説明

薬液投与装置

【課題】本発明は、薬液を正確に投与する。
【解決手段】本発明は、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部7と薬液を外部に送出する送出部10との間に、送出部10側が陰圧になると薬液を流し、薬液貯蔵部7側が陽圧になると薬液の流れを停止させる制限部9を設けたので、送出部10が駆動されて薬液を投与する場合には制限部9が薬液貯蔵部7から送出部10までの流路を連通させ、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液を送出部10を介して使用者に投与することができる一方、外力が加えられて下筐体部2や上筐体部3が変形して薬液貯蔵部7に陽圧がかかった場合には制限部9が薬液貯蔵部7から送出部10への流路を塞ぐので、薬液貯蔵部7に陽圧がかかっても薬液を送出部10を介して使用者の体内に投与させてしまうことを防止することができ、かくして薬液を正確に投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液投与装置に関し、例えばインスリンを人体に投与する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液(インスリン)を投与する装置として、使用者の皮膚に付着させて用いられる携帯型の装置であって、薬液容器である貯蔵容器に充填された薬液を体内に投与する、所謂ピストンポンプ型の装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−501283公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した薬液投与装置のように使用者に保持される場合、薬液投与装置に対して外から力(外力)が加えられてしまう恐れがある。
【0005】
薬液投与装置は、使用者の皮膚に付着されて保持されるために軽量化を図るべく筐体がプラスチック等により構成されているため、外力により該筐体が変形し、薬液が貯蔵された薬液貯蔵部も筐体の変形に応じて圧力が加えられてしまうことも考えられる。
【0006】
このとき薬液投与装置では、薬液貯蔵部の内部が陽圧となって薬液が外部(使用者の体内)に押し出されてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、意図しない過剰な量の薬液が体内に投与されることを防止する機能を有した薬液投与装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、生体内に薬液を投与するための携帯型の薬液投与装置であって、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、薬液貯蔵部から使用者の体内へ薬液を送液する流路を形成する流路部と、流路部の途中に設けられ、薬液貯蔵部に貯蔵された薬液を流路部を介して生体内へ送出する送出部と、流路部における薬液貯蔵部と送出部との間に設けられ、送出部側が陰圧になると薬液貯蔵部と送出部との間の流路を連通させ、薬液貯蔵部側が陽圧になると薬液貯蔵部と送出部との間の流路を塞ぐ制限部とを有する。
【0009】
これにより、送出部が駆動して薬液を生体内に投与する場合には制限部が薬液貯蔵部から送出部にかけての流路を連通させるので薬液が薬液貯蔵部から流路部を介して生体内に投与できる。一方、外部からの力により薬液貯蔵部に陽圧が加えられた場合には制限部が薬液貯蔵部と送出部との間の流路を塞ぎ薬液貯蔵部から薬液が生体内に流れ出すことを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送出部が駆動して薬液を生体内に投与する場合には制限部が薬液貯蔵部から送出部にかけての流路を連通させるので薬液が薬液貯蔵部から流路部を介して使用者の体内に投与でき、一方、外部からの力により薬液貯蔵部に陽圧が加えられた場合には制限部が薬液貯蔵部と送出部との間の流路を塞ぎ薬液貯蔵部から薬液が生体内に流れ出すことがなく、かくして意図しない過剰な量の薬液が体内に投与されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】薬液投与装置の構成を示す略線図である。
【図2】薬液投与装置の分解斜視図である。
【図3】薬液投与装置における薬液の流路を示す略線図である。
【図4】制限部の構成を示す分解斜視図である。
【図5】制限部の断面図である。
【図6】送出部側を陰圧にした際の制御部の様子を示す略線図である。
