説明

複合半透膜の製造方法および複合半透膜

【課題】高い透水性を有する複合半透膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】微多孔性支持膜と分離機能層からなる複合半透膜の製造方法であって、犠牲層が形成された基板を準備する工程、犠牲層上に重合性化合物を含む組成物の層を形成する工程、前記組成物の層上に微多孔性支持膜を接着する工程、前記重合性化合物を重合する工程、および前記犠牲層を除去する工程を含む複合半透膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明の複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化、硬水の軟水化などに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあるが、なかでもナノろ過膜および逆浸透膜は、低分子量の有機物やイオンの除去が可能であるため、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
ナノろ過膜および逆浸透膜の形態としては、膜に物理的強度を与える微多孔性支持膜と、実質的な分離機能を与える分離機能層とからなる複合半透膜が主流となっている。複合半透膜では、微多孔性支持膜および分離機能層の各々で最適な素材を選択することが可能であり、製膜技術も種々の方法を選択できる。これまで市販されている複合半透膜の大部分は微多孔性支持膜上での界面重縮合によってポリアミドからなる分離機能層を形成したものである。ポリアミド複合半透膜としては、特許文献1に記載された発明が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,277,344号(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、透水性の高い複合半透膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の製造方法は、下記(1)〜(4)で構成される。
(1)微多孔性支持膜と分離機能層からなる複合半透膜の製造方法であって、犠牲層が形成された基板を準備する工程、前記犠牲層上に重合性化合物を含む組成物の層を形成する工程、前記組成物の層上に微多孔性支持膜を接着する工程、前記重合性化合物を重合する工程、および前記犠牲層を除去する工程を含む、複合半透膜の製造方法。
(2)前記犠牲層を除去する工程は、pH3以下の水溶液と、前記犠牲層とを接触させることを含む(1)に記載の複合半透膜の製造方法。
(3)前記重合性化合物を重合する工程が、前記基板側からの紫外光照射を含む、(1)又は(2)に記載の複合半透膜の製造方法。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法により製造される複合半透膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、高い透水性および耐塩素性を有する複合半透膜を得ることができる。本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩や硬水の軟水化などに有用な半透膜の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】複合半透膜の製造方法の実施形態における仕掛品であって、基板及び犠牲層の積層物を示す断面図
【図2】さらに重合性材料層が設けられた積層物を示す断面図
【図3】さらに微多孔性支持膜が設けられた積層物を示す断面図
【図4】重合性化合物の重合工程における積層物を示す断面図
【図5】犠牲層が除去された積層物を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
1.製造方法
1−1.概略
図1〜図5に示すように、本実施形態の複合半透膜14の製造方法は、以下の工程(a)〜(e)を含む:
(a)犠牲層11が形成された基板10を準備する工程、
(b)前記犠牲層11上に重合性化合物を含む組成物の層を形成する工程、
(c)重合性化合物を含む組成物の層上に微多孔性支持膜13を接着する工程、
(d)前記重合性化合物を重合する工程、および
(e)前記犠牲層11を除去する工程。
【0011】
1−2.工程(a)
図1を参照して、工程(a)について説明する。
【0012】
基板10は、その上に犠牲層11を形成することができる程度の強度を有していればよく、その材料、厚み、大きさ及び形状等は、各工程の条件、つまり各工程で使用される材料及び溶媒、並びに各工程における処理温度、照射光、処理時間等に応じて、また目的とする複合半透膜の構成に応じて、変更可能である。基板10としては、ガラス、金属、シリコンウェハ、高分子等の材料が特に限定されることなく使用される。
【0013】
また、基板10は、犠牲層11と対向する面が平滑に形成されている。「平滑」とは、基板10上に形成される後述の重合性材料層12が、基板10内に入り込まない程度に平らであり、薄くかつ欠点の少ない重合性材料層12を形成できるものであればよい。「平滑」とは、後述する具体的には「非多孔質」と言い換えることもできる。
【0014】
犠牲層11の組成は、工程(e)で犠牲層11が除去されるように構成されていればよい。例えば、工程(b)において重合性化合物の溶液が犠牲層11上に塗布される場合には、その溶液(具体的には溶媒)に対して難溶であることが好ましい。
【0015】
