説明

血小板凝集反応評価方法、及び血小板凝集反応評価装置

【課題】繰り返し計算をすることなく、光散乱法の測定結果を利用して、血小板の凝集反応を定量的に評価することができる。
【解決手段】試料中の血小板凝集塊のサイズ(大中小のサイズ)及び数密度を光散乱法によって測定し、該測定結果と反応速度論とに基づいて図3で示すような反応速度定数行列を求める。この反応速度定数行列の各要素を解析することにより、血小板の凝集反応を定量的に評価する。例えば、破線1で囲まれる要素は凝集反応を示し、破線2で囲まれる要素は脱凝集反応を示しているので、数値を比較することにより、全体として凝集に向かっているか脱凝集に向かっているかを判断することができる。解析の際に解の収束性を考慮する必要が無いので、繰り返し計算をする必要が無く、解析の時間を短くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板の凝集反応を定量的に評価する血小板凝集反応評価方法及び血小板凝集反応評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血小板の凝集反応を評価する方法としては濁度法や光散乱法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このうちの濁度法は、
・ 血液を遠心分離して多血小板血漿(PRP;Platelet rich plasma)を得る工程
・ 該多血小板血漿を所定の温度に加温する工程
・ 攪拌している状態の該多血小板血漿に凝集惹起剤を添加する工程
・ 該凝集惹起剤を添加した後の光透過率の変化を測定する工程
からなる。凝集惹起剤の添加に伴って凝集反応が始まるまでは、光を遮る血小板が多く含まれるので光透過率は小さいが、凝集反応が進んで血小板が互いに結合されて凝集塊を形成するにつれ、該血漿を透過する光の割合が増加する。濁度法は、この原理を利用したものであり、光の透過率を血小板凝集の指標にしている。他方の光散乱法は、
・ 血液を遠心分離して多血小板血漿を得る工程
・ 該多血小板血漿を所定の温度に加温する工程
・ 攪拌している状態の該多血小板血漿に凝集惹起剤を添加する工程
・ 該多血小板血漿にレーザー光を照射する工程
・ レーザー光の照射により生じた散乱光の強度から凝集塊のサイズと数密度を測定する工程
からなる。
【0004】
上述の濁度法においては、活性化に伴って血小板の形状が変化したり、内部顆粒が血小板外に放出されたりすると、光の透過率が大きな影響を受けてしまって凝集反応の測定が不可能になるという問題があり、また、凝集反応が微弱な場合には該凝集を検出できないという問題があった。他方の光散乱法においてはそのような問題は無いものの、測定者の熟練度に応じて測定結果が異なってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を解決するものとして、血小板の凝集反応を定量的に評価する方法が提案されている。その一つは、粒子数収支モデルに衝突効率や凝集塊の空隙率という変数を導入して血小板凝集反応の定量化を行おうとしたものであり、
・ ずり応力下における血小板凝集反応を定量化する方法や、
・ モンテカルロ法による確率論モデルを組み合わせて、ずり応力下における血小板と白血球(好中球)のヘテロ型凝集反応のシミュレーションを行う方法
などが挙げられる。また、移流拡散方程式を用いた2体衝突理論に基づく数理モデルの適用例も提案されており、
・ アデノシン2リン酸(ADP;Adenosine diphosphate)によって惹起される凝集の定量化、
・ 低濃度ADP惹起による自然凝集の定量化、
・ ポアズイユ流れ中におけるコラーゲン凝集の定量化
などが報告されている。
【特許文献1】特開平06−50875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の評価方法(つまり、血小板の凝集反応を定量的に評価する方法)では、幾つかの問題があった。例えば、上述の評価方法では粒子サイズ分布を計算で求めるようになっているが、その計算精度を高めるためには繰り返し計算をする必要があり、その計算に時間が掛かってしまうという問題があった。また、上述の光散乱法による測定結果を上述の評価方法に利用しようとした場合、光散乱法では大中小の3つのサイズに分けて各凝集塊の数密度を測定するのに対し、上述の評価方法では、より細かくサイズ分けしたデータが必要であるため、該光散乱法の測定結果の利用が困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の問題を解消できる血小板凝集反応評価方法及び血小板凝集反応評価装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、試料中における血小板の凝集反応を定量的に評価する血小板凝集反応評価方法において、
前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する工程と、
前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める工程と、
前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める工程と、
前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データから、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化は、前記測定した血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化に基づき算出することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化の測定は時間分解式レーザー散乱法により行うことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記時間分解式レーザー散乱法の測定結果から、大サイズの凝集塊の数密度[L]、中サイズの凝集塊の数密度[M]、及び小サイズの凝集塊の数密度[S]のそれぞれの経時的変化を求め、それらを下式に代入することにより、前記未凝集血小板の数密度[N]の時系列データを算出することを特徴とする。
【数19】

但し、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、試料中の血小板数密度
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4に係る発明において、反応速度論に基づく下式から反応速度定数行列を求めることを特徴とする。
【数20】

【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、前記反応速度論に基づく式中の3つ目の行列の逆行列を求めることにより、前記反応速度行列を求めることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に係る発明において、前記反応速度論に基づく式中の1つ目の行列をYとし、2つ目の行列をLとし、3つ目の行列をXとした場合に、次式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解し、
【数21】

上式に基づき、Xの一般逆行列Xを次式で計算し、
【数22】

該一般逆行列Xを次式に代入して反応速度定数行列(推定値)Lを求めることを特徴とする。
【数23】

【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明において、求めた反応速度定数行列(推定値)Lと次式とから、凝集塊数密度の差分の時系列を表わす行列(推定値)Yを求め、
【数24】

該行列Yの要素∂[N]/∂tcalc,∂[S]/∂tcalc,∂[M]/∂tcalc,∂[L]/∂tcalcと、血小板数密度及び凝集塊数密度の初期値としての実測値[N](0)calc,[S](0)calc,[M](0)calc,[L](0)calcと、次式とから、[N](i)calc,[S](i)calc,[M](i)calc,[L](i)calc(ただし、i=0,1,2・・・)を求め、
【数25】

その最大値[N](i)calc,max,[S](i)calc,max,[M](i)calc,max,[L](i)calc,maxがそれぞれの実測値の最大値[N](i)max,[S](i)max,[M](i)max,[L](i)maxに等しくなるように、各々のスケーリング因子αN,αS,αM,αLを決定することによってスケーリングを取り、解の絶対値を調整することを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項7又は8に記載の発明において、凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均凝集速度と、
【数26】