【図7】薬液貯蔵部側を陽圧にした際の制御部の様子を示す略線図である。
【図8】薬液投与装置の電気的構成を示す略線図である。
【図9】ダイヤフラムの厚さを変えた場合の解析結果を示す略線図である。
【図10】金属板の直径を変えた場合の解析結果を示す略線図である。
【図11】シール弁の硬度を変えた場合の解析結果を示す略線図である。
【図12】送出部側を5kPaの陰圧にした際の圧力分布及びシール弁の変位の解析結果を示す略線図である。
【図13】薬液貯蔵部側を10kPaの陽圧にした際の圧力分布及び接触圧力の解析結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0013】
〔1.薬剤投与装置の構成〕
図1に示すように、薬液投与装置1は、使用者の皮膚の適所に貼り付けることにより保持されて使用される携帯型の装置であり、内部に空間を有する下筐体部2と該下筐体部2の開口に嵌合する上筐体部3により扁平な略直方体形状に形成される。下筐体部2及び上筐体部3は、例えば合成樹脂(プラスチック)等の材質でなる。
【0014】
薬液投与装置1の大きさは、使用者の皮膚にはりつけることができる程度にまで小型化されていればよいが、例えば横32mm、縦44mm、高さ11mm略直方体形状が挙げられる。
【0015】
下筐体部2には、両面テープ等でなる貼付部4が底面2Aに設けられる。薬液投与装置1は、接着部4が使用者の皮膚に貼り付けられることにより該使用者に保持される。
【0016】
薬液投与装置1は、下筐体部2の底面2Aに、内部に充填された薬液を使用者の体内へ投与するために該使用者の皮膚を穿刺するための針やカニューレ等でなる穿刺部5と、内部に設けられた薬液貯蔵部7(図2)に薬液を注入するための注入口である注入部6とが設けられる。
【0017】
薬液投与装置1は、図2及び図3に示すように、下筐体部2と上筐体部3とで形成される空間に注入部6、薬液貯蔵部7、流路部8、制限部9、送出部10、駆動部11、基板部12等が設けられる。
【0018】
薬液貯蔵部7は、柔軟性を有する材料により形成された容器(本実施の形態では2mL)である。薬液貯蔵部7を構成する材質としては、例えば、ポリオレフィンを含むものであるのが好ましく、特に好ましいものとして、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂を挙げることができる。そして、薬液貯蔵部7には薬液が注入部6を介して外部から充填される。薬液貯蔵部7に貯蔵される薬液としては、例えばインスリンや各種ホルモン、モルヒネなどの鎮痛薬、あるいは抗炎症薬剤などが挙げられる。
【0019】
流路部8は、吸込管8A、接続管8B及び送出管8Cにより構成され、薬液が流れる流路を形成する。吸込管8Aは、薬液貯蔵部7と制限部9とを連通させる管である。接続管8Bは、制限部9と送出部10とを連通させる管である。送出管8Cは、送出部10と穿刺部5とを連通させる管であり、その先端には穿刺部5を備える。
【0020】
制限部9は、詳しくは後述するように、送出部10側(接続管8B側)が薬液貯蔵部7に対して相対的に陰圧になるとを吸込管8A及び接続管8Bを介して連通させて薬液が流れるようにし、薬液貯蔵部10側(吸込管8A側)が送出部10側に対して相対的に陽圧になると薬液貯蔵部7から送出部10への流路を塞いで薬液が流れないようにする。
【0021】
送出部10は、ピストン21、シリンダ部22、一方向弁23、24及びOリング25、26を含む構成とされる。
【0022】
ピストン21は、駆動部11により駆動されてシリンダ部22に形成された略円筒形状の内部空間22A内で内壁に接して所定のストロークで摺動する。ピストン11の材質としては、例えば、ステンレス鋼、銅合金、アルミ合金、チタン材、ポリプロピレンやポリカーカーボネートなどの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0023】
シリンダ部22は、一端からピストン11が挿入されて摺動する内部空間22Aが設けられ、該内部空間22Aの他端に接続管8Bと送出管8Cとを連通させて薬液が流れる流路を形成する流路22Bが形成される。
【0024】
一方向弁23は、接続管8Bと流路22Bとの間に設けられ、接続管8Bから流路22Bへ流れる薬液を通過させ、流路22Bから接続部8Bへは薬液を通過させないものであり、例えばアンブレラ弁が適応される。
【0025】
一方向弁24は、流路22Bと送出管8Cとの間に設けられ、流路22Bから送出管8Cへ流れる薬液を通過させ、送出管8Cから流路22Bへは薬液を通過させないものであり、例えばアンブレラ弁が適応される。
