説明

衣料用保温材および衣料

【課題】保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材、および該衣料用保温材を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】潜在捲縮が発現してなるミクロクリンプを有し、2種のポリエステルからなる非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿した後、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在する繊維構造体を得た後、衣料の表層と裏層の間に用いられる衣料用保温材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料の保温材として用いられる衣料用保温材であって、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材、および該衣料用保温材を用いてなる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料の表層と裏層の間に用いられる衣料用保温材としては、中綿や、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とで構成された繊維構造体などが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
一方、近年では、着心地よく、軽く、暖かく、動きやすい衣料が求められている。
しかしながら、従来の衣料用保温材は、伸縮性の点でまだ十分とはいえないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−125153号公報
【特許文献2】実用新案登録第3148056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材、および該衣料用保温材を用いてなる衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを用いて衣料用保温材を構成する際、前記非弾性捲縮短繊維として、潜在捲縮が発現してなるミクロクリンプを有する複合繊維を用いることにより、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「 非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体を含む衣料用保温材であって、前記非弾性捲縮短繊維が、固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルからなる複合繊維であり、かつ潜在捲縮が発現してなるミクロクリンプを有することを特徴とする衣料用保温材。」が提供される。
【0007】
その際、前記ミクロクリンプが30〜60個/25mmの範囲内であることが好ましい。また、前記非弾性捲縮短繊維に7〜15個/25mmの機械捲縮が付与されていることが好ましい。また、前記非弾性捲縮短繊維の単糸繊度が1〜15dtexの範囲内であることが好ましい。また、前記繊維構造体において、密度が0.005〜0.035g/cmの範囲内であることが好ましい。また、前記繊維構造体において、目付けが20〜100g/mの範囲内であることが好ましい。また、前記繊維構造体において、破断伸張率が30%以上であることが好ましい。また、前記繊維構造体において、10%伸張時の回復率が80〜100%であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の衣料用保温材を含む衣料が提供される。かかる衣料としてはアウター衣料が好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材、および該衣料用保温材を用いてなる衣料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、非弾性捲縮短繊維は固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルから複合繊維であり、かつ潜在捲縮が発現してなるミクロクリンプを有する。前記非弾性捲縮短繊維は、上記のミクロクリンプを有することが特に重要である。かかるミクロクリンプは熱処理により発現したものであり、かかるミクロクリンプにより、あたかもバネのように伸縮性に富んだ構造を持つようになる。また、繊維同士が複雑に絡みあうため、繊維構造体は特に優れた、保温性、軽量性、ソフト性、伸縮性を有するものとなる。
【0010】
ここで、前記ミクロクリンプの個数としては、30〜60個/25mmの範囲内であることが好ましい。ミクロクリンプの個数が30個/25mmよりも少ないと、十分な伸縮性が得られないおそれがある。逆に、該ミクロクリンプの個数が60個/25mmよりも多いと、繊維構造体を成型する際の熱収縮が大きいため、シワ入りや寸法変動などのトラブルが発生しやすく成型が困難となるおそれがある。
【0011】
前記非弾性捲縮短繊維において、7〜15個/25mmの機械捲縮が付与されていることが好ましい。該捲縮数が7個/25mm未満の場合には、短繊維間の絡合が不足してカード通過性が悪くなり、品位の高い繊維構造体が得られないおそれがある。一方、捲縮数が40個/25mmを越える場合には、短繊維の絡合が大きすぎてカードで十分な梳綿をなすことができず、品位の高い繊維構造体が得られないおそれがある。なお、かかる機械捲縮を付与する方法としては、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与する方法、通常の押し込みクリンパー方式により捲縮を付与する方法などが好ましく例示される。
【0012】
前記非弾性捲縮短繊維を形成する、固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルとしては、前記のミクロクリンプが得られるものであれば特に限定されないが、固有粘度の差としては、0.1〜0.4の範囲が好ましい。該固有粘度差が0.1よりも小さいとミクロクリンプが十分に発現せず、ミクロクリンプの個数が前記範囲よりも小さくなるおそれがある。逆に、該固有粘度差が0.4よりも大きいとミクロクリンプの個数が前記範囲よりも大きくなるおそれがある。
【0013】
