説明

表示素子および表示装置ならびに電子機器

【課題】発光効率を向上させると共に寿命特性を改善することが可能な表示素子およびこれを用いた表示装置を提供する。
【解決手段】陽極13と陰極15との間に第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bからなる有機層14を有する。第1発光ユニット14Aと第2発光ユニット14Bとの間の接続層16は、光電変換機能を有する材料を含む。接続層16が光電変換機能を有することにより、第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bへの正孔および電子の輸送効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する表示素子およびこれを備えた表示装置ならびに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は次世代の表示素子の有力候補として注目されているが、発光効率の低さおよび寿命の短さが問題となっている。
【0003】
有機電界発光素子(表示素子)の寿命は、一般的には注入された電荷によって決まっており、駆動における初期輝度を落とすことによって寿命特性を改善することができる。しかしながら、初期輝度を落とすことは実用化におけるアプリケーションを制限し、表示素子の潜在的な可能性を自ら否定することになる。このため、駆動電流を変えずに輝度を上げる、即ち発光効率を改善するか、あるいは駆動電流を下げても同様の輝度を得ることが可能な素子構成を実現する必要がある。
【0004】
このようなことからスタック型のマルチフォトエミッション素子(MPE素子)が提案されている。例えば、特許文献1では、少なくとも発光層を含む複数の有機層が接続層(中間導電層)を介して電気的に直列接合された素子が報告されている。
【0005】
また、特許文献2および特許文献3には、MPE素子を実現するための具体的な素子構成が開示されている。これらによれば、理論的には発光ユニットを2個積層することにより、電力効率(lm/W)を変えることなく発光効率(cd/A)を2倍、3個積層することにより3倍に改善することが可能であると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−329748号公報
【特許文献2】特開2003−45676号公報
【特許文献3】特開2003−272860号公報
【特許文献4】特開2009−302586号公報
【特許文献5】国際公開07/066898号
【特許文献6】国際公開07/027441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際は上記のような発光効率の改善は得られていない。これは、接続層(中間導電層あるいは電荷発生層)の材料として用いられているバソクプロイン(BCP)とセシウム(Cs)あるいはAlq3とリチウム(Li)に原因がある。これらの材料によって構成される接続層は、各材料の化学量論比が重要であり、このバランスが崩れると層として不安定になるという問題があった。
【0008】
例えば、BCPは錯体形成能力が高く、フリーな成分があると周辺材料と錯体を形成する可能性が高く、素子の安定性といった点から用いることは困難であった。加えて、BCPを用いた素子では、耐環境性に対する信頼性が乏しい。一方、BCPに代わる材料として用いられたV25またはRe27のような材料は、潮解性が大きく、極めて扱いにくい。MPE素子は電子の注入または/および接続層からの正孔の注入が効率よく行われることが必要不可欠であるため、正孔および電子の注入効率はMPE素子を構成する要素技術の極めて重要なポイントとなる。
【0009】
但し、量産を考えた場合には、上記のように複数の材料により構成されるよりも、単一材料によって構成される方が製造工程上、また、製品の歩留まりを考えても有利であることは自明である。例えば、量産プロセスを想定した場合には、金属と有機材料の蒸着温度が大きく異なることが共蒸着部を設計する上で問題となる。また、金属がアルカリ金属やアルカリ土類金属に代表される活性の高い金属である場合には、有機層とのコンタミネーション等の弊害が発生する。これらのことから、接続層は全て有機材料によって構成することが好ましい。
【0010】
これらのことから、特許文献4では、有機材料からなる積層構造を有するPIN型の接続層を用いた有機発光ダイオードが報告されており、P型層へ正孔を、N型層へ電子を引き抜く構成が開示されている。I層は絶縁性材料によって構成され、P型層とN型層を切り分ける役割を担っている。この他、特許文献5,6においても、全て有機材料によって構成される接続層が開発されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献4〜6に挙げた表示素子をはじめとする従来の表示素子では未だ十分な発光効率が得られておらず、さらなる改善が求められていた。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、発光効率を向上させると共に寿命特性を改善することが可能な表示素子およびこれを用いた表示装置ならびに電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による表示素子は、第1電極と第2電極との間に、接続層を介して積層された複数の発光ユニットを備えた表示素子であって、接続層は、光電変換機能を有する材料を少なくとも1種以上含んでいるものである。
【0014】
本発明による表示装置は、上記表示素子を複数備えたものである。
【0015】
本発明による電子機器は、表示部として上記表示装置を備えたものである。
【0016】
本発明の表示素子およびこれを備えた表示装置ならびに電子機器では、複数の発光ユニットを、光電変換機能を有する材料を用いた接続層を介して積層することにより、発光ユニット内の発光層への電荷の注入効率が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表示素子およびこれを備えた表示装置ならびに電子機器によれば、複数の発光ユニットを接続する接続層に光電変換機能を付加するようにしたので、各発光ユニットへの電荷の注入効率が向上する。これにより、各発光ユニット内の発光層への電荷の注入量が増加するため、発光効率および寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示素子の断面図である。
【図2】図1に示した表示素子を備えた表示装置の構成を表す図である。
【図3】図2に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図4】図2に示した表示装置の断面構成の一例を表す図である。
【図5】変形例に係る表示素子の断面図である。
【図6】上記表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図7】上記表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図8】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図9】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図10】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図11】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
[実施の形態]
1.表示素子
2.表示装置
[変形例]
[適用例]
[実施例]
【0020】
[実施の形態]
1.表示素子