【0026】
Oリング25は、接続管8Bとシリンダ部22との間であって一方向弁23の外周を囲むように配され、接続管8Bとシリンダ部22との間から薬液が外部に漏洩することを防止する。
【0027】
Oリング26は、シリンダ部22と送出管8Cとの間であって一方向弁24の外周を囲むように配され、シリンダ部22と送出管8Cとの間から薬液が外部に漏洩することを防止する。
【0028】
駆動部11は、CPU41(図8)の制御に応じてピストン21を往復駆動させる。基板部12は、電源電力を供給する電源部44(図8)や駆動部11を制御する回路などが配される。
【0029】
〔2.制限部の構成〕
制限部9は、図4及び5に示すように、蓋部31、金属板32、ダイヤフラム33、本体部34、シール弁35及び入力ポート36により構成され、全体として略円柱形状に形成され、直径が約8mmで厚さが約3mmである。
【0030】
蓋部31は、例えば樹脂(PMMA)などの材質でなり、直径が約8mmの偏平な円板状に形成される。蓋部31は、その中央に貫通した孔31Aが設けられ、またダイヤフラム33側の面に金属板32の径よりも大きく金属板32の厚さよりも深い溝31Bが設けられる。
【0031】
金属板32は、例えばステンレスなどの材質でなり、直径が2〜5mmの偏平な円板状に形成される。金属板32は、ダイヤフラム33における蓋部31側の面であってその中央に接着される。
【0032】
ダイヤフラム33は、例えばシリコーンゴムなどの材質でなり、直径が約8mmで厚さが0.1〜0.2mm程度の偏平な円板状に形成される。ダイヤフラム33は、蓋部31及び本体部34に外周部分が周方向に全周に亙って挟まれるようにして隙間なく液密に固定され、蓋部31及び本体部34に挟まれていない中央部分が所定の圧力(本実施の形態では5[kPa]以下の圧力)が加えられることにより弾性変形する。
【0033】
本体部34は、例えば樹脂(PMMA)などの材質でなり、直径が約8mmの略円柱状に形成される。本体部34は、ダイヤフラム33側の上面に金属板32の直径よりも大きくダイヤフラム33が下方向(ダイヤフラム33に対して本体部34側の方向)に移動するとされる距離よりも深い溝34Aが設けられる。
【0034】
本体部34は、上下方向の中央に、シール弁35の支柱部35Dの外径よりも大きい径の上下方向に貫通した孔34Bが設けられる。
【0035】
本体部34は、ダイヤフラム33側の面とは反対側の底面の中央に、シール弁35の底面から土台部35Aの上端までの厚さと入力ポート36の厚さの合計と同じ厚さで、シール弁35の直径より若干大きな径の溝34Cが設けられる。
【0036】
本体部34は、底面の中央に、入力ポート36のフランジ36Bの直径及び厚さに合わせたフランジ溝34Dが溝34Cと一体成形される。
【0037】
本体部34は、底面であって孔34B、溝34C及びフランジ溝34Dと干渉しない位置に溝34Aに連通される孔34Eが設けられる。
【0038】
シール弁35は、硬度が30〜70の例えばシリコーンなどの材質でなり、土台部35A、変形部35B、当接部35C及び支柱部35Dが一体成形される。
【0039】
土台部35Aは、本体部34の溝34Cの直径よりも小さな径で所定厚さの略円筒形状でなり、底面が入力ポート36に接着される。
【0040】
変形部35Bは、土台部35Aの内側上方で該土台部35Aと当接部35Cとを繋ぐ変形可能な薄さの環状部であり、上下方向に貫通し、周方向にほぼ間隔で、複数の孔35Eが設けられる。土台部35Aの内側であって変形部35Bの下側には内部空間35Fが形成される。
【0041】
当接部35Cは、変形部35Bの内側に設けられ、円柱形状部の上方に断面が半円(丸みを有する部分が上方を向いた半円)の環状部35Gが一体的に形成される。当接部35Cは、ダイヤフラム33及び変形部35Bが変形していない状態で、環状部の上面が本体部34の溝34Aの上面34Fに周方向にわたって隙間なく当接される。
【0042】
支柱部35Dは、当接部35Cの上面中央であって断面が半円の環状部に干渉しない位置に設けられる。支柱部35Dは、円柱形状に形成され、上面がダイヤフラム33に接着される。
【0043】
入力ポート36Cは、例えば樹脂(PMMA)などの材質でなり、本体部34の溝34Cの径よりも小さい径でなる支持部36Aと該支持部36Aの下方に本体部34のフランジ溝34Dの径よりも小さい径でなるフランジ36Bとが一体成形される。
【0044】