また、犠牲層11は、水または水溶液で除去可能であることが好ましい。犠牲層11が水で除去できる物質(以下、「水溶性物質」と称する。)を主成分として含有するとき、犠牲層11は水又は水溶液によって除去可能である。水で除去できる化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸塩、水溶性セルロースなどが挙げられる。また、犠牲層11が酸性水溶液で除去できる物質(以下、「酸性可溶物質」と称する)を主成分として含有するとき、犠牲層11は酸性水溶液によって除去可能である。酸性水溶液で除去できる化合物としては、多官能アルコールと多官能アルデヒドの架橋体、多官能アミンと多官能アルデヒドの架橋体などが挙げられる。多官能アルコールとしては、ポリビニルアルコール、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、グルコース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、デキストリン等が挙げられ、多官能アルデヒドとしては、マロンジアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド等が挙げられ、多官能アミンとしては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、スペルミン、スペルミジン等が挙げられる。
【0016】
なお、「物質Aが物質B(又は物質B群)を主成分して含有する」とは、物質B(又は物質B群)が物質Aにおいて、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上を占めることを包含する。
【0017】
犠牲層11は、水溶性物質又は酸性可溶物質として、1種の物質のみを含有してもよいし、複数種の物質を含有してもよい。また、後述の工程(e)の条件によっては、水溶性物質及び酸性可溶物質の両方を除くことができるので、犠牲層11において、水溶性物質及び酸性可溶物質の合計量が、上述の「主成分」としての含有率を満たしていてもよい。
【0018】
基板10上には予め犠牲層11が形成されていてもよいし、工程(a)が、基板10上に犠牲層11を形成することを含んでいてもよい。基板10上に犠牲層11を形成する工程は、例えば、基板10上に犠牲層11の材料(以下、「犠牲材料」と称する)を含有する液体組成物を塗布することを含んでいてもよい。犠牲材料を含有する液体組成物とは、犠牲材料の溶液であってもよい。基板10上に犠牲材料を含有する液体組成物を塗布する方法は特に限定されないが、液体組成物を均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、液体組成物をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
【0019】
犠牲材料溶液の溶媒としては、基板10を溶解しないものであればよく、特に限定されない。溶液中における犠牲材料の濃度は、犠牲材料の種類、基板10への溶液の塗布方法、目標とする犠牲層11の厚み等に応じて、変更可能である。
【0020】
工程(a)は、犠牲材料溶液の溶媒を除去することを含んでいてもよい。犠牲材料溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、その後の製膜工程に影響しないように、加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0021】
1−3.工程(b)
図2を参照して、工程(b)について説明する。
【0022】
工程(b)における重合性化合物とは、付加重合性、縮合重合性、又は付加縮合性のいずれかの重合反応性を有すればよく、具体的な化合物に限定されるものではない。重合性化合物を含む組成物の層を、以下「重合性材料層」と称し、符号「12」を付す。重合性化合物としては特に、工程(d)における重合反応を経た重合性材料層12に分離機能を付与するような化合物が選択される。つまり重合性材料層12は、工程(d)を経ることで分離機能層121となる。分離機能層121については後述する。
【0023】
重合性化合物は、特に付加重合性を有することが好ましい。かような化合物としては、エチレン、プロピレン、メタアクリル酸、アクリル酸、スチレンおよびこれらの誘導体が例示される。
【0024】
また、重合性化合物のうち少なくとも1つがイオン性官能基を含有することが好ましい。イオン性官能基を有する重合性化合物を用いることにより、高い透水性を示す複合半透膜14を実現することができる。イオン性官能基としては、水酸基、チオール基、アミノ基、イミダゾリル基、ピリジル基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、またはそれらの塩などが挙げられる。
【0025】
上記イオン性官能基を含有する重合性化合物としては、
(i)マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、アリルマロン酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸、並びにそれらの無水物;10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、アリルグリシン、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシン、2−ビニル安息香酸、3−ビニル安息香酸、4−ビニル安息香酸および3,5−ジアクリルアミド安息香酸などのカルボン酸化合物、並びにそれらの塩;
(ii)ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、2−スチレンホスホン酸、3−スチレンホスホン酸、4−スチレンホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルなどのホスホン酸化合物、並びにそれらの塩;
(iii)2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートおよび1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートなどのリン酸誘導体、並びにそれらの塩;
