説明

蛍光発光性化合物およびこれを用いた水分検出方法

【課題】低極性の試料中でも蛍光強度変化量が大きく、試料中の水分を検出可能な蛍光発光性化合物及びこれを用いた水分検出方法を提供する。
【解決手段】蛍光発光性化合物は、式1又は式2で表される。


(式1及び式2中、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、Aはスペーサー、Bは蛍光発光母体、Zはルイス酸基を表す。)
蛍光発光性化合物は水と直接反応して蛍光性イオン構造になり、蛍光を発する。水と直接反応するので、試料の極性の影響を受けにくく、低極性の試料中の水分を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる水分の検出に用い得る蛍光発光性化合物およびこれを用いた水分検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤、固体材料、及び、大気中に含まれる微量水分を検出することは、生物工学、工業製品や食品等の品質管理、環境モニタリングなどの自然環境や人間生活の面で非常に重要である。有機溶剤等の試料に含有する微量水分を検出すべく、非特許文献1〜3に示すように、蛍光性水センサー色素の開発が行われている。これらの蛍光性水センサー色素を用いた水分検出では、水分子の極性を利用し、水分含有量の増加に伴う試料の極性の増大を蛍光強度の減少によって追跡している。
【0003】
しかしながら、非特許文献1〜3の蛍光性水センサー色素を用いた水分検出方法では、試料中に含まれる水分以外の極性物質に強く影響を受ける。すなわち、水分以外の極性物質が蛍光物質に付着してしまい、蛍光物質が発する蛍光強度が低下してしまう。このため、微量な水分量を正確に検出することは困難であった。
【0004】
また、極性物質の影響を受けにくい蛍光発光性化合物として、カルボキシル基等のプロトン性酸性基を有する蛍光発光性化合物が開示されている(非特許文献4)。非特許文献4に開示されている蛍光発光性化合物は光誘起電子移動特性(PET:Photo−induced Electron Transfer)を利用したものである。蛍光発光性化合物はプロトン性酸性基を有しており、水の存在によりプロトン性酸性基が解離し、蛍光を発する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Optical sensor for on−line determination of solvent mixtures based on a fluorescent solvent polarity probe」Manfred A.Kessler,Jurgen G.Gailer,Otto S.Wolfbeis ;Sensors and Actuators B,3(1991);267−272
【非特許文献2】「Fluorescense water sensor based on covalent immobilization of chalcone derivative」Cheng−Gang Niu,Ai−Ling Guan,Guang−Ming Zeng,Yun−Guo Liu,Zhong−Wu Li ;Analytica Chimica Acta 577(2006);264−270
【非特許文献3】「Fuluorescence sensor for water in organic solvents prepared from covalent immobilization of 4−morpholinl−1,8−naphthalimide」Cheng−Gang Niu,Ai−Ling Guan,Guang−Ming Zeng,Yun−Guo Liu,Zhong−Wu Li ;Anal Bioanal Chem(2007)387;1067−1074
【非特許文献4】Y.Ooyama,M.Sumomogi,T.Nagano,K.Kushimoto,K.Komaguchi,I.Imae and Y.Harima,Org.Biomol.Chem.,2011,9,1314.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献4の蛍光発光性化合物は、低極性溶媒(低親水性溶媒)中では酸性プロトン酸基が解離し難い。低極性溶媒の低水分量での蛍光強度の変化が小さいため、水分の検出限界が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低極性の試料中でも蛍光強度変化量が大きく、試料中の水分を検出可能な蛍光発光性化合物及びこれを用いた水分検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る蛍光発光性化合物は、
式1又は式2で表される、
ことを特徴とする。
【化1】

(式1及び式2中、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、Aはスペーサー、Bは蛍光発光母体、Zはルイス酸基を表す。)
【0009】
また、前記ルイス酸基が式3乃至式22のいずれかで表される基であることが好ましい。
【化2】

