説明

血圧上昇抑制剤

【課題】血圧上昇抑制作用を有し高血圧症の予防や改善に寄与でき、連用しても副作用の恐れの殆どない、効果的で安全性の高い血圧上昇抑制剤、およびその安価で効率的な製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明による血圧上昇抑制剤は、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする血圧上昇抑制剤、およびその製造方法に関する。本発明はまた、血圧上昇抑制剤含む、飲食品組成物または医薬品組成物に関する。さらに本発明は、ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる飲食品組成物に関する。
【0002】
背景技術
食生活の欧米化、運動不足、ストレス、喫煙、および遺伝的要因などが引き金となって、いわゆる生活習慣病の代表格である高血圧症および高脂血症(例えば、高コレステロール血症、高中性脂肪血症)が引き起こされることは、広く知られている。これらのなかでも、高血圧症は、最も罹患率が高く、医療経済面からも早急な対応を要する疾患である。
【0003】
一般に、高血圧症の症状の改善のためには、利尿剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、交感神経遮断薬、または血管拡張剤などによる薬物療法が行われている。しかしながら、これらの薬物療法は、胃の不快感、下痢、および血管浮腫などの様々な副作用を伴うことが報告されている。このため、副作用がほとんど無く、日常的に摂取できる食品による高血圧症の予防と改善が社会的に求められている。
【0004】
ボイセンベリー(Rubus ursinus×idaeusまたはRubus loganobaccus and Rubus baileyanus Britt.)は、ブラックベリーとラズベリーの交配種とも、野生ベリー種の突然変異の選抜種とも言われる、欧米では人気のベリーである。
【0005】
ボイセンベリー由来成分の機能性に関しては、例えば、文献(久保村喜代子,「機能性食品素材としてのボイセンベリー」, 日本食生活学会誌, Vol.16, No.1, pp.44-49, 2005(非特許文献1))に、ボイセンベリーには優れた抗酸化作用を有するアントシアニン類やエラグ酸などのポリフェノール成分が多く含まれていることが記載されている。ここでは、ボイセンベリーの果実や葉に含まれるアントシアニンに、老化防止作用、心臓血管の働きを保護する作用、糖尿病亢進抑制作用、肝障害防御作用などが期待されることを予想している。また、特開2008−156306号公報(特許文献1)には、ボイセンベリー果実由来成分が発ガン抑制作用を示しうることが開示されている。さらに、特開2010−254590公報(特許文献2)には、ボイセンベリー由来成分、特にボイセンベリー果汁由来成分が、膵リパーゼ阻害作用を示しうることが開示されている。
【0006】
さらに、国際公開2010/092941号(特許文献3)には、ボイセンベリー果実由来成分である2量体〜13量体の少なくとも1つのプロアントシアニジンのような縮合タンニンオリゴマー成分と、少なくとも1つの有機酸とを共に用いることで、血管拡張作用および血圧上昇抑制作用を示しうることが開示されている。さらに、文献(古内亮ら,「Boysenberry果汁中のproanthocyanidin類の分析とin vitro血管弛緩作用」, 第64回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集, 2010年(非特許文献2))には、ボイセンベリー果実抽出物のプロアントシアニジン分画が、血管弛緩作用を示し、有機酸の1つであるクエン酸を共に用いることで、強い血圧弛緩作用を示しうることが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの文献には、ボイセンベリーの抽出物が、単独で高い血圧上昇抑制活性を有することは記載されていない。さらに、ボイセンベリー種子に着目した検討は何ら行われていない。
【0008】
プロアントシアニジンは、植物・果実に含まれるポリフェノールの一群であり、「縮合型タンニン」または「非加水分解性タンニン」とも呼ばれている。その構造は、フラバン−3−オールを構成単位として縮重合した物質群で、構成単位の構造、結合の位置、及び重合度により多様な構造成分となることが知られている。構成単位の違いにより、3つのサブクラス、プロシアニジン類(カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレートなどの縮重合物)、プロデルフィニジン類(ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどの縮重合物)、プロペラルゴニジン類(アフゼレキン、エピアフゼレキンなどの縮重合物)、に分類される。結合位置の違いにより、大きくB型(構成単位間の炭素−炭素結合が4β→8または4β→6のみ)及びA型(構成単位間の炭素−炭素結合が4β→8および2β→O→7または4β→6および2β→O→7の結合を少なくとも1つ有する)に分けられている。
【0009】
植物に含まれる成分、その構造および含有量は、その植物の種類や組織部位によって、大きく異なることが知られている。実際、プロアントシアニジンについても、その由来する植物の種類によって、そこに含まれるプロアントシアニジンは大きく異なった特徴的な構造を有していることが報告されている。この違いは健康機能や経口吸収性に影響を及ぼすものである(M. Monagas, C. Gomez-Cordoves, B. Bartolome, O. Laureano, J.M. Ricardo da Silva, Monomeric, oligomeric, and polymeric flavan-3-ol composition of wines and grapes from Vitis vinifera L. Cv. Graciano, Tempranillo, and Cabernet Sauvignon. J. Agric. Food Chem. 2003, 51, p.6475-6481.(非特許文献3))。
【0010】
経口吸収性は、プロアントシアニジンの生体利用性を考慮するとき、その機能を有効に発揮できるか否かに関わるため、極めて重要な意味を持つ。各種のプロアントシアニジンの経口吸収性に関する研究によると、低重合度オリゴマーが、効率よく経口吸収されることが報告されている(R.R. Holt, S.A. Lazarus, M.C. Sullards, Q.Y. Zhu, D.D. Schramm, J.F. Hammerstone, C.G. Fraga, H.H. Schmitz and C.L. Keen, Procyanidin dimer B2 [epicatechin-(4β-8)-epicatechin] in human plasma after the consumption of a flavanol-rich cocoa. Am. J. Clin. Nutr. 2002, 76, p.798-804.(非特許文献4)、T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake, Y. Goda. Apple procyanidin oligomers absorption in rats after oral administration: Analysis of procyanidins in plasma using the porter method and High-Performance Liquid Chromatography/ Tandem Mass Spectrometry. J. Agric. Food Chem. 2006, 54, p.884-892.(非特許文献5)参照)。
【0011】
特開2003−212783号公報(特許文献4)には、ブドウ種子の搾汁液より得られる抽出物に含まれるプロアントシアニジンによる血糖または血圧上昇抑制作用が開示されている。ここでは、好ましいプロアントシアニジンとして分子量3000以上(重合度6.7以上)であることが記載されている。しかしながら、ボイセンベリー種子に見出されるプロアントシアニジンとは成分や構造が異なり、またその作用効果は低いものであった。
【0012】
したがって、ボイセンベリー種子由来のプロアントシアニジンに関する成分、構造、および経口吸収性に関する報告は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−156306号公報
【特許文献2】特開2010−254590公報
【特許文献3】国際公開2010/092941号
【特許文献4】特開2003−212783号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】久保村喜代子,「機能性食品素材としてのボイセンベリー」, 日本食生活学会誌, Vol.16, No.1, pp.44-49, 2005
【非特許文献2】古内亮ら,「Boysenberry果汁中のproanthocyanidin類の分析とin vitro血管弛緩作用」, 第64回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集, 2010年
【非特許文献3】M. Monagas, C. Gomez-Cordoves, B. Bartolome, O. Laureano, J.M. Ricardo da Silva, Monomeric, oligomeric, and polymeric flavan-3-ol composition of wines and grapes from Vitis vinifera L. Cv. Graciano, Tempranillo, and Cabernet Sauvignon. J. Agric. Food Chem. 2003, 51, p.6475-6481.
