説明

蛍光体、その製造方法及び該蛍光体を含んだ無機EL素子

【課題】無機EL素子に有用な、高効率で発光する蛍光体、及びその製造方法の提供。
【解決手段】内部に線状転位と線状転位に沿った導電相を有する、ZnS:Ag、ZnS:Cu、ZnO、ZnO:Zn、GaN:Zn等の蛍光体。導電相を有する該蛍光体は、原料蛍光体粉末を加熱加圧処理し線状転位を形成した後、蛍光体粉末表面にCu、Ag、Au、Ptの導電相金属またはその硫化物をコーティングし、熱処理により該導電相原料金属を線状転位に沿って拡散させて線状導電相を形成することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蛍光体とその製造方法に関する。とりわけ、EL発光に必要な線状の導電相を有する蛍光体及び無機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと記す)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、有害物質や細菌・ウイルスなどを分離、分解、または殺菌する機能が強く要求されている。このような分解・殺菌を行う手段として光触媒材料が注目されている。代表的な光触媒はアナターゼ型TiO2であり、これは一般には波長が400n
m以下の紫外線により光触媒機能を発揮する。最近では、アナターゼ型TiO2よりは機
能は低いものの、420nmくらいの波長まで機能するルチル型TiO2も開発されてい
る。
【0003】
このような波長の光を放射させるデバイスとしては、水銀ランプや発光ダイオードもあるが、点または線光源であるため、大面積の光触媒を均一に励起するには適さない。大面積を均一に発光させるデバイスとして無機ELデバイスがある。これは、光を放射する機能を持つ蛍光体粉末を誘電体樹脂に分散させて、主として交流電界を印加して発光させるものである。
【0004】
高効率で発光する蛍光体としてはZnS蛍光体がある。EL発光を生じるZnS:Cu蛍光体粒子中には伝導性の高い硫化銅(Cu2S)が双晶の境界面に沿って針状に析出し
ており、交流電圧が印加されると、この針状部分の先端に高電界が発生し、電子と正孔がそれぞれ反対側の先端から結晶内部に電界放出される。電子は浅いトラップに、正孔はCu付活剤のアクセプター準位に捕らえられ、電界が反転した時に電子は飛び出し、正孔と再結合して発光を生じる。
【0005】
AgをドーピングしたZnS蛍光体はCuをドーピングしたものと比較すると短波長の発光を示し、特に蛍光体母材であるZnSに、例えば2A族硫化物等のZnSよりも大きい格子定数とバンドギャップを有する第二相を添加、混晶化することにより波長400nm以下の紫外線領域に発光ピークを有する格子間Agに起因するBlue−Cu型発光が生じるようになる。
【0006】
しかし、Zn1-xxS:Ag蛍光体粉末(Mは2A族元素)は紫外線励起(PL)、電子線励起(CL)では高強度の発光を示すが、電界励起(EL)では殆どEL発光を生じない。これは、非特許文献1に記載の通り、EL発光を生じるには導電性の高い針状導電相が蛍光体粉末内部に析出している必要があるからである。
【0007】
すなわち、CuをドーピングしたZnS系蛍光体は過剰なCu成分が蛍光体粉末内部で針状かつ導電性を有するCu2S相となり、針状Cu2Sの先端で電界集中が生じるためEL発光を生じるが、AgをドーピングしたZnS系蛍光体は過剰なAg成分がAg2S相
を形成しても、Ag2SはCu2Sと比較して導電性が5桁低いため、Ag2S相周辺で電
界集中が生じず、EL発光を生じないのである。
【非特許文献1】銅付活蛍光体セラミックス26(1991)No.7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み、高効率で発光する蛍光体を提供することを目的とする。特に紫外線領域の光を高強度でBlue−Cu型発光するZnS系蛍光体及びその製造方法
を提供することを目的とする。更に、通常はEL発光をしないZn1-xxS:Agで表わされる蛍光体粉末をEL発光させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、高温高圧下で蛍光体内部に線状転位を形成させ、該線状転位中に導電性物質を拡散させて金属導電相を形成させることが有効であることを見出し本発明をするに至った。すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0010】
(1)内部に線状転位と線状転位に沿った導電相を有することを特徴とする蛍光体である。
(2)前記蛍光体が、一般式Zn1-xxS:Agで表され、該一般式中のMがBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たすことを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体である。
(3)前記蛍光体が、一般式Zn1-xxS:Cuで表され、該一般式中のMがBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たすことを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体である。
(4)前記蛍光体が、ZnOである上記(1)に記載の蛍光体である。
(5)前記蛍光体が、ZnO:Znである上記(1)に記載の蛍光体である。
(6)前記蛍光体が、GaN:Znである上記(1)に記載の蛍光体である。
(7)前記蛍光体が、EL用蛍光体であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか一に記載の蛍光体である。
(8)波長450nm以下の青色乃至紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする上記(1)〜(7)に記載の蛍光体である。
(9)波長400nm以下の紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか一に記載の蛍光体である。
(10)前記一般式中のx値が0.1乃至0.5であることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の蛍光体である。
(11)前記線状転位に沿った金属導電相の成分がCu、Ag、Au、Ptの群の少なくとも1種から選ばれる導電相原料金属であることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか一に記載の蛍光体である。
【0011】
(12)蛍光体粉末に加熱加圧処理を行うことにより線状転位を形成した後、該蛍光体粉末表面に導電相原料金属をコーティングし、熱処理により該導電相原料金属を線状転位に沿って拡散させて線状導電相を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
(13)前記蛍光体粉末が、Zn1-xxS:Cu(MがBe,Mg,Ca,Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たす)、ZnO、ZnO:Zn、又はGaN:Znのいずれか一種以上であることを特徴とする上記(12)記載の蛍光体の製造方法である。
(14)前記加熱加圧時の加熱温度が、500℃乃至1200℃であることを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の蛍光体の製造方法である。
(15)前記加熱加圧時の加熱温度が、700℃乃至1100℃であることを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の蛍光体の製造方法である。
【0012】
(16)前記加熱加圧時の加圧力が、300kgf/cm2乃至2000kgf/cm2であることを特徴とする上記(12)〜(15)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法である。
(17)前記加熱加圧時の加圧力が、500kgf/cm2乃至1500kgf/cm2であることを特徴とする上記(12)〜(15)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法である。
(18)前記導電相原料金属を拡散させる際の熱処理温度が、300℃乃至800℃であることを特徴とする上記(12)〜(17)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法である。
(19)前記導電相原料金属を拡散させる際の熱処理温度が400℃乃至700℃であることを特徴とする上記(12)〜(17)のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法である。
【0013】
高強度のEL発光を生じさせるためには蛍光体内部に針状導電相が必要であるが、本発明に係る蛍光体は、内部に形成された線状転位に沿って針状の金属導電相を有するため通常は殆どEL発光を生じない蛍光体でもEL発光を生じるようになる。このような線状転位を形成するためには、蛍光体粉末を加熱しながら加圧することが必要である。蛍光体粉末を加熱加圧することにより蛍光体を構成する結晶の特定の結晶面に沿ってすべりが生じ、すべりが生じることによりすべり面に並行に線状転位が形成される。ここで言う特定の結晶面とは構成する原子が稠密に配置された面を指し、ZnS系蛍光体については、その結晶型が閃亜鉛鉱型の場合は(111)面に沿ってすべりが発生し、ウルツ鉱型の場合はc軸に垂直な面に沿ってすべりが発生する。
このとき、加熱温度が500乃至1200℃であるとき強度のEL発光を生じる蛍光体が得られる。また加熱温度が700乃至1100℃のとき、より強度のEL発光を生じる蛍光体が得られるため好適である。ここで500℃未満では蛍光体粉末の粉砕のみが生じ、線状転位が生じず、1200℃を超えると線状転位が生じないため好ましくない。
また、該加熱加圧時の圧力が300乃至2000kgf/cm2のとき強度のEL発光
を生じる蛍光体が得られる。また加熱加圧時の圧力が500乃至1500kgf/cmのとき、より強度のEL発光を生じる蛍光体が得られるため好適である。ここで300kgf/cm未満では線状転位が生じず、2000kgf/cmを超えると蛍光体粉末の粉砕のみが生じ、線状転位が生じないため、好ましくない。
【0014】
更に、線状転位に沿った針状導電相を形成するためには、線状転位を形成した蛍光体粉末表面に導電相原料金属をコーティングし、その後熱処理することが必要である。
この際の熱処理温度が300乃至800℃のとき強度のEL発光を生じる蛍光体が得られる。また該熱処理温度が400乃至700℃のとき、Agに起因するさらに強度のEL発光を生じる蛍光体が得られため好適である。ここで300℃未満では金属元素の拡散が生じず、800℃を超えると線状転位中のみでなく蛍光体母材中に金属元素が拡散し、Agに起因するEL発光を阻害するため、好ましくない。
一般式Zn1-xxS:Ag(式中のMはBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たす)で表される蛍光体か
らBlue−Cu型による紫外発光を得るためには、x値が0.1≦x≦0.5であることが好ましい。これはZnSに対する2A族硫化物の固溶限界がx=0.5であるためである。
【0015】
(20)上記(1)〜(11)のいずれか一に記載の蛍光体を発光層に含むことを特徴とする無機EL素子である。
(21)波長450nm以下の青色乃至紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする前記(20)に記載の無機EL素子である。
(22)波長400nm以下の紫外線領域に発光ピークを有する事を特徴とする前記(20)に記載の無機EL素子である。
【0016】
上記蛍光体を用いた粒子分散型EL素子は光触媒励起用光源、樹脂硬化用ランプ、ディスプレイのバックライト、捕虫用ランプなどの青色乃至紫外線発光ランプとして使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、青色乃至紫外線領域の波長の発光強度が高い蛍光体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明は一般式Zn1-xxS:Agで表される蛍光体以外の通常EL発光を生じない蛍光体をEL発光せしめる手法としても有効である。またZn1-xxS:Cu系蛍光体等のEL発光を生じる蛍光体に本発明を適用することでEL発光強度を向上させることもできる。
更に、本発明による蛍光体を用いた粒子分散型EL素子は光触媒励起用光源、樹脂硬化用ランプ、ディスプレイのバックライト、捕虫用ランプなどの青色乃至紫外線発光ランプ用の無機EL素子として良好に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
前記非特許文献1に記載されている通り、ZnS:Cu系蛍光体は蛍光体内部に過剰のCu成分が双晶界面に析出し導電性の高い針状のCu2S相を形成するため、ELにおい
て高い強度の発光を示す。しかしながらその一方で、ZnS:Ag系蛍光体は蛍光体内部に過剰のAg成分が針状のAg2S相を形成するが、Ag2Sは導電性が低く、ELに必要な導電相として機能せず、EL発光を殆ど生じない。
【0019】
発明者らはZn1-xxS:Ag蛍光体粉末をホットプレス装置で500℃乃至1200℃に加熱しながら300kgf/cm2乃至2000kgf/cm2の圧力を印加することにより粉末内部に線状転位を形成させた後、蛍光体粉末表面にCu、Ag、Au、Pt等の導電相原料金属を液相処理により被覆したものを300℃乃至800℃に加熱することで線状転位に沿って、導電相原料を拡散させ、表面に残存した導電相原料金属を適当な酸により除去することにより、粉末内部にCu、Ag、Au、Pt等からなる断面直径が5nm程度の針状の導電相を形成することによって、EL発光を生じるZn1-xxS:Ag蛍光体粉末を作製することができた。
【0020】
Zn1-xxS:Ag蛍光体粉末を加熱加圧するにはホットプレス装置のみでなく、HIP装置、超高圧プレス装置、高温圧縮試験装置等を使用しても同等の効果が得られる。
導電相金属種は発光を阻害しない金属であれば、上記に挙げた金属以外を使用しても同等の効果が得られる。
導電相原料金属を蛍光体粉末表面に被覆するには液相処理のみでなく、CVD等の気相処理によっても同等の効果が得られる。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
(Zn1-xxS:Ag中間蛍光体の作製)
ZnS粉末、混晶比率(x値)が0乃至0.6となる量の2A族硫化物粉末、Ag/(Zn+M)モル比=0.001となる量のAg2S粉末、Cl/(Zn+M)モル比=0
.0005となる量のKCl粉末を乳鉢で混合した後、石英るつぼに混合粉末を充填し、1200℃のAr雰囲気中で3時間焼成を行った後、急冷して複数のZn1-xxS:Ag中間蛍光体を作製した。ただし、本中間蛍光体の作製方法は一例に過ぎず、中間蛍光体の作製方法を制限するものでは無い。
【0022】
(線状転位の形成)
作製したZn1-xxS:Ag中間蛍光体を窒化珪素製の型に充填し、ホットプレス装置を使用して、表1に示す400℃乃至1300℃の温度範囲において加熱しながら200kgf/cm2乃至2100kgf/cm2の圧力を印加し、冷却、降温を経て、型からZn1-xxS:Ag蛍光体を抜き出し、乳鉢にて解砕した。線状転位の存在の有無の確認はTEM観察により行った。
【0023】
(針状導電相の形成)
ホットプレス装置にて加熱加圧処理を行ったZn1-xxS:Ag蛍光体粉末10gを300ccの蒸留水に分散させた後、各Zn1-xxS:Ag蛍光体に対して0.1mol%の金属成分を含むAuCl3水溶液、CuSO4水溶液、AgNO3水溶液、及びPtCl4水溶液のうち一種を蛍光体分散液に添加した。添加後、マグネットスターラーで10分攪拌を行った後、恒温乾燥機にて水分を揮発させ、Zn1-xxS:Ag蛍光体粉末表面にAu、Cu、Ag、およびPtの導電相原料金属のコーティングを行った。
【0024】
導電相原料金属をコーティングした各Zn1-xxS:Ag蛍光体を石英るつぼに充填し、表1に示す200℃乃至900℃のArガス中で1時間熱処理を行い、線状転位への金属元素の拡散処理を行った。冷却の後、針状導電相を形成した各Zn1-xxS:Ag蛍光体粉末を乳鉢にて解砕し、塩酸、硝酸、硫酸、王水等の適当な酸により粉末表面に残存した導電相原料金属を除去した。針状導電相の存在の有無の確認はTEM観察およびTEM−EDXにて行った。
【0025】
(無機EL素子の作製)
得られたZn1-xxS:Ag蛍光体粉末10gと5gの高誘電率バインダー樹脂(製品名:シアノレジン)を含むアセトン溶液を混錬し、発光層インクを作製した。また、BaTiO3粉末10gと2.5gの高誘電率バインダー樹脂を含むアセトン溶液を混錬し、
絶縁層インクを作製した。アルミ箔上に絶縁層インクを用いてスクリーン印刷法により厚さ25μmの絶縁層を塗布し、絶縁層上に発光層インクを用いてスクリーン印刷法により厚さ50μmのZn1-xxS:Ag蛍光体粉末を含む発光層を塗布した。その後、リード端子を形成したPET−ITOフィルムのITO面と発光層とをラミネータ機を用いて熱圧着させてEL素子を作製した。ただし、本作製方法は一例に過ぎず、本発明の無機EL素子の作製方法及び構造を制限するものでは無い。
【0026】
(EL評価)
ELシートのPET−ITOフィルムに形成したリード端子と裏面のアルミ箔にそれぞれ電極を取り付け、1000Hz、200V、正弦波形の交流電圧を印加し、ELシートを発光させた。
輝度計によりEL発光輝度を測定し、スペクトルアナライザによりELスペクトルを測定した。測定した輝度とスペクトルから1平方センチメートル当りのEL発光強度(mW/cm2)を算出し、各試料のEL発光強度の比較を行った。発光ピーク波長はELスペ
クトルにおいて最も強度の高い波長とした。
【0027】
従来技術との比較のため、本手法で線状転位および針状導電相を形成していないZn1-xxS:Ag蛍光体について上記と同様のEL評価を実施した。
各蛍光体粉末作製条件及び評価結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(評価結果)
上記表1に示すように、x=0の場合、Agに起因するD−Aペア型発光によるピーク波長450nmの青色EL発光が得られた(蛍光体番号No.1)。x≧0.1の場合、Agに起因するBlue−Cu型発光によるピーク波長400nm以下の紫外EL発光が得られた(No.2乃至No.6)。x=0.6の場合、x=0.5のものと同等性能のEL発光が得られた(No.7)。これはZnSに対する2A族硫化物の固溶限界がx=0.5であるためである。
【0030】
Zn1-xxS:Ag中間蛍光体の加熱加圧時の加熱温度が400℃の場合、線状転位が形成されず、その後の導電相金属拡散処理をおこなっても針状導電相が形成されず、EL発光を生じなかった(No.8)。加熱温度が500℃乃至1200℃の場合、線状転位が形成され、Agに起因するEL発光が得られた(No.9乃至No.15)。特に加熱温度が700℃乃至1100℃の場合、好適な発光強度のAgに起因するEL発光が得られた(
No.11乃至No.14)。加熱温度が1300℃の場合、線状転位が形成されず、その後の導電相金属拡散処理を行っても針状導電相が形成されず、EL発光を生じなかった(No.16)。
【0031】
Zn1-xxS:Ag中間蛍光体の加熱加圧時の印加圧力が200kgf/cm2の場合
、線状転位が形成されず、その後の導電相金属拡散処理を行っても針状導電相が形成されず、EL発光は得られなかった(No.17)。Zn1-xxS:Ag中間蛍光体の加熱加圧時の印加圧力が300kgf/cm2乃至2000kgf/cm2の場合、線状転位が形成され、Agに起因するEL発光が得られた(No.18乃至No.23)。特にZn1-xxS:Ag中間蛍光体の加熱加圧時の印加圧力が500kgf/cm2乃至1500kgf/
cm2の場合、好適な強度のAgに起因するEL発光が得られた(No.19乃至No.22
)。Zn1-xxS:Ag中間蛍光体の加熱加圧時の印加圧力が2100kgf/cm2
場合、蛍光体粉末の破砕が顕著に生じ、線状転位が形成されず、EL発光は得られなかった(No.24)。
【0032】
導電相金属の拡散処理時の加熱温度が200℃の場合、導電相金属の拡散が生じず、針状導電相が形成されず、EL発光は得られなかった(No.25)。導電相金属の拡散処理時の加熱温度が300℃乃至800℃の場合、針状導電相が形成され、かつAgに起因するEL発光が得られた(No.26乃至No.30)。特に導電相金属の拡散処理時の加熱温度が400℃乃至700℃の場合、好適な強度のAgに起因するEL発光が得られた(No.27乃至No.29)。導電相金属の拡散処理時の加熱温度が900℃の場合、導電相金属の拡散が生じ、針状導電相が形成されたが、導電相金属に起因する発光が生じ、Agに起因するEL発光は得られなかった(No.31)。
【0033】
Zn1-xxS:Ag蛍光体のM種がBe、Mg、Ca、Sr、Baのいずれかの2A族元素の場合もAgに起因するEL発光が得られた(例えばNo.4、No.32乃至No.35)。
導電相金属種がCu、Ag、Au、Ptのいずれの場合もAgに起因するEL発光が得られた(例えばNo.4、No.36乃至No.38)。
本針状導電相の形成手法でない、従来の方法で作製したZn1-xxS:Ag蛍光体はEL発光を生じなかった(No.39)。
本針状導電相の形成手法で作製したZn1-xxS:Ag蛍光体を発光層に含む無機EL素子は波長450nm以下の青色乃至紫外線領域に発光ピーク波長を有するEL発光を生じた(例えばNo.1乃至No.7)。
【実施例2】
【0034】
以下、本発明のZn1-xxS:Cu蛍光体に関する実施例の一例を説明する。
(Zn1-xxS:Cu中間蛍光体の作製)
ZnS粉末、混晶比率(x値)が0乃至0.5となる量の2A族硫化物粉末、Cu/(Zn+M)モル比=0.001となる量のCu2S粉末、Cl/(Zn+M)モル比=0
.0005となる量のKCl粉末を乳鉢で混合した後、石英るつぼに混合粉末を充填し、1200℃のAr雰囲気中で3時間焼成を行った後、急冷してZn1-xxS:Cu中間蛍光体を作製した。ただし、本中間蛍光体の作製方法は一例に過ぎず、中間蛍光体の作製方法を制限するものでは無い。
【0035】
(線状転位の形成)
作製したZn1-xxS:Cu中間蛍光体を窒化珪素製の型に充填し、ホットプレス装置を使用して、1000℃に加熱しながら1000kgf/cm2の圧力を印加し、冷却、
降温を経て、型からZn1-xxS:Cu蛍光体を抜き出し、乳鉢にて解砕した。線状転位の存在の有無はTEM観察により行った。
【0036】
(針状導電相の形成)
ホットプレス装置にて加熱加圧処理を行ったZn1-xxS:Cu蛍光体粉末10gを300ccの蒸留水に分散させた後、Zn1-xxS:Cu蛍光体に対して0.1mol%の金属成分を含むAuCl水溶液を蛍光体分散液に添加した。添加後、マグネットスターラーで10分攪拌を行った後、恒温乾燥機にて水分を揮発させ、Zn1-xxS:Cu蛍光体粉末表面にAuの導電相原料金属のコーティングを行った。
導電相原料金属をコーティングしたZn1-xxS:Cu蛍光体を石英るつぼに充填し、500℃のArガス中で1時間熱処理を行い、線状転位への金属元素の拡散処理を行った。冷却の後、針状導電相を形成したZn1-xxS:Cu蛍光体粉末を乳鉢にて解砕し、塩酸、硝酸、硫酸、王水等の適当な酸により粉末表面に残存した導電相原料金属を除去した。針状導電相の存在の有無はTEM観察およびTEM−EDXにて行った。
【0037】
(無機EL素子の作製)
実施例1のZn1-xxS:Ag蛍光体の場合と同様に無機EL素子を作製した。
(EL評価)
実施例1のZn1-xxS:Ag蛍光体の場合と同様にEL評価を実施した。
蛍光体粉末作製条件及び評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
(評価結果)
導電相形成処理を実施したZn1-xxS:Cu蛍光体(No.40乃至No.45)は導電相形成処理を実施していない蛍光体(No.50)よりも高い強度のEL発光を示した。
Zn1-xxS:Cu蛍光体のM種がBe、Mg、Ca、Sr、Baのいずれかの2A族元素の場合も、導電相形成処理を実施していない蛍光体よりも高い強度のEL発光を示した(例えばNo.44、No.46乃至No.49)。
【実施例3】
【0040】
以下、本発明に係るその他のEL非発光蛍光体について説明する。
通常、EL発光を生じることのない蛍光体の一例として、ZnO蛍光体、ZnO:Zn蛍光体、GaN:Zn蛍光体への導電相形成処理を実施例1、実施例2と同様に実施した。無機EL素子作製、EL評価ともに実施例1、実施例2と同様に実施した。
蛍光体粉末作製条件及び評価結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
通常、EL発光を生じることの無い蛍光体であるZnO蛍光体、ZnO:Zn蛍光体、GaN:Zn蛍光体の何れもEL発光を生じた。
言うまでも無く、上記のEL非発光蛍光体は一例に過ぎず、上記以外のEL比発光蛍光体でもEL発光せしめることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に線状転位と線状転位に沿った導電相を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光体が、一般式Zn1-xxS:Agで表され、該一般式中のMがBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記蛍光体が、一般式Zn1-xxS:Cuで表され、該一般式中のMがBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記蛍光体が、ZnOである請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体が、ZnO:Znである請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体が、GaN:Znである請求項1に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記蛍光体が、EL用蛍光体であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の蛍光体。
【請求項8】
波長450nm以下の青色乃至紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記蛍光体が、波長400nm以下の紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記一般式中のx値が、0.1≦x≦0.5であることを特徴とする請求項2又は3に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記線状転位に沿った導電相の成分が、Cu、Ag、Au、Ptの群の少なくとも1種
から選ばれる導電相原料金属またはその硫化物であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一に記載の蛍光体。
【請求項12】
蛍光体粉末に加熱加圧処理を行うことにより線状転位を形成した後、該蛍光体粉末表面に導電相原料金属をコーティングし、熱処理により該導電相原料金属を線状転位に沿って拡散させて線状導電相を形成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記蛍光体粉末が、Zn1-xxS:Cu(MがBe,Mg,Ca,Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素を表し、xは0≦x<1を満たす)、ZnO、ZnO:Zn、又はGaN:Znのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項12記載の蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記加熱加圧時の加熱温度が、500℃乃至1200℃であることを特徴とする請求項12又は13に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記加熱加圧時の加熱温度が、700℃乃至1100℃であることを特徴とする請求項12又は13に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記加熱加圧時の加圧力が、300kgf/cm乃至2000kgf/cmである
ことを特徴とする請求項12乃至請求項15のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項17】
前記加熱加圧時の加圧力が、500kgf/cm乃至1500kgf/cmであることを特徴とする請求項12乃至請求項15のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項18】
前記導電相原料金属を拡散させる際の熱処理温度が、300℃乃至800℃であることを特徴とする請求項12乃至請求項17のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項19】
前記導電相原料金属を拡散させる際の熱処理温度が、400℃乃至700℃であることを特徴とする請求項12乃至請求項17のいずれか一に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項20】
請求項1乃至請求項11のいずれか一に記載の蛍光体を発光層に含むことを特徴とする無機EL素子。
【請求項21】
波長450nm以下の青色乃至紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする請求項20に記載の無機EL素子。
【請求項22】
波長400nm以下の紫外線領域に発光ピークを有することを特徴とする請求項20に記載の無機EL素子。

【公開番号】特開2007−217480(P2007−217480A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37376(P2006−37376)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】