説明

複合微多孔膜及びその製造方法並びに用途

ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、(a) ゲル化可能なフッ素樹脂と、(b) その良溶剤と、(c) 双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥して上記フッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層を形成することにより得られる複合微多孔膜は、上記被覆層に円柱状の貫通孔が形成されており、透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微多孔膜及びその製造方法並びに用途に関し、特に透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れた複合微多孔膜及びその製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、リチウム電池用を始めとする電池用セパレータ、各種コンデンサ用隔膜、各種フィルタ、透湿防水衣料、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種用途に幅広く用いられている。
【0003】
リチウム二次電池用及びリチウムイオン電池用のセパレータには、外部回路の短絡、過充電等により引き起こされる電池の発熱、発火、破裂事故等を防止するため、異常時の発熱により細孔が閉塞して電池反応を停止する機能とともに、高温になっても形状を維持して正極物質と負極物質が直接反応する危険な事態を防止する機能が要求される。しかし現在セパレータとして広く使用されている、製造時に延伸を伴うポリオレフィン微多孔膜には、高温での形状維持特性が低いという問題がある。
【0004】
携帯用電子機器やノート型パソコンの小型化及び軽量化に伴い、リチウムイオン二次電池は薄型化及び高容量化が図られているが、それに伴う電池容量の低下、電極間の短絡、サイクル性能の低下等を防止するため、セパレータには電極に対する接着性の向上も求められている。しかしこの点に関しても、従来のポリオレフィン微多孔膜は不十分である。
【0005】
イオン伝導性及び電極に対する接着性を両立するセパレータとして、特開2001-118558号は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、5μm以下の厚さのイオン伝導性ポリマー層が50%以下の表面被覆率で点在するリチウムイオン二次電池用セパレータを提案している。しかしこのセパレータの製造方法は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、単にイオン伝導性ポリマーの溶液を塗布し、乾燥するものであるので、イオン伝導性ポリマー層の孔径制御が困難な場合があり、得られるセパレータの透過性が不十分となってしまう恐れがあった。
【0006】
シャットダウン特性と電解液保持性を両立するセパレータとして、特開2002-216734号は、融点が145℃以下のフッ化ビニリデン含有共重合体からなる微多孔層を両表層に有し、融点が140℃以下のポリオレフィンからなる微多孔層を中間層として有する三層構造微多孔膜からなるリチウム電池用セパレータを提案している。しかしこのセパレータは、(1) フッ化ビニリデン含有共重合体からなる微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜とをあらかじめ作製し、これらを重ね合わせた後、延伸及び圧着する方法、又は(2) 上記各ポリマーの溶液を同時に押し出し、冷却により相分離させて三層シートを形成し、成膜用溶剤を除去した後延伸するか、延伸した後成膜用溶剤を除去する方法により製造される。上記(1)の方法では圧着により細孔が閉塞され易く、上記(2)の方法では高透過性の膜を得るために高倍率で延伸しなければならず、そのため良好な耐熱収縮性が得られない。さらに上記(1)及び(2)のいずれの方法にも、各微多孔膜層の融点が近くなければ剥離し易いという問題点がある。
【0007】
電池製造工程における電解液注入性、サイクル特性等が改善された微多孔膜として、本出願人は先に、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面にゲル化可能な機能性高分子の多孔質体からなる被覆層を形成してなり、多孔質体の平均孔径がポリオレフィン微多孔膜の最大孔径より大きい複合膜を提案した[特開2002-240215号(特許文献1)]。この複合膜は、(1) ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、良溶剤に溶解した高分子物質を塗布し、塗布後の微多孔膜を貧溶剤に浸漬することにより相分離した後、乾燥する方法、(2) ポリオレフィン徴多孔膜の少なくとも一面に、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤に溶解した高分子物質を塗布し、良溶剤を選択的に蒸発させることにより相分離した後、残留する溶剤を除去する方法、又は(3) ポリオレフィン徴多孔膜の少なくとも一面に、良溶剤に溶解した高分子物質を塗布し、冷却することにより相分離した後、乾燥する方法により製造される。
【0008】
しかし上記(1)の方法では、貧溶剤への浸漬を伴うため、得られる複合膜の被覆層が剥離しやすく、得られるセパレータの電極に対する接着性が不十分であり、細孔の形成も不十分であることが分かった。上記(2)の方法では、貧溶剤の最適化がなされておらず、被覆層に十分な細孔を形成できない場合があることが分かった。上記(3)の方法では、良溶剤のみしか使用しないので、多孔質体層の孔径制御が困難な場合があり、得られるセパレータの透過性が不十分となってしまう恐れがあった。
【0009】
ポリオレフィン微多孔膜はまた、その特性である微細孔構造を活かし、分離膜としてガス−ガス分離、液−液分離、固−液分離等の用途に使用されている。分離膜には、膜全体が微細孔構造である均一構造膜、膜の表面もしくは内部に設けられた微細孔構造とそれを支持する疎な細孔構造とを有する不均一構造膜、微多孔膜層と多孔性支持体層とからなる複合膜等があり、これらの中から分離対象に応じて適宜選択される。近年ポリオレフィン微多孔膜からなる分離膜に対しては、分離性能のみならず、機械的強度の向上も求められている。