(iv)ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−スチレンスルホン酸、3−スチレンスルホン酸、4−スチレンスルホン酸、3−アリル−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸および3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸などのスルホン酸化合物、並びにそれらの塩;
(v)アリルアミン、N−アリルメチルアミン、N−アリルアニリン、アリルモルホリン、1−アリルピペラジン、1−アリル−4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、アリルシクロヘキシルアミン、3−アミノスチレン、4−アミノスチレン、4−ビニルベンジルアミン、N,N−ジメチルビニルベンジルアミン、2−イソプロペニルアニリン、2−ビニル−4,6−ジアミノ1,3,5−トリアジン、4−[N−(メチルアミノエチル)アミノメチル]スチレンおよびビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩などのアミン化合物、並びにそれらの塩;
(vi)1−ビニルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム塩、1−(2−アクリロイルエチル)−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム塩、1−(4−ビニルベンジル)−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム塩および1−ビニル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム塩などのイミダゾール化合物、並びにそれらの塩;
(vii)2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンおよびイソニコチン酸アリルなどのピリジン化合物、並びにそれらの塩;
が挙げられる。
【0026】
ポリアミド素材に特有の第2級芳香族アミド骨格は塩素との反応により分解しやすいが、以上に説明した各重合性化合物の重合物は、第2級芳香族アミド骨格を含まないので、本発明の方法と組み合わせることで、複合半透膜における高透水性と耐塩素性とを両立することが可能となる。なお、本発明の方法は、ポリアミドを主成分とする分離機能層を備える複合半透膜の製造にも適用可能である。
【0027】
犠牲層11上に重合性材料層を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、工程(b)は、重合性化合物を含む液状組成物を犠牲層11上に塗布することを含んでいてもよい。この方法では、液状組成物の塗布条件により薄膜の膜厚を容易に制御することができる。液状組成物は、例えば、重合組成物等の溶質及び溶媒を含有する溶液である。
【0028】
液状組成物を犠牲層11上に塗布する方法は特に限定されないが、均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、組成物の溶液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
【0029】
重合性材料層12は、重合開始剤及び重合促進剤等の添加物を含有してもよい。ここで、重合開始剤及び重合促進剤は、具体的な化合物に限定されるものではなく、重合性化合物の構造及び重合手法などに合わせて適宜選択される。これらの添加物は、重合性材料層12が液体組成物の塗布によって形成される場合、この液体組成物中に添加されてもよい。特に、液体組成物が溶液である場合には、その溶媒に可溶な添加物が選択される。
【0030】
重合開始剤としては、電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンなどが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
【0031】
過酸化物およびα−ジケトンは、開始反応を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系(酸化−還元系)とも呼ばれる。このような系の例として、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせが挙げられる。さらに、過酸化物は、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて使用されてもよい。
【0032】
重合開始剤の添加量が重合性化合物に対して5重量%以下であることで、緻密な分離機能層121を形成しやすいという利点がある。
【0033】
重合性材料層12が溶液の塗布によって形成される場合、その溶液の溶媒は、犠牲層11を溶解せず、重合性化合物および必要に応じて添加される重合開始剤等の添加剤を溶解するものであればよく、具体的な組成には限定されない。
【0034】
組成物溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0035】
重合性材料層12の厚みは、分離機能層121の厚みが後述の範囲になるように設定されればよく、具体的な数値に限定されるものではない。重合性材料層12の厚みは、5〜500nmの範囲内にあると好ましい。下限としてより好ましくは10nmである。上限としてより好ましくは200nmである。
【0036】
1−4.工程(c)
図3を参照して、工程(c)について説明する。
【0037】