【非特許文献4】R.R. Holt, S.A. Lazarus, M.C. Sullards, Q.Y. Zhu, D.D. Schramm, J.F. Hammerstone, C.G. Fraga, H.H. Schmitz and C.L. Keen, Procyanidin dimer B2 [epicatechin-(4β-8)-epicatechin] in human plasma after the consumption of a flavanol-rich cocoa. Am. J. Clin. Nutr. 2002, 76, p.798-804.
【非特許文献5】T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake, Y. Goda. Apple procyanidin oligomers absorption in rats after oral administration: Analysis of procyanidins in plasma using the porter method and High-Performance Liquid Chromatography/ Tandem Mass Spectrometry. J. Agric. Food Chem. 2006, 54, p.884-892.
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、今般、ボイセンベリー種子の抽出物を経口投与すると、ボイセンベリー果実の抽出物と比較して、それ単独で優れた血管弛緩作用(血管拡張作用)を示すことを見出した。また、ボイセンベリー種子の抽出物を高血圧ラットに用いて、血圧への影響を調べたところ、ボイセンベリー種子の抽出物によって、顕著に血圧上昇が抑制されることがわかった。さらに、その有効成分は、プロアントシアニジンであることを見出し、ボイセンベリー種子の抽出物と果汁の抽出物の成分を分析した結果、ボイセンベリー種子には、ボイセンベリーの他の部位に比べて、2量体または3量体のプロアントシアニジンが大量に含まれること、またそのプロアントシアニジンが、ボイセンベリー種子特有の構造を持つ2量体または3量体のプロシアニジンおよびプロペラルゴニジンであること、加えて、ボイセンベリー種子に含まれるプロアントシアニジンは2量体または3量体のプロアントシアニジンのみであることを見出した。また、このボイセンベリー種子由来の2量体または3量体のプロアントシアニジンは、実際に高い経口吸収性を示した。加えて、ボイセンベリー種子を含有するボイセンベリー搾汁滓からの、高品質な血圧上昇抑制剤および2量体または3量体のプロアントシアニジンの安価で効率的な製造方法も見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0016】
よって本発明は、血圧上昇抑制作用を有し高血圧症の予防や改善に寄与でき、連用しても副作用の恐れの殆どない、効果的で安全性の高い血圧上昇抑制剤、およびその安価で効率的な製造方法を提供することを目的とする。さらには、これら血圧上昇抑制剤を含む飲食品組成物および医薬品組成物を提供することをその目的とする。加えて、ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる飲食物を提供することをその目的とする。
【0017】
本発明による血圧上昇抑制剤は、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする。
【0018】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記した剤において、抽出物は、水抽出物、有機溶媒抽出物または含水有機溶媒抽出物である。
【0019】
本発明の別の一つのより好ましい態様によれば、前記した剤において、抽出物は、含水水溶性有機溶媒抽出物である。ここでより好ましくは、抽出物は、含水アルコール系抽出物である。
【0020】
本発明の一つのさらに好ましい態様によれば、前記した剤において、抽出物は、熱水処理をした種子の抽出物である。
【0021】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記した剤は、ボイセンベリー種子から抽出された2量体または3量体のプロアントシアニジンを有効成分とする。
【0022】
本発明の一つのより好ましい態様によれば、前記した剤における、プロアントシアニジンは、プロシアニジンおよび/またはプロペラルゴニジンである。
【0023】
本は発明の一つの好ましい態様によれば、前記した剤における、ボイセンベリー種子は、ボイセンベリー搾汁滓より得られる。
【0024】
本発明の別の態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる組成物が提供される。
【0025】
本発明の別の態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる飲食品組成物が提供される。
【0026】
本発明のさらに別の態様によれば、ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる、飲食品組成物が提供される。
【0027】
本発明の別の好ましい態様によれば、前記飲食品組成物は、2量体または3量体のプロアントシアニジンを4重量%以上含有する。
【0028】
本発明の別のさらに好ましい態様によれば、前記飲食品組成物における、飲食品は、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品である。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を、飲食品の材料成分に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法が提供される。
【0030】
本発明の別の態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる医薬品組成物が提供される。
【0031】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記医薬組成物は、血圧上昇抑制作用により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いられる。ここでより好ましくは、疾患または状態は、高血圧症である。
【0032】
本発明による血圧上昇抑制剤を製造する方法は、ボイセンベリー種子と果皮を含むボイセンベリー搾汁滓から、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする血圧上昇抑制剤を製造する方法であって、
a)前記搾汁滓を乾燥させて得られる乾燥搾汁滓から、果皮塊を選択的に粉砕し、種子をふるい分ける工程、
b)前記工程a)で得られた種子を細かく砕き、必要に応じて脱脂用有機溶媒を用いて抽出し有機溶媒分を除去し残部を乾燥し、ボイセンベリー種子粉末を得る工程、および
c)前記工程b)で得られた種子粉末を、水、有機溶媒または含水有機溶媒を用いて抽出して得られた抽出液を、ポリフェノール吸着剤と接触させた後、その吸着剤への吸着成分をアルコール系溶出溶媒を用いて溶出し、必要に応じて得られた溶出分画を濃縮し、目的のボイセンベリー種子抽出物を得る工程
を含んでなる方法である。
【0033】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記方法の工程a)における、選択的粉砕は、種子の損傷を抑えつつ、乾燥搾汁滓から果皮塊を、粉砕器によって圧縮粉砕することである。
【0034】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記方法における、工程b)は、工程a)で得られた種子を細かく砕く前に、種子を熱水処理する工程を、さらに含んでなる。
【0035】
本発明の別の態様によれば、前記方法は、
d)前記工程c)で得られたボイセンベリー種子抽出物を、オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒で水と分配し、必要に応じて得られた溶媒相を濃縮し、濃縮分配ボイセンベリー種子抽出物を得る工程
を、さらに含んでなる。ここで、好ましくは、オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒は、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、またはブタノールからなる群から選択される1以上の溶媒である。