脱凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均脱凝集速度と、
【数27】

を比較することによって、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価することを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項7又は8に記載の発明において、求めた反応速度定数行列(推定値)Lの各反応の反応速度定数と、その反応に関与した凝集塊数の和との積により、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価することを特徴とする。
【0018】
請求項11に係る発明は、試料中における血小板の凝集反応を定量的に評価する血小板凝集反応評価装置において、
前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する凝集塊測定手段と、
前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める未凝集血小板解析手段と、
前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める差分データ算出手段と、
前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データから、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める反応速度定数行列算出手段と、からなることを特徴とする。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項11に係る発明において、前記未凝集血小板解析手段は、前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を、前記測定した血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化に基づき算出することを特徴とする。
【0020】
請求項13に係る発明は、請求項11又は12に係る発明において、前記凝集塊測定手段による測定は時間分解式レーザー散乱法により行うことを特徴とする。
【0021】
請求項14に係る発明は、請求項13に係る発明において、前記凝集塊測定手段の測定結果から、大サイズの凝集塊の数密度[L]、中サイズの凝集塊の数密度[M]、及び小サイズの凝集塊の数密度[S]のそれぞれの経時的変化を求め、それらを下式に代入することにより、前記未凝集血小板の数密度[N]の時系列データを算出することを特徴とする。
【数28】

但し、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、試料中の血小板数密度
ことを特徴とする。
【0022】
請求項15に係る発明は、請求項13又は14に係る発明において、前記反応速度定数行列算出手段は、反応速度論に基づく下式から反応速度定数行列を求めることを特徴とする。
【数29】

【0023】
請求項16に係る発明は、請求項15に係る発明において、前記反応速度論に基づく式中の3つ目の行列の逆行列を求めることにより、前記反応速度行列を求めることを特徴とする。
【0024】
請求項17に係る発明は、請求項15又は16に係る発明において、前記反応速度論に基づく式中の1つ目の行列をYとし、2つ目の行列をLとし、3つ目の行列をXとした場合に、次式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解し、
【数30】

上式に基づき、Xの一般逆行列Xを次式で計算し、
【数31】

該一般逆行列Xを次式に代入して反応速度定数行列(推定値)Lを求めることを特徴とする。
【数32】

【0025】
請求項18に係る発明は、請求項17に係る発明において、求めた反応速度定数行列(推定値)Lと次式とから、凝集塊数密度の差分の時系列を表わす行列(推定値)Yを求め、
【数33】

該行列Yの要素∂[N]/∂tcalc,∂[S]/∂tcalc,∂[M]/∂tcalc,∂[L]/∂tcalcと、血小板数密度及び凝集塊数密度の初期値としての実測値[N](0)calc,[S](0)calc,[M](0)calc,[L](0)calcと、次式とから、[N](i)calc,[S](i)calc,[M](i)calc,[L](i)calc(ただし、i=0,1,2・・・)を求め、
【数34】

その最大値[N](i)calc,max,[S](i)calc,max,[M](i)calc,max,[L](i)calc,maxがそれぞれの実測値の最大値[N](i)max,[S](i)max,[M](i)max,[L](i)maxに等しくなるように、各々のスケーリング因子αN,αS,αM,αLを決定することによってスケーリングを取り、解の絶対値を調整することを特徴とする。
【0026】
請求項19に係る発明は、請求項17又は18に係る発明において、凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均凝集速度と、
【数35】

脱凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均脱凝集速度と、
【数36】

を比較することによって、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価することを特徴とする。
【0027】
請求項20に係る発明は、請求項17又は18に係る発明において、求めた反応速度定数行列(推定値)Lの各反応の反応速度定数と、その反応に関与した凝集塊数の和との積により、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1乃至20に係る発明によれば、血小板の凝集反応を定量的に評価することができる。また、解の収束性を考慮する必要が無いため、従来の方法のような繰り返し計算は不要であり、解析の時間を短くすることができる。さらに、反応速度定数行列を求めるために必要な数値は、測定(時間分解式レーザー散乱法による測定)及び計算(未凝集血小板の数密度の算出)によって得ることができるため、解析を簡単に行うことができる。また、従来方法のように、血小板の衝突効率等の変数を導入する必要が無いので、該変数による影響を排除でき、精度の良い評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1乃至図9に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(b) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(c) は、凝集惹起剤に100μM濃度のエピネフリンを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(d) は、凝集惹起剤に1μg/ml濃度のコラーゲンを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図である。また、図2は、未凝集血小板、小凝集塊、中凝集塊及び大凝集塊相互間の状態遷移の経路の一例を示す模式図であり、図3は、反応速度定数行列を説明するための図であり、図4(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の小凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(b) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の中凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(c)
は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の大凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図である。さらに、図5(a) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の小凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(b)
は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の中凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(c) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の大凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図である。また、図6(a)
は、平均凝集速度とADPの濃度との関係を示す図であり、同図(b) は、平均脱凝集速度とADPの濃度との関係を示す図である。さらに、図7(a) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。また、図8(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときの実測データ(TRLS法による測定結果)及び濁度を示す図であり、同図(b) は、小凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図であり、同図(c)
は、中凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図であり、同図(d) は、大凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図である。さらに、図9(a) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。
【0030】
本発明に係る血小板凝集反応評価方法は、試料中(具体的には、多血小板血漿試料中)における血小板の凝集反応を定量的に評価する方法であって、
(1) 前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する工程
(2) 前記試料中における未凝集血小板(つまり、活性化されていない血小板や、活性化されてはいるがまだ凝集していない血小板)の数密度の経時的変化を求める工程
(3) 前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める工程
(4) 前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データ等から、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める工程
からなることを特徴とする。これにより、求めた該反応速度定数行列から血小板の凝集反応を定量的に評価することができる。以下、各工程について具体的に説明する。
【0031】
(1) 試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する工程
【0032】
まず、試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する。該測定には、血小板凝集測定法のうちの光散乱法を用いると良く、特に、時間分解式レーザー散乱法(TRLS法:Time−Resolved Laser Scattering method)を用いると良い。該TRLS法では、凝集塊を大・中・小の3種類のサイズに分類し、サイズ毎の計数結果(数密度)を一定時間毎(例えば、10秒毎)に移動加算し、時系列データを求めると良い。例えば、図1(a) はそのようにして求めた時系列データをグラフにしたものであり、Sは小凝集塊の数密度の経時的変化を示し、Mは中凝集塊の数密度の経時的変化を示し、Lは大凝集塊の数密度の経時的変化を示す。なお、それらの詳細については実施例1及び3にて説明する。
【0033】
(2) 未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める工程
【0034】
上述のTRLS法では、小凝集塊や中凝集塊や大凝集塊の数密度を測定することは可能であるが、未凝集血小板の数密度を測定することはできない。そこで、本発明においては、未凝集血小板の数密度は、小凝集塊や中凝集塊や大凝集塊の測定結果から算出するようにした。
【0035】
いま、小凝集塊の数密度を[S]とし、中凝集塊の数密度を[M]とし、大凝集塊の数密度を[L]とし、未凝集血小板の数密度を[N]とすると、次の(1)式が成立する。この式において、[S][M][L]は上述の工程で各時刻毎に求められ、n,n,n,nは後述の方法で求めることができる定数であるので、これらより、各時刻毎の[N]を算出することができる。
【数37】

