説明

血漿分離装置及び方法

【課題】微量の全血試料から、遠心分離を行うことなく血漿を分離することが可能な血漿分離装置を提供すること。
【解決手段】血液から血漿を分離する装置は、血液を流通させる血液流路と、血液流路と少なくとも部分的に並行して配置され、血液から分離された血漿が流通する血漿流路と、血液流路と該血漿流路を隔てるフィルターであって、血液中の血球成分は通過できないが血漿は通過可能な孔径を有するフィルターとを具備する。血液流路と血漿流路は、フィルターを介してこれらの流路の長手方向に沿って少なくとも部分的に互いに接し、血液流路及び血漿流路の幅がそれぞれ30μm〜500μmの範囲、深さがそれぞれ10μm〜200μmの範囲、フィルターが血液流路及び血漿流路と接触する幅がそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、血液流路を流通する血液中の血漿が、フィルターを介して前記血漿流路に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿分離装置及び方法に関する。より詳細には、本発明は、微量の全血試料から、遠心分離を行うことなく血漿を分離することが可能な血漿分離装置及び方法に関する。
【0002】
血液分析は医療診断において重要な分析法であり、血液を試料として様々な検査が行われている。血液の生化学的検査は、通常、血漿又は血清を試料として行われている。血漿は、約10mL程度の静脈血を注射器で採血し、遠心分離にかけることにより調製されている。注射器で採血するため、医療従事者が行う必要があり、被検者及び医療機関の負担が大きく、コストも高くなる。また、遠心分離の必要があり、手間とコストがかかる。
【0003】
もし、数十μL程度の微量血液から血漿が分離できれば、注射器による採血が不要になるので、被検者自身が採血することも可能であり、被検者及び医療機関の負担が少なくなり、また、遠心分離が不要であれば、手間とコストを軽減することができるので望ましい。
【0004】
200μL程度の微量血液から、遠心分離を行うことなく血漿を分離する方法が提案されている(非特許文献1)。この方法では、基板に断面が半円形の2本の平行な溝を掘り、2本の溝の頂部同士をチャンネル部により接続し、このチャンネル部の深さを、血球成分は通過できないが、血漿は通過できるサイズとし、一方の溝に血液を流通させると、血漿のみが、チャンネル部を介してもう一方の溝に移動することを利用している。
【0005】
しかしながら、この方法では、チャンネル部が血球で目詰まりしやすく、また、分離される血漿の量が少なく、目詰まりしにくいように希釈血液を試料とした場合でも、この方法により分離される血漿の量は、試料血液中の全血漿量のわずか5%程度である。微量血液の場合、分離できる血漿量が、全血漿量の5%ではその血漿を試料として用いて各種生化学検査を行うことは試料が不足して困難である。このため、上記方法は、実用困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】X. Yang, et al., Micro TAS, 120-121, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、微量の全血試料から、遠心分離を行うことなく血漿を分離することが可能な血漿分離装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、微細な流路(以下、「マイクロ流路」と呼ぶことがある)に血液を流通させると、マイクロ流路の寸法及び血液の流速を適切に設定すれば、血球成分が、流路の中心近傍を流れ、流路の周縁部には血漿のみが流れる(血球の軸集中)ことを見出した。そして、この現象を利用し、血漿は通過できるが血球は通過できないフィルタを介して2本のマイクロ流路を接触させ、一方の流路に全血を流すと、フィルターには血漿成分だけが接触する状態で全血が流れるので、フィルターの目詰まりを引き起こすことなく、フィルターを介して血漿が効率良くもう一方のマイクロ流路に移動することを見出し、この現象を利用して、微量の全血試料から、血漿を分離することが可能であることに想到し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
血液を流通させる血液流路と、
該血液流路と少なくとも部分的に並行して配置され、前記血液から分離された血漿が流通する血漿流路と、
該血液流路と該血漿流路を隔てるフィルターであって、前記血液中の血球成分は通過できないが血漿は通過可能な孔径を有するフィルターとを具備し、
前記血液流路と前記血漿流路は、前記フィルターを介してこれらの流路の長手方向に沿って少なくとも部分的に互いに接し、
前記血液流路及び前記血漿流路の幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、深さが独立してそれぞれ10μm〜200μmの範囲であり、前記フィルターが前記血液流路及び前記血漿流路と接触する幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、
