説明

蛍光体粒子の製造方法

【課題】製造工程の簡略化を図りつつ、同時に、高輝度を示す蛍光体微粒子を合成することができる新たな製造方法を提供する。
【解決手段】金属硫化物の粉末を熱プラズマ中に供給して、熱プラズマを通過させる工程を含み、前記金属硫化物は、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛である蛍光体粒子を製造する方法。発光中心となる金属元素が銀、銅、金、マンガン、イリジウムおよび希土類元素であり、共付活剤となる元素がハロゲンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の製造方法に関する。より詳細には、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を粉末原料として用いて、より微細な蛍光体微粒子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体を主たる構成成分とする無機組成物の中には、蛍光、リン光などの発光材料、蓄光材料として用いられているものがある。それらの材料の中には、電気エネルギーによって光を発する特性(エレクトロルミネッセンス(EL)特性)を有するものも含まれており、光源、表示装置の表示部などの用途で一部用いられている。しかしながら、公知の無機EL材料の多くは、電気エネルギーの光変換効率が不十分であるため発熱、消費電力などの点で問題があり、用途が限定されている。
【0003】
硫化亜鉛を母体とする蛍光体の製造方法としては、硫化亜鉛に銅化合物とハロゲン化合物とを添加した混合物を、比較的高温で長時間の第1回目の焼成により六方晶形の結晶からなる粉末状の中間蛍光体を製造する工程と、中間蛍光体に衝撃力を加えて歪みを発生させ、結晶に欠陥を生じさせる工程と、結晶欠陥の生じた中間蛍光体を比較的低温で短時間の第2回目の焼成により立方晶形の結晶を混在させる工程とを含む製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。他方、発光中心金属がドープされた硫化亜鉛を化学的に製造する方法としては、発光中心となる金属元素を含む金属塩を亜鉛塩と共存させ、水熱条件下で硫化亜鉛を生成させる方法(例えば、特許文献2参照)、あるいは、発光中心となる金属元素を含む金属塩と亜鉛塩を溶解させた溶液に、硫化剤水溶液を添加しながら反応させる液相合成方法(例えば、特許文献3参照)などが知られている。特に、特許文献2および3には、得られた蛍光体前駆体を加熱焼成し、蛍光体に変換するための処理方法も開示されている。
ところで、無機材料化合物の粒径制御の観点から、無機材料化合物の微粒子を製造する方法についても研究開発が行われており、従来利用されていた固相法、液相法の他に、気相法の一つである熱プラズマ法を用いる方法が近年報告されている(例えば、特許文献4および5参照)。例えば、特許文献4では、粉末原材料を溶媒中に加えて調製したスラリーを液滴化し、熱プラズマ中に導入して蒸発させ、このようにして得られた気相状態の混合物を急冷することにより微粒子を生成させる方法が記載されている。また、特許文献5では、硫化亜鉛と付活金属を含有する硫化物との混合物を熱プラズマ中に導入して蒸発させ、気相状態の混合物にした後、該混合物を急冷することにより蛍光体粒子を生成させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−152073号公報
【特許文献2】特開2005−264108号公報
【特許文献3】特開2007−106832号公報
【特許文献4】特開2005−170760号公報
【特許文献5】特開2009−149765号公報
【0005】
上記の方法は、それそれ固有の問題点を有する。例えば、硫化亜鉛に発光中心金属を高温条件下で固相拡散によりドープする方法では、原料の粒径や、発光中心金属を供給するための金属塩の添加方法や混合時の均一性によって、生成する粒子の内部および粒子間において、金属塩が偏在する傾向があり、発光色が均質とならない。
【0006】
また、水熱条件下に硫化亜鉛を生成させる方法では、発生する硫化水素が反応設備を著しく腐食させるため、商業生産化のためにスケールアップを図る場合に大きな障害になるという問題がある。
他方、複数種類の発光中心金属がドープされた硫化亜鉛を液相反応により調製する方法では、発光中心金属の供給源である複数の金属塩の反応速度がそれぞれ異なるために、析出速度も異なる。そのため、得られる粒子の内部における発光中心金属の均質性は十分に保たれていない。
