血流調節のための材料および方法
本発明は血流調節に有用な材料および方法を提供する。好ましい態様において、本発明は酸化窒素(NO)の活性を増強させ、かつ/または細胞のグアノシン一リン酸(cGMP)を高めることができるペプチドを提供する。これらの機序を通して、本発明は血管弛緩に作用するために有利に使用され、それにより様々な状況において治療的利益を提供する。特定の態様において、本発明は内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることが見出された新規ペプチドを提供する。これらのペプチドはまたcGMP特異的ホスホジエステラーゼ活性を減少させることが見出された。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
政府支援
本出願の対象は米国国立衛生研究所(米国国立心肺血液研究所)からの研究助成金、認可番号1R01 HL67886および1R01 HL68666、ならびに復員軍人援護局からの研究助成金、認可番号0001(メリットレビュー)の支援を受けている。したがって、本発明において米国政府は一定の権利を有し得る。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる2005年5月12日に提出された米国特許仮出願第60/680,217号の恩典を主張する。
【0003】
発明の背景
全身の様々な組織における血流の調節は多くの要因を含む複雑なプロセスである。血圧は、心拍出量、ならびに細動脈、後毛細管細静脈、および心臓の末梢抵抗の調節によって維持される。腎臓は血液量を調節することによって血圧の維持に寄与する。血圧の中枢神経系支配は、血管運動中枢と大まかに呼ばれる延髄領域内の分散した神経細胞によって統合され、調節される。低酸素や二酸化炭素は血管運動中枢を直接刺激する。それはまた大動脈壁内のセンサーからの入力も受け取る。血管運動中枢からの出力は心拍数や血管緊張を変化させて血圧を許容レベルに戻す。
【0004】
組織は自己調節によって自身の血流を調節することができる。酸素の減少、二酸化炭素の増加、または容量オスモル濃度の上昇などの局所的因子は、細動脈および前毛細血管括約筋を弛緩させる。乳酸およびカリウムイオンの濃度はさらに局所的血管拡張を引き起こす。外傷は、血液の損失を制限するために動脈および細動脈の収縮を引き起こす。温度低下もまた局部の血管収縮を引き起こす。
【0005】
循環性のもしくは局所的なホルモン因子は細動脈径を変化させることができる。ヒスタミン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、エピネフリン、キニン、硝酸、およびアデノシンはすべて血管拡張剤である。血管収縮剤は、バソプレッシン、ノルエピネフリン、アンギオテンシンII、およびセロトニンを含む。任意のこれら多くの物質の作用は、組織およびその細胞の受容体補体に依存する。
【0006】
血流の正確な制御は、全身の器官および組織の正常な機能において重要であり、行動、学習、および記憶においても役割を担っている。肺循環からの血流は高度に調節されている。たとえば、肺内皮は、血管運動神経系緊張、血管開存性、および正常血管壁構造を制御する血管作動性物質を放出することにより、肺血流を調節し、低血管抵抗を維持する。
【0007】
肺高血圧(PH)は、肺血管抵抗および換気-血流関係を妨害する肺動脈圧が上昇した状態である。PHは肺循環内の血圧上昇(収縮期圧30 mmHgおよび拡張期圧12 mmHgを上回る)により典型的に特徴づけられる。
【0008】
肺高血圧には2つの小分類がある:1次性(特発性、または「原因不明」)のものと2次性のものである。2次性の形態がより広く見られる。2次性肺高血圧の最も一般的な原因は心疾患と肺疾患である。肺高血圧の根本的原因にも関わらず、肺の血管には肺高血圧の進行に寄与する解剖学的変化が生じる。
【0009】
酸化窒素は肺血流を調節するために重要な役割を担っている化合物である。しかしながらそれは、保存機序が未知の気体であり、膜を通過して自由に拡散し、きわめて不安定である。酸化窒素は数秒のオーダーの生物学的半減期をもち、その生成は厳密に調節されている。
【0010】
酸化窒素は2つのクラスの酸化窒素合成酵素(NOS)により生成される。構成的発現型酸化窒素合成酵素は次の2つのアイソフォーム:内皮型酸化窒素合成酵素(eNOS)および神経型酸化窒素合成酵素(nNOS)として存在する。これらのアイソフォームは血管内皮細胞、血小板、および脳などの神経組織に発現している。
【0011】
血管では、eNOSが様々なメディエーターに反応して内皮依存性の血管拡張を媒介している。酸化窒素のレベルは、ずり応力、すなわち血管にかかる血流方向の力に反応して増加し、炎症のメディエーターである。
【0012】
神経系では、神経型NOSアイソフォームは小脳、嗅球、海馬、線条体、前脳基底部、および脳幹の中の個別の神経細胞集団に局在している。
【0013】
酸化窒素合成酵素の第2のクラスである誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)は、マクロファージ、肝細胞、および腫瘍細胞に発現している。Steuhr et al., Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol. 65:287-346 (1992); Lowenstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 89:6711-6715 (1992)。この形態のNOSは、細胞毒性剤として機能し、誘導型NOSにより生成されたNOは腫瘍細胞および病原体を標的とする。
【0014】
NOSのすべてのアイソフォームはNOを生成するとともにL-アルギニンからL-シトルリンへの変化を触媒する。血管平滑筋細胞および血小板では、NOは、細胞内グアノシン3',5'-環状一リン酸(cGMP)を増加させる可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化させ、それにより血管弛緩を誘導し、血小板凝集を阻害する。後天性心疾患に続発的な肺動脈高血圧は、肺動脈高血圧が続いて起こる肺静脈高血圧につながる左心室の障害から始まる。PAHの病理生物学は複雑である。酸化窒素(NO)を含む血管内皮由来メディエーターが、肺循環におけるNO/cGMP媒介性血管弛緩を通して血管機能の調節の役割を果たしているため、血管内皮細胞の機能不全はPAH進行の要因と考えられる。肺高血圧患者の肺では、eNOSの発現の減少および/またはNO生成の減少が観察されている (Giaid A, and D. Saleh (1995) 「Reduced expression of endothelial nitric oxide synthase in the lungs of patients with pulmonary hypertension」 N. Engl. J. Med. 333:214-221)。血管内皮細胞は、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化することでcGMP生成を増加させるeNOSにより媒介される酸化異化反応を介して、L-アルギニンの代謝からNOを生成する (Michel T. and O.Feron (1997) 「Nitric oxide synthases: Which, where, how, and why?」 J. Clin. Invest. 100:2146-2152; Garcia-Cardena G, R. Fan, D. F. Stern, J. Liu, and W.C. Sessa (1996) 「Endothelial cell nitric oxide synthase is regulated by tyrosinee phosphorylation and interacts with caveolin-1」 J. Biol. Chem. 271:27237-27240)。このように、NOの生理作用はcGMP生成またはNO/cGMPシグナリングを通して媒介される (Chen S, J.M. Patel and E.R. Block (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L849-L856; Marletta, M.A. (1993) 「Nitric oxide synthase structure and mechanism」 J. Biol. Chem. 268:12231-12234)。内皮細胞のNO放出は、シグナル伝達の媒介によるeNOSの活性化を介して、ブラディキニン、アセチルコリン、ヒスタミン、アンギオテンシンIV、およびセロトニンを含む多くの受容体媒介性アゴニストにより増強される (Chen, S., J.M. Patel and E.R. Block (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L849-L856; およびDavis MG, G.J. Fulton and P.O. Hagen (1995) 「Clinical biology of nitric oxide」 Br. J. Surg. 82:1598-1610)。eNOSの触媒活性は、リン酸化状態、カルシウム動員、タンパク質:タンパク質相互作用を含む様々な因子が関わる複数の転写後機序により調節される (Patel, J.M. et al. (1999) 「Increased expression of calreticulin is linked to Ang-IV-mediated activation of lung endothelial NOS」 Am. J. Physiol Lung Cell Mol. Physiol. 277:L794-L801およびGarcia-Cardena G. et al. (1998) 「Dynamic activation of endothelial nitric oxide synthase by HSP 90」 Nature 392:821-824)。
【0015】
細胞のcGMPレベルは、血管弛緩を含む多機能の調節に重要である。ホスホジエステラーゼ(PDE)として公知の酵素ファミリーは加水分解活性を調整することで一過性および持続性の細胞cGMPレベルの上昇を制御することが知られている。PDE-5は肺脈管系の主なcGMP加水分解性PDEアイソフォームである。cGMP特異的PDE阻害剤であるザプリナストは肺循環において血管弛緩を増強することができる (Schutte, H., M. Witzenrath, K. Mayer, N. Weissmann, A. Schell, S. Rosseau, W. Seeger, and F. Grimminger (2000) 「The PDE inhibitor Zaprinast enhances NO-mediated protection against vascular leakage in reperfused lungs」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L496-L502)。
【0016】
PDE阻害剤に関して、PDEの選択的なアイソフォームの阻害に対して特異的ないくつかの非ペプチド性治療薬剤があり、その1つは、米国において肺血管機能調節に対するヒト研究において承認されているか、または用いられている。ザプリナストは肺脈管構造内皮の主なアイソフォームであるPDE 5の選択的阻害剤であるが、その薬理学的効果は動物モデルで検査されてきたのみである。さらに、これらの薬剤はいずれもeNOS活性およびNO生成による細胞のcGMPレベルを調整しないことが知られている。それらの生理的作用はもっぱらcGMPの加水分解の減少に基づくものである。
【0017】
肺動脈高血圧(PAH)は血管障害および肺圧または血管収縮の持続的上昇によって特徴付けられる。PAHは1次性(特発性)またはコラーゲン血管疾患と関連する2次性に分類される。
【0018】
PAHの病因は十分に明らかとなってはいないが、多くの内因性および外因性の要因が循環系において血管拡張の発生と血管収縮との不均衡を引き起こす役割を果たしている。このことは肺細動脈閉塞を含む組織学的病変の進行につながる可能性がある (Farber, H.W. and J. Loscalzo (2004) 「Mechanism of Disease: Pulmonary arterial hypertension」 N. Engl. J. Med. 351:1655-1665, 2004およびNewman, J.H., B.L. Fanburg, S.L. Archer et al. (2004) 「Pulmonary arterial hypertension: future directions」 Circulation 109:2947-2952)。
【0019】
現在、PAHの処置のための治療的アプローチには、限られた成果であるが、様々なプロスタサイクリン製剤(イロプロスト、トレプロスティニル、ベラプロスト)、酸素補給、抗凝固剤(ワーファリン)、カルシウムチャネルブロッカー、エンドセリンアンタゴニスト(シタクスセンタン)、酸化窒素(NO)補給、およびホスホジエステラーゼ阻害剤(ザプリナスト、シルデナフィル)が含まれる (Galie, N., A. Manes, and A.Branzi (2003) 「Prostanoids for pulmonary arterial hypertension」 Am. J. Respir. Med. 2:123-137;およびMehta,S. (2004)「Drug therapy for pulmonary arterial hypertension: what's on the menu today?」 Chest 124:2045-2049)。
【0020】
認知機能の改善と同様に様々な病理学的状態に取り組むために、当該技術において、血流調節を促進する新規な組成物および方法に対する必要性がある。
【発明の開示】
【0021】
概要
本発明は、酸化窒素(NO)活性を増強させること、および/または細胞のグアノシン一リン酸(cGMP)を高めることに有用な材料および方法を提供する。これらの機序を通して、本発明は、たとえば血管弛緩に効果を発揮するために有利に使用することができる。
【0022】
具体的な態様において、本発明は、本明細書においてP3、P4、およびP6と表され、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強することが見出された3つのペプチドを提供する。これらのペプチドはまた、cGMP特異的ホスホジエステラーゼ活性を減少させることも見出された。
【0023】
これらのペプチドはまた、環状アデノシン一リン酸(cAMP)依存性PDEアイソフォームおよび関連機能を阻害するために使用することもできる。それらの有利な生理学的特性のゆえに、本発明のペプチドは本明細書に記載されるように、血流を調節するため、例として肺高血圧、性機能不全、脳虚血を含む様々な状態を処置するため、血小板凝固を減少させるため、ならびに記憶および学習を増強するために用いることができる。特に、本明細書において例としてあげられるのは、肺動脈高血圧の処置のための本発明のペプチドの使用である。
【0024】
本発明の更なる局面は、その送達方法と同様に本発明のペプチドを含有する薬学的組成物と関係する。
【0025】
詳細な開示
本発明は血流調節に有用な材料と方法を提供する。好ましい態様では、本発明は酸化窒素(NO)活性を増強させることができる、かつ/または細胞のグアノシン一リン酸(cGMP)を高めることができるペプチドを提供する。本発明のペプチドはまたホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤として使用することができる。これらの機序を通して、本発明は、たとえば血管弛緩への効果により、様々な組織で血液を調節するために有利に使用され、様々な状況において治療的利益を提供する。
【0026】
特定の態様において、本発明は本明細書においてP3、P4、およびP6と表され、内皮細胞型の酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強することが見出された3つのペプチドを提供する。これらのペプチドはまた、cGMP特異的ホスホジエステラーゼ活性を減少させることも見出された。
【0027】
その有利な生理学的特性のゆえに、本発明のペプチドは本明細書に記載されるように、たとえば肺高血圧、性機能不全、脳虚血を含む様々な状態を処置するために使用することができ、かつ血小板凝固を減少させること、ならびに記憶および学習を増強させることができる。特に、本明細書において例としてあげられるのは、肺動脈高血圧の処置のための本発明のペプチドの使用である。
【0028】
さらにPDEの特定のアイソフォームの阻害を通して、本発明のペプチドは様々な治療法において使用することができる。本発明のPDE阻害剤の具体的な治療用途は以下を含む。
PDE5=血管拡張
PDE3/4=気管支拡張および抗炎症
PDE4=抗炎症
PDE3=心作用
【0029】
特定の態様において、本発明のペプチドは、心臓、脳、腎臓、肺、および/または他器官の血流を調節するために使用することができる。
【0030】
本発明の更なる局面は、本発明のペプチドを含有する薬学的組成物と関係する。