前記血液流路を流通する血液中の血漿が、前記フィルターを介して前記血漿流路に移動する、血液から血漿を分離する装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の装置の前記血液流路の上流側の入口から、生体から採取された血液を注入し、該血液から分離された血漿を、前記血漿流路の下流側の出口から回収することを含む、血液から血漿を分離する方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記本発明の装置を具備する、血漿を試料とするイムノアッセイ装置であって、該イムノアッセイ装置の試料注入口に前記装置の前記血漿流路の出口が接続されているイムノアッセイ装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微量の全血試料から、遠心分離を行うことなく血漿を分離することが可能な血漿分離装置及び方法が初めて提供された。本発明の血漿の分離方法によれば、必要な血液量は、50μL程度の微量でよく、被検者が自身で採血することも可能であるので、被検者及び医療機関の負担が減少する。また、遠心分離が不要であるので、手間とコストが大きく軽減される。さらに、本発明の方法は、血漿の分離効率が高く、下記実施例に具体的に記載するように、全血を試料として用いた場合でも、試料血液中の全血漿の約65%の血漿を分離することが可能であり、試料血液の量が微量でも、イムノアッセイ等の生化学分析を行うのに十分な量の血漿を分離することができ、実用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】各基板に溝状の血液流路又は血漿流路を設ける上記好ましい態様を説明するための模式図である。
【図2】図2の(a)は、基板に溝状の血液流路12と血漿流路14を設ける上記好ましい態様の全体を模式的に示す分解斜視図であり、図2の(b)は、血液流路12、血漿流路14及びフィルター18の一部を拡大して示す部分分解斜視図である。
【図3】血球成分の軸集中を説明するための、本発明の好ましい具体例の部分拡大模式断面図である。
【符号の説明】
【0014】
10 上板(第1の基板)
12 血液流路
14 血漿流路
16 下板(第2の基板)
18 フィルター
20 血漿層
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の通り、本発明の血漿分離装置は、血液を流通させる血液流路と、該血液流路と少なくとも部分的に並行して配置され、前記血液から分離された血漿が流通する血漿流路と、 該血液流路と該血漿流路を隔てるフィルターであって、前記血液中の血球成分は通過できないが血漿は通過可能なフィルターとを具備する。前記血液流路と前記血漿流路は、前記フィルターを介してこれらの流路の長手方向に沿って少なくとも部分的に互いに接している。前記血液流路及び前記血漿流路は、マイクロ流路であり、これらの幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲、好ましくは100μm〜400μmの範囲であり、深さが独立してそれぞれ10μm〜200μmの範囲、好ましくは50μm〜150μmの範囲であり、また、前記フィルターが前記血液流路及び前記血漿流路と接触する幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、好ましくは100μm〜400μmの範囲である。そして、前記血液流路を流通する血液中の血漿が、前記フィルターを介して前記血漿流路に移動する。
【0016】
前記血液流路と前記血漿流路とが前記フィルターを介して互いに接している長さは、特に限定されないが、1cm〜50cmが好ましく、さらに好ましくは10cm〜30cmである。
【0017】
前記フィルターは、血球成分(赤血球、白血球及び血小板)は通過できないが血漿が通過できるフィルターであれば特に限定されないが、孔径が0.2μm〜3μm、さらに好ましくは0.4μm〜1μm、空孔率が5〜20%、さらに好ましくは、7〜18%、厚さが7μm〜22μm、さらに好ましくは10μm〜15μmの親水性フィルターであることが好ましい。ここで、「親水性」とは、人為的な圧力をかけなくても水が通過できる(すなわち、水をはじかない)ことを意味する。親水性の材料としては、ポリカーボネート、セルロース、酸化アルミナ、ポリエーテル等の樹脂を挙げることができる。なお、上記した好ましいフィルターは、市販されており(例えば、ワットマンジャパン社製の商品名サイクロポア)、市販のフィルターを好ましく用いることができる。
【0018】
前記血液流路は第1の基板中に形成された溝状の通路であり、前記血漿流路は、第2の基板中に形成された溝状の通路であり、前記第1の基板と第2の基板は、前記血液流路の開口面と前記血漿流路の開口面同士が前記フィルターを介して少なくとも部分的に接するように積層され、前記フィルターがこれらの基板の間に挟まれて配置される構成を採用すれば、容易に低コストで本発明の血漿分離装置を製造することができ、好ましい。以下、この好ましい態様を図面に基づき説明する。
【0019】