図1は本発明の一実施の形態に係る表示素子11の断面構成を表したものである。表示素子11は、基板12上に陽極(第1電極)13、第1発光ユニット14Aと第2発光ユニット14Bとを含む有機層14および陰極(第2電極)15をこの順に積層した構造を有する。第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bは、それぞれ陽極13側から順に正孔注入層14a1,14a2、正孔輸送層14b1,14b2、発光層14c1,14c2、電子輸送層14d1,14d2を積層してなるものである。第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bは接続層16を介して積層されている。
【0021】
この表示素子11は、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子が発光層14B内で再結合する際に生じた発光光を基板12と反対側(陰極15側)から光を取り出す上面発光型(トップエミッション型)の表示素子である。上面発光型の表示素子11を用いることにより表示装置の発光部の開口率を向上する。なお、本発明の表示素子11は、このような構成に限定されることはなく、例えば基板12側から光を取り出す透過型、即ち下面発光型(ボトムエミッション型)の表示素子としてもよい。
【0022】
基板12は、その一主面側に複数の表示素子11が配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
【0023】
陽極13は、例えば、積層方向の厚み(以下、単に厚みと言う)が10nm以上3000nm以下であり、効率よく有機層14へ正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいものを用いることが好ましい。具体的には、クロム(Cr),金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),銅(Cu),タングステン(W)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金が挙げられる。また、陽極13は、これらの金属元素の単体または合金よりなる金属膜と、インジウムとスズの酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、InZnO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛オキシド)酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金などの透明導電膜との積層構造を有していてもよい。
【0024】
特に上面発光型の表示素子の場合には、陽極13は高反射率の電極を用いることにより、干渉効果および高反射率効果によって外部への光取り出し効率が改善される。例えば、陽極13は光反射性に優れた第1層と、この上部に設けられた光透過性を有すると共に仕事関数の大きな第2層との積層構造とすることが好ましい。ここで第1層は、主にAlを主成分とする合金を用いることが好ましく、副成分としては、主成分であるAlよりも相対的に仕事関数が小さい元素を用いる。このような副成分としては、ランタノイド系列の元素を用いることが好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は、大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、且つ、陽極の正孔注入性も満足する。また、副成分としてはランタノイド系列の元素の他に、シリコン(Si)、銅(Cu)などの元素を用いてもよい。
【0025】
第2層は、Al合金の酸化物、モリブデン(Mo)の酸化物、ジルコニウム(Zr)の酸化物、Crの酸化物、およびタンタル(Ta)の酸化物を用いることができる。例えば、第2層が副成分としてランタノイド系列の元素を含むAl合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)である場合、ランタノイド系列の元素の酸化物は透過率が高いため、これを含む第2層の透過率が良好となる。これにより、第1層の表面における反射率が高く維持される。また、第2層にITOやIZOなどの透明導電層を用いることにより陽極13の電子注入特性が改善される。なお、ITOおよびIZOは仕事関数が大きいため基板12と接する側、即ち、第1層に用いることによりキャリア注入効率を高めると共に、陽極13と基板12との間の密着性を向上することができる。
【0026】
なお、この表示素子11を用いて構成される表示装置1の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極13は画素毎にパターニングされ、基板12に設けられた駆動用の薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)(図示なし)に接続された状態で設けられている。この場合には、陽極13の上には隔壁17(図4参照)が設けられ、隔壁17の開口部から各画素の陽極13の表面が露出されるように構成される。
【0027】
有機層14は、後述する接続層16によって接続された第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bを有する。第1発光ユニット14Aは陽極13側から順に、例えば正孔注入層14a1、正孔輸送層14b1、発光層14c1および電子輸送層14d1を積層した構成を有する。第2発光ユニット14Bは陽極側から順に、正孔注入層14a2、正孔輸送層14b2、発光層14c2および電子輸送層14d2を積層した構成を有する。これら有機層14は、詳細は後述するが、例えば真空蒸着法やスピンコート法等によって形成される。この有機層14の上面は陰極15によって被覆されている。有機層14を構成する各層の膜厚および構成材料等は特に限定されないが、一例を以下に示す。
【0028】
正孔注入層14a1,14a2は、発光層14c1,14c2への正孔注入効率を高めると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔注入層16Aの厚みは例えば5nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは8nm〜150nmである。正孔注入層16Aの構成材料は、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、例えばポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリンおよびそれらの誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などの導電性高分子、金属フタロシアニン(銅フタロシアニン等)、カーボンなどが挙げられる。導電性高分子の具体例としてはオリゴアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリジオキシチオフェンが挙げられる。
【0029】
正孔輸送層14b1,14b2は、発光層14c1,14c2への正孔輸送効率を高めるためのものである。正孔輸送層16Bの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば5nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは8nm〜150nmである。正孔輸送層14b1,14bを構成する材料としては、有機溶媒に可溶な発光材料、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリシランまたはそれらの誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールまたはAlq3などを用いることができる。
【0030】