【0036】
本発明の血圧上昇抑制剤によれば、血圧の上昇を効果的かつ安全に抑制することができる。このため、本発明による血圧上昇抑制剤は、高血圧症の予防、改善に極めて有用である。また本発明による血圧上昇抑制剤は、食品としても利用されているボイセンベリーの抽出物を使用するため、連用しても副作用のおそれがほとんどなく、安全性が極めて高いものである。さらには、本発明の製造方法によれば、未利用資源であるボイセンベリー搾汁滓を原料に用いるため、高品質な血圧上昇抑制剤を効率的かつ安価に製造することができる。加えて、ボイセンベリー種子に含まれるプロアントシアニジンは、2量体または3量体のプロアントシアニジンのみのため、この製造方法により、2量体または3量体のプロアントシアニジンを製造することもできる。また、本発明によれば、血圧上昇抑制剤を含む飲食品および医薬組成物、またはボイセンベリー種子の抽出部を含む飲食品組成物が提供できるため、これらを摂取することで、体内の血圧の上昇を効果的に抑制させることができる。さらに本発明による血圧上昇抑制剤、これらを含む飲食品および医薬組成物は、高血圧の治療、予防、改善の他、高血圧に起因する動脈硬化、心臓病、脳卒中、および腎臓病などの循環器病を含む生活習慣病の予防・改善に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の例1の工程a)における、ボイセンベリー乾燥搾汁滓の種子および果皮の状態とふるい分けた(篩別)後の種子と果皮の状態を示す写真である。
【図2】図2は、例1で得られた種子抽出物(A)または果皮抽出物(B)のHPLC分析の結果を示すデータである。
【図3】図3は、例2に記載の血圧上昇抑制作用評価試験の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、例3に記載の血圧上昇抑制作用評価試験の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、例4に記載のボイセンベリー種子の抽出物に含まれるプロアントシアニジン2量体および3量体が経口吸収されたことを示す血中成分のLC/MS/MS分析の結果を示すデータである。
【図6】図6は、例5に記載のボイセンベリー種子の抽出物とボイセンベリー果汁の抽出物のin vitro(インビトロ)での血管弛緩作用を示すグラフである。
【図7】図7は、例7に記載のプロシアニジンの重合度と血管弛緩活性を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0038】
血圧上昇抑制剤/製造方法
本発明による血圧上昇抑制剤は、前記したように、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする。本発明による血圧上昇抑制剤は、好ましくは、ボイセンベリー種子から抽出された2量体または3量体のプロアントシアニジンを有効成分とする。
【0039】
ボイセンベリー種子
ボイセンベリー(Rubus ursinus×idaeusまたはRubus loganobaccus and Rubus baileyanus Britt.)は、ブラックベリー、ラズベリー、およびローガンベリーの交配によってできた品種であるとされ、その果実は、鮮やかの紫色と豊かな芳香とほどよい甘さと酸味を備えたおいしさを特徴とする。ボイセンベリーには、カルシウム、鉄、亜鉛、またビタミンA、葉酸、ナイアシン、ビタミンCが豊富に含まれており、栄養素がバランス良く含まれている。
【0040】
本発明において、「ボイセンベリー種子」とは、ボイセンベリー果実から、果汁、果肉および果皮を取り除いた部分を意味する。
【0041】
有効成分
本発明において、「有効成分」とは、本発明の目的である血圧上昇抑制効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味する。
【0042】
本発明における有効成分は、ボイセンベリー種子の抽出物であり、これの主要成分であることから、好ましくは、ボイセンベリー種子から抽出された2量体または3量体のプロアントシアニジンである。
【0043】
本発明において、「2量体または3量体のプロアントシアニジン」は、ポリフェノールの一群であって、フラバン−3−オールを構成単位として2つまたは3つの構成単位が縮重合した物質群を示す。プロアントシアニジンは、プロシアニジン類(カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレートなどの縮重合物)、プロデルフィニジン類(ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどの縮重合物)、プロペラルゴニジン類(アフゼレキン、エピアフゼレキンなどの縮重合物)の3つのサブクラスに分類される。
【0044】
本発明の好ましい態様によれば、プロアントシアニジンは、プロシアニジンおよび/またはプロペラルゴニジンである。プロシアニジンは、カテキンとエピカテキンとを構成単位とする物質であり、プロペラルゴニジンは、アフレゼキンとエピアフレゼキンとを構成単位とする物質である。
【0045】
本発明による2量体または3量体のプロアントシアニジンを有効成分とする血圧上昇抑制剤は、経口摂取した場合、これらのすべての成分が吸収され血中に移行するため(後述する例4および例7参照)、生体内で効率的に作用し、有効な血圧上昇抑制効果をもたらすことができる。
【0046】
抽出物
本発明において、「抽出物」とは、ボイセンベリーの種子から抽出して得られ、抽出液、その希釈液、濃縮液、エキスまたはそれらの乾燥物もしくは乾燥粉末を意味する。ここで抽出を行う操作としては、圧搾抽出や、水や有機溶媒を用いた溶媒抽出などが包含され、必要に応じて、吸着、濃縮、濾過、または遠心分離などの処理をさらに施しても良い。
【0047】
有効成分の抽出
本発明の好ましい態様によれば、本発明の抽出物は、ボイセンベリー種子を水や有機溶媒を用いて溶媒抽出することにより得ることができる。
【0048】
ここで、有機溶媒としては、所望の効果を持つ抽出物を抽出できるかぎり、特に制限はされない。好ましくは、水溶性(水混和性)の有機溶媒である。水溶性の有機溶媒である場合には、水と混合して用いても良く、このような含水有機溶媒も使用可能である。したがって例えば、有機溶媒が、水溶性のアルコール系溶媒である場合には、一定割合で水を含んだアルコール系溶媒を用いた抽出によって得られた含水アルコール系溶媒抽出物も前記抽出物に包含される。
【0049】
水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、アセトン、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸メチルおよびメチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは、2種以上を混合して抽出に用いても良く、可能であれば、水と混合して用いても良い。
【0050】
飲食物または医薬品組成物への適合の観点からは、溶媒の残存を考慮した安全面から、抽出用の溶媒としては、水単独、または、水とエタノールとの混合液を用いることが好ましい。
【0051】
よって、本発明の一つの好ましい態様によれば、抽出物は、水抽出物、有機溶媒抽出物または含水有機溶媒抽出物である。抽出物は、より好ましくは含水有機溶媒抽出物であり、さらに好ましくは含水アルコール系溶媒抽出物または含水アセトン抽出物であり、さらにより好ましくは含水エタノール抽出物であり、特に好ましくは50〜80%含水エタノール抽出物である。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の抽出物は、ボイセンベリー種子抽出物である。具体的には、ボイセンベリー種子抽出物は、ボイセンベリー種子の水、有機溶媒または含水有機溶媒を用いた抽出液を、ポリフェノール吸着剤と接触させて、次いでその吸着剤への吸着成分を溶媒を用いて溶出し、溶出分画として得ることができる。ここで、この抽出物は、好ましくは、得られた溶出分画を濃縮したものである。
【0053】
ここでポリフェノール吸着剤としては、抽出液中に含まれるポリフェノール成分を吸着および溶出することができればよく、例えば、合成吸着剤、活性炭、イオン交換樹脂、ポリビニルピロリドン、珪藻土などまたはこれらの組合せが挙げられる。
【0054】
