説明

被覆電線

【課題】被覆層を薄肉化した場合においても耐摩耗性を向上させることができ、かつ難燃性や柔軟性などについて従来と同等の電線特性を満足させ得る被覆電線を提供する。
【解決手段】(A)ポリフェニレンスルフィド(PPS)を60質量部以上80質量部以下、(B)ポリオレフィン系樹脂(PO)を20質量部以上40質量部以下、及び前記(A)及び(B)の樹脂合計100質量部に対して、(C)チタン酸アルカリ金属塩を10質量部以上25質量部以下含む樹脂組成物を導体に被覆してなることを特徴とする被覆電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線に関し、より詳細には、被覆層の耐摩耗性及び薄肉化の両立が可能で、かつISO6722に規定される難燃性及び十分な柔軟性を有する被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などに用いられる電線は、導体の周囲にベース樹脂として塩化ビニル樹脂を用いて形成された被覆層により被覆されたものが広く用いられてきた。しかし、塩化ビニル樹脂はハロゲンを含んでいる為、車両火災時や、焼却時に有害なハロゲン系ガスが大気中に放出される為、環境汚染の問題となっていた。
その為、地球環境保護の観点からノンハロゲン系樹脂への代替が進められている。しかし、代替物としてポリオレフィン系樹脂は燃えやすく、またノンハロゲン系難燃剤はハロゲン系難燃剤と比較して難燃性に劣る為、難燃性を付与するためには難燃剤を多量添加する必要があった。その為、従来の絶縁電線では耐摩耗性などの機械特性が著しく低下するという問題があった。
【0003】
そこで上記問題を解決する為の技術として、難燃樹脂を用いた樹脂配合組成とすることで、難燃剤を添加しなくても十分な難燃性を有し、耐摩耗性及び、耐寒性に優れる絶縁電線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この絶縁電線は、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上の樹脂と、(B)ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂とを含有し、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が0.1〜60質量部の範囲内にある樹脂組成物を導体の外周に被覆してなることを特徴としている。
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁電線は、柔軟樹脂を含んでおり、IS06722に規定される電線絶縁体厚さよりも薄肉化した電線を用いてスクレープ摩耗規格で測定した場合、十分な耐摩耗性は有していない。
【0004】
その他にも、電線の被覆層を形成する樹脂にポリフェニレンスルフィド樹脂を用いて、耐摩耗性等を向上した電線が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
また、本出願人は、難燃性と耐摩耗性とを両立させるため、オレフィン系樹脂に金属水和物を混合してなる難燃オレフィン系樹脂組成物に、ポリプロピレンとチタン酸カリウムとを含有する組成物を導体に被覆してなるケーブルを提案した(特許文献4参照)。
しかし、いずれの場合も、被覆層を薄肉化した場合においては、耐摩耗性が低下する傾向にあり、それらを両立しつつ、難燃性や柔軟性を満足させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−298976号公報
【特許文献2】特開昭62−143307号公報
【特許文献3】特開平7−249319号公報
【特許文献4】特開平5−230292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の技術に鑑みなされたものであり、被覆層を薄肉化した場合においても耐摩耗性を向上させることができ、かつ難燃性や柔軟性などについて従来と同等の電線特性を満足させ得る被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)(A)ポリフェニレンスルフィド(PPS)を60質量部以上80質量部以下、(B)ポリオレフィン系樹脂(PO)を20質量部以上40質量部以下、及び前記(A)及び(B)の樹脂合計100質量部に対して、(C)チタン酸アルカリ金属塩を10質量部以上25質量部以下含む樹脂組成物を導体に被覆してなることを特徴とする被覆電線。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被覆層を薄肉化した場合においても耐摩耗性を向上させることができ、かつ難燃性や柔軟性などについて従来と同等の電線特性を満足させ得る被覆電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の被覆電線は、(A)ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と称する場合がある。)を60質量部以上80質量部以下、(B)ポリオレフィン系樹脂(以下、「PO」と称する場合がある。)を20質量部以上40質量部以下、及び前記(A)及び(B)の樹脂合計100質量部に対して、(C)チタン酸アルカリ金属塩を10質量部以上25質量部以下含む樹脂組成物を導体に被覆してなることを特徴としている。
【0010】
本発明の被覆電線は、PPSとPOのアロイにチタン酸カリウムを添加した樹脂組成物を用いて被覆層を形成することで耐摩耗性を向上させ、通常であれば被覆層を薄肉化する際に低下する耐摩耗特性についても十分な性能を保持することができる。つまり、被覆層の薄肉化と耐摩耗性を両立することができる。また、それとともに、IS06722に準拠する難燃性を満足し、ワイヤーハーネスの配作性を悪化させない為に柔軟性等についても従来の電線特性を満足させることができる。
【0011】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンスルフィド(PPS)を60質量部以上80質量部以下、(B)ポリオレフィン系樹脂(PO)を20質量部以上40質量部以下、及び前記(A)及び(B)の樹脂合計100質量部に対して、(C)チタン酸アルカリ金属塩を10質量部以上25質量部以下含む。
以下、当該樹脂組成物の各成分について説明する。