【0031】
特に本明細書において例としてあげられるペプチドは以下のとおりである:
P3: KRFNSISCSSWRRKR(配列番号: 1);
P4: KKRFNSISCSSWRRKRKKR (配列番号: 2);および
P6: WRRKRKES (配列番号: 3)。
【0032】
本発明のペプチドは、cGMPの加水分解の減少につながるPDE活性の阻害のみでなく、eNOS活性、NO生成、およびNO/cGMP媒介性血管弛緩の調節ににおける治療薬剤として使用することができる。これらの活性の最終的な結果は、持続性の細胞cGMPレベルおよびcGMP媒介性機能の維持である。
【0033】
本発明のペプチドは、図1で示される2つの別個の機序、すなわち(i)eNOSの活性化、NOの生成、およびcGMP生成の増加、ならびに(ii)最終的な結果としての細胞cGMPレベルの持続的増加を伴うcGMPの加水分解の減少につながる、PDE活性の阻害のうちの少なくとも1つで細胞cGMPレベルを調節することができるため、特に有利である。
【0034】
本発明により処置される被検体は、血流を調節することが望ましいヒトまたは動物である任意の被検体を含む。本発明により処置される被検体は主にヒトであるが、本発明はまた獣医学的目的のためにイヌ、ネコ、ウマなどのような他の動物被検体にも実行される。
【0035】
以下で詳細な考察をするように、前述の治療を実施するのに有用な活性化合物は、経口、腹腔内、皮下、動脈内、静脈内、筋肉内、および髄腔内注入を含む任意の適切な方法により投与される。注入は所望の血管あるいは器官などに注射器、カニューレ、またはカテーテルを通して行われる。化合物は、たとえば活性化合物を含む呼吸用エアロゾル粒子(たとえば、直径1〜5マイクロンの粒子)の吸入による、気道への吸入、および特に肺における肺胞への吸入によって投与される。
【0036】
肺疾患の局部処置、注入治療の代替、および作用の迅速な開始などの多くの理由により、患者の肺への薬物投与は利点がある。肺に薬物を送達するための多くの様々な装置が開発されており;これらはたとえば加圧エアロゾル(pMDI)、噴霧器、およびドライパウダー吸入器(DPI)である。
【0037】
薬物吸入は肺疾患の局部処置においてすでに十分確立されているが、肺は、薄い上皮を通して分子を吸収する巨大な表面積(約100m2)をもち、これによって迅速に薬物を吸収する可能性をもつため、薬物の全身送達にもまたふさわしい部位である。
【0038】
本発明の薬学的製剤は、下記で詳細に議論するが、典型的には活性化合物および薬学的に許容される担体を含む。滅菌生理食塩水、滅菌水などの薬学的に許容される任意の担体を使用してもよい。活性化合物は、約0.001、0.005、または0.01重量パーセントから約10、20、または50重量パーセントなどの任意の適切な量で、薬学的に許容される担体に含まれる。
【0039】
活性化合物の用量は、特定のペプチド、投与経路、処置している特定の障害、年齢、体重、および患者の状態などに依存する。安定性増加のためにペプチド製剤に添加する賦形剤には、緩衝液、糖質、界面活性剤、アミノ酸、ポリエチレングリコール、およびポリマーが含まれる。
【0040】
本ペプチドは、上記記載のように直接的に、または被検体においてペプチドを発現させるベクター中間体により投与される。このように本発明を実行するために使用されるベクターは一般的に、レンチウィルスベクター、パポバウィルスベクター(たとえば、SV40ベクターおよびポリオーマベクター)、アデノウィルスベクター、およびアデノ関連ウィルスベクターのようなRNAウィルスベクターまたはDNAウィルスベクターである。概ねT.Friedmann, Science 244,1275 16(June 1989)を参照のこと。本発明を実行するために使用されうるレンチウィルスベクターの例は、Kohnに対する米国特許第5,707,865号に記載されるような、モロニーマウス白血病ウィルスベクターを含む。任意のアデノウィルスベクターを本発明を実行するために用いることができる。たとえば、米国特許第5,518,913号、第5,670,488号、第5,589,377号、第5,616,326号、第5,436,146号、および第5,585,362号を参照のこと。アデノウィルスはS. Woo, Adenovirus redirected, Nature Biotechnology 14, 1538(November 1996)で記載されるように、その本来の指向性(tropism)を変更または拡大するために改変することができる。任意のアデノ関連ウィルスベクター(AAVベクター)もまた本発明を実行するために使用することができる。米国特許第5,681,731号、第5,677,158号、第5,658,776号、第5,658,776号、第5,622,856号、第5,604,090号、第5,589,377号、第5,587,308号、第5,474,935号、第5,436,146号、第5,354,678号、第5,252,479号、第5,173,414号、第5,139,941号、および第4,797,368号を参照のこと。標的細胞において異種性核酸の発現に効果を及ぼす限り、ベクター中の調節配列、すなわち転写制御配列および翻訳制御配列は、任意の源のものでありうる。たとえば、一般的に使用されるプロモーターは、LacZプロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウィルス2、およびサルウィルス40(SV40)由来のプロモーターである。たとえば、米国特許第4,599,308号を参照のこと。一度調製すると、組換えベクターは、(a)中のベクターを成長および複製させる細胞を含む細胞培養物によりベクターを増殖させること、次いで(b)既知の技術に従って、細胞培養物から組換えベクターを収集することによって複製することができる。培養物から収集されるウィルスベクターは既知の技術に従って培地から分離し、被験体へ投与するために適切な薬学的担体と組み合わせることができる。そのような薬学的担体は、非限定的に、発熱物質非含有滅菌水または発熱物質非含有滅菌生理食塩水を含む。必要な場合、ベクターは既知の技術に従い、投与用リポソームに封入される。例えば、米国特許第6,875,749号を参照のこと。
【0041】
製剤および投与
本発明の薬学的組成物は、液体組成物およびその乾燥形態を包含する。本発明の目的のため、薬学的組成物または薬学的製剤に関する「液体」という用語は「水様」という用語を含み、凍結された液体製剤を含む。「乾燥形態」は、フリーズドライ(すなわち凍結乾燥(たとえば、Williams and Polli(1984) J.Parenteral Sci. Technol. 38:48-59を参照))、噴霧乾燥(Masters(1991) Spray-Drying Handbook (5th ed; Longman Scientific and Technical, Essez, U.K.),pp. 491-676; Broadhead et al. (1992) Drug Devel. Ind. Pharm. 18:1169-1206; およびMumenthaler et al. (1994) Pharm. Res.11:12-20を参照)、または空気乾燥(Carpenter and Crowe (1998) Cryobiology 25:459-470; およびRoser (1991) Biopharm. 4:47-53を参照)のいずれかにより乾燥させる、液体薬学的組成物または液体薬学的製剤を意図する。「凍結乾燥」という用語は、それぞれに本発明のペプチド製剤の単位用量が入った複数のバイアルを減圧下で急速に凍結しながら乾燥させることを指す。上記記載の凍結乾燥を行う凍結乾燥器は市販で入手可能で、当業者により容易に操作できる。本発明のある態様において、液体組成物は凍結乾燥された組成物として調製される。
【0042】
本発明のある態様において、薬学的組成物は肺送達に適した形、および肺吸入を介した被検体への製剤の投与に適した形で調製される。「肺吸入」は、薬学的組成物を、被験体が口腔を通して吸入するように、送達装置から被験体の口腔へエアロゾルまたは他の適切な剤形の組成物を送達することによって、肺に直接投与することを意図する。「エアロゾル」は、流動する空気中または他の生理学的に許容される気流中の、固体粒子または液体粒子の懸濁物を意図する。他の適切な調製物は、非限定的に、ペプチド組成物を含む粒子が以下で定義されるような乾燥粉末形態の薬学的組成物について記載されるサイズに一致するサイズ範囲で送達される限り、霧、蒸気、またはスプレー調製物を含む。肺吸入は、当業者において公知の他の適切な方法によっても達成される。これらは適切な装置または他のそのような方法を用いた液体点滴注入を含む。肺吸入は、被検体の肺の肺胞内で、吸入したタンパク質組成物の沈着を引き起こす。一度沈着すると、タンパク質は肺胞上皮および毛細血管上皮層を通して、血流へと受動的あるいは能動的に吸収される。
【0043】
ペプチドの肺投与は吸入中に送達装置から被検体の口腔へと生理活性物質を投薬する必要がある。本発明の目的のために、ペプチドを含む薬学的組成物は、使用する送達装置に依存して、エアロゾル、あるいは水溶性または非水溶性の溶液または懸濁液形態、または固体状もしくは乾燥粉末状の薬学的組成物から得られる他の適切な調合物の吸入を介して投与される。そのような送達装置は、当技術分野において周知であり、非限定的に、噴霧器、計量式吸入器、および乾燥粉末吸入器、あるいは薬学的組成物を、水溶性もしくは非水溶性の溶液もしくは懸濁液、または固体もしくは乾燥粉末としての投薬を可能にする他の適切な送達機序を含む。肺送達に適する薬学的組成物の関連で使用する場合、これらの用語は以下の意味をもつ。「水溶性」とは、混合物内で水が主な物質である混合物を含む水で調製されるか、水を含有するか、または水に溶解された組成物を意図する。「非水溶性」とは、水以外の物質または混合物内で水が主な物質でない混合物で調製されるか、それを含有するか、またはそれに溶解された組成物を意図する。「溶液」とは、固体、液体、気体、またはそれらの組み合わせであり得る2つまたはそれ以上の物質からなる均一な調整物を意図する。「懸濁液」とは、1つまたはそれ以上の不溶性物質が別の主な物質内で均一に分散しているような物質の混合物を意図する。
【0044】
本発明の目的のために、「固体」および「乾燥粉末」という用語は、薬学的組成物に関して、互換的に用いられる。「固体」状または「乾燥粉末」状の薬学的組成物は、湿度が約10重量%未満、通常は約5重量%未満、好ましくは約3重量%未満の微細に分割された粉末へと乾燥された組成物を意図している。この乾燥粉末状組成物は本発明のペプチドを含む粒子からなる。粒子サイズは好ましくは平均直径が約10.0μm未満、より好ましくは約7.0μm未満、さらにより好ましくは約6.0μm未満、なおさらに好ましくは約0.1から約5.0μmの範囲で、最も好ましくは平均直径が約1.0から約5.0μmの範囲である。
【0045】
このように、肺送達を意図したペプチドまたはその変異体を含む液体薬学的組成物は、送達装置内で液体溶液または懸濁液として使用され、あるいは当技術分野において周知の凍結乾燥あるいは噴霧乾燥技術を利用してまず乾燥粉末状に処理される。送達装置で液体溶液または懸濁液が使用される場合、噴霧器、計量式吸入器、または他の適切な送達装置が、乾燥粉末形態に対する上記記載と同様の粒子サイズ範囲をもつ液滴として、薬学的有効量の組成物を、肺吸入により、被験体の肺へ単一あるいは複数の分画の用量で送達する。「薬学的有効量」とは、本ペプチドに反応性がある疾患または状態の処置または予防において有用な量を意図する。組成物の液体溶液または懸濁液は、本発明のペプチド組成物の特徴となる特性を損なわない限り、当業者において既知の生理学的に適切な安定化剤、賦形剤、粘性調整剤、充填剤、界面活性剤、またはそれらの組み合わせとともに使用される。
【0046】
液体薬学的組成物が肺送達での使用に先立って凍結乾燥される場合、凍結乾燥される組成物は上記記載の望ましいサイズ範囲をもつ粒子からなる微細に分割された乾燥粉末を得るために微粉砕される。噴霧乾燥が液体薬学的組成物の乾燥粉末形態を得るために使用される場合、処理は上記記載の望ましいサイズ範囲内の粒子からなる実質的に不定形の微細に分割された乾燥粉末となる条件下で実行される。乾燥粉末状の薬学的組成物を調製する方法については、たとえば、参照により本明細書に組み入れられるWO 96/32149; WO 97/41833; WO 98/29096; ならびに米国特許第5,976,574号; 第5,985,248号; 第6,001,336号; および第6,875,749号を参照のこと。
【0047】
乾燥粉末状の薬学的組成物が水溶性もしくは非水溶性の溶液または懸濁液として調製され投薬される場合、計量式吸入器または他の適切な送達装置が使用される。
【0048】
乾燥粉末状組成物の薬学的有効量は、肺吸入に適したエアロゾルまたは他の調合物で投与される。送達装置内に設置された乾燥粉末状組成物の量は薬学的有効量の組成物を吸入により被験体に送達するのに十分な量である。送達装置は単一あるいは複数の分画の用量で、薬学的有効量の組成物を被験体の肺へ肺吸入により送達する。エアロゾル噴霧剤はこの目的を実行するために用いられている任意の従来型の材料でありうる。界面活性剤は、エアロゾルを投薬する送達装置壁へのタンパク質含有乾燥粉末の付着を減少するために、薬学的組成物に添加してもよい。この意図での使用のために適切な界面活性剤には、非限定的に、ソルビタン、トリオレアート、大豆レシチン、およびオレイン酸が含まれる。非水溶性懸濁液としての乾燥粉末状タンパク質組成物の肺送達に適切な装置は市販で入手可能である。そのような装置の例には、Ventolin metered-dose inhaler (Glaxo Inc., Research Triangle Park, N.C.)およびIntal Inhaler(Fisons, Corp., Bedford, Mass.)が含まれる。また、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,522,378号; 第5,775,320号; 第5,934,272号; および第5,960,792号に記載されるエアロゾル送達装置も参照のこと。
【0049】
固体状または乾燥粉末状の薬学的組成物は、乾燥粉末の形態で送達される場合、好ましくは乾燥粉末吸入器または他の適切な送達装置が使用される。本明細書の方法に従う使用に適した市販の乾燥粉末吸入器の例には、Spinhaler powder inhaler (Fisons Corp., Bedford, Mass)およびVentolin Rotahaler (Glaxo, Inc., Research Triangle Park, N.C.)が含まれる。また、参照により本明細書に組み入れられるWO 93/00951、WO 96/09085、WO 96/32152、および米国特許第5,458,135号、第5,785,049号、および第5,993,783号に記載される乾燥粉末送達装置も参照のこと。
【0050】
ペプチドまたはその活性変異体を含む乾燥粉末状の薬学的組成物は、その後に続く、噴霧器、計量式吸入器、または他の適した送達装置を使用した水溶液エアロゾルとしての送達のための水溶液に再構成される。噴霧器は市販されており、たとえば、Ultravent噴霧器(Mallinckrodt Inc., St. Louis, Mo.)およびAcorn II噴霧器(Marquest Medical Products, Englewood, Colo.)を含む。また、参照により本明細書に組み入れられるWO 93/00951に記載された噴霧器および米国特許第5,544,646号に記載されたエアロゾル化された水溶性製剤を送達する装置も参照のこと。
【0051】
本発明の薬学的組成物は「安定化」した組成物であってもよい。一度調製された薬学的組成物または製剤は直ちに被験体に投与されず、調製後、保存のために、液体状、凍結した状態、または被験体への投与に適する液体状または他の形態に後で再構成するための乾燥状態で包装される。
【0052】
本発明の安定化した薬学的製剤は、例としてあげられたペプチドおよびその変異体を含む。変異体は、配列番号:1〜3に示された配列と同一の、類似の、または実質的に類似のアミノ酸配列をもつ。活性を維持した断片または切断型も含まれる。
【0053】
たとえば薬学的有用性を改善した1つまたは複数の突然変異をもつ変異体もまた本発明に含まれる。
【0054】
当業者は、突然変異によりペプチドをコードするヌクレオチド配列に変化が誘導され、それによりインターフェロンの生理活性を変更することなくアミノ酸配列の変化が引き起こされることを認識すると考えられる。このように、ペプチドのアミノ酸配列と異なる配列をもつ変異体をコードする単離した核酸分子が、1つまたは複数のアミノ酸の置換、付加、または欠失がコードするペプチドに導入されるように、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加、または欠失が対応するヌクレオチド配列に導入されることにより、作製される。突然変異は標準的な技法により導入される。そのような変異体もまた本発明に含まれる。
【0055】