【0036】
ここで、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数であり、nは、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数であり、nは、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数であり、nは、試料中の血小板数密度である。n,n,nは、次のようにして見積もると良い。本発明者らが、未凝集血小板、小凝集塊、中凝集塊及び大凝集塊のそれぞれの平均粒径を散乱光強度から見積もったところ、2.0μm,6.7μm,15.0μm,23.0μmであった。それらを球形と仮定したときの体積は、各々 4.2μm3,158μm3,1767μm3,6370μm3となる。したがって、n,n,nは、次の(2)式で求められることとなる。
【数38】

【0037】
一方、nの値は、事前に測定した血液中の総血小板数密度のデータと血液から採取されたPRPの容量から算出した。
【0038】
なお、未凝集血小板の数密度を上述のような計算で求めるのではなく、公知の方法(TRLS法以外の方法)で測定するようにしても良い。例えば、測定したい試料を2つに分け、一方の試料では上記(1) のように血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定し、他方の試料では未凝集血小板の数密度を測定すると良い。
【0039】
(3) 前記血小板凝集塊の測定結果及び前記未凝集血小板の算出結果のそれぞれの差分データを求める工程
【0040】
本工程では、前記(1) の工程の測定結果(小凝集塊、中凝集塊及び大凝集塊の数密度の時系列データ)、及び前記(2) の工程の算出結果(未凝集血小板数密度の時系列データ)について、それぞれ差分データを求める。
【0041】
(4) 反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める工程
【0042】
上述の未凝集血小板N、小凝集塊S、中凝集塊M及び大凝集塊Lの4つのコンパートメント間の状態遷移が、図2に示す反応経路に沿って行われると想定し、反応経路毎に反応速度定数kij(但し,i=N,S,M,L,j=N,S,M,L,i≠j)を設定した。図示のモデルでは、
・ NとN,NとS,あるいは,SとSが結合しSに、
・ NとS,NとM,SとM,あるいは,MとMが結合しMに、
・ SとM,MとM,SとL,MとL,あるいは,LとLが結合しLに
それぞれ凝集する場合を想定している。また、同様に、脱凝集反応については、
・ Sが解離して,NとN,NとS,あるいは,SとSに、
・ Mが解離して,NとS,NとM,SとM,あるいは,MとMに、
・ Lが解離して,SとM,MとM,SとL,MとL,あるいは,LとLに
それぞれ解離する場合を考慮に入れている。
【0043】
これらの反応経路によって構成される血小板凝集反応(ある時刻における血小板凝集反応)を反応速度論を用いて数式化すると、次の(3)式のようになる。
【数39】

【0044】
ここで、上式の左辺の∂[N](t)/∂tは、ある時刻tにおける未凝集血小板数密度の時間変化を示すもの(つまり、上述の差分データ)であり、∂[S](t)/∂tは小凝集塊数密度の差分データ、∂[M](t)/∂tは中凝集塊数密度の差分データ、∂[L](t)/∂tは大凝集塊の差分データである。また、[N](t)は、ある時刻tにおける未凝集血小板の凝集塊数密度であり、[S](t)は、ある時刻tにおける小凝集塊の凝集塊数密度であり、[M](t)は、ある時刻tにおける中凝集塊の凝集塊数密度であり、[L](t)は、ある時刻tにおける大凝集塊の凝集塊数密度である。(3)式は、各時刻におけるデータを重畳して表現されている。
【0045】
この(3)式において、2つ目の行列(反応速度定数行列)は、血小板凝集反応の程度と様式を示すものであり(詳細は後述する)、血小板凝集反応の程度と様式を定量的に評価するには、該反応速度定数行列を求める必要がある。以下、該反応速度定数行列を求める方法について説明する。
【0046】
上記(3)式中の各行列を、Y,L,Xで置き換えると、(3)式は次の(4)式のようになる。
【数40】

【0047】
この(4)式を次のように変形すると、反応速度定数行列Lを求めることができる。
【数41】

【0048】
しかしながら、上述の(3)式の場合、未知数の数は反応速度定数行列の要素の数、つまり16個であるのに対して、方程式の数は多く(仮に、420秒間に10秒毎の測定を行った場合は、方程式の数は、4×420÷10=168個となる。)、解は一意的には決まらない。そこで、上記(3)式を解くにはMoore−Penroseの一般逆行列を用いる。そのために、まず、(6)式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解する。
【数42】

【0049】
このとき、Xの一般逆行列Xは次の(7)式のように表されるため、(6)式で得られた行列U、対角化行列S、及び行列Vを用い、一般逆行列Xを計算する。
【数43】

【0050】
そして、この(7)式を上記(5)式に代入すると、(8)式のようになる。
【数44】

【0051】
ここで、LはLの推定値であることを意味する。このようにして、Xの一般逆行列Xと実験データの差分行列Yから反応速度定数行列Lを計算する。
【0052】
なお、系全体をスカラ倍した解もまた同じ方程式を満たすことから、得られた解はスカラ倍の自由度を持つ。そこで、一旦得られたLから、差分行列Y=LXを再計算し、その要素∂[N]/∂tcalc,∂[S]/∂tcalc,∂[M]/∂tcalc,∂[L]/∂tcalcを用いて次の(9)式より、元の時系列データを再計算する。
【数45】

