説明

表示状態変更用眼鏡および表示装置

【課題】消費電力および製造コストを低減することができる表示状態変更用眼鏡および表示状態変更用眼鏡対応の表示装置を提供する。
【解決手段】映像表示装置に表示される映像を視聴者に対し、映像を表示状態と非表示状態とに切り替えることが可能な左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bを有する映像用眼鏡10である。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、それぞれ、透明基板と、透明基板上に配置された、シャッター機能膜を含むシャッター機能層と、を備え、シャッター機能膜の光学定数は、シャッター機能膜への電圧印加の有無に起因して変動し、その光学定数の変動に応じて、シャッター機能膜は、シャッター機能膜に入射される光を透過する状態と、光を遮断する状態とに切り替わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元映像を視聴するための表示状態変更用眼鏡、および、表示状態変更用眼鏡対応の表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元(Three Dimensional)的な立体視を可能にする技術が急激に進歩し、映画やテレビにおける3次元映像技術が普及し始めている。このような3次元映像技術は、基本的に、左右の目の間隔によって生じる両眼視差を利用するものである。たとえば、3次元映像専用である、右目用映像および左目用映像を別々に表示させ、視聴者の右目および左目のそれぞれの目のみで視聴させることによって、3次元映像の視聴を実現することができる。
【0003】
ところで、右目用映像および左目用映像をそのまま視聴者に見せた場合、当然のことながら、視聴者の両方の目に両方の映像が映ってしまうことになる。このため、右目用映像および左目用映像を、視聴者がそれぞれ別の目で別々に見ることができるように、視聴者の右目および左目の前に電気的な操作によって開閉する液晶シャッターをそれぞれの目の前に配置する、液晶シャッター眼鏡と、その液晶シャッター眼鏡を用いた3次元映像表示システムが提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0004】
この3次元映像表示システムでは、一定の周期で右目用映像と左目用映像とが画面上に交互に切り替わりながら表示される。視聴者が装着している液晶シャッター眼鏡は、右目用映像と左目用映像との切り替わりのタイミングと同期して、その右目用液晶シャッターと左目用液晶シャッターの各々を、光透過状態と光遮断状態とに交互に切り替える。
【0005】
視聴者は、このような液晶シャッター眼鏡を通して右目用映像および左目用映像をそれぞれ別の目で別々に見ることによって、それらの映像を基に立体視を行なうことが可能となる。
【0006】
このような液晶シャッター眼鏡の右目用液晶シャッターおよび左目用液晶シャッターは、たとえば、図12に示す液晶シャッター100を用いることができる。図12に示すように、この液晶シャッター100では、偏光板101と、透明電極102と、液晶層103と、透明電極104と、偏光板105と、がこの順に配置されている。
【0007】
この液晶シャッター100では、透明電極102と透明電極104との間に、電源107からの電圧を印加することによって、液晶層103の液晶分子の配列方向を変化させる。たとえば、電源スイッチ106がオン(On)するとき、液晶層103の液晶分子の配列方向が変化し、光111aは、偏光板101、透明電極102、液晶層103、透明電極104を通過した後、偏光板105によって遮断される。この場合、光111aは、視聴者の目112には到達しない。つまり、このとき、この液晶シャッター100は光遮断状態にある。
【0008】
一方、電源スイッチ106がオフ(Off)するとき、液晶層103の液晶分子の配列方向は変化せず、光111bは、偏光板101、透明電極102、液晶層103、透明電極104、偏光板105を、この順で透過し、視聴者の目112に到達する。つまり、このとき、この液晶シャッター100は光透過状態にある。
【0009】
この液晶シャッター100のような、電圧を印加しないときに光透過状態となる液晶シャッターは「ノーマリホワイト」と呼ばれている。なお、この液晶シャッター100とは逆に、電圧を印加しないときに光遮断状態となる液晶シャッターは「ノーマリブラック」と呼ばれている。
【0010】
ここで、液晶シャッター100の光透過/遮断動作について説明する。
【0011】
液晶層103の液晶分子は、上で述べたように、透明電極102と透明電極104との間の電圧印加によって、その配列方向を変化させる。液晶層103は、この液晶分子の配列方向の変化によって、自身を通過する光の偏光方向を変化させることができる。
【0012】
一方、偏光板101および偏光板105は、お互いに直角(90度)ずれた偏光方向を持っている。偏光板101を通過した光は、その偏光方向が偏光板105の偏光方向と一致しない限り、偏光板105によって完全に遮断される。
【0013】
たとえば、液晶層103は、電圧が印加されないとき自身を通過する光の偏光方向を変化させる一方、電圧が印加されたとき自身を通過する光の偏光方向を変化させないものとする。
【0014】
この場合、電源スイッチ106がオンし、液晶層103に電圧が印加されると、液晶層103を通過した光111aは、その偏光方向を変化させることなく、偏光板105に到達する。偏光板101を通過した光111aの偏光方向は、偏光板101の偏光方向に一致している。このため、光111aの偏光方向と偏光板105の偏光方向とは直角にずれることになり、その結果、光111aは偏光板105によって遮断される。
【0015】
一方、電源スイッチ106がオフし、液晶層103に電圧が印加されないと、液晶層103を通過した光111bは、液晶層103によってその偏光方向を変化させる。たとえば、液晶層103の液晶分子の配列方向に沿って、光111bの偏光方向が直角に変化したとする。このとき、光111bの偏光方向と偏光板105の偏光方向とが一致し、その結果、光111bは偏光板105を通過する。
【0016】
また、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)に電圧を印加すると、PLZTの複屈折が変化する現象を利用し、そのPLZTと上で述べたような2枚の偏光板とを組み合わせた光シャッターも提案されている(たとえば、特許文献2を参照)。
【0017】