微多孔性支持膜13は、実質的にイオン等の分離機能を有する分離機能層121を支持することで、複合半透膜14に強度を与えることができる。微多孔性支持膜13が有する孔の直径は数百nmまたはそれ以下であり、孔は「細孔」または「微細孔」とも称される。微多孔性支持膜13の表面における孔径、微多孔性支持膜13の内部における孔径、並びに微多孔性支持膜13の表面および内部における孔径の分布は、特に限定されない。例えば、微多孔性支持膜13は、以下の条件1)〜4)のいずれか1つを満たしてもよい:
1)微多孔性支持膜13全体に渡って、孔径が略均一である;
2)分離膜機能層121が形成される側の表面(つまり第1面131)における孔径よりもう一方の表面(つまり第2面132)における孔径の方が大きい、
3)第1面131における孔径が1nm以上100nm以下である;または、
4)条件1)及び条件3)、又は条件2)及び条件3)を満たす。
【0038】
上記条件2)において、孔径は、第1面131から第2面132にかけて徐々に大きくなってもよい。
【0039】
条件3)を満たすことで、得られる複合半透膜14が高い透水性を有し、かつ加圧運転中に分離機能層121が微多孔性支持膜13の孔内に落ち込むことなく構造を維持できる。
【0040】
ここで、微多孔性支持膜表面の「孔径」は、「孔径」は、微多孔性支持膜の表面を写真撮影し、1つの視野内で観察できる孔すべての直径を測定し、平均することにより求めた値を指す。孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を孔の直径とする方法により求めることができる。別の手段としては、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる(石切山他、ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス、171巻、p103、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(1995))にその詳細が記載されている。なお、微多孔性支持膜の内部の孔についても、切断された微多孔性支持膜を用いることで、同様に観察可能である。
【0041】
微多孔性支持膜13の厚みは、1μm〜5mmの範囲内にあると好ましく、10〜100μmの範囲内にあるとより好ましい。厚みが1μm以上であることで、微多孔性支持膜13の強度を確保することができるので、複合半透膜14の強度を確保することができる。厚みが5mm以下であることで、良好な可撓性が得られるので、微多孔性支持膜13およびそれから得られる複合半透膜14を曲げて使うときなどの取り扱いが容易である。
【0042】
また、微多孔性支持膜13は、2つ以上の層を備えてもよい。具体的には、微多孔性支持膜13は、第2面側132側に配置された基材と、第1面131側に配置された支持層とを備えてもよい。基材としては、布、不織布、紙などが挙げられる。基材は、微多孔性支持膜13に強度を与えることで、複合半透膜14の強度を上げることができる。これら基材の好ましい厚みは50〜150μmである。
【0043】
支持層に用いられる素材は特に限定されない。たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーが使用できる。これらのポリマーは単独で、またはブレンドされて用いられてもよい。上記ポリマーのうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが例示される。ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが例示される。中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的安定性、機械的強度、熱安定性が高く、成型が容易であるポリスルホン、ポリエーテルスルホンが特に好ましい。
【0044】
微多孔性支持膜13と重合性材料層12との接着方法としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができる。微多孔性支持膜13と重合性材料層12とを簡便に接着する観点から圧着法が好ましい。
【0045】
微多孔性支持膜13は、例えば工程(d)の実行の前に、つまり重合性化合物が重合する前に、重合性材料層12上に配置されてもよい。また、工程(c)は、工程(d)後に行われてもよい。つまり、工程(c)における「重合性化合物を含む組成物の層」とは、重合前の層及び重合後の層のいずれであってもよい。
【0046】
1−5.工程(d)
図4を参照して、工程(d)について説明する。
【0047】
重合性化合物を重合する方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射などが挙げられる。ここで、電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。図4中の矢印2は、熱、電磁波、電子線、プラズマ等を表す。
【0048】
重合方法は、重合性化合物の種類等に応じて選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御し易さなどの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
【0049】
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などを用いて発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合が進行するものであれば特に制限されないが、低波長の紫外線を用いると効率的に薄膜を形成することができる。このような紫外線は低圧水銀灯、エキシマレーザーランプにより発生させることができる。分離機能層121の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により変化することがある。そのため、これらの条件は、他の条件に合わせて最適化可能である。
【0050】