このポリフェノールの吸着および溶出操作は、カラムクロマトグラフィーの形態で処理することが好ましく、この場合ポリフェノール吸着剤は充填剤として用いられる。充填剤は、好ましくは、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体から構成されるポリスチレン系合成吸着剤であり、より好ましくは、市販されているアンバーライトXAD−7HP(オルガノ株式会社)またはダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社)である。吸着されたポリフェノール成分は、例えば、水洗後、アルコール系溶媒、好ましくはエタノールを用いて溶出することができる。
【0055】
濃縮方法は、溶媒により異なり、溶液に含まれる有効成分を変性することなく、有効成分の濃度を高くすることができれば、特に限定されない。濃縮方法は、例えば、エバポレーターを用いた減圧濃縮、乾燥、凍結乾燥、ゲル濾過濃縮、膜濃縮、またはこれらの組合せなどが挙げられる。濃縮方法は、例えば、溶媒がエタノールなどのアルコール系溶媒である場合には、エバポレーターを用いて溶液中に含まれるエタノールを減圧濃縮し、さらにその溶液を凍結乾燥することが好ましい。この濃縮する工程は、ポリフェノール吸着剤と接触させる前の抽出液に対して行ってもよい。
【0056】
種子の粉末化
本発明の一つの好ましい態様によれば、抽出に用いるボイセンベリーの種子には、ボイセンベリー種子粉末を用いる。具体的には、ボイセンベリー種子粉末は、ボイセンベリー種子から、有効成分としての抽出物を抽出する前に、種子を細かく砕くことによって得ることができる。この種子粉末は、好ましくは、脱脂用有機溶媒を用いて種子粉末から油分を抽出し、有機溶媒分を除去し、残部を乾燥させた種子脱脂粉末である。
【0057】
ここで種子を細かく砕く方法は、種子を所望の大きさに砕くことができれば、特に限定されない。ここで細かく砕かれた後の種子の破砕物の粒径は、抽出条件により異なり、例えば、0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mmの粉末である。粒径は細かくなる程抽出効率が高くなる点で有利であるが、固液分離工程を容易に実施できるような粒径を考慮することも必要となる。このような粉末を得るための方法としては、例えば、粉砕器による種子の粉末化が挙げられ、粉砕器としては、コロードミル、またはボールミルなどが挙げられる。種子を粉末化することで、有効成分の抽出効率を高めることができる。
【0058】
脱脂用有機溶媒は、有効成分を脱脂用有機溶媒中にほとんど抽出することなく油分を抽出することができれば、特に限定されない。脱脂用有機溶媒は、好ましくは、ヘキサンである。抽出時間は、適宜調整することができる。この種子脱脂粉末を用いることで、有効成分の抽出において油分の混入を防ぐことができる。
【0059】
種子の熱水処理
本発明のより好ましい態様によれば、抽出物は、熱水処理をした種子の抽出物である。具体的には、熱水処理をした種子の抽出物は、種子を細かく砕く前に、種子を熱水処理することにより得ることができる。
【0060】
本発明者らは、細かく砕く前の種子を熱水処理すると、プロアントシアニジンをほとんど水に溶出することなく、非プロアントシアニジン成分であるエラジタンニン類などの夾雑ポリフェノール類を水中に溶出することができることを予想外にも見出した。また、本発明者らは、細かく砕いた後の種子を、水処理または熱水処理すると、プロアントシアニジンがエラジタンニン類と共に水中に多く溶出することも見出した。このような特性は、特表2009−512638の実施例1で示されるような従来知られたブドウ種子の有する特性とは、全く異なるものである。
【0061】
ここで熱水処理とは、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上の熱水で処理することを意味する。熱水処理の時間は、好ましくは30分〜120分、より好ましくは50〜70分である。この熱水処理により、種子に含まれる夾雑ポリフェノールのエラジタンニン類を熱水に溶出させ、種子より除去することができるため、プロアントシアニジン含有量の高い良質な抽出物を製造することができる。また種子の殺菌をすることもできる。
【0062】
搾汁滓からの種子の選別
本発明の別の好ましい態様によれば、抽出に用いるボイセンベリー種子としては、ボイセンベリー搾汁滓より得られたものを使用する。具体的には、ボイセンベリー搾汁滓は、ボイセンベリー種子と果皮を含むボイセンベリー搾汁滓を乾燥させて得られる乾燥搾汁滓から、果皮塊を選択的に粉砕し、種子をふるい分けることにより得られる。
【0063】
ボイセンベリー搾汁滓は、ボイセンベリーの果実を搾汁・濃縮する際に大量に排出される搾り滓(副産物)であり、一般的には、水分を40〜50重量%含む。
【0064】
ここで、乾燥は、ボイセンベリー搾汁滓中のプロアントシアニジンを変性させることなく、所望の乾燥状態に乾燥することができればよく、例えば、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、または蒸気乾燥が挙げられ、好ましくは、熱風乾燥である。熱風乾燥は、好ましくは、50〜100℃、より好ましくは60〜80℃の空気流中で行うことができる。所望の乾燥状態とは、乾燥によるボイセンベリー搾汁滓の乾燥減量が5%以下となった状態をいう。この乾燥により、乾燥搾汁滓の生菌数を3桁以上減少することができる。
【0065】
果皮塊とは、乾燥搾汁滓に含まれる、種子以外の果皮、果肉、およびその他の搾汁残渣からなる塊を意味する。
【0066】
ここで選択的に粉砕するとは、種子に損傷を与えるが損傷を極力抑えつつ、乾燥搾汁滓から種子以外の果皮塊のみを粉砕することを意味する。選択的に粉砕する方法としては、例えば、粉砕器による圧縮粉砕、果皮塊の視覚的方法による分別除去などが挙げられる。
【0067】
本発明の別のより好ましい態様によれば、選択的粉砕は、種子の損傷を抑えつつ、乾燥搾汁滓から種子の果皮塊を、粉砕機によって圧縮粉砕することである。ここで、圧縮粉砕する方法としては、例えば、ロール粉砕機、ボール粉砕機、ロッド粉砕器、または手動式粉砕器などを、単独使用または併用して粉砕することが挙げられる。粉砕器は、種子の粉砕を最小限に抑えて果皮塊のみを選択的に粉砕することができる点で、好ましくは、ソフトな粉砕を可能にするゴムロール形またはブラシ形ボール粉砕器、より好ましくは、ナイロン被膜ボール使用ボール粉砕器である。
【0068】
種子をふるい分ける(篩別)とは、前記乾燥搾汁滓の選択的粉砕により得られた粉砕物を、篩を用いて、篩通過分としての粉砕された果皮塊の粉末と、篩を通過できない粉砕されなかった種子とに分け、純度の高い種子を得ることを意味する。篩の目開きは、例えば0.5〜2.0mm、好ましくは1.0mmである。
【0069】
ここで篩別後の種子の割合は、好ましくは95%以上である。後述する例1の図2に示す通り、本発明者らは、果皮には、プロアントシアニジンが含まれず、非プロアントシアニジン成分であるエラジタンニン類などの夾雑ポリフェノールが含まれることを見出した。したがって、種子の割合を高めることにより、果皮の存在により引き起こされる夾雑ポリフェノールの混入を防ぐことができる。またこれによりプロアントシアニジン含有量の高い高品質な抽出物を製造することができる。さらに、未利用資源であるボイセンベリー搾汁滓を用いることにより、製造コストを安価に抑えることができる。
【0070】
なお、篩別後の果皮は、エラジタンニン類を豊富に含むことから、エラジタンニン成分の原料として、家畜飼料用途に用いることができる。
【0071】
抽出物の分配濃縮
さらに本発明の一つの好ましい態様によれば、抽出物は、分配濃縮ボイセンベリー種子抽出物である。具体的には、濃縮ボイセンベリー種子抽出物は、得られたボイセンベリー種子抽出物を、オクタノール/水分配係数(LogPow)0〜1の溶媒で水と分配し、溶媒相として得ることができる。ここで、この抽出物は、好ましくは、得られた溶媒相を濃縮したものである。濃縮方法は上記した濃縮方法を用いることができる。
【0072】
オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒は、好ましくは酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、またはブタノールからなる群から選択される1以上の溶媒であり、より好ましくは、酢酸エチルである。
【0073】
