説明

表面親水化ポリオレフィン系成形体

【課題】ポリオレフィンが有する特性を実質的に損なうことなく、高い親水性を付与され、かつ、その親水性能の経時的低下が少ないポリオレフィン系成形体を提供すること
【解決手段】ポリオレフィン成形体(A)表面に、カチオン性重合体(B)が、共有結合を介しグラフト化していることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。カチオン性重合体(B)の好ましい態様は、カチオン性ビニル系モノマーの付加(共)重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン成形品に関するものであって、高い濡れ特性や低摩擦性を有すポリオレフィン成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、加工性、耐薬品性、機械的強度、透明性などの物性が優れているために、フィルム、シート、容器などをはじめとする各種成形品として広く使用されている。しかしながら、ポリオレフィンは本来疎水性であるために、成形品の表面を塗装する必要があるなどの用途によっては、そのままでは対処できないという問題点がある。
【0003】
例えば、包装材料として広く使用されている二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)のガスバリアー性を高めるために、ポリビニルアルコール水溶液を塗布し、ポリビニルアルコールの薄膜を形成させる場合には、OPP表面が本質的に疎水性であるために、ポリビニルアルコール水溶液を均一に塗布させることができないという問題がある。このような問題は、親水性に乏しい一般のポリオレフィン成形品、に水性塗料や他の重合体水性分散液などを塗布する場合にも同様に起こる。
【0004】
ポリオレフィン成形品の親水性を高めるために、熱処理、波動エネルギーまたは粒子線による処理、プラズマ処理、コロナ処理などさまざまな表面処理が試みられており、それぞれにおいてあるレベル迄の技術開発がなされている。コロナ処理はポリオレフィン成形品の親水性を高めるために利用されているが、ポリプロピレンのような熱分解性のポリオレフィンの場合には、処理後に経時的に親水性が低下する傾向が見られ、根本的な解決方法であるとは言い難い。熱分解性ポリオレフィンにおいてこのように親水性が低下する原因は、熱分解性ポリオレフィンにおいては、成形時に生成した低分子量重合体が経時的に表面にブリードアウトし、これがコロナ処理面を覆うためと考えられている。
【0005】
また、プラズマ重合による表面処理では、重合にあずかる単位は、モノマー連鎖重合体でなく、モノマーを形成している原子であって、重合の過程において原子の再配列が盛んに行われる。その結果、生じたポリマーの分子構造と出発物質のモノマーの分子構造との間には、構造上の類似性が乏しいことが知られている(非特許文献1)。 このような事情によって、モノマーの官能基構造から発現される物性をポリオレフィン成形体表面に反映させることが難しいという問題点があった。
【0006】
一方、ポリオレフィンフィルム表面に導入した重合開始基から極性モノマーを制御ラジカル重合させる手法、例えば、非特許文献2や非特許文献3の如く、高密度ポリエチレンフィルム表面にメタクリル酸メチル重合体を導入した例、非特許文献4の如く、イソタクチックポリプロピレンフィルム表面にN-イソプロピルアクリルアミド重合体を導入した例、または、非特許文献5の如く、エチレン−アクリル酸共重合体フィルム表面にアクリルアミド重合体をグラフト化した例等が報告されている。 これらの手法は、ポリオレフィンフィルム表面のみに極性モノマー重合体を導入することを可能にし、先に述べたブリードアウトの問題等が起りにくい温和な表面改質方法といえる。しかしながら、いずれの報告も、ポリオレフィン成形体表面の高親水性化という観点から、十分であるとはいえなかった。
【非特許文献1】H.Yasuda, “Glow Discharge Polymerization,” <Contemporary Topics in Polymer Science>, Vol.3, ed. by Mitchel Shen, Plenum Pub. Co., New York(1979)
【非特許文献2】J.Polym.Sci, Part A: Polymer Chemistry 40, 3350-3359(2002)
【非特許文献3】Polymer, 44,7661-7669(2003)
【非特許文献4】Polymer, 44,7645-7649(2003)