入力ポート36は、中央に上下方向に貫通した孔36Cが設けられる。また入力ポート36は、シール弁35側の面が内部空間35Fと同じ径で所定深さの溝36Dが設けられ、該溝36Dの中にシール弁方向に突設された突起部36Eが支持部36A及びフランジ36Bと一体成形される。
【0045】
制限部9は、入力ポート36の孔36Cに吸込管8Aが接続され、本体部34の孔34Eに接続管8Bが接続される。すなわち制限部9は、吸込管8Aを介して薬液貯蔵部7と入力ポート36の孔36Cが連通され、接続管8Bを介して送出部10と本体部34の孔34Eが連通される。
【0046】
制御部9は、入力ポート36の孔36C、シール弁35の内部空間35F、孔35E、本体部34の溝34C、孔34B、溝34A及び孔34Eにより、薬液が流れる流路(以下、これを内部流路とも呼ぶ)を形成する。
【0047】
従って制限部9は、吸込管8A、内部流路及び接続管8Bを介して薬液貯蔵部7と送出部10とを連通させることができる。
【0048】
制限部9は、圧力が加えられていない状態、すなわちダイヤフラム33及びシール弁35の変形部35Bが変形していない状態で、シール弁35の当接部35Cが本体部34の溝34Dの上面34Fに周方向にわたって隙間なく当接されているので内部流路を閉鎖し、薬液貯蔵部7から送出部10への流路を塞ぐ。
【0049】
一方、制限部9は、駆動部11が駆動されてピストン21が内部空間22Aを広げる方向に移動されると、本体部34における接続部8Bと接続された孔34Eからシール弁35の当接部35Cまでの内部流路が陰圧になる。
【0050】
このとき制限部9では、図6に示すように、ダイヤフラム33がピストン21による陰圧(図中では白抜矢印)で下方向に変形し、それに応じてシール弁35の当接部35C及び支柱部35Dも下方向に移動する。なおシール弁35では、当接部35C及び支柱部35Dの下方向への移動に応じて変形部35Bが変形する。
【0051】
従って制限部9は、シール弁35の当接部35Cが本体部34の溝34Dの上面34Fから離間して内部流路を開放し、内部流路を介して薬液貯蔵部7から送出部10への流路を連通させ、図中では矢印で示されるように薬液が内部流路を流れる。これにより薬液投与装置1では、ピストン21による陰圧により薬液貯蔵部7から送出部10に薬液が引き出され、ピストンが内部空間22A(図3参照)を縮める方向に移動されると送出管8C及び穿刺部5を通って薬液が使用者の体内に投与される。
【0052】
ところで薬液投与装置1は、下筐体部2及び上筐体部3が肉薄の合成樹脂で形成されているため外力が加えられると該下筐体部2及び上筐体部3が変形してしまい、薬液貯蔵部7にも圧力が加わり、薬液貯蔵部7が陽圧(外部よりも圧力が高い状態)になる可能性がある。
【0053】
制限部9は、図7に示すように、薬液貯蔵部7が陽圧になると吸込管8A、入力ポート36の孔36C及びシール弁35の内部空間35Fを介してシール弁35の当接部35Cに上方向の圧力が加わり、該圧力により該当接部35Cが本体部34の溝34Cの上面34Fに押し付けられる。なお図7において圧力を白抜き矢印で示す。
【0054】
従って制限部9は、当接部35Cの環状部35Gが本体部34の溝34Cの外周の上面34Fに押し付けられることにより内部流路を閉鎖し、薬液貯蔵部7から送出部10への流路を塞ぐ。これにより薬液投与装置1では、薬液貯蔵部7が陽圧になっても、その陽圧によって薬液が制限部9より下流に流れることがないので、使用者の体内へ薬液が投与されてしまうといったことを防止する。
【0055】
〔3.薬液投与装置の電気的構成〕
薬液投与装置1は、図8に示すように、CPU(Central Processing Unit)41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、電源部44、インターフェース部(I/F部)45、報知部46及び駆動部11がバス47を介して接続される。
【0056】
CPU41、ROM42、RAM43、電源部44及び報知部46は、基板部12上に配される。電源部44は電池が適応される。報知部46は例えば音声で報知するためのスピーカや、光で報知するためのLEDなどが適応される。
【0057】
インターフェース部45は、上筐体部3又は下筐体部2に配されユーザの入力命令を受け付けるボタン(図示せず)が適応される。またインターフェース部45の代わりに無線による通信を行うためのアンテナ及び通信回路からなる通信部を搭載し、本ポンプとは別体となる操作部(図示せず)から無線通信による入力命令を受け付ける方式でもよい。
【0058】