【0010】
そこで特開平6-198146号は、2層の微多孔膜層からなり、一方の微多孔膜層が他方の微多孔膜層より薄く、かつより微細な孔構造を有する精密ろ過膜を提案している。この精密ろ過膜は、(1) 高分子組成物の溶液を微多孔膜支持体に塗布し、上記溶液の溶剤に対して混和性であるが高分子組成物に対して非混和性である液体に、塗布後の微多孔膜支持体を浸漬した後、高分子組成物を凝固させる方法、あるいは(2) 高分子組成物種又は濃度が異なる2種の高分子組成物溶液を同時に押し出してラミネートを形成した後、凝固する方法により製造される。しかし上記のように上記(1)及び(2)のいずれの方法でも、2層の微多孔膜層同士が剥離し易い。
【0011】
【特許文献1】特開2002-240215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れた複合微多孔膜及びその製造方法並びに用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、(a) ゲル化可能なフッ素樹脂と、(b) その良溶剤と、(c) 双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥して前記フッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層を形成することにより得られる複合微多孔膜は、前記被覆層に円柱状の貫通孔が形成されており、透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れていることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明の複合微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、ゲル化可能なフッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層が形成されており、前記被覆層が円柱状の貫通孔を有することを特徴とする。
【0015】
前記貫通孔の平均孔径は0.1〜50μmであるのが好ましく、0.5〜10μmであるのがより好ましい。前記フッ素樹脂はポリフッ化ビニリデン及び/又はフッ化ビニリデン共重合体であるのが好ましい。フッ化ビニリデン共重合体はポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体であるのが好ましい。前記被覆層の厚さは、通常0.001〜50μmである。
【0016】
本発明の好ましい実施態様による複合微多孔膜は、次の下記物性(1)〜(7)を有する。
(1) フッ素樹脂層の平均貫通孔径(円柱状貫通孔の平均孔径)はポリオレフィン微多孔膜の最大孔径より大きい。
(2) 厚さを20μmに換算した場合の透気度(JIS P8117)は10〜1,500秒/100 ccであり、好ましくは20〜1,500秒/100 ccである。
(3) 突刺強度は2,500 mN/20μm以上であり、好ましくは3,000 mN/20μm以上である。
(4) 130℃の温度で1時間処理した後の熱収縮率は長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに35%以下であり、好ましくは30%以下である。
(5) シャットダウン特性に関して、130℃の温度で1時間処理後の透気度は10,000秒/100 cc以上である。
(6) メルトダウン温度は155℃以上である。
(7) 電極に対する接着性に関して、電極に重ね、プレス機で40℃×5分間加熱加圧すると、電解液に浸漬した状態においても剥がれにくい。
【0017】
本発明の複合微多孔膜の製造方法は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、(a) ゲル化可能なフッ素樹脂と、(b) その良溶剤と、(c) 双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥して前記フッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層を形成することを特徴とする。
【0018】
前記貧溶剤は炭素数が6以上の芳香族炭化水素、1-ブタノール、ターシャリーブタノール、及び炭素数が5以上の脂肪族炭化水素からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。前記炭素数が6以上の芳香族炭化水素はトルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン及びエチルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。前記良溶剤としてはアセトンが好ましい。
【0019】
複合微多孔膜が一層優れた特性を得るために、前記ポリオレフィン微多孔膜は下記条件(8)〜(14)を満たすのが好ましい。
(8) 空孔率は25〜95%である。
(9) 厚さを20μmに換算した場合の透気度(JIS P8117)は1,500秒/100 cc以下である。
(10) 平均貫通孔径は0.005〜1μmである。
(11) 引張破断強度は50 MPa以上である。
(12) 突刺強度は2,500 mN/20μm以上である。
(13) 熱収縮率(105℃/8時間)はMD方向及びTD方向ともに16%以下である。
(14) 厚さは5〜200μmである。
【0020】
複合微多孔膜が一層優れた特性を得るために、前記ポリオレフィンは下記条件(15)〜(22)を満たすのが好ましい。
(15) ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む。
(16) 上記(15)に記載のポリエチレンは超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種である。
(17) 上記(15)又は(16)に記載のポリエチレンは質量平均分子量(Mw)が5×105以上の超高分子量ポリエチレンである。