たとえば、保存的アミノ酸置換は1つまたは複数の非本質的アミノ酸残基で行ってもよい。「非本質的(nonessential)」アミノ酸残基とは、生理活性を変更せずに配列から変更することが出来る残基のことであり、一方「本質的(essential)」アミノ酸残基は、生理活性において必要である。「保存的アミノ酸の置換」とは、アミノ酸残基が同様な側鎖をもつアミノ酸残基に置き換わった置換のことである。同様な側鎖をもつアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖をもつアミノ酸(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖をもつアミノ酸(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0056】
生理活性をもつ変異体は一般的に、比較の基準となるアミノ酸配列に対し少なくとも80%、より好ましくは約90%から約95%またはそれ以上、最も好ましくは約96%から約99%またはそれ以上のアミノ酸配列相同性をもつと考えられる。「配列相同性」とは、変異体のアミノ酸配列の特定されかつ近接するセグメントを整列させて参照分子のアミノ酸配列と比較する場合に、参照として用いる変異体ポリペプチドおよびポリペプチド分子内で同一のアミノ酸残基が見つかることを意図する。
【0057】
このように数学的アルゴリズムを用いて任意の2つの配列間の相同性比率を決定することが出来る。配列比較に利用される数学的アルゴリズムの非限定的な好ましい例の1つは、Myers and Miller(1988)Comput. Appl. Biosci. 4:11-7のアルゴリズムである。
【0058】
本発明に包含される生理的に活性な変異体には、たとえばポリエチレングリコール(PEG)またはアルブミンと共有結合でつながれたペプチドも含まれる。このような共有結合によるハイブリッド分子は、患者へ投与した後の血清半減期の延長など、特定の望ましい薬学的特性を備えている。PEG付加体の作製方法には、ペプチドと反応する活性化合物の作製のためのモノメトキシポリエチレングリコールの化学的修飾が含まれる。PEG結合ポリペプチドの作製および使用の方法は、たとえばDelgado et al. (1992) Crit. Rev. Ther. Drug, Carrier Syst. 9:249-304に記載されている。アルブミン融合ポリペプチドの作製方法は、対象ポリペプチドのコード配列とアルブミンとの融合を含み、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,876,969号に記載されている。
【0059】
本発明に包含される生理的に活性なペプチド変異体は、関連する活性、特にeNOS活性を増強させる能力を保持する。ある態様において、変異体は、アミノ酸配列が配列番号:1〜3で与えられるポリペプチドの生理活性の少なくとも約25%、約50%、約75%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、またはそれ以上を保持する。配列番号:1〜3で示されるポリペプチドの活性と比較して活性が増加している変異体も包含される。
【0060】
本発明の製剤は非限定的に、トリ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、およびヒトを含む任意の動物種に投与される。好ましくは、被検体は哺乳類である。
【0061】
本発明のいくつかの態様では、ペプチドは組換えにより作製される。ペプチドは、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養することにより作製することができる。宿主細胞はヌクレオチド配列を転写して所望のタンパク質を生成することができる細胞であり、原核生物(たとえば大腸菌(E.coli))または真核生物(たとえば酵母、昆虫、または哺乳類細胞)であることができる。組換えによる作製の例は参照により本明細書に組み入れられる、Mantei et al. (1982) Nature 297:128; Ohno et al., (1982) Nucleic Acids Res. 10:967; Smith et al. (1983) Mol. Cell. Biol.3: 2156、ならびに米国特許第4,462,940号、第5,702,699号、および第5,814,485号で挙げられている。あるいは、ペプチドは、当技術分野において既知の方法により対象となるタンパク質を発現するように遺伝子的に操作された遺伝子導入動物または遺伝子導入植物により作製される。
【0062】
あるいは、本ペプチドは、ペプチド技術分野の当業者にとって既知の任意のいくつかの技法により化学的に合成することができる。たとえば、固相ペプチド合成法を議論している、Li et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2216-2220、Steward and Young (1984) Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Company, Rockford, Ill.)、およびBaraney and Merrifield (1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, ed. Gross and Meinhofer, Vol.2 (Academic Press, New York, 1980), pp. 3-254; ならびに古典的な溶液合成を議論しているBodansky (1984) Principles of Peptide Synthesis (Springer-Verlag, Berlin)、およびGross and Meinhofer, eds. (1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Vol. 1(Academic Press, New York)を参照のこと。
【0063】
本発明の薬学的組成物の調製で使用するために組換えにより生成されるペプチドは、当業者にとって既知の任意の方法を利用して回収され、精製される。そのような方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,462,940号および第5,702,699号で開示される方法を含む。
【0064】
本発明により包含される組成物は、約0.01 mg/mlのペプチドから約20.0mg/mlペプチド(重量/体積)であってもよい。様々な態様において、ペプチドは、約0.01mg/mlから約20.0mg/ml、約0.015mg/mlから約12.5mg/ml、約0.025mg/mlから約10.0mg/ml、約0.05mg/mlから約8.0mg/ml、約0.075mg/mlから約6.0mg/ml、約0.1mg/mlから約4.0mg/ml、約0.125mg/mlから約2.0mg/ml、約0.175mg/mlから約1.0mg/ml、約0.2mg/mlから約0.5mg/ml、約0.225mg/mlから約0.3mg/ml、および約0.25mg/mlの濃度で存在する。
【0065】
いくつかの態様において、本発明の製剤は薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される担体」とは、治療成分の保存、投与、および/または治癒効果を促進するために当技術分野において通常使用される担体を意図する。担体はまたペプチドの任意の望ましくない副作用を減少しうる。適切な担体は安定であり、すなわち製剤中の他の成分と反応することができない。それは処置に用いられる用量および濃度で受容者において顕著な局所性または全身性の有害作用を生じない。そのような担体は概ね当技術分野において既知である。本発明に関して適切な担体は、ゼラチン、コラーゲン、多糖、単糖、ポリビニル-ピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、固定油、エチルオレアート、リポソーム、グルコース、乳酸、マンノース、デキストロース、デキストラン、セルロース、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、および類似のもののような、通常用いられる巨大で安定的な巨大分子である。ヒアルロン酸のような徐放性担体もまた適切であり得る。特にPrisell et al. (1992) Int. J. Pharmaceu. 85:51-56および米国特許第5,166,331号を参照のこと。
【0066】
薬学的組成物はさらに、ペプチドの可溶性に寄与する可溶化剤または可溶性促進剤を含む。そのような可溶性促進剤の例は、可溶性を促進する能力を保持するアルギニンのアミノ酸アナログと同様にアミノ酸のアルギニンを含む。そのようなアナログは非限定的に、アルギニンを含むジペプチドおよびトリペプチドを含む。さらなる適切な可溶化剤は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,816,440号; 第4,894,330号; 第5,004,605号; 第5,183,746号; 第5,643,566号、およびWang et al. (1980) J.Parenteral Drug Assoc. 34:452-462で議論されている。
【0067】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩の1つ、たとえばEDTA二ナトリウムのような他の安定化剤を、液体薬学的組成物の安定化をさらに増強するために付加することができる。他の適切な安定化剤は、ポリソルベート80 (Tween 80)およびポリソルベート20 (Tween20)のようなポリオキシエチレンソルビトールエステルを含む非イオン性界面活性剤; プルロニックF68およびプルロニックF127のようなポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンエステル; Brij35のようなポリオキシエチレンアルコール; シメチコン;PEG400のようなポリエチレングリコール; リゾホスファチジルコリン; ならびにトリトンX-100のようなポリオキシエチレン-p-t-オクチルフェノールを含む。界面活性剤による医薬物の古典的な安定化は、たとえば参照により本明細書に組み入れられるLevine et al. (1991) J. Parenteral Sci. Technol. 45(3): 160-165に記載されている。
【0068】
「薬学的有効量」とは、疾患または状態を処置または予防するのに有用な量を意図する。典型的な投与経路は、非限定的に、経口投与、経鼻送達、経肺送達、および非経口投与(経皮、静脈、筋肉内、皮下、動脈内、および腹腔内の注射または注入を含む)を含む。そのような態様の1つにおいて、投与は注射、好ましくは皮下注射による。本発明の組成物の注射可能な形態は、非限定的に、溶液、懸濁液、乳濁液を含む。典型的には、ペプチドの治療的有効量は、組成物を約0.01μg/kgから約5mg/kg、好ましくは約0.05μg/kgから約1000μg/kg、さらに好ましくは約0.1μg/kgから約500μg/kg、なおさらに好ましくは約0.5μg/kgから約30μg/kg含む。
【0069】
安定化された薬学的組成物は膜による濾過で滅菌され、密封バイアルまたはアンプルのような単位用量容器または複数用量容器に保存される。一般的に、当技術分野において既知の薬学的組成物を処方する更なる方法は、本明細書に開示される安定化剤の有益な効果に対し有害でなければ、本明細書において開示される薬学的組成物の保存安定性をさらに増強するために使用される。薬学的に許容される担体、安定化剤などの処方および選択についての徹底的な議論は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences(1990) (18th ed., Mack Publishing Company, Eaton, Pa.)で見出すことができる。
【0070】
以下は本発明を実行するための手順を記述した例である。これらの例は制限的であると解釈されるべきではない。すべてのパーセンテージは重量によるものであり、すべての溶媒混合物の比率はそうでないことが記述されない限り体積によるものである。
【0071】
実施例1:eNOSへのペプチドの効果
本発明の合成ペプチド(P3、P4、およびP6)のeNOS触媒活性への効果を、培養された肺動脈上皮細胞(PAEC)モデルを用いて調べた。
【0072】
PAEC単層を、さまざまな濃度のP3、P4、およびP6が存在するまたは存在しない(対照群)RPMI 1640培地で、37℃で1時間、インキュベートした。インキュベーション後、eNOSの触媒活性を以前に記述されているように、[3H]-L-アルギニンからの[3H]-シトルリンの形成をモニターすることによって決定した (Chen, S., J.M. Patel and E.R. Block ER (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279:L849-L856; およびPatel, J.M., Y.D.Li, J.L.Zhang et al. (1999) 「Increased expression of calreticulin is linked to Ang-IV-mediated activation of lung endothelial NOS」 Am. J.Physiol Lung Cell Mol. Physiol.277:L794-L801)。
【0073】
図2に示すように、eNOSの触媒活性は、対照群と比較して、P3、P4、およびP6により刺激した細胞内で用量依存的に有意に上昇した。
【0074】
実施例2:cGMP特異的PDE活性の修飾
合成ペプチドを、PAECにおけるcGMP特異的PDE活性の修飾との任意の関連を調べるために評価した。
【0075】
細胞単層は、それぞれ10μMのP3、P4、P6、またはザプリナストが存在するまたは存在しない(対照群)RPMI 1640培地で、37℃で1時間、インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ホモジナイズし、4℃で15分間、15,000×gで遠心分離することで上清を収集した。上清のPDE活性を以前に記述されているように(16)、3H-cGMPの加水分解をモニターすることによって測定した。
【0076】
図3に示すように、PDEのcGMP特異的触媒活性は、対照群と比較して、P3、P4、およびP6により有意に減少した。P3、P4、およびP6によるPDE活性の減少は、PDEの公知の阻害剤であるザプリナストによる減少と同等である。
【0077】
結果は、PDE活性の阻害が、cGMPの細胞内レベルの上昇につながるcGMP加水分解の減少につながることを示す。さらに、eNOS活性に対するこれらのペプチドの効果と組合わせると、これらのデータは、細胞内cGMPの持続的なレベルが、これらの新規ペプチドによる、eNOS活性化を介するNO生成の増強およびPDE阻害剤を介するcGMPの加水分解の減少の両方により達成できることを示唆する。
【0078】
実施例3:低酸素肺における血管拡張効果
特定病原体未感染のメスC57BL/6Jマウス(体重30〜35g)をペントバルビタール(60 mg/kg、腹腔内)で麻酔し、体重100gあたり0.6〜0.8mlの一回換気量で、SAR-830シリーズの小動物用の人工呼吸器により、60呼吸/分で1時間、空気(対照群)または0%酸素で換気しながら肺を胸郭から切除した。低酸素血管収縮の発生後、血管拡張反応を、酸化窒素合成阻害剤(L-NAME、100μM)が存在するまたは存在しないそれぞれ15μMのP3、P4、P6、またはザプリナストの付加によりモニターした。血管拡張反応は以前に記述されているように(Hu et al. (2004) Am.J.Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 286:L1066-L1074)、連続してモニターした。
【0079】
結果は図4に示す。また図5はFITCで標識したP3の肺内皮細胞での内部移行を示す。
【0080】
実施例4:低酸素肺/インサイチュー肺の灌流
以下の実験的証拠は、低酸素肺高血圧のインサイチューラットモデルを用いてP3媒介性反応を立証する。
【0081】
特定病原体未感染のスプラーグドーリーラット(体重200〜250g)をペントバルビタール(60 mg/kg、腹腔内)で麻酔する。深く麻酔したことを確認した後、気管を18Gの先端の丸い(blunt-tipped)カテーテルでカニューレ処置し、温かく加湿したO2 21%/ CO2 5%/ N2 74%で、60呼吸/分、最大吸気圧9cm H2O、最大呼気圧3cm H2Oで、2.5ml/分の一回換気量で換気した(SAR-830/p 小動物用人工呼吸器、CWE,Ardmoore, PA)。開胸を行い、100ユニットのヘパリンを右心室(RV)に注入した。Cook ダブルルーメン中心静脈カテーテル (Cook Critical Care, Bloomington, IN)に接続したPE-90ポリエチレンチューブを左心室から左心房に設置し、そこにつないだ。主肺動脈(PA)中にダブルルーメンカテーテルと接続させた別のPE-90ポリエチレンチューブを設置した後、肺を20cm H2Oの一定呼気終末圧で、O2 21%/ CO2 5%/ N2 74%(正常酸素)で換気し、開胸してpH指示剤を含まず4%フィコールを含むRPMI 1640で、一定流量2ml/分で、インサイチューで灌流した。30分後、換気混合物をO2 2%/ CO2 5%/ N2 93%(低酸素)に30分間変更し、PA圧の変化をPO-NE-MAH-P3P Lung Perfusion System ソフトウェア(Gould Instrument System)を用いて連続的に記録し、灌流液試料を以前に報告されているように(Hu et al. Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 286:L1066-L1074,2004)、NO放出レベルを決定するために収集した。換気ガス(低酸素)を正常酸素ガスに戻し、肺をRPMI 1640またはRMPI 1640中のP3(20μMおよび40μM)で10分間灌流し、その後O2 2%による低酸素負荷を繰り返し、PA圧反応を記録した。
