説明

補強用織物およびその製造方法

【課題】無杼織機の製織にて房耳を耳部に熱融着させて房耳部を形成する一方向補強用織物において、織物端部の耳弛みがなく、外観上も良好な一方向補強用織物を提供すること。
【解決手段】緯糸により交錯された複数の強化繊維が一方向に並行に配列された補強用織物であって、該補強用織物の端部に形成され、熱融着糸が絡み糸として組織された耳部に沿わせるように房耳部が形成されていることを特徴とする補強用織物である。かかる補強用織物は、補強用織物の端部に、耳部を組織する絡み糸とは別に、房耳を融着させるために熱融着糸を絡み糸として配する工程、房耳を耳部に沿わせて熱融着し、房耳部を形成する工程を有してなる方法により好適に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳部を組織する絡み糸とは別に、熱融着糸を補強用織物の端部に絡み糸として配して、房耳を耳部の前記熱融着糸に沿わせる形で房耳部を形成する補強用織物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築用構造物の補強方法として、炭素繊維などの強化繊維を一方向に並べた補強用織物に、エポキシ等の樹脂で含浸させ、被補強構造物に接着させて補強する方法があり、耐震補強工事などで多く採用されている。この方法は補強効果が高く、耐久性にも優れており、また補強作業が簡単なことから広く採用されている。
【0003】
無杼織機等で製織された、複数の強化繊維が一方向に並行に配列された補強用織物の耳部には、長さが3〜10mm程度の房耳が存在し、織物幅方向へ広がっている。この補強用織物を使ってコンクリート構造物などの補強時に、織物に対して樹脂含浸の処理を行うため、各種加工を用いるに際し房耳が問題となることがある。
【0004】
例えば、織物に対し樹脂含浸を行った場合、柱等の部材への連続した巻き付けによる樹脂含浸では房耳部は表面に出ない。一方、一定の大きさに切断して部材に貼り付けて樹脂含浸した場合、樹脂が硬化することでその房耳部は部材表面で反り返り、樹脂で硬化した房耳が針状化する為、硬化後に房耳部をカットするなどして房耳部の処理を行う必要が生じる。
【0005】
房耳のない織物の織成方法として、特許文献1に開示されるタックイン耳形成方法が知られている。この方法は、緯糸端がタックインされた織成のサイクルを含めて複数の織成のサイクルに亘って、織物端経糸の開口が維持されるとともに、上記タックインされた織成のサイクルの後であって、遅くとも上記織物端経糸が閉口する前に、織物の外側から織り幅方向に経糸開口へ向けて空気を噴射させ、タックインされた緯糸端を、織物の織り幅方向内側へ付勢するというものである。
【0006】
また、織物の房耳をカットする方法として、特許文献2に開示される高精度に切断することが可能な装置が提供されている。この装置は、織物の側端部を検出するセンサと、前記基台上に設けられ、織物の房耳を切断するカッターと、前記基台を織物の幅方向に移動せしめる駆動手段と、前記センサおよび駆動手段に接続し、前記センサの出力に応じて前記駆動手段の動作を制御する制御手段とを備えたというもので織物が蛇行しても、それを打ち消す方向にすばやく基台を追従させることが出来るため、織物の側端部とカッターとの相対位置関係を常に一定に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003─166168号公報
【特許文献2】特開平06─128875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるタックイン耳形成方法は、通常、レピア織機やエアージェット織機での製織において房耳をシャットル織機のような耳部にする機能であり、織物の緯方向に飛び出す房耳を、折り返して織ることで耳部となるものである。しかしながら、折り返された緯糸が耳部となる場合、耳端部の緯糸が密になってしまい、物性に影響を与えるため一方向補強用織物には適していない。
【0009】
また特許文献2に開示される装置は、織物の房耳を切断する装置であって、織物の房耳近傍に配設した基台と検出するセンサ、前記基台上に設けられた房耳を切断するカッターとで構成されているが、融着前の織物に対して過度の触れる機構は、緯糸の目ズレなどを起こす要因となってしまい、一方向補強用織物には適していない。
【0010】