かかる固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステル、ポリトリメチレン系ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ステレオコンプレックスポリ乳酸などが好適に例示される。ここで、ポリエチレン系ポリエステルとは、ポリエステルの全繰り返し単位を基準として、エチレンテレフタレート繰り返し単位が90モル%以上(好ましくは95モル%以上)、ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルとは、ポリエステルの全繰り返し単位を基準として、トリメチレンテレフタレート繰り返し単位が90モル%以上(好ましくは95モル%以上)、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルとは、ポリエステルの全繰り返し単位を基準として、ブチレンテレフタレート繰り返し単位が90モル%以上(好ましくは95モル%以上)を占めるポリエステルをいう。
【0014】
固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルを選択するには、同種ポリエステルにおいては重合度の異なるもの、異種ポリエステルにおいては、その酸成分およびジオール成分の少なくとも1方において異なるものから選択すればよい。
【0015】
前記ポリエステルには必要に応じて、そのテレフタル酸成分やエチレングリコール成分に、5モル%以下の範囲で第3成分を共重合していてもよく、例えば、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、5−スルホキシイソフタル酸金属塩、5−スルホキシイソフタル酸ホスホニウム塩等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジクロヘキサンジメチレンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、o−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホン等の芳香族グリコール、ヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルスルホン等のジフェノール類等があげられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、前記ポリエステル中には、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、特に艶消剤として酸化チタンなどは好ましく添加される。
【0016】
前記非弾性捲縮短繊維は、サイドバイサイド複合形態または偏心芯鞘型複合形態を有した複合繊維であることが必要である。なかでも、サイドバイサイド複合形態が特に好ましく用いられ、固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルを適宜選択して接合させることにより潜在捲縮を有することとなり、かかる複合繊維に熱処理を施すと、潜在捲縮が発現してミクロクリンプが得られる。
ここで、2種のポリエステルの重量比としては、20:80〜80:20(より好ましくは40:60〜60:40)である。
【0017】
前記非弾性捲縮短繊維の単糸繊度としては、1〜15dtex(より好ましくは1〜13dtex、特に好ましくは3〜7dtex)であることが好ましい。該単糸繊度が1dtexよりも小さいと、緻密構造となりすぎて低密度の繊維構造体が得られないおそれがある。逆に、該単糸繊度が15dtexよりも大きいと風合いが粗雑となり、良好な感触の繊維構造体を得ることができないおそれがある。かかる非弾性捲縮短繊維には、繊維長が3〜100mmに裁断されていることが好ましい。
前記非弾性捲縮短繊維の単繊維横断面形状は、通常の丸断面でもよいし、三角、四角、扁平、中空などの異型断面であってもよい。
【0018】
次に、熱接着性複合短繊維の熱融着(熱接着性)成分は、上記の非弾性捲縮短繊維を構成するポリマー成分より、40℃以上低い融点を有することが肝要である。この温度が40℃未満では接着が不十分となる上、腰のない取り扱いにくい繊維構造体となるおそれがある。また、熱処理温度の細かな制御が必要となり、生産性に劣るものとなる。
【0019】
ここで、熱融着成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマー及びその共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコ−ル系ポリマー等を挙げることができ、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。
【0020】
これらのポリマーのうちで、特に好ましいのは、ポリエステル系エラストマーまたはポリウレタン系エラストマーである。
ポリウレタン系エラストマーは、ポリオールとしてはポリテトラメチレングリコールまたはポリ−ε−カプロラクタムまたはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合の有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ビスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールを挙げることができる。
【0021】
ポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0022】
特に、接着性や温度特性、強度の面からすればポリブチレン系テレフタレートをハード成分とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。むろん、この酸成分の一部(通常30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていても良く、同様にグリコール成分の一部(通常30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されていても良い。また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分はブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってよい。
【0023】
共重合ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
【0024】
また、ポリオレフィンポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、さらにはそれらを変性した物等を挙げることができる。
なお、上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色材その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0025】
熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の相手側成分としては前記のような非弾性のポリエステルが好ましく例示される。その際、熱融着成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱融着成分と相手側成分が、複合比率で10/90〜90/10の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、特に限定されないが、熱融着成分と相手側成分とが、サイドバイサイド、芯鞘型であるのが好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性複合短繊維では、熱融着成分が鞘部となり、相手側成分が芯部となるが、この芯部は同心円状、または偏心状にあってもよい。
【0026】
かかる熱接着性複合短繊維において、単糸繊度としては、1〜15dtex(より好ましくは1〜13dtex、特に好ましくは3〜7dtex)であることが好ましい。該単糸繊度が1dtexよりも小さいと、緻密構造となりすぎて低密度の繊維構造体が得られないおそれがある。逆に、該単糸繊度が15dtexよりも大きいと風合いが粗雑となり、良好な感触の繊維構造体を得ることができないおそれがある。かかる熱接着性複合短繊維には、繊維長が3〜100mmに裁断されていることが好ましい。
【0027】
本発明においては、前記非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維を混綿させ、加熱処理することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と該非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が形成される。前記非弾性捲縮短繊維は前述のようにミクロクリンプを有しているので、あたかもバネのような伸縮性が得られる。
【0028】
この際、非弾性捲縮短繊維と熱接着複合短繊維との重量比率は90/10〜10/90である必要がある。熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より少ない場合は、固着点が極端に少なくなり、十分な伸縮性が得られないおそれがある。逆に、熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より多い場合は、固着点が多くなり過ぎ、繊維構造体が硬くなるおそれがある。
【0029】
また、本発明の保温材に含まれる繊維構造体において、登録実用新案第3148056号公報の図1に示すように、前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが繊維構造体の厚さ方向に配列していてもよい。ここで、「厚さ方向に配列している」とは、繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されている繊維の総本数を(T)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維の総本数を(W)とするとき、T/Wが1.5以上であることである。また、本発明の保温材を使用する際に、繊維の方向が衣料の厚さ方向であることが好ましい。
【0030】
前記の繊維構造体を製造する方法には特に限定はない。例えば、前記非弾性捲縮短繊維および熱接着複合短繊維を所定の比率にて混合し、通常のカード工程を経てクロスレアーにて必要な目付け量に積層しシート状のウエブとする。その際、構造体の層間剥離を回避するため必要に応じてニードルパンチおよび/またはウオーターニードリング等の方法によってシートに機械的交絡を加えてもよい。かかるウエブの繊維密度としては0.003〜0.03g/cmの範囲であることが好ましい。続いて、熱処理機によって、熱接着性複合短繊維の熱融着成分の融点以上の温度(好ましくは熱融着成分の融点以上、かつ熱接着複合短繊維を形成する2種のポリエステルのいずれの融点よりも30℃以上低い温度)で不織布シートを融着して熱接着複合短繊維のミクロクリンプを発現させると同時に、繊維間の交絡点を熱固着させ、繊維構造体を得た後、巻取機にて巻き取る。かかるミクロクリンプにより、伸縮性・弾力性に富んだバネのような構造となる。同時に、繊維間同士が複雑に絡み合うため、従来のような、ミクロクリンプを有さないマトリックスを用いた繊維構造体に比べて、熱固着点の数が増加する。かかる熱固着点によって優れたソフト性と伸縮性、伸張回復率が得られる。
【0031】
また、前記熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とを繊維構造体の厚さ方向に配列させる場合には、例えば非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿し、ローラーカードにより均一なウェッブとして紡出した後、特開2007−025044号公報の図1に示すような熱処理機を用いて、ウェッブをアコーディオン状に折りたたみながら加熱処理し、熱融着による固着点を形成させる方法などが好ましく例示される。例えば特表2002−516932号公報に示された装置(市販のものでは、例えばStruto社製Struto設備など)などを使用するとよい。
【0032】
かくして得られた繊維構造体において、密度が0.005〜0.035g/cm3(より好ましくは0.005〜0.02g/cm)の範囲内であることが好ましい。該密度がこの範囲よりも小さいと、十分な伸張回復率が得られないおそれがある。逆に、該密度がこの範囲よりも大きいと、繊維構造体が重くなり軽量性が損なわれるおそれがある。
【0033】
また、前記繊維構造体の目付けが20〜100g/mの範囲内であることが好ましい。該目付けがこの範囲よりも小さいと保温性が損なわれるおそれがある。逆に、該目付けがこの範囲よりも大きいと繊維構造体が重くなり軽量性が損なわれるおそれがある。
