説明

衣料用プラスチック芯材

【課題】
洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、適度な剛性を有し、また簡単に製造可能な衣料用プラスチック芯材を提供すること。
【解決手段】
60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有す熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる衣料用プラスチック芯材であって、前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下着や水着などの衣料に使用されるプラスチック芯材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブラジャー、ロングラインブラジャー、ボディースーツ、スリーインワン、ブラテディ、ブラスリップ、ブラキャミソール、ビスチェ、レオタード、水着、スポーツウェア等の乳房受け用のカップを有する衣類においては、乳房の垂れ下がりや脇方向へのずれを防止して、乳房の形を整えるため、一般に、カップ部の下部の縁部などにワイヤー状の芯材を組み込むことが広く行われている。この様な芯材として従来一般的に用いられているものはスチール製のワイヤーが挙げられる。
【0003】
かかるスチール製のワイヤーは、剛性には優れるものの、重量が重くなること、錆が発生しやすいこと、洗濯時等における大きな負荷によって、ワイヤーが折れ、それにより布を突き破って端部が露出しやすいこと、端部のシャープエッジで怪我等の問題点が指摘されている。この様な問題点を解決するため、スチール製のワイヤーに替わり、樹脂製のワイヤーが提案されている。
【0004】
特許文献1には、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ナイロン樹脂を射出成形により製造したワイヤーが、特許文献2には、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂を押出成形や圧延により製造したワイヤーが、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂等のエンジニアリングプラスチックを延伸により長さ方向に分子配向させることにより製造したワイヤーが記載されている。
【0005】
これらの樹脂製のワイヤーは、スチール製のワイヤーと比較し軽量化し易く、また錆の問題については解決することができる。しかしながら、洗濯時等における大きな負荷において、さらに折れにくくすることや、金属製の芯材が有する十分な剛性を持たせることについて、さらなる要望がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−131806号公報(2頁、3頁)
【特許文献2】特開2000−170009号公報(3頁、実施例)
【特許文献3】特開2001−131807号公報(2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、かつ適度な剛性を有し、また簡単に製造することができる衣料用プラスチック芯材を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
(1)60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる衣料用プラスチック芯材、
(2)前記熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする前記(1)記載の衣料用プラスチック芯材、
(3)前記衣料用プラスチック芯材の表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることを特徴とする前記(2)記載の衣料用プラスチック芯材、
(4)前記熱可塑性樹脂組成物が、平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の衣料用プラスチック芯材、
(5)前記熱可塑性樹脂組成物が、平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の衣料用プラスチック芯材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衣料用プラスチック芯材は、洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、適度な剛性を有し、また簡単に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明における、衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有すことが必要である。熱可塑性樹脂組成物が60MPa以上の引張降伏応力を有す場合、射出成形して得られる衣料用プラスチック芯材は、洗濯時等における大きな負荷において顕著に折れにくくなる。また2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有す場合、射出成形して得られる衣料用プラスチック芯材は、装着時に金属製の芯材に替わり得る十分な剛性を持たせることができる。
【0012】
ここで、引張降伏応力は、ASTM D638に従って測定した値であり、曲げ弾性率、曲げ応力は、ASTM D638に従って測定した値である。
【0013】
かかる60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有す熱可塑性樹脂組成物としては、さらに洗濯時の洗剤等による樹脂の劣化を抑える目的からも、少なくとも1種の結晶性熱可塑性樹脂組成物を含むことが好ましい。かかる結晶性熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ乳酸樹脂が挙げられるが、とりわけポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
かかるポリエステル樹脂とは、主鎖にエステル結合を有する高分子からなる熱可塑性樹脂のことであり、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成性誘導体)とジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
かかるジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。またジオール成分としては炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなど、あるいは分子量400〜6000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどおよびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0016】
これらの重合体ないしは共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられ、ポリエステル組成物の成形性からポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが特に好ましく、最も好ましいのはポリブチレンテレフタレート(ポリブチレンテレフタレート樹脂)である。
【0017】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、o−クロロフェノール溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.36〜1.60、特に0.52〜1.25の範囲にあるものが好適である。また、固有粘度の異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を併用しても良く、固有粘度が0.36〜1.60の範囲にあることが好ましい。
【0018】
更に、これらポリブチレンテレフタレート樹脂は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めたCOOH末端基量が1〜50eq/t(ポリマー1トン当りの末端基量)の範囲にあるものが耐久性、異方性抑制効果の点から好ましく使用できる。
【0019】
