成する積層薄膜の製造方法において、下層及び上層の間に、溶質A及びBを含む混合層を、エアロゾル化された原料液を堆積させて形成することを一つの特徴とする。前記混合層が存在することにより、溶質Aを含む下層と溶質Bを含む下層の間の界面によるエネルギー障壁の影響を緩和することができる。本発明の方法を有機電界発光素子の有機積層薄膜の作製方法に利用した態様では、作製される素子の外部量子効率を改善することができる。しかも本発明では、エアロゾル化された原料液を堆積することにより積層薄膜を作製しているので、下層の溶解が抑制されていて、下層及び上層の間に存在する混合層の状態(溶質A及びBの濃度勾配等)の制御により、所望とする構造の積層薄膜を安定的に作製することができる。
【0014】
なお、本明細書では、「溶質Aを含む層」及び「溶質Bを含む層」とはそれぞれ、溶質A及びBをそれぞれ主成分として含む層を意味する。即ち、下層及び上層がそれぞれ複数の材料を含む層である態様では、混合層形成工程では、下層及び上層の主成分を含む層が形成される。
【0015】
以下、本発明の製造方法の(1)〜(3)工程について、詳細に説明する。
(1)液滴形成工程
まず、有機材料を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成する。前記原料液の調製に用いられる材料及び溶媒については特に制限はない。所望の物性の有機薄膜を形成するために、種々の材料から選択される。本発明の方法では、材料は過度に高温に曝されないので、耐熱性等について制限はない。高分子材料であっても低分子材料であってもよい。また、金属錯体等であってもよい。よって、材料との親和性等の観点で適するものを、溶媒から選択することができる。勿論、溶媒として水を利用してもよく、また水と有機溶媒との混合溶媒を利用してもよい。噴霧に適する溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエン、メタノール、エタノール、ヘキサン、ベンゼン、アセトン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、クロロベンゼン、クロロホルム等が挙げられる。
【0016】
また、原料液の調製に用いられる溶媒として、液滴を堆積させる基板の材料もしくは基板上に設けられた薄膜の材料を溶解する溶媒を少なくとも一種用いることもできる。これは、基板及び下層の薄膜に到達する液滴の固形分濃度は、濃縮工程により高くなっていて、即ち基板到達時の液滴中の溶媒量が少ないので、基板等が液滴中の溶媒によってわずかしか溶解しないためである。加えて、この微量の溶媒による基板等の溶解は、形成される膜とその下の基板もしくは薄膜との結合を促すため、密着性が改善されるので好ましく、かつ特に有機エレクトロニクスにおいては、界面による電子・正孔の移動の障壁となる界面の影響が緩和されて性能が向上する。
【0017】
液滴形成工程では、原料液を噴霧し液滴を形成する。液滴化する方法について特に制限はなく、種々の方法を利用することができる。例えば、原料液を、所定のガス圧力及び流量のキャリアガスと混合することで、原料液をキャリアガス中に浮遊した液滴とすることができる。キャリアガスとしては、特に制限はない。空気を利用してもよい。また原料を変質させないためには、不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウム等を利用するのが好ましい。キャリアガスのガス圧及び流量は、レギュレータを利用して制御することができる。また、液滴化は、超音波振動などを利用して実施することもできる。
原料液を液滴形成手段に供給する方法について特に制限はなく、種々の方法を利用することが出来る。例えば脈動の少なく精密な送液が可能なシリンジポンプやタクタイルポンプなどを利用することが出来る。
液滴の粒径については特に制限はないが、一般的には、0.1〜100μm程度であるのが好ましく、1〜10μm程度であるのがより好ましい。
【0018】
噴霧する原料液の濃度に関し、0.00001質量%〜1質量%が望ましく、0.0001質量%〜0.01質量%がより好ましい。
【0019】
噴霧する原料液の溶質として使用される材料は、例えば有機EL等の有機電子デバイスの各有機薄膜層の作製に利用される有機材料等から選択することができる。一例は、有機ELの発光層用の有機材料であり、発光材料及びホスト材料用の有機化合物である。有機EL素子の各有機薄膜用の材料であって、本発明の製造方法に、原料液の溶質として利用可能な種々の化合物についての詳細は、後述する。また、2つ以上の溶質を1つの溶媒に溶解して原料液としてもよい。
【0020】
(2)濃縮工程
次に、前記液滴形成工程で形成された液滴を濃縮する。チャンバー等の仕切られた空間に発生させ、所定の形状のチャンバー開口部から基板方向に噴出させるのが好ましい。チャンバー開口部から液滴を基板方向に噴出する前に、液滴を加熱するのが好ましい。加熱することにより、液滴中の溶媒が除去され、固形分濃度の高い小粒径のミストとなる。加熱温度は、原料液の調製に用いた溶媒の沸点以下の温度とするのが好ましい。
【0021】
(3)堆積工程
次に、液滴を基板上に堆積させて薄膜を形成する。液滴は基板表面等に堆積し、薄膜となる。上記(2)工程により液滴中の溶媒量は軽減されているので、基板又は基板上の薄膜に液滴が堆積しても、基板又はその上に形成された薄膜の溶解を抑制することができる。必要であればさらに乾燥してもよい。乾燥は、基板を支持する部材等から基板に対して熱を供給し、基板面をあらかじめ高温にしておくことによって実施することができる。また、温風を供給することによって乾燥してもよい。乾燥により、形成された膜内に残留する溶媒が除去されるので、好ましい。
【0022】
本発明では、まず、溶質Aを含む原料液を用いて、上記(1)〜(3)工程を実施して、溶質Aを含む下層を形成し(下層形成工程)、次に、溶質Bを含む原料液を用いて、さらに、上記(1)〜(3)工程を実施して、溶質Bを含む上層を形成する(上層形成工程)が、下層と上層の形成工程の間に、上記(1)〜(3)を実施して、溶質A及びBを含む混合層を形成する(混合層形成工程)。混合層を形成することで、溶質Aを含む下層と、溶質Bを含む上層との界面によるエネルギー障壁の影響が緩和された積層薄膜を作製することができる。なお、本発明の方法によって作製される、下層、混合層、及び上層それぞれの膜厚については特に制限はなく、用途に応じて好ましい範囲も変動するであろう。上記(1)〜(3)工程を含む、いわゆるスプレー法により、作製可能な膜の厚みは、一般的には、0.001〜10μm程度であり、より好ましくは、0.01〜1μm、さらに好ましくは0.01〜0.1μmである。混合層は、下層及び上層の厚みと同程度か、もしくは薄くてもよく、下層及び上層と比較して、0.1%〜20%程度の厚みでもよい。
【0023】
本発明の一実施形態では、下層形成工程、上層形成工程、及び混合層形成工程のそれぞれは、溶質・溶質比率・濃度の異なる原料液を用いて実施される。本態様では、例えば、下層形成工程では、溶質Aを含む原料液Aが用いられ、上層形成工程では、溶質Bを含む原料液Bが用いられ、混合層形成工程では、溶質A及びBを含む混合原料液が用いられる。前記混合層形成工程では、溶質A及びBの割合が互いに異なる複数の混合原料液を用いてもよい。
また、本発明の他の実施形態では、下層形成工程、上層形成工程、及び混合層形成工程のそれぞれが、複数のノズルを利用して、各ノズルに溶質・溶質比率・濃度の異なる原料液を供給することで、もしくは時間によって各ノズルの噴霧量を変化させることで、実施される。本態様では、混合原料液を用いても、用いなくてもよい。例えば、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液Aと、溶質Bを含み溶質Aを含まない原料液Bとを準備し、それぞれの単位時間における噴霧量を時間に応じて変化させることで、混合層を形成することができる。各原料液の単位時間の噴霧量は、各ノズルからの噴霧量、各原料液を噴霧するノズルの数、各原料液を噴霧するノズルの組合せ等を時間に応じて変化させることで、調整することができる。
【0024】
本発明の方法の好ましい態様は、前記混合層形成工程において、溶質Aに対する溶質Bの割合が厚み方向に変化した混合層を形成する態様である。特に好ましい態様は、前記混合層の溶質Aに対する溶質Bの割合が、溶質Aを含む下層側から溶質Bを含む上層側に向かって、厚み方向において増加している態様である。増加は、連続的な増加であっても、間断的な増加であってもよい。即ち、混合層中に前記割合が変化していない領域が存在していてもよい。
【0025】
本発明の一例は、混合層形成工程において、溶質A及びBを含む混合原料液を噴霧して、混合層を形成する方法である。
具体的には、下層形成工程において、溶質Aを含む原料液Aを噴霧することで下層を形成し、次に混合層形成工程において、溶質A及びBを含む混合原料液を噴霧することで所望濃度の混合層を形成し、上層形成工程において、溶質Bを含む原料液Bを噴霧することで上層を形成する。混合原料液中の溶質A及びBの濃度については特に制限はない。一例では、原料液Aの溶質Aの濃度C1、及び原料液Bの溶質Bの濃度C2に対して、混合原料液中の溶質A及びBの濃度をそれぞれ、C1/2及びC2/2に調整することができる。但し、この例に限定されるものではない。
【0026】