【0007】
更に、特許文献4に開示された方法では、無機材料の微粒子を製造する際に、原料粉末のスラリーを調製し、これを液滴化して熱プラズマ装置内に投入するという手順が必要となるため、製造工程数が増加するという問題がある。また、原料粉末をスラリーとして投入した場合、原料粉末を分散させた分散液が熱プラズマ装置内に残留し、微粒子内に不純物が混入するおそれもある。
特許文献5には硫化亜鉛微粒子の製造方法が記載されているが、該方法から得られた硫化亜鉛微粒子の蛍光体としての性能に関する記載はない。硫化亜鉛と付活金属硫化物の混合物を熱プラズマ中に添加する場合、常時同量で添加することは困難である上に、硫化亜鉛及び付活金属の硫化物の分解温度が異なるため、発光中心金属のドープ量が安定せず、発光色を一定に保つことが難しい。更に、共付活剤が存在しないため、発光強度を高く保つことも難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、製造工程の簡略化を図りつつ、同時に、高輝度を示す蛍光体微粒子を合成することができる新たな製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属硫化物を熱プラズマ中に供給して加熱分解し、気相状態にしてから急冷することで、均質な蛍光体の微粒子を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明により、以下のものを提供することができる。
【0010】
[1] 蛍光体粒子を製造する方法であって、金属硫化物の粉末を熱プラズマ中に供給して、該熱プラズマを通過させる工程を含み、該金属硫化物が発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛であることを特徴とする、前記製造方法。
[2] 前記共付活剤となる元素がハロゲンである、[1]記載の製造方法。
[3] 前記金属硫化物が、200nm以下の一次粒子から構成される、30μm以下の凝集体である、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4] 熱プラズマ中を通過させて得られた蛍光体を、500℃以上の温度で再加熱する工程を更に含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の蛍光体粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法により、実用性のある高い輝度を有する蛍光体を工業的に有利に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に使用した熱プラズマ装置の構成を示す模式図。
【図2】本発明の製造方法によって得られた蛍光体粒子の粉末X線回折スペクトル。
【図3】本発明の製造方法によって得られた紫外線励起蛍光スペクトル。
【図4】本発明の製造方法によって得られた紫外線励起蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に使用される金属硫化物は、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛である。このような金属硫化物の製造方法は、特に限定されるわけではないが、代表的な製造方法としては、特許文献2または特許文献3に記載されているように、亜鉛化合物、並びに、銅、銀、金、マンガン、イリジウム及び希土類元素を含む化合物から選ばれた少なくとも1種類を含む水溶液と硫化剤とを溶媒中で反応させる液相合成法を挙げることができる。該液相合成法により得られる金属硫化物は、硫化亜鉛系蛍光体前駆体となり得ることが知られている。すなわち、該蛍光体前駆体を構成する硫化亜鉛の母体結晶構造中に、発光中心金属及び共付活元素がイオンとしてドープされた物質として得られる。特に、亜鉛化合物、硫化剤、並びに、銅、銀、金、マンガン、イリジウム及び希土類元素を含む化合物から選ばれた少なくとも1種類を含む水溶液を有機溶媒中に添加して反応混合液とし、該反応混合液を加熱し、水と有機溶媒とを共沸させながら水のみを除去することによって溶媒中に析出させた金属硫化物は、従来の方法により得られた金属硫化物に比べて多量の発光中心金属が硫化亜鉛中に分散性よくドープされている点で好ましい。