【0082】
図6に示すように、正常酸素肺におけるベースラインPAPと比較して、低酸素により誘導された血管収縮または肺動脈圧 (PAP)の有意な増加が見られた。20μMのP3の注入は正常酸素肺および低酸素肺の両方でPAPを有意に減少させ、それはP3の濃度を増加させた場合(40μM)に観察されたものと同等であった。さらに、低酸素肺におけるP3の媒介によるPAP減少の大きさは、正常酸素での減少と比べ非常に大きかった。
【0083】
図7の結果は、P3が正常酸素肺および低酸素肺の両方からの灌流液においてNO放出を増加させることを示す。
【0084】
実施例5:低酸素肺でのP3のインビボ血管拡張効果
特定病原体未感染のスプラーグドーリーラット(体重200〜250g)を、自動パージ、エアロック、ならびに生存動物の自動化された選別(filtration)および除湿システムを装備するCoy Laboratory低酸素チャンバ内で低酸素(10%吸気酸素)に2〜6週間曝露した。対照(正常酸素)動物は同等の湿度および室温環境に維持した。低酸素曝露は、ケージを掃除し餌と水を補充するために週に2回チャンバーを各10〜15分間開放するときを除いて、24時間/日行った。すべてのラットは12:12時間の昼/夜周期で曝露され、標準的なラットの餌と水を自由に摂取できるようにした。一部のラットには低酸素曝露開始の24時間前から毎日1回、生理食塩水中のP3(+P3)(10 mg/kgまたは20 mg/kg、腹腔内)、または生理食塩水のみ(-P3)を与えた。2、3、および6週間の曝露後、動物を肺動脈圧、肺重量/体重(LW/BW)比、および右心室/心臓重量(RV/HW)比における変化を含む様々なパラメータの測定に使用した。
【0085】
図8に示すように、2、3、または6週間の低酸素への曝露は、正常酸素肺でのPAPと比較してPAPの有意な増加を引き起こした。図9、10はそれぞれ、低酸素により誘導された肺浮腫および心浮腫のためのLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。低酸素により誘導されたPAP圧(図11)およびRV/HW比(図12)はP3投与により減少した。
【0086】
実施例6:性機能不全の処置
性機能不全(SD)は男性および女性両方に影響を及ぼす重要な臨床問題である。SDの原因は心理的なものであると同時に器官的なものである。SDの器官的側面は典型的には根底にある血管疾患によるものである。臨床では、SD障害は女性性機能不全(FSD)障害と男性性機能不全(MSD)障害に分類されてきた。FSDは女性が性的発現に満足を見出すことに対して困難または無能であることとして最もよく定義されている。男性性機能不全(MSD)は一般的に勃起不全と関連があり、また男性勃起不全(MED)としても知られている。たとえば、米国特許第6,878,529号を参照のこと。
【0087】
本発明の化合物は、男性の性機能不全(たとえば、男性勃起不全-MED)および女性-女性性機能不全(FSD)、たとえば女性性的興奮障害(FSAD)の処置に使用することができる。
【0088】
A. 女性性機能不全(FSD)
FSDのカテゴリーは、正常な女性の性的反応の段階と対比させることにより最もよく定義されている:欲求、興奮、およびオルガズム。興奮は性的刺激に対する血管反応であり、その重要な要素は陰部充血であり、膣潤滑の増加を含む。
【0089】
従って、FSDは女性がこれらのいずれかの段階で不適切あるいは不十分な反応をもつときに生じる。FSDカテゴリーは、性的欲求低下障害、性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害を含む。本発明のペプチドは(女性性的興奮障害において)性的刺激に対する陰部反応の改善のために使用され、そうすることで関連する性交に付随する痛覚、苦痛、不快感を改善し、他の女性性的障害を処置する。
【0090】
最近、FSAD症状を患う患者の少なくとも一部に血管性基盤があると仮定されてきている。そのため、本発明の一局面において、性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害の処置または予防のための、より好ましくは性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害の処置または予防のための、最も好ましくは性的興奮障害の処置または予防のための、本発明のペプチドの使用が提供される。FSADの処置のための薬物候補は有効性に関して調査中であり、本来は男性生殖器への循環を促進する勃起不全療法である。それらは2つのタイプの製剤、すなわち、経口または舌下薬剤(アポモルフィネ、フェントラミン、ホスフォジエステラーゼ5型阻害剤(たとえばシルデナフィル))、および男性では注射または経尿道的に、女性では性器へ局所的に投与されるプロスタグランジンからなる。しかしながら、これらの治療法はFSADの処置に効果があると示されてはいない。
【0091】
本発明のペプチドは、興奮中に生じる内因性の血管弛緩効果を増強する。これは、陰部血流の増強、およびそれにより起こる陰部充血により、FSADの予防および/または処置につながる。
【0092】
B. 男性勃起不全(MED)
男性勃起不全(MED)は以下のように定義される: 「…十分な性行為のための陰茎勃起を達成および/または維持することが不能であること(NIH Consensus Development Panel on Impotence, 1993)…」。
【0093】
あらゆる程度(最小限の、中程度の、および完全なインポテンス)の勃起不全(ED)の罹患率は、40歳から70歳の男性で52%であると推定されており、70歳より年齢が高い男性ではさらに比率が高くなる。この状態は患者およびそのパートナーの生活の質に関してきわめて否定的な影響をもち、鬱病および低い自己評価につながる不安および緊張の増加をしばしば引き起こす。20年前はMEDは主に心理的な障害だと考えられていたが、現在では大半の患者には根底に器官的な原因があることが知られている。
【0094】
陰茎勃起は、陰茎の海綿体平滑筋および脈管構造の収縮と弛緩のバランスに依存する血行動態的現象である(Lerner et al. 1993)。海綿体平滑筋の弛緩は海綿体小柱洞への血流の増加につながり、それらが周囲膜に対して膨張し、そこから出る静脈を圧迫する。これにより勃起につながる血圧の劇的上昇を生じる(Naylor, 1998)。
【0095】
男性の性的興奮のあいだ、NOが放出され、内皮、結合し、平滑筋細胞および内皮に存在する可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を活性化させ、細胞内環状グアノシン3',5'一リン酸(cGMP)レベルの上昇につながる。
【0096】
シルデナフィルシトレート(バイアグラ(登録商標)とも知られる)はMEDの処置のための最初の経口薬物として、ファイザー社により最近開発された。シルデナフィルは、選択的にホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することにより、cGMPから5'GMPへの加水分解を制限して(Boolel et al., 1996; Jeremy et al., 1997)、それによって細胞内cGMP濃度を増加させかつ海綿体平滑筋の弛緩を促進し、海綿体中のcGMP分解を阻害することにより作用する。
【0097】
本発明は、正常な性的興奮反応を回復する手段--すなわち男性における陰茎の勃起につながる陰茎血流の増加させる、および女性における陰部充血を増加させる手段を提供するために有益である。従って、本発明は正常な性的興奮反応を回復または増強する手段を提供する。
【0098】
実施例7:脳虚血の処置
脳虚血を経験した患者は、一過性の神経障害から不可逆性の損傷(脳卒中)または死に至る身体障害に苦しむことが多い。脳虚血、すなわち中枢神経系への血流の減少あるいは停止は、全体的または局所的として特徴付けられる。
【0099】
局所脳虚血は、頭蓋内大脳動脈または頭蓋外大脳動脈において部分的または完全な閉塞に由来する脳脈管構造内の血流の停止または減少を意味する。そのような閉塞は典型的に、少なくとも24時間持続する神経障害の急性の発生に特徴付けられる症候群である脳卒中に至り、中枢神経系の巣状病変を反映し、脳循環の撹乱の結果として起こる。局所脳虚血の他の原因は、クモ膜下出血または医原性介入による血管攣縮を含む。
【0100】
全脳虚血は、体循環不全による脳脈管構造内の血流の停止または減少を意味する。適切な細胞灌流の維持のための循環系の不全は、組織への酸素および栄養素の減少につながる。従って、全脳虚血は心臓機能の重篤な低下に由来するものである。更なる原因は、頚動脈血管形成術、ステント留置、または動脈内膜切除などのような、場合によっては局所脳虚血を引き起こしうる介入的措置、ならびに心臓カテーテル、電気生理学的検査、および血管形成術などのような、全脳虚血を引き起こしうる心臓措置を含む。
【0101】
当業者は、脳卒中を患う患者、または脳卒中、脳虚血、頭部外傷、もしくはてんかんになるリスクをもつ患者を容易に同定できる。たとえば、脳卒中になるリスクをもつ患者は、非限定的に、高血圧患者または大手術を受ける患者を含む。
【0102】
伝統的に、急性虚血性脳卒中の緊急対応は、たとえば、水分補給、神経学的状態のモニタリング、血圧コントロール、および/または抗血小板治療もしくは抗凝固治療などの、主に一般的な対症療法からなる。ヘパリンは脳卒中患者に投与されているが、その効果は有限かつ不十分である。全身性のt-PAの処置は脳内出血および他の出血性合併症のリスクの増加と関連する。血栓溶解剤およびヘパリンの投与を別として、現在の市場には、局所脳虚血の閉塞を患う患者に対する治療的選択肢はない。米国特許第6,858,383号を参照のこと。
【0103】
ある態様において、本発明のペプチドは虚血の処置のために使用することができる。
【0104】
本明細書において言及または引用されたすべての特許、特許出願、仮出願、および公報は、すべての図および表を含むその全体が、本明細書の明確な教示と相反しない範囲において、参照により組み入れられる。
【0105】
本明細書において記述した例および態様は例示を目的とするのみであり、それを踏まえた様々な改変または変更が当業者に対して示唆され、本出願の精神および範囲内に含まれるべきだと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
本特許の書類は少なくとも1つのカラーで描かれた図を含む。
【0107】
【図1】活性を生じる本発明のペプチドを通した機序を表す。
【図2】本発明のペプチドのeNOS活性を増強する能力を示す。
【図3】本発明のペプチドによるcGMP依存的活性の阻害を示す。
【図4】マウスの低酸素肺における、酸化窒素合成酵素阻害剤L-NAMEがある場合またはない場合のペプチドおよびザプリナストにより誘導された血管弛緩を示す。
【図5】ペプチド(P3、P4、P6)およびザプリナストによるcGMPホスホジエステラーゼ(PDE)活性の阻害を示す。
【図6】正常酸素肺におけるベースラインのPAPと比較した低酸素により誘導された血管収縮または肺動脈圧(PAP)の有意な増加を示す。
【図7】正常酸素肺および低酸素肺の両方に由来する灌流液において、P3がNO放出を増加させることを示す。
【図8】正常酸素肺のPAPと比較して、2、3、および6週間、低酸素に曝露することによりPAPの有意な増加が引き起こされたことを示す。
【図9】低酸素により誘導されたそれぞれ肺浮腫および心臓浮腫に由来するLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。
【図10】低酸素圧により誘導されたそれぞれ肺浮腫および心臓浮腫に由来するLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。
【図11】P3の投与により減少した、低酸素により誘導されたPAP圧を示す。
【図12】P3の投与によりの減少した、低酸素により誘導されたRV/HW比を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列の簡単な説明
配列番号:1は本明細書においてP3: KRFNSISCSSWRRKRと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【0109】
配列番号:2は本明細書においてP4:KKRFNSISCSSWRRKRKKRと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【0110】
配列番号:3は本明細書においてP6:WRRKRKESと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【背景技術】
【0001】
政府支援
本出願の対象は米国国立衛生研究所(米国国立心肺血液研究所)からの研究助成金、認可番号1R01 HL67886および1R01 HL68666、ならびに復員軍人援護局からの研究助成金、認可番号0001(メリットレビュー)の支援を受けている。したがって、本発明において米国政府は一定の権利を有し得る。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる2005年5月12日に提出された米国特許仮出願第60/680,217号の恩典を主張する。
【0003】
発明の背景
全身の様々な組織における血流の調節は多くの要因を含む複雑なプロセスである。血圧は、心拍出量、ならびに細動脈、後毛細管細静脈、および心臓の末梢抵抗の調節によって維持される。腎臓は血液量を調節することによって血圧の維持に寄与する。血圧の中枢神経系支配は、血管運動中枢と大まかに呼ばれる延髄領域内の分散した神経細胞によって統合され、調節される。低酸素や二酸化炭素は血管運動中枢を直接刺激する。それはまた大動脈壁内のセンサーからの入力も受け取る。血管運動中枢からの出力は心拍数や血管緊張を変化させて血圧を許容レベルに戻す。
【0004】
組織は自己調節によって自身の血流を調節することができる。酸素の減少、二酸化炭素の増加、または容量オスモル濃度の上昇などの局所的因子は、細動脈および前毛細血管括約筋を弛緩させる。乳酸およびカリウムイオンの濃度はさらに局所的血管拡張を引き起こす。外傷は、血液の損失を制限するために動脈および細動脈の収縮を引き起こす。温度低下もまた局部の血管収縮を引き起こす。
【0005】
循環性のもしくは局所的なホルモン因子は細動脈径を変化させることができる。ヒスタミン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、エピネフリン、キニン、硝酸、およびアデノシンはすべて血管拡張剤である。血管収縮剤は、バソプレッシン、ノルエピネフリン、アンギオテンシンII、およびセロトニンを含む。任意のこれら多くの物質の作用は、組織およびその細胞の受容体補体に依存する。
【0006】
血流の正確な制御は、全身の器官および組織の正常な機能において重要であり、行動、学習、および記憶においても役割を担っている。肺循環からの血流は高度に調節されている。たとえば、肺内皮は、血管運動神経系緊張、血管開存性、および正常血管壁構造を制御する血管作動性物質を放出することにより、肺血流を調節し、低血管抵抗を維持する。
【0007】
肺高血圧(PH)は、肺血管抵抗および換気-血流関係を妨害する肺動脈圧が上昇した状態である。PHは肺循環内の血圧上昇(収縮期圧30 mmHgおよび拡張期圧12 mmHgを上回る)により典型的に特徴づけられる。
【0008】
肺高血圧には2つの小分類がある:1次性(特発性、または「原因不明」)のものと2次性のものである。2次性の形態がより広く見られる。2次性肺高血圧の最も一般的な原因は心疾患と肺疾患である。肺高血圧の根本的原因にも関わらず、肺の血管には肺高血圧の進行に寄与する解剖学的変化が生じる。
【0009】
酸化窒素は肺血流を調節するために重要な役割を担っている化合物である。しかしながらそれは、保存機序が未知の気体であり、膜を通過して自由に拡散し、きわめて不安定である。酸化窒素は数秒のオーダーの生物学的半減期をもち、その生成は厳密に調節されている。
【0010】
酸化窒素は2つのクラスの酸化窒素合成酵素(NOS)により生成される。構成的発現型酸化窒素合成酵素は次の2つのアイソフォーム:内皮型酸化窒素合成酵素(eNOS)および神経型酸化窒素合成酵素(nNOS)として存在する。これらのアイソフォームは血管内皮細胞、血小板、および脳などの神経組織に発現している。
【0011】