この光シャッターは、上で述べたような液晶シャッター100の液晶層103に代えて、PLZTを利用したものである。PLZTは電気的に光学的性能、つまり、複屈折率の変化を制御することができる。このような光シャッターにおいても、液晶シャッター100と同様、電圧印加による光透過状態と光遮断状態との切り替えを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平11−95186号公報(平成11年4月9日公開)
【特許文献2】特開平6−250134号公報(平成6年9月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
視聴者が視聴する画面上に表示される映像には、さまざまな方向に偏光する光が混在しているのが通常である。
【0020】
しかしながら、上で述べたような液晶シャッター100や光シャッターでは、特定の偏光方向のみを通過させる偏光板を用いて、画面上に表示される映像をつくっているさまざまな方向の光のうち、その特定方向のみに偏光した光を抽出する必要がある。
【0021】
このため、視聴者の目に到達する光は、画面上に表示される映像全体の光よりも弱くなり、その映像は暗いものとなってしまう。この場合、画面上における照度を高くし、映像の光を強くする必要があるが、そのことは光源が消費する電力の増大を招くといった課題があった。
【0022】
さらに、画面上の光を強くした場合、当然のことながら、光源からの発熱も増大する。この場合、光源をできるだけ発熱の少ない高価なものにしなければならなくなったり、光源からの発熱を冷却する冷却装置が必要になったりし、3次元映像システム全体としての製造コストを増大させてしまうといった課題もあった。
【0023】
また、液晶シャッター100では、液晶層103を封入するためのシーリング処理が、光シャッタでは、PLZTの両面に櫛型の透明電極を形成する処理が、それぞれ必要である。これらの処理は、非常に多くの製造工程を要するものであり、それらシャッターを用いた液晶シャッター眼鏡や光シャッター眼鏡の製造コストの増大を招くおそれがあるといった課題もあった。
【0024】
特に、映画界においては、液晶シャッター眼鏡や光シャッター眼鏡の製造コストの増大は、その価格の上昇を招くことから、非常に憂慮すべき事柄である。大勢の観客にこのような眼鏡を配布することになるが、その価格が高くなればなるほど、観客からの眼鏡の回収を確実に行なう必要性が高まるからである。このことは、映画を上映する上映館にとっては人件費の高騰を招くことにつながるおそれがある。
【0025】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、消費電力および製造コストを低減することができる表示状態変更用眼鏡および表示状態変更用眼鏡対応の表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、本発明に係る表示状態変更用眼鏡は、表示装置に表示される映像を視聴者に対し、当該映像を表示状態と非表示状態とに切り替えることが可能な左目用レンズおよび右目用レンズを有する表示状態変更用眼鏡であって、上記左目用レンズおよび右目用レンズは、それぞれ、透明基板と、当該透明基板上に配置された、シャッター機能膜を含むシャッター機能層と、を備え、上記シャッター機能膜の光学定数は、上記シャッター機能膜への電圧印加の有無に起因して変動し、当該光学定数の変動に応じて、上記シャッター機能膜は、上記シャッター機能膜に入射される光を透過する状態と、当該光を遮断する状態とに切り替わる。
【0027】
左目用レンズおよび右目用レンズのそれぞれのシャッター機能膜は、電圧が印加されたときに、たとえば光の吸収係数や屈折率といった光学定数が変動する特性を有している。シャッター機能膜は、この光学定数の変動によって、自身に入射される光を透過する状態と、その入射光を遮断する状態とを、実現し、切り替えることができる。
【0028】
上記の表示状態変更用眼鏡では、このようなシャッター機能膜の特性を利用し、電圧を印加したりしなかったりすることにより、シャッター機能膜の光学定数を意図的に変動させ、そうすることにより、左目用レンズおよび右目用レンズのそれぞれを光透過状態と光遮断状態とで切り替えることができる。
【0029】
このため、従来の液晶シャッターや光シャッターのように、光透過状態と光遮断状態とを切り替えるために必要であった偏光板を不要とすることができる。偏光板は、表示装置に表示される映像の光を弱めるものであり、偏光板を利用する場合、表示装置の照度を向上させる必要があった。上記の表示状態変更用眼鏡では、このような偏光板を不要となるため、表示装置の照度を従来よりも低下させることができるので、表示装置の光源の消費電力を低減することができる。
【0030】
また、表示装置の光源を冷却する冷却装置も簡素化できるので、表示装置の製造コストを削減することができる。
【0031】
さらに、表示状態変更用眼鏡自体の部品数も減らすことができるので、表示状態変更用眼鏡の製造コストも削減することができる。
【0032】
なお、本明細書における遮断あるいは遮蔽は、物理的に光を透過させないことばかりでなく、実質的に映像の認識を不可にすることも意味する。
【0033】
上記シャッター機能層を複数備えることが好ましい。
【0034】
この場合、シャッター機能層を多層化することにより、電圧を印加するときと印加しないときで、より大きな光の透過率の変動幅が生じる。
【0035】
このため、視聴者は、シャッター機能層が光遮断状態にあるとき、映像を認識することは実質不可とすることができる。
【0036】
上記透明基板の上記シャッター機能層側の主面は、凹凸形状を有することが好ましい。
【0037】
この場合、透明基板の凹凸形状がシャッター機能膜に反映され、シャッター機能層に入射する光がその凹凸形状によって乱反射する。
【0038】
このため、シャッター機能膜が光遮断状態にあるときにおける、光の遮蔽率を向上させることができる。
【0039】
上記シャッター機能膜は、酸化タングステンまたは酸化亜鉛からなることが好ましい。
【0040】
この場合、シャッター機能膜に酸化タングステンまたは酸化亜鉛を用いることにより、上記の効果を実現することができる。
【0041】
上記シャッター機能層は、上記シャッター機能膜を挟むようにして配置された、2つの透明電極膜をさらに含むことが好ましい。
【0042】
この場合、簡素な構成によってシャッター機能膜に電圧を印加することができる。
【0043】
本発明に係る表示装置は、上記表示状態変更用眼鏡を着用する視聴者に対し、上記左目用レンズが表示状態で、且つ、上記右目用レンズが非表示状態であるときに、視聴者の左目用映像を表示すると共に、上記左目用レンズが非表示状態で、且つ、上記右目用レンズが表示状態であるときに、視聴者の右目用映像を表示する。
【0044】