【0053】
但し、[N](0)calc,[S](0)calc,[M](0)calc,[L](0)calcには、血小板数密度及び凝集塊数密度の初期値として実測値を用いた。こうして得られた[N](i)calc,[S](i)calc,[M](i)calc,[L](i)calc(ただし、i=0,1,2・・・)の最大値[N](i)calc,max,[S](i)calc,max,[M](i)calc,max,[L](i)calc,maxがそれぞれの実測値の最大値[N](i)max,[S](i)max,[M](i)max,[L](i)maxに等しくなるように、各々のスケーリング因子αN,αS,αM,αLを決定することによってスケーリングを取り、解の絶対値を調整した。
【0054】
なお、実際の血小板凝集反応では反応速度定数は時間と共に漸次変化するが、血小板凝集反応は複雑な反応であり、種々の素反応がカスケード式に起こり、これら素反応の組み合わせによって一つ一つの反応が構成されているという事実から、本発明では、各反応における反応速度定数が時間によって漸次変化するものではなく、幾つかのタイミングで段階的に変化するものと考えて解析を行った。具体的には、測定時間420秒を4段階に分け、
(i) 凝集惹起剤添加前(測定開始後0〜30秒)
(ii) 惹起剤添加後110秒間(測定開始後30〜140秒)
(iii) その後の140秒間(測定開始後140〜280秒)
(iv) その後140秒間(測定開始後280〜420秒)
とし(図4及び図5等参照)、段階(i) では、反応に変化がないと仮定して∂[S]/∂tを強制的に0に固定する。残りの3段階については、(ii)〜(iv)の各段階でのデータから、3種類の反応速度定数行列を計算した。ここで、反応が弱い場合など、上記の4段階に分けると行列が求められない場合は、全420秒間のデータのうち、凝集惹起剤添加を添加した後の390秒間の全データを用いて、1種類の反応速度定数行列を求めた。
【0055】
反応速度定数行列を図3に示すが、符号1の破線で囲まれる下三角要素(kNS,kNM,kNL,kSM,kSL,kML)は凝集に向かう各反応の反応速度定数を表しているとみることができ、符号2の破線で囲まれる上三角要素(kSN,kMN,kMS,kLN,kLS,kLM)は脱凝集に向かう各反応の反応速度定数を表しているとみることができる。反応速度定数はその反応が起こる確率を表わすので、該反応速度定数を利用することによって、その反応の起こり易さの指標を作ることができる。具体的には、反応速度定数と凝集塊数密度とを掛けて求めた反応速度を利用することによって、その反応の起り易さの指標を作ることができる。そのような指標としては、
A. 反応経路毎に求めた反応速度や、
B. 反応経路毎に求めた反応速度を、上記下三角要素或いは上三角要素に関して足し合わせた値
を挙げることができる。さらに具体的には、上記Aの反応速度(反応経路別の反応速度)としては、
A−1. ある反応経路の反応速度定数kijと、その反応経路での凝集塊数密度(ある時刻の凝集塊数密度)Cijとの積により求めた、ある時刻での反応速度vij(下記の(10)式参照)や、
A−2. 上記反応速度vijを、ある時刻からある時刻までの間 複数回(複数個)求めて、それら複数の反応速度vijの総和を取ったものsij(下記の(11)式参照。以下、“反応経路別の反応速度和”と称する)や、
A−3. 上記反応速度vijを、ある時刻からある時刻までの間 複数回(複数個:n)求めて、それら複数の反応速度vijの平均を算出したもの(下記の(12)式参照。)
などを挙げることができる。これらの値のいずれかを各反応経路毎に比較すれば、その反応を起り易さを推定することができる(詳細は実施例3にて説明する)。
【数46】

【数47】

【数48】

【0056】
一方、上記Bの値としては、上記A−1の値を上記下三角要素或いは上三角要素に関して足し合わせたものや、上記A−2の値を上記下三角要素或いは上三角要素に関して足し合わせたものや、上記A−3の値を上記下三角要素或いは上三角要素に関して足し合わせたものなどを挙げることができる。下記の(13)式は、上記A−2の値を上記下三角要素に関して足し合わせたもの(以下、“平均凝集速度”と称する)を示し、(14)式は、上記A−2の値を上記上三角要素に関して足し合わせたもの(以下、“平均脱凝集速度”と称する)を示す。これらの平均凝集速度と平均脱凝集速度は、起きている反応が全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを判別することができる指標となる。また、下記の(15)式は、上記A−3の値を上記下三角要素に関して足し合わせたものを示し、下記の(16式は、上記A−3の値を上記上三角要素に関して足し合わせたものを示す。
【数49】

【数50】

【数51】

【数52】

【0057】
このように、本方法によれば、並列に起こっている凝集および脱凝集反応によって決定されている各時点でのN,S,M,Lの数密度を凝集反応による成分と脱凝集反応による成分に分解し、各々の平均反応速度を計算することができるため、従来のTRLS法の問題点を解決することができる。また、どの経路の凝集や解離が発生したかという反応様式は、要素の配列位置によって識別することができる。この場合は、上述の反応速度(各経路別の反応速度等)を指標として用いることができる。なお、未凝集血小板(N),小(S),中(M),大(L)凝集塊の数が同じでない場合には、「反応速度定数×関与した凝集塊数の和」なども指標となり得る。したがって、本方法によれば、凝集反応を反応経路ごとに分類した上で、各々の反応速度定数を定量化することができる。
【0058】
本発明によれば、血小板の凝集反応を定量的に評価することができる。また、本発明によれば、解の収束性を考慮する必要が無いため、従来の方法のような繰り返し計算は不要であり、解析の時間を短くすることができる。さらに、本発明によれば、反応速度定数行列を求めるために必要な数値は、測定(時間分解式レーザー散乱法による測定)及び計算(未凝集血小板の数密度の算出)によって得ることができるため、解析を簡単に行うことができる。また、従来方法のように、血小板の衝突効率等の変数を導入する必要が無いので、該変数による影響を排除でき、精度の良い評価を行うことができる。さらに、血栓性疾患の診断はもちろん、アスピリンや抗血小板薬、あるいは、新しく開発されている抗凝集薬剤などの抑制・亢進機能の定量的評価に応用できるものと期待される。
【0059】
一方、本発明に係る血小板凝集反応評価装置は、試料中における血小板の凝集反応を定量的に評価するものであって、
・ 前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する凝集塊測定手段と、
・ 前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める未凝集血小板解析手段と、
・ 前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める差分データ算出手段と、
・ 前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データ等から、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める反応速度定数行列算出手段と、
からなる。この場合、前記凝集塊測定手段による測定は時間分解式レーザー散乱法により行うと良い。また、上述の未凝集血小板解析手段は、前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を、前記測定した血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化に基づき算出するようにすると良い。具体的には、前記凝集塊測定手段の測定結果から、大サイズの凝集塊の数密度[L]、中サイズの凝集塊の数密度[M]、及び小サイズの凝集塊の数密度[S]のそれぞれの経時的変化を求め、それらを下式に代入することにより、前記未凝集血小板の数密度[N]の時系列データを算出するようにすると良い。
【数53】