血管では、eNOSが様々なメディエーターに反応して内皮依存性の血管拡張を媒介している。酸化窒素のレベルは、ずり応力、すなわち血管にかかる血流方向の力に反応して増加し、炎症のメディエーターである。
【0012】
神経系では、神経型NOSアイソフォームは小脳、嗅球、海馬、線条体、前脳基底部、および脳幹の中の個別の神経細胞集団に局在している。
【0013】
酸化窒素合成酵素の第2のクラスである誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)は、マクロファージ、肝細胞、および腫瘍細胞に発現している。Steuhr et al., Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol. 65:287-346 (1992); Lowenstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 89:6711-6715 (1992)。この形態のNOSは、細胞毒性剤として機能し、誘導型NOSにより生成されたNOは腫瘍細胞および病原体を標的とする。
【0014】
NOSのすべてのアイソフォームはNOを生成するとともにL-アルギニンからL-シトルリンへの変化を触媒する。血管平滑筋細胞および血小板では、NOは、細胞内グアノシン3',5'-環状一リン酸(cGMP)を増加させる可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化させ、それにより血管弛緩を誘導し、血小板凝集を阻害する。後天性心疾患に続発的な肺動脈高血圧は、肺動脈高血圧が続いて起こる肺静脈高血圧につながる左心室の障害から始まる。PAHの病理生物学は複雑である。酸化窒素(NO)を含む血管内皮由来メディエーターが、肺循環におけるNO/cGMP媒介性血管弛緩を通して血管機能の調節の役割を果たしているため、血管内皮細胞の機能不全はPAH進行の要因と考えられる。肺高血圧患者の肺では、eNOSの発現の減少および/またはNO生成の減少が観察されている (Giaid A, and D. Saleh (1995) 「Reduced expression of endothelial nitric oxide synthase in the lungs of patients with pulmonary hypertension」 N. Engl. J. Med. 333:214-221)。血管内皮細胞は、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化することでcGMP生成を増加させるeNOSにより媒介される酸化異化反応を介して、L-アルギニンの代謝からNOを生成する (Michel T. and O.Feron (1997) 「Nitric oxide synthases: Which, where, how, and why?」 J. Clin. Invest. 100:2146-2152; Garcia-Cardena G, R. Fan, D. F. Stern, J. Liu, and W.C. Sessa (1996) 「Endothelial cell nitric oxide synthase is regulated by tyrosinee phosphorylation and interacts with caveolin-1」 J. Biol. Chem. 271:27237-27240)。このように、NOの生理作用はcGMP生成またはNO/cGMPシグナリングを通して媒介される (Chen S, J.M. Patel and E.R. Block (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L849-L856; Marletta, M.A. (1993) 「Nitric oxide synthase structure and mechanism」 J. Biol. Chem. 268:12231-12234)。内皮細胞のNO放出は、シグナル伝達の媒介によるeNOSの活性化を介して、ブラディキニン、アセチルコリン、ヒスタミン、アンギオテンシンIV、およびセロトニンを含む多くの受容体媒介性アゴニストにより増強される (Chen, S., J.M. Patel and E.R. Block (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L849-L856; およびDavis MG, G.J. Fulton and P.O. Hagen (1995) 「Clinical biology of nitric oxide」 Br. J. Surg. 82:1598-1610)。eNOSの触媒活性は、リン酸化状態、カルシウム動員、タンパク質:タンパク質相互作用を含む様々な因子が関わる複数の転写後機序により調節される (Patel, J.M. et al. (1999) 「Increased expression of calreticulin is linked to Ang-IV-mediated activation of lung endothelial NOS」 Am. J. Physiol Lung Cell Mol. Physiol. 277:L794-L801およびGarcia-Cardena G. et al. (1998) 「Dynamic activation of endothelial nitric oxide synthase by HSP 90」 Nature 392:821-824)。
【0015】
細胞のcGMPレベルは、血管弛緩を含む多機能の調節に重要である。ホスホジエステラーゼ(PDE)として公知の酵素ファミリーは加水分解活性を調整することで一過性および持続性の細胞cGMPレベルの上昇を制御することが知られている。PDE-5は肺脈管系の主なcGMP加水分解性PDEアイソフォームである。cGMP特異的PDE阻害剤であるザプリナストは肺循環において血管弛緩を増強することができる (Schutte, H., M. Witzenrath, K. Mayer, N. Weissmann, A. Schell, S. Rosseau, W. Seeger, and F. Grimminger (2000) 「The PDE inhibitor Zaprinast enhances NO-mediated protection against vascular leakage in reperfused lungs」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279: L496-L502)。
【0016】
PDE阻害剤に関して、PDEの選択的なアイソフォームの阻害に対して特異的ないくつかの非ペプチド性治療薬剤があり、その1つは、米国において肺血管機能調節に対するヒト研究において承認されているか、または用いられている。ザプリナストは肺脈管構造内皮の主なアイソフォームであるPDE 5の選択的阻害剤であるが、その薬理学的効果は動物モデルで検査されてきたのみである。さらに、これらの薬剤はいずれもeNOS活性およびNO生成による細胞のcGMPレベルを調整しないことが知られている。それらの生理的作用はもっぱらcGMPの加水分解の減少に基づくものである。
【0017】
肺動脈高血圧(PAH)は血管障害および肺圧または血管収縮の持続的上昇によって特徴付けられる。PAHは1次性(特発性)またはコラーゲン血管疾患と関連する2次性に分類される。
【0018】
PAHの病因は十分に明らかとなってはいないが、多くの内因性および外因性の要因が循環系において血管拡張の発生と血管収縮との不均衡を引き起こす役割を果たしている。このことは肺細動脈閉塞を含む組織学的病変の進行につながる可能性がある (Farber, H.W. and J. Loscalzo (2004) 「Mechanism of Disease: Pulmonary arterial hypertension」 N. Engl. J. Med. 351:1655-1665, 2004およびNewman, J.H., B.L. Fanburg, S.L. Archer et al. (2004) 「Pulmonary arterial hypertension: future directions」 Circulation 109:2947-2952)。
【0019】
現在、PAHの処置のための治療的アプローチには、限られた成果であるが、様々なプロスタサイクリン製剤(イロプロスト、トレプロスティニル、ベラプロスト)、酸素補給、抗凝固剤(ワーファリン)、カルシウムチャネルブロッカー、エンドセリンアンタゴニスト(シタクスセンタン)、酸化窒素(NO)補給、およびホスホジエステラーゼ阻害剤(ザプリナスト、シルデナフィル)が含まれる (Galie, N., A. Manes, and A.Branzi (2003) 「Prostanoids for pulmonary arterial hypertension」 Am. J. Respir. Med. 2:123-137;およびMehta,S. (2004)「Drug therapy for pulmonary arterial hypertension: what's on the menu today?」 Chest 124:2045-2049)。
【0020】
認知機能の改善と同様に様々な病理学的状態に取り組むために、当該技術において、血流調節を促進する新規な組成物および方法に対する必要性がある。
【発明の開示】
【0021】
概要
本発明は、酸化窒素(NO)活性を増強させること、および/または細胞のグアノシン一リン酸(cGMP)を高めることに有用な材料および方法を提供する。これらの機序を通して、本発明は、たとえば血管弛緩に効果を発揮するために有利に使用することができる。
【0022】
具体的な態様において、本発明は、本明細書においてP3、P4、およびP6と表され、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強することが見出された3つのペプチドを提供する。これらのペプチドはまた、cGMP特異的ホスホジエステラーゼ活性を減少させることも見出された。
【0023】
これらのペプチドはまた、環状アデノシン一リン酸(cAMP)依存性PDEアイソフォームおよび関連機能を阻害するために使用することもできる。それらの有利な生理学的特性のゆえに、本発明のペプチドは本明細書に記載されるように、血流を調節するため、例として肺高血圧、性機能不全、脳虚血を含む様々な状態を処置するため、血小板凝固を減少させるため、ならびに記憶および学習を増強するために用いることができる。特に、本明細書において例としてあげられるのは、肺動脈高血圧の処置のための本発明のペプチドの使用である。
【0024】
本発明の更なる局面は、その送達方法と同様に本発明のペプチドを含有する薬学的組成物と関係する。
【0025】
詳細な開示
本発明は血流調節に有用な材料と方法を提供する。好ましい態様では、本発明は酸化窒素(NO)活性を増強させることができる、かつ/または細胞のグアノシン一リン酸(cGMP)を高めることができるペプチドを提供する。本発明のペプチドはまたホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤として使用することができる。これらの機序を通して、本発明は、たとえば血管弛緩への効果により、様々な組織で血液を調節するために有利に使用され、様々な状況において治療的利益を提供する。
【0026】
特定の態様において、本発明は本明細書においてP3、P4、およびP6と表され、内皮細胞型の酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強することが見出された3つのペプチドを提供する。これらのペプチドはまた、cGMP特異的ホスホジエステラーゼ活性を減少させることも見出された。
【0027】
その有利な生理学的特性のゆえに、本発明のペプチドは本明細書に記載されるように、たとえば肺高血圧、性機能不全、脳虚血を含む様々な状態を処置するために使用することができ、かつ血小板凝固を減少させること、ならびに記憶および学習を増強させることができる。特に、本明細書において例としてあげられるのは、肺動脈高血圧の処置のための本発明のペプチドの使用である。
【0028】
さらにPDEの特定のアイソフォームの阻害を通して、本発明のペプチドは様々な治療法において使用することができる。本発明のPDE阻害剤の具体的な治療用途は以下を含む。
PDE5=血管拡張
PDE3/4=気管支拡張および抗炎症
PDE4=抗炎症
PDE3=心作用
【0029】
特定の態様において、本発明のペプチドは、心臓、脳、腎臓、肺、および/または他器官の血流を調節するために使用することができる。
【0030】
本発明の更なる局面は、本発明のペプチドを含有する薬学的組成物と関係する。
【0031】
特に本明細書において例としてあげられるペプチドは以下のとおりである:
P3: KRFNSISCSSWRRKR(配列番号: 1);
P4: KKRFNSISCSSWRRKRKKR (配列番号: 2);および
P6: WRRKRKES (配列番号: 3)。
【0032】
本発明のペプチドは、cGMPの加水分解の減少につながるPDE活性の阻害のみでなく、eNOS活性、NO生成、およびNO/cGMP媒介性血管弛緩の調節ににおける治療薬剤として使用することができる。これらの活性の最終的な結果は、持続性の細胞cGMPレベルおよびcGMP媒介性機能の維持である。
【0033】
本発明のペプチドは、図1で示される2つの別個の機序、すなわち(i)eNOSの活性化、NOの生成、およびcGMP生成の増加、ならびに(ii)最終的な結果としての細胞cGMPレベルの持続的増加を伴うcGMPの加水分解の減少につながる、PDE活性の阻害のうちの少なくとも1つで細胞cGMPレベルを調節することができるため、特に有利である。
【0034】
本発明により処置される被検体は、血流を調節することが望ましいヒトまたは動物である任意の被検体を含む。本発明により処置される被検体は主にヒトであるが、本発明はまた獣医学的目的のためにイヌ、ネコ、ウマなどのような他の動物被検体にも実行される。
【0035】
以下で詳細な考察をするように、前述の治療を実施するのに有用な活性化合物は、経口、腹腔内、皮下、動脈内、静脈内、筋肉内、および髄腔内注入を含む任意の適切な方法により投与される。注入は所望の血管あるいは器官などに注射器、カニューレ、またはカテーテルを通して行われる。化合物は、たとえば活性化合物を含む呼吸用エアロゾル粒子(たとえば、直径1〜5マイクロンの粒子)の吸入による、気道への吸入、および特に肺における肺胞への吸入によって投与される。
【0036】
肺疾患の局部処置、注入治療の代替、および作用の迅速な開始などの多くの理由により、患者の肺への薬物投与は利点がある。肺に薬物を送達するための多くの様々な装置が開発されており;これらはたとえば加圧エアロゾル(pMDI)、噴霧器、およびドライパウダー吸入器(DPI)である。
【0037】
薬物吸入は肺疾患の局部処置においてすでに十分確立されているが、肺は、薄い上皮を通して分子を吸収する巨大な表面積(約100m2)をもち、これによって迅速に薬物を吸収する可能性をもつため、薬物の全身送達にもまたふさわしい部位である。
【0038】
本発明の薬学的製剤は、下記で詳細に議論するが、典型的には活性化合物および薬学的に許容される担体を含む。滅菌生理食塩水、滅菌水などの薬学的に許容される任意の担体を使用してもよい。活性化合物は、約0.001、0.005、または0.01重量パーセントから約10、20、または50重量パーセントなどの任意の適切な量で、薬学的に許容される担体に含まれる。
【0039】
活性化合物の用量は、特定のペプチド、投与経路、処置している特定の障害、年齢、体重、および患者の状態などに依存する。安定性増加のためにペプチド製剤に添加する賦形剤には、緩衝液、糖質、界面活性剤、アミノ酸、ポリエチレングリコール、およびポリマーが含まれる。
【0040】