上述の様に、衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物としては、少なくとも1種の結晶性熱可塑性樹脂組成物を含むことが好ましいが、結晶性熱可塑性樹脂単体では、上記特性を満たすことが難しいことから、さらにポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0020】
かかるポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA、つまり2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた1種以上のジヒドロキシ化合物を主原料とするものが好ましく挙げられる。なかでもビスフェノールA、つまり2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主原料として製造されたものが好ましい。具体的には、上記ビスフェノールAなどをジヒドロキシ成分として用い、エステル交換法あるいはホスゲン法により得られたポリカーボネートが好ましい。さらに、上記ビスフェノールAは、これと共重合可能なその他のジヒドロキシ化合物、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどと併用することも可能であり、その他のジヒドロキシ化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物の総量に対し、10モル%以下であることが好ましい。
【0021】
かかるポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性と成形性の観点から、ポリカーボネート樹脂0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定したときの比粘度が0.1〜2.0、特に0.5〜1.5の範囲にあるものが好適であり、さらには0.8〜1.5の範囲にあるものが最も好ましい。
【0022】
本発明の衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物としては、結晶性熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含むことが好ましいが、中でもポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなるポリマーアロイからなり、かかるポリマーアロイが、構造周期0.001〜5μm未満の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μm未満の分散構造を形成させることにより、60MPa以上の引張降伏応力、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を満たすことからより好ましい例として挙げることができる。
【0023】
かかる構造を有するポリマーアロイを得る方法としては、後述のスピノーダル分解を利用する方法が好ましい。
【0024】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0025】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶である系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶な相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が半相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる半相溶系に分配される系などがある。本発明においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の3成分以上からなるポリマーアロイの場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の3成分目が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0026】
上記非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発することが可能であり、それには、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の剪断下で一旦相溶化し、その後非剪断下とすることにより相分解するいわゆる剪断場依存型スピノーダル分解により相分離する。この剪断場依存型スピノーダル分解様式の基本部分については、上述の一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解と同様であることから、以下一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解について説明した後、本発明に特徴的な部分を付記する形で説明する。
【0027】
一般にスピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図において、スピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指す。一方、核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0028】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶な場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことである。スピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、スピノーダル曲線の外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0029】
またバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶な領域と非相溶な領域の境界の曲線のことである。
【0030】
ここで相溶状態とは、分子レベルで均一に混合している状態のことである。具体的には異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成していない場合を指す。また、非相溶状態とは、相溶状態でない場合のことである。すなわち異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成している状態のことを指す。ここで、0.001μm以上の構造物とは、例えば、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造や粒子間距離0.001〜1μmの分散構造などのことである。相溶か否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0031】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶化した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速に変化させた場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0032】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0033】
ここで両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0034】
上記剪断場依存型スピノーダル分解では、剪断を賦与することにより相溶領域が拡大する。つまりはスピノーダル曲線が剪断を賦与することにより大きく変化するため、スピノーダル曲線が変化しない上記一般的なスピノーダル分解に比べて、同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなる。その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の構造周期を小さくすることが容易となる。
【0035】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行する。本発明においては、本発明で規定する範囲内の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には本発明で規定する範囲内の所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0036】