なお、本明細書中に用いられる「蛍光体の前駆体」の用語は、上記のような合成法によって得られた化合物半導体であって、母体結晶中に発光中心金属や共付活元素が一応ドープされた構造を有するが、加熱処理等が施されておらず所望の蛍光発光特性をほとんど示さない状態にある物質を意味する。
【0014】
以下に、発光中心金属及び共付活元素のイオンがドープされた硫化亜鉛を有機溶媒中で調製するための代表的な液相合成方法を説明する。
本発明に使用する金属硫化物の主要な構成元素である亜鉛を供給するための原料化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸塩、ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸などの有機酸塩、アセチルアセトネートなどの錯塩を使用することができる。特に、金属硫化物中に、亜鉛とともに、共付活剤となり得るハロゲン元素を供給することが可能であることから、塩化物、臭化物、ヨウ化物を使用することが好ましい。
【0015】
発光中心となる金属、すなわち、銀、銅、金、マンガン、イリジウムおよび希土類元素を含有する原料化合物についても、特に限定されるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸塩、ギ酸、酢酸、酪酸、シュウ酸などの有機酸との塩、アセチルアセトネートなどの配位子との錯塩を使用することができる。共沸脱水により反応混合液から水を除去した後の安定性、残留性を考慮して、有機酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は、単独で使用しても、複数を混合して使用しても構わない。
【0016】
金属硫化物の製造のために使用する硫化剤は、特に限定されるものではなく、硫化水素、硫化ナトリウム、硫化カリウムなどのアルカリ金属硫化物、チオアセトアミド、チオホルムアミドなどのチオアミド類、チオ尿素などを使用することができる。硫化剤の分解温度、安定性、分解物の残留性を考慮して、硫化水素、チオアセトアミド、チオ尿素を使用することが好ましい。なかでも、チオアセトアミドおよび/または硫化水素が好ましい。
【0017】
亜鉛化合物、硫化剤等を溶解させるために使用する水については、水に含まれる不純物と蛍光体との反応による影響で蛍光体の最終製品の品質が低下し、蛍光体製品の用途が限定されるおそれがあるため、通常灰分の含有量が100ppm以下、より好ましくは灰分10ppm以下のイオン交換水を使用する。
【0018】
亜鉛化合物の水溶液を調製する際の濃度は、亜鉛化合物が完全に溶解している限り、生成物の均質性を大きく左右する要因とはならない。ただし、濃度が濃すぎる場合には、反応生成物の析出に伴い、反応が阻害され速度が低下することがあるため好ましくなく、他方、濃度が希薄すぎる場合には、容積効率が著しく低下することがあるため好ましくない。従って、亜鉛化合物の濃度は、通常は0.01〜2モル/L、より好ましくは0.1〜1.5モル/Lの範囲に調整される。
【0019】
発光中心金属である、銀、銅、金、マンガン、イリジウムおよび希土類元素は、蛍光体中ではアクセプターとして作用するが、必要に応じて、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムのようにドナーとして作用する元素が蛍光体中に存在してもよい。その場合に、ドナーとして作用する元素を含む原料化合物の使用割合は、ドープされる金属元素の重量に基づき、得られる蛍光体前駆体の重量に対して、0.1〜150000ppmの範囲、より好ましくは、1ppm〜50000ppmの範囲、ドーピングの効果、経済性を考慮して、2〜10000ppmの範囲で含有されることが好ましい。ドナーとして作用する元素を含む原料化合物は、硫化剤と反応させるために、亜鉛化合物を溶解した水溶液中に加えた状態で供給することができる。
【0020】
使用する硫化剤の量としては、亜鉛元素に対して、0.5〜5モル倍に相当する量であればよいが、亜鉛化合物が未反応のまま残留する場合には、反応に好ましくない影響が生じることに加え、蛍光体としても色純度の低下、用途の限定などにつながるおそれがあることから、通常、亜鉛元素量の1.1〜4モル倍、より好ましくは1.1〜2モル倍の範囲で使用する。硫化剤も亜鉛化合物水溶液に溶解させて使用することが好ましい。
【0021】