上記の表示装置では、上記の表示状態変更用眼鏡を用いることにより、照度を従来よりも低下させることができるので、光源の消費電力を低減することができる。
【0045】
また、光源を冷却する冷却装置も簡素化できるので、表示装置の製造コストを削減することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る表示状態変更用眼鏡は、表示装置に表示される映像を視聴者に対し、当該映像を表示状態と非表示状態とに切り替えることが可能な左目用レンズおよび右目用レンズを有する表示状態変更用眼鏡であって、上記左目用レンズおよび右目用レンズは、それぞれ、透明基板と、当該透明基板上に配置された、シャッター機能膜を含むシャッター機能層と、を備え、上記シャッター機能膜の光学定数は、上記シャッター機能膜への電圧印加の有無に起因して変動し、当該光学定数の変動に応じて、上記シャッター機能膜は、上記シャッター機能膜に入射される光を透過する状態と、当該光を遮断する状態とに切り替わる。
【0047】
それゆえ、消費電力および製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る映像用眼鏡の外観を示す斜視図である。
【図2】上記映像用眼鏡の左側フレームの外観を示す側面図である。
【図3】上記映像用眼鏡の右側フレームの外観を示す側面図である。
【図4】上記映像用眼鏡の概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る映像表示装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】上記映像用眼鏡の左目用レンズおよび右目用レンズのレンズ構造を示す断面図である。
【図7】上記レンズ構造の薄膜層部の概略構成を示す断面図である(光透過状態)。
【図8】上記レンズ構造の薄膜層部の概略構成を示す断面図である(光遮断状態)。
【図9】上記薄膜層部の一変形例の概略構成を示す断面図である。
【図10】上記薄膜層部の一変形例の概略構成を示す断面図である。
【図11】上記薄膜層部のシャッター機能膜の透過率特性を示すグラフ図である。
【図12】従来の液晶シャッターの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の一実施形態について図1〜図11に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0050】
(映像用眼鏡10)
図1は、本発明の一実施形態に係る映像用眼鏡(表示状態変更用眼鏡)10の外観を示す斜視図である。図2は、左側フレーム12の外観を示す側面図である。図3は、右側フレーム13の外観を示す側面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る映像用眼鏡10は、正面フレーム11と、左側フレーム12と、右側フレーム13と、左目用レンズ14aと、右目用レンズ14bと、通信装置15と、制御装置18と、電源装置19と、切替装置20と、を備えている。
【0051】
正面フレーム11は、その左側の端部において左側フレーム12と連結する一方、その右側の端部において右側フレーム13と連結している。正面フレーム11と左側フレーム12との連結、および、正面フレーム11と右側フレーム13との連結には、たとえば、ヒンジ構造を用いることができる。それぞれの連結にヒンジ構造を用いることによって、左側フレーム12および右側フレーム13は、正面フレーム11に対して折り畳むことが可能となる。
【0052】
正面フレーム11、左側フレーム12および右側フレーム13は、一体となって、映像用眼鏡10のフレームを構成している。正面フレーム11は、視聴者の鼻の上部に配置され、その位置が固定される。左側フレーム12は、視聴者の左耳の上部に配置され、その位置が固定される。右側フレーム13は、視聴者の右耳の上部に配置され、その位置が固定される。
【0053】
正面フレーム11、左側フレーム12および右側フレーム13の材料は、たとえば、公知の眼鏡に好適な金属、プラスチック等を用いることができる。映像用眼鏡10を着用する視聴者の快適さの観点からは、重量の軽い材料が好ましい。
【0054】
左目用レンズ14aは、正面フレーム11の左側開口部に嵌め込まれている。同様に、右目用レンズ14bは、正面フレーム11の右側開口部に嵌め込まれている。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは共に、後述するレンズ構造を有している。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、そのレンズ構造を有することによって、それぞれに入射される光を、電圧印加の有無に応じて、透過したり、遮断したりすることが可能となっている。すなわち、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、電圧印加の有無によって、2つの状態、すなわち、光を透過する状態(以下、「光透過状態(表示状態)」と呼ぶ)と、光を遮断する状態(以下、「光遮断状態(非表示状態)」と呼ぶ)と、の間を遷移するシャッター機能を有するものである。以下、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bに印加される電圧を「レンズ電圧」と呼ぶ。
【0055】
左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、切替装置20と電気的に接続されており、切替装置20を介して、上で述べた電圧がそれぞれに印加されることになる。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれと、切替装置20とを電気的に接続する金属配線は、切替装置20が正面フレーム11の内部に設けられた場合であれば、正面フレーム11の内部に埋め込んでおけばよい。正面フレーム11の外側から見られることが無くなり、映像用眼鏡10の美観を損なうことが無くなる。もちろん、そのような金属配線は、正面フレーム11の表面に設けても構わない。この場合、正面フレーム11を成型する際の手間を省くことができる。正面フレーム11の成型の後に、金属配線を配置することができるからである。
【0056】
通信装置15は、視聴者が映像用眼鏡10を着用しつつ、視聴する映像を表示する映像表示装置(表示装置)との間におけるデータや情報等のやり取りを行なうためのものである。通信装置15は、たとえば、無線通信や有線通信を用いることによって、映像表示装置との間における、双方向のやり取りを実現する。
【0057】
