説明

薄膜太陽電池およびその製造方法

【課題】光閉じ込めに極めて有効な凹凸形状を形成した透明導電膜を用いた薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】基板上に、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層、またはp型半導体層およびn型半導体層、からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層が形成され、かつ該セル層の基板側の片面に電極層、該セル層の基板と反対側の片面に対向電極層が形成されてなる薄膜太陽電池であって、凹凸形状を有する基板上に該電極層が形成され、該基板の凹凸形状は、凹部の縦断面が深さ500〜2000nm、隣り合う頂点間の距離が2〜5μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が10〜30度であり、該電極層は透明導電膜であることを特徴とする薄膜太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、高ヘイズの透明導電膜を用いた薄膜太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池は、基板上に薄膜シリコンなどの光電変換層を透明導電膜上に積層して構成されるのが一般的である。そこでは、太陽光のエネルギーを有効に利用するために、光電変換効率を向上することが重要な課題である。そのため、透明導電膜の表面に凹凸を形成して光閉じこめ効果を得、光反射率の低減、光散乱効果により、薄膜太陽電池の光変換効率を向上させることが用いられている。
【0003】
本発明者も透明導電膜の表面に種々の形状の凹凸を形成させることを検討し、コーニング社製の#7059ガラス基板上にZnO膜を形成する前に、CF4ガスを用いたRIE(反応性イオンエッチング:Reactive Ion Etching)処理でガラス基板表面を処理することによってRMS(平均二乗偏差)が70nm程度の高ヘイズZnO膜を形成することができた(非特許文献1)。そして、この高ヘイズZnO膜を太陽電池に用いることによって、従来の高ヘイズのものより高い効率が得られた。しかしながら、さらに安価な基板材料を用い、さらに高ヘイズの透明導電膜を用い、望ましくはさらに安価な基板材料を用いた薄膜太陽電池が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Hongsingthong, T. Krajangsang, I. A. Yunaz, S. Miyajima, and M. Konagai, Appl. Phys. Express 3(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光閉じ込めに極めて有効な凹凸形状を形成した透明導電膜を用いた薄膜太陽電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
(1)基板上に、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層、またはp型半導体層およびn型半導体層、からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層が形成され、かつ該セル層の基板側の片面に電極層、該セル層の基板と反対側の片面に対向電極層が形成されてなる薄膜太陽電池であって、凹凸形状を有する基板上に該電極層が形成され、該基板の凹凸形状は、凹部の縦断面が深さ500〜2000 nm、隣り合う頂点間の距離が2〜5μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が10〜30度であり、該電極層は透明導電膜であることを特徴とする薄膜太陽電池。
(2)基板の凹凸形状の凹部が曲面形状であり、その曲率半径が2μm以上である 上記(1)に記載の薄膜太陽電池。
(3)透明導電膜が酸化亜鉛、酸化スズ、または酸化インジウムを含む膜である上記(1)または(2)に記載の薄膜太陽電池。
(4)透明導電膜が、基板の凹部に、透明導電膜の凸部を有する凹凸形状を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(5)凹凸形状が、凹部の縦断面が深さ400〜1600nm、隣り合う頂点間の距離が1.5〜4μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が9〜27度である上記(4)に記載の薄膜太陽電池。
(6)透明導電膜のRMS(平均二乗偏差)が100nm以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(7)透明導電膜のRMS(平均二乗偏差)が150〜300nmである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(8)透明導電膜の厚さが500〜3000nmである上記(1)〜(7)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(9)基板がガラス基板である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(10)ガラス基板がソーダ石灰ガラス基板である上記(9)に記載の薄膜太陽電池。
(11)半導体がシリコン、化合物半導体および有機半導体から選ばれる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
(12)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の薄膜太陽電池の製造において、基板表面を反応性イオンエッチング処理して凹凸形状を形成させることを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
(13)ハロゲン含有エッチャントを用いて、1Pa以上のガス圧力下に反応性イオンエッチング処理する上記(12)に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
