説明

複合半透膜およびその製造方法

【課題】酸化剤に対する高い耐久性と、高い溶質除去性、連続運転時の安定性を有する複合半透膜を提供する。
【解決手段】微多孔性支持膜上に分離機能層を形成してなり、該分離機能層が、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を原料として、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基の重合により形成されたものである複合半透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤に対する耐久性、分離性能、連続運転時の安定性に優れた複合半透膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩などの溶解物成分の透過を阻止する水処理分離膜として利用されている逆浸透膜として、微多孔性支持膜上に異なる素材を設けて、これが実質的に膜分離性能を与える分離機能層となる複合半透膜が主流となっている。中でも特許文献1のように分離機能層としてポリアミドを用いた膜は、高い脱塩性能と透水性を発揮する。しかしながらこのようなポリアミドを用いた複合半透膜は、主鎖にアミド結合を有するため酸化剤に対する耐薬品性が未だ不十分であり、膜の殺菌に用いられる塩素、過酸化水素などで処理することにより脱塩性能や選択的な分離性能が著しく劣化することが知られている。
【0003】
膜の分離機能層に耐薬品性を付与する技術として特許文献2が開示されている。耐薬品性の高いシラン化合物と、製膜技術の汎用性が高く原料の選択の幅も広いエチレン性不飽和化合物を重合・縮合して形成された分離機能層を有することで耐薬品性が付与されると記載されている。この分離機能層は酸化条件に対して化学的な耐久性を有しているが、ポリアミド膜と比べて除去率が低いこと、また連続通水運転による透水量の増加がポリアミド膜と比べて大きく、連続運転時の安定性で劣ることが課題となっている。
【0004】
この他に、耐薬品性のシラン化合物を表面に有する水処理膜として、特許文献3,4の技術が開示されている。特許文献3の技術は不織布に高分子エマルションを塗布する技術であるが、形成される膜の孔径は数百nm程度である。一般的なイオンの水和半径が1nm以下であることを考えると、この技術では塩の透過を阻止する目的を達成できない。特許文献4の技術は、シラン化合物のコーティングにより膜表面に親水性を付与する技術であるが、表面の孔径は数十nm以上であり、水和イオン及び酸化剤分子の半径よりも大きいため、この技術でも塩の透過を阻止する目的を達成できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,277,344号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/029985号
【特許文献3】特開2000−24471号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0230351号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、酸化剤に対する耐久性が高く、高い分離性能・連続通水運転時の安定性を有する複合半透膜を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
エチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物は、高分子鎖間を架橋することができる。そこで、孔径を縮小・均一化する手段として、エチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物を用いて架橋することで除去率を向上させ、同時に分離機能層の強度を高めることによって、従来のシロキサン化合物含有複合半透膜にない高耐久性を実現することを着想し、以下の発明に到達した。
【0008】
(1)微多孔性支持膜上に分離機能層を形成してなり、該分離機能層が、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を原料として、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基の重合により形成されたものである複合半透膜。
【0009】
(2)化合物(A)が次の一般式(a)に示される化合物である、上記(1)に記載の複合半透膜。
Si(R(R(R4−m−n ・・・一般式(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基のいずれかを表す。Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシ基を表す。m,nはm+n≦4を満たす正の整数とする。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
(3)化合物(C)がエチレン性不飽和基を有する反応性基を3個以上有する上記1または2に記載の複合半透膜。
【0010】
(4)微多孔性支持膜上に、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を塗布し、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基を重合することにより分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化剤に対する耐久性が高く、高い分離性能、連続運転時の安定性を有する複合半透膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合半透膜は、脱塩性能や透水性能などの流体分離機能を有する分離機能層、その機能層を支持するための微多孔性支持膜と、これら分離機能層および微多孔性支持膜を支持するための基材などからなる。
【0013】
本発明に係る微多孔性支持膜は、分離機能層の支持膜として本発明の複合半透膜に強度を与える。分離機能層は微多孔性支持膜の少なくとも片面に設けられたものである。微多孔性支持膜に複数の分離機能層を設けても良いが、通常、片面に1層の分離機能層があれば十分である。
【0014】
本発明で用いる微多孔性支持膜の表面の細孔径は1nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。微多孔性支持膜表面の細孔径がこの範囲であれば、化学反応により、表面において欠陥が十分に少ない分離機能層を形成させることができる。また、得られる複合半透膜が高い純水透過流束を有し、加圧運転中に分離機能層が支持膜孔内に落ち込むことなく構造を維持できる。
【0015】