図1は、各基板に溝状の血液流路又は血漿流路を設ける上記好ましい態様を説明するための模式図である。図1の(a)は、断面がほぼ半円形の溝状の血液流路12が形成された第1の基板である上板10を模式的に示す。図1の(b)は、上板10の底面図であり、血液流路12が蛇行状に形成されている様子を示している。この具体例では、上板10は長方形であり、そのサイズは7cm x 3cmであるが、形状やサイズはもちろんこれに限定されるものではない。血液流路の断面形状は半円形に限定されないが、流れが均一で溶血が起きにくく、加工も容易であるので、血液流路の断面形状は、半円形又はほぼ半円形(好ましくは幅(直径)が深さ(半径)の2倍〜5倍)が好ましい。なお、上板10(及び後述の下板16も)の材質は、検査に悪影響を与えない限り特に限定されるものではなく、ガラス、プラスチック、金属等でよい。また、基板がガラス製の場合、各基板の表面の流路以外の部分は、オクタデシルトリクロロシラン等の撥水性の修飾剤で表面修飾をしておくことが、流路からの液漏れを防止する上で好ましい。
【0020】
図1の(b)は、断面がほぼ半円形の溝状の血漿流路14が形成された第2の基板である下板16を模式的に示す。図1の(b)は、下板16の平面図であり、血漿流路14が蛇行状に形成されている様子を示している。この具体例では、下板16は長方形であり、そのサイズは7cm x 3cmであるが、形状やサイズはもちろんこれに限定されるものではない。血漿流路の断面形状は半円形に限定されないが、流れが均一で加工も容易であるので、血漿流路の断面形状は、半円形又はほぼ半円形が好ましい。
【0021】
図2の(a)は、基板に溝状の血液流路12と血漿流路14を設ける上記好ましい態様の全体を模式的に示す分解斜視図であり、図2の(b)は、血液流路12、血漿流路14及びフィルター18の一部を拡大して示す部分分解斜視図である。
【0022】
図2の(a)に示されるように、上板10と下板16が積層され、これらの間にフィルター18が挟まれて配置される。この際、図2の(b)に示されるように、上板10と下板16は、血液流路12の開口面と血漿流路14の開口面同士がフィルター18を介して接するように積層され、フィルター18が上板10と下板16の間に挟まれて配置されることが好ましい。フィルター18は、上板10及び/又は下板16と接着剤により接着してもよいが、例えば、上板10、下板16、フィルター18の周縁部に、これらを貫通するねじ穴を設け、このねじ穴にボルトを貫通させること等により、接着剤を用いることなく、単に、圧力をかけてフィルター18を上板10と下板16の間に挟みこんでおくだけでも問題なく使用可能である。血液流路12は、上板10の底面に形成され、血漿流路14は下板16の上面に形成されており、かつ、両流路とも断面形状が半円形で、サイズが同じであれば、これらの流路が接するように位置合わせをして上板10と下板16を積層すると、各流路(溝)の直径方向に配置されたフィルターにより隔てられた、断面形状が実質的に円形の流路が形成される。このような態様が、流れが均一で溶血が起きにくく、加工も容易であり、また、フィルター18の有効面積が大きくなり、その結果、血漿の分離効率も大きくなるので好ましい。なお、血液流路12及び血漿流路14の幅は必ずしも同一にする必要はないが、同一の場合にフィルター18の有効面積が最も大きくなり、血漿の分離効率も最も大きくなるので好ましい。従って、血液流路12及び血漿流路14の幅の比率は、10:8〜8:10の範囲が好ましく、10:10が最も好ましい。
【0023】
血液流路12及び血漿流路14は、それぞれの全長においてフィルター18を介して接していてもよいが、血漿分離を行うのに必要な長さだけ接していれば、その他の部分は接していなくてもよい。すなわち、両流路は、少なくとも部分的に並行して(フィルターを介して接して)配置されていればよい。好ましくは、図2の(a)によく示されるように、血液流路12の下流側の出口12aと、血漿流路14の下流側の出口14aとは1cm以上離れた位置に配置されることが好ましい。両流路の出口が1cm以上離れていると、血液と血漿をそれぞれ別の容器に受容する際に、各容器を配置し易くなる。このように各流路の出口を離れた位置に配置する場合には、当然ながら、各流路の下流側部分は図2の(a)に示されるように、全く異なる位置に形成されており、両者はフィルター18を介して接していない。また、血液試料を注入するのは、血液流路12だけであるから、血液流路12の上流側の入口12bの近傍には、対応する位置に血漿流路14は形成されていない。すなわち、血液流路12の最上流部分には、血液流路12だけが存在する。
【0024】
なお、上記具体例では、便宜的に「上板」、「下板」という語を用いて説明したが、使用時には、必ずしも「上板」を上、「下板」を下にして使用する必要はなく、両基板(上板と下板)を任意の角度に配置して使用可能である。例えば、両基板を鉛直方向にして使用することも可能である。
【0025】
上記本発明の血漿分離装置を用いて血液から血漿を分離する際には、血液流路12の入口12bから、試料血液を注入する。注入は、所定の流速を容易かつ正確に達成できるシリンジポンプのようなポンプを用いて行うことが好ましい。血液を血液流路12に流通させると、図2の(b)に白抜きの矢印で示されるように、血液流路12から、血漿がフィルター18を介して血漿流路14に移動する。そして、血漿流路14に移動した血漿は、図2の(a)に示されるように、血漿流路14の出口14aから回収することができる。
【0026】
なお、試料血液は、希釈した血液であってもよいが、下記実施例において具体的に記載するように、本発明の方法によれば、全血を試料とした場合でも、全血中に含まれる全血漿の65%を分離することができるので、全血を試料とする場合に本発明の威力が最も発揮される。