【非特許文献5】J. Appl. Polym. Sci., 92, 1589-1595(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリオレフィンが有する特性を実質的に損なうことなく、高い親水性が付与され、かつ、その親水性能の経時的低下が少ないポリオレフィン系成形体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリオレフィン成形体表面にカチオン性重合体(B)が共有結合を介しグラフト化されている表面親水性ポリオレフィン成形体が、水表面接触が極めて小さく、親水性が長期的に保持されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
長期的な親水性、防曇性、濡れ特性や低摩擦性に優れたポリオレフィン系成形体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る表面親水性ポリオレフィン系成形体について具体的に説明する。
本発明に係る表面親水性ポリオレフィン系成形体は、ポリオレフィン系成形体(A)表面を高親水化させたものであり、適用されるポリオレフィン成形体(A)は、ポリオレフィン樹脂を必須とする成形体であって、圧縮成形、射出成形、押出成形、押出しラミネート成形、インフレーション加工、中空成形、あるいはそれらを二次加工したものであり、形状を保持できるものである。
【0011】
本発明に用いられるポリオレフィン成形体(A)は、表面の一部、または全面にポリオレイン樹脂が露出している成形体であって、このような要件を満たす限りは、ポリオレフィン以外の材料との複合加工品であってもかまわない。
【0012】
ポリオレフィン成形体(A)を構成する主成分のポリオレフィン樹脂とは、エチレンまたはα-オレフィンを主成分モノマーとする(共)重合体であり、好ましいポリオレフィン樹脂として、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン系エラストマ−、プロピレン系エラストマー、イソタクチックポリポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、高圧法低密度ポリエチレン及びそのアクリル酸、アクリル酸エステル、酢酸ビニルとのコポリマー、ポリオレフィン系アイオノマー、4−メチルペンテン−1重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0013】
これら、エチレンまたは/およびα-オレフィンを主成分とする(共)重合体は、部分的または樹脂全体として架橋されていたり、3次元ネットワーク構造を形成していてもよく、また、2種類以上の重合体セグメントが、ブロック的に結合した構造や、グラフト状に結合した構造、あるいは、モノマー組成が傾斜的に変化する重合体でも構わない。
【0014】
また、過酸化物存在下、アクリル酸エステルや無水マレイン酸などで、グラフト変性されたポリオレフィン樹脂など、上記のポリオレフィン樹脂を公知の手法で変性させた樹脂も、本発明に係るポリオレフィン成形体を構成するポリオレフィン樹脂として用いることができる。
【0015】
上記した樹脂の2種類以上の組成物が、ポリオレフィン成形体(A)を構成する主成分のポリオレフィン樹脂であっても構わない。
【0016】
ポリオレフィン成形体(A)には、後述するグラフト化反応を阻害しない範囲において、必要に応じて各種添加剤が配合されていても構わない。添加剤としては、例えば軟化剤、安定剤、充填剤、酸化防止剤、結晶核剤、ワックス、増粘剤、機械的安定性付与剤、レベリング剤、濡れ剤、造膜助剤、架橋剤、防腐剤、防錆剤、顔料、充填剤、分散剤、凍結防止剤、消泡剤、無機フィラー等が挙げられ、これらは単独で、或いは2種類以上組み合わせて添加されていても良い。
【0017】
本発明の表面親水性ポリオレフィン系成形体は、高親水性化を図る手段として上述のポリオレフィン成形体(A)の表面にカチオン性重合体(B)が共有結合を介しグラフト化していることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体である。
【0018】
カチオン性重合体(B)とは、カチオン性官能基が共有結合にて重合体中に導入されている構造を言う。カチオン性官能基は、4級アンモニウムカチオン、N−アルキルイミダゾールカチオン、N−アルキルピリジニウムカチオン等が好ましく挙げられる。
【0019】
カチオン性官能基の対アニオンとしては、カチオン性重合体(B)と共有結合していないアニオン性原子又はアニオン性分子であれば、特に限定されるものではないが、一般的に、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、メチルスルホン酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、過酸化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。