ここで分散構造とは、片方の相が連続相であるマトリックスの中に、もう片方の相である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0037】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち、最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。さらにはポリマーアロイが相溶状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で、ポリマーアロイのガラス転移温度がポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、そのポリマーアロイ中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。
【0038】
またスピノーダル分解による構造を固定化する方法としては、急冷等により、相分離相の一方または両方の相の構造を固定する方法や、一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用する方法が挙げられる。中でも結晶性樹脂を用いた場合、結晶化による構造固定が好ましく用いられる。
【0039】
一方、核生成と成長により相分離する系では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0040】
かかる両相連続構造、もしくは分散構造が得られていることを確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。そのためには、例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることを確認する。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造が存在することの証明であり、その周期Λmは、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θmを用いて次式
Λm=(λ/2)/sin(θm/2)
により計算することができる。
【0041】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。本発明の好ましい具体例であるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなるポリマーアロイの場合、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
【0042】
かかるポリマーアロイの具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0043】
かかる2軸押出機を用いる場合、ニーディングブロックを多用したスクリューアレンジにしたり、樹脂温度を下げたり、スクリュー回転数を高くしたり、使用ポリマーの粘度を上げることによってより高剪断応力状態を形成することにより、適宜調節することができる。
【0044】
かかるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂との配合量には特に制限がないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の配合量の比として、ポリブチレンテレフタレート樹脂/ポリカーボネート樹脂=10/90〜90/10(重量比)の範囲が好ましく、さらには15/85〜85/15(重量比)の範囲が好ましい。
【0045】
また、上記ポリマーアロイに、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどの第3成分を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましい。この場合、通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0046】
また、本発明の衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物には、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を本発明の構造を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明のポリマーアロイを製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予めポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めにポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のうち、いずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0048】
なお、本発明の衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに各種の添加剤を含有させることもできる。これらの添加剤としては、例えば酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、エステル交換反応抑制剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。
【0049】
これらの添加剤は、本発明の衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予めポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めにポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のうち、いずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0050】
本発明においては、上記衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物に、さらなる高強度、高剛性を付与することを目的として、さらに平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を添加することが有効である。かかる平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤としては、チョップドガラスファイバー、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ガラスミルドファイバー、炭素ミルドファイバー、ワラストナイト、窒化珪素ウィスカー、三窒化珪素ウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、炭化珪素ウィスカー、ボロンウィスカー等のウィスカー、金属繊維、ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、等の無機系繊維、およびアスベスト等が挙げられるが、中でも、チョップドガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、およびチタン酸バリウムウィスカーが好ましく、最も好ましくは、チョップドガラスファイバーである。
【0051】
これら繊維状充填剤の配合率は、衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物の合計量100重量部に対し、1重量部から200重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10重量部から150重量部の範囲である。
【0052】
本発明においては、上記衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物に、さらなる高強度、高剛性を付与することを目的として、さらに平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を添加することが有効である。かかる平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤としては、例えばタルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、ケイ砂、硫酸バリウム、ガラスビーズ、および酸化チタン等が、中でも優れた成形品の表面外観を得るためには、タルク、カオリン、マイカ、および炭酸カルシウムの中から選ばれた1種以上であることが好ましい。