発光層14c1,14c2では、電界がかかると電子と正孔との再結合が起こり発光する。発光層14c1,14c2の厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは20nm〜150nmである。発光層14c1,14c2は、それぞれ単層あるいは積層構造であってもよく、例えば発光層14c1を赤色発光層と緑色発光層の積層、発光層14c2を青色発光層の単層として白色発光素子としてもよい。この他、発光層14c1を橙色発光層、発光層14c2を青緑発光層として白色発光素子としてもよい。
【0031】
発光層14c1,14c2を構成する材料は、それぞれの発光色に応じた材料を用いればよく、例えばポリフルオレン系高分子誘導体や、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、あるいは上記高分子に有機EL材料をドープしたものが挙げられる。ドープ材料としては、例えばルブレン、ペリレン、9,10ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6等を用いることができる。なお、発光層14c1,14c2を構成する材料は、上記材料を2種類以上混合して用いてもよい。また、上記高分子量の材料に限らず、低分子量の材料を組み合わせて用いてもよい。低分子材料の例としては、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマーあるいはオリゴマーが挙げられる。
【0032】
発光層14c1,14c2を構成する材料としては、上記材料の他に発光性ゲスト材料として、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光材料、りん光色素あるいは金属錯体等の有機発光材料を用いることができる。
【0033】
なお、発光層14c1,14c2は、例えば上述した正孔輸送層14b1,14b2を兼ねた正孔輸送性の発光層としてもよく、また、後述する電子輸送層14d1,14d2を兼ねた電子輸送性の発光層としてもよい。
【0034】
電子輸送層14d1,14d2は、発光層14c1,14c2への電子輸送効率を高めるためのものである。電子輸送層14d1,14d2の厚みは素子の全体構成にもよるが、例えば5nm〜200nmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜180nmである。
【0035】
電子輸送層14d1,14d2の材料としては、優れた電子輸送能を有する有機材料を用いることが好ましい。発光層14c1,14c2の輸送効率を高めることにより、後述する電界強度による発光色の変化が抑制される。具体的には、例えばアリールピリジン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体などを用いることが好ましい。これにより、低い駆動電圧でも高い電子の供給効率が維持される。この他、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびその酸化物、複合酸化物、フッ化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0036】
接続層16は、第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bを接続するためのものである。本実施の形態の接続層16では、この接続機能に加えて光電変換機能を有する。接続層16は、例えば陽極13側から電子注入層16A,中間層16B,正孔注入層16Cの順に積層された構成を有し、接続層16全体の膜厚は、素子の構成によるが、例えば1nm〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜50nmである。
【0037】
接続層16を構成する材料は、隣接する有機層14(特に第1発光ユニット14A中の電子輸送層14d1および第2発光ユニット14Bの正孔注入層14a2)の特性によって適宜選択される。以下に電子注入層16A,中間層16Bおよび正孔注入層16Cの材料の一例を説明する。
【0038】
電子注入層16Aは電子ドナー性を有するものであり、その材料としては、例えば、N型ドーパントをドープした電子輸送性材料、具体的には、例えば上記電子輸送層14d1,14d2に挙げた材料を用いることができる。N型ドープ材料としては、例えばアルカリ金属,アルカリ土類金属,またはこれらの酸化物,複合酸化物,フッ化物および有機錯体等が挙げられる。
【0039】
特に、第1発光ユニット14Aの電子輸送層14d1の電子移動度が比較的大きく、電子輸送層14d1と電子注入層16Aとの間に大きな注入障害がない場合には、電気陰性度が小さく電子ドナー性に優れた材料が挙げられる。この中でも、膜状態における可視光領域での光吸収が小さい材料が好ましい。具体的には、例えばLi,Na,K,Rb,Cs等のアルカリ金属またはBe,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra等のアルカリ土類金属が挙げられる。
【0040】
電子注入層16A(電子ドナーユニット)は上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属を単体で形成してもよいが、Ag,In,Al,Si,Ge,Au,CuまたはZn等との共蒸着膜を形成することによって膜状態の安定性を向上することができる。なお、共蒸着膜は上記金属を3種類以上用いた混合膜として形成してもよい。その場合には、光学的な光吸収ロスをできるだけ抑えるために、機能を発揮でき且つ膜として安定性を確保したうえで、できるだけ膜厚を薄くすることが好ましい。例えば、5nm以下が好適な膜厚である。また、共蒸着によって形成した電子ドナー性ユニット16Aは、上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属と有機材料とを用いた混合膜を形成してもよい。混合する有機材料としては、高い電子輸送性を有する材料が好ましいが、絶縁性の高い材料や正孔輸送性材料でも構わない。例えば、Alq3やα−NPD等の材料を用いることができる。また、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の膜内での安定性の観点では、これらアルカリ金属およびアルカリ土類金属と金属錯体を形成する有機材料を用いることが好ましい。具体的には、例えば、バソフェナントロリンまたはバソクプロインやオキサジアゾール骨格等の錯形成をしやすい骨格を有する有機材料が挙げられる。
【0041】
中間層16Bは光電変換性を有するものであり、光電変換機能を有する材料を少なくとも1種類含んでいる。これにより、第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14Bへの陽極13側および陰極15側からそれぞれ注入される正孔および電子の輸送効率が向上する。このような材料としては、中間層16B(光電変換ユニット)の最低電子非占有軌道(LUMO)のエネルギー準位が隣接する電子注入層16A(電子ドナーユニット)および正孔注入層16C(電子アクセプタユニット)のLUMOの真空準位から見て浅い値と同等以下であることが好ましく、より好ましくはより浅い準位となる材料である。更に、光電変換ユニット16Bの最高電子占有軌道(HOMO)のエネルギー準位が隣接する電子ドナーユニット16Aおよび電子アクセプタユニット16CのHOMOの真空準位から見て深い値と同等以下であることが好ましく、より好ましくはより深い準位となる材料である。
【0042】
具体的には、下記式(1)で示したペリレン誘導体、式(2)で示したポルフィリン誘導体、式(3)で示したフタロシアニン誘導体、式(4)で示したナフタロシアニン誘導体、式(5)で示したペンタセン誘導体を用いることが好ましい。
【0043】
【化1】