【0020】
通常、カチオン性重合体(B)の分子量が大きい程、また、カチオン性重合体(B)におけるカチオン密度が高いほど本発明のポリオレフィン成形体表面の親水性を向上させることが可能となる。
【0021】
カチオン性重合体(B)の数平均分子量としては、通常500以上、好ましくは2000以上であることが好ましく、分子量分布が狭い方が、表面の均質な親水性を付与する為に好都合である。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、すなわちMw/Mnの値として、通常1.0以上3.0未満、1.0以上2.0未満であることが好ましい。
カチオン性重合体(B)中には、カチオン性官能基がランダムに導入されていても、ブロック的に導入されていても、また、傾斜的に導入されていても良いが、カチオン性重合体(B)の末端部分にのみカチオン性官能基が導入されているものは、十分な親水性を発現することができないため、本発明に係るカチオン性重合体(B)の範疇外である。
【0022】
カチオン性重合体(B)は、通常、ビニル系モノマーの付加重合体をベースとするが、カチオン性ビニルモノマーの付加(共)重合体であることが好ましい。
【0023】
ここでいうビニル系モノマーとは、1分子中に最低1つの炭素-炭素2重結合を有す化合物であり、なかでも、アニオン重合、またはラジカル重合可能なモノマーが製造上好ましく、例えば、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、スチリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、メタクリルアミド系モノマー等が、特に好ましい構造として挙げられる。
【0024】
つまり、カチオン性ビニルモノマーとは、先に述べた4級アンモニウムカチオン、N−アルキルイミダゾールカチオン、N−アルキルピリジニウムカチオン等に代表されるカチオン性官能基が共有結合されたビニルモノマーであり、通常、対アニオンとして、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、メチルスルホン酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、過酸化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン等の低分子アニオンで、電気的に中和された構造のモノマーを言う。
【0025】
好ましいカチオン性ビニル系モノマーとして、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルホン酸塩、2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、1−メチル−2−ビニルピリジニウムトリフレート、1−メチル−2−ビニルピリジニウムクロリド、1−メチル−4−ビニルピリジニウムクロリド、1−メチル−4−ビニルピリジニウムブロミドが例示される。
【0026】
これらのカチオン性ビニルモノマーは、単独重合体としてカチオン性重合体(B)を形成していても、2種類以上のカチオン性ビニル系モノマーの共重合体としてカチオン性重合体(B)を形成していても良い。
【0027】
更に、場合によっては、カチオン性ビニル系モノマーの特徴である親水性を残す範囲で、他のあらゆるビニル系モノマーとの共重合体としてグラフト化されていてもよい。
【0028】
ポリオレフィン成形体表面におけるカチオン性重合体(B)の膜厚は特に制限はないが、平均膜厚として数十nm程度で、十分にカチオン性ビニル系モノマー特有の高親水性を発現させることが可能である。
【0029】
カチオン性重合体(B)は、少なくともそのポリマー末端において、ポリオレフィン成形体(A)表面における先に述べたポリオレフィン樹脂鎖と共有結合で連結している。
【0030】
この共有結合様式について、カチオン性重合体(B)はポリオレフィン成形体(A)表面に存在するポリオレフィン鎖と直接共有結合で結ばれていることが好ましいが、表面を被覆する重合体(B)の親水性能を損なわない程度の短いスペーサー連結部(好ましくは、重合体(B)の重量に対し5重量%未満)を有していても構わない。
【0031】
次に、本発明の親水性ポリオレフィン系成形体を製造する好ましい方法について説明する。
本発明の表面親水性ポリオレフィン系成形体は、ポリオレフィン成形体(A)を調製した後に、その表面に、カチオン性重合体(B)を導入する工程を経て製造される。