硫化剤の水溶液中での濃度は、水溶液中に硫化剤が溶解可能である限り、生成物の均質性を大きく左右する要因とはならない。ただし、濃度が濃すぎる場合には、未反応の硫化剤が析出し、目的の生成物中に残留するため好ましくなく、他方、濃度が希薄すぎる場合には、未反応の亜鉛化合物が析出し、目的の生成物中に残留するため好ましくない。従って、硫化剤の水溶液中での濃度は、通常0.01〜2モル/Lの範囲内となるように調整され、より好ましくは0.1〜1.5モル/Lの範囲内となるように調整される。
【0022】
硫化剤として硫化水素を使用する場合には、水に溶解して、亜鉛化合物と同時に添加するだけでなく、反応液中に気体として連続的に供給することもできる。供給する方法としては、反応器内の液相部(すなわち原料化合物の混合溶液)に直接硫化水素ガスを供給する方法や気相部に硫化水素ガスを供給する方法が挙げられる。
【0023】
使用される有機溶剤は、特に限定されるものではなく、共沸脱水により水を除去できるものであればよい。即ち、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロドデカン、ウンデカンなどの飽和炭化水素、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、アミルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジシクロヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、ジシクロオクチルエーテル、アニソール、フェニルエチルエーテル、フェニルプロピルエーテル、フェニルブチルエーテルなどのエーテル類、ブチルアルコール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、シクロオクチルアルコールなどのアルコール類、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酪酸ブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどのエステル類などを使用することができる。溶媒の安定性、安全性、水の除去効率、精製する硫化物および原料塩の溶解による損失を考慮して、飽和炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。水と共沸する温度及び水との共沸割合の点から、実用的には、デカン、ドデカン、キシレンが好ましい。
【0024】
有機溶媒の使用量には、特に制限はなく、亜鉛元素化合物を溶解させた水溶液の添加量より多量となるように調整し、硫化物が有機溶媒中に生成することが可能であればよい。
【0025】
本発明に使用する金属硫化物の製造は、30℃〜300℃の範囲で実施することができるが、安全性、操作性の観点から、特殊な実験設備、反応器等を使用する必要のない温度、すなわち、40〜230℃の範囲、さらにチオアセトアミドの分解速度を考慮して、60℃〜200℃の範囲、より好ましくは、80℃〜180℃の範囲で実施される。
【0026】
また、該金属硫化物の製造は、基本的には、いかなる雰囲気下でも実施可能であるが、酸素が存在すると、生成物の酸化等の好ましくない副反応を抑制できないこともあるので、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、硫化剤である硫化水素ガスの雰囲気下、またはこれらの混成ガスの雰囲気下で実施することが好ましい。
【0027】
該金属硫化物を製造するための典型的な操作手順は、有機溶媒に原料化合物の水溶液を添加しながら、得られた反応混合液を加熱し、有機溶媒と水からなる混合溶媒が共沸したら、気化した溶媒を凝縮させて水を除去してから反応混合液に還流させることにより、反応混合液から水を取り除くというものである。このようにして水が取り除かれた反応混合液からは、所望の金属硫化物が徐々に析出する。析出した金属硫化物は、液相媒体から分離され、必要に応じて、水洗などの洗浄を経て、加熱、減圧下で乾燥される。
【0028】
乾燥の温度は、特に限定されるものではなく、通常10℃〜200℃で実施することができるが、水分が僅かでも存在すると、生成した金属硫化物が酸化される可能性があるため、乾燥工程は150℃以下、好ましくは、50℃〜120℃で実施される。
【0029】
共付活剤の含有量は、洗浄、乾燥方法に依存するため、特に限定されるものではないが、少なくとも発光中心となる金属の含有量と同程度の量で存在することが好ましい。従って、金属硫化物中に含まれる共付活剤の量としては、50,000ppm以下、より好ましくは、30,000ppm以下がよい。上記洗浄、乾燥方法によれば、通常約50,000ppm程度の量の共付活剤が金属硫化物中に残留するため、十分な量の共付活剤が含まれていることになる。