また、前記繊維構造体において、その厚さとしては、制限はないが、3〜15mmであることが好ましい。該厚さが3mmよりも小さいと、保温材の保温性が損われるおそれがある。逆に、該厚さが15mmよりも大きいと、伸縮性が損われるおそれがある。
【0034】
かかる繊維構造体には、前述のようにマトリックスとして用いられる非弾性捲縮短繊維は、潜在捲縮が加熱処理により発現してなるミクロクリンプを有しているため、あたかもバネのような構造を持つようになる。また、繊維同士が複雑に絡みあうため、ミクロクリンプを有さないマトリックス繊維を用いた従来の繊維構造体に比較して熱固着点の数が増加する。その結果、かかる繊維構造体は、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有することになる。
【0035】
ここで、前記繊維構造体において、破断伸張率が30%以上(より好ましくは30〜100%)であることが好ましい。また、前記繊維構造体において、10%伸張時の回復率が80〜100%であることが好ましい。前記繊維構造体がこのような特性を有することにより、動きやすく、型崩れし難い衣料を提供することができる。
かかる繊維構造体には、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工、金属蒸着など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
【0036】
本発明の衣料用保温材は前記の繊維構造体単独で構成してもよいし、繊維構造体を重ね合わせた構造でもよい。さらには、片面または両面に、樹脂バッキング加工、さらには、各種薄手の不織布シート(例えば、10〜20g/mのポリエステル系不織布)、織編物、ウレタンフォーム、各種フィルム等を、適宜接着層を介して貼り合わせて、保温材とすることも好ましい。さらに、熱反射のためにアルミ等の金属や、特殊ポリエステル等の高分子によるフィルムを貼り合せることも問題ない。
かくして得られた衣料用保温材は前記の繊維構造体を用いているので、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する。
【0037】
次に、本発明の衣料は前記の衣料用保温材を含む衣料である。かかる衣料は前記の衣料用保温材を含む衣料であるので、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する。
ここで、かかる衣料には、スポーツ衣料、紳士衣料、婦人衣料、子供衣料、ジャケット、手袋、帽子、ズボン、ダウン衣料、防寒衣料などが含まれる。特に、アウター衣料が好ましい。かかるアウター衣料にはスポーツ衣料や防寒衣料などが含まれる。前記の衣料用保温材を用いて衣料を得ると、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有し、さらには、動きやすく、型崩れもし難い。
【0038】
また、前記の衣料用保温材を衣料の表層と裏層の間に用いられる際、該表層または裏層しては、布帛の経方向または緯方向の伸張率が5%以上(より好ましくは30〜100%)の伸張性布帛が好ましい。
その際、かかる伸張性布帛は、特開平8−170254号公報や実用新案登録公報第2579024号に記載されたような、弾性繊維にポリエステル系繊維をカバリングしたカバリング糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、仮撚捲縮加工糸、サイドバイサイド型複合繊維の潜在捲縮を発現させた捲縮繊維などの伸張性糸条を用いた布帛や編組織を有する布帛などが例示される。
その際、前記弾性繊維としては、ポリウレタン弾性繊維、ポリエーテルエステル弾性繊維、ポリアミド弾性繊維などが例示される。
【0039】
一方、ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどからなるポリエステル繊維が好ましい。なお、かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0040】
ポリエステル繊維を形成するポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、艶消し剤、抗菌剤、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。例えば、ポリマー中に含まれるポリマー中に艶消し剤を含ませ、セミダルポリエステルまたはフルダルポリエステルとすると、布帛に防透性や赤外線・紫外線遮蔽性を付加することができ好ましい。また、抗菌剤としては、天然系抗菌剤や無機系抗菌剤だけでなく、国際公開第2011/048888号パンフレットに記載されたような、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合させたポリエステルに酸性処理を施したものでもよい。
【0041】
前記ポリエステル繊維の形態としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、ソフトな風合いを得る上で長繊維(マルチフィラメント)が好ましい。特に、前記繊維が、単糸繊度が1.5dtex以下(より好ましくは0.0001〜1.2dtex、特に好ましくは0.001〜0.9dtex)であると、ソフトな風合いが得られ好ましい。特に、フィラメント数が30本以上(より好ましくは70〜200本)、総繊度が30〜200dtex(より好ましくは30〜150dtex)のマルチフィラメントであると、さらに優れたソフトな風合いが得られ好ましい。単糸繊維径が1μm以下の、ナノファイバーと称される超極細繊維であってもよい。
【0042】
前記ポリエステル繊維の単繊維横断面形状は特に限定されず、丸だけでなく、三角、扁平、国際公開第2008/001920号パンフレットに記載されたようなくびれ付き扁平、中空など異型断面形状などでもよい。
また、前記編物としては、緯編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、経編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。かかる編物は常法により製造することができる。
【0043】