(式4、式5、式8、式9、式12、式13、式16、式17、式20及び式21中、Rはアルキル基を表す。)
【0010】
また、前記蛍光発光母体がアントラセン系骨格、クマリン系骨格またはピレン系骨格であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る水分検出方法は、
本発明の第1の観点に係る蛍光発光性化合物を試料に添加して前記蛍光発光性化合物と前記試料中の水とを反応させ、
紫外線を照射して前記蛍光発光性化合物が発する蛍光の強度を測定して前記試料中の水分量を検出する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る蛍光発光性化合物は、PET特性を有し通常の状態では蛍光を発さないが、水が介在するとPET特性が不活性になり蛍光を発する化合物である。すなわち、蛍光発光性化合物は水分子と反応し、水分子のヒドロキシイオンがルイス酸基と、水素イオンがアミノ基とそれぞれ結合して、PET特性が不活性となり蛍光を発する。この蛍光を蛍光強度計等で測定することにより、水分量の検出ができる。蛍光発光性化合物は水と直接反応するので、試料の極性の影響を受けにくく、低極性の試料中でも水と反応する。また、一分子の蛍光発光性化合物が一分子の水と反応し、反応する分子数の増大に伴って蛍光強度が増大する。このため、低極性の有機溶媒等に含有する微量の水分をも検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】水が存在しない状況下での蛍光発光性化合物のメカニズムを説明する図である。
【図2】水が存在しない状況下での蛍光発光性化合物のメカニズムを説明する図である。
【図3】水が存在する状況下での蛍光発光性化合物のメカニズムを説明する図である。
【図4】水が存在する状況下での蛍光発光性化合物のメカニズムを説明する図である。
【図5】実施例において、1,4−dioxane中での水分量増加に伴う化合物1の吸収スペクトル変化を示す図である。
【図6】実施例において、1,4−dioxane中での水分量増加に伴う化合物1の蛍光スペクトル変化を示す図である。
【図7】実施例において、1,4−dioxane中での水分量増加に伴う化合物1の発光強度の変化を示す図である。
【図8】実施例において、THF中での水分量増加に伴う化合物1の吸収スペクトル変化を示す図である。
【図9】実施例において、THF中での水分量増加に伴う化合物1の蛍光スペクトル変化を示す図である。
【図10】実施例において、THF中での水分量増加に伴う化合物1の発光強度の変化を示す図である。
【図11】実施例において、Acetonitrile中での水分量増加に伴う化合物1の吸収スペクトル変化を示す図である。
【図12】実施例において、Acetonitrile中での水分量増加に伴う化合物1の蛍光スペクトル変化を示す図である。
【図13】実施例において、Acetonitrile中での水分量増加に伴う化合物1の発光強度の変化を示す図である。
【図14】実施例において、Ethanol中での水分量増加に伴う化合物1の吸収スペクトル変化を示す図である。
【図15】実施例において、Ethanol中での水分量増加に伴う化合物1の蛍光スペクトル変化を示す図である。
【図16】実施例において、Ethanol中での水分量増加に伴う化合物1の発光強度の変化を示す図である。
【図17】実施例において、1,4−dioxane、THF、Acetonitrile、Ethanol中での水分量増加に伴う化合物1の発光強度の変化を示す図である。
【図18】実施例において、1,4−dioxane、THF、Acetonitrile、Ethanol中での水分量増加に伴う化合物2の発光強度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(蛍光発光性化合物)
本実施の形態に係る蛍光発光性化合物は、式1又は式2で表される。
【化3】

【0015】
式1及び式2中、Zはルイス酸基である。ルイス酸基は、電子対受容体であり、電子対を受け取ることのできる空の軌道を備える。すなわち、水分子が解離して生じる水酸化物イオン(OH)を受け取ることができる。ルイス酸基として、OHを受容できる基であれば特に制限はないが、ルイス酸性度が高い基であることが好ましい。一例として、以下の式3〜式22で表される基が挙げられる。式3〜式22中のB、Al、Ti、Gaに、OHが結合する。なお、式4、式5、式8、式9、式12、式13、式16、式17、式20及び式21中、Rはアルキル基である。
【化4】