【0030】
本発明に使用する金属硫化物の粒度については、硫化剤の濃度、反応温度による反応速度の影響を考慮することにより、粒度を調整することができる。一次粒子の大きさとしては、特に制限されるものではないが、該金属硫化物を熱プラズマ中に導入した際に均質な分解生成物が得られるように、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお、一次粒子の平均粒径の下限には特に制限はないが、通常5nm以上、より一般的には8nm以上である。
【0031】
更に、一次粒子の凝集体の粒径としては、熱プラズマ中に粒子を添加する際の流動性を維持できる程度の粒径であればよいが、該凝集体の粒径が大きすぎる場合には、熱プラズマ中で一次粒子に分解するのに時間がかかり、分解生成物の均質性が低下するため好ましくない。従って、該凝集体の平均粒径は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の製造方法は、金属硫化物の粉末を熱プラズマ中に供給し、熱プラズマを通過させる工程を含む。該金属硫化物は、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛であり、例えば、硫化亜鉛からなる母体結晶中に発光中心金属及び共付活剤元素がドープされている硫化亜鉛系蛍光体前駆体である。本発明では、粉末を安定に熱プラズマ中に供給するために、キャリアガスを使用することが好ましい。本発明では、金属硫化物の粉末を適当なキャリアガスを用いて熱プラズマ中に導入することで、金属硫化物を熱分解し、熱分解物とキャリアガスとの混合気体を形成する。キャリアガスとしては特に限定されるものではなく、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、亜硫酸ガスなどの酸化性ガスを使用することができる。熱プラズマ内での熱分解反応のみを起こさせるためには、不活性ガス下に実施することが好ましく、アルゴン下に実施することがより好ましい。流量としては、特に限定されるものではなく、使用する粉末を安定的に供給できればよく、通常0.1ml/分から2L/分の範囲、より好ましくは、0.5ml/分から1L/分の範囲で供給される。プラズマを発生させる雰囲気としても特に限定されるものではなく、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、亜硫酸ガスなどの酸化性ガスを使用することができる。熱プラズマ内での熱分解反応のみを起こさせるためには、不活性ガス下に実施することが好ましく、アルゴン下に実施することがより好ましい。混合気体が熱プラズマの中からその外部に出ると、熱プラズマの内外の著しい温度差のために急冷されることとなり、混合気体中の原子は凝集して蛍光体微粒子が形成される。このように、既知の組成を有する蛍光体前駆体を熱プラズマ中で原子レベル又はクラスターレベルにまで分解し、原子を凝集させることで、該蛍光体をナノサイズの微粒子として得ることができる。ここで、クラスターとは、原子及び分子が、数個〜数十個集合した状態のものをいう。
【0033】
蛍光体をナノサイズの微粒子とすることで、蛍光体微粒子を表示装置等に用いる発光素子に使用した場合、その粒径が小さい蛍光体微粒子である方が、粒径の大きな蛍光体微粒子を同体積で用いた場合と比較して、発光に用いられる表面積を大きくすることができるため、その発光素子の輝度を向上させることができる。また、ナノサイズの蛍光体微粒子にすることで蛍光体微粒子の表面が活性化されて発光効率を高めることができる。
【0034】
本発明の製造方法では、粉末を直接熱プラズマ中に導入するため、原料粉末を液体中に分散させて分散液(スラリー)、固液混合物等にする場合と比較して製造工程の簡略化を図ることができる。
【0035】
前述のとおり、本発明では、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛を熱プラズマ中に供給して得られる混合気体は、熱プラズマ中からその外部に出る急冷されるが、予め熱プラズマの周囲の温度を制御することによって、急冷による混合気体の温度低下を制御することが好ましい。熱プラズマの周囲の温度を制御する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラズマを発生させるチャンバーに混合気体を導入する前の段階及び/又は該チャンバーから混合気体を排出した後の段階の適当な箇所に温度調整可能なヒーターを設置して制御することができる。温度制御の例としては、硫化亜鉛のように相転移点を有する物質が母体材料である場合、上記母体材料中に発光中心金属及び共付活剤元素がドープされている蛍光体を、母体材料の相転移点より低い又は高い温度にまで急冷するようにチャンバーの外部温度を制御することによって、製造された蛍光体微粒子の構造を制御することができる。