ここで、微多孔性支持膜の表面の細孔径は、電子顕微鏡写真により算出できる。写真撮影し、観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めた値を指す。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることができる。別の手段としては、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。文献(石切山他、ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス、171巻、p103、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(1995))等にその詳細が記載されている。
【0016】
微多孔性支持膜の厚みは、1μm以上5mm以下の範囲内にあると好ましく、10μm以上100μm以下の範囲内にあるとより好ましい。厚みが小さいと微多孔性支持膜の強度が低下しやすく、その結果、複合半透膜の強度が低下する傾向にある。厚みが大きいと微多孔性支持膜およびそれから得られる複合半透膜を曲げて使うときなどに取り扱いにくくなる。また、複合半透膜の強度を上げるため、微多孔性支持膜は布、不織布、紙などで補強されていてもよい。これら補強する材料の好ましい厚みは通常50μm以上150μm以下である。
【0017】
微多孔性支持膜に用いる素材としては特に限定されない。たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーが使用できる。これらのポリマーを単独で、またはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが例示される。ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが好ましいものとして例示される。中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的安定性、機械的強度、熱安定性が高く、成型が容易であるポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いることが特に好ましい。
【0018】
本発明の複合半透膜に存在する分離機能層の厚みは5nm以上500nm以下の範囲内にあると好ましい。下限としてはより好ましくは10nmである。上限としてより好ましくは200nmである。薄膜化することによりクラックが入りづらくなり欠点による除去率低下を避けることができる。さらにそのように薄膜化した分離機能層は透水性を向上させることができる。
【0019】
本発明の分離機能層は、微多孔性支持膜上に以下の反応により形成されるものである。すなわち、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を原料として、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基の重合により形成される分離機能層である。化合物(A)の形成するシロキサン結合のネットワークによって分離機能を実現し、化合物(B)によって適度な透水性を付与する。化合物(C)によって高分子鎖間を架橋して孔径を縮小・均一化することで除去率を向上させ、同時に分離機能層の強度を高め、高耐久性を実現する。
【0020】
まず、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合した化合物(A)について説明する。
【0021】
エチレン性不飽和基を有する反応性基はケイ素原子に直接結合している。このような反応性基としては、ビニル基、アリル基、メタクリルオキシエチル基、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシエチル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が例示される。重合性の観点から、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が好ましい。
【0022】
またケイ素原子に直接結合している加水分解性基が水酸基に変化するなどのプロセスを経て、化合物同士がシロキサン結合で結ばれるという縮合反応が生じ、高分子となる。加水分解性基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、アミノヒドロキシ基、ハロゲン原子およびイソシアネート基が例示される。アルコキシ基としては、炭素数1以上10以下のものが好ましく、さらに好ましくは炭素数1または2のものである。アルケニルオキシ基としては炭素数2以上10以下のものが好ましく、さらには炭素数2以上4以下、さらには3のものが好ましい。カルボキシ基としては、炭素数2以上10以下のものが好ましく、さらには炭素数2のもの、すなわちアセトキシ基が好ましい。ケトオキシム基としては、メチルエチルケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基が例示される。アミノヒドロキシ基は、酸素を介してアミノ基が酸素原子を介してケイ素原子に結合しているものである。このようなものとしては、ジメチルアミノヒドロキシ基、ジエチルアミノヒドロキシ基、メチルエチルアミノヒドロキシ基が例示される。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましく採用される。
【0023】
分離機能層の形成にあたっては、上記加水分解性基の一部が加水分解し、シラノール構造をとっている化合物も使用できる。また2以上の化合物が、加水分解性基の一部が加水分解、縮合し架橋しない程度に高分子量化したものも使用できる。
【0024】
化合物(A)としては下記一般式(a)で表されるものであることが好ましい。
Si(R(R(R4−m−n ・・・一般式(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基のいずれかを表す。RはHまたはアルキル基を表す。m、nはm+n≦4を満たす整数であり、m≧1、n≧1を満たすものとする。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
はエチレン性不飽和基を含む反応性基であるが、上で説明したとおりである。
【0025】
は加水分解性基であるが、これらは上で説明したとおりである。Rとなるアルキル基の炭素数としては1以上10以下のものが好ましく、さらに1または2のものが好ましい。
【0026】
加水分解性基としては、分離機能層の形成にあたって、反応液が製膜に適した粘度とポットライフを有することからアルコキシ基が好ましく用いられる。
【0027】
このような化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0028】
化合物(A)の他、エチレン性不飽和基を有する反応性基を有しないが、加水分解性基を有する化合物を併せて使用することもできる。このような化合物は、一般式(a)では「m≧1」と定義されているが、一般式(a)においてmがゼロである化合物が例示される。このようなものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが例示される。