【0053】
本発明の衣料用プラスチック芯材に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有すことから、延伸工程や配向をせずとも簡便な射出成形で衣料用プラスチック芯材を製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0055】
なお、以下の実施例、比較例において、樹脂および充填剤としては、以下に示すものを使用した。
PBT−1:ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製“トレコン”1100S、ガラス転移温度32℃、結晶融解温度220℃)
PC−1:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”E2000、ガラス転移温度151℃、0.7gを100mlの塩化 メチレンに溶解し20℃で測定した時の比粘度1.18)
繊維状充填剤−1:繊維径9μm、長さ3mm長のガラス繊維
粒状充填剤−1:LMS300(富士タルク工業社製)、数平均粒子径が4.5μmのタルク。
【0056】
[実施例1〜3]
表1記載の組成からなる樹脂原料を、押出温度270℃に設定し、ニーディングゾーンを2つ設けた強練りスクリューアレンジとし、スクリュー回転数300rpmとした2軸押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し、ダイから吐出後のガットを、氷水中に急冷した。各実施例のガットはいずれも透明であった。さらにこれらのガットをヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルについても0.001μm以上の構造物がみられず相溶化していることを確認した。
【0057】
次に、ダイから吐出後のガットを、10℃に温調した水を満たした冷却バス中を15秒間かけて通過させることで急冷し構造を固定した後、ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0058】
上記で得られたペレットを、ホッパ下から先端に向かって、250℃−260℃−270℃−270℃に設定した日精樹脂工業社製射出成形機(PS−60E9DSE)で、金型温度80℃とし、保圧10秒、冷却時間30秒の成形サイクルで、ASTM D−638準拠の引張試験片、ASTM D−790準拠の曲げ試験片を成形した。
【0059】
得られた成形品について以下の通り評価した結果を表1に記載した。
【0060】
(1)引張試験 ASTM D638に準拠し、測定を行った。
【0061】
(2)曲げ試験 ASTM D790に準拠し、測定を行った。
【0062】
また、上記射出成形用ペレットを用い、ブラワイヤー部品を成形し、ブラワイヤー部品から超薄切片を切り出し、上記ガットと同様に、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察した。電子顕微鏡写真では黒色に染色されたポリカーボネート相と、白色のポリブチレンテレフタレート相とが、互いに連続相を形成している両相連続構造が観察された。
【0063】
また、上記の両相連続構造の構造周期を小角光散乱で測定した。小角光散乱においてピーク位置(θm)から下式で構造周期(Λm)を計算した結果を表1に記載した。
Λm=(λ/2)/sin(θm/2)。
【0064】
この様に得られたブラワイヤーをブラジャーに装着し、下記試験を実施した。
【0065】
(3)洗濯試験 JIS L−0217に基づき洗濯試験を1200回行い、ブラワイヤーの変形した個数を測定した。
【0066】
(4)着用試験 下記の指標で評価した。
○: ソフトな感触で、着用感に優れ、着用による圧迫感や痛みが生じにくいもの。
△: ソフトな感触で、着用感に優れるが、ワイヤーの跡が身体に付きやすいもの。
×: 前中心部に乳房を寄せる機能に問題のあるもの。
【0067】
(5)耐洗剤試験 洗剤(花王ジャストファイブ5%溶液)での浸漬テストを1ヶ月行い、浸漬テスト後のブラワイヤーの引張降伏応力の変化率を測定した。
【0068】
[比較例1〜3]
表1記載の組成からなる原料を用い、スクリュー回転数を100とする以外は、実施例1と同様にして溶融混練を行いガットを得た。
【0069】
比較例3のガットは不透明であった。これらのサンプルについても実施例1と同様にペレット、成形品を作製し、実施例1と同様に成形品を評価し、結果を表1に記載した。
【0070】
また、ブラワイヤー成形品表面から超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察したところ、電子顕微鏡写真では大きいもので5μm以上の分散粒子が不均一に分散している構造が観察された。
【0071】
【表1】

【0072】
以上の結果から、本発明の60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有す熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られるブラワイヤーは、洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、かつ適度な剛性を有し、また簡単に製造することができることがわかる。
【0073】
[実施例4〜5]
表2記載の組成からなる原料を用い、繊維状充填剤、または粒状充填剤を配合する以外は、実施例1と同様にして溶融混練を行いガットを得た。
【0074】
各実施例のガットはいずれも不透明であったが、これらのガットをヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルについても充填剤を除き、0.001μm以上の構造物がみられず相溶化していることを確認した。
【0075】
次にこれらのサンプルについても実施例1と同様にペレット、成形品を作製し、実施例1と同様に成形品を評価し、結果を表2に記載した。
【0076】
【表2】

【0077】
以上の結果から、本発明の60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有す熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られるブラワイヤーは、洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、かつ適度な剛性を有し、また簡単に製造することに加え、耐洗剤成も向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の衣料用プラスチック芯材は、洗濯時等における大きな負荷において折れにくく、かつ適度な剛性を有し、また簡単に製造できる利点を活かし、下着や水着などの衣料に使用されるプラスチック芯材として有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60MPa以上の引張降伏応力を有し、かつ2.2GPa以上の曲げ弾性率、及び90MPa以上の曲げ応力を有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる衣料用プラスチック芯材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1記載の衣料用プラスチック芯材。
【請求項3】
前記衣料用プラスチック芯材の表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることを特徴とする請求項2記載の衣料用プラスチック芯材。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物が、平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の衣料用プラスチック芯材。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物が、平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の衣料用プラスチック芯材。

【公開番号】特開2011−132612(P2011−132612A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290318(P2009−290318)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】