但し、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、試料中の血小板数密度
【0060】
なお、未凝集血小板の数密度を上述のような計算で求めるのではなく、公知の方法(TRLS法以外の方法)で測定するようにしても良い。例えば、測定したい試料を2つに分け、一方の試料では上記のように血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定し、他方の試料では未凝集血小板の数密度を測定すると良い。
【0061】
さらに、前記反応速度定数行列算出手段は、反応速度論に基づく下式から反応速度定数行列を求めると良い。
【数54】

【0062】
前記反応速度行列は、前記(3)式中の3つ目の行列の逆行列を求めることにより求めても良い。例えば、上式中の1つ目の行列をYとし、2つ目の行列をLとし、3つ目の行列をXとした場合に、次式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解し、
【数55】

上式の行列U,S,Vに基づき、Xの一般逆行列Xを次式で計算し、
【数56】

該一般逆行列Xを次式に代入して反応速度定数行列(推定値)Lを求めるようにすると良い。
【数57】

【実施例1】
【0063】
本実施例においては、本評価方法の妥当性を評価するために、多血小板血漿試料を濃度の異なるアデノシン2リン酸(Adenosine diphosphate;ADP)で惹起したときの凝集反応程度の変化を解析した。
【0064】
〈2μM濃度のADPを使用した場合の解析〉
まず、22ゲージの翼状針(テルモ株式会社製、SV−21CL)を使って、一人の被検者(健常者)Aから20mlの血液を採取し、該血液に抗凝固剤(採血した血液量の1/10の量の3.8%クエン酸ナトリウム溶液)を加え、150Gで10分間だけ穏やかに遠心分離をし、その上清よりPRPを採取した。PRP採取後の血液を、さらに900Gで10分間だけ遠心分離をし、その上層からPPP(Platelet Poor Plasma、乏血小板血漿)を採取した。そして、合計の量が10mlとなるように、このPPPを上述のPRPに加え、調整した。なお、その被検者Aからは、5mlの血液をさらに採取し、市販されている血球計数装置にて、総血小板数を測定した。
【0065】
上述のように調整したPRP試料をレーザー散乱粒子計測型血小板凝集能測定装置(興和株式会社製、PA−200B)にかけ、血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定した。具体的には、PRP試料300μlをスターラ入り専用キュベット(直径が5.6mmの円筒状キュベット)に入れ、攪拌し、測定を開始した。この間、PRP試料はスターラによって攪拌されており、0.82dyn/cm程度のずり応力が作用している状態(末梢血管中で作用するずり応力のおよそ1/30)となる。そして、このキュベットに赤色レーザー(波長:λ=650nm)を照射すると、血小板凝集塊にて散乱光が発生するが、その90°散乱光をフォトダイオードで検出し、得られた光散乱信号のピークから散乱光強度を取得し、凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定した。
【0066】
なお、本実施例においては、測定開始後30秒で、PRP試料に凝集惹起剤を添加した。この凝集惹起剤としては、60μM濃度のADP(シグマアルドリッチ社製、A2754)を精製水にて希釈し、最終濃度が2μMとなるものを用いた。そして、凝集惹起剤を添加して6分30秒が経過した時点で測定を終了した。そのように測定して得た時系列データを図1(a) に示す。この場合、ADPを添加すると直ちに血小板が凝集して、小凝集塊の数が急激に増加することが分った。最初は、放出反応を伴わない、可逆性の(一度凝集した凝集塊が再び解離する)一次凝集が起こり、その後、放出反応が誘発され不可逆性の二次凝集へと進み、中凝集塊の数や大凝集塊の数が増加していくことが分った。中凝集塊が増えるときは小凝集塊の数が減っていくように見え、大凝集塊が増えるときは小・中凝集塊の数が減っていくように見えるが、これは小・中凝集塊が大きくなり、中・大凝集塊へ移行するからである。反応の最後には大凝集塊も減っているように見えるが、これは、大凝集塊に分類される凝集塊がさらにその大きさを大きくしても、その凝集塊の分類が大凝集塊のまま変わらないため、数だけが減っていくように見えるためである。
【0067】
図1(a) に示した時系列データを解析した結果を図4に示す。同図(a)
は小凝集塊数密度の経時的変化を示し、同図(b) は中凝集塊数密度の経時的変化を示し、同図(c) は大凝集塊数密度の経時的変化を示す。各図中の実線はTRLS法での測定結果を示し、破線は本方法による計算結果を示す。いずれの場合も、測定結果と計算結果とはほぼ近似していることが分った。
【0068】
次に、上述の方法により反応速度定数行列を求めた。解析の結果得られた行列は以下の通りであった。
【数58】

【0069】
〈0.6μM濃度のADPを使用した場合の解析〉
次に、60μM濃度のADP(シグマアルドリッチ社製、A2754)を精製水にて希釈し、最終濃度が0.6μMとなる凝集惹起剤を調整した。この凝集惹起剤を用いて、上述と同様の測定及び解析を行った。上述のレーザー散乱粒子計測型血小板凝集能測定装置にて測定して得た時系列データを図1(b) に示す。この惹起剤を用いた場合には、小凝集塊はできるけれども、中・大凝集塊へ発達せずに小凝集塊が解離し、再び血小板へと戻るという、可逆性の一次凝集のみの反応となっていることが分った。
【0070】
この時系列データを解析した結果を図5に示す。同図(a) は小凝集塊数密度の経時的変化を示し、同図(b) は中凝集塊数密度の経時的変化を示し、同図(c) は大凝集塊数密度の経時的変化を示す。各図中の実線はTRLS法での測定結果を示し、破線は本方法による計算結果を示す。小凝集塊及び大凝集塊の計算結果は、数密度の値及び変化の様子が測定結果にほぼ近似しており、中凝集塊の計算結果は、数密度の値こそ差異があるものの変化の様子が測定結果にほぼ近似していることが分った。
【0071】
次に、上述と同様に反応速度定数行列を求めた。解析の結果得られた行列は以下の通りであった。
【数59】