CPU41は、ROM42に格納された基本プログラムをRAM43に読み出して実行することより全体を統括制御すると共に、ROM42に記憶された各種アプリケーションプログラムをRAM43に読み出して実行することにより各種処理を実行する。使用者は薬液投与装置1を操作し、制限部であるCPU41に指令を出すことで、CPU41は基本プログラムを読みだし、駆動部11を制御することで使用者へ薬液の投与を開始させる。
【0059】
〔4.解析及び解析結果〕
〔4−1.最適化の解析及び解析結果〕
まず、制限部9全体の直径及び厚さをそれぞれ8mm及び3mmとし、図9(A)に示すように、ダイヤフラム33(硬度50)の厚さ、金属板32の直径及びシール弁35の硬度を変化させた際の当接部35Cの変位量を有限要素法により解析した。なお、解析時の外部荷重として、送出部10側に5kPaの陰圧を加えた。
【0060】
ダイヤフラム33の厚さを0.1mm及び0.2mmにした場合についての解析結果を図9(B)及び(C)にそれぞれ示す。図からも明らかなように、ダイヤフラム33の厚さは薄いほど変形しやすいことがわかる。
【0061】
次に、金属板32の直径を2mm、4mm及び5mmにした場合についての解析結果を図10(A)、(B)及び(C)にそれぞれ示す。図からも明らかなように、金属板32の直径が4mmのときにダイヤフラム33が一番変形しており、ダイヤフラム33の変形に適した金属板32の大きさがあることがわかる。
【0062】
次に、シール弁35の硬度を30及び70にした場合についての解析結果を図11(A)及び(B)に示す。図からも明らかなように、シール弁35は柔らかいほど変形しやすいことがわかる。
【0063】
〔4−2.シール弁の変形及び接触圧力の解析及び解析結果〕
次に、送出部10側から5kPaの陰圧を加えた場合のシール弁35の圧力分布及び変形、並びに薬液貯蔵部7側から10kPaの陽圧を加えた場合の圧力分布及び接触圧力の解析を有限要素法により行った。
【0064】
なお、ダイヤフラム33の厚さを0.1mm、金属板32の直径を4mm、シール弁35の硬度を30として解析を行った。
【0065】
まず、送出部10側から5kPaの陰圧を加えた場合におけるシール弁35の圧力分布及び変形の解析結果を図12(A)及び(B)に示す。図12(A)ではシール弁35の当接部35Cが本体部34の溝34Dの上面34Fから約0.04mm離れることが分かった。
【0066】
次に、薬液貯蔵部7側から10kPaの陽圧を加えた場合における圧力分布、及びシール弁35の当接部35Cと本体部34の溝34Dの上面34Fとの接触圧力を図13(A)及び(B)に示す。図13(A)ではシール弁35の当接部35Bの上面及び底面に10kPaの圧力がかかることが分かる。図13(B)では、シール弁35の当接部35Cと本体部34の溝34Dの上面34Fとの接触圧力が最大で約30kPaとなり、シール弁35により内部流路を閉鎖できていることが分かった。
【0067】
〔5.実験及び実験結果〕
次に発明者により作成された制限部9では、本体部34の孔34E側(送出部10側)から2kPaの陰圧を加えると薬液に模した液体が内部流路を流れ始めることが確認された。
【0068】
従って制限部9は、本体部34の孔34E側(送出部10側)を5kPa以下でシール弁35が本体部34の溝34Dの上面34Fから離間して内部流路が連通されることが確認された。
【0069】
また発明者により作成された制限部9では、入力ポート36の孔36C側(薬液貯蔵部7側)から50kPaの陽圧を加えても薬液に模した液体が内部流路を流れないことが確認された。従って制限部9は、入力ポート36の孔36C側(送出部10側)に少なくとも50kPaの陽圧が加えられても、シール弁35で内部流路を塞ぐことが確認された。
【0070】
〔6.効果等〕
以上の構成において薬液投与装置1は、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部7と薬液を外部に送出する送出部10との間に、送出部10側が陰圧になると薬液を流し、薬液貯蔵部7側が陽圧になると薬液の流れを停止させる制限部9を設けるようにした。
【0071】
これにより薬液投与装置1は、送出部10が駆動されて薬液を投与する場合には制限部9が薬液貯蔵部7から送出部10までの流路を連通させ、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液を送出部10を介して使用者に投与することができる。
【0072】
一方、薬液投与装置1は、外力が加えられて下筐体部2や上筐体部3が変形して薬液貯蔵部7に陽圧がかかった場合には制限部9が薬液貯蔵部7から送出部10への流路を塞ぐので、薬液貯蔵部7に陽圧がかかっても薬液を送出部10を介して使用者の体内に投与させてしまうことを防止することができる。かくして薬液投与装置1は、薬液を正確に投与することができる。