通信装置15は、正面フレーム11における、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれが埋め込まれた2つの開口部に挟まれた位置に設けられている。この位置は、視聴者が映像表示装置に映し出される映像に視線を向けるとき、常時、映像表示装置と対向する。たとえば、通信装置15が映像表示装置と無線通信を行なう場合であれば、通信装置15がこの位置に設けられることによって、通信装置15と映像表示装置との間の無線通信を良好に行なうことができる。視聴者から映像表示装置へ視線を向けたとき、両者の間に無線通信の障害となるような物体が存在しないと考えられるからである。
【0058】
通信装置15は、電源装置19と電気的に接続されており、電源装置19から供給される電源電圧を用いて、上で述べような処理を実行する。通信装置15と、電源装置19とを電気的に接続する金属配線は、電源装置19が左側フレーム12の内部に設けられた場合であれば、正面フレーム11および左側フレーム12の各内部に埋め込んでおけばよい。正面フレーム11や左側フレーム12の外側から金属配線が見られることが無くなり、映像用眼鏡10の美観を損なうことが無くなる。もちろん、そのような金属配線は、正面フレーム11や左側フレーム12の表面に設けても構わない。この場合、正面フレーム11や左側フレーム12を成型する際の手間を省くことができる。正面フレーム11や左側フレーム12の成型の後に、金属配線を配置することができるからである。
【0059】
制御装置18は、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれにおける、上で述べたシャッター機能を制御するものである。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、それぞれ、自身に入射される光を透過する光透過状態と、その光を遮断する光遮断状態との間において遷移する、シャッター機能を有している。このシャッター機能は、電圧印加の有無によって、制御されるものであり、制御装置18はまさに、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれに対する、上記電圧印加の有無を制御するものである。
【0060】
制御装置18は、映像表示装置からの指示に従って、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれに対する電圧印加の有無の切り替えを制御する。たとえば、映像表示装置は、視聴者が自身の左目で見るべき左目用映像を表示するとき、左目用レンズ14aが光透過状態となり、右目用レンズ14bが光遮断状態となるよう、制御装置18に指示する。一方、映像表示装置は、視聴者が自身の右目で見るべき右目用映像を表示するとき、右目用レンズ14bが光透過状態となり、左目用レンズ14aが光遮断状態となるよう、制御装置18に指示することになる。
【0061】
具体的には、制御装置18は、通信装置15を用いて、映像表示装置から送信される、レンズ状態変更信号を受信する。このレンズ状態変更信号は、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれについて、光透過状態とするタイミング、および、光遮断状態とするタイミングを規定する信号である。制御装置18は、このレンズ状態変更信号を基に、上で述べたような、左目用レンズ14aにおける光透過状態と光遮断状態との切り替えと、右目用レンズ14bにおける光透過状態と光遮断状態との切り替えとが実現されるよう、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれへの電圧印加の有無を制御する。
【0062】
レンズ状態変更信号は、たとえば、左目用レンズ14aのための第1の信号と、右目用レンズ14bのための第2の信号と、から構成されていてもよい。この場合、たとえば、第1の信号がハイレベルの期間を左目用レンズ14aに電圧を印加する期間とし、第1の信号がロウレベルの期間を左目用レンズ14aに電圧を印加しない期間とすればよい。そして、第1の信号がハイレベルからロウレベルへ、および、ロウレベルからハイレベルへ、それぞれ遷移するタイミングにおいて、左目用レンズ14aへの電圧印加の有無を切り替えればよい。
【0063】
同様に、第2の信号がハイレベルの期間を右目用レンズ14bに電圧を印加する期間とし、第2の信号がロウレベルの期間を右目用レンズ14bに電圧を印加しない期間とすればよい。そして、第2の信号がハイレベルからロウレベルへ、および、ロウレベルからハイレベルへ、それぞれ遷移するタイミングにおいて、右目用レンズ14bへの電圧印加の有無を切り替えればよい。
【0064】
もちろん、第1の信号および第2の信号のそれぞれのハイレベル期間およびロウレベル期間は、映像表示装置が表示する映像が左目用映像である期間と、映像表示装置が表示する映像が右目用映像である期間とに応じて決定されることはいうまでもない。たとえば、映像表示装置が左目用映像を表示する期間であれば、左目用レンズ14aが光透過状態となり、右目用レンズ14bが光遮断状態となるように、第1の信号および第2の信号のいずれか一方をハイレベル期間とし、他方をロウレベル期間とするがの如くである。
【0065】
このようにして制御装置18は、右目用映像および左目用映像を、視聴者がそれぞれ別の目で別々に見ることができるように、映像表示装置が表示する右目用映像と左目用映像との切り替わりのタイミングと同期して、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bの各々を、光透過状態と光遮断状態とに交互に切り替える。
【0066】
制御装置18は、右側フレーム13に設けられている。後述するように、電源装置19は左側フレーム12に設けられており、制御装置18と電源装置19とはバランスよく左右に分かれて設けられている。この場合、映像用眼鏡10を着用する視聴者にしてみれば、左側フレーム12と右側フレーム13とにバランスよく重量がかかり、視聴者は、映像用眼鏡10を安定的に着用することが可能となる。また、いずれか一方の耳のみに重量が大きくかかることは無くなるので、視聴者は映像用眼鏡10を長く着用しても、その着用による耳の痛みが出ることを少なくなる。もちろん、制御装置18と電源装置19とが、左側フレーム12および右側フレーム13の一方のみに設けられていても構わない。
【0067】