【0072】
〈2つの解析結果の比較〉
上述のようにして得られた2つの反応速度定数行列を比較すると、2μM濃度のADPで惹起した凝集((17)式参照)では、凝集を表す下三角要素のうちkSLを除く要素(図3のkNS,kNM,kNL,kSM,kMLに相当する要素)が、0.6μM濃度のADPで惹起した場合((18)式参照)よりも大きくなっていることが分った。また、脱凝集を表す上三角要素のうちkMN,kLS,kLMを除く要素(図3のkSN,kMS,kLNに相当する要素)は0.6μM濃度のADPで惹起した場合の方が大きくなっていることが分った。但し、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の大凝集塊の数密度は、図5(c)
に示されるように0であるため、その反応速度定数行列の要素(第4行と第4列の要素)は意味を持たないことに留意する必要がある。したがって、それ以外の要素(つまり、1〜3行、1〜3列の要素)で比較する必要があり、kMN以外の要素では、高濃度のADPで惹起した場合の方が強い凝集反応が起こっていることを示しているとみることができる。
【0073】
上述の反応速度定数行列から上述の平均凝集速度((13)式参照)と平均脱凝集速度((14)式参照)とを計算し、ADP濃度との関係を図6(a) (b) に示した。この図より、
・ 平均凝集速度は、ADP濃度が増えると線形に増加し、
・ 平均脱凝集速度は、ADP濃度が増えると線形に減少する
ことが分った。この結果は、平均凝集速度や平均脱凝集速度が、血小板の凝集反応の程度を表わす指標となり得る可能性を示唆するものである。
【0074】
さらに、0.6μM濃度のADPで惹起した場合と2μM濃度のADPで惹起した場合について、上述した(11)式の値(つまり、反応経路別の反応速度和)を反応経路毎に求めた。図7(a) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。なお、縦軸のスケールは、反応速度和の最大値を1としている。ここで、説明の便宜上、0.6μM濃度のADPを“低濃度ADP”と称し、2μM濃度のADPを“高濃度ADP”と称することとすると、凝集反応を示す反応経路では、図7(a) に示すように、小凝集塊S→大凝集塊Lの反応経路を除き、高濃度ADPを使用した方が反応速度和は大きくなっていることが分る。また、低濃度ADPを使用した場合は、未凝集血小板N→小凝集塊Sの反応経路では、反応速度和はある程度の値を示しているものの、未凝集血小板N→中凝集塊Mの反応経路では、反応速度和は非常に小さくなっている。これにより、低濃度ADPを使用した場合には、未凝集血小板から小凝集塊は形成されるものの、中凝集塊に発達することはほとんど無いことが推察できる。これは上述したとおり、ADP濃度の高いほど凝集反応が強く惹起されていることを表している。他方の脱凝集反応を示す反応経路では、図7(b) に示すように、低濃度ADPを使用したときの反応速度和は、
・ 小凝集塊S→未凝集血小板Nの反応経路
・ 中凝集塊M→未凝集血小板Nの反応経路
・ 中凝集塊M→小凝集塊Sの反応経路
である程度の値を示していた。これらの結果から、低濃度ADPを用いた場合には、小凝集塊Sや中凝集塊Mが形成されたとしても直ちに解離して未凝集凝集塊Nや小凝集塊Sに戻るといった反応になっていることがわかり、反応が一次凝集に留まっていることを意味していると考えられる。これに対し、高濃度ADPを用いた場合には、中凝集塊Mや大凝集塊Lが形成されるのに対し、小凝集塊Sから未凝集血小板Nの解離は低濃度ADPの場合と同程度、中凝集塊Mから未凝集血小板Nの解離はむしろ小さくなっており、反応全体として強い凝集反応が進んでいることがわかる。また、大凝集塊Lから小凝集塊Sや中凝集塊Mへの解離、小凝集塊Sや中凝集塊Mから未凝集血小板Nへの解離はみられるが、中凝集塊Mから小凝集塊Sへの反応が確認できないことは興味深い。これはこの経路の逆方向の反応が遮断されていることを示し、反応が二次凝集に進んでいることと関係があるのかもしれない。一次凝集で形成されるのは中凝集塊Mまでで、反応が二次凝集まで進むとはじめて中凝集塊Mや大凝集塊Lの大きな凝集塊が形成されるものと解釈できる。このように、本方法によって得られる経路ごとの反応速度和を比較することによって、ADP濃度により惹起される凝集反応が一次凝集と二次凝集に分類されることを定量的に判別することができることがわかった。
【0075】
本実施例によれば、本評価方法によって、血小板凝集反応を凝集塊の形成機構によって分類した上で、凝集程度を定量的に評価することができる可能性が示された。
【実施例2】
【0076】
上述と同様の方法で、別の被検者(健常者)Bからも血液を採取し、同様の測定及び解析を行った。図8(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときの実測データ(TRLS法による測定結果)及び濁度を示し、同図(b)
は、小凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示し、同図(c) は、中凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示し、同図(d) は、大凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す。また、解析の結果得られた反応速度定数行列は以下の通りであった。
【数60】