(18) 上記(17)に記載の超高分子量ポリエチレンのMwは1×106〜15×106の範囲内である。
(19) 上記(15)〜(18)のいずれかに記載のポリオレフィンの質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mn(分子量分布)は5〜300である。
(20) 上記(15)〜(19)のいずれかに記載のポリオレフィンはポリエチレン組成物を含む。
(21) 上記(20)に記載のポリエチレン組成物は、Mwが5×105以上の超高分子量ポリエチレンとMwが1×104以上5×105未満の高密度ポリエチレンからなる。
(22) 上記(15)〜(21)のいずれかに記載のポリオレフィンは、シャットダウン機能(電池内部の温度上昇時に、発火等の事故を防止するため、微多孔膜が溶融して微多孔を目詰りさせて電流を遮断する機能)を付与することを目的として、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒を用いて製造されたエチレン-α-オレフィン共重合体、及び分子量が1×103〜4×103の低分子量ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種が添加されたポリオレフィン組成物である。
【0021】
本発明の複合微多孔膜は電池用セパレータとして有用である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、ゲル化可能なフッ素樹脂と、その良溶剤と、双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥して、前記フッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層を形成するので、前記被覆層に円柱状の貫通孔が形成されており、透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れている。
【0023】
本発明の複合微多孔膜は、電池用セパレータとして用いた場合に、電解液に対して親和性を有し、電池製造工程における電解液注入性に優れており、電池反応に対して安定であり、充放電を繰り返しても電池構成部材間の隙間が生じず、電極−セパレータ間の界面抵抗が小さく、長期間に亘って絶縁性を保持できるので、安全性及び信頼性に優れた電池が得られる。さらに本発明の複合微多孔膜は薬液に対する濡れ性、分離性能、透過性及び機械的強度に優れているので、分離膜として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の複合微多孔膜の表面を示すプローブ顕微鏡写真(×7,500)である。
【図2】比較例1の複合微多孔膜の表面を示すプローブ顕微鏡写真(×7,500)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[1] ポリオレフィン微多孔膜
(1) ポリオレフィン
ポリオレフィンは単一物又は二種以上のポリオレフィンからなる組成物のどちらでもよい。ポリオレフィンはポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含むのが好ましい。ポリオレフィンの質量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、通常1×104〜1×107であり、好ましくは1×104〜5×106であり、より好ましくは1×105〜4×106である。
【0026】
ポリエチレンとしては、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンが挙げられる。これらのポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンとしてはプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が好適である。中でもポリエチレンとしては超高分子量ポリエチレンが好ましい。超高分子量ポリエチレンのMwは5×105以上であるのが好ましく、1×106〜15×106の範囲内であるのがより好ましく、1×106〜5×106の範囲内であるのが特に好ましい。超高分子量ポリエチレンのMwを15×106以下にすることにより、溶融押出を容易にすることができる。
【0027】
ポリオレフィンはポリエチレン組成物を含むのがより好ましい。ポリエチレン組成物としては、Mwの異なる二種以上の超高分子量ポリエチレン同士の組成物、同様な高密度ポリエチレン同士の組成物、同様な中密度ポリエチレン同士の組成物、又は同様な低密度ポリエチレン同士の組成物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から二種以上選ばれたポリエチレンの混合組成物を用いても何ら差し支えない。中でもポリエチレン組成物としては、Mwが5×105以上の超高分子量ポリエチレンと、Mwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレンとからなるポリエチレン組成物が好ましい。Mwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンのいずれも用いることができるが、特に高密度ポリエチレンを用いるのが好ましい。Mwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレンはMwの異なるものを二種以上用いてもよいし、密度の異なるものを二種以上用いてもよい。ポリエチレン組成物のMwの上限を15×106以下にすることにより、溶融押出を容易にすることができる。ポリエチレン組成物中のMwが5×105以上の超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリエチレン組成物全体を100質量%として21質量%以上であるのが好ましく、21〜50質量%であるのがより好ましい。
【0028】
