説明

複合杭及び複合杭の施工方法

【課題】大規模地震時において構造物への支持力を維持し、またソイルセメントコラムが破損することを抑制する複合杭を提供する。
【解決手段】複合杭1は、地盤の表層の地層G1に形成されたソイルセメントコラム10と、ソイルセメントコラム10内を上下方向に貫通し、当該ソイルセメントコラム10の底面から下方に突出した杭11と、を有している。杭11のソイルセメントコラム10が貫通する部分11aの外周面は、杭11とソイルセメントコラム10との摩擦抵抗力を増大させるための突出部のない平滑形状に形成されている。杭11のソイルセメントコラム11の底面から突出した部分11bの先端には、地盤に対する抵抗力を増大させるための螺旋状羽根20が形成されており、当該螺旋状羽根20は、地層G1よりも深く堅い地層G2に貫入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合杭及び複合杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物などの構造物の基礎補強工法として、地盤中に地盤改良材を入れて築造された地盤改良柱体(ソイルセメントコラム)に補強部材としての鋼管等を埋設し、複合杭を形成することが行われている。この工法では、例えば地盤とセメントミルク等の固化材を攪拌して地盤の所定深度までソイルセメント化してソイルセメントコラムを形成し、ソイルセメントが固化する前に螺旋状羽根(張り出し翼)が設けられた杭を回転させながらソイルセメントコラム内に埋設することによって複合杭が施工されている(特許文献1,2参照)。この複合杭は、平常時の構造物を十分に支え、また小中規模地震時にも耐え得る強度を構造物に与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−317050号公報
【特許文献2】特開2001−140251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の複合杭の場合、大規模地震により地盤に液状化が起きると、ソイルセメントコラムと地盤との間の抵抗力が低下し、構造物を支えることができなくなる。また、大規模地震時の揺れによる外力がソイルセメントコラムの表面に直接的に作用するため、ソイルセメントコラムに大きな応力がかかり、ソイルセメントコラム自体が破損しやすい。ソイルセメントコラムが破損すると、複合杭の補修が難しく、仮に補修ができても手間やコストがかかる。また、ソイルセメントコラムが破損すると、建物の沈下修正が困難となる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、大規模地震時においても構造物への支持力を維持し、またソイルセメントコラムが破損することを抑制する複合杭、及びその施工方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、地盤に形成されたソイルセメントコラムと、前記ソイルセメントコラム内を上下方向に貫通し、当該ソイルセメントコラムの底面から下方に突出して地盤に打設された杭と、を有し、前記杭の前記ソイルセメントコラム内を貫通する部分の外周面は平滑に形成されている、複合杭である。なお、「平滑」とは、前記杭と前記ソイルセメントコラムとの摩擦抵抗力を増大させるための螺旋状羽根のような突状部のない形状をいう。
【0007】
本発明によれば、杭がソイルセメントコラムの下方に突出するように地盤に打設されているので、液状化の影響のない地層まで杭を延ばし、大規模地震時において地盤に液状化が起きた時にも、構造物への支持力を維持することができる。また、前記杭のソイルセメントコラムを貫通する部分の外周面が、例えば螺旋羽根のような突状部のない平滑に形成されているので、ソイルセメントコラムが杭に対し動きやすい。これにより、大規模地震の揺れによりソイルセメントコラム表面に外力がかかっても、ソイルセメントコラムが杭に対し動いて力を逃がすことができ、ソイルセメントコラムの破損を抑制できる。
【0008】
前記複合杭において、前記杭の前記ソイルセメントコラムの底面から突出した部分が、地盤に対する抵抗力を増大させるための突状部を有するようにしていてもよい。
【0009】
前記ソイルセメントコラムの前記杭が貫通する部分には、他の部分よりもソイルセメントのせん断強度が小さい層が形成されるようにしてもよい。
【0010】
前記杭の外周面には、前記ソイルセメントコラム内に前記杭を回転させて貫通する際にソイルセメントを外側に押し出す押出部材が設けられるようにしてもよい。
【0011】
前記杭の上面が前記ソイルセメントコラムの上面より低くなっていてもよい。
【0012】
別の観点による本発明は、複合杭の施工方法であって、地盤にソイルセメントコラムを形成する工程と、前記ソイルセメントコラム内に杭を貫通しソイルセメントコラムの底面から突出させて、前記杭を地盤に打設する工程と、を有し、前記杭が打設された際に、平滑に形成されている前記杭の外周面が前記ソイルセメントコラム内を貫通している、複合杭の施工方法である。
【0013】
前記複合杭の施工方法において、前記杭の前記ソイルセメントコラムの底面から突出した部分に形成された、地盤に対する抵抗力を増大させるための突状部を、前記ソイルセメントコラムのある地層より下の地層に貫入するようにしてもよい。
【0014】
前記ソイルセメントコラムの前記杭が貫通する部分に、他の部分よりもソイルセメントのせん断強度が小さい層を形成するようにしてもよい。
【0015】
前記ソイルセメントコラム内に前記杭を回転させて貫通する際に、前記杭の外周面に形成された押出部材によりソイルセメントを外側に押し出して、前記せん断強度が小さい層を形成するようにしてもよい。