この例では、混合層形成工程において、溶質A及びBの割合が互いに異なる混合原料液を複数種類用い、時間に応じて、噴霧を切り替えることで、厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した混合層を形成することができる。また、混合原料液中の溶質A及びBの割合を時間に応じて変化させることでも、同様に厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した混合層を形成することができる。例えば、溶質Aを含む原料液A及び溶質Bを含む原料液Bをそれぞれノズルに送液する手段を備え、時間に応じてそれぞれの送液量を制御することで、時間に応じて、溶質A及びBの割合が異なる混合原料液をノズルから噴霧させることができる。
【0027】
また、この例では、前記混合層形成工程において、前記混合原料液を1以上のノズルから噴霧するとともに、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液A、及び溶質Bを含み溶質Aを含まない原料液Bを、それぞれ1以上のノズルから噴霧させ、時間に応じて、ノズルの組合せを変えることで、厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した混合層を形成することができる。
【0028】
この例は、例えば、1つのチャンバー内に複数のノズルを設置し、少なくとも1つは、溶質Aを含む原料液Aを噴霧するノズル、少なくとも1つは、溶質A及びBを含む混合原料液を噴霧するノズル、及び少なくとも1つは、溶質Bを含む原料液Bを噴霧するノズルとし、時間に応じて、各ノズルから各原料液を噴霧することで、実施することができる。
また、この例は、少なくとも3つのチャンバー内に、1以上のノズルを設置し、第1のチャンバー内で、各ノズルから原料液Aを噴出させて、前記下層形成工程を実施し、第2のチャンバー内では、少なくとも1つのノズルから混合原料液を噴出させて、前記混合層形成工程を実施し、及び第3のチャンバー内では、各ノズルから原料液Bを噴出させて、前記上層形成工程を実施することができる。チャンバーは4以上あってもよく、例えば、混合層形成工程を、2以上のチャンバーを利用して実施してもよい。一例では、混合層形成用の最初のチャンバー内では、混合原料液を1以上のノズルから噴出するとともに、原料液Aも1以上のノズルから噴出させて、混合層形成工程の初期を実施し、次のチャンバー内では、混合原料液を1以上のノズルから噴出するとともに、原料液Bも1以上のノズルから噴出させて、混合層形成工程の後期を実施してもよい。
【0029】
本発明の方法では、溶質A及び溶質Bを含む混合液を用いず、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液A、及び溶質B含む溶質Aを含まない原料液Bを、下層形成工程、上層形成工程、及び混合層形成工程のそれぞれで、異なる噴霧量で噴霧することによっても実施可能である。
具体的には、下層形成工程では、前記原料液Aを噴霧し、混合層形成工程では、前記原料液A及びBを同時に噴霧し、上層形成工程では、前記原料液Bを噴霧する。
【0030】
この例では、前記混合層形成工程において、原料液A及び原料液Bの噴霧量をそれぞれ、時間に応じて変化させることで厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した混合層を形成することができる。原料液A及びBの噴霧量は、各ノズルからの噴霧量を増減させることで、又は同一の原料液を噴霧するノズルの数を増減すること等により変化させることができる。
より具体的には、この例では、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液A、及び溶質Bを含み溶質Aを含まない原料液Bをそれぞれ1以上のノズルから噴霧させ、時間に応じて、原料液A及びBをそれぞれ噴霧するノズルの数を変化させることで、原料液A及び原料液Bの噴霧量をそれぞれ、時間に応じて変化させ、厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した混合層を形成することができる。例えば、噴霧量が同一のノズルを3本準備し、混合層形成工程の初期では、原料液Aを2本のノズルから、及び原料液Bを1本のノズルから噴霧させ、次に、原料液Aを1本のノズルから、及び原料液Bを2本のノズルから噴霧させて、混合層を形成することができる。また、初期と後期の間に、原料液A及びBをそれぞれ1本のノズルから、同時に同一の噴霧量で噴霧させてもよい。
【0031】
また、例えば、ノズルを2本準備し、混合層形成工程の初期では、原料液Aを噴霧するノズルの噴霧量を多くし、及び原料液Bを噴霧するノズルも噴霧量を低くし、次に、原料液A及びBをそれぞれ噴霧するノズルからの噴霧量を互いに等しくし、最後に、原料液Aを噴霧するノズルからの噴霧量を低く、及び原料液Bを噴霧するノズルからの噴霧量を高くして、混合層を形成することができる。
【0032】
さらに、本発明では、前記混合層形成工程を、複数回繰り返して実施してもよい。例えば、前記混合層形成工程により混合領域を形成した後、所望により、溶質Aを含有する非混合領域、溶質Bを含有する非混合領域、又は溶質A及びBのいずれも含有しない領域を形成し、その後、さらに前記混合層形成工程を実施して、溶質A及びBを含む混合領域を形成することもできる。これら複数の混合領域は、同一の方法により形成されてもよいし、異なる方法により形成されてもよい。例えば、溶質A及びBを含む混合原料液を用いて最初の混合領域を形成した後、前記原料液A及び原料液Bを用い、混合原料液は利用せずに、混合領域を形成してもよい。この様にして、膜厚方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した領域を形成してもよい。
【0033】
また、本発明では、液滴発生方向と同一方向に、即ち基板方向にガスを流してもよい。ガスとして不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを利用するのが好ましい。ガスを流すことにより、製膜レートを改善することができる
【0034】
また、本発明では、基板には部分的に又は全体に電位をかけてもよい。基板に電位をかけることで、液滴との間に電位差をもたせると、基板の液滴に対する吸引力が高まり、液滴が他の部分に付着するのを軽減でき、製膜レートを改善できる。また、基板に、電位を与えることで有機薄膜密度を調整することもできる。液滴が帯電している態様では、基板には、液滴と逆の電位を与えるのが好ましく、電位差を生じるように、具体的には、液滴が電位している電荷とは逆の電位を与えるのが好ましい。
なお、上記した通り、基板に、部分的に電位をかけて、所望のパターン状・画像状の有機薄膜を形成することもできる。
【0035】
液滴を堆積させる基板の材質についても特に制限はない。例えば、金属、金属酸化物、ガラス、シリコン等の無機材料からなる基板であっても、高分子材料等の有機材料からなる基板であってもよい。また、いずれも、無機材料及び/又は有機材料を含む層を有していてもよく、当該層上に液滴を堆積させて有機薄膜を形成してもよい。例えば、ITO薄膜、PTPDES−2、PEDOT−PSS、TPD、NPD等の表面上に、有機薄膜を形成してもよい。
【0036】
本発明の薄膜の作製方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図を図1に示す。
図1の製膜装置は、開口部aを有するチャンバー12を備え、並びに基板14を支持するホルダ16を備える。チャンバー12は、チャンバーの開口部aから液滴を噴霧するための機構を複数備えていて、具体的には、二流体ノズル18a及び18bを備え、それぞれ、シリンジポンプ20a及び20bから供給される原料液と、ガスボンベ22a及び22bからレギュレータ24a及び24bによって流量を制御されて供給されるガス(例えば、N2ガス)とが、二流体ノズル18a及び18bの内部でそれぞれ混合され、液滴として、チャンバー12内部に噴霧されるように構成されている。チャンバー12の内部は、例えば、その外側周囲に設けられたヒータや、その外側周囲の流路を熱水・熱風が通ることにより温度を制御可能に構成されている。ノズルから噴霧された液滴は、チャンバー12の内部で濃縮され、濃縮液滴が、開口部aから噴出し、ホルダ16によって支持された基板14の被堆積面に堆積し、膜が形成される。
【0037】
さらに、基板14を加熱する手段を備えていると、残留溶媒がさらに除去され、形成される薄膜の密度がさらに向上するので好ましい。例えば、基板を支持する基板ホルダ16から基板に対して熱を供給し、基板面をあらかじめ高温にしておくことによって実施することができる。また、温風を供給することによって乾燥してもよい。
【0038】