ポリオレフィンの質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mn(分子量分布)は限定的でないが、5〜300の範囲内であるのが好ましく、10〜100の範囲内であるのがより好ましい。Mw/Mnが5未満では高分子量成分が多過ぎるためにポリオレフィン溶液の押出が困難であり、Mw/Mnが300超では低分子量成分が多過ぎるために得られる微多孔膜の強度が低い。Mw/Mnは分子量分布の尺度として用いられるものであり、この値が大きいほど分子量分布の幅が大きい。すなわち単一物からなるポリオレフィンの場合、Mw/Mnはその分子量分布の広がりを示し、その値が大きいほど分子量分布は広がっている。単一物からなるポリオレフィンのMw/Mnはポリオレフィンを多段重合により調製することにより適宜調整することができる。多段重合法としては、一段目で高分子量成分を重合し、二段目で低分子量成分を重合する二段重合が好ましい。ポリオレフィンが組成物である場合、Mw/Mnが大きいほど、配合する各成分のMwの差が大きく、また小さいほどMwの差が小さい。ポリオレフィン組成物のMw/Mnは各成分の分子量や混合割合を調整することにより適宜調整することができる。
【0029】
本発明の複合微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、メルトダウン温度を向上させ、かつ電池の高温保存特性を向上させるため、ポリオレフィン組成物はポリプロピレンを含むのが好ましい。ポリプロピレンのMwは1×104〜4×106の範囲内であるのが好ましい。ポリプロピレンとしては、単独重合体の他に、他のα-オレフィンを含むブロック共重合体及び/又はランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体及びランダム共重合体が含む他のα-オレフィンとしてはエチレンが好ましい。ポリプロピレンの添加量はポリオレフィン組成物全体を100質量部として80質量部以下とするのが好ましい。
【0030】
電池用セパレータ用途としての特性を向上させるため、ポリオレフィン組成物はシャットダウン機能を付与するポリオレフィンを含むのが好ましい。シャットダウン機能を付与するポリオレフィンとして、例えば低密度ポリエチレンを用いることができる。低密度ポリエチレンとしては、分岐状の低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、シングルサイト触媒により製造されたエチレン/α-オレフィン共重合体、及びMwが1×103〜4×103の範囲内である低分子量ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。但しその添加量はポリオレフィン全体を100質量部として20質量部以下であるのが好ましい。この添加量が多いと延伸する場合に破断が起こり易い。
【0031】
超高分子量ポリエチレンを含むポリオレフィン組成物として、上記のMwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレン、上記のメルトダウン温度向上用ポリプロピレン、及び上記のシャットダウン機能を付与するポリオレフィンの他に、Mwが1×104〜4×106のポリブテン-1、Mwが1×103〜1×104のポリエチレンワックス、及びMwが1×104〜4×106のエチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種を添加したものを用いてもよい。超高分子量ポリエチレンに他のポリオレフィンを添加したポリオレフィン組成物とする場合、他のポリオレフィンの添加量はポリオレフィン組成物全体を100質量部として80質量部以下であるのが好ましい。
【0032】
(2) 製造方法
ポリオレフィン微多孔膜を製造するには、例えば特公平6-104736号に開示の方法を採用することができる。但しこの方法に限定する趣旨ではない。特公平6-104736号に開示の方法を利用すると、(i) 上記ポリオレフィンに成膜用溶剤を添加した後、溶融混練してポリオレフィン溶液を調製し、(ii) ポリオレフィン溶液をダイリップより押し出した後、冷却してゲル状成形物を形成し、(iii) 得られたゲル状成形物を延伸し、(iv) 延伸物を洗浄溶剤により洗浄して成膜用溶剤を除去し、(v) 得られた膜を乾燥することにより、ポリオレフィン微多孔膜を製造することができる。
【0033】
(3) 望ましい物性
本発明に用いるポリオレフィン微多孔膜としては、空孔率が25〜95%であり、厚さを20μmに換算した場合の透気度(JIS P8117)が1,500秒/100 cc以下であり、平均貫通孔径が0.005〜1μmであり、引張破断強度が50 MPa以上であり、突刺強度が2,500 mN/20μm以上であり、熱収縮率(105℃/8時間)が長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに16%以下であり、厚さが5〜200μmであるものが望ましい。
【0034】
[2] フッ素樹脂層
本発明の複合微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、ゲル化可能なフッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層が形成されており、前記被覆層が円柱状の貫通孔を有する。ポリオレフィン微多孔膜にフッ素樹脂層を形成することにより、特に電極に対する接着性が向上する。フッ素樹脂層は円柱状の細孔を有するので、ポリオレフィン微多孔膜の透過性を損なわない。ここで円柱状の貫通孔とは、開口部からポリオレフィン微多孔膜との接触面まで、ほぼ同じ直径の円状断面を保ちながら、ほぼ垂直に貫通する細孔を意味し、必ずしも正確な円柱状である必要はない。
【0035】
円柱状貫通孔の平均孔径は0.1〜50μmであるのが好ましく、0.5〜10μmであるのがより好ましい。円柱状貫通孔の平均孔径をポリオレフィン微多孔膜の最大孔径より大きくするのが好ましく、これにより透過性が一層向上する。フッ素樹脂層の厚さは、ポリオレフィン微多孔膜の平均貫通孔径や空孔率により異なるが、通常0.001〜50μmである。フッ素樹脂層の厚さが0.001μmより薄いと欠陥が発生しやすく、一方50μm超であると透過性が悪化する恐れがある。
【0036】