ボイセンベリープロアントシアニジンのオクタノール/水分配係数は、−1.0〜0.1の範囲にあり、夾雑ポリフェノールであるエラジタンニン類のこの係数は、−2.0以下であった(後述する例1参照)。上記分配濃縮は、これを行うことにより、ボイセンベリープロアントシアニジンを溶媒相に、エラジタンニン類を水相に分離することができる点で有利である。この分配濃縮により、溶液中の有効成分であるプロアントシアニジン含有量をさらに高めることができる。
【0074】
抽出物は、通常、易水溶性であり、水溶液として安定な性状を維持することができる。このため、飲食品および医薬組成物に通常添加されうる成分との混和性に優れている。また、食品中に含まれる成分であるため無毒であり安全性に優れている。したがって、これらを有効成分とする血圧上昇抑制剤は、安全性に優れており、副作用の心配が殆どなく、日常の食生活に適宜取り入れて無理なく摂取することができる。
【0075】
本発明による血圧上昇抑制剤は、単独でも使用することができるが、飲食品、医薬品などの種々の組成物に添加剤として含有させることができ、血圧上昇抑制効果を有する組成物を得ることができる。得られた組成物は、高血圧の治療、予防、改善の他、高血圧に起因する動脈硬化、心臓病、脳卒中、および腎臓病などの循環器病を含む生活習慣病の予防・改善に有効に使用することができる。よって、本発明の好ましい態様によれば、血圧上昇抑制剤を含んでなる組成物が提供される。
【0076】
血圧上昇抑制剤の製造方法
本発明の好ましい実施形態において、本発明の血圧上昇抑制剤を製造する方法は、
a)ボイセンベリー種子と果皮を含むボイセンベリー搾汁滓を乾燥させて得られる乾燥搾汁滓から、果皮塊を選択的に粉砕し、種子をふるい分ける工程、
b)前記工程a)で得られた種子を細かく砕き、必要に応じて脱脂用有機溶媒を用いて抽出し有機溶媒分を除去し残部を乾燥し、ボイセンベリー種子粉末を得る工程、および
c)前記工程b)で得られた種子粉末を、水、有機溶媒または含水有機溶媒で抽出して得られた抽出液を、ポリフェノール吸着剤と接触させた後、その吸着剤への吸着成分をアルコール系溶出溶媒を用いて溶出し、必要に応じて得られた溶出分画を濃縮し、有効成分として利用可能な抽出物(ボイセンベリー種子抽出物)を得る工程
を含んでなる方法である。この方法により、未利用資源であるボイセンベリー搾汁滓を原料とする、安全な血圧上昇抑制剤を、製造コストを安価に抑えかつ効率的に製造することができる。
【0077】
本発明のより好ましい実施形態において、本発明の血圧上昇抑制剤を製造する方法は、
d)前記工程c)で得られたボイセンベリー種子抽出物を、オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒で水と分配し、必要に応じて得られた溶媒相を濃縮することによって、有効成分として利用可能な分配濃縮された抽出物(分配濃縮ボイセンベリー種子抽出物)得る工程
をさらに含んでなる方法である。この方法により、種子中のプロアントシアニジン含有量をさらに高めることはできるため、比活性の高い、使い勝手の良好な、高品質な血圧上昇抑制剤を製造することができる。
【0078】
本発明のさらに好ましい実施形態において、本発明の血圧上昇抑制剤を製造する方法は、前記工程b)において、工程a)で得られた種子を細かく砕く前に、種子を熱水処理する工程をさらに含む方法である。この方法により、種子に含まれる夾雑ポリフェノールを有効成分であるプロアントシアニジンの抽出前に除くことができるため、さらにプロアントシアニジン含有量のより高い、高品質な血圧上昇抑制剤を効率的に製造することができる。
【0079】
本発明の血圧上昇抑制剤の製造方法は、高品質な2量体または3量体のプロアントシアニジンの製造コストが安価かつ効率的な製造方法として用いることもできる。
【0080】
用途
本発明による有効成分であるボイセンベリー種子の抽出物、または2量体もしくは3量体のプロアントシアニジンは、血圧上昇抑制作用を有し(後述する実施例の例2および3参照)、また血管拡張作用および血管弛緩作用を有する(後述する実施例の例5参照)。
【0081】
ここで、血圧上昇抑制作用とは、血圧の上昇を抑制する作用を有し、血圧降下作用、血管拡張作用、血管弛緩作用、血流改善作用、および血管循環機能が関与する頭痛などの諸症状の軽減および緩和作用を包含する。
【0082】
またここで、血圧上昇抑制効果とは、体内の血圧の上昇を抑制する作用のことをいい、これによって、高血圧症の治療、予防、改善や、生活習慣病の治療、予防、改善が行われる。
【0083】
よって、本発明による有効成分は、血圧上昇抑制作用により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善に用いることができる。ここで、血圧上昇抑制作用により治療、予防または改善しうる疾患または状態としては、高血圧症である。
【0084】
なお、本明細書において、疾患または状態の「治療、予防または改善」は、疾患または状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制などを包含する意味で使用される。
【0085】
本発明の別の態様によれば、本発明の有効成分である抽出物の有効量を、哺乳動物に投与することを含んでなる、血圧上昇抑制方法が提供される。なおここで「有効量」とは、投与によって、体内における所望の領域において、血圧上昇抑制活性を発揮しうるのに十分な量である。
【0086】
本発明の別の一つの態様によれば、本発明の有効成分である有効成分の治療上有効量を、哺乳動物に投与することを含んでなる、血圧上昇抑制により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善する方法が提供される。なおここで「治療上有効量」とは、治療が望まれる疾患または状態に通常伴う1以上の症状を緩解するのに十分な量である。予防的な使用に関するときには、この用語は、疾患または状態の発症を防止または遅延させるのに十分な量を意味する。
【0087】
組成物:飲食品および医薬組成物
前記したように、本発明によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる組成物が提供される。したがって、これらの組成物は、ボイセンベリーの種子抽出物、またはボイセンベリー種子から抽出された2量体もしくは3量体のプロアントシアニジンを有効成分として含んでなるものである。
【0088】
ここで「有効成分として含んでなる」とは、本発明による組成物が、所望の血圧上昇抑制効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)の有効成分を含有し、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体を含んでいてもよいことは当然として、併用可能な他の補助成分を含有する場合も包含する意味である。
【0089】
本発明の一つの態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる組成物は、飲食品組成物である。このような飲食品組成物は、例えば、本発明による血圧上昇抑制剤を、飲食品の材料成分に添加することを含んでなる製造方法によって製造することができる。
【0090】
本発明の別の態様によれば、本発明による血圧上昇抑制剤を含んでなる組成物は、医薬品組成物である。このような医薬品組成物は、体内における血圧の上昇を抑制するためのものである。
【0091】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の組成物は、ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる。ここで、「ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる組成物」とは、ボイセンベリーの種子以外の果皮、果肉、その他の組織由来の抽出物を含まない組成物を意味する。
【0092】
本発明において飲食品とは、医薬品組成物以外のものであって、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品などが挙げられる。
【0093】
また飲食品には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦もしくは授乳婦用粉乳、または疾病リスク低減表示を付した飲食品のような分類のものも包含される。
【0094】