【0029】
次に、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)について説明する。
【0030】
エチレン性不飽和基は付加重合性を有する。このような化合物としてはエチレン、プロピレン、メタクリル酸、アクリル酸、スチレンおよびこれらの誘導体が例示される。また化合物(B)は、複合半透膜を水溶液の分離などに用いたときに水の選択的透過性を高め、塩の阻止率を上げるために、酸性基を有するアルカリ可溶性の化合物である。
【0031】
好ましい酸としては、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸およびスルホン酸であり、これらの酸の構造としては、酸の形態、エステル化合物、および金属塩のいずれの状態で存在してもよい。これらのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)は、2つ以上の酸性基を含有し得るが、中でも1個または2個の酸性基を含有する化合物が好ましい。
【0032】
上記のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の中でカルボン酸基を有する化合物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸が挙げられる。
【0033】
上記のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の中でホスホン酸基を有する化合物としては、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルが例示される。
【0034】
上記のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の中でリン酸エステルの化合物としては、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートが例示される。
【0035】
上記のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の中でスルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が挙げられる。
【0036】
そして本発明においては、エチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)の添加が重要である。化合物(C)は、化合物(A)および化合物(B)が形成する高分子鎖間を架橋して孔径を縮小・均一化することで除去率を向上させ、同時に分離機能層の強度を高める。これによって、本発明の複合半透膜が従来のシロキサン化合物含有複合半透膜にない高耐久性を実現する。
【0037】
化合物(C)としては、化合物(A)以外の化合物であり、下記一般式(b)で表される化合物であれば特に制限はない。
L(R) ・・・一般式(b)
(Rはビニル基、アクリル基、メタクリル基のいずれかを表す。Lは任意の原子団を表す。nは2以上の正の整数とする。)
Rは重合を担う不飽和基であり、Lはその間を結ぶリンカーである。Lの例としては、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、フルオロアルキル基とその誘導体、オリゴオキシエチレンとその誘導体、多価アルコール誘導体、多価カルボン酸誘導体、糖誘導体、アルキルアミンとその誘導体、リン酸誘導体、ベンゼン誘導体、シクロヘキサン誘導体、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ヘキサヒドロトリアジン誘導体、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体、ボロキシン誘導体、トリシラザン誘導体、シクロテトラシロキサン誘導体などを挙げることができる。
【0038】
具体的には、n=2の化合物(C)として、エチレンジアクリラート、1,3−ビス(アクリロイルオキシ)プロパン、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,5−ビス(アクリロイルオキシ)ペンタン、1,6−ビス(アクリロイルオキシ)ヘキサン、1,7−ビス(アクリロイルオキシ)ヘプタン、1,8−ビス(アクリロイルオキシ)オクタン、1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン、1,10−ビス(アクリロイルオキシ)デカン、エチレングリコールジアクリラート、ジエチレングリコールジアクリラート、トリエチレングリコールジアクリラート、テトラエチレングリコールジアクリラート、プロピレングリコールジアクリラート、ジプロピレングリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジアクリラート、グリセロールジアクリラート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、1,4−フェニレンジアクリル酸ジエチル、ビスフェノールAジアクリラート、エチレンジメタクリラート、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)プロパン、1,4−ビス(メタクリロイルオキシ)ブタン、1,5−ビス(メタクリロイルオキシ)ペンタン、1,6−ビス(メタクリロイルオキシ)ヘキサン、1,7−ビス(メタクリロイルオキシ)ヘプタン、1,8−ビス(メタクリロイルオキシ)オクタン、1,9−ビス(メタクリロイルオキシ)ノナン、1,10−ビス(メタクリロイルオキシ)デカン、エチレングリコールジメタクリラート、ジエチレングリコールジメタクリラート、トリエチレングリコールジメタクリラート、テトラエチレングリコールジメタクリラート、プロピレングリコールジメタクリラート、ジプロピレングリコールジメタクリラート、ネオペンチルグリコールジメタクリラート、グリセロールジメタクリラート、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスメタクリルアミド、1,4−フェニレンジメタクリル酸ジエチル、ビスフェノールAジメタクリラート、シュウ酸ジビニル、マロン酸ジビニル、コハク酸ジビニル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジビニル、ピメリン酸ジビニル、スベリン酸ジビニル、アゼライン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、イソフタル酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、テレフタル酸ジビニル、ジビニルベンゼン、1,5−ヘキサジエン−3,4−ジオール、ジアリルエーテル、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、ジアリルアミン、シュウ酸ジアリル、マロン酸ジアリル、コハク酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、ピメリン酸ジアリル、スベリン酸ジアリル、アゼライン酸ジアリル、セバシン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジフェニルシラン、1,3−ジアリルオキシ−2−プロパノール、イソシアヌル酸ジアリルプロピル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、ビスフェノールAジアリルエーテル、N,N’−ジアリル酒石酸ジアミド等が挙げられる。