熱放射、電磁波照射、電子線照射、及びプラズマ照射は、基板10側から行われてもよい。基板10の材質は、重合の条件に応じて選択されればよい。例えば、基板10が紫外線を透過可能な材質(例えば透光性を有する樹脂等の高分子化合物、又はガラス)であるとき、基板側からの紫外線照射によって重合を行うことができる。
【0051】
1−6.工程(e)
図5を参照して、工程(e)について説明する。工程(e)によって犠牲層11を除去することにより、目的とする微多孔性支持膜13と分離機能層121を備える複合半透膜14を得ることができる。犠牲層11を除去する方法は、微多孔性支持膜13および分離機能層121を溶解しなければ特に限定されない。
【0052】
工程(e)は、例えば、水と犠牲層11とを接触させることを含んでいてもよい。水には水溶液が含まれる。犠牲層11が水により除去できる場合、複合半透膜14が基板10から剥離するまで犠牲層11に水を接触させる。また、犠牲層11が酸性水溶液により除去できる場合、複合半透膜14が基板10から剥離するまで犠牲層11に酸性水溶液を接触させる。酸性水溶液のpHは、3以下であると効率的に犠牲層11を除去することができるため好ましい。また、犠牲層除去の効率を上げるためには、水または水溶液の温度を上げることも効果的である。水又は水溶液の温度、及び水又は水溶液による処理時間等は、基板10から複合半透膜14が剥離するように設定されればよく、具体的な数値に限定されるものではない。
【0053】
「犠牲層11に水又は水溶液を接触させる」方法としては、例えば、図4に示す積層物全体を水又は水溶液に浸漬すること;微多孔性支持膜13から基板10の犠牲層11側の面までを水又は水溶液に浸漬すること;及び微多孔性支持膜13に水又は水溶液を塗布すること等が挙げられる。塗布の方法としては、犠牲層11の形成方法として述べた方法が使用可能である。
【0054】
犠牲層の除去後に、複合半透膜14の構成及び使用目的等に合わせて、水、水溶液、又はその他の液体によって複合半透膜14が洗浄されてもよい。
【0055】
このようにして得られた複合半透膜14はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
【0056】
基板及び犠牲層を用いずに、微多孔性支持膜上に重合材料層を形成すると、微多孔性支持膜の表面の孔中に重合材料層を形成する組成物が入り込みやすい。よって、欠陥のない分離機能層を形成するためには、つまり微多孔性支持膜の表面を分離機能層で隙間無く覆うためには、微多孔性支持膜の表面の孔内に入り込んだ組成物の厚みも合わせると、重合材料層の厚みを比較的大きくする必要がある。
【0057】
これに対して、以上に説明した製造方法によると、基板上に犠牲層を設け、さらにその上に重合材料層を設けることで、このような問題点を解消し、薄くかつ欠点の少ない重合性材料層(つまり分離機能層)を形成することができる。その結果、透水性に優れる複合半透膜が得られると考えられる。
【0058】
本発明の製造方法は、上述した工程以外に、さらなる工程を含むことができる。また、異なる工程について例示された選択肢をそれぞれ組み合わせることで得られる実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
2.複合半透膜
図5を参照して、複合半透膜14について説明する。
【0060】
複合半透膜14は、分離機能層121及び微多孔性支持膜13を備える。
【0061】
分離機能層121は、複合半透膜14において実質的に分離機能を有する層である。分離機能層121は、重合性材料層12中の重合性化合物の重合物を主成分として含有する。
【0062】
複合半透膜14における分離機能層121の厚みは5〜500nmの範囲内にあると好ましい。下限としてより好ましくは10nmである。上限としてより好ましくは200nmである。薄膜化することによりクラックが入りにくくなり、欠点による溶質除去性能の低下を回避できる。さらにそのように薄膜化した重合性化合物の膜は高い透水性を有する。上述したように、上述の製造方法は、薄い分離機能層121の形成に適している。
【0063】
複合半透膜14は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0064】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0065】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩阻止率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.1MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩阻止率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0066】
本発明の複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/Lの塩を含有する液状混合物が挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下において実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
(塩阻止率)
複合半透膜に、濃度500ppm、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液を操作圧力0.75MPaで供給して、膜ろ過処理を行い、得られた透過水の塩濃度を測定した。得られた透過水の塩濃度および供給水の塩濃度から、下記式に基づいて塩阻止率を求めた。なお、透過水の塩濃度は、電気伝導度の測定値より求めた。
【0069】
塩阻止率(%)=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