制御装置18は、電源装置19と電気的に接続されており、電源装置19から供給される電源電圧を用いて、上で述べような処理を実行する。制御装置18と、電源装置19とを電気的に接続する金属配線は、電源装置19が左側フレーム12の内部に設けられた場合であれば、左側フレーム12、正面フレーム11および右側フレーム13の各内部に埋め込んでおけばよい。左側フレーム12や正面フレーム11、右側フレーム13の外側から金属配線が見られることが無くなり、映像用眼鏡10の美観を損なうことが無くなる。もちろん、そのような金属配線は、左側フレーム12や正面フレーム11、右側フレーム13の表面に設けても構わない。この場合、左側フレーム12や正面フレーム11、右側フレーム13を成型する際の手間を省くことができる。左側フレーム12や正面フレーム11、右側フレーム13の成型の後に、金属配線を配置することができるからである。
【0068】
また、制御装置18は、通信装置15および切替装置20と通信可能となるように接続されている。制御装置18と、通信装置15と、切替装置20とをお互いに結び合う通信回線についても、正面フレーム11および右側フレーム13の各内部に埋め込んでおいてもよいし、正面フレーム11および右側フレーム13の表面に設けても構わない。それぞれの設け方の効果は、上記金属配線の場合と同様である。
【0069】
制御装置18は、たとえば、各種プログラムの命令を処理するCPU(図示省略)と、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bへの電圧印加の有無を制御するためのプログラム等が格納されているROM(図示省略)と、一時記憶のデータを格納するRAM(図示省略)と、を用いればよい。
【0070】
電源装置19は、左側フレーム12に設けられており、通信装置15、制御装置18および切替装置20のそれぞれに電源電圧を供給するものである。電源装置19は、たとえば、DC電源部16と、AC電源部17とを備えていればよい。DC電源部16は、小型のボタン電池等のバッテリーを用いることができる。AC電源部17は、家庭等に供給されているAC電源に電源ケーブルを介して接続される。電源装置19は、DC電源部16およびAC電源部17を備えることによって、映像用眼鏡10における電源供給の汎用性を高め、映像用眼鏡10を利用する視聴者の利便性を向上させている。もちろん、電源装置19は、DC電源部16およびAC電源部17のいずれか一方のみを備えるものであってももちろん構わない。いずれか一方のみとすることにより、映像用眼鏡10を軽量化できるというメリットがある。
【0071】
切替装置20は、上で述べたように、電源装置19と電気的に接続され、電源電圧の供給を受けている。切替装置20は、電源装置19から供給される電源電圧を基に、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれに印加するレンズ電圧を生成し、それぞれに印加する。
【0072】
切替装置20は、上で述べたように、制御装置18と接続されており、制御装置18から左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bへの各レンズ電圧の印加の有無に関し、指示を受ける。たとえば、制御装置18は、映像表示装置からレンズ状態変更信号を受け取ると、そのレンズ状態変更信号を基に切替装置20に上記指示を行なう。
【0073】
具体的には、制御装置18は、レンズ状態変更信号を基に、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれへの、各レンズ電圧を印加する期間(以下、「レンズ電圧印加期間」と呼ぶ)および各レンズ電圧を印加しない期間(以下、「レンズ電圧印加停止期間」と呼ぶ)を表わすレンズ電圧印加信号を生成し、そのレンズ電圧印加信号を切替装置20に出力すればよい。
【0074】
ここで、レンズ電圧印加信号は、レンズ状態変更信号と同様、たとえば、左目用レンズ14aのための第1の信号と、右目用レンズ14bのための第2の信号と、から構成されていてもよい。この場合、たとえば、第1の信号がハイレベルの期間を左目用レンズ14aに電圧を印加する期間とし、第1の信号がロウレベルの期間を左目用レンズ14aに電圧を印加しない期間とすればよい。そして、第1の信号がハイレベルからロウレベルへ、および、ロウレベルからハイレベルへ、それぞれ遷移するタイミングにおいて、左目用レンズ14aへの電圧印加の有無を切り替えればよい。
【0075】
同様に、第2の信号がハイレベルの期間を右目用レンズ14bに電圧を印加する期間とし、第2の信号がロウレベルの期間を右目用レンズ14bに電圧を印加しない期間とすればよい。そして、第2の信号がハイレベルからロウレベルへ、および、ロウレベルからハイレベルへ、それぞれ遷移するタイミングにおいて、右目用レンズ14bへの電圧印加の有無を切り替えればよい。
【0076】
切替装置20は、制御装置18からレンズ電圧印加信号を受け取ると、そのレンズ電圧印加信号を基に、左目用レンズ14aのレンズ電圧印加期間においては左目用レンズ14aにレンズ電圧を印加し、左目用レンズ14aのレンズ電圧印加停止期間においては左目用レンズ14aにレンズ電圧を印加しなければよい。同様に、切替装置20は、右目用レンズ14bのレンズ電圧印加期間においては右目用レンズ14bにレンズ電圧を印加し、右目用レンズ14bのレンズ電圧印加停止期間においては右目用レンズ14bにレンズ電圧を印加しなければよい。
【0077】
切替装置20は、正面フレーム11における、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれが埋め込まれた2つの開口部に挟まれた位置の上方に設けられている。この位置は、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのいずれにも近い距離である。このため、切替装置20から左目用レンズ14aにレンズ電圧を供給する金属配線および、切替装置20から右目用レンズ14bにレンズ電圧を供給する金属配線のそれぞれの長さを短くすることができる。金属配線の短縮化はレンズ電圧の供給効率を向上させることから、切替装置20による消費電力の低減化が図られる。
【0078】
切替装置20は、このような処理を、電源装置19から供給される電源電圧を用いて実行する。
【0079】
図4に、上述した左目用レンズ14a、右目用レンズ14b、通信装置15、制御装置18、電源装置19および切替装置20のそれぞれの間における接続関係を示す。図4に示すように、電源装置19は、金属配線21を介して、通信装置15、制御装置18および切替装置20のそれぞれと接続されている。電源装置19は、DC電源部16やAC電源部17からの電源電圧を金属配線21を介して通信装置15、制御装置18および切替装置20のそれぞれに供給する。
【0080】