【0039】
化合物(C)の架橋効果は、重合性官能基の数が多い方が高いため、一般的にはn=2の化合物よりもn≧3の化合物の方が好ましい。n≧3の化合物(C)として、シアヌル酸トリス(2−アクリロイルオキシエチル)、イソシアヌル酸トリス(2−アクリロイルオキシエチル)、1,3,5−トリアクリロイルトリアジン、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリメチロールプロパントリアクリラート、没食子酸トリアクリラート、ペンタエリスリトールトリアクリラート、ピロガロールトリアクリラート、シアヌル酸トリス(2−メタクリロイルオキシエチル)、イソシアヌル酸トリス(2−メタクリロイルオキシエチル)、1,3,5−トリメタクリロイルトリアジン、1,3,5−トリメタクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリメチロールプロパントリメタクリラート、没食子酸トリメタクリラート、ペンタエリスリトールトリメタクリラート、2,4,6−トリビニルボロキシン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリビニルシクロトリシラザン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、ペンタエリスリトールテトラアクリラート、ペンタエリスリトールテトラメタクリラート、ピロガロールトリアクリラート、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、ジペンタエリスリトールヘキサアクリラート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリラート等が挙げられる。
【0040】
化合物(C)が複合半透膜の構成成分に含まれることは、表面の分離機能層を剥離し、解析することで証明可能であることが多い。例えば、Rがアクリル基やメタクリル基の場合は、熱アルカリを用いて分離機能層を加水分解した後、低分子量成分を分離してNMR測定や質量分析等を行えばよい。
【0041】
分離機能層形成のために例示される方法としては、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)を含有する反応液を塗布する工程、溶媒を除去する工程、エチレン性不飽和基を重合させる工程、加水分解性基を縮合させる工程の順に行うものである。エチレン不飽和基を重合させる工程において、加水分解性基の縮合が同時に起こることがあっても良い。
【0042】
まず、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)を含有する反応液を微多孔性支持膜に接触させる。かかる反応液は、通常溶媒を含有する溶液であるが、かかる溶媒は微多孔性支持膜を破壊せず、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば特に限定されない。この反応液には、化合物(A)のモル数に対して1倍モル当量以上10倍モル当量以下、好ましくは1倍モル当量以上5倍モル当量以下の水を無機酸または有機酸と共に添加して、化合物(A)の加水分解を促すことが好ましい。
【0043】
反応液の溶媒としては、水、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒および、これらを混ぜ合わせたものが好ましい。例えば、アルコール系有機溶媒として、メタノール、エトキシメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2−メトキシエタノール)、エチレングリコールモノアセトエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、メトキシブタノール等が挙げられる。また、エーテル系有機溶媒として、メチラール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルエーテル、トリオキサン、ジオキサン等が挙げられる。また、ケトン系有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、トリメチルノナノン、アセトニトリルアセトン、ジメチルオキシド、ホロン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。また、溶媒の添加量としては、反応液の全重量に対して50重量%以上99重量%以下が好ましく、さらには80重量%以上99重量%以下が好ましい。溶剤の添加量が多すぎると膜中に欠点が生じやすい傾向があり、少なすぎると得られる複合半透膜の透水性が低くなる傾向がある。
【0044】
微多孔性支持膜と反応液との接触は、微多孔性支持膜面上で均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、反応液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの塗布装置を用いて微多孔性支持膜にコーティングする方法があげられる。また微多孔性支持膜を、反応液に浸漬する方法を挙げることができる。
【0045】
浸漬させる場合、微多孔性支持膜と反応液との接触時間は、0.5分間以上10分間以下の範囲内であることが好ましく、1分間以上3分間以下の範囲内であるとさらに好ましい。反応液を微多孔性支持膜に接触させたあとは、膜上に液滴が残らないように十分に液切りすることが好ましい。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、反応液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の反応液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、反応液の溶媒分の一部を除去することもできる。
【0046】