(Z1〜Z4は、それぞれ独立にカルボニル基を有する基あるいはその誘導体である。Z1およびZ2、Z3およびZ4はそれぞれ窒素または酸素を介した環状構造を形成してもよい。)
【0044】
【化2】

(Z5〜Z8は、それぞれ独立に芳香族環基、複素環基あるいはその誘導体である。)
【0045】
【化3】

(R1〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12個の炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。M1は周期律表4〜14族の金属原子、あるいは該金属原子および酸素原子、ハロゲン原子またはシアノ基、メトキシ基等を配位子として含む原子団である。)
【0046】
【化4】

(M2は周期律表4〜14族の金属原子、あるいは該金属原子および酸素原子、ハロゲン原子またはシアノ基メトキシ基等を配位子として含む原子団である。)
【0047】
【化5】

(R17〜R30はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12個の炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【0048】
なお、上記周期律表4〜14族の金属原子のうち、4族(特に、Ti)、5族(特に、V)、6族(特に、Mo)、7族(特に、Mn)、8族(Fe,Ru,Os)、9族(Co,Rh,Ir)、10族(Ni,Pd,Pt)、11族(特に、Cu)、12族(特に、Zn)、13族(特に、Al)、14族(特に、Pb)を用いることが好ましい。
【0049】
式(1)に示したペリレン誘導体の具体例としては、以下の式(1−1)〜式(1−3)等の化合物が挙げられる。
【0050】
【化6】

【0051】
式(2)に示したポルフィリン誘導体の具体例としては、以下の式(2−1)〜式(1−4)等の化合物が挙げられる。
【0052】
【化7】

【0053】
式(3)に示したフタロシアニン誘導体の具体例としては、以下の式(3−1)〜式(1−17)等の化合物が挙げられる。
【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
式(4)に示したナフタロシアニン誘導体の具体例としては、以下の式(4−1)等の化合物が挙げられる。
【0057】
【化10】

【0058】
式(5)に示したペンタセン誘導体の具体例としては、以下の式(5−1)に示した化合物等が挙げられる。
【0059】
【化11】

【0060】
上記化合物の他に光電変換機能を有する材料としては、式(6−1)〜式(6−4)に示した炭素原子数60以上のフラーレン,カーボンナノチューブ、グラフェンあるいはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0061】
【化12】