本ペプチドは、上記記載のように直接的に、または被検体においてペプチドを発現させるベクター中間体により投与される。このように本発明を実行するために使用されるベクターは一般的に、レンチウィルスベクター、パポバウィルスベクター(たとえば、SV40ベクターおよびポリオーマベクター)、アデノウィルスベクター、およびアデノ関連ウィルスベクターのようなRNAウィルスベクターまたはDNAウィルスベクターである。概ねT.Friedmann, Science 244,1275 16(June 1989)を参照のこと。本発明を実行するために使用されうるレンチウィルスベクターの例は、Kohnに対する米国特許第5,707,865号に記載されるような、モロニーマウス白血病ウィルスベクターを含む。任意のアデノウィルスベクターを本発明を実行するために用いることができる。たとえば、米国特許第5,518,913号、第5,670,488号、第5,589,377号、第5,616,326号、第5,436,146号、および第5,585,362号を参照のこと。アデノウィルスはS. Woo, Adenovirus redirected, Nature Biotechnology 14, 1538(November 1996)で記載されるように、その本来の指向性(tropism)を変更または拡大するために改変することができる。任意のアデノ関連ウィルスベクター(AAVベクター)もまた本発明を実行するために使用することができる。米国特許第5,681,731号、第5,677,158号、第5,658,776号、第5,658,776号、第5,622,856号、第5,604,090号、第5,589,377号、第5,587,308号、第5,474,935号、第5,436,146号、第5,354,678号、第5,252,479号、第5,173,414号、第5,139,941号、および第4,797,368号を参照のこと。標的細胞において異種性核酸の発現に効果を及ぼす限り、ベクター中の調節配列、すなわち転写制御配列および翻訳制御配列は、任意の源のものでありうる。たとえば、一般的に使用されるプロモーターは、LacZプロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウィルス2、およびサルウィルス40(SV40)由来のプロモーターである。たとえば、米国特許第4,599,308号を参照のこと。一度調製すると、組換えベクターは、(a)中のベクターを成長および複製させる細胞を含む細胞培養物によりベクターを増殖させること、次いで(b)既知の技術に従って、細胞培養物から組換えベクターを収集することによって複製することができる。培養物から収集されるウィルスベクターは既知の技術に従って培地から分離し、被験体へ投与するために適切な薬学的担体と組み合わせることができる。そのような薬学的担体は、非限定的に、発熱物質非含有滅菌水または発熱物質非含有滅菌生理食塩水を含む。必要な場合、ベクターは既知の技術に従い、投与用リポソームに封入される。例えば、米国特許第6,875,749号を参照のこと。
【0041】
製剤および投与
本発明の薬学的組成物は、液体組成物およびその乾燥形態を包含する。本発明の目的のため、薬学的組成物または薬学的製剤に関する「液体」という用語は「水様」という用語を含み、凍結された液体製剤を含む。「乾燥形態」は、フリーズドライ(すなわち凍結乾燥(たとえば、Williams and Polli(1984) J.Parenteral Sci. Technol. 38:48-59を参照))、噴霧乾燥(Masters(1991) Spray-Drying Handbook (5th ed; Longman Scientific and Technical, Essez, U.K.),pp. 491-676; Broadhead et al. (1992) Drug Devel. Ind. Pharm. 18:1169-1206; およびMumenthaler et al. (1994) Pharm. Res.11:12-20を参照)、または空気乾燥(Carpenter and Crowe (1998) Cryobiology 25:459-470; およびRoser (1991) Biopharm. 4:47-53を参照)のいずれかにより乾燥させる、液体薬学的組成物または液体薬学的製剤を意図する。「凍結乾燥」という用語は、それぞれに本発明のペプチド製剤の単位用量が入った複数のバイアルを減圧下で急速に凍結しながら乾燥させることを指す。上記記載の凍結乾燥を行う凍結乾燥器は市販で入手可能で、当業者により容易に操作できる。本発明のある態様において、液体組成物は凍結乾燥された組成物として調製される。
【0042】
本発明のある態様において、薬学的組成物は肺送達に適した形、および肺吸入を介した被検体への製剤の投与に適した形で調製される。「肺吸入」は、薬学的組成物を、被験体が口腔を通して吸入するように、送達装置から被験体の口腔へエアロゾルまたは他の適切な剤形の組成物を送達することによって、肺に直接投与することを意図する。「エアロゾル」は、流動する空気中または他の生理学的に許容される気流中の、固体粒子または液体粒子の懸濁物を意図する。他の適切な調製物は、非限定的に、ペプチド組成物を含む粒子が以下で定義されるような乾燥粉末形態の薬学的組成物について記載されるサイズに一致するサイズ範囲で送達される限り、霧、蒸気、またはスプレー調製物を含む。肺吸入は、当業者において公知の他の適切な方法によっても達成される。これらは適切な装置または他のそのような方法を用いた液体点滴注入を含む。肺吸入は、被検体の肺の肺胞内で、吸入したタンパク質組成物の沈着を引き起こす。一度沈着すると、タンパク質は肺胞上皮および毛細血管上皮層を通して、血流へと受動的あるいは能動的に吸収される。
【0043】
ペプチドの肺投与は吸入中に送達装置から被検体の口腔へと生理活性物質を投薬する必要がある。本発明の目的のために、ペプチドを含む薬学的組成物は、使用する送達装置に依存して、エアロゾル、あるいは水溶性または非水溶性の溶液または懸濁液形態、または固体状もしくは乾燥粉末状の薬学的組成物から得られる他の適切な調合物の吸入を介して投与される。そのような送達装置は、当技術分野において周知であり、非限定的に、噴霧器、計量式吸入器、および乾燥粉末吸入器、あるいは薬学的組成物を、水溶性もしくは非水溶性の溶液もしくは懸濁液、または固体もしくは乾燥粉末としての投薬を可能にする他の適切な送達機序を含む。肺送達に適する薬学的組成物の関連で使用する場合、これらの用語は以下の意味をもつ。「水溶性」とは、混合物内で水が主な物質である混合物を含む水で調製されるか、水を含有するか、または水に溶解された組成物を意図する。「非水溶性」とは、水以外の物質または混合物内で水が主な物質でない混合物で調製されるか、それを含有するか、またはそれに溶解された組成物を意図する。「溶液」とは、固体、液体、気体、またはそれらの組み合わせであり得る2つまたはそれ以上の物質からなる均一な調整物を意図する。「懸濁液」とは、1つまたはそれ以上の不溶性物質が別の主な物質内で均一に分散しているような物質の混合物を意図する。
【0044】
本発明の目的のために、「固体」および「乾燥粉末」という用語は、薬学的組成物に関して、互換的に用いられる。「固体」状または「乾燥粉末」状の薬学的組成物は、湿度が約10重量%未満、通常は約5重量%未満、好ましくは約3重量%未満の微細に分割された粉末へと乾燥された組成物を意図している。この乾燥粉末状組成物は本発明のペプチドを含む粒子からなる。粒子サイズは好ましくは平均直径が約10.0μm未満、より好ましくは約7.0μm未満、さらにより好ましくは約6.0μm未満、なおさらに好ましくは約0.1から約5.0μmの範囲で、最も好ましくは平均直径が約1.0から約5.0μmの範囲である。
【0045】
このように、肺送達を意図したペプチドまたはその変異体を含む液体薬学的組成物は、送達装置内で液体溶液または懸濁液として使用され、あるいは当技術分野において周知の凍結乾燥あるいは噴霧乾燥技術を利用してまず乾燥粉末状に処理される。送達装置で液体溶液または懸濁液が使用される場合、噴霧器、計量式吸入器、または他の適切な送達装置が、乾燥粉末形態に対する上記記載と同様の粒子サイズ範囲をもつ液滴として、薬学的有効量の組成物を、肺吸入により、被験体の肺へ単一あるいは複数の分画の用量で送達する。「薬学的有効量」とは、本ペプチドに反応性がある疾患または状態の処置または予防において有用な量を意図する。組成物の液体溶液または懸濁液は、本発明のペプチド組成物の特徴となる特性を損なわない限り、当業者において既知の生理学的に適切な安定化剤、賦形剤、粘性調整剤、充填剤、界面活性剤、またはそれらの組み合わせとともに使用される。
【0046】
液体薬学的組成物が肺送達での使用に先立って凍結乾燥される場合、凍結乾燥される組成物は上記記載の望ましいサイズ範囲をもつ粒子からなる微細に分割された乾燥粉末を得るために微粉砕される。噴霧乾燥が液体薬学的組成物の乾燥粉末形態を得るために使用される場合、処理は上記記載の望ましいサイズ範囲内の粒子からなる実質的に不定形の微細に分割された乾燥粉末となる条件下で実行される。乾燥粉末状の薬学的組成物を調製する方法については、たとえば、参照により本明細書に組み入れられるWO 96/32149; WO 97/41833; WO 98/29096; ならびに米国特許第5,976,574号; 第5,985,248号; 第6,001,336号; および第6,875,749号を参照のこと。
【0047】
乾燥粉末状の薬学的組成物が水溶性もしくは非水溶性の溶液または懸濁液として調製され投薬される場合、計量式吸入器または他の適切な送達装置が使用される。
【0048】
乾燥粉末状組成物の薬学的有効量は、肺吸入に適したエアロゾルまたは他の調合物で投与される。送達装置内に設置された乾燥粉末状組成物の量は薬学的有効量の組成物を吸入により被験体に送達するのに十分な量である。送達装置は単一あるいは複数の分画の用量で、薬学的有効量の組成物を被験体の肺へ肺吸入により送達する。エアロゾル噴霧剤はこの目的を実行するために用いられている任意の従来型の材料でありうる。界面活性剤は、エアロゾルを投薬する送達装置壁へのタンパク質含有乾燥粉末の付着を減少するために、薬学的組成物に添加してもよい。この意図での使用のために適切な界面活性剤には、非限定的に、ソルビタン、トリオレアート、大豆レシチン、およびオレイン酸が含まれる。非水溶性懸濁液としての乾燥粉末状タンパク質組成物の肺送達に適切な装置は市販で入手可能である。そのような装置の例には、Ventolin metered-dose inhaler (Glaxo Inc., Research Triangle Park, N.C.)およびIntal Inhaler(Fisons, Corp., Bedford, Mass.)が含まれる。また、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,522,378号; 第5,775,320号; 第5,934,272号; および第5,960,792号に記載されるエアロゾル送達装置も参照のこと。
【0049】
固体状または乾燥粉末状の薬学的組成物は、乾燥粉末の形態で送達される場合、好ましくは乾燥粉末吸入器または他の適切な送達装置が使用される。本明細書の方法に従う使用に適した市販の乾燥粉末吸入器の例には、Spinhaler powder inhaler (Fisons Corp., Bedford, Mass)およびVentolin Rotahaler (Glaxo, Inc., Research Triangle Park, N.C.)が含まれる。また、参照により本明細書に組み入れられるWO 93/00951、WO 96/09085、WO 96/32152、および米国特許第5,458,135号、第5,785,049号、および第5,993,783号に記載される乾燥粉末送達装置も参照のこと。
【0050】
ペプチドまたはその活性変異体を含む乾燥粉末状の薬学的組成物は、その後に続く、噴霧器、計量式吸入器、または他の適した送達装置を使用した水溶液エアロゾルとしての送達のための水溶液に再構成される。噴霧器は市販されており、たとえば、Ultravent噴霧器(Mallinckrodt Inc., St. Louis, Mo.)およびAcorn II噴霧器(Marquest Medical Products, Englewood, Colo.)を含む。また、参照により本明細書に組み入れられるWO 93/00951に記載された噴霧器および米国特許第5,544,646号に記載されたエアロゾル化された水溶性製剤を送達する装置も参照のこと。
【0051】
本発明の薬学的組成物は「安定化」した組成物であってもよい。一度調製された薬学的組成物または製剤は直ちに被験体に投与されず、調製後、保存のために、液体状、凍結した状態、または被験体への投与に適する液体状または他の形態に後で再構成するための乾燥状態で包装される。
【0052】
本発明の安定化した薬学的製剤は、例としてあげられたペプチドおよびその変異体を含む。変異体は、配列番号:1〜3に示された配列と同一の、類似の、または実質的に類似のアミノ酸配列をもつ。活性を維持した断片または切断型も含まれる。
【0053】
たとえば薬学的有用性を改善した1つまたは複数の突然変異をもつ変異体もまた本発明に含まれる。
【0054】
当業者は、突然変異によりペプチドをコードするヌクレオチド配列に変化が誘導され、それによりインターフェロンの生理活性を変更することなくアミノ酸配列の変化が引き起こされることを認識すると考えられる。このように、ペプチドのアミノ酸配列と異なる配列をもつ変異体をコードする単離した核酸分子が、1つまたは複数のアミノ酸の置換、付加、または欠失がコードするペプチドに導入されるように、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加、または欠失が対応するヌクレオチド配列に導入されることにより、作製される。突然変異は標準的な技法により導入される。そのような変異体もまた本発明に含まれる。
【0055】
たとえば、保存的アミノ酸置換は1つまたは複数の非本質的アミノ酸残基で行ってもよい。「非本質的(nonessential)」アミノ酸残基とは、生理活性を変更せずに配列から変更することが出来る残基のことであり、一方「本質的(essential)」アミノ酸残基は、生理活性において必要である。「保存的アミノ酸の置換」とは、アミノ酸残基が同様な側鎖をもつアミノ酸残基に置き換わった置換のことである。同様な側鎖をもつアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖をもつアミノ酸(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖をもつアミノ酸(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖をもつアミノ酸(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0056】
生理活性をもつ変異体は一般的に、比較の基準となるアミノ酸配列に対し少なくとも80%、より好ましくは約90%から約95%またはそれ以上、最も好ましくは約96%から約99%またはそれ以上のアミノ酸配列相同性をもつと考えられる。「配列相同性」とは、変異体のアミノ酸配列の特定されかつ近接するセグメントを整列させて参照分子のアミノ酸配列と比較する場合に、参照として用いる変異体ポリペプチドおよびポリペプチド分子内で同一のアミノ酸残基が見つかることを意図する。
【0057】
このように数学的アルゴリズムを用いて任意の2つの配列間の相同性比率を決定することが出来る。配列比較に利用される数学的アルゴリズムの非限定的な好ましい例の1つは、Myers and Miller(1988)Comput. Appl. Biosci. 4:11-7のアルゴリズムである。
【0058】
本発明に包含される生理的に活性な変異体には、たとえばポリエチレングリコール(PEG)またはアルブミンと共有結合でつながれたペプチドも含まれる。このような共有結合によるハイブリッド分子は、患者へ投与した後の血清半減期の延長など、特定の望ましい薬学的特性を備えている。PEG付加体の作製方法には、ペプチドと反応する活性化合物の作製のためのモノメトキシポリエチレングリコールの化学的修飾が含まれる。PEG結合ポリペプチドの作製および使用の方法は、たとえばDelgado et al. (1992) Crit. Rev. Ther. Drug, Carrier Syst. 9:249-304に記載されている。アルブミン融合ポリペプチドの作製方法は、対象ポリペプチドのコード配列とアルブミンとの融合を含み、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,876,969号に記載されている。
【0059】
本発明に包含される生理的に活性なペプチド変異体は、関連する活性、特にeNOS活性を増強させる能力を保持する。ある態様において、変異体は、アミノ酸配列が配列番号:1〜3で与えられるポリペプチドの生理活性の少なくとも約25%、約50%、約75%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、またはそれ以上を保持する。配列番号:1〜3で示されるポリペプチドの活性と比較して活性が増加している変異体も包含される。
【0060】
本発明の製剤は非限定的に、トリ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、およびヒトを含む任意の動物種に投与される。好ましくは、被検体は哺乳類である。
【0061】
本発明のいくつかの態様では、ペプチドは組換えにより作製される。ペプチドは、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養することにより作製することができる。宿主細胞はヌクレオチド配列を転写して所望のタンパク質を生成することができる細胞であり、原核生物(たとえば大腸菌(E.coli))または真核生物(たとえば酵母、昆虫、または哺乳類細胞)であることができる。組換えによる作製の例は参照により本明細書に組み入れられる、Mantei et al. (1982) Nature 297:128; Ohno et al., (1982) Nucleic Acids Res. 10:967; Smith et al. (1983) Mol. Cell. Biol.3: 2156、ならびに米国特許第4,462,940号、第5,702,699号、および第5,814,485号で挙げられている。あるいは、ペプチドは、当技術分野において既知の方法により対象となるタンパク質を発現するように遺伝子的に操作された遺伝子導入動物または遺伝子導入植物により作製される。