運転開始から透過水のサンプリングを開始するまでの時間、およびサンプリング時間(サンプリング量)は、全ての膜で同一とした。
【0070】
(膜透過流束)
塩阻止率と同条件で膜ろ過処理を行い、得られた透過水量に基づいて、下記式により膜透過流束を求めた。
【0071】
膜透過流束(m/m/day)=1日あたりの造水量/膜面積
(耐塩素性)
温度25℃、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、複合半透膜を1週間浸漬接触させた。塩素接触の前後で、上述の手法によって塩阻止率を測定し、性能保持率として、塩阻止率の変化率を下記式により算出した。
塩素接触後の性能保持率(%)=100×塩素接触後の塩阻止率/塩素接触前の塩阻止率
(平均厚さ)
なお、分離機能層の厚さは複合半透膜の超薄断面切片試料を透過型電子顕微鏡により分析して求めた。具体的には、複合半透膜の任意の5個の位置を選択し、各位置で2万倍の拡大率で幅1μmの断面画像を撮影した。1つの画像あたり10箇所で分離機能層の厚みを測定した。1つの画像における測定値から厚みの相加平均値を算出した。各位置で得られた相加平均値から、さらに相加平均値を算出することで、膜の平均厚さを算出した。
【0072】
(微多孔性支持膜)
ポリエステル不織布上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。この微多孔性支持膜を以下の実施例および比較例で用いた。
【0073】
(実施例1)
ポリビニルアルコール5.0重量%、グルタルアルデヒド0.5重量%、硫酸5mMを含む水溶液をスピンコートによってPETフィルム上に塗布した後、乾燥して犠牲層を形成した。
【0074】
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.4重量%、4−スチレンスルホン酸ナトリウム1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%、純水33.5重量%を含むイソプロピルアルコール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0075】
重合性化合物の薄層表面に、上述のとおり得られた微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射することで、複合物を得た。
【0076】
得られた複合物をpH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去し、目的とする複合半透膜を作製した。
【0077】
このようにして得られた複合半透膜に、pH6.5に調整した500ppm食塩水を、0.75MPa、25℃の条件下で供給して加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0078】
(実施例2)
実施例1と同様にしてPETフィルム上に犠牲層を形成した。
【0079】
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.4重量%、スチレン1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%を含むメタノール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0080】
重合性化合物の薄層表面に微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射することで、複合物を得た。
【0081】
得られた複合物をpH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去し、目的とする複合半透膜を作製した。
【0082】
このようにして得られた複合半透膜を用いて、上述の条件で加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0083】
(実施例3)
実施例1と同様にしてPETフィルム上に犠牲層を形成した。
【0084】
エチレングリコールジメタクリレート1.2重量%、アクリル酸3.8重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0085】
重合性化合物の薄層表面に微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射することで複合物を得た。
【0086】
得られた複合物をpH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去した後、0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、目的とする複合半透膜を作製した。
【0087】
このようにして得られた複合半透膜を用いて、上述の条件で加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0088】
(実施例4)
実施例1と同様にしてPETフィルム上に犠牲層を形成した。
【0089】
アクリル酸エステルであるアロニックスM−315(東亜合成(株)製)3.2重量%、アクリル酸1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0090】
重合性化合物の薄層表面に微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射した。得られた複合物をpH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去した後、メタクリル酸40%を含有するメタノール溶液に60℃で10分間浸漬し、次に20℃の純水に浸漬して目的とする複合半透膜を作製した。
【0091】
このようにして得られた複合半透膜を用いて、上述の条件で加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0092】