ゲル化可能なフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニリデン共重合体及びフッ化ビニル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。フッ化ビニリデン共重合体のフッ化ビニリデン単位含有率、及びフッ化ビニル共重合体のフッ化ビニル単位含有率は、それぞれ75質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。フッ化ビニリデン又はフッ化ビニルと共重合するモノマーの例として、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ジフルオロクロロエチレン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N-ブトキシメチルアクリルアミド、酢酸アリル、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0037】
中でもフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデン共重合体が好ましい。フッ化ビニリデン共重合体としては、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体が好ましい。
【0038】
フッ素樹脂を架橋してもよく、これにより複合微多孔膜が電解液を吸収し、高温で膨潤した場合の形状変化を抑制することができる。架橋方法としては、電離放射線を照射する方法、架橋剤を用いる方法、加硫する方法等が挙げられる。電離放射線としてはα線、β線、γ線、電子線等を用いることができる。架橋剤としては、不飽和結合を2つ以上有する化合物、例えばブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
【0039】
フッ素樹脂はグラフト重合により変性されていてもよい。グラフト重合に用いることができる化合物としては、例えばエチレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、メチルビニルケトン、アクリルアミド、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル等が挙げられる。フッ素樹脂を上記のような化合物を用いたグラフト重合体とすることにより電極に対する接着性が一層向上する。フッ素樹脂は、その効果を損なわない限り、他の樹脂を混合した組成物としてもよい。
【0040】
フッ素樹脂の融点は、ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンの融点より高いのが好ましく、5℃以上高いのがより好ましい。
【0041】
[3] 複合微多孔膜の製造方法
本発明の複合微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、(a) 上記フッ素樹脂と、(b) その良溶剤と、(c) 双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥することにより製造することができる。溶剤として良溶剤だけを用いると、フッ素樹脂層の構造が密になり過ぎるために円柱状の細孔が形成されず、透過性が悪化する。一方溶剤として貧溶剤だけを用いると、上記フッ素樹脂の分散性が悪化し、混合液を塗布するのが困難になる。
【0042】
良溶剤としては、例えばアセトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、リン酸トリエチル及び無水酢酸を挙げることができる。中でも良溶剤としてはアセトンが好ましい。
【0043】
貧溶剤の双極子モーメントは1.8 Debye以下である必要がある。貧溶剤の双極子モーメントが1.8 Debyeを超えると、フッ素樹脂層に円柱状の細孔が形成されず、得られる複合微多孔膜の透過性が著しく悪化する。貧溶剤の双極子モーメントは1.0 Debye以下であるのが好ましい。双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤として、例えば炭素数が6以上の芳香族炭化水素、1-ブタノール、ターシャリーブタノール、イソブタノール、炭素数が5以上の脂肪族炭化水素からなる群から選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。中でも貧溶剤としてはトルエン(双極子モーメント:0.375 Debye)、オルトキシレン(双極子モーメント:0.44 Debye)、メタキシレン(双極子モーメント:0.35 Debye)、パラキシレン(双極子モーメント:0 Debye)、エチルベンゼン(双極子モーメント:0.35 Debye)、1-ブタノール(双極子モーメント:1.68 Debye)、ターシャリーブタノール(双極子モーメント:1.66 Debye)及びイソブタノール(双極子モーメント:1.79 Debye)からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。ここで双極子モーメントは分子軌道法による計算値である。ただし上記のような双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて双極子モーメントが1.8 Debye超の貧溶剤を少量含んでもよい。
【0044】
細孔は、フッ素樹脂相が貧溶剤によりミクロ相分離された相分離構造を、貧溶剤の除去により固定化することにより形成される。貧溶剤が除去された後に良溶剤が残留していると、相分離構造の固定化に悪影響を与える恐れがある。従って、乾燥時に良溶剤は貧溶剤より先に揮発するのが好ましい。このため貧溶剤の沸点は良溶剤の沸点以上であるのが好ましく、良溶剤の沸点より高いのがより好ましい。また良溶剤と貧溶剤は共沸しないのが好ましい。
【0045】
具体的には、良溶剤と貧溶剤の沸点の差は30℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましい。例えば良溶剤としてアセトン(沸点:56.5℃)を使用する場合、貧溶剤としてエタノール(沸点:78.3℃、双極子モーメント:1.68 Debye)やイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃、双極子モーメント:1.79 Debye)を用いるより、沸点差が30℃以上あるものを用いる方が、貫通孔の孔径制御が容易であるとともに、貫通孔の形状が正確な円柱状に近くなる。