【0036】
本明細書中に使用される「熱プラズマ」の用語は、熱平衡状態にあるプラズマのことであり、通常はイオン、電子、中性原子等の温度がほぼ等しく、それらの温度が0.5〜2.0eVのプラズマのことをいう。
本発明に使用する熱プラズマは、高周波誘導によって発生させることができる。この場合、プラズマは、大気雰囲気下、又は、不活性ガス雰囲気下で発生させることができるが、生成物が酸素による酸化を抑制するために、酸素不存在の雰囲気下、特に、不活性ガス雰囲気下で熱プラズマを発生させることが好ましい。具体的には、窒素又はアルゴンの雰囲気下で発生させることが好ましい。
【0037】
熱プラズマを用いることによって、被熱物体を容易に高温に加熱することが可能である。また、熱プラズマ中では反応速度が大きく向上し、活性化エネルギーの高い反応でも容易に進行させることが可能となる。プラズマエネルギーは、例えば、プラズマ放電の電圧を調整することで制御することができる。また、高周波電源を使用して放電を行う場合には周波数を調整することで制御することができる。
【0038】
本発明では、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛を熱分解させて、気相状態とするために、中心温度が1200℃以上の熱プラズマ中を通過させることが好ましい。大気圧における硫化亜鉛の昇華温度は1180℃であり、中心温度が1200℃以上の熱プラズマであれば、前記硫化亜鉛を原子レベル又はクラスターサイズまで分解することができる。熱プラズマの温度が、前記の昇華温度未満である場合には、原子レベルまで分解されずに熱プラズマ中を通過してしまうおそれがある。熱プラズマの中心温度は、熱プラズマ装置の安定性の観点から10000℃以下であることが好ましい。10000℃以上である場合には、熱プラズマ装置中で発生させる熱プラズマの温度が安定しないおそれがある。よって、熱プラズマの中心温度は1200〜10000℃の温度範囲であることがより好ましく、1400〜8000℃であることが更に好ましい。
【0039】
本発明では、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛の熱分解により得られた混合気体を、800℃以下に冷却することが好ましい。該硫化亜鉛から生成させた混合気体は、熱プラズマを出ると急冷されることとなるが、熱プラズマから出た後の5秒以内に800℃以下の温度に冷却されることが好ましく、1秒以内に冷却されることがより好ましい。該冷却時間が5秒を超えると六方晶の硫化亜鉛が過剰に生成するおそれがあるため好ましくない。本発明では、中心温度1200℃以上の熱プラズマ中を通過するように該硫化亜鉛を供給した後、800℃以下の構造相転移点より低い温度まで急冷することによって、生成物の粒子が必要以上に肥大化することを抑制し、その粒径を小さくすることができる。
【0040】
また、熱プラズマ装置内の圧力に関しては、平均自由工程距離が大きくなる真空雰囲気が好ましい。よって、好ましい熱プラズマ装置内の圧力は、1×10−4〜1×10−2Paの範囲であり、より好ましくは、1×10−3Pa程度である。
【0041】
本発明では、得られた生成物の粒子は、バグフィルター、静電捕集機などにより捕集することで、容易に回収することが出来る。
【0042】
更に、上記の方法を用いて製造された蛍光体微粒子を500℃以上の温度で加熱してよい。上記の方法では、急冷された蛍光体は、分子運動を凍結され、不安定な形状、粒子内のひずみを有している場合がある。そのため、500℃以下の温度により、蛍光体を安定化することも可能である。
【0043】
また、加熱前に、結晶系を低温で安定な立方晶に転移させるために、急冷することによって、生成する結晶に歪みを与えることも可能である。歪みを与える方法としては特に制限されるものではなく、超音波の照射、衝撃波の付与など、波動の性質とエネルギーを利用して生成物の結晶構造に歪みを与える方法によって、あるいは、ボールミル、ターボミルなど、粒子に打解衝撃を与える方法によって実施することもできる。これらの方法は、乾式で実施することもできるし、水、メタノールなどのプロトン性溶媒、またはヘキサン、ヘプタンなどの非プロトン性の溶媒下で湿式にて実施することも可能である。