(実施例5)
実施例1と同様にしてPETフィルム上に犠牲層を形成した。
【0093】
デナコールアクリレートDA721(ナガセケムテックス(株)製)1.8重量%、アクリル酸2.9重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0094】
重合性化合物の薄層表面に微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射した。得られた複合物をpH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去した後、メタクリル酸40%を含有するメタノール溶液に60℃で10分間浸漬し、次に20℃の純水に浸漬して目的とする複合半透膜を作製した。
【0095】
このようにして得られた複合半透膜を用いて、上述の条件で加圧膜ろ過運転を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。
【0096】
(実施例6)
実施例1と同様にしてPETフィルム上に犠牲層を形成した。
【0097】
4−アミノスチレン2.0重量%、4−ビニル安息香酸2.0重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%を含むメタノール溶液をスピンコートによって犠牲層上に塗布した後、乾燥して重合性化合物を含む組成物の薄層を形成した。
【0098】
重合性化合物の薄層表面に微多孔性支持膜表面を圧着した後、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で基板側から10分間照射することで、複合物を得た。
【0099】
得られた複合物を2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン/N−メチルホルホリン4.0重量%を含むメタノール溶液に1時間浸漬した後、pH2、50℃の水溶液に3時間浸漬して犠牲層を除去し、目的とする複合半透膜を作製した。
【0100】
得られた複合半透膜を用いて上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0101】
(比較例1)
微多孔性支持膜を、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.4重量%、4−スチレンスルホン酸ナトリウム1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%、純水33.5重量%を含むイソプロピルアルコール溶液に1分間接触させ、窒素ブローにより表面の液滴を除去して微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で10分間照射した。その後、120℃の乾燥機中で3時間保持し、複合半透膜を得た。
【0102】
得られた複合半透膜を、10重量%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬した後、上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0103】
(比較例2)
分離機能層を形成する溶液を、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.2重量%、4−スチレンスルホン酸ナトリウム0.8重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.12重量%、純水34.2重量%を含むイソプロピルアルコール溶液に変えた以外は、比較例1と同様の手順にて複合半透膜を得た。
【0104】
得られた複合半透膜を、10重量%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬した後、上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0105】
(比較例3)
分離機能層を形成する溶液を、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.4重量%、スチレン1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%を含むメタノール溶液に変えた以外は、比較例1と同様の手順にて複合半透膜を得た。
【0106】
得られた複合半透膜を、10重量%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬した後、上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0107】
(比較例4)
微多孔性支持膜を、エチレングリコールジメタクリレート1.2重量%、アクリル酸3.8重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液に30秒間接触させ、窒素ブローにより表面の液滴を除去して微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で10分間照射した。その後、0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、複合半透膜を得た。
【0108】
得られた複合半透膜を用いて、上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0109】
(比較例5)
微多孔性支持膜を、アロニックスM−315(東亞合成(株)製)3.2重量%、アクリル酸1.6重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液に1分間接触させ、窒素ブローにより表面の液滴を除去して微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で10分間照射した。その後、メタクリル酸40%を含有するメタノール溶液に60℃で10分間浸漬し、次に20℃の純水に浸漬して複合半透膜を得た。