【0046】
アセトンに対する好ましい貧溶剤の具体例として、トルエン(沸点:110.6℃)、オルトキシレン(沸点:144.4℃)、メタキシレン(沸点:139.1℃)、パラキシレン(沸点:138.4℃)、エチルベンゼン(沸点:136.2℃)、1-ブタノール(沸点:117.7℃)及びイソブタノール(沸点:107.9℃)からなる群から選ばれた少なくとも一種が挙げられる。良溶剤と貧溶剤の組合せのより好ましい組合せは、良溶剤/貧溶剤=アセトン/キシレン(オルトキシレン、メタキシレン及びパラキシレンからなる群から選ばれた少なくとも一種)、アセトン/トルエン及びアセトン/ブタノール(1-ブタノール及び/又はターシャリーブタノール)である。
【0047】
混合液中のフッ素樹脂の含有量は、塗布方法及び形成すべき被覆層の厚さにより適宜調整するが、通常1〜20質量%である。良溶剤と貧溶剤との混合比は特に制限されないが、良溶剤/貧溶剤の重量比で10/90〜95/5であるのが好ましく、20/80〜90/10であるのがより好ましく、30/70〜90/10であるのが特に好ましい。
【0048】
混合液の塗布は、慣用の流延又は塗布方法、例えばロールコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、グラビアコーター法、シルクスクリーンコーター法、ダイコーター法、マイクログラビアコーター法等により行うことができる。
【0049】
混合液を塗布した後、良溶剤及び貧溶剤を乾燥により除去する。乾燥方法としては、風乾、熱風乾燥、オーブン内での加熱乾燥等慣用の方法でよい。必要に応じて減圧乾燥してもよい。好ましくは、風乾した後、熱乾燥する。風乾方法として、例えば強制的に低湿度のガスを吹き付ける方法を挙げることができる。熱乾燥処理温度は50〜90℃の範囲であるのが好ましく、熱乾燥処理時間は1〜10分の範囲であるのが好ましい。
【0050】
フッ素樹脂層の平均貫通孔径(円柱状貫通孔の平均孔径)は、貧溶剤、混合液中の貧溶剤濃度、乾燥速度等を適宜選択することにより制御できる。
【0051】
以上のような製造方法により、ポリオレフィン微多孔膜とフッ素樹脂層の接着性に優れた複合膜が得られる。このため本発明の複合膜は、セパレータとして用いた場合の耐久性に優れている。
【0052】
[4] 複合微多孔膜
本発明の好ましい実施態様による複合微多孔膜は、以下の物性を有する。
(1) 厚さを20μmに換算した場合の透気度(JIS P8117)は10〜1,500秒/100 ccであり、20〜1,500秒/100 ccであるのが好ましい。透気度が1,500秒/100 ccを超えると、複合微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合に、高レート放電時や低温放電時の電池容量が小さくなる。一方10秒/100 cc未満では電池内部の温度上昇時にシャットダウンが十分に行われない。
(2) 突刺強度は2,500 mN/20μm以上であり、好ましくは3,000 mN/20μm以上である。突刺強度が2,500 mN/20μm未満では、複合微多孔膜を電池用セパレータとして電池に組み込んだ場合に短絡が発生する恐れがある。
(3) 130℃の温度で1時間処理した後の熱収縮率はMD方向及びTD方向ともに35%以下であり、30%以下であるのが好ましい。熱収縮率が35%を超えると、複合微多孔膜を電池用セパレータとして電池に組み込んだ場合の異常発熱によりセパレータ端部が収縮し、短絡が発生する可能性が高くなる。
(4) シャットダウン特性に関して、130℃の温度で1時間処理後の透気度が10,000秒/100 cc以上である。
(5) メルトダウン温度は155℃以上である。
(6) 電極に対する接着性に関して、電極と複合微多孔膜を重ね、プレス機で40℃×5分間加熱加圧すると、電解液に浸漬した状態においても剥がれにくい。
【0053】
このように、本発明の複合微多孔膜は、透過性、電極に対する接着性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れているので、電池用セパレータ、分離膜等の用途に好適である。なお複合微多孔膜の厚さは用途に応じて適宜選択できるが、例えば電池用セパレータとして使用する場合、5〜200μmにするのが好ましい。
【0054】
本発明の複合微多孔膜からなるセパレータは、これを用いる電池の種類に特に制限はないが、特にリチウム二次電池用途に好適である。本発明の複合微多孔膜からなるセパレータを用いたリチウム二次電池には、公知の電極及び電解液を使用すればよい。また本発明の複合微多孔膜からなるセパレータを使用するリチウム二次電池の構造も公知のものでよい。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
(1) フッ素樹脂混合液の調製
2.7質量部のポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体(商品名:Kynar2801、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約10質量%、溶融粘度:2,300〜2,700 Pa・s)を、73質量部のアセトンに室温で溶解し、フッ素樹脂溶液を調製した。得られたフッ素樹脂溶液(75.7質量部)に24.3質量部の混合キシレン[オルトキシレン(双極子モーメント:0.44 Debye)とメタキシレン(双極子モーメント:0.35 Debye)の合計含有率:80モル%以上]を添加し、フッ素樹脂混合液を調製した。
【0057】
(2) 被覆層の形成