本発明の一実施形態は、図1の製膜装置の、二流体ノズル18a及び18bのそれぞれから、原料液A及び原料液Bをそれぞれ液滴として噴霧することで実施できる。より具体的には、二流体ノズル18aから原料液Aの液滴が所定の時間噴霧され、チャンバー12内で加熱濃縮され、濃縮された液滴が開口部aを通過して、基板14上に堆積し、溶質Aを含む膜となる(下層形成工程)。所定の時間経過して所望の膜厚となると、二流体ノズル18aから原料液Aの液滴が噴霧されるとともに、二流体ノズル18bから原料液Bの液滴も噴霧され、チャンバー12内で加熱濃縮され、濃縮された双方の液滴が開口部aを通過して、基板14の下層上に堆積し、溶質A及びBを含む膜となる(混合層形成工程)。時間に応じて、二流体ノズル18a及び二流体ノズル18bそれぞれの噴霧量を制御すれば、厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合に勾配のある混合層を形成することができる。所定時間経過後、二流体ノズル18aからの原料液Aの噴霧を中止し、二流体ノズル18bのみから原料液Bの液滴を噴霧することで、基板14の混合層上に、溶質Bを含む膜を形成できる(上層形成工程)。
【0039】
本発明の方法の一例では、二流体ノズル18aから所定の時間、原料液Aを液滴として噴霧し、基板14上に堆積させて、溶質Aを含む下層を形成する(下層形成工程)。次に、二流体ノズル18aの噴霧量を半分にすると同時に、二流体ノズル18bから所定の時間、原料液Bを液滴として噴霧し、即ち、原料液A及びBを同時に液滴として噴霧し、下層上に堆積させて、溶質A及びBを含む混合層を形成する。次に、二流体ノズル18aの噴霧を中止すると同時に、二流体ノズル18bの噴霧量を倍にして、所定の時間、原料液Bを液滴として噴霧し、混合層上に堆積させて、溶質Bを含む上層を形成する。各ノズルからの噴霧量は、シリンジポンプから各ノズルへの原料液の送液量を制御することで、調整することができる。各ノズルへの送液量の制御の一例を、図5に示す。
この様に、二流体ノズル18a及び18bの噴霧のON/OFF、及び噴霧量を時間で制御することで、原料液A及びBを用い、複数の二流体ノズルを備えた一つのチャンバーを有する製膜装置によって、本発明の方法を実施することができる。
【0040】
上記では、本発明の方法を、原料液A及びBを用いて実施する態様を説明したが、本発明の方法は、原料液A及びBとともに、溶質A及びBを含む混合原料液を利用して実施することもできる。
図2は、混合原料液を用いて本発明の方法を実施可能な、一つのチャンバーを備えた製膜装置の模式図である。図2中、各二流体ノズルの詳細な構造は、図1中の各二流体ノズルと同様なので省略した。図2に示す装置は、一つのチャンバー12’を備え、その内部に、3つの二流体ノズル18a、18b及び18cが配置されている。基板14は、ホルダ16によって支持されていて、チャンバー12’の開口部a’に位置合わせされた状態になっている。チャンバー12’には、3つの二流体ノズル18a、18b及び18cが配置され、二流体ノズル18aから所定の時間、原料液Aが液滴として噴霧され、基板14上に堆積し、溶質Aを含む下層が形成される(下層形成工程)。次に、二流体ノズル18aからの噴霧が中止されるとともに、二流体ノズル18bから所定の時間、混合原料液が液滴として噴霧され、下層の上に堆積して、溶質A及びBを含む混合層が形成される(混合層形成工程)。次に、二流体ノズル18bからの噴霧が中止されるとともに、二流体ノズル18cから所定の時間、原料液Bが液滴として噴霧され、混合層の上に堆積して、溶質Bを含む上層が形成される(上層形成工程)。この様に、二流体ノズル18a、18b及び18cの噴霧のON/OFFを時間で制御することで、複数の二流体ノズルを備えた一つのチャンバーを有する製膜装置によって、原料液A及びB、並びにその原料混合液をそれぞれ用いて、本発明の方法を実施することができる。
【0041】
また、本発明の薄膜の作製方法を実施可能な製膜装置の他の例は、チャンバーを複数備えた製膜装置である。この例の模式図を図3に示す。
図3の製膜装置は、それぞれ開口部a、b及びcを有する3つのチャンバー12a、12b及び12cを備え、並びに基板14を支持するホルダ16’を備える。ホルダ16’は基板を支持するとともに、水平方向に可動であり、基板14の被堆積面を、各チャンバーの開口部a、b、及びcのそれぞれに対して適する位置まで移動させ、その位置に固定して支持する機構を備えている。さらに、各チャンバー12a、12b及び12cは、各チャンバーの開口部a、b及びcから液滴を噴霧するための機構を備えていて、具体的には、二流体ノズル18a、18b及び18cを備え、シリンジポンプ20a、20b及び20cから供給される原料液と、ガスボンベ22a、22b及び22cからレギュレータ24a、24b、及び24cによって流量を制御されて供給されるガス(例えば、N2ガス)とが、二流体ノズル18a、18b、及び18cの内部でそれぞれ混合され、液滴として、チャンバー12a、12b及び12c内部にそれぞれ噴霧されるように構成されている。チャンバー12a、12b及び12cの内部は、例えば、その外側周囲に設けられたヒータや、その外側周囲の流路を熱水・熱風が通ることにより温度を制御可能に構成されている。ノズルから噴霧された液滴は、チャンバー12a、12b及び12cの内部で濃縮され、濃縮液滴が、開口部a、b、及びcから噴出し、ホルダ16’によって支持された基板14の被堆積面に堆積し、膜が形成される。
【0042】
本発明の一実施形態は、図3の製膜装置の、二流体ノズル18a、18b、及び18cのそれぞれから、原料液A、混合原料液、及び原料液Bがそれぞれ液滴として噴霧することで実施できる。より具体的には、基板14が、ホルダ16’により、チャンバー12aの開口部aに位置合わせされて支持された状態になると、二流体ノズル18aから原料液Aの液滴が所定の時間噴霧され、チャンバー12a内で加熱濃縮され、濃縮された液滴が開口部aを通過して、基板14上に堆積し、溶質Aを含む膜となる(下層形成工程)。所定の時間経過して所望の膜厚となると、ホルダ16によって支持された基板14は水平に移動し、チャンバー12bの開口部bに位置合わせされた状態になる。二流体ノズル18bから混合原料液の液滴が所定の時間噴霧され、チャンバー12b内で加熱濃縮され、濃縮された液滴が開口部bを通過して、基板14の下層上に堆積し、溶質A及びBを含む膜となる(混合層形成工程)。所定の時間経過し所望の膜厚となると、ホルダ16によって支持された基板14は水平に移動し、チャンバー12cの開口部cに位置合わせされた状態になる。二流体ノズル18cから原料液Bの液滴が所定の時間噴霧され、チャンバー12c内で加熱濃縮され、濃縮された液滴が開口部cを通過して、基板14の混合層上に堆積し、溶質Bを含む膜となる(上層形成工程)。この様にして、積層膜が形成される。溶質A及びBの混合割合が異なる混合原料液を複数準備し、これらを時間に応じてシリンジポンプ20bから二流体ノズル18bに供給すること等により、厚み方向に溶質Aに対する溶質Bの割合に勾配のある混合層を形成することもできる。
【0043】
図4は、本発明の方法を実施可能な他の製膜装置の模式図である。なお、図4中、各二流体ノズルの詳細な構造は、図3中の各二流体ノズルと同様なので省略した。図4に示す装置は、4つのチャンバー12a’、12b’、12c’、及び12d’を備え、下層形成工程は、チャンバー12a’により、混合層形成工程はチャンバー12b’及び12c’により、並びに上層形成工程はチャンバー12d’により実施される。各チャンバーには、3つのノズルが配置され、チャンバー12a’内の二流体ノズル18a1、18a2、及び18a3からは原料液Aが液滴として同時に所定の時間噴霧され、基板14上に堆積し、溶質Aを含む膜が形成され、チャンバー12d’内の二流体ノズル18d1、18d2、及び18d3からは原料液bが液滴として同時に所定の時間噴霧され、基板14上に堆積して、溶質Bを含む膜が形成される。その間に配置されているチャンバー12b’中に配置されている3つのノズルのうち、2つの二流体ノズル18b1及び18b2からは原料液Aが液滴として、二流体ノズル18b3からは原料液Bが液滴として、同時に噴霧され、基板上に堆積し、溶質Aの割合が高い膜が下層上に形成される。次のチャンバー12c’中に配置されている3つのノズルのうち、1つの二流体ノズル18c1からは原料液Aが液滴として、2つの二流体ノズル18b2及び18b3からは原料液Bが液滴として同時に噴霧され、基板上に堆積し、溶質Bの割合が高い膜がさらに形成され、混合層となる。この様にして、溶質Aに対する溶質Bの割合が、下層側から上層側に向かって厚み方向に増加している混合層を形成することができる。引き続き、チャンバー12d’により、その上に、溶質Bを含む上層が形成される。なお、この製膜装置では、基板14を支持するホルダ16’は、基板14を支持するとともに、水平方向に可動であり、基板14の被堆積面を、各チャンバーの開口部a、b、c及びdのそれぞれに対して適する位置まで移動させ、その位置に固定して支持する機構を備えている。
【0044】
但し、本発明の方法を実施可能な製膜装置の例は、図1〜図4に示す例に限定されるものではない。例えば、各チャンバー内のノズルの数は、4以上であってもよいし、またチャンバーの数も図1〜図4に示した例に限定されない。また、製膜装置は、基板に電位を与える電圧印加手段、チャンバー内部に噴霧方向に沿って不活性ガス等を送風する送風手段、チャンバー内部のガスを排出する排出口等を有していてもよい。
【0045】
本発明の作製方法は、蒸着のようなドライプロセスには適さない有機材料(有機分子を配位子として有する錯体も含む)の薄膜を形成するのに有用である。特に、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料等の有機電子デバイス用の材料は、難溶性の有機化合物が多いので、それらの材料の薄膜を形成するのに有用である。また、本発明の方法は、高い表面平滑性が求められる、有機電子デバイスの有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層の作製において、特に有用である。