【0016】
式1及び式2中、Bは、蛍光発光母体である。蛍光発光母体として、光照射(紫外線)を受けて蛍光を発するものであれば制限されることはなく、一例として、−C14−等のアントラセン系骨格、−C(CHO)−等のクマリン系骨格または−C16−等のピレン系骨格が挙げられる。
【0017】
式1及び式2中、Aはスペーサーである。アミノ基の窒素と蛍光発光母体との間にこれらのスペーサーを備えていることにより、アミノ基(窒素)の電子が蛍光発光母体に供与される。なお、アミノ基と蛍光発光母体が直接結合している場合では、アミノ基は蛍光発光母体の一部となり、アミノ基(窒素)から蛍光発光母体への電子供与は生じない。
【0018】
また、アミノ基の窒素とルイス酸との間にスペーサーを備えていることにより、水分子が解離して生じる水素イオン及び水酸化物イオンは、それぞれアミノ基及びルイス酸基と結合する。
【0019】
スペーサーは上記機能を果たす限り、特に限定されず、例えば、−O−(酸素)、−CH−、−CH−C−等が挙げられる。
【0020】
また、式1及び式2中、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基である。
【0021】
上述した蛍光発光性化合物は、水分子が存在しない状況下では、蛍光を発しない。蛍光は、蛍光発光母体に光(紫外線)が照射されて、励起状態になり基底状態に戻る際に発生されるものである。図1に示すように、水が介在しない状況下では、光が蛍光発光性化合物に照射されると、電子供与体であるアミノ基(窒素)から蛍光発光母体(ここでは、アントラセン骨格)へ電子が供与される。蛍光発光母体の近くに電子密度の高い電子供与体があると、所謂光誘起電子移動特性(PET:Photo−induced Electron Transfer)がおこるためである。
【0022】
より詳細に説明すると、図2に示すように、光が蛍光発光性化合物に照射されると、蛍光発光母体が励起されて、HOMO準位の電子がLUMO準位に移る。そして、蛍光発光母体にスペーサーを介して結合しているアミノ基(窒素)のHOMO準位は、蛍光発光母体のHOMO準位よりも高いエネルギー準位にあり、光誘起電子移動特性によって、アミノ基(窒素)のHOMO準位の電子は、より低いエネルギー準位にある蛍光発光母体のHOMO準位に移ることになる。このアミノ基(窒素)からの電子移動は、蛍光発光母体のLUMO準位からHOMO準位への電子移動よりも先に起こる。このように、蛍光発光母体のLUMO準位からHOMO準位への電子移動が阻害されるので、蛍光発光母体は蛍光を発しない。
【0023】
このように、水が介在しない状況下では、蛍光発光母体が励起されてLUMO準位に移った電子がHOMO準位に戻ることができないため、蛍光発光母体は蛍光を発しない。
【0024】
一方で、蛍光発光性化合物は、水分子が存在する状況下では、光誘起電子移動特性が起こらず、蛍光を発することになる。
【0025】
図3に示すように、水が存在する状況下では、蛍光発光性化合物が直接水と反応する。水分子が解離して生じた水酸化物イオン(OH)は、蛍光発光性化合物のルイス酸基(ここでは、ボロン酸エステル基のホウ素)に結合する。また、生じた水素イオン(H)がアミノ基の窒素と結合する。このように、水を介在させることで蛍光発光性化合物は蛍光性イオン構造になり、PET不活性になる。すなわち、アミノ基の窒素に水素イオンが結合するため、アミノ基(窒素)のHOMO準位は低くなる。