【0062】
あるいは、本ペプチドは、ペプチド技術分野の当業者にとって既知の任意のいくつかの技法により化学的に合成することができる。たとえば、固相ペプチド合成法を議論している、Li et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2216-2220、Steward and Young (1984) Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Company, Rockford, Ill.)、およびBaraney and Merrifield (1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, ed. Gross and Meinhofer, Vol.2 (Academic Press, New York, 1980), pp. 3-254; ならびに古典的な溶液合成を議論しているBodansky (1984) Principles of Peptide Synthesis (Springer-Verlag, Berlin)、およびGross and Meinhofer, eds. (1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Vol. 1(Academic Press, New York)を参照のこと。
【0063】
本発明の薬学的組成物の調製で使用するために組換えにより生成されるペプチドは、当業者にとって既知の任意の方法を利用して回収され、精製される。そのような方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,462,940号および第5,702,699号で開示される方法を含む。
【0064】
本発明により包含される組成物は、約0.01 mg/mlのペプチドから約20.0mg/mlペプチド(重量/体積)であってもよい。様々な態様において、ペプチドは、約0.01mg/mlから約20.0mg/ml、約0.015mg/mlから約12.5mg/ml、約0.025mg/mlから約10.0mg/ml、約0.05mg/mlから約8.0mg/ml、約0.075mg/mlから約6.0mg/ml、約0.1mg/mlから約4.0mg/ml、約0.125mg/mlから約2.0mg/ml、約0.175mg/mlから約1.0mg/ml、約0.2mg/mlから約0.5mg/ml、約0.225mg/mlから約0.3mg/ml、および約0.25mg/mlの濃度で存在する。
【0065】
いくつかの態様において、本発明の製剤は薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される担体」とは、治療成分の保存、投与、および/または治癒効果を促進するために当技術分野において通常使用される担体を意図する。担体はまたペプチドの任意の望ましくない副作用を減少しうる。適切な担体は安定であり、すなわち製剤中の他の成分と反応することができない。それは処置に用いられる用量および濃度で受容者において顕著な局所性または全身性の有害作用を生じない。そのような担体は概ね当技術分野において既知である。本発明に関して適切な担体は、ゼラチン、コラーゲン、多糖、単糖、ポリビニル-ピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、固定油、エチルオレアート、リポソーム、グルコース、乳酸、マンノース、デキストロース、デキストラン、セルロース、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、および類似のもののような、通常用いられる巨大で安定的な巨大分子である。ヒアルロン酸のような徐放性担体もまた適切であり得る。特にPrisell et al. (1992) Int. J. Pharmaceu. 85:51-56および米国特許第5,166,331号を参照のこと。
【0066】
薬学的組成物はさらに、ペプチドの可溶性に寄与する可溶化剤または可溶性促進剤を含む。そのような可溶性促進剤の例は、可溶性を促進する能力を保持するアルギニンのアミノ酸アナログと同様にアミノ酸のアルギニンを含む。そのようなアナログは非限定的に、アルギニンを含むジペプチドおよびトリペプチドを含む。さらなる適切な可溶化剤は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,816,440号; 第4,894,330号; 第5,004,605号; 第5,183,746号; 第5,643,566号、およびWang et al. (1980) J.Parenteral Drug Assoc. 34:452-462で議論されている。
【0067】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩の1つ、たとえばEDTA二ナトリウムのような他の安定化剤を、液体薬学的組成物の安定化をさらに増強するために付加することができる。他の適切な安定化剤は、ポリソルベート80 (Tween 80)およびポリソルベート20 (Tween20)のようなポリオキシエチレンソルビトールエステルを含む非イオン性界面活性剤; プルロニックF68およびプルロニックF127のようなポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンエステル; Brij35のようなポリオキシエチレンアルコール; シメチコン;PEG400のようなポリエチレングリコール; リゾホスファチジルコリン; ならびにトリトンX-100のようなポリオキシエチレン-p-t-オクチルフェノールを含む。界面活性剤による医薬物の古典的な安定化は、たとえば参照により本明細書に組み入れられるLevine et al. (1991) J. Parenteral Sci. Technol. 45(3): 160-165に記載されている。
【0068】
「薬学的有効量」とは、疾患または状態を処置または予防するのに有用な量を意図する。典型的な投与経路は、非限定的に、経口投与、経鼻送達、経肺送達、および非経口投与(経皮、静脈、筋肉内、皮下、動脈内、および腹腔内の注射または注入を含む)を含む。そのような態様の1つにおいて、投与は注射、好ましくは皮下注射による。本発明の組成物の注射可能な形態は、非限定的に、溶液、懸濁液、乳濁液を含む。典型的には、ペプチドの治療的有効量は、組成物を約0.01μg/kgから約5mg/kg、好ましくは約0.05μg/kgから約1000μg/kg、さらに好ましくは約0.1μg/kgから約500μg/kg、なおさらに好ましくは約0.5μg/kgから約30μg/kg含む。
【0069】
安定化された薬学的組成物は膜による濾過で滅菌され、密封バイアルまたはアンプルのような単位用量容器または複数用量容器に保存される。一般的に、当技術分野において既知の薬学的組成物を処方する更なる方法は、本明細書に開示される安定化剤の有益な効果に対し有害でなければ、本明細書において開示される薬学的組成物の保存安定性をさらに増強するために使用される。薬学的に許容される担体、安定化剤などの処方および選択についての徹底的な議論は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences(1990) (18th ed., Mack Publishing Company, Eaton, Pa.)で見出すことができる。
【0070】
以下は本発明を実行するための手順を記述した例である。これらの例は制限的であると解釈されるべきではない。すべてのパーセンテージは重量によるものであり、すべての溶媒混合物の比率はそうでないことが記述されない限り体積によるものである。
【0071】
実施例1:eNOSへのペプチドの効果
本発明の合成ペプチド(P3、P4、およびP6)のeNOS触媒活性への効果を、培養された肺動脈上皮細胞(PAEC)モデルを用いて調べた。
【0072】
PAEC単層を、さまざまな濃度のP3、P4、およびP6が存在するまたは存在しない(対照群)RPMI 1640培地で、37℃で1時間、インキュベートした。インキュベーション後、eNOSの触媒活性を以前に記述されているように、[3H]-L-アルギニンからの[3H]-シトルリンの形成をモニターすることによって決定した (Chen, S., J.M. Patel and E.R. Block ER (2000) 「Angiotensin IV-mediated pulmonary artery vasorelaxation is due to endothelial intracellular calcium release」 Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 279:L849-L856; およびPatel, J.M., Y.D.Li, J.L.Zhang et al. (1999) 「Increased expression of calreticulin is linked to Ang-IV-mediated activation of lung endothelial NOS」 Am. J.Physiol Lung Cell Mol. Physiol.277:L794-L801)。
【0073】
図2に示すように、eNOSの触媒活性は、対照群と比較して、P3、P4、およびP6により刺激した細胞内で用量依存的に有意に上昇した。
【0074】
実施例2:cGMP特異的PDE活性の修飾
合成ペプチドを、PAECにおけるcGMP特異的PDE活性の修飾との任意の関連を調べるために評価した。
【0075】
細胞単層は、それぞれ10μMのP3、P4、P6、またはザプリナストが存在するまたは存在しない(対照群)RPMI 1640培地で、37℃で1時間、インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ホモジナイズし、4℃で15分間、15,000×gで遠心分離することで上清を収集した。上清のPDE活性を以前に記述されているように(16)、3H-cGMPの加水分解をモニターすることによって測定した。
【0076】
図3に示すように、PDEのcGMP特異的触媒活性は、対照群と比較して、P3、P4、およびP6により有意に減少した。P3、P4、およびP6によるPDE活性の減少は、PDEの公知の阻害剤であるザプリナストによる減少と同等である。
【0077】
結果は、PDE活性の阻害が、cGMPの細胞内レベルの上昇につながるcGMP加水分解の減少につながることを示す。さらに、eNOS活性に対するこれらのペプチドの効果と組合わせると、これらのデータは、細胞内cGMPの持続的なレベルが、これらの新規ペプチドによる、eNOS活性化を介するNO生成の増強およびPDE阻害剤を介するcGMPの加水分解の減少の両方により達成できることを示唆する。
【0078】
実施例3:低酸素肺における血管拡張効果
特定病原体未感染のメスC57BL/6Jマウス(体重30〜35g)をペントバルビタール(60 mg/kg、腹腔内)で麻酔し、体重100gあたり0.6〜0.8mlの一回換気量で、SAR-830シリーズの小動物用の人工呼吸器により、60呼吸/分で1時間、空気(対照群)または0%酸素で換気しながら肺を胸郭から切除した。低酸素血管収縮の発生後、血管拡張反応を、酸化窒素合成阻害剤(L-NAME、100μM)が存在するまたは存在しないそれぞれ15μMのP3、P4、P6、またはザプリナストの付加によりモニターした。血管拡張反応は以前に記述されているように(Hu et al. (2004) Am.J.Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 286:L1066-L1074)、連続してモニターした。
【0079】
結果は図4に示す。また図5はFITCで標識したP3の肺内皮細胞での内部移行を示す。
【0080】
実施例4:低酸素肺/インサイチュー肺の灌流
以下の実験的証拠は、低酸素肺高血圧のインサイチューラットモデルを用いてP3媒介性反応を立証する。
【0081】
特定病原体未感染のスプラーグドーリーラット(体重200〜250g)をペントバルビタール(60 mg/kg、腹腔内)で麻酔する。深く麻酔したことを確認した後、気管を18Gの先端の丸い(blunt-tipped)カテーテルでカニューレ処置し、温かく加湿したO2 21%/ CO2 5%/ N2 74%で、60呼吸/分、最大吸気圧9cm H2O、最大呼気圧3cm H2Oで、2.5ml/分の一回換気量で換気した(SAR-830/p 小動物用人工呼吸器、CWE,Ardmoore, PA)。開胸を行い、100ユニットのヘパリンを右心室(RV)に注入した。Cook ダブルルーメン中心静脈カテーテル (Cook Critical Care, Bloomington, IN)に接続したPE-90ポリエチレンチューブを左心室から左心房に設置し、そこにつないだ。主肺動脈(PA)中にダブルルーメンカテーテルと接続させた別のPE-90ポリエチレンチューブを設置した後、肺を20cm H2Oの一定呼気終末圧で、O2 21%/ CO2 5%/ N2 74%(正常酸素)で換気し、開胸してpH指示剤を含まず4%フィコールを含むRPMI 1640で、一定流量2ml/分で、インサイチューで灌流した。30分後、換気混合物をO2 2%/ CO2 5%/ N2 93%(低酸素)に30分間変更し、PA圧の変化をPO-NE-MAH-P3P Lung Perfusion System ソフトウェア(Gould Instrument System)を用いて連続的に記録し、灌流液試料を以前に報告されているように(Hu et al. Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 286:L1066-L1074,2004)、NO放出レベルを決定するために収集した。換気ガス(低酸素)を正常酸素ガスに戻し、肺をRPMI 1640またはRMPI 1640中のP3(20μMおよび40μM)で10分間灌流し、その後O2 2%による低酸素負荷を繰り返し、PA圧反応を記録した。
【0082】
図6に示すように、正常酸素肺におけるベースラインPAPと比較して、低酸素により誘導された血管収縮または肺動脈圧 (PAP)の有意な増加が見られた。20μMのP3の注入は正常酸素肺および低酸素肺の両方でPAPを有意に減少させ、それはP3の濃度を増加させた場合(40μM)に観察されたものと同等であった。さらに、低酸素肺におけるP3の媒介によるPAP減少の大きさは、正常酸素での減少と比べ非常に大きかった。
【0083】
図7の結果は、P3が正常酸素肺および低酸素肺の両方からの灌流液においてNO放出を増加させることを示す。
【0084】
実施例5:低酸素肺でのP3のインビボ血管拡張効果
特定病原体未感染のスプラーグドーリーラット(体重200〜250g)を、自動パージ、エアロック、ならびに生存動物の自動化された選別(filtration)および除湿システムを装備するCoy Laboratory低酸素チャンバ内で低酸素(10%吸気酸素)に2〜6週間曝露した。対照(正常酸素)動物は同等の湿度および室温環境に維持した。低酸素曝露は、ケージを掃除し餌と水を補充するために週に2回チャンバーを各10〜15分間開放するときを除いて、24時間/日行った。すべてのラットは12:12時間の昼/夜周期で曝露され、標準的なラットの餌と水を自由に摂取できるようにした。一部のラットには低酸素曝露開始の24時間前から毎日1回、生理食塩水中のP3(+P3)(10 mg/kgまたは20 mg/kg、腹腔内)、または生理食塩水のみ(-P3)を与えた。2、3、および6週間の曝露後、動物を肺動脈圧、肺重量/体重(LW/BW)比、および右心室/心臓重量(RV/HW)比における変化を含む様々なパラメータの測定に使用した。
【0085】
図8に示すように、2、3、または6週間の低酸素への曝露は、正常酸素肺でのPAPと比較してPAPの有意な増加を引き起こした。図9、10はそれぞれ、低酸素により誘導された肺浮腫および心浮腫のためのLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。低酸素により誘導されたPAP圧(図11)およびRV/HW比(図12)はP3投与により減少した。
【0086】
実施例6:性機能不全の処置
性機能不全(SD)は男性および女性両方に影響を及ぼす重要な臨床問題である。SDの原因は心理的なものであると同時に器官的なものである。SDの器官的側面は典型的には根底にある血管疾患によるものである。臨床では、SD障害は女性性機能不全(FSD)障害と男性性機能不全(MSD)障害に分類されてきた。FSDは女性が性的発現に満足を見出すことに対して困難または無能であることとして最もよく定義されている。男性性機能不全(MSD)は一般的に勃起不全と関連があり、また男性勃起不全(MED)としても知られている。たとえば、米国特許第6,878,529号を参照のこと。
【0087】
本発明の化合物は、男性の性機能不全(たとえば、男性勃起不全-MED)および女性-女性性機能不全(FSD)、たとえば女性性的興奮障害(FSAD)の処置に使用することができる。
【0088】
A. 女性性機能不全(FSD)
FSDのカテゴリーは、正常な女性の性的反応の段階と対比させることにより最もよく定義されている:欲求、興奮、およびオルガズム。興奮は性的刺激に対する血管反応であり、その重要な要素は陰部充血であり、膣潤滑の増加を含む。