【0062】
正孔注入層16C(電子アクセプタユニット)は電子アクセプタ性を有するものであり、その材料としては、例えば、P型ドーパントをドープした正孔輸送性材料が用いられる。正孔輸送性材料は、例えば上記正孔輸送層14b1,14b2に挙げた材料を用いることができる。P型ドープ材料としては、例えば7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)およびヘキサアザシアノトリフェニレン(HAT−6CN)等が挙げられる。
【0063】
特に、第2発光ユニット14Bの正孔注入層14a2と電子アクセプタユニット16Cとの間に、大きな注入障害がない場合には、上述した電子ドナーユニット16Aにおける材料選択と同様の考え方を用いることができ、例えば電子アクセプタ性に優れた有機材料を用いることができる。具体的には、アザトリフェニレンあるいはTCNQ等の骨格を有する電子アクセプタ性有機材料を単層あるいは金属等との混合膜として形成することが可能である。これに限らず、正孔移動度の大きな有機材料を、電子アクセプタ性有機材料と同様に単層あるいは金属等との混合膜で形成してもよい。ここで金属とは、例えばアルカリ金属,Mgを含むアルカリ土類金属あるいは周期律表でIIIB族およびIVB族の金属であ
る。また、上記電子ドナーユニット16Aと同様に、膜状態における可視光領域での光吸収が小さい材料が好ましい。更に、膜厚についても光学的な光吸収ロスをできるだけ抑えるために、機能を発揮でき、且つ、膜として安定性を確保したうえで、できるだけ膜厚を薄くすることが好ましく、例えば、30nm以下が好適な膜厚である。
【0064】
なお、上記N型ドープ材料,光電変換性材料およびP型ドープ材料は一例であり、接続層16内において第1発光ユニット層14Aおよび第2発光ユニット14Bに電子あるいは正孔をそれぞれ効率よく輸送することが可能であればよい。また、電子ドナーユニット16Aおよび電子アクセプタユニット16Cは必ずしも上記ドープ材料を含んでいる必要はなく、各ユニット16A,16Cがその性質を担保することが可能であれば単独材料により構成されていても構わない。
【0065】
更に、接続層16は、電子ドナーユニット16Aあるいは電子アクセプタユニット16Cが光電変換ユニット16Bを兼ねていてもよい。また、電子ドナーユニット16Aまたは電子アクセプタユニット層16Cのどちらか一方がなくてもよく2層で構成されてもよい。あるいは両方の層がなく、光電変換ユニット16Bのみでもよい。
【0066】
陰極15は、例えば、厚みが10nm程度であり、光透過性が良好で仕事関数が小さい材料により構成されている。また、酸化物を用いて透明導電膜を形成することによっても光取り出しを担保することができる。この場合には、ZnO,ITO,IZnO,InSnZnO等を用いる事が可能である。更に、陰極15は単層でもよいが、ここでは例えば陽極13側から順に第1層15A、第2層15B、第3層15Cと積層した構造となっている。
【0067】
第1層15Aは、仕事関数が小さく、且つ、光透過性の良好な材料により形成されることが好ましい。具体的には、例えばカルシウム(Ca),バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム(Li),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、インジウム(In),マグネシウム(Mg),銀(Ag)が挙げられる。更に、Li2O,Cs2Co3,Cs2SO4,MgF,LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物,アルカリ金属フッ化物,アルカリ土類金属酸化物,アルカリ土類フッ化物が挙げられる。
【0068】
第2層15Bは、薄膜のMgAg電極やCa電極などの光透過性を有し、且つ、導電性が良好な材料で構成されている。第3層15Cは、電極の劣化を抑制するために透明なランタノイド系酸化物を用いることが好ましい。これにより、上面から光を取り出すことが可能な封止電極として用いることが可能となる。また、ボトムエミッション型の場合には、第3層15Cの材料として金(Au),白金(Pt)またはAuGe等が用いられる。
【0069】
なお、第1層15A、第2層15Bおよび第3層15Cは、真空蒸着法、スパッタリング法、あるいはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、陽極13の周縁を覆う隔壁17および有機層14によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に対して共通な電極として用いてもよい。
【0070】
また、陰極15には、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層でもよい。この場合には、さらに第3層(図示なし)としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。また、陰極15は上記のような積層構造に限定されることはなく、作製されるデバイスの構造に応じて最適な組み合わせ、積層構造を取ればよいことは言うまでもない。例えば、上記本実施の形態の陰極15の構成は、電極各層の機能分離、即ち有機層14への電子注入を促進させる無機層(第1層15A)と、電極を司る無機層(第2層15B)と、電極を保護する向き層(第3層15C)とを分離した積層構造である。しかしながら、有機層14への電子注入を促進させる無機層が、電極を司る無機層を兼ねてもよく、これらの層を単層構造としてもよい。
【0071】
更に、この表示素子11が、キャビティ構造となっている場合には、陰極15が半透過半反射材料を用いて構成されることが好ましい。これにより、陽極13側の光反射面と、陰極15側の光反射面との間で多重干渉させた発光光が陰極15側から取り出される。この場合、陽極13側の光反射面と陰極15側の光反射面との間の光学的距離は、取り出したい光の波長によって規定され、この光学的距離を満たすように各層の膜厚が設定されていることとする。このような上面発光型の表示素子においては、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能となる。
【0072】
(表示装置)
図2は、本実施の形態の表示素子11を備えた表示装置1の構成を表すものである。この表示装置1は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板11の上に、表示領域110として、複数の表示素子11(例えば、赤色発光素子11R,緑色発光素子11G,青色発光素子11B)がマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。なお、隣り合う表示素子11の組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0073】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図3は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、陽極13の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された表示素子11(例えば、11R,11G,11B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的なTFTにより構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0074】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、各表示素子11のいずれか1つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0075】
図4は図2に示した表示領域110の断面構成を表したものである。各表示素子11は、それぞれ、基板12の側から、画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、上述のように陽極13、隔壁17、発光層14c1,14c2をそれぞれ含む第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14B、陰極15がこの順に積層された構成を有している。更に、表示素子11は保護層18により被覆され、更にこの保護層18上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板19が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。保護層18には、窒化ケイ素(代表的には、Si34)膜、酸化ケイ素(代表的には、SiO2)膜、窒化酸化ケイ素(SiNxOy:組成比X>Y)膜、酸化窒化ケイ素(SiOxNy:組成比X>Y)膜、またはDLC(Diamond like Carbon)のような炭素を主成分とする薄膜、CN(Carbon Nanotube)膜等が用いられる。これらの膜は、単層または積層させた構成とすることが好ましい。特に、窒化物からなる保護層は膜質が緻密であり表示素子11に悪影響を及ぼす水分、酸素およびその他不純物に対して極めて高いブロッキング効果を有する。
【0076】