例えば、本発明の方法を、有機ELの発光層の形成に利用する態様では、原料の溶質には、発光材料およびホスト材料用の有機化合物が用いられる。以下、有機EL素子の発光層用の材料を例に挙げて、原料液の溶質として利用可能な種々の化合物について説明する。
【0046】
(i) 発光材料
有機EL用の発光材料としては、蛍光発光材料及び燐光発光材料が知られている。本発明の作製方法では、いずれの発光材料も溶質として用いることができる。
(a) 燐光発光材料
燐光発光材料としては、一般に、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む金属錯体を挙げることができる。
遷移金属原子としては、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金であり、更に好ましくはイリジウム、白金である。
ランタノイド原子としては、例えばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0047】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry,Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、芳香族炭素環配位子(例えば、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、またはナフチルアニオンなど)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、またはフェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、アルコラト配位子(例えば、フェノラト配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。
上記金属錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。
異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0048】
これらの中でも、発光材料の具体例としては、例えば、US6303238B1、US6097147、WO00/57676、WO00/70655、WO01/08230、WO01/39234A2、WO01/41512A1、WO02/02714A2、WO02/15645A1、WO02/44189A1、特開2001−247859、特開2002−302671、特開2002−117978、特開2002−225352、特開2002−235076、特開2003−123982、特開2002−170684、EP 1211257、特開2002−226495、特開2002−234894、特開2001−247859、特開2001−298470、特開2002−173674、特開2002−203678、特開2002−203679、特開2004−357791、特開2006−256999等の特許文献に記載の燐光発光化合物などが挙げられる。
【0049】
(b)蛍光発光材料
蛍光性の発光性ドーパントとしては、一般には、ベンゾオキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、スチリルベンゼン、ポリフェニル、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、ナフタルイミド、クマリン、ピラン、ペリノン、オキサジアゾール、アルダジン、ピラリジン、シクロペンタジエン、ビススチリルアントラセン、キナクリドン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、シクロペンタジエン、スチリルアミン、芳香族ジメチリディン化合物、縮合多環芳香族化合物(アントラセン、フェナントロリン、ピレン、ペリレン、ルブレン、又はペンタセンなど)、8−キノリノールの金属錯体、ピロメテン錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン、およびこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0050】
(ii) ホスト材料
有機EL素子の発光層のホスト材料としては、正孔輸送性ホスト材料及び電子輸送性ホスト材料が知られている。本発明の作製方法では、いずれのホスト材料も溶質として用いることができる。
(a)電子輸送性ホスト材料
電子輸送性ホスト材料としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが2.5eV以上3.5eV以下であることが好ましく、2.6eV以上3.4eV以下であることがより好ましく、2.8eV以上3.3eV以下であることが更に好ましい。
また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.7eV以上7.5eV以下であることが好ましく、5.8eV以上7.0eV以下であることがより好ましく、5.9eV以上6.5eV以下であることが更に好ましい。
このような電子輸送性ホストとしては、具体的には、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、およびそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
【0051】
電子輸送性ホストとして好ましくは、金属錯体、アゾール誘導体(ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾピリジン誘導体等)、アジン誘導体(ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体等)であり、中でも、耐久性の点から金属錯体化合物が好ましい。
金属錯体化合物は金属に配位する少なくとも1つの窒素原子または酸素原子または硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体がより好ましい。
金属錯体中の金属イオンは特に限定されないが、好ましくはベリリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、インジウムイオン、錫イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、より好ましくはベリリウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、更に好ましくはアルミニウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンである。
【0052】
前記金属錯体中に含まれる配位子としては種々の公知の配位子が有るが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」、Springer−Verlag社、H.Yersin著、1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」、裳華房社、山本明夫著、1982年発行等に記載の配位子が挙げられる。
前記配位子として、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数3〜15であり、単座配位子であっても2座以上の配位子であっても良い。
好ましくは2座以上6座以下の配位子である。
また、2座以上6座以下の配位子と単座の混合配位子も好ましい。
【0053】
配位子としては、例えばアジン配位子(例えば、ピリジン配位子、ビピリジル配位子、ターピリジン配位子などが挙げられる)、ヒドロキシフェニルアゾール配位子(例えば、ヒドロキシフェニルベンズイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾピリジン配位子などが挙げられる。)、アルコキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、2,4,6−トリメチルフェニルオキシ、4−ビフェニルオキシなどが挙げられる。)、
【0054】
ヘテロアリールオキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、およびキノリルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロアリールチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、および2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、シロキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数3〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えば、トリフェニルシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、およびトリイソプロピルシロキシ基などが挙げられる。)、芳香族炭化水素アニオン配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニルアニオン、ナフチルアニオン、およびアントラニルアニオンなどが挙げられる。)、芳香族ヘテロ環アニオン配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜25、特に好ましくは炭素数2〜20であり、例えばピロールアニオン、ピラゾールアニオン、ピラゾールアニオン、トリアゾールアニオン、オキサゾールアニオン、ベンゾオキサゾールアニオン、チアゾールアニオン、ベンゾチアゾールアニオン、チオフェンアニオン、およびベンゾチオフェンアニオンなどが挙げられる。)、インドレニンアニオン配位子などが挙げられ、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、ヘテロアリールオキシ基、またはシロキシ配位子であり、更に好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、シロキシ配位子、芳香族炭化水素アニオン配位子、または芳香族ヘテロ環アニオン配位子である。
【0055】
金属錯体電子輸送性ホスト材料の例としては、例えば特開2002−235076、特開2004−214179、特開2004−221062、特開2004−221065、特開2004−221068、特開2004−327313等に記載の化合物が挙げられる。
【0056】
前記電子輸送性ホスト材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
【化1】

【0058】
【化2】

【0059】
【化3】

【0060】
電子輸送層ホスト材料としては、E−1〜E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、またはE−22が好ましく、E−3、E−4、E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、またはE−22がより好ましく、E−3、E−4、E−8、E−9、E−21、またはE−22が更に好ましい。
【0061】
(b) 正孔輸送性ホスト材料
正孔輸送性ホスト材料としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.1eV以上6.4eV以下であることが好ましく、5.4eV以上6.2eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上6.0eV以下であることが更に好ましい。
また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが1.2eV以上3.1eV以下であることが好ましく、1.4eV以上3.0eV以下であることがより好ましく、1.8eV以上2.8eV以下であることが更に好ましい。
【0062】
このような正孔輸送性ホスト材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマチオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
中でも、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、アザインドール誘導体、アザカルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、特に分子内にインドール骨格、カルバゾール骨格、アザインドール骨格、アザカルバゾール骨格および/または芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが好ましい。
【0063】
前記正孔輸送性ホスト材料としての具体的化合物としては、例えば下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
【化4】

【0065】
【化5】

【0066】
【化6】

【0067】
【化7】

【0068】
本発明の薄膜の作製方法は、有機EL素子等の有機電子デバイスの作製に利用可能である。以下、本発明の方法により作製可能な有機EL素子の一例の構成について、詳細に説明する(以下、本発明の有機EL素子と表現する)。
本発明の有機EL素子は基板上に陰極と陽極を有し、両電極の間に発光層を含む複数の有機化合物層を有する。更に発光層の両側には有機化合物層が隣接して構成される。
発光層に隣接している有機化合物層と電極の間には、更に有機化合物層を有していてもよい。
発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
通常の場合、陽極が透明である。
本発明における有機化合物層の積層の態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。
更に、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。
本発明の有機電界発光素子における有機化合物層の好適な態様は、陽極側から順に、少なくとも、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、及び電子注入層、を有する態様である。
尚、発光層と電子輸送層との間に正孔ブロック層を有した場合には、発光層と隣接する有機化合物層は、陽極側が正孔輸送層になり、陰極側が正孔ブロック層となる。
また、陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。
尚、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0069】
<基板>
有機EL素子の基板としては、発光層から発せられる光を散乱又は減衰させない基板であることが好ましい。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料が挙げられる。
例えば、基板としてガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。
また、ソーダライムガラスを用いる場合には、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。
有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0070】
一般的には、基板の形状としては、板状であることが好ましい。
基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。
基板は、無色透明であっても、有色透明であってもよいが、有機発光層から発せられる光を散乱又は減衰等させることがない点で、無色透明であることが好ましい。
基板には、その表面又は裏面に透湿防止層(ガスバリア層)を設けることができる。
透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、窒化珪素、酸化珪素などの無機物が好適に用いられる。透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば、高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
熱可塑性基板を用いる場合には、更に必要に応じて、ハードコート層、アンダーコート層などを設けてもよい。
【0071】
<陽極>
陽極は、通常、有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
陽極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
陽極材料の具体例としては、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。
この中で好ましいのは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが好ましい。
陽極は、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、陽極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って、前記基板上に形成することができる。
例えば、陽極の材料として、ITOを選択する場合には、陽極の形成は、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って行うことができる。
本発明の有機電界発光素子において、陽極の形成位置としては特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができる。
この場合、陽極は、基板における一方の表面の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
なお、陽極を形成する際のパターニングとしては、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0072】
陽極の厚みとしては、陽極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常、10nm〜50μm程度であり、50nm〜20μmが好ましい。