【0044】
加熱の方法には、特に限定はなく、静置加熱、移動床による加熱のいずれの方式を採用してもよく、バッチ式炉、ロータリーキルンなどの連続式炉を使用してもよい。
【0045】
加熱する場合の雰囲気としては、酸化により硫化亜鉛が酸化亜鉛に変化することが好ましくないため、通常、加熱処理は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で実施される。
【0046】
加熱炉から蛍光体生成物を取り出す温度も、特に限定されるものではないが、外気に接触した場合の安全性を確保するとともに、蛍光体生成物の酸化を抑制するために、通常、300℃以下の温度で取り出すことができ、より好ましくは200℃以下の温度で取り出す。
蛍光体が形成されたことは、蛍光量子収率を測定することによって確認することができる。蛍光量子収率とは、入射光による励起によって放出された光子の数と物質に吸収された入射光の光子の数との比であり、この数値が大きいほどドーピング効果が高いことを意味する。蛍光量子収率は、蛍光分光光度計によって測定することができる。
本明細書中、「平均粒径」の用語は、以下の実施例において実際に使用されているような市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定された、体積基準の粒度分布に基づいて決定される累積体積平均メジアン径(D50)を表わすものとする。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を掲げ、本発明を図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に示された態様のみに限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例で得られた硫化亜鉛粒子の蛍光スペクトルの測定のために使用した測定装置は以下のとおりである。
測定装置:日本分光株式会社製 FP−6500
励起波長:350nm
励起バンド幅:5nm
ソフトウェア:Spectra Manager for Windows(登録商標) 95/NT Ver1.00.00 2005 日本分光株式会社製
粉末X線結晶回折の測定は、株式会社リガク製 RINT2400 Ru-H2Rを使用して行った。
粒度分布の測定は、堀場製作所製 LA-950を使用して行った。
ICP発光分光法によるCuの元素分析は、ジャレールアッシュ社製ICP発光分光装置IRIS APを使用して行った。
【0048】
<参考例1>(蛍光体前駆体の製造例1)
塩化亜鉛136g、塩化銅0.193g(銅1000ppm相当)、チオアセトアミド112.0g、塩酸3gをイオン交換水500gに溶解した。2L三つ口フラスコに、ジーンスターク、還流管、温度計、攪拌器を装着し、o−キシレン800mlを取り、系内を窒素置換した。オイル浴の内温を150℃に調整し、反応器内のキシレンを130℃に昇温したのち、酢酸亜鉛を含有する溶液を毎時100mlで加えながら、留出する水をジーンスタークで除去しながら反応を進めた。約6時間で全ての水溶液をフィードし、更に30分間系内の水分を除去した。室温に冷却後、析出した硫化物を沈殿させ、有機溶剤を除去して、目的物を回収し、真空乾燥機を使用して、100℃で12時間乾燥させた。回収量は、91.6gであり、理論量の95%であった。得られた蛍光体前駆体の一次粒子及びその凝集体の平均粒径を粒度分布測定データから算出した結果、ぞれぞれ200nm、6.5μmであった。
【0049】
<参考例2>(蛍光体前駆体の製造例2)
酢酸亜鉛2水和物131.8g、硝酸銅・3水和物0.140g(銅1000ppm相当)、チオアセトアミド90.0g、酢酸5gをイオン交換水1000gに溶解した。2L三つ口フラスコに、ジーンスターク、還流管、温度計、攪拌器を装着し、o−キシレン1600mlを取り、系内を窒素置換した。オイル浴の内温を150℃に調整し、反応器内のキシレンを130℃に昇温したのち、酢酸亜鉛を含有する溶液を毎時100mlで加えながら、留出する水をジーンスタークで除去しながら反応を進めた。約6時間で全ての水溶液をフィードし、更に30分間系内の水分を除去した。室温に冷却後、析出した硫化物を沈殿させ、有機溶剤を除去して、目的物を回収し、真空乾燥機にて、100℃12時間乾燥した。回収量は、57.8gであり、理論量の98%であった。得られた蛍光体前駆体の一次粒子及びその凝集体の平均粒径を粒度分布測定データから算出した結果、ぞれぞれ150nm、4.7μmであった。