隔壁17は、陽極13と陰極15との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものである。更に、有機層14をインクジェット方式またはノズルコート方式等の塗布によって形成する際の隔壁としての機能も有している。隔壁17は、例えば、SiO2等の無機絶縁材料よりなる下部隔壁17Aの上に、ポジ型感光性ポリベンゾオキサゾール,ポジ型感光性ポリイミドなどの感光性樹脂よりなる上部隔壁17Bを有している。隔壁17には、発光領域に対応して開口が設けられている。なお、有機層14乃至陰極15は、開口だけでなく隔壁17の上にも設けられていてもよいが、発光が生じるのは隔壁17の開口だけである。
【0077】
保護層18は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0078】
封止用基板19は、表示素子11の陰極15の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に表示素子11を封止するものである。封止用基板19は、表示素子11で発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板19には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、表示素子11で発生した光を取り出すと共に、各表示素子11間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。
【0079】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0080】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr23)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0081】
ここで、表示素子11を構成する陽極13から陰極15までの各層は、真空蒸着法、イオンビーム法(EB法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタ法、OVPD(Organic Vapor Phase Deposition)法などのドライプロセスによって形成できる。
【0082】
また、有機層14は、以上の方法に加えてレーザー転写法、スピンコート法、ディッピング法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法などの塗布法、インクジェット法、オフセット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法などの印刷法などのウエットプロセスによる形成も可能であり、各有機層や各部材の性質に応じて、ドライプロセスとウエットプロセスを併用しても構わない。
【0083】
この表示装置1では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、表示素子11に駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には陽極13および基板12を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には陰極15,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板19を透過して取り出される。
【0084】
現在、発光層に用いられている材料の外部量子効率は、蛍光材料では5%以上、りん光材料では20%に近い値が報告されている。一般的に内部量子効率は外部量子効率の約5倍近いとされていることから、りん光材料については限界に近い値まで改良されているといえる。しかしながら、従来の表示装置の電力効率は、白色蛍光灯並みの100lm/Wレベルを持続的に達成することは困難であった。
【0085】
また、信頼性の指針の一つである連続駆動寿命については、発光色にもよるが、初期輝度を数千cd/m2とした場合の輝度半減寿命は数万〜数十万時間と差が大きかった。このため、表示素子の寿命のばらつきおよび寿命特性の改善が課題となっていた。
【0086】
これに対して本実施の形態では、第1発光ユニット14Aと第2発光ユニット14Bとの間の接続層16に光電変換機能を有する材料を用いることにより、接続層16に光電変換機能が付加されている。これにより、有機層14(第1発光ユニット14A,第2発光ユニット14B)への陽極13および陰極15からの正孔および電子の輸送効率が向上する。
【0087】
このように本実施の形態の表示素子11およびこれを備えた表示装置1では、有機層14(第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14B)を接続する接続層16に光電変換機能を付加するようにしたので、各有機層14への電子の輸送効率が向上する。即ち、第1発光ユニット14Aおよび第2発光ユニット14B中の発光層14c1,14c2への正孔および電子の注入効率が向上する。これにより、表示素子11は発光効率が向上すると共に寿命が改善される。従って、長期信頼性の高い表示装置を作製することが可能となる。
【0088】
[変形例]
図5は本実施の形態の変形例に係る表示素子21の断面構成を表したものである。本変形例における表示素子21は接続層26を4層構造としたものである。具体的には、接続層26のうち、中間層26B(光電変換ユニット)を2層(第1層26a、第2層26b)積層したものである。なお、第1層26aは電子アクセプタ光電変換ユニットであり、第2層26bは電子ドナー光電変換性ユニットである。このように光電変換ユニット26Bを2層としても上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、接続層26をこのような構成とすることにより、有機層14を構成する層を少なくしても本実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。但し、長期駆動における安定性が低下する可能性があるため、発光効率および長期駆動における安定性等を鑑みて、適宜素子構成を選択する必要がある。
【0089】
[適用例]
以下、上記実施の形態および変形例で説明した表示素子を備えた表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0090】
(モジュール)
上記実施の形態および変形例の表示装置は、例えば、図6に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層18および封止用基板19から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0091】
(適用例1)
図7は、上記実施の形態および変形例の表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態等に係る表示装置により構成されている。
【0092】
(適用例2)
図8は、上記実施の形態および変形例の表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態等に係る表示装置により構成されている。
【0093】
(適用例3)
図9は、上記実施の形態および変形例の表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態等に係る表示装置により構成されている。
【0094】
(適用例4)
図10は、上記実施の形態および変形例の表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態等に係る表示装置により構成されている。
【0095】
(適用例5)
図11は、上記実施の形態および変形例の表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト7630およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態等に係る表示装置により構成されている。
【0096】
[実施例]
次に本発明の実施例について説明する。以下に示す実施例1〜15は本実施の形態および変形例に対応するものである。比較例1,2は接続層16のうち光電変換ユニット16Bを設けていない以外、実施例1〜15と同様の構造を有する。
【0097】
(実施例1〜12,15,比較例1;下面発光型(BTM))
まず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13として、ITO層(膜厚約120nm)を形成したのち、SiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示せず)でマスクした表示素子用のセルを作製した。
【0098】
次に、第1発光ユニット16Aを形成した。まず、真空蒸着法により、正孔注入層14a1として式(7)に示した2−TNATA[4,4',4"-tris(2-naphtylphenylamino)triphenylamine]を蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,15nmの膜厚で形成した。続いて、正孔輸送層14b1として式(8)に示したα−NPD(α-naphtyl phenil diamine)を蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,15nmの膜厚で形成したのち、発光層14c1のホストとして式(10)に示したADNに、ドーパントBD−052x(出光興産株式会社)を用いて合計膜厚32nmで成膜した。次に、電子輸送層14d1として、式(9)に示したAlq3(8-hydroxy quinorine alminum)を18nm蒸着した。
【0099】
【化13】

【0100】
【化14】

【0101】
【化15】

【0102】
【化16】

【0103】
続いて、接続層16(26)として、電子ドナーユニット16A(26A),中間層16B(26B;第1層26a,第2層26b)、電子アクセプタユニット16C(26C)を例えば上記式(3−17)等を用いて真空蒸着により形成した。
【0104】
次に、第2発光ユニット16Bを上記第1発光ユニット16Aと同様に形成したのち、陰極15の第1層15Aとして、LiFを真空蒸着法により蒸着速度〜0.01nm/sec,約0.3nmの膜厚で形成した。続いて、第2層15BとしてMgAgを真空蒸着法により10nm形成したのち、最後に第3層15CとしてAlを300nm形成し表示素子11(21)を作製した。
【0105】
(実施例13,14,比較例2;上面発光型(TOP))
陽極13としてCr(膜厚100nm)、陰極第3層15CをIXO(インジウム酸化物、出光興産株式会社)を200nmの膜厚で形成した以外は上記実施例1〜12,15等と同様の方法を用いて作製した。
【0106】
以上のように作製した表示素子11,21について、10mAcm-2の電流密度における発光効率(cd/A)および輝度半減寿命(h)を測定した。
【0107】
なお、表1は実施例1〜15および比較例1,2の素子構造、接続層16(26)の構成、比較例1,2を基準とした相対発光効率および相対輝度半減寿命の一覧である。
【0108】
【表1】