まず、ポリオレフィン成形体(A)を調製する工程について説明する。
【0032】
ポリオレフィン成形体(A)を調製するための成形加工法は特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、押出成形、中空成形、熱成形、プレス成形などの各種成形法が適応できる。また、これらは、ポリオレフィン以外の各種材料との複合材料としても適用される。
【0033】
続いてカチオン性重合体(B)を導入する工程について説明する。
カチオン性重合体(B)を先に説明したポリオレフィン成形体(A)の表面に導入する方法としては、ポリオレフィン成形体(A)の表面に存在する重合開始基を開始反応点としてビニル系モノマーを重合させることによってカチオン性重合体(B)を導入する方法が好ましく適用される。
【0034】
重合開始基をポリオレフィン成形体(A)に導入する方法は、特に限定されるものではない。通常は、(1) あらかじめ、重合開始基が導入されたポリオレフィン樹脂を成形する方法、(2) ポリオレフィン成形体に低分子あるいは高分子の重合開始基を表面修飾させる方法、(3) 重合開始基を有す化合物または樹脂をあらかじめ調製されたポリオレフィン成形体に塗布する方法等によって重合開始基が導入される。また、フィルムやシートに成形された、重合開始基が導入されたポリオレフィン樹脂を他の樹脂フィルム成形体、金属、紙あるいは木材などに積層化または複合化した状態でも良い。
【0035】
次いで、ポリオレフィン成形体(A)表面に存在する重合開始基を開始反応点としてビニル系モノマーを重合させることにより重合体をグラフト化することが可能となる。カチオン性基を導入するための方法としては、(I)カチオン性ビニル系モノマーを重合させる手法や、(II)非カチオン性ビニル系モノマーを重合させた後に化学修飾によりカチオン性基を発生させる手法が挙げられるが、製造上の簡便さから前者が好ましく用いられる。
【0036】
ポリオレフィン系成形体表面にカチオン性ビニル系モノマーを重合させる方法として、アニオン重合法、または制御ラジカル重合法が有力な方法として適用可能であるが、カチオン性ビニル系モノマーの性質を勘案すると制御ラジカル重合法が好ましく用いられる。アニオン重合法などのイオン重合法では、本発明に係わるカチオン性ビニル系モノマーが重合活性点の被毒化を起こす場合がある。
【0037】
制御ラジカル重合とは、従来の過酸化物添加系によるフリーラジカル重合技術と異なり、重合系中のラジカル濃度を低く抑えることで、停止反応や連鎖移動反応などの副反応を抑制することを可能にするラジカル重合技術である。本方法によれば、しばしば重合がリビング重合様に進行することから、高分子かつ挟分子量分布のセグメントを得ることが可能である。
【0038】
本発明に適用される好ましい制御ラジカル重合法として、Trend Polym. Sci., (1996), 4, 456 に開示されているように、ニトロキシドを有する基を結合し熱的な開裂によりラカルを発生させモノマーを重合させる方法(NMRP: nitroxide-Mediated Radical Polymerization)、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)と呼ばれる方法、すなわち、Science,(1996),272,866、Chem. Rev., 101, 2921 (2001)、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、WO00/156795号公報、あるいは澤本ら、Chem. Rev., 101, 3689 (2001)、特開平8-41117号公報、特開平9-208616号公報、特開2000-264914号公報、特開2001-316410号公報、特開2002-80523号公報、特開2004-307872号公報で開示されているような、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒としてラジカル重合性単量体をラジカル重合する方法、あるいは、可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT :Reversible Addition Fragmentation Chain Transfer)と呼ばれる重合法が挙げられる。
【0039】
ラジカル重合開始基の導入方法の容易さ、及び選択できるモノマー種の豊富さから、原子移動ラジカル重合法は、本発明に係るカチオン性ビニル系モノマーの(共)重合体(B)を導入するために有力な制御ラジカル重合法である。
【0040】
以下、更に具体的に、原子移動ラジカル重合法を用いた製造法を説明する。