【0027】
血液流路12を流通する血液中の血球成分が軸集中し、かつ、溶血が起きない流速で血液を流通させることが好ましい。ここで、血球成分の軸集中は、血球成分が、流路の中心近傍を流れ、流路の周縁部には血漿のみが流れる現象である。これを図3に模式的に示す。図3は、血漿流路14の最上流部分の模式断面図である。図示の具体例では、血液流路12の最上流部分に対応する位置には、血漿流路14は設けられておらず、血漿流路14は、図示の通り、血液流路12の途中から始まる。図3に示すとおり、血球成分の軸集中が起きている状態では、図3に模式的に示すように、血球が血液流路12の中心近傍を流れ、血液流路12の周縁部には、血球が実質的に存在しない血漿層が形成される。フィルター18は、この血漿層20と接し、血球とは接触しないので、フィルター18の目詰まりや、フィルター18と赤血球の接触に起因する溶血が起きることなく高い効率で血漿が分離される。
【0028】
上記軸集中は、血液流路12の寸法(幅、深さ、長さ)が決定されれば、血液の流速を適切に設定することにより、容易に達成することができる。もちろん、溶血が起きないように設定する必要がある。すなわち、平均せん断速度が100/s〜330/sの溶血が起きずに軸集中が起きるので、平均せん断速度がこの範囲内に入るように設定する。なお、平均せん断速度は、4Q/π/r3 (Q:流量、r:相当直径)で表される。例えば、下記実施例で採用した寸法の血液流路、すなわち、幅(直径)が300μm、深さ(半径)が140μmのほぼ半円形の流路では、血液試料の流速を4〜20μL/分、好ましくは5〜12μL/分とすることにより達成することができる。軸集中が起きているか否かは、検鏡下で血液試料を流し、血液流路12を顕微鏡で観察し、フィルターや流路の壁に接する部分に血球が見えない上記血漿層が形成されているか否かを観察することにより調べることができる。また、溶血が起きているかどうかは、回収した血漿中のヘモグロビン濃度を測定することにより調べることができる。
【0029】
回収した血漿は、イムノアッセイ等の任意の生化学検査に供することができる。また、本発明の装置の血漿流路の出口に、イムノアッセイ装置を直接接続することもできる。イムノアッセイ装置自体は、周知であり、微量の血漿を用いて分析が可能な種々の自動測定装置が市販されており、これらのイムノアッセイ装置を好ましく接続することができる。特に、微量の試料を用い、マイクロ流路上でイムノアッセイが可能なイムノアッセイ用マイクロチップが報告されており(文献:T. Ohashi et al., Lab on a Chip, 9, 991-995 (2009).)、このようなイムノアッセイ用マイクロチップを好ましく接続することができる。イムノアッセイによる検査対象としては、C反応性蛋白質、アレルギー、心疾患、ガン、血中薬物等を例示することができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0031】
血漿分離装置の作製
図1及び図2に示す血漿分離装置を作製した。すなわち、ガラス製の上板10の底面に、幅(直径)が300μm、深さ(半径)が140μmのほぼ半円形の断面を有する溝(血液流路12)をフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成した。血液流路12の形状は、図1(b)に示すように蛇行状であり、その全長は25cmであった。一方、同じくガラス製の下板16の上面に、幅(直径)が300μm、深さ(半径)が140μmのほぼ半円形の断面を有する溝(血漿流路14)を血液流路12と同様に形成した。血漿流路14の形状は、図1の(d)に示すとおりであり、蛇行状であり、その全長は25cmであった。上板10及び下板16は、共に7cm x 3 cmの長方形であった。また、各ガラス板の流路以外の部分は、オクタデシルトリクロロシランで撥水処理した。
【0032】
孔径0.4μm、厚さ15μm、空孔率10%のポリカーボネート製フィルター18(商品名サイクロポア、ワットマンジャパン社製)を下板16の上に載せ、フィルター18上に上板10を積層した。この際、図2の(b)に示すように、血液流路12の下面が、フィルター18を介して血漿流路14の上面と接するように上板10及び下板16を積層した(上板10及び下板16は同じサイズの長方形であり、長方形同士のぴったり重ね合わせると血液流路12の下面が、フィルター18を介して血漿流路14の上面と接するようになる形状に血液流路12及び血漿流路14を形成してある)。上板10、フィルター18及び下板16を貫通する、各板の周縁部に形成した図示しない複数のねじ穴にボルトを通してフィルター18を上板10と下板16の間に挟みこんで、本発明の装置を完成した。
【0033】
血液流路の入口12bから、シリンジポンプにより、5μL/分(平均せん断速度110/s)又は10μL/分(平均せん断速度220/s)の流速で、全血100μLを注入し、血漿流路の出口14aから血漿を回収した。回収した血漿の体積を測定し、全血漿に対する回収された血漿の量の割合を算出したところ、いずれの流速の場合にも約65%であった。また、回収した血漿について、吸光度測定をすることによりヘモグロビン濃度を測定したところ、いずれの場合もヘモグロビン濃度は0.0g/dLであり、溶血が起きなかったことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、微量の全血試料から、遠心分離を行うことなく血漿を分離することが可能な血漿分離装置及び方法に係り、生体から採取された血液を試料とする種々の血液性化学検査に好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を流通させる血液流路と、