陽極の抵抗値としては、103Ω/□以下が好ましく、102Ω/□以下がより好ましい。
陽極が透明である場合は、無色透明であっても、有色透明であってもよい。
透明陽極側から発光を取り出すためには、その透過率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
なお、透明陽極については、沢田豊監修「透明電極膜の新展開」シーエムシー刊(1999)に詳述があり、ここに記載される事項を本発明に適用することができる。
耐熱性の低いプラスティック基材を用いる場合は、ITO又はIZOを使用し、150℃以下の低温で成膜した透明陽極が好ましい。
【0073】
<陰極>
陰極は、通常、有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
陰極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。
具体例としてはアルカリ金属(たとえば、Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、およびイッテルビウム等の希土類金属などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
これらの中でも、陰極を構成する材料としては、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
なお、陰極の材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報に詳述されており、これらの公報に記載の材料は、本発明においても適用することができる。
陰極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、前記した陰極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って形成することができる。
例えば、陰極の材料として、金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法等に従って行うことができる。
陰極を形成するに際してのパターニングは、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
本発明において、陰極形成位置は特に制限はなく、有機化合物層上の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
また、陰極と前記有機化合物層との間に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、酸化物等による誘電体層を0.1nm〜5nmの厚みで挿入してもよい。
この誘電体層は、一種の電子注入層と見ることもできる。
誘電体層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
陰極の厚みは、陰極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μm程度であり、50nm〜1μmが好ましい。
また、陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。
なお、透明な陰極は、陰極の材料を1nm〜10nmの厚さに薄く成膜し、更にITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0074】
<有機化合物層>
本発明における有機化合物層について説明する。
本発明の有機EL素子は、発光層を含む少なくとも一層の有機化合物層を有しており、発光層以外の他の有機化合物層としては、正孔輸送層、電子輸送層、電荷ブロック層、正孔注入層、電子注入層等の各層が挙げられる。これらの有機化合物層のうち、一以上の層が、本発明の作製方法より作製される。
【0075】
−有機化合物層の形成−
本発明の有機電界発光素子において、有機化合物層を構成する各層は、本発明に示す装置以外にも、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式等いずれによっても好適に形成することができる。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
【0076】
−正孔注入層、正孔輸送層−
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
本発明の正孔注入層、正孔輸送層に使用できる材料としては、特に限定はなく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
具体的には、ピロール誘導体、カルバゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン誘導体、有機シラン誘導体、カーボン、フェニルアゾール、フェニルアジンを配位子に有する金属錯体、等を含有する層であることが好ましい。
【0077】
本発明の有機EL素子の正孔注入層あるいは正孔輸送層には、電子受容性ドーパントを含有させることができる。
正孔注入層、あるいは正孔輸送層に導入する電子受容性ドーパントとしては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、無機化合物でも有機化合物でも使用できる。
具体的には、無機化合物は塩化第二鉄や塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモンなどのハロゲン化金属、五酸化バナジウム、および三酸化モリブデンなどの金属酸化物などが挙げられる。
有機化合物の場合は、置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基などを有する化合物、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどを好適に用いることができる。
この他にも、特開平6−212153、特開平11−111463、特開平11−251067、特開2000−196140、特開2000−286054、特開2000−315580、特開2001−102175、特開2001−160493、特開2002−252085、特開2002−56985、特開2003−157981、特開2003−217862、特開2003−229278、特開2004−342614、特開2005−72012、特開2005−166637、特開2005−209643等に記載の化合物を好適に用いることが出来る。
これらの電子受容性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子受容性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、正孔輸送層材料に対して0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.05質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0078】
正孔注入層、正孔輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
正孔輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜300nmであるのがより好ましく、10nm〜200nmであるのが更に好ましい。
また、正孔注入層の厚さとしては、0.1nm〜500nmであるのが好ましく、0.5nm〜300nmであるのがより好ましく、1nm〜200nmであるのが更に好ましい。
正孔注入層、正孔輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0079】
−電子注入層、電子輸送層−
電子注入層、電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
電子注入層、電子輸送層に使用できる材料として特に限定は無く、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
具体的には、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、フタラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、シロールに代表される有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0080】
本発明の有機EL素子の電子注入層あるいは電子輸送層には、電子供与性ドーパントを含有させることができる。
電子注入層、あるいは電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントとしては、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していればよく、Liなどのアルカリ金属、Mgなどのアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属や還元性有機化合物などが好適に用いられる。