原子移動ラジカル重合の開始構造としては、Science,(1996),272,866等に示されるように、ハロゲン原子が結合している基が必要であり、中でも、結合したハロゲン原子の結合解離エネルギーが低い構造が好ましい。
【0041】
例えば、3級炭素原子に結合したハロゲン原子、ビニル基、ビニリデン基またはフェニル基などの不飽和炭素―炭素結合に隣接する炭素原子に結合したハロゲン原子、あるいは、カルボニル基、シアノ基、スルホニル基等のヘテロ原子含有共役性基に直接または隣接する原子に結合したハロゲン原子が導入された構造などが好ましい構造として挙げられる。
【0042】
このような、原子移動ラジカル重合開始能を有するハロゲン原子をポリオレフィン成形体表面に導入する方法としては、官能基変換法や直接ハロゲン化法などが有効である。
官能基変換法とは、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、ビニル基、シリル基等の官能基含有ポリオレフィンの官能基部位を原子移動ラジカル開始基構造に変換する方法であり、例えば、公開特許公報(特開2004-131620号公報)の如く、水酸基含有ポリオレフィンを2−ブロモイソ酪酸ブロミドの様な低分子化合物で修飾する方法により原子移動ラジカル重合開始能を有す表面ハロゲン化ポリオレフィン成形体を得る手法である。
一方、直接ハロゲン化法とは、ハロゲン化剤をポリオレフィンに直接作用させ、炭素−ハロゲン結合を有すハロゲン化ポリオレフィンを得る方法である。
【0043】
使用するハロゲン化剤や導入されたハロゲン原子の種類については特に限定されるものではないが、原子移動ラジカル開始骨格の安定性と開始効率のバランスより臭素原子を導入された臭素化ポリオレフィンが好ましい。
このような観点より、直接ハロゲン化法によるハロゲン化ポリオレフィンを製造するにあたって、ハロゲン化剤として好ましくは、臭素(ブロミン)やN−ブロモスクシンイミド(NBS)が挙げられる。
【0044】
例えば臭素化について、G. A. Russelらによる、J. Am. Chem. Soc., 77, 4025 (1955)に開示されているような、臭素を光照射下で反応させることによってアルケンを臭素化させる光臭素化反応やP. R. Schneinerらによる、Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 37, 1895 (1998)に開示されているような、50%NaOH水溶液と四臭化炭素の存在下に溶媒中で加熱還流することで、環状アルキルを臭素化する方法、M. C. Fordらによる、J. Chem. Soc., 2240 (1952)に開示されているN−ブロモコハク酸イミドをアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いてラジカル反応でアルキル末端を臭素化する方法等により、原子移動ラジカル重合開始能を有す表面臭素化ポリオレフィン成形体を得ることが可能となる。
【0045】
このようにして得られたハロゲン化ポリオレフィン成形体が、その表面にて原子移動ラジカル重合される。成形体表面におけるハロゲン原子の存在は、X線光電子分光装置、電子線マイクロアナライザー、又は赤外分光光度計等の分光学的手法により確認することが可能である。
【0046】
原子移動ラジカル重合は、上記により得られたハロゲン化ポリオレフィン成形体を、脱酸素雰囲気下、カチオン性ビニル系モノマー及び触媒成分と接触させることにより行われる。
【0047】
この時溶媒を用いることも可能であるが、使用できる溶媒としては、重合反応を阻害せず、かつ、重合温度にてハロゲン化ポリオレフィン成形体を溶解させないものである。例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびテトラクロルエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチルおよびジメチルフタレート等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキシアニソールのようなエーテル系溶媒等をあげることができる。また、水を溶媒とすることもできる。これらの溶媒は、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
重合温度は、原子移動ラジカル重合開始基が導入されたハロゲン化ポリオレフィン成形体が溶融または膨潤しない温度でかつラジカル重合反応が進行する温度であれば任意に設定できる。所望する重合体の重合度、使用するラジカル重合開始剤および溶媒の種類や量によって一様ではないが、通常、-50℃〜150℃、好ましくは0℃〜80℃であり、更に好ましくは0℃〜50℃である。重合反応は場合によって減圧、常圧または加圧の何れでも実施できる。反応実施後は、触媒残査、未反応モノマー、溶媒を取り除くために既知のあらゆる精製・乾燥方法を用いても良い。