【0012】
(PPS)
本発明において、PPSは構造上の制限は特になく、配合量は60質量部以上80質量部以下とする。配合量が60質量部未満であると耐摩耗性が不十分となり、80質量部より多いと柔軟性が悪化する。
【0013】
(PO)
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルアセテート等のエチレン(共)重合体、α−オレフィン(共)重合体を示すことができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン−ビニル酢酸共重合体である。
本発明で用いるPOは、20質量部以上40質量部以下となるように配合する。配合量が20質量部未満であると柔軟性が不十分となり、40質量部より多いと耐摩耗性、柔軟性が悪化する。
【0014】
(チタン酸アルカリ金属塩)
本発明において用いるチタン酸アルカリ金属塩としては、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウムが挙げられ、中でも、入手が容易であることから、チタン酸カリウムが好ましい。また、中でも、繊維状(ウィスカー状)のものが好ましく、その場合、繊維径は1μm以下、繊維長は1〜30mmであることが好ましい。
【0015】
本発明において、チタン酸アルカリ金属塩は10質量部以上、25質量部以下で配合する。10質量部未満では十分な摩耗性を得ることが出来ず、25質量部より多く配合すると難燃性及び柔軟性が悪化する。
【0016】
(他の成分)
本発明に係る樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、滑剤、充填剤及び補強材、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、老化防止剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、その他の樹脂等の高分子や、添加剤を含有していてもよい。他の高分子としては、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。
【0017】
[被覆電線]
本発明の被覆電線は、以上の樹脂組成物を導体に被覆してなる。すなわち、前記樹脂組成物を、所望により各種添加剤を定法に従い溶融混合し、得られた組成物を、定法に従い、押出し機等を用いて導体表面に被覆することによって得られる。組成物の混合手段としては、押出機、ヘンシェルミキサー、ニーダー、軸型混練機、バンバリーミキサー、ロールミル等のコンパウンディング可能な設備を使用することができる。
また、本発明の被覆電線は、自動車用電線、民生用電線等に好適に用いられる。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実施例1〜8、比較例1〜7]
PPS(DIC(株)製、FZ−2100)と、PP((株)プライムポリマー製、E−111G)と、チタン酸カリウム(大塚化学(株)、TISMO−D)とを、表1及び表2に示す配合部数にて混合し樹脂組成物を得た。
【0020】
(被覆電線の作製)
上記のようにして得た樹脂組成物を用いて、断面積が0.13mmの芯線(19本の撚線)に被覆層の外径が0.75mmで、被覆層の厚さ0.15mmとなるように300℃の温度条件で押出成形を行い、被覆電線を得た。
【0021】
<被覆電線の評価>
得られた被覆電線の評価を耐摩耗性、難燃性、柔軟性についてそれぞれ行った。
【0022】
[耐摩耗性評価]
スクレープ摩耗試験装置を用い、長さ約1mの被覆電線をサンプルホルダーに載置し、先端に直径0.45mmの針を備えるプランジを、押圧部材を用いて総荷重7Nで被覆電線に押し当てて往復させ(往復距離15.5mm)、被覆電線の被覆層が摩耗してプランジの針が被覆電線の導体(芯線)に接するまでの往復回数を測定し、100回以上のものを「合格」、100回未満のものを「不合格」とした。
【0023】
[難燃性評価]
電線を45度の角度でドラフト内に設置し、ブンゼンバーナーの内炎部を、2.5mm以下の電線の場合は15秒後、導体サイズが2.5mmを超える電線の場合は30秒後に試験試料から炎を外すIS06722の難燃試験において、絶縁材上の炎が全て70秒以内に消え、試験試料上部の絶縁体が50mm以上焼けずに残るものを「合格」、70秒以上燃え続けるか、焼け残った試験試料上部の絶縁体が50mm未満のものを「不合格」とした。
【0024】
[柔軟性評価]
長さ100mmの電線を一定の間隔の支点に固定しフォースゲージを用いて押し込み、0.5N未満の荷重で屈曲するものを「合格」、0.5N以上の荷重がかかるものを「不合格」とした。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1より、PPS、PP、及びチタン酸カリウムの配合量が本発明の範囲内である実施例1〜7は耐摩耗性、難燃性、柔軟性に優れることが分かる。
これに対して、比較例1ではチタン酸カリウムが未添加である為、耐摩耗性を満足しない。比較例2ではチタン酸カリウムの添加量が少ない為に耐摩耗性を満足しない。比較例3ではチタン酸カリウムの多量添加によって耐摩耗性は向上するが、難燃性、柔軟性を満足できない。比較例4ではPPが未添加である為柔軟性を満足できない。比較例5ではPPの添加量が少ない為に柔軟性を満足できない。比較例6ではPPの添加量が多い為に耐摩耗性、難燃性を満足できない。比較例7ではチタン酸カリウム及びPPの添加量が多く、PPSの添加量が少ない為、耐摩耗性は合格するが、難燃性、柔軟性を満足できない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド(PPS)を60質量部以上80質量部以下、(B)ポリオレフィン系樹脂(PO)を20質量部以上40質量部以下、及び前記(A)及び(B)の樹脂合計100質量部に対して、(C)チタン酸アルカリ金属塩を10質量部以上25質量部以下含む樹脂組成物を導体に被覆してなることを特徴とする被覆電線。

【公開番号】特開2013−23645(P2013−23645A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161836(P2011−161836)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】