本発明の別の態様によれば、前記抽出物、またはボイセンベリー種子から抽出された2量体もしくは3量体のプロアントシアニジンを有効量含んでなる飲食品であって、血圧上昇抑制作用により治療、予防または改善しうる疾患または状態の治療、予防または改善する機能が表示された飲食品が提供されうる。本発明のさらに別の態様によれば、前記抽出物を有効量含んでなる飲食品であって、血圧上昇抑制能が表示された飲食品が提供されうる。
【0095】
よって、本発明による飲食品は、例えば、高血圧の状態の改善または緩和を期待する消費者に適した飲食品すなわち所謂、特定保健用食品、として提供することができる。なお、ここでいう特定保健用食品とは、血圧上昇抑制により治療、予防または改善しうる疾患または状態、高血圧症の予防、改善、状態の緩和、および生活習慣病の治療、予防または改善等を目的として飲食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国において法上の何らかの制限を受けることがある飲食品をいうことができる。このような飲食品は、飲食品が疾病リスクを低減する可能性があること表示した飲食品、すなわち、疾病リスク低減表示を付した飲食品であることもできる。
【0096】
本発明において医薬組成物とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。また、非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。
製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0097】
飲食品、または医薬組成物などの組成物中における血圧上昇抑制剤またはボイセンベリー種子の抽出物の含有量は、組成物の種類、形態や、予防・改善の目的などにより一律に規定は難しいが、血圧上昇抑制剤の有効成分として含まれる、またはボイセンベリー種子の抽出物に含まれる2量体もしくは3量体のプロアントシアニジン含有量が、好ましくは1重量%以上、より好ましくは4重量%以上であればよい。必要な1日あたりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日あたりの組成物の摂取量を考慮し、組成物中の含有量を適宜設定すればよい。
【0098】
飲食品または医薬組成物などの組成物の摂取量は、形態(医薬品の場合は剤型)、摂取するヒトの年齢、体重、性別、摂取の目的などを考慮して、個々の場合に応じて適宜設定される。例えば、摂取量は、ボイセンベリー種子抽出物(例えば例1で製造した種子抽出物)に換算して、0.5mg/kg以上、好ましくは2mg/kg以上、より好ましくは3mg/kg、さらに好ましくは5mg/kg以上、特に好ましくは10mg/kg以上である。これを1日1回または数回に分けて摂取投与する。
【実施例】
【0099】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
例1:ボイセンベリー果汁搾汁滓を原料としたプロアントシアニジンを含有するボイセンベリーの種子抽出物の調製
(a)果汁搾汁滓からの種子の調製
ボイセンベリー果汁の製造時に排出された搾汁滓2kgを、熱風乾燥機(STAC−P400K、株式会社島津理化製)に入れ、70℃で、20時間乾燥して、ボイセンベリー乾燥搾汁滓1.1kg(種子物質純度66%、図1−A参照)を得た。得られた乾燥搾汁滓を、ゴムロール形ロール粉砕機(中形試験用籾摺機:ST−50A型、株式会社藤原製作所製)に入れ、30分間処理し、続いてナイロン被覆ボール(粒径6.4mm、ナイロン被覆鉄球、アズワン株式会社製)使用ボール粉砕機(小型ボールミル:AV−1、アズワン株式会社製)に入れ、30分間処理し、乾燥搾汁滓に含まれる果皮塊を、種子の損傷を抑えつつ、選択的に粉砕した。選択的に粉砕した搾汁滓を、目開き1.0mmの篩(株式会社タケショー製)を用いて篩別し、篩の上に通過できずに残ったものとしてボイセンベリー種子642g(種子物質純度95%、図1−B参照、乾燥減量1.5重量%)を、篩通過分としてボイセンベリー果皮粉末376gを得た(図1−C参照)。
また、ナイロン被膜ボール使用ボール粉砕機での処理時間を1時間にする以外は、上記と同様の処理を行い、種子物質純度97%の種子628gを得た。
【0101】
(b)種子脱脂粉末、または熱水処理種子脱脂粉末の調製
得られたボイセンベリー種子100gを、粉砕器(グラインドミックスGM200、レッチェ(Retsch)製)を用いて細かく砕き(粒径約0.2〜2mm)、得られた種子粉末に対し、重量当たり3倍量のヘキサン(関東化学株式会社より入手)を加え、1時間、室温で、攪拌して種子粉末に含まれる脂質を抽出した後、静置し、ヘキサンを除去し、残部(沈殿物)を空気中で乾燥させて、ボイセンベリー種子脱脂粉末95gを得た。
また、得られたボイセンベリー種子を、90℃の熱水中で1時間処理し、70℃で乾燥させた熱水処理種子についても、上記と同様の処理を行い、ボイセンベリー熱水処理種子脱脂粉末を得た。
また、得られたボイセンベリー種子を、90℃の熱水中で1時間処理し、70℃で乾燥させた熱水処理種子についても、上記と同様の処理を行い、ボイセンベリー熱水処理種子脱脂粉末を得た。
【0102】
(c)種子抽出物、または熱水処理種子抽出物の調製
ボイセンベリー種子脱脂粉末100g、またはボイセンベリー熱水処理種子脱脂粉末100gに対し、60%エタノール(和光純薬工業株式会社より入手)1.0Lを加え、70℃で、3時間攪拌して、種子粉末に含まれるポリフェノール成分を抽出した。得られた抽出液を、エバポレーターを用いて減圧濃縮した後、凍結乾燥機(DC−400、ヤマト科学株式会社製)を用いて、粉末状にして、種子粉末抽出物5.30g(プロアントシアニジン含有量0.7%)、または熱水処理種子粉末抽出物3.98g(プロアントシアニジン含有量1.0%)を得た。それぞれの抽出物を脱イオン水に溶解し、その溶液をポリフェノール吸着樹脂カラム(AmberliteXAD―7HP、株式会社オルガノ製)に負荷し、カラム体積と等量の脱イオン水で洗浄した。その後、吸着カラムを、カラム体積の2倍量のエタノール(99.5%以上)で溶出し、得られた溶出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥機を用いて、粉末状にして、ボイセンベリー種子抽出物1.80g(プロアントシアニジン含有量4.2%)、または熱水処理種子抽出物1.26g(プロアントシアニジン含有量6.5%)を得た。
【0103】
上記(a)で得られたボイセンベリー果皮粉末について、上記(c)においてポリフェノール成分をエタノールで抽出し減圧濃縮した後の凍結乾燥を行わなかった以外は、上記種子抽出物と同様の処理を行った。その結果、果皮抽出物0.8gを得た。
【0104】
(d)分配濃縮種子抽出物、または分配濃縮熱水処理種子抽出物の調製(分配濃縮工程)
1)オクタノール/水分配係数の設定
ボイセンベリー種子に含まれるプロアントシアニジンの分配濃縮を行うため、ボイセンベリー種子に含まれるプロアントシアニジンおよび夾雑ポリフェノールであるエラジタンニンのオクタノール/水分配係数を求めた。具体的には、ボイセンベリー種子抽出物10mgに、オクタノール3mLおよび水3mLを加え、30分間激しく攪拌した後、10分間静置することによりオクタノール相と水相を分離して、両相に含まれるポリフェノール成分量をHPLCを用いて定量して、分配係数を求めた。その結果、プロアントシアニジンの分配係数は、−1.0〜0.1の範囲にあり、また夾雑ポリフェノールであるエラジタンニン類のこの係数は、−2.0以下であった。したがって、ボイセンベリー種子のプロアントシアニジンの分配濃縮を行う際の有機溶媒は、やや疎水性を示す誘電率0〜1のものを選定した。この範囲の溶媒は、やや疎水性であるため、親水性を示す(すなわち、オクタノール/水の分配係数が小さい)物質を溶解させることができる。
【0105】
2)分配濃縮工程
種子抽出物1.0g、または熱水処理種子抽出物1.0gを、それぞれ脱イオン水100mLに溶かし、その水溶液を酢酸エチル100mLで7回分配した。それぞれの酢酸エチル相を濃縮し、乾燥して分配濃縮種子抽出物0.24g(プロアントシアニジン含有量8.9%)、または分配濃縮熱水処理種子抽出物0.26g(プロアントシアニジン含有量13.6%)を得た。
【0106】
(e)プロアントシアニジン成分の分析
得られた種子抽出物、熱水種子抽出物、分配濃縮種子抽出物、および分配濃縮熱水種子抽出物、を、それぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Prominence HPLC+蛍光検出器:RF−10AXL、株式会社島津製作所製)で分析した。コントロールとして、果皮抽出物および上記(d)濃縮工程で得られる水相を乾燥した抽出物についても同様に分析した。結果を表1および図2に示す。