【0049】
得られた成形体表面にカチオン性ビニル系モノマーの(共)重合体(B)が、導入されたことは、X線光電子分光装置、電子線マイクロアナライザー、又は赤外分光光度計等の分光学的手法により確認することが可能である。
【0050】
本発明の表面親水化ポリオレフィン系成形体は、その表面高親水性能、低摩擦性能を生かし種々の用途に使用できるが、例えば以下の用途に使用できる。
【0051】
(1)フィルムまたはシート 本発明に係るフィルムおよびシート状の表面親水性ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン特有の強度、耐衝撃性、耐溶剤安定性を保持しつつ、極めて高い親水性、防曇性、生体適合性を有す。
(2)本発明に係るポリオレフィン系成形体からなる層を少なくとも1層含む積層体 例えば農業用フィルム、ラップ用フィルム、シュリンク用フィルム、プロテクト用フィルム、血漿成分分離膜、水選択透過気化膜などの分離膜例、イオン交換膜、バッテリーセパレータ、光学分割膜などの選択分離膜など。
(3)マイクロカプセル、PTP包装、ケミカルバルブ、ドラッグデリバリーシステム。
(4)建材・土木用材料 例えば、床材、床タイル、床シート、遮音シート、断熱パネル、防振材、化粧シート、巾木、アスファルト改質材、ガスケット・シーリング材、ルーフィングシ-ト、止水シート等の建材・土木用樹脂および建材・土木用成形体など。
(5)自動車内外装材およびガソリンタンク 本発明に係る表面親水性ポリオレフィン成形体からなる自動車内外装材、ガソリンタンクは剛性、耐衝撃性、耐油性、耐熱性に優れる。
【0052】
(6)電気、電子部品等電気絶縁材料;電子部品処理用器材;磁気記録媒体、磁気記録媒体のバインダー、導電性フィルム、電気回路の封止材、家電用素材、電子レンジ用容器などの容器用器材、電子レンジ用フィルム、高分子電解質基材、導電性アロイ基材等。コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチコイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、光コネクター、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、電磁シールド材、スピーカーコーン材、スピーカー用振動素子等。
【0053】
(7)塗料ベース表面硬化材料 本発明に係る表面親水性ポリオレフィン成形体からなる成形品は各種の塗料及び極性モノマーとの親和性に富むことから、アクリル系モノマー、多官能性アクリル系モノマーや塗料等をコートすることによるによる光硬化材料または熱硬化材料として用いられる。
(8)医療・衛生用材料不織布、不織布積層体、エレクトレット、医療用チューブ、医療用容器、輸液バッグ、プレフィルシリンジ、注射器などの医療用品、医療用材料、細胞培養基盤、人工臓器、人工筋肉、濾過膜、食品衛生・健康用品;レトルトバッグ、鮮度保持フィルムなど。
(9)雑貨類デスクマット、カッティングマット、定規、ペンの胴軸・グリップ・キャップ、ハサミやカッター等のグリップ、マグネットシート、ペンケース、ペーパーフォルダー、バインダー、ラベルシール、テープ、ホワイトボード等の文房具:衣類、カーテン、シーツ、絨毯、玄関マット、バスマット、バケツ、ホース、バック、プランター、エアコンや排気ファンのフィルター、食器、トレー、カップ、弁当箱、コーヒーサイフォン用ロート、メガネフレーム、コンテナ、収納ケース、ハンガー、ロープ、洗濯ネット等の生活日用雑貨類:シューズ、ゴーグル、スキー板、ラケット、ボール、テント、水中メガネ、足ヒレ、釣り竿、クーラーボックス、レジャーシート、スポーツ用ネット等のスポーツ用品:ブロック、カード、等の玩具:灯油缶、ドラム缶、洗剤やシャンプー等のボトル、等の容器;看板、パイロン、プラスチックチェーン:等の表示類等。
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
ポリエチレンシート表面に、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド重合体が、共有結合を介し表面にグラフト化した表面親水性ポリエチレンシート状成形体
[原子移動ラジカル重合開始基を導入したポリエチレンシート]