【0026】
この状態で、光が蛍光発光性化合物に照射され、蛍光発光母体が励起されると、図4に示すように、蛍光発光母体のHOMO準位からLUMO準位に電子が移る。LUMO順位に移った電子は再度蛍光発光母体のHOMO準位に戻ってくるので、この際に蛍光を発する。アミノ基(窒素)のHOMO準位は水素イオンとの結合によって、蛍光発光母体のHOMO準位よりも低くなっているので、アミノ基(窒素)の電子はそれよりもエネルギー準位の高い発光母体のHOMO準位に移ることはなく、LUMO準位に移った電子がHOMO準位に戻ることを妨げないからである。
【0027】
上述した式(1)で表される蛍光発光性化合物を合成できるならば、どのような方法であっても構わない。例えば、アントラセン系骨格、クマリン系骨格、またはピレン系骨格の蛍光発光母体にスペーサーを介してアミノ基が結合した化合物と、ハロゲン及びルイス酸基を有する化合物とを反応させることで蛍光発光性化合物が得られる。
【0028】
(水分検出方法)
上述した蛍光発光性化合物を用いて、以下のように有機溶剤や固体材料等の試料中に含まれる微量水分を検出できる。
【0029】
水を含有する有機溶剤等の試料に蛍光発光性化合物を添加する。蛍光発光性化合物は上述したように水分子と反応し、PET特性が不活性になる。この試料に紫外線を照射することにより、蛍光発光性化合物が蛍光を発する。蛍光発光性化合物が発する蛍光の強度を、蛍光強度計等を用いて測定することにより、試料に含まれる微量水分の検出をすることができる。
【0030】
一分子の蛍光発光性化合物が、一分子の水と反応して、蛍光を発する。蛍光強度は蛍光発光性化合物と水との反応数が増加するにつれて強くなるので、微量な水分量であっても高感度で、且つ、定量的に検出することができる。
【0031】
更に、蛍光発光性化合物は水と直接反応するため、蛍光発光特性は試料の極性の影響を受けにくい。このため、低極性溶媒等の試料に対しても、含有する微量な水分量を検出することができる。
【0032】
なお、蛍光発光性化合物は水と反応し、蛍光を発する構造になるが、脱水することで元の蛍光発光性化合物に戻る。このため、使用した蛍光発光性化合物を試料から分離して取り出して再利用することもできる。
【実施例】
【0033】
(9−[[N−Methyl−N−(2−(4,4,5,5−tetramethyl−[1,3,2]dioxaborolan−2−yl)−benzyl)amino]methyl]−anthracene(化合物1)の合成)
【0034】
三口フラスコに9−メチルアミノメチルアントラセン0.19g(0.84mmol)をジメチルホルムアミド70mlに溶解させた。
NaH0.08g(2.1mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。
その後、2−ブロモメチルフェニルボロン酸ピナコールエステル1.0g(3.37mmol)をゆっくり加えながら室温で1時間撹拌した。
反応終了後、反応溶液を減圧濃縮して塩化メチレン−水で抽出・洗浄した後、減圧下で濃縮した。
得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン:メタノール=10:1)により分離精製し、化合物1(0.08g,収率:22%)を得た。
【0035】
上記の化学反応式を示す。
【化5】