HPLC測定条件は以下のとおりである:
カラムInertsilODS−3(250×4.6mm):移動相A(0.5%トリフルオロ酢酸水溶液)、移動相B(0.5%トリフルオロ酢酸メタノール溶液)、グラジエント0−5分(A/B=90/10)、5−15分(A/B=10/90−25/75)、15−35分(A/B=25/75−35/65);流速1.0mL/分;検出法UV(280&520nm)
【0107】
【表1】

【0108】
図2に示されるように、果皮抽出物には、プロアントシアニジンは含まれていなかった。また、(d)分配濃縮工程の水相を乾燥した抽出物にも、プロアントシアニジンは含まれていなかった。水相を乾燥した抽出物の主成分は、エラジタンニン類であった。
【0109】
例2:ボイセンベリーの種子抽出物の血圧上昇抑制評価試験−1
高血圧自然発症ラット(Spontaneously Hypertensive Rat):SHR/Izm(雄性、14〜15週令、体重280〜310g、日本エスエルシー株式会社より入手)を、3群(n=5または6)に分けた。15時間絶食後、1群には対照群として脱イオン水を経口投与した。残りの2群には、サンプル投与群として、例1で得た種子抽出物を、群ごとに、種子抽出物200mg/kgまたは100mg/kgの用量で胃内にゾンデで強制的に経口投与し、それぞれを高用量群または低用量群とした。投与2、4、6、8、または24時間後の収縮期血圧を、ラット・マウス非観血式自動血圧測定装置(株式会社ソフトロン製)を用いて、tail−cuff法で、一匹につき3回測定した。それぞれ3回の測定値を平均し測定値とした。有意差検定はStudentのt−検定によって行った。結果を図3に示す。図3に示されるように、高用量群は、投与2〜6時間後まで、低用量群は、投与6時間後に、対照群と比べて、収縮期血圧の有意な低下が確認された。
【0110】
例3:ボイセンベリーの種子抽出物の血圧上昇抑制評価試験−2
高血圧自然発症ラット:SHR/Izm(雄性、14〜15週令、体重280〜310g)を、3群(n=6)に分けた。15時間絶食後、1群には対照群として脱イオン水を経口投与し、別の1群には分配濃縮種子抽出物(酢酸エチル相)投与群として例1で得られた分配濃縮種子抽出物50mg/kgを経口投与し、残りの1群には水相投与群として例1で得られた分配濃縮工程の水相を乾燥した抽出物50mg/kgを強制的に経口投与した。投与2、4、6、または8時間後の血圧を、例2と同様に測定し、図4に示される結果を得た。分配濃縮種子抽出物(酢酸エチル相)投与群では、対照群と比べて、投与後6時間で収縮期血圧の有意な低下を示した。しかしながら、分配水相濃縮物投与群では収縮期血圧の有意な低下は認められなかった。
【0111】
例4:ボイセンベリーの種子から抽出されたプロアントシアニジンの経口吸収性評価試験
実験動物として、ウイスターラット(雄性、9週令、初期体重190〜210g、日本エスエルシー株式会社より入手)を用いた。12時間絶食後、ウイスターラットに、例1で得られた分配濃縮種子抽出物、または分配濃縮熱水処理種子抽出物を、それぞれ1000mg/kgずつ強制的に経口投与して、投与1、2、4、6時間後ごとに屠殺して全血液を採取した。それぞれの全血液を、4℃、2,000×gで10分間遠心分離し、上清として血漿を得た。それぞれの血漿1mLに、50%ギ酸30μLおよび10mMアスコルビン酸水溶液100μLを加えて混合し、この混合血漿溶液1mLに、内部標準試薬としてのカテコール水溶液50μL(1μg)、およびリン酸30μLを加えて、分析用の試料とした。試料は、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC/MS)装置(Simadzu Prominence UFLC、島津製作所株式会社製、ODSカラム装着、ギ酸・メタノール・水によるグラジエント溶出);MS/MS(API3200、アプライドバイオシステムズ製、negative−ionモード)を用いて、分子量577/289、561/289、865/289、および849/289にて、それぞれプロシアニジン2量体、プロペラルゴニジン2量体、プロシアニジン3量体、およびプロペラルゴニジン3量体を測定し、血漿中のプロアントシアニジン量を定量した。結果を表2に示す。
また、分配濃縮種子抽出物を投与した2時間後の血漿中のプロアントシアニジン2量体および3量体成分を測定したLC/MSチャートを図5および表3に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
表2、3および図5に示されるように、投与した抽出物に含まれるプロアントシアニン2量体および3量体成分は、すべて経口吸収され、血中に移行していることが確認された。また、投与抽出物のプロアントシアニジン換算量と、その血中濃度は高い相関を示していた。
【0115】
例5:ボイセンベリーの種子抽出物と果汁抽出物との血管弛緩作用の比較
(1)サンプル溶液の調製
ボイセンベリーの種子抽出物
例1のボイセンベリー種子抽出物の製造方法に従って、ボイセンベリー種子抽出物を製造し、得られた抽出物(プロアントシアニジン含有量4.3%)を脱イオン水に溶解して、ボイセンベリーの種子抽出物溶液(10mg/mL)を調製した。
【0116】
ボイセンベリーの果汁抽出物
ボイセンベリー果実を搾汁・濃縮して得たボイセンベリー果汁濃縮液100mL(ベリーフルーツエクスポートNZより入手)を脱イオン水(400mL)で希釈した溶液を、ポリフェノール吸着樹脂カラム(AmberliteXAD―7HP、4L、オルガノ株式会社)に負荷し、カラム体積と等量の脱イオン水で洗浄した。その後、吸着カラムを、カラム体積の2倍量のエタノールで溶出し、得られた溶出液を濃縮した後、凍結乾燥してボイセンベリー果汁抽出物粉末(4.40g)(プロアントシアニジン含有量0.13%)を得た。この粉末を脱イオン水に溶解して、ボイセンベリーの果汁抽出物溶液(10mg/mL)を調製した。
【0117】
(2)血管拡張率の測定
8〜11週齢のウイスターラットの胸部大動脈を2〜3mmに切断し、リン酸緩衝液20mLを満たしたマグヌス実験装置(AP−5型、いわしや岸本医科産業株式会社製)に付し、300mgの張力を負荷した。平衡化し、張力のベースラインが安定した後、収縮剤として10μMノルエピネフリン(NE)を0.2mL添加した(NE終濃度0.1μM)。張力が3000mg程度に上昇して一定となった後、各サンプル溶液を、オーガンバス内の初発濃度が0.01μg/mLになるように添加し、続いてオーガンバス内の濃度が0.1、1、10、30、60μg/mL、最後に終濃度が100μg/mLになるように累積添加した。サンプルの添加による張力の減少量を、各サンプルを添加していない値を100としたときの百分率を血管拡張率として、平均値±標準偏差で示した(n=4)。結果を図6に示す。
【0118】
例6:ボイセンベリーの種子抽出物と果汁抽出物とのプロアントシアニジン成分およびポリフェノール成分の比較
(1)サンプル溶液の調製
例1で得られたボイセンベリーの種子抽出物と、例5のボイセンベリー果汁抽出物の製造方法に従って製造した果汁抽出物(プロアントシアニジン含有量0.13%)を、メタノールに溶解(1mg/mL)して、種子抽出物溶液、および果汁抽出物溶液とした。
【0119】
(2)プロアントシアニジン成分の分析
メタノールに溶解したボイセンベリー種子抽出物溶液、および果汁抽出物溶液を、例1(e)プロアントシアニジン成分の分析に記載の方法に従って、分析した。結果を表4に示す。
【0120】
【表4】

【0121】
(3)ポリフェノール成分の比較
例1のボイセンベリー種子抽出物の製造方法の工程(c)において、ポリフェノール吸着カラムをカラム体積の2倍量の60%エタノールで溶出後、さらに60%アセトン水溶液で溶出し、かつ凍結乾燥を行わなかった以外は、例1に従って製造したボイセンベリー種子抽出物と、例5のボイセンベリー果汁抽出物の製造方法において、ポリフェノール吸着カラムをカラム体積の2倍量の60%エタノールで溶出後、さらに60%アセトン水溶液で溶出し、かつ凍結乾燥を行わなかった以外は、例5に従って製造した果汁抽出物を、メタノールに溶解(1mg/mL)して、種子抽出物溶液、および果汁抽出物溶液とした。
上記(2)に従い、ポリフェノール成分の分析を行った。結果を表5に示す。また、末端ユニットと延長ユニットの比から、プロアントシアニジンの平均重合度も測定した。
【0122】
【表5】

【0123】