【0050】
<実施例1>
蛍光体微粒子を製造する装置としては、熱プラズマ装置(日清エンジニアリング社製)を用いた。図1に熱プラズマ装置の構成を模式的に示す。チャンバー(1)の内部を真空引きし、その後、プラズマガス供給源(2)からArガスを原料供給装置(3)に導入する。Arガスは3ml/分の流量で、原料供給装置に供給される。このとき、チャンバー内の圧力は1×10−3Paとした。そして、20kWのプラズマエネルギーで熱プラズマ(4)を発生させる。このとき、熱プラズマの中心部温度は約2000℃であり、熱プラズマ外周部温度は200〜500℃である。
【0051】
次に、熱プラズマ装置の原料供給装置(3)から、参考例1で作製した前駆体を50g投入する。投入された前駆体は、熱プラズマの中心部を通過して直後に100〜200℃に急冷される。急冷されることで凝集が起こり蛍光体微粒子が生成される。凝集して形成された蛍光体微粒子は、回収される。このとき、生成されたZnS:Cuの蛍光体微粒子の平均粒径が40nmである。また、得られた蛍光体粒子のX線測定を行った結果を図2に示す。生成された蛍光体微粒子中の立方晶の割合は60%であり、残りは六方晶であった。
得られた蛍光体0.5gを10重量%シアン化ソーダ水溶液20mlで洗浄し、ろ液が中性になるまでイオン交換水で水洗した。洗浄によって得られた分散液を80℃12時間真空乾燥し、蛍光体1を得た。
得られた蛍光体のICP発光分析による銅の含有量の測定結果を表1に、蛍光量子収率を表2に、紫外線励起蛍光スペクトルの結果を図3に示す。
【0052】
<実施例2>
実施例1で得られた蛍光体10.5gを真空置換炉を用いて、窒素下700℃で焼成した。700℃までの昇温速度は10℃/分であり、700℃で2時間保持した。200℃/時で冷却し、80℃で取り出した。
得られた蛍光体の蛍光量子収率を表2に、紫外線励起蛍光スペクトルの結果を図4に示す。
【0053】
<比較例1>
参考例2で得られた前駆体50gを使用した以外は、実施例1と同様に行った。得られた回収物は、紫外線励起によって蛍光を示さなかった。ICP発光分析による銅の含有量の測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

参考例1で得られた蛍光体先駆体には共付活剤として塩素がドープされているのに対し、参考例2で得られた蛍光体前駆体には共付活剤は含まれていない。
発光中心となる銅の含有量を比較すると、実施例1及び実施例2、比較例1では、それぞれ原料として蛍光体先駆体の銅含有量よりも増加している。
蛍光体の蛍光量子収率は、実施例2が実施例を大きく上回る値となり、実施例1の後に追加的に実施した加熱焼成が発光特性の向上に寄与していることが分かる。他方、比較例1について蛍光量子収率の値は0であり、本発明の製造方法により得られる蛍光体粒子において、共付活剤の使用の有無が発光特性の発現に顕著な影響を与えていることが示された。
【符号の説明】
【0056】
1.チャンバー
2.プラズマガス供給源(Arガス供給源)
3.原料供給装置
4.熱プラズマ(プラズマトーチ)
5.高周波発振用コイル
6.回収チャンバー
7.フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子を製造する方法であって、金属硫化物の粉末を熱プラズマ中に供給して、熱プラズマを通過させる工程を含み、前記金属硫化物は、発光中心となる金属元素及び共付活剤となる元素をドーパントとして含む硫化亜鉛であることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記共付活剤となる元素がハロゲンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属硫化物が、平均粒径200nm以下の一次粒子からなる、平均粒径30μm以下の凝集体として得られる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
熱プラズマ中を通過させて得られた蛍光体を、500℃以上の温度で再加熱する工程を更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate