説明

表面プラズモン共鳴現象測定装置

【課題】表面プラズモン共鳴現象(SPR)法によるマルチチャンネル多点計測を実現する表面プラズモン共鳴現象測定装置を提供する。
【解決手段】(1)プリズムと、(2)プリズムの底面に複数の測定セルをm行n列形成したセンサーと、(3)レーザービームを放射する光源と、(4)直方体の対角面に沿って半透明金属膜を設けた光学ユニットをm個連設した第1光学系と、(5)光学ユニットを、mn個連設し、測定セルに向けて反射光群を放射させる第2光学系と、(6)反射光群の延長線上に配置されたm行n列のフォトダイオードアレイ検出器群と、(7)第1光学系とプリズムとの間及び/又はプリズムとフォトダイオードアレイ検出器との間に介装した偏光子とを有する表面プラズモン共鳴現象測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズモン共鳴現象を測定原理に利用して、複数の試料の同時分析を可能とするマルチチャンネル表面プラズモン共鳴測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴現象測定装置は食品の安全性や環境モニタリング、また、危険物や麻薬の高感度検出を可能とするものであり、環境保全分野、医療分野、農業、畜産、食品産業分野など、多くの分野への応用が期待されている。
【0003】
表面プラズモン共鳴(SPR)測定装置はビアコア株式会社や日本レ−ザ電子株式会社などからすでに市販されている。これら市販の測定装置は一度に測定できるサンプル数が1点であり、測定効率が悪い。
【0004】
また、本共同発明者らはSPR測定装置を小型化してオンサイトで計測できるようにするために、光源から放射される光をシリンドリカルレンズを用いて線焦点を結ばせると共に、プリズムとガラス基板で作製したセンサーに入射させ、プリズムから反射された光をリニアCCD受光素子で計測する携帯型SPRセンサー(特許文献1〜3)を開発した。しかしながら、これらの測定装置も、やはり一度に測定できるサンプル数が1点であり、測定効率が悪い。
【0005】
測定効率を向上させるためには、一度に多数の試料を分析できる機能(多点同時計測機能、マルチチャンネル化)が求められる。
【0006】
マルチチャンネル化する方法として2つの提案がある。第1の提案は、光源からの光をビームスプリッターで二光路に分けた後、プリズムで構成されるSPRセンサーの定められた2点にあて、表面プラズモン共鳴現象によって生じた光の減少を二つの独立した光検出器で検出後、検出信号を各々増幅する方式である(特許文献1)。第2の提案は、プリズムの反射光を光分割ミラーで2光路に分けて光検出器で検出する方法である(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、これら方式のマルチチャンネル化では、光路の分割が一次元的(線状)であり、一度に測定できる試料数が2点程度に限られるので飛躍的な測定効率の向上が困難である。
【0008】
従って、一度に多数の試料(例えば4点以上)を効率良く分析できる機能(多点同時計測機能、マルチチャンネル化)を備えた表面プラズモン共鳴現象測定装置の開発が切望されている。
【特許文献1】特許第3462179号
【特許文献2】特許第3335621号
【特許文献3】特許第3356212号
【特許文献4】特願2003−118565号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために種々検討した結果、一本のレーザービームを光源とし、これを多数の平行光束に変換するビームスプリッターを考案し、これを用いることにより同時多点計測を可能とした。
【0010】
本発明は上記発見に基づき完成されるに至ったもので、その目的とするところは、表面プラズモン共鳴現象(SPR)法によるマルチチャンネル多点計測を実現する表面プラズモン共鳴現象測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔1〕 (1)プリズムと、
(2)プリズムの底面に形成された金属膜上に複数の測定セルをm行n列(m≧2、n≧2)形成したセンサーと、
(3)一本のレーザービームを放射する光源と、
(4)直方体の一つの対角面に沿って半透明膜を設けた光学ユニットを前記レーザービームの放射方向に対してm個連設して、該レーザービームを透過光とm個の平行反射光A群とに変換する第1光学系と、
(5)前記光学ユニットを、前記平行反射光A群のm個の各反射光の照射方向に対してそれぞれn個連設してなり、前記平行反射光を透過光とmn個の平行反射光群Bとに各々変換する第2光学系であって、前記反射光群Bの照射方向を前記プリズムの底面に形成した金属膜上の測定セルに向けてプラズモン共鳴角を含む入射角で照射させ、その反射光C群をプリズムの他側面から放射させる、前記プリズムの一側面に取付けた第2光学系と、
(6)前記反射光C群の延長線上に配置されたm行n列のフォトダイオードアレイ検出器群と、
(7)前記第1光学系と前記第2光学系とを有するビームスプリッターとプリズムとの間、及び/又はプリズムとフォトダイオードアレイ検出器との間に介装した偏光子と
を有する表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【0012】
〔2〕 光学ユニットが入射光量の90.00〜99.99%を透過光、0.01〜10.00%を反射光に変換する〔1〕に記載の表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【0013】
〔3〕 センサーに試料を入れていないブランク測定時の反射光C群の各光量を記憶し、試料測定時の反射光C群の光量の補正を行う演算手段を有する〔1〕に記載の表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【0014】
〔4〕 直方体の一つの対角面に沿って半透明膜を設けた光学ユニットを前記レーザービームの放射方向に対してm個連設して、該レーザービームを透過光とm個の平行反射光A群とに変換する第1光学系と、前記光学ユニットを、前記平行放射光A群のm個の各反射光の照射方向に対してそれぞれn個連設してなり、前記平行反射光を透過光とmn個の平行反射光B群とに各々変換する第2光学系とを有するビームスプリッターと、m行n列のフォトダイオードアレイ検出器と、前記ビームスプリッターとフォトダイオードアレイとを連結する結合部材とからなり、前記結合部材がビームスプリッターとフォトダイオードとのなす角度と距離とを変更する手段を有する表面プラズモン共鳴現象測定装置用光学装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明に於いては、一本のレーザービームをビームスプリッターにより任意の本数(m×n本)のレーザービームに分ける。その結果、測定セルに照射させる反射光群Bの光路分割が二次元的(m行n列の平面状)となり、測定セルから放射される反射光を受光するフォトダイオードアレイ検出器群もそれに対応して二次元的(行n列の平面状)となる。このため、一度に測定できる試料数を飛躍的に増加させることができ、測定効率を向上させることができる。また、多数の試料の同時測定ができるにも拘わらず測定装置をコンパクトにすることができる。
【0016】
本発明において、ビームスプリッターにより分割されたレーザー強度は各々異なるが、この差異はプリアンプ部にて、或はCPUにて演算を行い補正することができる。このように、試料測定時の反射光C群の光量の補正を行う演算手段を備える場合は、より正確な測定結果を得ることができる。
【0017】
本発明における光学系は、スケーラビリティに優れ、光源からプリズム、検出器にいたる全ての光学素子を拡大・縮小して使用できる。光学素子を縮小し、マイクロセルと組み合わせることにより手のひらサイズのSPRシステムを製作でき、また拡大することによって市販されている96穴プレートへの対応可能なSPRシステムも作製できる。
【0018】
本発明に於いては、また、光路の集束にレンズを用いないので、測定装置の製造コストを低減でき、測定装置自体をコンパクトにすることができる。
【0019】
表面プラズモン共鳴現象を利用した測定においては、目的とするアプリケーションによりSPR励起光角度、SPR反射光角度を変える必要が出てくるが、複数用意したプリズムから目的に合ったものを選択することで対応できる。また、プリズム角度に合せてビームスプリッターユニット及び検出器ユニットを自動的に配置・密着させる機構を設けることにより簡単な操作でプリズムを光学系内に装着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の表面プラズモン共鳴現象測定装置の一例を示す正面図である。図1中、100は光源で、200はビームスプリッター、300はセンサー、410はプリズム、500は検出器である。
【0022】
図1において、光源100から、1本のレーザービーム110がビームスプリッター200に向けて放射される。ビームスプリッター200内で、レーザービーム110は第1光学系210のスプリットユニットA1〜Am(後述)を順次透過する。レーザービーム110の透過の際にスプリットユニットA1〜Amから透過光の一部が平行反射光A群230(後述)に分離され、それぞれ第2光学系220のスプリットユニットB11〜B1n…………Bm1〜Bmn(後述)を各々順次透過する。平行反射光A群230の透過の際にスプリットユニットB11〜Bmnから透過光の一部が平行反射光B群240となり、それぞれ偏光子420a、次いでプリズム410内を通って入射角θaにてセンサー300内の金属膜320表面が照射される。センサーへの入射光線の入射角θaはプラズモン共鳴角を含む入射角である。平行反射光B群240の各照射位置は、それぞれ対応する測定セル(m行n列)直下の金属膜320表面である。
【0023】
センサー300では、ガラス板310の底面に金属膜320が蒸着され、この蒸着面がプリズム410に不図示の整合板を介して載置されている。また、金属膜320の他面上に複数の後述する測定セル330(m行n列)が形成されている。平行反射光B群240が照射された測定セル直下の金属膜320からは、各測定セルに対応する各点で起る表面プラズモン共鳴現象に基づき各鳴角が変化した各測定セルに対応する反射光C群340がそれぞれ反射角θbにて放射される。放射された反射光C群340は、プリズム410、次いで偏光子420bを通って検出器500内のフォトダイオードアレイ検出器群510(m行n列)の対応する位置が各々照射される。フォトダイオードアレイ検出器群510は、センサー300の各測定セル(m行n列)に基づく各SPRシグナル像に対応する互いに分離した光の点を検出することになる。
【0024】
図2は、センサー300の平面図で、金属膜320上にm行n列で二次元的に配列された測定セル330(1,1)、330(1,2)、330(1,n)…………330(m,n)が形成されている。
【0025】
図3は、検出器500内のフォトダイオードアレイ検出器群510の平面図で、m行n列で二次元的に配列されたフォトダイオードアレイ検出器群が形成されている。この検出器500自体は公知のもので市販されている。
【0026】
図4は、第1光学系210のスプリットユニット群A1〜Amの1ユニットAを示す斜視図である。図4中250はユニットを構成する透明な直方体の一つの対角面に沿って設けた半透明膜である。この半透明膜は、ハーフミラーとして用いるものであり、例えば、単層或は多層の誘電体膜、金属薄膜、或はこれらのハイブリット膜を挙げることができる。この半透明膜250は光学的に無偏向の膜で構成され、入射するレーザービーム110の一部を反射光230に変換する。後述する第1光学系210は前記ユニットAをm個入射するレーザービーム110の照射方向に沿って並べたものである。入射するレーザービーム110は、反射光で減衰した強度になって隣接するスプリットユニットに順次入射する。このようにして、スプリットユニット群A1〜Amからは、m本の平行反射光A群230が放射される。
【0027】
第1光学系に用いる半透明膜は、入射光量の90.00〜99.99%を透過光、0.01〜10.00%を反射光に変換するものが好ましく、入射光量の98〜99%を透過光、1〜2%を反射光に変換するものがより好ましい。透過光及び反射光の割合が上記範囲であると、レーザービームが最後に通過するスプリットユニットAmへの充分な入射光量を確保でき、また、全てのスプリットユニットにおいて表面プラズモン共鳴現象を利用した測定に必要な光量の反射光を確保できる。
【0028】
図5は、第2光学系220のスプリットユニット群B11〜Bmnの1ユニットBを示す斜視図である。図5中260はユニットを構成する透明な直方体の一つの対角面に沿って設けた半透明膜である。半透明膜260は光学的に無偏向の膜で構成され、入射する平行反射光Aのうち1本の反射光230の一部を反射光240に変換する。入射する反射光230は、反射光240で減衰した強度になって隣接するスプリットユニットに順次入射する。このようにして、スプリットユニット群B11〜Bmnからは、mn本の平行反射光B群240が放射される。
【0029】
第2光学系に用いる半透明膜も、上記と同様の理由で入射光量の90.00〜99.99%を透過光、0.01〜10.00%を反射光に変換するものが好ましく、入射光量の98〜99%を透過光、1〜2%を反射光に変換するものがより好ましい。
【0030】
図6は、第1光学系210のスプリットユニット群A1〜Am及び第2光学系220のスプリットユニット群B11〜Bmnの配置例を示す斜視図である。図6において、LAlはスプリットユニットAlからの反射光、LAmはスプリットユニットAmからの反射光、LB1nはスプリットユニットB1nからの反射光、LBm1はスプリットユニットBm1からの反射光、LBmnはスプリットユニット群B11〜Bmnからの反射光群をそれぞれ示す。
【0031】
図7は、センサー300における測定セル330(m×n個)の配置例を示す斜視図である。
【0032】
図8は、異なるアプリケーションに対応する角度のプリズムを装着する場合のプリズム自動設置・密着機構の例を示す概略構成図である。図8では、プリズム角度がθ1のプリズム(図7において使用)から、プリズム角度がθ2(θ1<θ2)のプリズムへの変更を例示したものでる。プリズム交換後、ビームスプリッター200と検出器500がそれぞれガイドバー730に設けた長孔732に沿って移動し、且つ各々ビームスプリッター回転軸710及び検出器回転軸720を中心に回動してプリズム410の両側面に密着させる。
【0033】
図9は、本発明におけるシステム構成例の説明図である。図9において、先ず光源から1本のレーザービームがビームスプリッターに照射され、ビームスプリッターからmn本の平行反射光群がセンサーに向けて放射される。この時、センサー内の各測定セルはブランクの状態にしておく。センサーの各測定セルからのmn本の反射光群がフォトダイオードアレイ検出器群に照射され、各検出器で検出された光学データが、マルチチャンネル・フォトダイオードプリアンプを経てマルチチャンネル・S/H付A/Dコンバーターで変換される。これらのデータは、光路の相違による各測定セルへの光量の相違を補正するためのデータとしてPCに記録される。次いで、各測定セルに測定試料を入れ上記と同様に各検出器で光学データを測定する。得られた光学データをPCの上記補正用データにて補正し測定結果とする。
【0034】
図10は、第1光学系のスプリットユニット作製の一例を示す図である。図10(i)はガラス板810の片面に半透明膜820を蒸着した蒸着ガラスの断面図である。図10(ii)は、この蒸着ガラス(i)複数枚を各々半透明膜蒸着面を上側にし、公知の一体化技術で積層した積層ガラス(ii)の断面図である。図10(ii)中830は接着剤層を示す。この積層ガラスを図10(ii)の点線a〜dに示すように積層ガラスの表面に対して45度の角度で切断することにより、図10(iii)の斜視図に示した第1光学系のスプリットユニットA群を作製する。このスプリットユニットA群は、図6中にも第1光学系のスプリットユニット群(A1〜Am)として例示してある。
【0035】
図11は、第2光学系のスプリットユニット作製の一例を示す図である。図10の場合と同様に、図11(i)は蒸着ガラスの断面図、図11(ii)は積層ガラスの断面図である。この積層ガラスを図11(ii)の点線a〜dに示すように積層ガラスの表面に対して45度の角度で切断することにより、図11(iii)の斜視図に示した第2光学系のスプリットユニットB群を作製する。図11(i)〜(iii)に示したように、スプリットユニットB群を作製する場合は、幅広の蒸着ガラス(i)を必要としる。このスプリットユニットB群は、図6中にも第2光学系のスプリットユニット群(B11〜B1n…………Bm1〜Bmn)として例示してある。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
(マルチチャンネルセンサーを用いた実施例)
本発明によるマルチチャンネル表面プラズモン共鳴現象測定装置を用いた25チャンネル同時一斉分析の実施例を以下に示す。
【0037】
レーザー光源、二組のマルチビームスプリッター、角度固定台形プリズム、25個の3×2mm角フォトダイオード、および電気回路からなるマルチチャンネルSPRのための光学系と計測ソフトウエアを作製して、25チャンネルセンサーの評価を実施した。
【0038】
実施例に用いたマルチビームスプリッターは以下の通り作製した。即ち、50mm角、厚さ1.77mmのガラス板(BK7)を7枚用意し、光の透過率を調整するための誘電体多層膜を各ガラス板の片面に形成させた。誘電体多層膜の形成は、誘電体であるチタンを含む物質をソースとし、上記ガラス板の片面をターゲットとして真空蒸着法によりガラス板の表面にマルチARコーティングを施すことにより実施した。このようにして、波長680nmの光線の透過率が99%、反射率が1%の光反射ミラーを作製した。次いで、これら7枚の光反射ミラーの各コーティング面を上側とし、コーティング面と非コーティング面とを光硬化型接着剤(NOLAND社製、登録商標NOA55、屈折率1.52)を用いて順次貼り合わせて光反射ミラー積層体を作製した。更に、この光反射ミラー積層体からスプリットユニットを切り出し、ビームの直進精度を向上させるために切り出し端面を面精度1/8λで研磨して、スプリットユニットA及びスプリットユニットBを得た。得られたスプリットユニットA及びスプリットユニットBをそれぞれの目的が得られるように配置して、25チャンネルSPR同時計測のためのレーザー光マルチビームスプリッターを作製した。このようにして作製したマルチビームスプリッターは、図6においてmが5行、nが5列の配置であり、第1光学系のスプリットユニット群Aは12.5mm×2.5mm×2.5mmの大きさであり、第2光学系のスプリットユニット群Bは、12.5mm×12.5mm×2.5mmの大きさである。各ユニット群の反射面は、スプリットユニット群Aは5面、第2光学系のスプリットユニット群Bは25面である。
【0039】
次に、実施例で用いた25チャンネルSPR用センサーの構造を図12及び図13に示す。図12は25チャンネルSPR用センサーの正面図、図13は図12のa−a線に沿った断面図である。図12及び図13でセンサーは25mm角、厚みが0.1mm、屈折率が1.5150のガラスプレート(BK7)に厚み45nmの金を蒸着したセンサー基盤、吸湿性樹脂の詰まった25チャンネルのセルを持つ25mm角、厚さ1mmの接着性シリコンプレート、プリズム(BK7)との光整合性をとるための屈折率を調整した厚み0.1mmのPVC光インターフェイス膜で構成されている。
【0040】
SPRの測定に当たっては、先ずセンサーを所定の位置にセットし、次に21個のセルに濃度の異なる1から10%のグルコースを順次マイクロピペットで5μL加えた。残りの4個のセルには参照としての純水と標準液として1,3,5%のグルコースを同量入れた。計器本体の測定ボタンを押すと、直ちに一斉同時SPR計測が開始され、標準液と純水との差動計測による測定結果が、1分後にコンピューター画面上に、各チャンネル毎に参照とのSPR強度の差および測定対象の濃度が表示された。表示の一部とSPR強度の差と濃度の関係を表1及び図14に示す。表1及び図14から明らかなように、本発明に基づくマルチチャンネル表面プラズモン現共鳴現象測定装置の有用性は明らかであり、25チャンネルからのSPR情報は濃度情報と極めてよく一致している。
【0041】
【表1】

[実施例2]
また、本発明の免疫計測への適用の可能性を明らかにするために、IgG−antiIgG反応に基づく25チャンネル免疫センサーの検討を行った。グルコースの替わりに免疫グロブリンIgGを用いた以外は実施例1同様に測定を行った。その結果、グルコースの場合と同様の結果が得られ、本発明は、免疫計測への応用も出来ることも明らかになった。
【0042】
従って、本発明によれば、SPR計測で不可能であったパームサイズ、オンサイト、リアルタイム、マルチチャンネル同時一斉分析が可能となり、多様性を持つSPR計計測分野に新たな展開が開かれたことになった。
【0043】
尚、上述した実施例においては、本発明の効果を証明するという観点からチャンネル数の少ない25チャンネルで検討したが、本発明では入射光同士の干渉が起こらない条件でセンサーを密にすることが出来るので、微細加工技術を用いてセンサーをマイクロチップ化することで更なる多チャンネル化は容易であり、手のひらサイズの96穴新規ELISA相当品なども簡単に作ることが出来る。またパームという条件で30mm角基盤の限界を超える場合には、基盤をさらに大きくすることで、多チャンネル化に対応できるなど、本発明は多チャンネル化に対して多様性がある。この結果、従来多成分同時分析が望まれていた環境、農薬、食品、ドラッグ、遺伝子などの分野で本発明に基づく新規化学分析機器の今後の活躍が期待でき、有機物から派生する様々な諸問題の効率的な解決に、本発明の寄与は明らかで、本発明は多面的な情報に基づいた信頼性を確立する時代である21世紀における人類の安全と生体サイエンスの草の根的発展に極めて有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の表面プラズモン共鳴現象測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】センサー内の測定セルの位置関係を示す説明図である。
【図3】検出器内のフォトダイオードアレイ検出器群の位置関係を示す説明図である。
【図4】第1光学系のスプリットユニットの一例を示す斜視図である。
【図5】第2光学系のスプリットユニットの一例を示す斜視図である。
【図6】第1光学系のスプリットユニット群A及び第2光学系のスプリットユニット群Bの配置例を示す斜視図である。
【図7】センサーにおける測定セルの配置例を示す斜視図である。
【図8】異なるアプリケーションに対応する角度のプリズムを装着する場合のプリズム自動設置・密着機構の例を示す概略構成図である.
【図9】本発明におけるシステム構成例の説明図である。
【図10】第1光学系スプリットユニット作製の一例を示す図である。
【図11】第2光学系スプリットユニット作製の一例を示す図である。
【図12】実施例に用いた25チャンネルSPR用センサーの構造を示す図である。
【図13】図13のa−a線に沿った部分断面図である。
【図14】実施例におけるSPR強度の差と濃度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
100 光源
110 レーザービーム
200 ビームスプリッター
210 第1光学系
220 第2光学系
230 平行反射光A群
240 平行反射光B群
250 半透明膜
260 半透明膜
300 センサー
310 ガラス板
320 金属膜
330 測定セル
340 反射光C群
410 プリズム
420a 偏光子
420b 偏光子
500 検出器
510 フォトダイオードアレイ検出器群
710 ビームスプリッター回転軸
720 検出器回転軸
730 ガイドバー
732 長孔
810 ガラス板
820 半透明膜
830 接着剤層
A 第1光学系のスプリットユニット
A1〜Am 第1光学系のスプリットユニット群
B 第2光学系のスプリットユニット
B11〜B1n……Bm1〜Bmn 第2光学系のスプリットユニット群
LAl スプリットユニットAlからの反射光
LAm スプリットユニットAmからの反射光
LB1n スプリットユニットB1nからの反射光
LBm1 スプリットユニットBm1からの反射光
LBmn スプリットユニット群BmNからの反射光群
θa 入射角
θb 反射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)プリズムと、
(2)プリズムの底面に形成された金属膜上に複数の測定セルをm行n列(m≧2、n≧2)形成したセンサーと、
(3)一本のレーザービームを放射する光源と、
(4)直方体の一つの対角面に沿って半透明膜を設けた光学ユニットを前記レーザービームの放射方向に対してm個連設して、該レーザービームを透過光とm個の平行反射光A群とに変換する第1光学系と、
(5)前記光学ユニットを、前記平行反射光A群のm個の各反射光の照射方向に対してそれぞれn個連設してなり、前記平行反射光を透過光とmn個の平行反射光群Bとに各々変換する第2光学系であって、前記反射光群Bの照射方向を前記プリズムの底面に形成した金属膜上の測定セルに向けてプラズモン共鳴角を含む入射角で照射させ、その反射光C群をプリズムの他側面から放射させる、前記プリズムの一側面に取付けた第2光学系と、
(6)前記反射光C群の延長線上に配置されたm行n列のフォトダイオードアレイ検出器群と、
(7)前記第1光学系と前記第2光学系とを有するビームスプリッターとプリズムとの間、及び/又はプリズムとフォトダイオードアレイ検出器との間に介装した偏光子と
を有する表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【請求項2】
光学ユニットが入射光量の90.00〜99.99%を透過光、0.01〜10.00%を反射光に変換する請求項1に記載の表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【請求項3】
センサーに試料を入れていないブランク測定時の反射光C群の各光量を記憶し、試料測定時の反射光C群の光量の補正を行う演算手段を有する請求項1に記載の表面プラズモン共鳴現象測定装置。
【請求項4】
直方体の一つの対角面に沿って半透明膜を設けた光学ユニットを前記レーザービームの放射方向に対してm個連設して、該レーザービームを透過光とm個の平行反射光A群とに変換する第1光学系と、前記光学ユニットを、前記平行放射光A群のm個の各反射光の照射方向に対してそれぞれn個連設してなり、前記平行反射光を透過光とmn個の平行反射光B群とに各々変換する第2光学系とを有するビームスプリッターと、m行n列のフォトダイオードアレイ検出器と、前記ビームスプリッターとフォトダイオードアレイとを連結する結合部材とからなり、前記結合部材がビームスプリッターとフォトダイオードとのなす角度と距離とを変更する手段を有する表面プラズモン共鳴現象測定装置用光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−3214(P2006−3214A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179841(P2004−179841)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(504067527)有限会社メビウスアドバンストテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】