また、通信装置15、制御装置18および切替装置20は、お互いに通信回線22を介して接続されており、情報やデータのやり取りが可能となっている。たとえば、通信装置15は、映像表示装置から送信されて来るレンズ状態変更信号を通信装置15が受信すると、通信回線22を介してそのレンズ状態変更信号を制御装置18に出力すればよい。制御装置18は、通信装置15からレンズ状態変更信号を受け取ると、そのレンズ状態変更信号を基に、レンズ電圧印加信号を生成し、通信回線22を介してそのレンズ電圧印加信号を切替装置20に出力すればよい。
【0081】
切替装置20は、金属配線21を介して、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bのそれぞれと接続されている。切替装置20は、制御装置18から受け取るレンズ電圧印加信号を基にして、左目用レンズ14aへのレンズ電圧の印加の有無、および、右目用レンズ14bへのレンズ電圧の印加の有無を、それぞれ切り替えることができる。
【0082】
(映像表示装置50)
図5は、映像表示装置(表示装置)50の概略構成を示すブロック図である。映像表示装置50は、視聴者が映像用眼鏡10を着用しながら視聴する映像を表示する映像表示装置である。映像表示装置50は、3次元映像専用である、右目用映像および左目用映像を別々に表示させ、映像用眼鏡10を着用する視聴者の右目および左目のそれぞれの目のみで視聴させることによって、3次元映像の視聴を実現するものである。
【0083】
映像表示装置50は、図5に示すように、映像表示装置50は、各種プログラムの命令を処理するCPU51と、映像表示装置50の制御プログラムなどが格納されているROM52と、CPU51が行なう演算の途中結果等を一時的に記憶する、高速に書き込み読み出しが可能なRAM53と、記録再生装置61との通信を行なうI/F装置54と、映像用眼鏡10との通信を行なう通信装置55と、映像用眼鏡10を着用する視聴者からの各種指示が入力される入力装置56と、HDD57と、表示条件DB58と、ディスプレイ装置59と、これら各部間を互いに接続するバス60と、を有している。
【0084】
CPU51は、ROM52に格納されているプログラム、または、HDD57に格納されているプログラムか、RAM53に格納されたプログラムに従って各種の処理を実施する。また、CPU51は、RAM53による各処理に必要なデータを一時記憶する。CPU51は、映像表示装置50全体の制御を行なう。
【0085】
I/F装置54は、記録再生装置61と接続するためのI/Fである。I/F装置54は、CPU51によって制御されている。たとえば、記録再生装置61は、自身に挿入された情報記録媒体に記録されている情報を再生するためのものである。情報記録媒体には複数の右目用映像情報および左目用映像情報が記録されており、記録再生装置61は、それら右目用映像情報および左目用映像情報を再生し、上で述べた右目用映像および左目用映像を映像表示装置50に出力する。I/F装置54は、記録再生装置61から出力されて来る右目用映像および左目用映像を受け取り、たとえば、HDD57に記憶すればよい。
【0086】
通信装置55は、視聴者が着用する映像用眼鏡10との間におけるデータや情報等のやり取りを行なうためのものである。通信装置55は、たとえば、無線通信や有線通信を用いることによって、映像用眼鏡10との間における、双方向のやり取りを実現する。
【0087】
入力装置56は、例えば、テンキー、キーボード等を備え、視聴者からの各種の指示やデータなどが入力される。入力装置56は、視聴者によって入力された各指示やデータをRAM53やHDD57に格納する。
【0088】
HDD57は、磁気メモリなどで構成され、例えば、CPU51による各種の処理に必要なプログラム群であるソフトウェアを格納する。なお、CPU51による各種の処理のソフトウェアを構成するプログラムは、あらかじめコンピュータに専用のハードウェアで組み込んでもよいし、ROM52やHDD57にあらかじめ組み込んで提供してもよい。また、HDD57は、記録再生装置61から出力されて来る右目用映像および左目用映像を記憶することができる。
【0089】
表示条件DBは、映像表示装置50が記録再生装置61から受け取った右目用映像および左目用映像をディスプレイ装置59に表示する際における、その表示条件を予め記憶する。表示条件は、たとえば、右目用映像および左目用映像をディスプレイ装置59に表示するときの照度が挙げられる。たとえば、映像表示装置50が映像用眼鏡10の種類によって異なる照度設定が必要となる場合、映像用眼鏡10の種類に応じてディスプレイ装置59の照度を調節することができるよう、その種類ごとの照度を表示条件として記憶しておけばよい。そうすることによって、不必要に照度を上げることがなくなり、ディスプレイ装置59の光源の消費電力を低減することができる。
【0090】
同様に、視聴者が映像用眼鏡10を着用せずに、2次元映像を視聴する場合、3次元映像を視聴する場合と比較して、ディスプレイ装置59の照度を低下させることができる。2次元映像を表示するときの照度を表示条件として記憶しておくことにより、視聴者が2次元映像を視聴するときに不必要に照度が高くなることがない。したがって、ディスプレイ装置59の光源の消費電力を低減することができる。
【0091】
ディスプレイ装置59は、各種情報(データ)を出力するものであり、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、またはCRT(cathode-ray tube)ディスプレイ等を用いることができる。ディスプレイ装置59は、HDD57に記憶された右目用映像および左目用映像を表示する。
【0092】
次に、映像表示装置50の動作について説明する。入力装置56を介して3次元映像の表示指示が入力されると、CPU51は、HDD57に記憶されている右目用映像および左目用映像をディスプレイ装置59に表示する。CPU51は、ディスプレイ装置59による右目用映像と左目用映像との切り替わりのタイミングと同期する、上で述べたレンズ状態変更信号を生成する。CPU51は、通信装置55を介して、そのレンズ状態変更信号を映像用眼鏡10に送信する。
【0093】
CPU51は、入力装置56を介して映像用眼鏡10の種類が入力されると、その種類に応じた照度をディスプレイ装置59に設定する。CPU51は、その照度設定の際、表示条件DBを参照し、映像用眼鏡10の種類に適した照度を表示条件DBに予め記憶されている表示条件を基に決定する。
【0094】
映像用眼鏡10の種類は、入力装置56を用いて視聴者が入力してもよいし、通信装置55を用いて映像用眼鏡10の種類を特定するようにしてもよい。たとえば、CPU51は、映像用眼鏡10に対し、自身の種類を表わす符合を要求すればよい。映像用眼鏡10は、映像表示装置50からその要求を受け取った場合、自身に予め与えられている上記符号を、映像表示装置50に送信するようにすればよい。そうすることにより、視聴者の手間を省くことができる。