【0077】
被検者Bは被検者Aに比べて血小板凝集能が低く、被検者BのPRPに2μM濃度のADPを添加した場合が被検者Aで0.6μM濃度のADPを添加した場合と同程度になっていた。また、図1(b)
と図8(a) を比較すると、両者に大きな差がないことから、被検者Bは被検者Aに比べて血小板凝集能が低く、2μMのADPによる被検者Bの凝集と、0.6μMのADPによる被検者Aの凝集とは一見して同じ程度であるかのように思える。しかし、(17)式の反応速度定数行列及び(18)式の反応速度定数行列の各要素を比較すると、両者の値には違いが見られる。上述の平均凝集速度を計算したところ、被検者Aの7.8´10-2に対して被検者Bでの値は6.5´10-2になっており、両者の凝集反応程度の違いを数値的に示すことができた。すなわち、本方法による定量化は、パターン同士を比較するよりも詳細にデータ評価を行うことのできる可能性を示している。
【実施例3】
【0078】
本実施例においては、
・ 60μM濃度のADP(シグマアルドリッチ社製、A2754)を精製水で希釈して、最終濃度を2μMとしたもの
・ 3mM濃度のエピネフリン(第一三共株式会社製、ボスミン注射液)を精製水で希釈して、最終濃度を100μMとしたもの
・ 30μg/ml濃度のコラーゲンを添付の緩衝液で希釈して、最終濃度を1μg/mlとしたもの
の3種類の凝集惹起剤を使用した場合の凝集反応をそれぞれ解析し、惹起剤の種類による凝集様式の違いについて検討した。なお、凝集塊の測定方法や反応速度定数行列の解析方法は、実施例1と同じとした。
【0079】
TRLS法の測定結果を図1(a) (c) (d) に示す。同図の(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときのデータを示し、同図の(c) は、凝集惹起剤に100μM濃度のエピネフリンを用いたときのデータを示し、同図の(d)
は、凝集惹起剤に1μg/ml濃度のコラーゲンを用いたときのデータを示す。いずれの場合も、各々の惹起剤添加後に凝集反応が始まり、小・中・大凝集塊が作られている。
【0080】
さらに、各凝集惹起剤(つまり、2μM濃度のADPやエピネフリンやコラーゲン)で惹起した場合について、上述した(11)式の値(つまり、反応経路別の反応速度和)を反応経路毎に求めた。図9(a) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。なお、縦軸のスケールは、反応速度和の最大値を1としている。
【0081】
ADPを用いた場合は、図9(a) に示すようにsSMの値が最大であった。これは、小凝集塊から中凝集塊になる反応が多いことを示している。次いでsML,sNSの順に大きい値となっており、各々、MからL、あるいはNからSが形成される反応が比較的強く起こっていることがわかる。さらに、図10(b)より、ADPは他の試薬に比べてNからS・M・Lになる凝集が多いことがわかる。これは、ADP添加によって表出したGPIIb/IIIaに、フォン・ウィルブランド因子(vWF:von Willebrand factor)やフィブリノゲンを仲介として活性化された血小板(N)が接触することで発達していくことを示すものであり、既に文献で発表されている研究結果と一致するものである。
【0082】
エピネフリンを用いた場合は、sNS,sSM,sMLがある程度の値を持ち(図9(a) 参照)、sNM,sNLはほとんど0であるが(図9(b) 参照)、このことは、未凝集血小板Nから中凝集塊Mや大凝集塊Lが形成される反応はほとんどなく、未凝集血小板Nからは小凝集塊Sだけができ、小凝集塊Sから中・大凝集塊M,Lが形成される傾向が強いことを示している。このように段階的に凝集が進んでいくという結果は、未凝集血小板N同士の結合によって小凝集塊Sが形成され、形成された小凝集塊S同士が結合することによって中・大凝集塊M,Lが形成されるというエピネフリン凝集特有の凝集様式を数値的に支持する結果となっている.
【0083】
コラーゲンを用いた場合は、エピネフリン凝集によく似た反応速度定数行列の要素構成になっていることから、コラーゲン凝集もエピネフリン凝集に似た様式で段階的に凝集が発達していくと推測することができる。凝集反応では、未凝集血小板Nから小・中凝集塊S,Mが形成される反応(sNS,sNM,sNL)よりも小・中凝集塊S,Mから中・大凝集塊M,Lが形成される反応(sSM,sSL,sML)が強くなっていることが特徴的であり、反応が急速に進む傾向が強いことを示している。また、脱凝集反応では、中・大凝集塊M,Lから未凝集血小板Nになる反応(sMN,sLN)が強く出ており、解離反応が大きいことがわかる。これは、血小板表面に結合したプロテオグリカンとコラーゲンが結合した後、プロテオグリカンが除去されるまでの間に解離を伴う反応が起こることを示しているかもしれない。
【0084】
これらの解析結果は、本方法による定量化によって、血小板の凝集機構を分類し、評価することができる可能性を示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(b) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(c) は、凝集惹起剤に100μM濃度のエピネフリンを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図であり、同図(d) は、凝集惹起剤に1μg/ml濃度のコラーゲンを用いたときの凝集塊数密度の時間的変化(測定データ)及び濁度法により求めた光透過率の時間的変化を示す図である。
【図2】図2は、未凝集血小板、小凝集塊、中凝集塊及び大凝集塊相互間の状態遷移の経路の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、反応速度定数行列を説明するための図である。
【図4】図4(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の小凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(b)は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の中凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(c) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いた場合の大凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図である。
【図5】図5(a) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の小凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(b)は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の中凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図であり、同図(c) は、凝集惹起剤に0.6μM濃度のADPを用いた場合の大凝集塊の数密度変化(計算結果及び測定結果)の一例を示す図である。
【図6】図6(a) は、平均凝集速度とADPの濃度との関係を示す図であり、同図(b)は、平均脱凝集速度とADPの濃度との関係を示す図である。
【図7】図7(a) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、0.6μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和と2μM濃度のADPで惹起した場合の反応速度和とを図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。
【図8】図8(a) は、凝集惹起剤に2μM濃度のADPを用いたときの実測データ(TRLS法による測定結果)及び濁度を示す図であり、同図(b)は、小凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図であり、同図(c) は、中凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図であり、同図(d)は、大凝集塊数密度の経時変化(計算結果及び測定結果)を示す図である。
【図9】図9(a) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した下三角要素1の反応経路別に示した図であり、同図(b) は、各凝集惹起剤で惹起した反応速度和を図3に示した上三角要素2の反応経路別に示した図である。
【符号の説明】
【0086】
1 凝集に向かう各反応の反応速度定数を示す要素
2 脱凝集に向かう各反応の反応速度定数を示す要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中における血小板の凝集反応を定量的に評価する血小板凝集反応評価方法において、
前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する工程と、
前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める工程と、
前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める工程と、
前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データから、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める工程と、
からなることを特徴とする血小板凝集反応評価方法。
【請求項2】
前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化は、前記測定した血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化に基づき算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項3】
前記血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化の測定は時間分解式レーザー散乱法により行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項4】
前記時間分解式レーザー散乱法の測定結果から、大サイズの凝集塊の数密度[L]、中サイズの凝集塊の数密度[M]、及び小サイズの凝集塊の数密度[S]のそれぞれの経時的変化を求め、それらを下式に代入することにより、前記未凝集血小板の数密度[N]の時系列データを算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の血小板凝集反応評価方法。
【数1】