(14)ガス圧力が5〜100Paである上記(13)に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光閉じ込めに極めて有効な凹凸形状を形成した透明導電膜を用いた薄膜太陽電池を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の凹凸形状を有する基板を模式的に示す縦断面図。
【図2】本発明の凹凸形状を有する基板の凹部(曲面形状)を示すAFM(原子間力顕微鏡)観察写真。
【図3】本発明の凹凸形状を有する基板の一例を示す図。
【図4】本発明の凹凸形状を有する基板上に形成された透明導電膜の凹凸形状の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の薄膜太陽電池は、基板上に、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層、またはp型半導体層およびn型半導体層、からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層が形成され、かつセル層の基板側の片面に電極層、セル層の基板と反対側の片面に対向電極層が形成されてなる。凹凸形状を有する基板上に電極層が形成され、その基板の凹凸形状は、図1に模式的に示すような凹部の縦断面が深さ(d)500〜2000nm、隣り合う頂点間の距離(λ)2〜5μm、かつ凹部の谷部(最も底部)における水平方向における傾斜角度(θ)が10〜30度である。これらの数値は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した値の算術平均値を表す(λはdおよびθの値を用いて算出され得る)。たとえば、深さ(d)は、任意の箇所の凹部での最大の深さ(最も底部の深さ)の平均値を示す。好ましくは、深さdが1000〜1500nm、距離λが3〜4μm、かつ傾斜角度θが15〜27度である。
【0010】
さらに、好適には、基板の凹凸形状の凹部は図2(AFM観察写真)に示されるように曲面形状であって、すり鉢様のボウル状であり、その曲率半径が2μm以上、好ましくは3μm以上である。これにより、凹部の谷部(底面部分)がV字形であると、そこに欠陥が発生して短絡等の原因となりやすいのを防止し得る。
【0011】
基板は、例えば、ガラス基板、ガラス以外の無機材料基板、プラスチック基板等の少なくとも可視光波長領域において透過性を有する材料を適用することができる。ガラス基板としては、ガラス基板としてはソーダ石灰ガラス基板、アミノシリケートガラス基板、硼ケイ酸塩ガラス基板、等が好適であるが、凹凸形状の加工性およびコストの点からソーダ石灰ガラス基板が好適である。
【0012】
本発明の薄膜太陽電池の製造においては、好ましくは基板表面を反応性イオンエッチング処理して上記の凹凸形状を形成させ得る。
【0013】
更に好ましくは、ハロゲン含有エッチャントを用いて、1Pa以上、望ましくは5〜100Pa、のガス圧力下に反応性イオンエッチング処理する。ハロゲン含有エッチャントとしては、CF4、CHF3、C24、SF4等が挙げられる。
【0014】
透明導電膜が、図3(1は基板)に示すような凹凸形状を有する基板上に電極層として形成され、透明導電膜は酸化亜鉛、酸化スズまたは酸化インジウムを含む膜であるのが好適であり、酸化亜鉛(ZnO)は、透光性が高く、抵抗率が低いので特に好適である。透明導電膜は、例えば、MOCVD法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0015】
本発明において得られる透明導電膜は、たとえば図4に示すように(1は基板、2は透明導電膜)、基板の凹部に、透明導電膜の凸部を有する凹凸形状を有する。好適には、その凹凸形状は、凹部の縦断面が深さ400〜1600nm、隣り合う頂点間の距離が1.5〜4μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が9〜27度である。
【0016】
透明導電膜の表面粗さRMS(平均二乗偏差)(10μm×10μmの範囲でAFM(原子間力顕微鏡)により測定し、平均高さからの差異を二乗平均した)は、100nm以上、好ましくは150〜300nmである。
【0017】
透明導電膜の厚さは500〜3000nmであるのが好適である。
【0018】
本発明の薄膜太陽電池は、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層、またはp型半導体層およびn型半導体層、からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層を有するが、半導体はシリコン、化合物半導体および有機半導体から選ばれる。シリコン半導体としては結晶質、アモルファス、化合物半導体としてはInGa、InGaAs、カルコパイライト系等、ならびに有機半導体としては有機色素系、導電性ポリマー系等が使用され得る。たとえば半導体としてシリコンを用いる場合、透明導電膜上に、p型層、i型層およびn型層のシリコン系薄膜を順に積層して単位セルを形成する。シリコンとしては結晶質、アモルファスが使用され得る。たとえば透明導電膜上に、p型層、i型層およびn型層のシリコン系薄膜、またはp型半導体層およびn型半導体層、を順に積層して単位セルを形成する。単位セルは、シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、ジクロルシラン(SiH2Cl2)等のシリコン含有ガス(Si源)、メタン(CH4)等の炭素含有ガス(炭素源)、炭酸ガス(CO2)等の酸素含有ガス(酸素源)、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、亜酸化窒素(N2O)等の窒素含有ガス(窒素源)、ジボラン(B26)等のp型ドーパントガス、フォスフィン(PH3)等のn型ドーパントガス、ならびに水素(H2)等の希釈ガスを混合した混合ガスを用いてMOCVD法等の常法により形成することができる。
【0019】
本発明のシリコン太陽電池において、上記の単位セルを少なくとも1個有するセル層を形成した後、セル層の最後のn層上に対向電極層が形成される。対向電極層としては、各種の公知の金属酸化物、金属などの電極材料を用いることができるが、反射率の高い金属を用いることにより、単位セル内に光を閉じこめることができるので好適である。たとえば金属としては、銀、アルミニウム、ニッケル、クロム等を用いることができ、蒸着法、スパッタリング法等により形成され得る。