表5に示すとおり、ボイセンベリー種子抽出物に含まれるプロアントシアニジンの含有量は4.22mg/100gであり、その成分としては、プロシアニジンが4種類、プロペラルゴニジンが8種類含まれていた。一方、果汁抽出物に含まれるプロアントシアニジンの含有量は0.13mg/100mLであり、その成分としては、プロシアニジンが3種類、プロペラルゴニジンが1種類含まれていた。平均重合度は、ボイセンベリー種子抽出物が2.8±0.3、果汁抽出物が1.9±0.1(3回測定の平均値)であった。
【0124】
例7:プロシアニジンの重合度と血管弛緩活性
5種類のプロシアニジン:PC B2(2量体)(Extrasynthese(Genay Cedex,フランス)より入手)、PC B4(2量体)(ボイセンベリー種子ポリフェノールより分取用HPLCにて精製)、PC C1(3量体)、PC 4(4量体)およびPC 5−10(5〜10量体)(カカオポリフェノールより分取用HPLCにて精製)と、エピカテキン(1量体)(Extrasynthese(Genay Cedex,フランス)より入手)とを用いて、血管拡張率を測定した(n=3または4)。
【0125】
血管弛緩活性について、例5(2)に記載の方法により血管拡張率を測定することで求めた。結果を図7に示す。
【0126】
例8:飲食品(キャンディ)
ショ糖58重量%、水飴38重量%、およびクエン酸1重量%に対し、例1で得られた種子抽出物を3重量%の配合率となるように添加し、血圧上昇抑制作用を賦与したキャンディを製造した。得られたキャンディは、味覚等に問題はなく、良質なキャンディであった。
【0127】
例9:飲食品(チューインガム)
ショ糖70.5重量%、ガムベース20.0重量%、香料3.0重量%、およびクエン酸1.5重量%に対し、例1で得られた分配濃縮種子抽出物を5.0重量%の配合率となるように添加し、血圧上昇抑制作用を賦与したチューインガムを製造した。得られたチューインガムは、味覚等に問題はなく、良質なチューインガムであった。
【0128】
例10:飲食品(チョコレート)
チョコレート部分が60重量%、クリーム部分が40重量%のチョコレートの中にクリームが入っているチョコレートを製造した。クリーム部分は、砂糖20重量%、油脂44重量%、粉乳30重量%、香料1重量%、および例1で得られた種子抽出物5重量%となるようにそれぞれを配合し、血圧上昇抑制作用を賦与したチョコレートを製造した。得られたチョコレートは、味覚等に問題はなく、良質なチョコレートであった。
【0129】
例11:飲食品(清涼飲料水)
異性化糖液3.0重量%、ショ糖3.0重量%、濃縮果汁0.1重量%、酸味料0.3重量%、および香料0.2重量%に対し、例1で得られた分配濃縮種子抽出物を0.1重量%の配合率となるように添加し、100重量%になるように水を加えて、血圧上昇抑制作用を賦与した清涼飲料水を製造した。得られた清涼飲料水は、味覚等に問題はなく、良質な清涼飲料水であった。
【0130】
例12:錠剤
含水結晶ブドウ糖93.5重量%、ショ糖エステル1.0重量%、および香料0.5重量%に対し、例1で得られた分配濃縮種子抽出物を10重量%の配合率となるように添加し、加圧成型して、血圧上昇抑制作用を賦与した錠剤を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする、血圧上昇抑制剤。
【請求項2】
抽出物が、水抽出物、有機溶媒抽出物または含水有機溶媒抽出物である、請求項1に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項3】
抽出物が、含水有機溶媒抽出物である、請求項1または2に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項4】
抽出物が、熱水処理をした種子の抽出物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項5】
ボイセンベリー種子から抽出された2量体または3量体のプロアントシアニジンを有効成分とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項6】
プロアントシアニジンが、プロシアニジンおよび/またはプロペラルゴニジンである、請求項5に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項7】
ボイセンベリー種子が、ボイセンベリー搾汁滓より得られる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の血圧上昇抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の血圧上昇抑制剤を含んでなる、組成物。
【請求項9】
飲食品である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ボイセンベリー種子の抽出物を含んでなる、飲食品組成物。
【請求項11】
2量体または3量体のプロアントシアニジンを4重量%以上含有する、請求項9または10に記載の飲食品組成物。
【請求項12】
飲食品が、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品である請求項9〜11のいずれか一項に記載の飲食品組成物。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の血圧上昇抑制剤を、飲食品の材料成分に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法。
【請求項14】
医薬品である、請求項8に記載の組成物。
【請求項15】
ボイセンベリー種子と果皮を含むボイセンベリー搾汁滓から、ボイセンベリー種子の抽出物を有効成分とする血圧上昇抑制剤を製造する方法であって、
a)前記搾汁滓を乾燥させて得られる乾燥搾汁滓から、果皮塊を選択的に粉砕し、種子をふるい分ける工程、
b)前記工程a)で得られた種子を細かく砕き、必要に応じて脱脂用有機溶媒を用いて抽出し有機溶媒分を除去し残部を乾燥し、ボイセンベリー種子粉末を得る工程、および
c)前記工程b)で得られた種子粉末を、水、有機溶媒または含水有機溶媒を用いて抽出して得られた抽出液を、ポリフェノール吸着剤と接触させた後、その吸着剤への吸着成分をアルコール系溶出溶媒を用いて溶出し、必要に応じて得られた溶出分画を濃縮し、目的のボイセンベリー種子抽出物を得る工程
を含んでなる、方法。
【請求項16】
前記工程a)の選択的粉砕が、種子の損傷を抑えつつ、乾燥搾汁滓から果皮塊を、粉砕器によって圧縮粉砕することである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記工程b)において、工程a)で得られた種子を細かく砕く前に、種子を熱水処理する工程
をさらに含んでなる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
d)前記工程c)で得られたボイセンベリー種子抽出物を、オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒で水と分配し、必要に応じて得られた溶媒相を濃縮し、濃縮分配ボイセンベリー種子抽出物を得る工程
をさらに含んでなる、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
オクタノール/水分配係数0〜1の溶媒が、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、またはブタノールからなる群から選択される1以上の溶媒である、請求項18に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35810(P2013−35810A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175243(P2011−175243)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.掲載アドレス http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jf104976n 2.掲載年月日 平成23年3月10日 [刊行物等] 1.刊行物名 第65回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集 2.発行者名 社団法人 日本栄養・食糧学会 3.発行年月日 平成23年4月25日
【出願人】(591096303)株式会社ブルボン (13)
【Fターム(参考)】