【0110】
得られた複合半透膜を用いて上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0111】
(比較例6)
微多孔性支持膜を、デナコールアクリレートDA721(ナガセケムテックス(株)製)1.8重量%、アクリル酸2.9重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.3重量%を含むメタノール溶液に1分間接触させ、窒素ブローにより表面の液滴を除去して微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で10分間照射した。その後、メタクリル酸40%を含有するメタノール溶液に60℃で10分間浸漬し、次に20℃の純水に浸漬して複合半透膜を得た。
【0112】
得られた複合半透膜を用いて上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0113】
(比較例7)
微多孔性支持膜を4−アミノスチレン2.0重量%、4−ビニル安息香酸2.0重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%を含むメタノール溶液に1分間接触させ、窒素ブローにより表面の液滴を除去して微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで、波長365nmの紫外線を20mW/cmの強度で10分間照射した。
【0114】
得られた複合物を2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン/N−メチルホルホリン4.0重量%を含むメタノール溶液に1時間浸漬した後、pH2、50℃の水溶液に3時間浸漬し、目的とする複合半透膜を作製した。
【0115】
得られた複合半透膜を用いて上述の条件で加圧膜ろか運転を行った結果、表1に示した性能が得られた。
【0116】
(実施例と比較例との比較)
実施例1と比較例1とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例1の方が膜透過流束は大きかった。
【0117】
また、実施例1と比較例2とでは、分離機能層を形成する製膜原液の成分は同一で、濃度は実施例1の方が高く、塩阻止率および性能保持率は実施例1の方が高かった。また、比較例1と比較例2とを比べると、比較例1は膜透過流束において著しく比較例2よりも劣っていたのに対して、実施例1の膜は上述のとおり比較例1よりも優れた膜透過流束を示したので、総合的に優れた性能を示すといえる。
【0118】
実施例2と比較例3とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例2の方が膜透過流束において優れていた。
【0119】
実施例3と比較例4とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例3の方が膜透過流束において優れていた。
【0120】
実施例4と比較例5とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例4の方が膜透過流束において優れていた。
【0121】
実施例5と比較例6とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例5の方が膜透過流束において優れていた。
【0122】
実施例6と比較例7とでは、分離機能層を形成する製膜原液の組成は同一であるが、実施例6の方が膜透過流束において優れていた。
【0123】
【表1】

【0124】
以上のように、本発明により得られる複合半透膜は、従来の手法により作製された膜では達成できなかった高い透水性を有しており、実用性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩や硬水の軟水化などに有用な半透膜の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0126】
10 基板
11 犠牲層
12 重合性材料層
121 分離機能層
13 微多孔性支持膜
131 第1面131
132 第2面132
14 複合半透膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜と分離機能層からなる複合半透膜の製造方法であって、
犠牲層が形成された基板を準備する工程、
前記犠牲層上に重合性化合物を含む組成物の層を形成する工程、
前記組成物の層上に微多孔性支持膜を接着する工程、
前記重合性化合物を重合する工程、および
前記犠牲層を除去する工程
を含む複合半透膜の製造方法。
【請求項2】
前記犠牲層を除去する工程は、pH3以下の水溶液と、前記犠牲層とを接触させることを含む
請求項1に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
前記重合性化合物を重合する工程が、前記基板の側からの紫外光照射を含む請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法により製造される複合半透膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−81938(P2013−81938A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210686(P2012−210686)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】