本発明は、以上の実状に鑑みなされたものであって、無杼織機の製織にて房耳を耳部に熱融着させて房耳部を形成する一方向補強用織物であり、織物端部の耳弛みがなく、外観上も良好な一方向補強用織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、緯糸により交錯された複数の強化繊維が一方向に並行に配列された補強用織物であって、該補強用織物の端部に形成され、熱融着糸が絡み糸として組織された耳部に沿わせるように房耳部が形成されていることを特徴とする補強用織物である。そして、かかる補強用織物は、補強用織物の端部に、耳部を組織する絡み糸とは別に、房耳を融着させるために熱融着糸を絡み糸として配する工程、房耳を耳部に沿わせて熱融着し、房耳部を形成する工程を有してなる方法により好適に製造される。
【0012】
すなわち、製織時の織前部で切断された房耳をガイドにて耳部に沿わせて、織物端部に耳部を組織する絡み糸とは別に、房耳を融着させるために熱融着糸を絡み糸として配して、織前部で房耳に熱を加えて融着させることにより、好適に本発明の一方向性補強用織物が得られる。
【0013】
前述の構成を備えた一方向性補強用織物を製織する、本発明の製織方法の基本的構成は、織物の両端にあって、7〜15mmの長さで折り曲げられた房耳を熱融着糸が絡み糸として形成する耳部に沿わせて融着させた房耳部を有する、つまり、房耳を沿わせる形で房耳部を形成していることを特徴とする点にある。かかる点において、本発明は無杼織機の製織にて従来の房耳を排するものと言える。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、無杼織機の製織にて房耳を沿わせる形で房耳部を形成して織物の物性や性能に影響しない方法で、従来の一方向補強用織物から房耳を排する製織が可能となり、製織する上で大きな改造を必要とせず、既存の無杼織機で一方向性補強用織物を製織することができる。
【0015】
また、施工時に樹脂が硬化することで、従来の房耳部は部材表面で反り返り、耳部の処理を行う必要が生じていたが、房耳を耳部に熱融着させることで施工時に処理が不要となるため、作業性や安全面からの施工性の向上や、工期短縮という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一方向補強用織物と、房耳部の形成に用いられるガイドの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、図面に記載された実施態様に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る一方向補強用織物を示しており、同図においてガイド1を示している。すなわち、同図の符号1のガイドは房耳を耳部に沿わせるものであり、符号2は緯糸、符号3は実質的に撚りのないマルチフィラメント糸からなる強化繊維(経糸群(経糸))である。本実施形態における一方向補強用織物にあって、複数群の前記強化繊維3が一方向に互いに並行して配され、しかも各強化繊維3が同一平面上にシート状に引き揃えられて、応力の集中する屈曲部を実質的に有していない。そのため、緯糸2は前記複数群の強化繊維3と互いに屈曲しながら交錯されている。
【0019】
本発明に用いられる強化繊維3として、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、およびPBO繊維からなる群から選択される少なくとも一種の強化繊維であることが好ましいが、なかでも高強度の炭素繊維を強化繊維3として用いることがより好ましい。
【0020】
本発明の一方向補強用織物を製織する方法は、無杼織機による製織であれば特に限定されないが、レピア織機、エアージェット織機、ニードル織機などによる製織が好適に用いられる。なかでも、房耳部5を形成することを特徴とする本発明では、一方向補強用織物がレピア織機またはエアージェット織機により製織されたものであることがより好ましい。
【0021】
図1に示す、本実施形態における一方向補強用織物は、前述のガイド1を隣接する形で織物が織前より巻き取られる際に、織前部で耳部に融着させるために経熱融着糸4を絡み糸として配し、房耳2’を経熱融着糸4が形成する耳部にガイド1によって沿わせて融着させて房耳部5が形成された一方向補強用織物である。
【0022】