化合物の加水分解性基を縮合させる工程は、微多孔性支持膜上に反応液を接触させた後に加熱処理することによって行われる。このときの加熱温度は、微多孔性支持膜が溶融し分離膜としての性能が低下する温度より低いことが要求される。縮合反応を速やかに進行させるために通常0℃以上で加熱を行うことが好ましく、20℃以上がより好ましい。また、前記反応温度は、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。反応温度が0℃以上であれば、加水分解および縮合反応が速やかに進行し、150℃以下であれば、加水分解および縮合反応の制御が容易になる。また、加水分解または縮合を促進する触媒を添加することで、より低温でも反応を進行させることが可能である。さらに本発明では分離機能層が細孔を有するよう加熱条件および湿度条件を選定し、縮合反応を適切に行うようにする。
【0047】
化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)のエチレン性不飽和基の重合方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射により行うことができる。ここで電磁波とは紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御などのしやすさの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
【0048】
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などから発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合できれば特に制限しないが、中でも紫外線の薄膜形成性が高い。このような紫外線は低圧水銀灯、エキシマーレーザーランプにより発生させることができる。本発明に係る分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により大きく変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化を行う必要がある。
【0049】
重合速度を速める目的で分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、用いる化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
【0050】
重合開始剤を以下例示する。電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
【0051】
過酸化物およびα−ジケトンは、開始を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系もまた好ましい。
【0052】
次いで、これを約100〜200℃で10分〜3時間程度加熱処理すると重縮合反応が起こり、微多孔性支持膜表面に分離機能層が形成された本発明の複合半透膜を得ることができる。加熱温度は微多孔性支持膜の素材にもよるが、高すぎると溶解が起こり微多孔性支持膜の細孔が閉塞するため、複合半透膜の造水量が低下する。一方低すぎた場合には、重縮合反応が不十分となり機能層の溶出により除去率が低下するようになる。
【0053】
なお上記の製造方法において、エチレン性不飽和基の重合工程は、加水分解性基による重縮合工程の前に行っても良いし、後に行っても良い。また、重縮合反応と重合反応を同時に行ってもよい。
【0054】
このようにして得られた複合半透膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0056】
以下の実施例において複合半透膜のNaCl除去率の初期性能は次式(c)、複合半透膜の膜透過流束の初期性能は次式(d)、純水透過係数は次式(e)、溶質透過係数は次式(f)、純水透過係数変化率は次式(g)で計算されるものである。
NaCl除去率(%)={(供給液のNaCl濃度−透過液のNaCl濃度)/供給液のNaCl濃度}×100 ・・・式(c)
膜透過流束(m/m/day)=(一日の透過液量)/(膜面積) ・・・式(d)
純水透過係数(m/m/sec/Pa) =(膜透過流束)/(膜両側の圧力差−膜両側の浸透圧差×溶質反射係数)・・・式(e)
溶質透過係数(m/sec)=(溶質の膜透過流束−(1−溶質反射係数)×膜両側の平均濃度×膜透過流束)/(膜面濃度−膜透過液濃度)・・・式(f)
純水透過係数変化率(day−1)=(通水後の純水透過係数−通水前の純水透過係数)/(通水前の純水透過係数×通水時間)・・・式(g)
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート不織布上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。このようにして得られた微多孔性支持膜の表面の細孔径は21nmであり、厚みは150μmであった。
【0057】
イソプロピルアルコールの65重量%水溶液中に、化合物(A)に該当する3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを94mM、化合物(B)に該当する4−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムを66mM、化合物(C)に該当する1,4−ビスアクリロイルオキシブタンを10mM、光重合開始剤2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを8.5mMの濃度で溶解させた。この溶液に、前記の微多孔性支持膜を1分間接触させ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な溶液を取り除き微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで365nmの紫外線が照射できるハリソン東芝ライティング社製UV照射装置TOSCURE(登録商標)752を用い、照射強度を20mW/cmに設定し、紫外線を15分間照射して、分離機能層を微多孔性支持膜表面に形成した複合半透膜を作製した。
【0058】
次に、得られた複合半透膜を120℃の熱風乾燥機中で3時間保持して化合物(A)を縮合させ、微多孔性支持膜上に分離機能層を有する乾燥複合半透膜を得た。その後、乾燥複合半透膜を10重量%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬して親水化を行った。このようにして得られた複合半透膜に、pH6.5に調整した500ppm食塩水を、0.75MPa、25℃の条件下で供給して加圧膜ろ過運転を行い、運転開始時から3時間後に透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0059】