【0095】
(左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14b)
図6は、左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bを構成するレンズ構造70を示す断面図である。図6に示すように、レンズ構造10は、映像表示装置50が表示する映像の光が入射される側から順に配置された、透明基板71と、薄膜層部(シャッター機能層)72と、保護樹脂層73と、を有している。
【0096】
透明基板71は、たとえば、ガラス等を用いることができる。透明基板71は、映像表示装置50が表示する映像の光をそのまま透過し、薄膜層部72に入射させる。また、透明基板71は、薄膜層部72の強度を補強し、薄膜層部72が歪んだり、割れてしまったりすることを防止している。左目用レンズ14aおよび右目用レンズ14bは、この透明基板71の強度によって、そのレンズ形状を保つことができる。
【0097】
薄膜層部72は、上で述べたように、レンズ電圧の印加の有無によって、光透過状態と光遮断状態との間を遷移する。薄膜層部72は、後述するように、多数の薄膜層の積層構造を有している。各薄膜層は、強度的に脆く、そのため、上述したように、透明基板71による強度の補強が必要となる。
【0098】
保護樹脂層73は、視聴者の目に対向する層である。保護樹脂層73は、薄膜層部72が透明基板71から剥がれ落ちることを防止すると共に、薄膜層部72に含まれる不純物等が視聴者の目に入り込むことを防止する。保護樹脂層73は、たとえば、樹脂等を用いることができる。なお、透明基板71が目に対向する構造であっても良い。
【0099】
(薄膜層部72)
図7および図8は、薄膜層部72の概略構成を示す断面図である。特に、図7は、薄膜層部72が光透過状態にあるときを示し、図8は、薄膜層部72が光遮断状態にあるときを示している。
【0100】
図7および図8に示すように、薄膜層部72は、映像表示装置50が表示する映像の光が入射される側から順に配置された、透明電極膜72aと、電解質膜72bと、シャッター機能膜72cと、透明電極膜72dと、を有している。
【0101】
透明電極膜72aおよび透明電極膜72dはそれぞれ、たとえば、ITO膜を用いることができる。透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間には、上述したレンズ電圧が印加可能となっている。
【0102】
なお、図7および図8においては、切替装置20の機能を説明するために、レンズ電圧を供給するレンズ電圧電源81が、電源スイッチ82を介して、透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間に接続されている。ここでは、電源スイッチ82が制御装置18から出力されるレンズ電圧印加信号に基づき、電源スイッチ82がオン(On)またはオフ(Off)することによって、レンズ電圧が透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間に印加されるものとする。切替装置20は、このようなレンズ電圧電源81および電源スイッチ82の機能を備えるものであるということができる。
【0103】
電解質膜72bは、たとえば、Ta膜を用いることができる。
【0104】
シャッター機能膜72cは、たとえば、WO(酸化タングステン)膜を用いることができる。WO膜は、透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間にレンズ電圧が印加されると、可視光領域(400〜800nm)における吸収係数(光学定数)が増加する、言い換えると、可視光領域における透過率が低下する。たとえば、図11に示すように、レンズ電圧を5Vとした場合、レンズ電圧を印加しないとき(電圧ゼロ)には80%程度の透過率が、レンズ電圧を印加したとき(電圧印加)には40%程度にまで低下する。
【0105】
シャッター機能膜72cは、このようなWO膜の特性を利用することにより、上で述べた光透過状態と光遮断状態とを実現し、切り替えることができる。具体的には、レンズ電圧を印加の印加の有無によって、シャッター機能膜72cの吸収係数を増減させる。レンズ電圧を印加せずに、吸収係数を小さくすることによって、光透過状態を実現し、一方、レンズ電圧を印加し、吸収係数を大きくすることによって、光遮断状態を実現する。
【0106】
たとえば、図7においては、電源スイッチ82がオフし、透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間にはレンズ電圧は印加されていない。この場合、シャッター機能膜72cは光透過状態となり、映像の光はシャッター機能膜72cを透過し、視聴者の目91に到達する。
【0107】
一方、図8においては、電源スイッチ82がオンし、透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間にレンズ電圧が印加される。この場合、シャッター機能膜72cは光遮断状態となり、映像の光はシャッター機能膜72cを透過することができず、視聴者の目91には届くことがない。
【0108】
このようにしてシャッター機能膜72cは、自身の吸収係数の変化により、光透過状態と光遮断状態とを作り出すことができる。したがって、従来の液晶シャッター100や光シャッターのように、光の偏光させる偏光板が不要となり、視聴者の目に届く光が暗くなるといった従来の課題が解消されることになる。
【0109】
シャッター機能膜72cとしては、透過率の高い上記WO膜(透過率T=80%以上)の他、ZnO(酸化亜鉛)膜(透過率T=80%以上)等の酸化金属を用いることができる。
【0110】
(薄膜層部72の変形例1)
図9は、薄膜層部72の変形例1の概略構成を示す断面図である。図9に示すように、この変形例1は、図7および図8に示した薄膜層部72と同一の層を第1層目から第n層目まで、順に積層させたものである。
【0111】
この変形例1では、各層の間に、各層を電気的に絶縁し、分離するための分離層83が配置されている。隣接し合う2つの層の透明電極膜72aと透明電極膜72dとが電気的に接触してしまうことを防止するためのである。たとえば、第1層目の透明電極膜72dと第2層目の透明電極膜72aとの電気的接触を防止するための如くである。
【0112】
薄膜層部72を多層化することにより、レンズ電圧を印加するときと印加しないときで、より大きな透過率の変動幅が生じる。この場合、視聴者は、薄膜層部72が光遮断状態にあるとき、映像を認識することは実質不可となる。
【0113】