なお、衣料の表層または裏層を構成する布帛には、常法の染色加工、起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工、バッフィング加工またはブラシ処理加工を付加適用してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例をあげて本考案を詳細に説明するが、本考案はこれらによって何ら限定されるものではない。
(1)融点
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とする。なお、n数5でその平均値を求めた。
(2)ミクロクリンプ、捲縮数
JIS L 1015 7.12に記載の方法により測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
(3)目付、密度、厚さ
JIS L 1913により測定した。
(4)破断伸張率(伸度)
JIS L 1913により測定した。
(5)10%伸張時の回復率
JIS L 1096D法により繰り返し回数5回目を測定した。
(6)固有粘度
オルトクロルフェノールを溶媒として35℃で測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0045】
[実施例1]
テレフタル酸とイソフタル酸とを80/20(モル%)で混合した酸成分と、ブチレングリコールとを重合して得られた、ポリブチレン系テレフタレート38%(重量)を、さらにポリブチレンテレフタレート(分子量2000)62%(重量)と加熱反応させ、熱可塑性ブロック共重合ポリエーテルエステルエラストマーを得た。この熱可塑性エラストマーの固有粘度は1.0、融点は155℃、フィルムでの破断伸度は1500%、300%伸張応力は2.94Pa(0.3kg/mm)、300%伸張回復率は75%であった。この熱可塑性エラストマーを鞘部に、ポリブチレンテレフタレートを芯部に、芯部/鞘部の重量比で50/50になるように、常法により弾性複合繊維糸を紡糸した。この弾性複合繊維糸は偏心芯鞘型複合繊維である。この弾性複合繊維糸を約2倍に延伸し、表面処理剤(油剤)を付与した後64mmに切断し、単糸繊度が6.6dtexの熱接着性複合短繊維を得た。
【0046】
一方、高粘度側ポリエステルとして固有粘度が0.65のポリエチレンテレフタレート(融点256℃)、低粘度側ポリエステルとして固有粘度が0.45のポリエチレンテレフタレート(融点256℃)を用いて(固有粘度差0.20)、重量比50/50となるように、常法によりサイドバイサイド型複合繊維糸を紡糸した。このサイドバイサイド型複合繊維糸を約2倍に延伸し表面処理剤(油剤)を付与したのち、通常のクリンパー装置を用いて機械捲縮を10個/25mm付与し、さらに51mmに切断し、マトリックスとして単糸繊度が5.0dtexの潜在捲縮性能を有する非弾性捲縮短繊維を得た。
【0047】
次いで、前記熱接着性複合短繊維30%(重量)と前記非弾性捲縮短繊維70%(重量)とをカードにより混綿し、ウエブを作製し、175℃にて無加圧状態で60秒間乾熱処理(プレ融着)を施し、複合短繊維Aの潜在捲縮を発現させて48個/25mmのミクロクリンプを形成させるとともに熱固着点を形成させ、目付60g/m、厚さ5.3mm、密度0.014g/cmの繊維構造体を得た。該繊維構造体において、破断伸張率60%、10%伸張時の回復率は89%であった。
次いで、該繊維構造体単独で衣料用保温材を構成し、衣料の表層(伸張性布帛)と裏層(伸張性布帛)の間に配してスポーツ衣料および防寒衣料を得たところ、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有し、さらには、動きやすく、型崩れもし難いものであった。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、非弾性捲縮短繊維のかわりに、ポリエチレンテレフタレートからなる中空綿6.6dtexを用いて、実施例1と同じ目付、密度のものを作製し、破断伸張率および伸張時の回復率を確認したところ、破断伸張率30%、10%伸張時の回復率は70%であり、伸縮性の点で実施例1で得られたものより劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、保温性、軽量性、ソフト性だけでなく伸縮性をも有する衣料用保温材、および該衣料用保温材を用いてなる衣料が得られ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体を含む衣料用保温材であって、
前記非弾性捲縮短繊維が、固有粘度において互いに異なる2種のポリエステルからなる複合繊維であり、かつ潜在捲縮が発現してなるミクロクリンプを有することを特徴とする衣料用保温材。
【請求項2】
前記ミクロクリンプが30〜60個/25mmの範囲内である、請求項1に記載の衣料用保温材。
【請求項3】
前記非弾性捲縮短繊維に7〜15個/25mmの機械捲縮が付与されている、請求項1または請求項2に記載の衣料用保温材。
【請求項4】
前記非弾性捲縮短繊維の単糸繊度が1〜15dtexの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の衣料用保温材。
【請求項5】
前記繊維構造体において、密度が0.005〜0.035g/cmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の衣料用保温材。
【請求項6】
前記繊維構造体において、目付けが20〜100g/mの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の衣料用保温材。
【請求項7】
前記繊維構造体において、破断伸張率が30%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の衣料用保温材。
【請求項8】
前記繊維構造体において、10%伸張時の回復率が80〜100%である、請求項1〜7のいずれかに記載の衣料用保温材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の衣料用保温材を含む衣料。
【請求項10】
衣料がアウター衣料である、請求項9に記載される衣料。

【公開番号】特開2013−112911(P2013−112911A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260378(P2011−260378)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】