【0109】
表1から接続層16(26)に光電変換機能を有する材料を用いることによって実施例1〜12の何れにおいても発光効率の向上が見られた。また輝度半減寿命においても改善が見られた。特に、上面発光型の表示素子(実施例13,14)では発光効率の向上および輝度半減寿命に改善に大きな効果が得られた。これは、上面発光型のキャビティ効果が光電変換機能を有する接続層16,26への光吸収を効果的に増加させたためと考えられる。
【0110】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形することが可能である。
【0111】
例えば、上記実施の形態等では、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置について説明したが、これに限らずパッシブ方式の表示装置としてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態等において基板12と反対側に設けた陰極15側から光を取り出す上面発光型の場合を説明したが、本発明の表示素子11(21)は、実施例に示したように基板12に透明材料を用いて構成することにより下面発光型の表示素子に適用することも可能である。この場合、図1(図5)に示した表示素子11(21)の積層構造を基板12側から逆に積層した構成としてもよいし、同一構造を透明基板上に形成された透明電極上に形成してもよい。更に、上部電極となる陰極15を透明材料で形成することによって基板12と反対側の両方から光を取り出すことが可能となる。
【符号の説明】
【0113】
11,21…表示素子、12…基板、13…陽極、14…有機層、14A…第1発光ユニット、14B…第2発光ユニット、14a1,14a2…正孔注入層、14b1,14b2…正孔輸送層、14c1,14c2…発光層、14d1,14d2…電子供給層、15…陰極、16,26…接続層、16A,26A…電子注入層(電子ドナーユニット)、16B,26B…中間層(光電変換ユニット)、16C,26C…正孔注入層(電子アクセプタユニット)、17…隔壁、18…保護層、19…封止用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と第2電極との間に、接続層を介して積層された複数の発光ユニットを備えた表示素子であって、
前記接続層は、光電変換機能を有する材料を少なくとも1種以上含んでいる
表示素子。
【請求項2】
前記接続層は、前記第1電極から順に電子ドナーユニット,光電変換ユニットおよび電子アクセプタユニットが積層された構成を有する、請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記光電変換ユニットは、最低電子非占有軌道(LUMO)のエネルギー準位が隣接する電子供与性ユニットおよび電子受容性ユニットのLUMOの真空準位から見て浅い値と同等以下である、請求項2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記光電変換ユニットは、最高電子占有軌道(HOMO)のエネルギー準位が隣接する電子供与性ユニットおよび電子受容性ユニットのHOMOの真空準位から見て深い値と同等以上である、請求項2に記載の表示素子。
【請求項5】
前記接続層は、前記下部電極から順に電子ドナーユニット,電子アクセプタ光電変換ユニット,電子ドナー光電変換ユニット、および電子アクセプタユニットが積層された構造を有する、請求項1に記載の表示素子。
【請求項6】
前記光電変換機能を有する材料は、式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の表示素子。
【化1】

(Z1〜Z4は、それぞれ独立にカルボニル基を有する基あるいはその誘導体である。Z1およびZ2、Z3およびZ4はそれぞれ窒素または酸素を介した環状構造を形成してもよい。)
【請求項7】
前記光電変換機能を有する材料は、式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の表示素子。
【化2】

(Z5〜Z8は、それぞれ独立に芳香族環基、複素環基あるいはその誘導体である。)
【請求項8】
前記光電変換機能を有する材料は、式(3)で表される化合物である、請求項1に記載の表示素子。
【化3】

(R1〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12個の炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。M1は周期律表4〜14族の金属原子、あるいは該金属原子および酸素原子、ハロゲン原子、シアノ基、または、メトキシ基等を配位子として含む原子団である。)
【請求項9】
前記光電変換機能を有する材料は、式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の表示素子。
【化4】

(M2は周期律表4〜14族の金属原子、あるいは該金属原子および酸素原子、ハロゲン原子、シアノ基、または、メトキシ基等を配位子として含む原子団である。)
【請求項10】
前記光電変換機能を有する材料は、式(5)で表される化合物である、請求項1に記載の表示素子。
【化5】

(R17〜R30はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12個の炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項11】
前記光電変換機能を有する材料は、炭素原子数60以上のフラーレン,カーボンナノチューブ、グラフェンあるいはそれらの誘導体である、請求項1に記載の表示素子。
【請求項12】
表示素子を複数備えた表示装置であって、
前記表示素子は、
第1電極と第2電極との間に、接続層を介して積層された複数の発光ユニットを備え
前記接続層は、光電変換機能を有する材料を少なくとも1種または2種以上含んでいる
表示装置。
【請求項13】
表示部として表示素子を複数備えた表示装置を有する電子機器であって、
前記表示素子は、
第1電極と第2電極との間に、接続層を介して積層された複数の発光ユニットを備え
前記接続層は、光電変換機能を有する材料を少なくとも1種または2種以上含んでいる
電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−204110(P2012−204110A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66746(P2011−66746)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】