【0089】
従って、FSDは女性がこれらのいずれかの段階で不適切あるいは不十分な反応をもつときに生じる。FSDカテゴリーは、性的欲求低下障害、性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害を含む。本発明のペプチドは(女性性的興奮障害において)性的刺激に対する陰部反応の改善のために使用され、そうすることで関連する性交に付随する痛覚、苦痛、不快感を改善し、他の女性性的障害を処置する。
【0090】
最近、FSAD症状を患う患者の少なくとも一部に血管性基盤があると仮定されてきている。そのため、本発明の一局面において、性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害の処置または予防のための、より好ましくは性的興奮障害、オルガズム障害、および性的痛覚障害の処置または予防のための、最も好ましくは性的興奮障害の処置または予防のための、本発明のペプチドの使用が提供される。FSADの処置のための薬物候補は有効性に関して調査中であり、本来は男性生殖器への循環を促進する勃起不全療法である。それらは2つのタイプの製剤、すなわち、経口または舌下薬剤(アポモルフィネ、フェントラミン、ホスフォジエステラーゼ5型阻害剤(たとえばシルデナフィル))、および男性では注射または経尿道的に、女性では性器へ局所的に投与されるプロスタグランジンからなる。しかしながら、これらの治療法はFSADの処置に効果があると示されてはいない。
【0091】
本発明のペプチドは、興奮中に生じる内因性の血管弛緩効果を増強する。これは、陰部血流の増強、およびそれにより起こる陰部充血により、FSADの予防および/または処置につながる。
【0092】
B. 男性勃起不全(MED)
男性勃起不全(MED)は以下のように定義される: 「…十分な性行為のための陰茎勃起を達成および/または維持することが不能であること(NIH Consensus Development Panel on Impotence, 1993)…」。
【0093】
あらゆる程度(最小限の、中程度の、および完全なインポテンス)の勃起不全(ED)の罹患率は、40歳から70歳の男性で52%であると推定されており、70歳より年齢が高い男性ではさらに比率が高くなる。この状態は患者およびそのパートナーの生活の質に関してきわめて否定的な影響をもち、鬱病および低い自己評価につながる不安および緊張の増加をしばしば引き起こす。20年前はMEDは主に心理的な障害だと考えられていたが、現在では大半の患者には根底に器官的な原因があることが知られている。
【0094】
陰茎勃起は、陰茎の海綿体平滑筋および脈管構造の収縮と弛緩のバランスに依存する血行動態的現象である(Lerner et al. 1993)。海綿体平滑筋の弛緩は海綿体小柱洞への血流の増加につながり、それらが周囲膜に対して膨張し、そこから出る静脈を圧迫する。これにより勃起につながる血圧の劇的上昇を生じる(Naylor, 1998)。
【0095】
男性の性的興奮のあいだ、NOが放出され、内皮、結合し、平滑筋細胞および内皮に存在する可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を活性化させ、細胞内環状グアノシン3',5'一リン酸(cGMP)レベルの上昇につながる。
【0096】
シルデナフィルシトレート(バイアグラ(登録商標)とも知られる)はMEDの処置のための最初の経口薬物として、ファイザー社により最近開発された。シルデナフィルは、選択的にホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することにより、cGMPから5'GMPへの加水分解を制限して(Boolel et al., 1996; Jeremy et al., 1997)、それによって細胞内cGMP濃度を増加させかつ海綿体平滑筋の弛緩を促進し、海綿体中のcGMP分解を阻害することにより作用する。
【0097】
本発明は、正常な性的興奮反応を回復する手段--すなわち男性における陰茎の勃起につながる陰茎血流の増加させる、および女性における陰部充血を増加させる手段を提供するために有益である。従って、本発明は正常な性的興奮反応を回復または増強する手段を提供する。
【0098】
実施例7:脳虚血の処置
脳虚血を経験した患者は、一過性の神経障害から不可逆性の損傷(脳卒中)または死に至る身体障害に苦しむことが多い。脳虚血、すなわち中枢神経系への血流の減少あるいは停止は、全体的または局所的として特徴付けられる。
【0099】
局所脳虚血は、頭蓋内大脳動脈または頭蓋外大脳動脈において部分的または完全な閉塞に由来する脳脈管構造内の血流の停止または減少を意味する。そのような閉塞は典型的に、少なくとも24時間持続する神経障害の急性の発生に特徴付けられる症候群である脳卒中に至り、中枢神経系の巣状病変を反映し、脳循環の撹乱の結果として起こる。局所脳虚血の他の原因は、クモ膜下出血または医原性介入による血管攣縮を含む。
【0100】
全脳虚血は、体循環不全による脳脈管構造内の血流の停止または減少を意味する。適切な細胞灌流の維持のための循環系の不全は、組織への酸素および栄養素の減少につながる。従って、全脳虚血は心臓機能の重篤な低下に由来するものである。更なる原因は、頚動脈血管形成術、ステント留置、または動脈内膜切除などのような、場合によっては局所脳虚血を引き起こしうる介入的措置、ならびに心臓カテーテル、電気生理学的検査、および血管形成術などのような、全脳虚血を引き起こしうる心臓措置を含む。
【0101】
当業者は、脳卒中を患う患者、または脳卒中、脳虚血、頭部外傷、もしくはてんかんになるリスクをもつ患者を容易に同定できる。たとえば、脳卒中になるリスクをもつ患者は、非限定的に、高血圧患者または大手術を受ける患者を含む。
【0102】
伝統的に、急性虚血性脳卒中の緊急対応は、たとえば、水分補給、神経学的状態のモニタリング、血圧コントロール、および/または抗血小板治療もしくは抗凝固治療などの、主に一般的な対症療法からなる。ヘパリンは脳卒中患者に投与されているが、その効果は有限かつ不十分である。全身性のt-PAの処置は脳内出血および他の出血性合併症のリスクの増加と関連する。血栓溶解剤およびヘパリンの投与を別として、現在の市場には、局所脳虚血の閉塞を患う患者に対する治療的選択肢はない。米国特許第6,858,383号を参照のこと。
【0103】
ある態様において、本発明のペプチドは虚血の処置のために使用することができる。
【0104】
本明細書において言及または引用されたすべての特許、特許出願、仮出願、および公報は、すべての図および表を含むその全体が、本明細書の明確な教示と相反しない範囲において、参照により組み入れられる。
【0105】
本明細書において記述した例および態様は例示を目的とするのみであり、それを踏まえた様々な改変または変更が当業者に対して示唆され、本出願の精神および範囲内に含まれるべきだと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
本特許の書類は少なくとも1つのカラーで描かれた図を含む。
【0107】
【図1】活性を生じる本発明のペプチドを通した機序を表す。
【図2】本発明のペプチドのeNOS活性を増強する能力を示す。
【図3】本発明のペプチドによるcGMP依存的活性の阻害を示す。
【図4】マウスの低酸素肺における、酸化窒素合成酵素阻害剤L-NAMEがある場合またはない場合のペプチドおよびザプリナストにより誘導された血管弛緩を示す。
【図5】ペプチド(P3、P4、P6)およびザプリナストによるcGMPホスホジエステラーゼ(PDE)活性の阻害を示す。
【図6】正常酸素肺におけるベースラインのPAPと比較した低酸素により誘導された血管収縮または肺動脈圧(PAP)の有意な増加を示す。
【図7】正常酸素肺および低酸素肺の両方に由来する灌流液において、P3がNO放出を増加させることを示す。
【図8】正常酸素肺のPAPと比較して、2、3、および6週間、低酸素に曝露することによりPAPの有意な増加が引き起こされたことを示す。
【図9】低酸素により誘導されたそれぞれ肺浮腫および心臓浮腫に由来するLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。
【図10】低酸素圧により誘導されたそれぞれ肺浮腫および心臓浮腫に由来するLW/BW比およびRV/HW比の増加を示す。
【図11】P3の投与により減少した、低酸素により誘導されたPAP圧を示す。
【図12】P3の投与によりの減少した、低酸素により誘導されたRV/HW比を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列の簡単な説明
配列番号:1は本明細書においてP3: KRFNSISCSSWRRKRと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【0109】
配列番号:2は本明細書においてP4:KKRFNSISCSSWRRKRKKRと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【0110】
配列番号:3は本明細書においてP6:WRRKRKESと表される合成ペプチドであり、内皮細胞酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性を増強させることがわかっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強を必要とする患者に対してP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、eNOS活性を増強させる方法。
【請求項2】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが経口、腹腔内、筋肉内、肺、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
阻害を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、PDE活性を阻害する方法。
【請求項7】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項9記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項10記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項9記載の方法。
【請求項10】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
調節を必要とする患者へP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、cGMPレベルおよび/またはcAMPレベルを調節する方法。
【請求項12】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
肺高血圧、性機能不全、および虚血からなる群より選択される状態を処置するための、または血小板凝固を減少させるための方法であって、そのような処置を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む方法。
【請求項17】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項13記載の方法。
【請求項20】
eNOS活性増強を必要性とする患者がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項21】
処置を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与することにより酸化窒素濃度を増加させることで肺動脈高血圧を処置する方法。
【請求項22】
P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチド。
【請求項23】
P3(配列番号:1)である、請求項22記載のペプチド。
【請求項24】
P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項25】
P3(配列番号:1)をコードする、請求項24記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
薬学的担体、ならびにP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを含む薬学的組成物。
【請求項1】
増強を必要とする患者に対してP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、eNOS活性を増強させる方法。
【請求項2】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが経口、腹腔内、筋肉内、肺、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
阻害を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、PDE活性を阻害する方法。
【請求項7】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項9記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項10記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項9記載の方法。
【請求項10】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
調節を必要とする患者へP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む、cGMPレベルおよび/またはcAMPレベルを調節する方法。
【請求項12】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
eNOS活性増強を必要とする患者がヒトである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
肺高血圧、性機能不全、および虚血からなる群より選択される状態を処置するための、または血小板凝固を減少させるための方法であって、そのような処置を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与する段階を含む方法。
【請求項17】
前記ペプチドが薬学的に許容される担体により投与される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが経口、腹腔内、肺、筋肉内、皮下、動脈内、静脈内、髄腔内注射、およびカテーテル留置からなる群より選択される経路を介して投与される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、該ペプチドを発現することができるRNAベクターまたはDNAベクターを介して投与される、請求項13記載の方法。
【請求項20】
eNOS活性増強を必要性とする患者がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項21】
処置を必要とする患者に対して、P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを投与することにより酸化窒素濃度を増加させることで肺動脈高血圧を処置する方法。
【請求項22】
P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチド。
【請求項23】
P3(配列番号:1)である、請求項22記載のペプチド。
【請求項24】
P3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項25】
P3(配列番号:1)をコードする、請求項24記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
薬学的担体、ならびにP3(配列番号:1)、P4(配列番号:2)、およびP6(配列番号:3)からなる群より選択されるペプチドを含む薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2008−544747(P2008−544747A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511466(P2008−511466)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/018808
【国際公開番号】WO2006/124820
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/018808
【国際公開番号】WO2006/124820
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】
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