この変形例1では、たとえば、従来の液晶シャッター100と比較すると、透過性能の低い偏光板や、液晶注入や、シーリング処理等が不要であり、且つ、光透過状態における透過率が高い(従来:15%→変形例1:33%(WO膜が5層時))。したがって、低コストの光シャッター眼鏡を提供できる。
【0114】
また、分離層83は必ずしも必要でなく、分離層83の代わりにシャッター機能膜72c、電解質膜72bが積層されていても良く、その場合更にコストを削減できる。
【0115】
なお、上記の構造は層番号で具体的に表現すると「・・・72a,72b,72c,72d,72c,72b,72a,72b,72c,72d・・・」である。
【0116】
(薄膜層部72の変形例2)
図10は、薄膜層部72の変形例2の概略構成を示す断面図である。図10に示すように、この変形例2は、図6に示した透明基板71に予め凹凸を形成しておき、そうすることにより、薄膜層部72にその凹凸を反映させたものである。透明基板71の凹凸を形成するには、たとえば、透明基板71にテクスチャーを設ければよい。
【0117】
シャッター機能膜72cは、透明電極膜72aと透明電極膜72dとの間へのレンズ電圧の印加の有無によって、その吸収係数と同時に、その屈折率(光学定数)も増減する。
【0118】
そこで、この変形例2では、このようなシャッター機能膜72cの屈折率が変化する特性を利用し、シャッター機能膜72cとその他の膜(透明電極膜72a、電解質膜72b、透明電極膜72d)との屈折率差を大きくし、光の乱反射を生じさせる。そうすることにより、薄膜層部72が光遮断状態にあるときにおける、光の遮蔽率を向上させることができる。
【0119】
なお、変形例2においては、シャッター機能膜72cは、WO膜でなくとも良い。たとえば、導電性ZnO(=AZO)(酸化亜鉛)膜を用いることできる。この導電性ZnO膜は、レンズ電圧を印加したときに発生する熱により、その屈折率が変化するため、WO膜と同様に、上で述べた乱反射によるシャッター機能を実現することができる。
【0120】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0121】
なお、本発明は、以下のようにも表現することができる。すなわち、本発明に係る表示状態変更用眼鏡は、表示装置に表示される映像を観賞者に対して表示・非表示の状態に変更することが可能な右目用シャッターおよび左目用シャッターを有する表示状態変更用眼鏡であって、上記表示状態変更用眼鏡には、映像を非表示にするためのシャッター機能を有するシャッター機能付レンズが設けられており、上記シャッター機能付きレンズは、透明基板と、上記透明基板上に設けられ、電圧印加により光学定数が変化するシャッター機能膜を含むシャッター層と、を含む。
【0122】
上記シャッター層が2層以上設けられていることが好ましい。
【0123】
上記透明基板の上記シャッター層が設けられる側の表面には、凹凸が設けられていることが好ましい。
【0124】
上記シャッター機能膜が、酸化タングステン又は酸化亜鉛であることが好ましい。
【0125】
表示装置に対して、表示される映像の照度を設定するための信号を発信する手段を有することが好ましい。
【0126】
本発明における表示装置は、上記表示変更眼鏡を用いて表示される映像を観賞者に対して表示・非表示の状態に変更することが可能な表示装置であって、鑑賞者が用いる表示変更眼鏡によって、映像の照度を変更できる手段を有している。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、3次元映像専用である、右目用映像および左目用映像を別々に表示させ、視聴者の右目および左目のそれぞれの目のみで視聴させることによって、3次元映像の視聴を実現する映像用眼鏡、映像表示装置、および、それらを用いた映像表示システムに好適である。
【符号の説明】
【0128】
10 映像用眼鏡(表示状態変更用眼鏡)
11 正面フレーム
12 左側フレーム
13 右側フレーム
14a 左目用レンズ
14b 右目用レンズ
15 通信装置
18 制御装置
19 電源装置
20 切替装置
50 映像表示装置(表示装置)
70 レンズ構造
71 透明基板
72 薄膜層部(シャッター機能層)
72a、72d 透明電極膜
72b 電解質膜
72c シャッター機能膜
73 保護樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置に表示される映像を視聴者に対し、当該映像を表示状態と非表示状態とに切り替えることが可能な左目用レンズおよび右目用レンズを有する表示状態変更用眼鏡であって、
上記左目用レンズおよび右目用レンズは、それぞれ、
透明基板と、当該透明基板上に配置された、シャッター機能膜を含むシャッター機能層と、を備え、
上記シャッター機能膜の光学定数は、上記シャッター機能膜への電圧印加の有無に起因して変動し、当該光学定数の変動に応じて、上記シャッター機能膜は、上記シャッター機能膜に入射される光を透過する状態と、当該光を遮断する状態とに切り替わることを特徴とする表示状態変更用眼鏡。
【請求項2】
上記シャッター機能層を複数備えることを特徴とする請求項1に記載の表示状態変更用眼鏡。
【請求項3】
上記透明基板の上記シャッター機能層側の主面は、凹凸形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の表示状態変更用眼鏡。
【請求項4】
上記シャッター機能膜は、酸化タングステンまたは酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表示状態変更用眼鏡。
【請求項5】
上記シャッター機能層は、上記シャッター機能膜を挟むようにして配置された、2つの透明電極膜をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表示状態変更用眼鏡。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の表示状態変更用眼鏡を着用する視聴者に対し、上記左目用レンズが表示状態で、且つ、上記右目用レンズが非表示状態であるときに、視聴者の左目用映像を表示すると共に、上記左目用レンズが非表示状態で、且つ、上記右目用レンズが表示状態であるときに、視聴者の右目用映像を表示することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−37606(P2012−37606A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175391(P2010−175391)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】