【0073】
また制限部9は、送出部10が駆動することによる陰圧で変形するダイヤフラム33、ダイヤフラム33の一方の面に接して薬液貯蔵部7及び送出部10を連通させる内部流路を形成する本体部34、及び本体部34における内部流路内でダイヤフラム33に接着されて該ダイヤフラム33の変形に応じて移動して本体部34における流路を閉鎖及び開放するシール弁35を含む構成である。
【0074】
これにより制限部9は、複雑な構成を用いることがないため、薬液投与装置1全体を小型化及び軽量化することができる。これは使用者の皮膚に貼付して携帯される薬液投与装置に適応する場合に特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば医療分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1……薬液投与装置、2……下筐体部、3……上筐体部、4……貼付部、5……穿刺部、6……注入部、7……薬液貯蔵部、8……流路部、9……制限部、10……送出部、11……駆動部、12……基板部、21……ピストン、22……シリンダ部、23、24……一方向弁、25、26……Oリング、31……蓋部、32……金属板、33……ダイヤフラム、34……本体部、35……シール弁、36……入力ポート、41……CPU、42……ROM、43……RAM、44……電源部、45……インターフェース部、46……報知部、47……バス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に薬液を投与するための携帯型の薬液投与装置であって、
薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、
前記薬液貯蔵部から生体内へ薬液を送液する流路を形成する流路部と、
前記流路部の途中に設けられ、前記薬液貯蔵部に貯蔵された薬液を前記流路部を介して使用者の体内へ送出する送出部と、
前記流路部における前記薬液貯蔵部と前記送出部との間に設けられ、送出部側が陰圧になると前記薬液貯蔵部と前記送出部との間の流路を連通させ、前記薬液貯蔵部側が陽圧になると前記薬液貯蔵部と前記送出部との間の流路を塞ぐ制限部と
を備える薬液投与装置。
【請求項2】
前記送出部は、シリンダ部と、該シリンダ部の内部空間で摺動するピストンとを有し、該ピストンが前記内部空間内で摺動することにより前記薬液貯蔵部に貯蔵された薬液を生体内に送出し、
前記制限部は、
前記ピストンが前記内部空間から引き出される方向に移動させる際の陰圧により前記薬液貯蔵部と前記送出部との間の流路を連通させ、外力により前記薬液貯蔵部側が陽圧になると前記薬液貯蔵部と前記送出部との間の流路を塞ぐ
請求項1に記載の薬液投与装置。
【請求項3】
前記制限部は、
前記送出部が動作することによる陰圧で変形するダイヤフラムと、
前記薬液貯蔵部及び前記送出部を前記流路部を介して連通させる内部流路が前記ダイヤフラムの一方の面に接するように形成される本体部と、
前記内部流路内で前記ダイヤフラムに接続され、該ダイヤフラムの変形に応じて移動して前記内部流路を開放するシール弁と
を備える請求項1又は2に記載の薬液投与装置。
【請求項4】
前記本体部は、
前記ダイヤフラムが一方の面に当接され、該一方の面とは異なる面から前記内部流路及び前記流路部を介して前記薬液貯蔵部及び前記送出部がそれぞれ接続され、前記内部流路において前記ダイヤフラムと接している位置よりも前記薬液貯蔵側で該内部流路が広げられ、
前記シール弁は、
前記内部流路における広げられた位置での内面に周方向に沿って、前記薬液貯蔵部側から前記内部流路を塞ぐように当接する当接部と、
前記ダイヤフラム及び前記当接部を接続する支柱部を備え、
前記送出部が動作することによる陰圧により前記ダイヤフラムが前記内部流路側に変形して前記当接部が前記内面から離間し、前記薬液貯蔵部側が陽圧になると前記当接部が前記内面に押し付けられる
請求項3に記載の薬液投与装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−70790(P2013−70790A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211231(P2011−211231)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】