該血液流路と少なくとも部分的に並行して配置され、前記血液から分離された血漿が流通する血漿流路と、
該血液流路と該血漿流路を隔てるフィルターであって、前記血液中の血球成分は通過できないが血漿は通過可能なフィルターとを具備し、
前記血液流路と前記血漿流路は、前記フィルターを介してこれらの流路の長手方向に沿って少なくとも部分的に互いに接し、
前記血液流路及び前記血漿流路の幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、深さが独立してそれぞれ10μm〜200μmの範囲であり、前記フィルターが前記血液流路及び前記血漿流路と接触する幅が独立してそれぞれ30μm〜500μmの範囲であり、
前記血液流路を流通する血液中の血漿が、前記フィルターを介して前記血漿流路に移動する、血液から血漿を分離する装置。
【請求項2】
前記血液流路と前記血漿流路とが前記フィルターを介して互いに接している長さが、1cm〜50cmである請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記フィルターは、孔径が0.2μm〜3μm、空孔率が5〜20%、厚さが7μm〜22μmの親水性フィルターである請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記フィルターがポリカーボネート製である請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記血液流路は第1の基板中に形成された溝状の通路であり、前記血漿流路は、第2の基板中に形成された溝状の通路であり、前記第1の基板と第2の基板は、前記血液流路の開口面と前記血漿流路の開口面同士が前記フィルターを介して少なくとも部分的に接するように積層され、前記フィルターがこれらの基板の間に挟まれて配置される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記血液流路及び前記血漿流路の断面形状が実質的に半円形であり、前記第1の基板と第2の基板が積層された状態では、直径方向に配置された前記フィルターにより隔てられた、断面形状が実質的に円形の流路が形成される請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記血液流路及び前記血漿流路は、それぞれ前記第1及び第2の基板中に蛇行状に形成される請求項5又は6記載の装置。
【請求項8】
前記血液流路及び前記血漿流路の下流側の出口は、1cm以上離れた位置に配置される請求項5ないし7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の装置の前記血液流路の上流側の入口から、生体から採取された血液を注入し、該血液から分離された血漿を、前記血漿流路の下流側の出口から回収することを含む、血液から血漿を分離する方法。
【請求項10】
前記血液は全血である請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記血液流路を流通する血液中の血球成分が軸集中し、かつ、溶血が起きない流速で前記血液を流通させる請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
注入する血液の量が、20μL〜500μLである請求項9ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の装置を具備する、血漿を試料とするイムノアッセイ装置であって、該イムノアッセイ装置の試料注入口に前記装置の前記血漿流路の出口が接続されているイムノアッセイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−237050(P2010−237050A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85674(P2009−85674)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第89春季年会講演予稿集の一部、平成21年3月13日発行 第18回化学とマイクロ・ナノシステム研究会(18th CHEMINAS)International Symposium on Microchemistry and Microsystems(ISMM 2008)、第55頁、2008年12月7日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)先端計測分析技術・機器開発事業における開発課題名:「可搬性汎用全自動マイクロ免疫分析装置の実証・実用化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(502100415)マイクロ化学技研株式会社 (8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】