このように本発明の一方向補強用織物は、マルチフィラメントからなる複数本の強化繊維3を同一平面上に配されたシート面から構成され、強化繊維3の耳部に絡み糸として配された経熱融着糸4と前記シート面の表裏面に長手方向に交互に配された緯糸2とが、所定の織組織をもって製織され、房耳2’を経熱融着糸4が絡み糸として配された耳部に沿わせて融着させることにより房耳部5が得られる。そして、かかる一方向補強用織物は、
(A)補強用織物の端部に、耳部を組織する絡み糸とは別に、房耳を融着させるために熱融着糸を絡み糸として配する工程、
(B)房耳を耳部に沿わせて熱融着し、房耳部を形成する工程、
を有してなる方法により好適に製造される。
【0023】
このような構成の一方向性補強用織物は、織物の両端にあって、好ましくは7〜15mmの長さで折り曲げられた房耳を熱融着糸が絡み糸として形成する耳部に沿わせて融着させた房耳部を有するものであるため、従来の房耳、つまり、含浸された樹脂が硬化すること針状化される房耳を排するものと言える。
【実施例】
【0024】
引張強度4,900MPa 、引張弾性率230GPa 、破断伸度2.1%、フィラメント直径7μm、フィラメント数12,000本、繊度7,200デニールの扁平な炭素繊維を経糸として3.92本/cmの密度で配列し、ガラス繊維(フィラメント直径7μm、フィラメント数200本、繊度203デニール)を緯糸として使用することにより、図1に示す平織の地組織で、その地組織の両耳部の地組織内側に、低融点ナイロン糸(共重合ナイロン)300デニールを2本組みにした絡み糸を設け、地組織外側に更に低融点ナイロン糸300デニールを2本組みにした絡み糸を設けて製織した。この製織は、経糸の開口時に常に一方向からレピアロッドの先端で緯糸端を把持して挿入し、筬打ち時にその緯糸をカッターで切断して房耳とするレピア織機によって行った。
次いで、上記原反を織前部にて房耳を耳部にガイドで沿わせて地組織外側に設けた絡み糸と溶融させ、巻取りロールに巻き取る手前で、ヒーターにより耳部の地組織内側の絡み糸を溶融させ、この絡み糸に隣接する経糸と緯糸とを接着させることにより、補強用織物にした。このようにして得られた補強用織物は、織物両端の経糸と房耳は溶融樹脂で接着されることにより、経糸がほつれることはなかった。
また、この補強用織物に室温硬化型エポキシ樹脂をハンドレイアップで含浸させることによりFRP硬化板を製作した。このFRP硬化板は、樹脂の硬化による房耳部の反り返り、房耳が針状化することはなかった。
【符号の説明】
【0025】
1 ガイド
2 緯糸
2’ 房耳(補強用織物の両端部に形成された緯糸の一部)
3 強化繊維(経糸群(経糸))
4 経熱融着糸
5 房耳部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸により交錯された複数の強化繊維が一方向に並行に配列された補強用織物であって、該補強用織物の端部に形成され、熱融着糸が絡み糸として組織された耳部に沿わせるように房耳部が形成されていることを特徴とする補強用織物。
【請求項2】
房耳が前記熱融着糸と熱融着されて房耳部を形成している、請求項1に記載の補強用織物。
【請求項3】
7〜15mmの長さで折り曲げられた房耳を耳部に沿わせて熱融着させた房耳部を有する、請求項1または2に記載の補強用織物。
【請求項4】
前記強化繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、およびPBO繊維からなる群から選択される少なくとも一種の強化繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載の補強用織物。
【請求項5】
レピア織機もしくはエアージェット織機で製織されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の補強用織物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の補強用織物の製造方法であって、次の工程(A)(B)を有してなることを特徴とする補強用織物の製造方法。
(A)補強用織物の端部に、耳部を組織する絡み糸とは別に、房耳を融着させるために熱融着糸を絡み糸として配する工程
(B)房耳を耳部に沿わせて熱融着し、房耳部を形成する工程

【図1】
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