但し、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、試料中の血小板数密度
【請求項5】
反応速度論に基づく下式から反応速度定数行列を求める、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の血小板凝集反応評価方法。
【数2】

【請求項6】
前記反応速度論に基づく式中の3つ目の行列の逆行列を求めることにより、前記反応速度行列を求める、
ことを特徴とする請求項5に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項7】
前記反応速度論に基づく式中の1つ目の行列をYとし、2つ目の行列をLとし、3つ目の行列をXとした場合に、次式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解し、
【数3】

上式に基づき、Xの一般逆行列Xを次式で計算し、
【数4】

該一般逆行列Xを次式に代入して反応速度定数行列(推定値)Lを求める、
【数5】

ことを特徴とする、請求項5又は6に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項8】
求めた反応速度定数行列(推定値)Lと次式とから、凝集塊数密度の差分の時系列を表わす行列(推定値)Yを求め、
【数6】

該行列Yの要素∂[N]/∂tcalc,∂[S]/∂tcalc,∂[M]/∂tcalc,∂[L]/∂tcalcと、血小板数密度及び凝集塊数密度の初期値としての実測値[N](0)calc,[S](0)calc,[M](0)calc,[L](0)calcと、次式とから、[N](i)calc,[S](i)calc,[M](i)calc,[L](i)calc(ただし、i=0,1,2・・・)を求め、
【数7】

その最大値[N](i)calc,max,[S](i)calc,max,[M](i)calc,max,[L](i)calc,maxがそれぞれの実測値の最大値[N](i)max,[S](i)max,[M](i)max,[L](i)maxに等しくなるように、各々のスケーリング因子αN,αS,αM,αLを決定することによってスケーリングを取り、解の絶対値を調整する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項9】
凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均凝集速度と、
【数8】

脱凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均脱凝集速度と、
【数9】

を比較することによって、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価する、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項10】
求めた反応速度定数行列(推定値)Lの各反応の反応速度定数と、その反応に関与した凝集塊数の和との積により、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価する、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の血小板凝集反応評価方法。
【請求項11】
試料中における血小板の凝集反応を定量的に評価する血小板凝集反応評価装置において、
前記試料中の血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化を測定する凝集塊測定手段と、
前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を求める未凝集血小板解析手段と、
前記血小板凝集塊の経時的変化及び前記未凝集血小板の経時的変化のそれぞれの差分データを求める差分データ算出手段と、
前記血小板凝集塊の測定結果及び前記差分データから、反応速度論に基づいて反応速度定数行列を求める反応速度定数行列算出手段と、
からなることを特徴とする血小板凝集反応評価装置。
【請求項12】
前記未凝集血小板解析手段は、前記試料中における未凝集血小板の数密度の経時的変化を、前記測定した血小板凝集塊のサイズ及び数密度の経時的変化に基づき算出する、
ことを特徴とする請求項11に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項13】
前記凝集塊測定手段による測定は時間分解式レーザー散乱法により行う、
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項14】
前記凝集塊測定手段の測定結果から、大サイズの凝集塊の数密度[L]、中サイズの凝集塊の数密度[M]、及び小サイズの凝集塊の数密度[S]のそれぞれの経時的変化を求め、それらを下式に代入することにより、前記未凝集血小板の数密度[N]の時系列データを算出する、
ことを特徴とする請求項13に記載の血小板凝集反応評価装置。
【数10】

但し、nは、小凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、中凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、大凝集塊を構成するのに必要な未凝集血小板の平均数
は、試料中の血小板数密度
【請求項15】
前記反応速度定数行列算出手段は、反応速度論に基づく下式から反応速度定数行列を求める、
ことを特徴とする請求項13又は14に記載の血小板凝集反応評価装置。
【数11】

【請求項16】
前記反応速度論に基づく式中の3つ目の行列の逆行列を求めることにより、前記反応速度行列を求める、
ことを特徴とする請求項15に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項17】
前記反応速度論に基づく式中の1つ目の行列をYとし、2つ目の行列をLとし、3つ目の行列をXとした場合に、次式のように、Householder変換とQR変換によって行列Xを特異値分解し、
【数12】

上式に基づき、Xの一般逆行列Xを次式で計算し、
【数13】

該一般逆行列Xを次式に代入して反応速度定数行列(推定値)Lを求める、
【数14】

ことを特徴とする、請求項15又は16に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項18】
求めた反応速度定数行列(推定値)Lと次式とから、凝集塊数密度の差分の時系列を表わす行列(推定値)Yを求め、
【数15】

該行列Yの要素∂[N]/∂tcalc,∂[S]/∂tcalc,∂[M]/∂tcalc,∂[L]/∂tcalcと、血小板数密度及び凝集塊数密度の初期値としての実測値[N](0)calc,[S](0)calc,[M](0)calc,[L](0)calcと、次式とから、[N](i)calc,[S](i)calc,[M](i)calc,[L](i)calc(ただし、i=0,1,2・・・)を求め、
【数16】

その最大値[N](i)calc,max,[S](i)calc,max,[M](i)calc,max,[L](i)calc,maxがそれぞれの実測値の最大値[N](i)max,[S](i)max,[M](i)max,[L](i)maxに等しくなるように、各々のスケーリング因子αN,αS,αM,αLを決定することによってスケーリングを取り、解の絶対値を調整する、
ことを特徴とする、請求項17に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項19】
凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均凝集速度と、
【数17】

脱凝集に向かう各反応経路の反応速度和sijを下式のように足し合わせた平均脱凝集速度と、
【数18】

を比較することによって、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価する、
ことを特徴とする請求項17又は18に記載の血小板凝集反応評価装置。
【請求項20】
求めた反応速度定数行列(推定値)Lの各反応の反応速度定数と、その反応に関与した凝集塊数の和との積により、全体として凝集に向かおうとしているのか脱凝集に向かおうとしているのかを定量的に評価する、
ことを特徴とする請求項17又は18に記載の血小板凝集反応評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−244053(P2009−244053A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90211(P2008−90211)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月24日 社団法人日本機械学会発行の「第20回バイオエンジニアリング講演会講演論文集」に発表
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】