また、加圧膜ろ過運転を継続し、運転開始時から23時間後についても同様に性能評価を行った。式(c)から計算した膜のNaCl除去率と、通水開始3時間後と23時間後の性能を用いて式(g)から計算した純水透過係数変化率についても表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例2)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンを1,6−ビスアクリロイルオキシヘキサンに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0062】
(実施例3)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンを1,4−ビスメタクリロイルオキシブタンに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0063】
(実施例4)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをテトラエチレングリコールジアクリラートに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0064】
(実施例5)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをN,N’−メチレンビスアクリルアミドに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0065】
(実施例6)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをN,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミドに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0066】
(実施例7)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをトリアクリル酸ペンタエリスリトールに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0067】
(実施例8)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをイソシアヌル酸トリス(2−アクリロイルオキシエチル)に置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0068】
(実施例9)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをテトラアクリル酸ペンタエリスリトールに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0069】
(比較例1)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンを添加しない以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0070】
(比較例2)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをアクリル酸4−ヒドロキシブチルに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0071】
(比較例3)
実施例1で使用した化合物(C)の1,4−ビスアクリロイルオキシブタンをp−メチルスチレンに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0072】
表1から、実施例1〜9で示された複合半透膜は比較例1〜3で得られた複合半透膜と比べて、塩除去率が高いことが分かる。また、通水後の純水透過係数変化率を比べると、実施例1〜9で示された複合半透膜は、比較例1〜3で得られた複合半透膜と比べて、性能の変化が小さいことが分かる。また、一般式(b)においてn=4である実施例9、n=3である実施例7および8、n=2である実施例1〜6の順で、純水透過係数変化率が小さいことが分かる。
【0073】
以上より、化合物(C)の添加は溶質除去率および、連続運転時の安定性向上に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の複合半透膜は、固液分離、液体分離、ろ過、精製、濃縮、汚泥処理、海水淡水化、飲料水製造、純水製造、廃水再利用、廃水減容化、有価物回収などの水の処理の分野に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜上に分離機能層を形成してなり、該分離機能層が、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を原料として、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基の重合により形成されたものである複合半透膜。
【請求項2】
化合物(A)が次の一般式(a)に示される化合物である請求項1に記載の複合半透膜。
Si(R(R(R4−m−n ・・・一般式(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基のいずれかを表す。Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシ基を表す。m,nはm+n≦4を満たす正の整数とする。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
化合物(C)がエチレン性不飽和基を有する反応性基を3個以上有する請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
微多孔性支持膜上に、エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物(A)、化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を1個有し、酸性基を有する化合物(B)および化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する反応性基を2個以上有する化合物(C)を塗布し、化合物(A)が有する加水分解性基の縮合、ならびに、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)が有するエチレン性不飽和基を重合することにより分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−210582(P2012−210582A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77677(P2011−77677)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「省水型・環境調和型水循環プロジェクト/水循環要素技術研究開発/革新的膜分離技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】