金属としては、特に仕事関数が4.2eV以下の金属が好適に使用でき、具体的には、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、およびYbなどが挙げられる。
また、還元性有機化合物としては、例えば、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物などが挙げられる。
この他にも、特開平6−212153、特開2000−196140、特開2003−68468、特開2003−229278、特開2004−342614等に記載の材料を用いることが出来る。
これらの電子供与性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子供与性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料に対して0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.1質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0081】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
電子輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
また、電子注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.2nm〜100nmであるのがより好ましく、0.5nm〜50nmであるのが更に好ましい。
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0082】
−ホールブロック層−
ホールブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として、ホールブロック層を設けることができる。
ホールブロック層を構成する化合物の例としては、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
ホールブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
ホールブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0083】
−電子ブロック層−
電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が、陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
発光層と陽極側で隣接する有機化合物層として、電子ブロック層を設けることができる。
電子ブロック層を構成する化合物の例としては、例えば前述の正孔輸送材料として挙げたものが適用できる。
電子ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
ホールブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0084】
<保護層>
本発明において、有機EL素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。
その具体例としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属、MgO、SiO、SiO2、Al23、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe23、Y23、TiO2等の金属酸化物、SiNx、SiNxy等の金属窒化物、MgF2、LiF、AlF3、CaF2等の金属フッ化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質等が挙げられる。
【0085】
保護層の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法を適用できる。また、保護層は、本発明の作製方法により形成してもよい。
【0086】
<封止>
さらに、本発明の有機電界発光素子は、封止容器を用いて素子全体を封止してもよい。
また、封止容器と発光素子の間の空間に水分吸収剤又は不活性液体を封入してもよい。
水分吸収剤としては、特に限定されることはないが、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、および酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0087】
不活性液体としては、特に限定されることはないが、例えば、パラフィン類、流動パラフィン類、パーフルオロアルカンやパーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、塩素系溶剤、およびシリコーンオイル類が挙げられる。
【0088】
<駆動>
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
本発明の発光素子は、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。
例えば、基板表面形状を加工する(例えば微細な凹凸パターンを形成する)、基板・ITO層・有機層の屈折率を制御する、基板・ITO層・有機層の膜厚を制御すること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
本発明の発光素子は、陽極側から発光を取り出す、いわゆる、トップエミッション方式であってもよい。
【0089】
上記では、有機電界発光素子の構成について説明したが、本発明の方法は、有機太陽電池、有機電界効果型トランジスタ等の他の有機電子デバイスの薄膜の作製にも、勿論利用することができる。また、反射板、偏光板等の種々の光学部材用の薄膜の作製方法としても利用することができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0091】
図1〜4のいずれかに示す成膜装置と同様の構成の装置を用いて、2流体ノズルで原料液を液滴化し、液滴をチャンバー内で濃縮させ、濃縮液滴を基板上に堆積することで成膜を行った。
基板として、ITOガラス(Aldrich製、30〜60Ω/□)を使用し、中性洗剤・純水でそれぞれ5分間ほど超音波洗浄を行った後、窒素ブロアーで基板に付着した水分を除去し、さらに加熱して乾燥した。
【0092】
次に、このガラス基板を図1〜4に示した装置の基板ホルダ(図中16又は16’)にセットする。チャンバー内に流れる水を所定の温度に設定し、かつ基板ホルダに流れる水の温度を50℃に設定する。チャンバーの開口部は10mmに設定し、開口部から基板までの距離を10mmに設定する。
噴霧する原料液として、下記表に示す原料液1〜3を調製した。溶質として、正孔輸送材である、下記に示すPTPDES−2、及び発光材料である、下記に示すPoly[2−methoxy−5− (2−ethylhexyloxy)−1,4−phenylenevinylene](MEH−PPV)を使用した。溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用した。
【0093】
【表1】

【0094】
【化8】

【0095】
【化9】

【0096】
2流体ノズルから、原料液・及び窒素ガスを流入し、平均液滴径(SMD)が3μmになるように送液量を1mL/min.、エア流量を10L/min.に設定した。なお、2流体ノズルとしてAtomax社製AM−6を使用し、送液量はHarvard社製シリンジポンプ、エア流量はAtomax社製レギュレータを使用した。チャンバー内の溶剤ガス濃度は防爆の観点から20%LEL以下になるよう、吸排気のバランスを設定した。
【0097】
実施例1:
実施例1では、図3と同様の構成の製膜装置を用いた。
まず、チャンバー12aの開口部aの下部に基板を固定して、チャンバー12a内の二流体ノズル18aから原料液1を、4分間噴霧して、基板上に下層を形成し、次に、基板をチャンバー12bの開口部bまで移動させ、二流体ノズル18bから原料液3を4分間噴霧して、下層の上に混合層を形成し、最後に、基板をチャンバー12cの開口部cまで移動させ、チャンバー12c内の二流体ノズル18cから原料液2を噴霧して、混合層の上に上層を形成し、積層膜を作製した。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0098】
実施例2:
実施例2では、図2と同様の構成の製膜装置を用いた。
まず、チャンバー12’内の二流体ノズル18aから原料液1を、4分間噴霧して、下層を形成し、次に、二流体ノズル18bから原料液3を4分間噴霧して、混合層を形成し、最後に、二流体ノズル18cから原料液2を噴霧して、上層を形成し、積層膜を作製した。この間、基板は移動させなかった。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0099】
実施例3:
実施例3では、図4と同様の構成の製膜装置を用いた。