ポリエチレン微多孔膜[商品名:セティーラ、東燃化学(株)製、厚さ:21.9μm、透気度:253 sec/100 cc、突刺強度:3,028 mN/20μm、熱収縮率:16%(MD、105℃/8hr)、5.5%(TD、105℃/8hr)、引張破断強度:90 MPa(MD)、65 MPa(TD)、平均貫通孔径:0.04μm、最大孔径:0.2μm、空孔率:47%]を2m/minの速度で搬送しながら、マイクログラビアコーター(ロールメッシュ:#55、ロール径:20 mm、回転数:48 rpm)により、上記混合液を塗布した。次いで60℃に温調した乾燥炉(4m)中に通過させることにより乾燥し、複合微多孔膜を作製した。
【0058】
実施例2
トルエン(双極子モーメント:0.375 Debye)を貧溶剤としてフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例1と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0059】
実施例3
アセトンの配合割合を68.1質量部とし、貧溶剤として29.2質量部の1-ブタノール(双極子モーメント:1.68 Debye)を添加してフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例1と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0060】
実施例4
ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体として「Kynar2821」(商品名、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約10質量%、溶融粘度:1200〜2,000 Pa・s)を用い、アセトンの配合割合を77.8質量部とし、混合キシレンの配合割合を19.5質量部としてフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例1と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0061】
実施例5
トルエンを貧溶剤としてフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例4と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0062】
実施例6
ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体として「Kynar2851」(商品名、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約5質量%、溶融粘度:1700〜2,700 Pa・s)を用いて、フッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例4と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0063】
比較例1
アセトンの配合割合を97.3質量部とし、貧溶剤を添加せずにフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例1と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0064】
比較例2
アセトンの配合割合を68.1質量部とし、貧溶剤として29.2質量部のブチルアセテート(双極子モーメント:1.84 Debye)を添加してフッ素樹脂混合液を調製した以外、実施例1と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0065】
比較例3
(1) フッ素樹脂混合液の調製
ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体(商品名:Kynar2801)2.7質量部を97.3質量部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に室温で溶解し、フッ素樹脂のNMP溶液を調製した。
【0066】
(2) 被覆層の形成
実施例1と同じポリエチレン微多孔膜(商品名:セティーラ)を2m/minの速度で搬送しながら、マイクログラビアコーター(ロールメッシュ:#55、ロール径:20 mm、回転数:48 rpm)により、上記フッ素樹脂のNMP溶液を塗布した。塗布後の膜から6cm×6cmのサンプルを切り出し、室温でエタノール浴に0.1分間浸漬した。次いで60℃に温調したオーブン中で5分間乾燥し、複合微多孔膜を作製した。
【0067】
比較例4
比較例3と同じフッ素樹脂のNMP溶液を塗布したサンプル膜を1-ブタノール浴に浸漬した以外、比較例3と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0068】
比較例5
比較例3と同じフッ素樹脂のNMP溶液を塗布したサンプル膜を混合キシレン浴に浸漬した以外、比較例3と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0069】
比較例6
比較例3と同じフッ素樹脂のNMP溶液を塗布したサンプル膜をトルエン浴に浸漬した以外、比較例3と同様にして複合微多孔膜を作製した。
【0070】
実施例1及び比較例1の複合微多孔膜の表面を撮影したプローブ顕微鏡写真(×7,500)を図1(実施例1)及び図2(比較例1)に示す。図1に示すように、実施例1の複合微多孔膜は直径0.4〜4μmの円柱状の貫通孔を有する。これに対して、図2に示すように比較例1の複合微多孔膜ではフッ素樹脂が粒子状に堆積しており、円柱状の細孔が形成されていない。
【0071】
実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた複合微多孔膜の物性を以下の方法で測定した。比較例7として実施例1〜6及び比較例1〜6で用いたポリエチレン微多孔膜の物性に関しても同じ方法で測定した。
・被覆層の状態:プローブ顕微鏡により観察した。
・被覆層の厚さ:被覆層形成後の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製)により測定し、ポリエチレン微多孔膜の厚さとの差を算出した。
・被覆層の平均貫通孔径:プローブ顕微鏡を用いて10個の貫通孔の直径を測定し、平均した。
・透気度:JIS P8117により測定し、20μmの膜厚に換算した値を求めた。