【実施例】
【0020】
実施例1
まず、厚さが1.4mmソーダ石灰ガラス基板をアセトン及びエタノール溶液でそれぞれ10分間洗浄した。ついで、基板を乾燥させ、CF4ガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)処理装置で表面処理した。RIE処理装置は、平行型電極タイプであり、13.56MHzの高周波を使用した。基板を平面電極上置き、反応管を閉め、反応管内を真空にした。ついで、CF4ガスを流して反応管内の圧力を10Pa以上に保持した。その後、1.5mW/cm2という高周波パワー密度を電極に投入し、基板表面を40分間で凹凸化した。高周波及びガスを止め、反応管を真空にした。その後、窒素ガスを投入して、反応管を開き、処理されたガラス基板を取り出した。得られた基板の凹凸形状は次のような特性を有していた。
【0021】
深さd:1260nm、距離λ:3.156μm、傾斜角度θ:24.52度、横方向構造大きさ:4500nm、RMS:360nm、曲率半径:3.156μm
もう一度基板を前記通り洗浄し、乾燥した後に透明電導膜であるZnO膜をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法で形成した。155℃に加熱された基板ホルダ上にガラス基板を置き、MOCVD装置の反応管を閉め、反応管内を真空にした。アルゴンガスを流して反応管内の圧力を3Torrにして10分間保持した。その後、アルゴンガスをH2O及びジエチル亜鉛(DEZ)を入れたバブラーに流し、H2O、DEZ及びジボランガス(B2H6)を反応管内に流した。使用したH2O、DEZおよびB2H6流量は、281μmol/min、100μmol/min及び0.26μmol/minであった。なお、H2O及びDEZを入れたバブラーの保持温度は、それぞれ20℃及び40℃であった。35分間成膜した後に、両方のアルゴンガスを止め、反応管を真空にした。その後、窒素ガスを投入して、反応管を開き、ZnO膜が成膜されたガラス基板を取り出した。成膜されたZnO膜の厚さは、約1800nmであった。得られたZnO膜の凹凸形状は次のような特性を有していた。
【0022】
深さd:1030nm、距離λ:2.660μm、傾斜角度θ:22.09度、横方向構造大きさ:5000nm、RMS:270nm、曲率半径:2.66μm
すなわち、RMS270nmという、超高ヘイズ透明電導膜ZnO膜がコスト的に有利に形成された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、光閉じ込めに極めて有効な凹凸形状を形成した透明導電膜を用いた薄膜太陽電池を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層、またはp型半導体層およびn型半導体層、からなる単位セルを少なくとも1個有するセル層が形成され、かつ該セル層の基板側の片面に電極層、該セル層の基板と反対側の片面に対向電極層が形成されてなる薄膜太陽電池であって、凹凸形状を有する基板上に該電極層が形成され、該基板の凹凸形状は、凹部の縦断面が深さ500〜2000nm、隣り合う頂点間の距離が2〜5μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が10〜30度であり、該電極層は透明導電膜であることを特徴とする薄膜太陽電池。
【請求項2】
基板の凹凸形状の凹部が曲面形状であり、その曲率半径が2μm以上である請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
透明導電膜が酸化亜鉛、酸化スズ、または酸化インジウムを含む膜である請求項1または2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
透明導電膜が、基板の凹部に、透明導電膜の凸部を有する凹凸形状を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
凹凸形状が、凹部の縦断面が深さ400〜1600nm、隣り合う頂点間の距離が1.5〜4μm、かつ凹部の谷部における水平方向における傾斜角度が9〜27度である請求項4に記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
透明導電膜のRMS(平均二乗偏差)が100nm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項7】
透明導電膜のRMS(平均二乗偏差)が150〜300nmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項8】
透明導電膜の厚さが500〜3000nmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項9】
基板がガラス基板である請求項1〜8のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項10】
ガラス基板がソーダ石灰ガラス基板である請求項9に記載の薄膜太陽電池。
【請求項11】
半導体がシリコン、化合物半導体および有機半導体から選ばれる請求項1〜10のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のシリコン太陽電池の製造において、基板表面を反応性イオンエッチング処理して凹凸形状を形成させることを特徴とするシリコン太陽電池の製造方法。
【請求項13】
ハロゲン含有エッチャントを用いて、1Pa以上のガス圧力下に反応性イオンエッチング処理する請求項12に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項14】
ガス圧力が5〜100Paである請求項13に記載の薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−227497(P2012−227497A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96511(P2011−96511)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】