まず、チャンバー12a’の開口部の下部に基板を固定して、チャンバー12a’内の3つの二流体ノズル18a1、18a2及び18a3から原料液1を同時に3分間噴霧して、基板上に下層を形成した。次に、チャンバー12b’の開口部の下部まで基板を移動させて、チャンバー12b’内の2つの二流体ノズル18b1及び18b2から原料液1を、並びに残りの二流体ノズル18b3から原料液2を同時に3分間噴霧した。その後、基板を、チャンバー12c’の開口部の下部まで移動させて、チャンバー12c’内の1つの二流体ノズル18c1から原料液1を、並びに2つの二流体ノズル18c2及び18c3から原料液2を同時に3分間噴霧した。この様にして、下層上に混合層を形成した。最後に、基板を、チャンバー12d’の開口部の下部に移動させ、チャンバー12d”の3つの二流体ノズル18d1、18d2及び18d3から原料液2を同時に3分間噴霧して、混合層上に上層を形成した。この様にして、積層膜を作製した。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0100】
実施例4:
実施例4では、図1に示すチャンバー12のみを有する製膜装置を用い、各ノズルへの原料液の送液量を、図5と同様にして制御して、積層膜を作製した。
具体的には、まず、チャンバー12の開口部の下部に基板を固定して、チャンバー12内の二流体ノズル18aに原料液1を送液量1ml/minで送液しつつ、4分間噴霧した。次に、二流体ノズル18aへの原料液1の送液量を0.5mL/minまで減少させるとともに、二流体ノズル18bに原料液2を送液量0.5mL/minで送液して、同時に4分間噴霧した。最後に、二流体ノズル18aへの送液は中止し、二流体ノズル18bへの原料液2の送液量を1.0mL/minまで増加させて、4分間噴霧した。
【0101】
比較例1:
実施例1と同様にして、但し、原料液1の噴霧時間を6分間に変更して、下層を形成した。次に、基板を、チャンバー12cの開口部cの下部まで移動させて、チャンバー12c内の二流体ノズル18cから原料液2を6分間噴霧させて、下層上に上層を形成し、積層膜を作製した。即ち、混合層を形成しなかった。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0102】
比較例2:
実施例4と同様にして、但し、各ノズルへの原料液の送液量を、以下の様に変更して、積層膜を作製した。
具体的には、まず、チャンバー12の開口部の下部に基板を固定して、チャンバー12内の二流体ノズル18aに原料液1を送液量1ml/minで送液しつつ、6分間噴霧して、下層を形成した。次に、二流体ノズル18aへの原料液1の送液を中止するとともに、二流体ノズル18bに原料液2を送液量1.0mL/minで送液して、6分間噴霧して、下層上に上層を形成し、積層膜を作製した。即ち、混合層を形成しなかった。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0103】
比較例3:
実施例3と同様にして、但し、チャンバー12a’内のノズル18a1、18a2及び18a3から原料液1を同時に6分間噴霧して、下層を形成した。次に、基板を、チャンバー12d’の開口部dの下部まで移動させて、チャンバー12d’内の二流体ノズル18d1、18d2及び18d3から原料液2を6分間噴霧させて、下層上に上層を形成し、積層膜を作製した。即ち、混合層を形成しなかった。形成された膜の厚みは約0.1μmであった。
【0104】
上記で作製した各有機積層膜について外部量子効率を測定した。外部量子効率は、作製したそれぞれの膜に、LiF及びAlを蒸着製膜し、電界をかけて発光させたときの強度から算出した。結果を下記表に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
上記結果から、本発明の方法により作製された有機積層膜は、下層及び上層の間に、双方の成分を含む混合層が形成されているので、下層及び上層間の界面によるエネルギー障壁の影響が緩和されていて、その結果、量子効率が改善されていることが理解できる。特に実施例3では、溶質の割合が膜厚方向に勾配している混合層が形成されているので、量子効率がより改善された積層膜が作製されていることが理解できる。
【符号の説明】
【0107】
12、12a、12a’、12b、12b’、12c、12c’、12d’ チャンバー
14 基板
16、16’ 基板ホルダ
18a、18a1、18a2、18a3、18b、18b1、18b2、18b3、18c、18c1、18c2、18c3、18d1、18d2、18d3 二流体ノズル
20a、20b、20c シリンジポンプ
22a、22b、22c ガスボンベ
24a、24b、24c レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)
(1) 溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
(2) 液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
(3) 濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させて薄膜を形成すること、
を順次行って溶質Aを含む下層を形成する下層形成工程;
上記(1)〜(3)を順次行って、前記下層の上に、溶質Bを含む上層を形成する上層形成工程;並びに
前記下層形成工程及び前記上層形成工程の間に、上記(1)〜(3)を順次行って、溶質A及びBを含む混合層を形成する混合層形成工程;
を含むことを特徴とする薄膜の作製方法。
【請求項2】
前記混合層形成工程において、溶質Aに対する溶質Bの割合が厚み方向に変化した混合層を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合層形成工程において、溶質A及びBを含む混合原料液を噴霧することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合層形成工程において、前記混合原料液中の溶質A及び溶質Bの割合を時間に応じて変化させることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合層形成工程において、原料液をそれぞれ噴霧するノズルを複数有し、ノズルごとに溶質Aに対する溶質Bの割合を変化させた原料液を供給し、順次噴霧することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記混合層形成工程において、溶質Aを含み溶質Bを含まない原料液A、及び溶質Bを含み溶質Aを含まない原料液Bを、同時に噴霧することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記混合層形成工程において、原料液A及び原料液Bの噴霧量をそれぞれ、時間に応じて変化させることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合層形成工程において、原料液A及び原料液Bをそれぞれ1以上のノズルから同時に噴霧させ、時間に応じて、原料液A及びBをそれぞれ噴霧するノズルの数を変化させることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合層形成工程を繰り返し実施して、膜厚方向に溶質Aに対する溶質Bの割合が変化した領域を形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の薄膜の作製方法。
【請求項10】
溶質A及び/又は溶質Bがそれぞれ、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
下層形成工程及び/又は上層形成工程がそれぞれ、有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層のいずれかを形成する工程であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法に用いられる有機薄膜の作製装置であって、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する、複数のノズルを備えた液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、及び
基板を固定する基板ホルダ
を備えた薄膜の作製装置。
【請求項13】
前記基板ホルダに接続して設けられた基板を加熱する基板加熱手段をさらに備えた請求項12に記載の装置。
【請求項14】
開口部を有するチャンバーを2つ以上有し、各チャンバーに、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、及び
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、
を備えた請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
基板ホルダに接続して設けられた、基板を搬送可能に支持し、その被堆積面を各チャンバーの開口部に位置合わせする搬送手段を備えた請求項14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224503(P2011−224503A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98625(P2010−98625)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】