・空孔率:重量法により測定した。
・突刺強度:複合微多孔膜を直径1mm(0.5 mm R)の針を用いて2mm/秒の速度で突き刺したときの最大荷重を測定し、20μmの膜厚に換算した値を求めた。
・熱収縮率:複合微多孔膜がそのMD方向に沿って拘束された状態となるように枠板に固定し(拘束する長さ:3.5 cm)、130℃の温度で1時間処理してTD方向の収縮率を測定した。
・シャットダウン特性:熱収縮率測定条件(130℃/1時間)で処理後の透気度(JIS P8117)を測定し、20μmの膜厚に換算した値を求めた。
・メルトダウン特性:内寸4cm×3cmの枠板に、複合微多孔膜を、そのMD方向が枠板の長辺方向に沿うように固定し、150℃の温度で10分間熱処理し、破膜の有無を確認した。その後、温度を5℃刻みで段階的に上げながら同様の熱処理を行い、初めて破膜した温度をメルトダウン温度とした。
・2枚の板状電極(正極:LiCoO2、負極:グラファイト)の間に複合微多孔膜を挟み、電解液(電解質:LiPF6、溶媒:エチレンカーボネート + ジエチルカーボネート)を含浸させた。次いでプレス機で40℃×5分間加熱加圧した後、電極と複合微多孔膜を引き剥がし、その難易を調べた。判定基準を示す記号は○:「引き剥がしが困難である」、及び×:「容易に引き剥がすことができる」をそれぞれ示す。
【0072】
【表1】

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

【0073】
注:(1) 双極子モーメント。
(2) 130℃の温度で1時間処理後の透気度。
(3) 2枚の板状電極(正極:LiCoO2、負極:グラファイト)の間に複合微多孔膜を挟み、電解液(電解質:LiPF6、溶媒:エチレンカーボネート + ジエチルカーボネート)を含浸後、プレス機で40℃×5分間加熱加圧し、電極と複合微多孔膜を引き剥がし、引き剥がしの難易を調べた。
(4) ポリエチレン微多孔膜、商品名:セティーラ、東燃化学(株)製。
(5) ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体(商品名:Kynar2801、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約10質量%、溶融粘度:2300〜2700 Pa・s)。
(6) オルトキシレン(双極子モーメント:0.44 Debye)とメタキシレン(双極子モーメント:0.35 Debye)の合計含有率:80モル%以上。
(7) ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体(商品名:Kynar2821、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約10質量%、溶融粘度:1200〜2000 Pa・s)。
(8) ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体(商品名:Kynar2851、ATOFINA社製、ヘキサフルオロプロピレン含有率:約5質量%、溶融粘度:1700〜2700 Pa・s)。
(9) N-メチル-2-ピロリドン。
(10) 微多孔膜を105℃の温度で8時間処理したときの長手方向(MD)、幅方向(TD)の収縮率をそれぞれ3回ずつ測定し、平均値を求めた。
【0074】
表1に示すように、本発明の方法により製造した実施例1〜6の複合微多孔膜は、透気度、突刺強度、熱収縮率、シャットダウン特性、メルトダウン特性及び電極に対する接着性において優れている。一方、比較例1では塗布液に貧溶剤を混合していないため、円柱状の細孔が形成されず、透気度が劣っている。比較例2では塗布液に双極子モーメントが1.8 Debye超の貧溶剤を混合しているため、円柱状の細孔が形成されず、透気度が劣っている。比較例3では塗布液に貧溶剤を混合しておらず、塗布後に貧溶剤に浸漬しているため、円柱状の細孔が形成されず、透気度が劣っている。比較例4〜6では塗布液に貧溶剤を混合せず、塗布後に貧溶剤に浸漬しているため、細孔の形成が不十分であるだけでなく被覆層が剥離してしまう。比較例7ではフッ素樹脂層を有さないため、シャットダウン特性及び電極に対する接着性が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、ゲル化可能なフッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層が形成された複合微多孔膜であって、前記被覆層は円柱状の貫通孔を有することを特徴とする複合微多孔膜。
【請求項2】
請求項1に記載の複合微多孔膜において、前記貫通孔の平均孔径は0.1〜50μmであることを特徴とする複合微多孔膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合微多孔膜の製造方法であって、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一面に、(a) ゲル化可能なフッ素樹脂と、(b) その良溶剤と、(c) 双極子モーメントが1.8 Debye以下の貧溶剤とを含む混合液を塗布し、乾燥して前記フッ素樹脂の多孔質体からなる被覆層を形成することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の複合微多孔膜からなることを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の複合微多孔膜を電池用セパレータとして用いたことを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/049318
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515620(P2005−515620)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017061
【国際出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000221627)東燃化学株式会社 (45)
【Fターム(参考)】