特開2002-145944記載の方法に準じて製造したエチレン/10-ウンデセン-1-オール共重合ポリマー(高温GPC測定によるエチレン換算数平均分子量 Mn=29300,Mw/Mn=2.06,1H NMR測定より得られるコモノマー含量0.79mol%、) 40gを、脱気窒素置換された2Lガラス製重合器に入れ、トルエン600ml、2-ブロモイソ酪酸ブロミド4.9mlをそれぞれ添加し、90℃に昇温し、2時間加熱撹拌した。室温に戻し、析出したスラリー状ポリマー溶液を、桐山ロートでろ過した後、再度、メタノール1Lで攪拌洗浄を行い、再度、桐山ロートでろ過した。ロート上のポリマーをメタノール200mLで3回リンスした。ポリマーを50℃、10Torrの減圧条件下で10時間乾燥させ、白色ポリマーが得られた。H-NMR測定の結果、水酸基が2-ブロモイソ酪酸基で修飾されたハロゲン化ポリエチレンであった。このハロゲン化ポリエチレンを圧縮成形機(180℃,10MPa)により、厚さ1.0mmのシートに成形した。成形されたポリエチレンシート表面のATR/IR測定より、1730cm-1にエステカルボニル伸縮振動の吸収が観察されることから、シート表面に原子移動ラジカル開始基が存在することを確認した。
【0056】
[ポリエチレンシート状成形体表面でのメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(以下、MCモノマー)の重合]
十分に脱気アルゴン置換したセパラブル型重合器に、上記により得られたポリエチレンシート、メタノール45.7mlとMCモノマー(80%水溶液)18.8ml(72mmol)を加え、シートを完全に浸漬させた。分子量追跡の為に、ブロモイソ酪酸エチル(EBiB)0.13mmolを添加し、30分間アルゴンガスをバブリングさせた後、臭化銅(I) 42mg(0.29mmol)及び、4,4’ジメチル−2,2’−ビピリジル 108mg(0.0.59mmol)を入れ重合を開始した。27℃で43時間重合させた後、0℃まで冷却させ、取り出したポリエチレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを、100℃で1時間真空乾燥し、表面親水性ポリエチレンシートを得た。また、EBiBを開始末端とするMCモノマーのホモ重合体の1H NMR解析より、シート表面にグラフト化されたMCモノマー重合体の分子量が、94000であることが推定された。また、シート表面の親水性を評価するため以下の方法により水接触角測定を実施した。
【0057】
[水接触角測定]
各サンプルシートの接触角は以下の条件で測定した。
試験機: 協和界面科学製 CA−Sミクロ2型
試験数: 各、n=5
試験液: 和光純薬工業製 高速液体クロマトグラフ用純水
測定温度: 23℃
相対湿度: 50%
試験数の平均値をとり、接触角とした。
【0058】
〔比較例1〕
ポリエチレンシート表面に、アクリルアミド重合体が共有結合を介しグラフト化したポリエチレンシート状成形体
十分に脱気アルゴン置換したセパラブル型重合器に、実施例1に記載の臭素化ポリエチレンシート、DMF30.0mlとアクリルアミド6.4g(90mmol)を加えた。更に、ゆっくり攪拌させながらイオン交換水23mlを加えアクリルアミドを完全に溶解させるとともにシートを完全に浸漬させた。30分間アルゴンガスをバブリングさせた後、臭化銅(I) 172mg(1.2mmol)及び、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン 0.5ml(2.4mmol)を入れ重合を開始した。27℃で14時間重合させた後、0℃まで冷却させ、取り出したポリエチレンシートを水中で超音波洗浄した。シートを、100℃で1時間真空乾燥し、表面にアクリルアミド重合体がグラフト化したポリエチレンシートを得た。シート表面の親水性を評価するため実施例1と同様な方法により水接触角測定を実施した。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1より、カチオン性重合体を表面にグラフト化したポリエチレンシートは、表面が高親水化されていることが明らかとなった。比較例で明らかなように、一般に親水性重合体と言われるアクリルアミド重合体をグラフト化させた場合と比較しても、高い親水性が得られているといえる。また、これら表面親水性ポリオレフィンシートは、コロナ処理の如く電子線照射による手法では困難な長期的な表面親水性保持能力も備えていることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン成形体(A)表面に、カチオン性重合体(B)が、共有結合を介しグラフト化していることを特徴とする表面親水性ポリオレフィン成形体。
【請求項2】
カチオン性重合体(B)が、カチオン性ビニル系モノマーの付加(共)重合体であることを特徴とする請求項1記載の表面親水性ポリオレフィン成形体。