【0036】
得られた化合物1の測定値を以下に示す。
M.p.52−55℃;
IR(ATR):ν=2976(m),1343(s),1142(m)cm−1
HNMR(400MHz,[D2]dichloromethane,25℃,TMS)δ=1.27(s,12H,CH×4),2.17(s,3H,CH),4.0(s,2H,CH),4.36(s,2H,CH),7.26−7.30(m,1H),7.38−7.47(m,6H),7.8(d,J=8.2Hz,1H),7.96−7.99(m,2H),8.34(dd,J=1.9and8.9Hz,2H),8.38(s,1H);
HRMS(APPI):m/z(%):438.2597(100)[M+H].
【0037】
(水分量の検出)
得られた化合物1を用いて、各種溶液の水分量の検出を行った。
【0038】
化合物1を約5×10−6mol(1.6mg程度)、無水溶媒の1,4−dioxaneに溶解させ、50mL(1×10−4mol/L)の溶液を得た。
【0039】
得られた溶液にそれぞれ異なる分量の水を入れ、種々の水分量(0.073〜40wt%)の試料溶液を調製した。
【0040】
それぞれの水分量の試料溶液に光を照射し、吸収スペクトル、蛍光スペクトル、蛍光強度を測定した。なお、測定条件は以下の通りである。
測定装置:HITACHI F−4500 測定条件:励起波長(光照射波長):366nm スキャンスピード:1200nm/min 励起側スリット:5.0nm 蛍光側スリット:5.0nm ホトマル:400V レスポンス:0.004s
【0041】
また、無水溶媒としてTHF(Tetrahydrofuran)、acetonitrile、ethanolを用い、上記の1,4−dioxaneを用いた場合と同様の条件にて、種々の水分量の試料溶液を調製し、吸収スペクトル、蛍光スペクトル、蛍光強度をそれぞれ測定した。
【0042】
その結果を図5〜図16に示す。図5,8,11,14の吸収スペクトルを見ると、いずれの無水溶媒中においても、水分量の増大による吸収スペクトルの変化はほとんど見受けられない。
【0043】
一方、図6,9,12,15の蛍光スペクトルを見ると、水分量の増加に伴って蛍光スペクトルのピークは増大している。また、図7,10,13,16の蛍光強度は、図6,9,12,15の最大ピークをプロットしたものであるが、水分量の少ない領域では、水分量の増加に伴って蛍光強度が急激に増大していることがわかる。なお、1,4−Dioxane及びTHFでは、水分量1〜5wt%にかけて蛍光強度が急激に増大している。一方、Acetonitrile及びEthanolでは、水分量5wt%までに徐々に蛍光強度が増加している。Acetonitrile及びEthanolが1,4−Dioxane及びTHFよりも極性が高いため、加水分解時の蛍光性イオン構造がより安定するためであると考えられる。
【0044】
また、図17に、水分量が1.2wt%以下の低水分量における蛍光強度の変化を示している。
【0045】
また、参考例として、非特許文献4に記載の蛍光発光性化合物(以下、化合物2と記す)を調製し、上記と同様の条件にて、蛍光強度を測定した。水分量が1.2wt%以下の低水分量における化合物2の蛍光強度の変化を図18に示す。
【0046】
いずれの溶媒中においても、化合物1の蛍光強度の変化は、化合物2の蛍光強度の変化よりも大きいことがわかる。
【0047】
特に、極性の低い1,4−DioxaneとTHFでは、化合物2は水分量の増加に伴う蛍光強度の変化はほぼ見受けられない。一方、化合物1では水分量の増加に伴って蛍光強度が大きくなっていることがわかる。
【0048】
また、図17及び図18から、化合物1及び化合物2の検出限界及び定量限界をそれぞれ算出した。算出した化合物1の検出限界及び定量限界を表1に、化合物2の検出限界及び定量限界を表2にそれぞれ示す。
なお、それぞれの検出限界及び定量限界は以下の式31及び式32を用いて算出した。
検出限界=3.3σ/slope・・・(式31)
定量限界=10σ/slope・・・(式32)
式31及び式32中、σはブランクの標準偏差、slopeは図17及び図18それぞれの検量線の傾きである。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
化合物1は化合物2よりも、検出限界及び定量限界が高いことがわかる。特に、化合物2では、低極性溶媒である1,4−Dioxane及びTHFに対し、微量水分の検出が不可能であるが、一方、化合物1では0.2wt%までの水分を検出できる。このように、化合物1では、低極性の試料中に含有する微量水分の検出が可能であることを立証した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
蛍光発光性化合物は、水分子が介在すると水と直接反応して蛍光性イオン構造となり、蛍光を発する。この蛍光を蛍光強度計等で測定することにより、水分量の検出ができる。低極性の溶媒中においても、含有する微量な水分量を検出することができ、化学薬品や医療品等の品質管理、排管等の水漏れの検出等、種々の分野にて利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1又は式2で表される、
ことを特徴とする蛍光発光性化合物。
【化1】

(式1及び式2中、Rはそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、Aはスペーサー、Bは蛍光発光母体、Zはルイス酸基を表す。)
【請求項2】
前記ルイス酸基が式3乃至式22のいずれかで表される基である、
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光発光性化合物。
【化2】

(式4、式5、式8、式9、式12、式13、式16、式17、式20及び式21中、Rはアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記蛍光発光母体がアントラセン系骨格、クマリン系骨格またはピレン系骨格である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光発光性化合物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光発光性化合物を試料に添加して前記蛍光発光性化合物と前記試料中の水とを反応させ、
紫外線を照射して前記蛍光発光性化合物が発する蛍光の強度を測定して前記試料中の水分量を検出する、
ことを特徴とする水分検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−197384(P2012−197384A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63291(P2011−63291)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年 3月 9日、http://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2011/cc/c1cc10470e
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】