【0016】
前記杭の上面を前記ソイルセメントコラムの上面より低くするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大規模地震時に液状化が生じても構造物への支持力を維持できるので、構造物の沈下を防止できる。また、大規模地震時においてもソイルセメントコラムが破損することを抑制できる。この結果、液状化による構造物の被害を抑制し、また地震後の修復作業の手間やコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】構造物の基礎構造の構成を示す模式図である。
【図2】複合杭の構成を示す説明図である。
【図3】複合杭の施工方法の主な工程の状態を示す説明図である。
【図4】ソイルセメントコラムにせん断強度が小さい層のある複合杭を示す説明図である。
【図5】杭の押出部材を示す断面図である。
【図6】杭の上面がソイルセメントコラムの上面より低い複合杭の一例を示す説明図である。
【図7】杭の上面がソイルセメントコラムの上面より低い複合杭の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態にかかる複合杭1を用いた構造物2の基礎構造Aの一例を示す模式図である。例えば基礎構造Aでは、複合杭1と、通常の円柱状のソイルセメントコラム3とが併用されている。複合杭1は、ソイルセメントコラム3に対し所定の割合で配置されている。これらの複合杭1とソイルセメントコラム3上に構造物2が支持されている。
【0021】
図2は、複合杭1の構成を示す説明図である。複合杭1は、地盤に形成された円柱状のソイルセメントコラム10と、ソイルセメントコラム10内を上下方向に貫通し、当該ソイルセメントコラム10の底面から下方に突出して地盤に打設された杭11を有している。
【0022】
ソイルセメントコラム10は、地盤の表層の地層G1に埋設され、地盤にセメントミルクなどの固化材が攪拌、混合されて形成されている。
【0023】
杭11は、例えば円筒状の鋼管杭であり、ソイルセメントコラム10と接触する部分11aは、円筒形であり、その外周面は、杭11とソイルセメントコラム10との摩擦抵抗力を増大させるための螺旋状羽根などの突状部が形成されていない平滑な形状を有している。これにより、ソイルセメントコラム10は、杭11に対し上下方向に動きやすい。
【0024】
また、杭11のソイルセメントコラム10の底面から突出した部分11bの先端部には、地盤に対する抵抗力を増大させるための突状部としての螺旋状羽根20が形成されている。螺旋状羽根20は、ソイルセメントコラム10のある地層G1よりも深く堅固な地層G2内に貫入されている。なお、地盤に対する抵抗力には、地盤から受ける摩擦力だけでなく、反力も含まれる。
【0025】
次に、以上のように構成された複合杭1の施工方法について説明する。図3は、複合杭1の施工方法の主な工程の状態を示す説明図である。
【0026】
先ず、図3(A)、(B)に示すようにソイルセメントコラム10が形成される。このとき例えば杭打機により、切削ロッド30が回転されながら地盤の表層の地層G1に貫入される(図3(A))。このとき、切削ロッド30の先端の噴出口30aから、セメントミルクが噴出され、切削ロッド30の切削ビット30bにより、地盤とセメントミルクが攪拌、混合される。切削ロッド30は、地盤の地層G1の所定の深さまで進み、円柱状の領域の地盤が改良され、ソイルセメントコラム10が形成される。その後切削ロッド30が引き抜かれる(図3(B))。
【0027】
次に、先端の外周面に螺旋状羽根20が形成され、他の外周面が螺旋状羽根等の突状部のない平滑に形成されている円筒状の杭11が用意される。そして、例えば打杭機により、当該杭11を、固化する前のソイルセメントコラム10内に上方から回転させながら貫入しソイルセメントコラム10の底面から突出させる(図3(C))。そして、杭11の先端の螺旋状羽根20が、地層G1よりも堅固な地層G2に貫入される(図3(D))。杭11が打設されたとき、突状部のない平滑に形成されている杭11の外周面が、ソイルセメントコラム10内を貫通している。なお、図3には、地盤の深さに対する地盤の固さの例を示すグラフを示す。
【0028】
以上の実施の形態によれば、杭11がソイルセメントコラム10の下方に突出するように打設されるので、液状化の影響のない堅い地層G2まで杭11を延ばし、大規模地震時に地盤に液状化が生じても構造物2への支持力を維持することができる。また、杭11のソイルセメントコラム10内を貫通する部分11aの外周面が、例えば螺旋状羽根のような、杭11とソイルセメントコラム10との摩擦抵抗力を増大させるための突状部のない平滑に形成されているので、ソイルセメントコラム10が杭11に対し動きやすい。これにより、大規模地震の揺れによりソイルセメントコラム10に外力がかかっても、ソイルセメントコラム10が杭11に対し動いて力を逃がすことができ、ソイルセメントコラム10の破損を抑制できる。
【0029】
特に、杭11が堅い地層G2まで貫入された状態において、仮に、杭11のソイルセメントコラム10内を貫通する部分11aの外周面に例えば螺旋状羽根があると、杭11とソイルセメントコラム10の間の摩擦抵抗力が大きくなる。そして、複合杭1に外力がかかると、杭11とソイルセメントコラム10との接触界面に大きなせん断力が生じ、それによりソイルセメントコラム10自体に大きな応力がかかる。この点、杭11が堅い地層G2まで貫入される複合杭1において、杭11のソイルセメントコラム10内を貫通している部分11aの外周面を平滑形状にするメリットは大きい。
【0030】
また、杭11のソイルセメントコラム10の底面から突出した部分11bに、地盤に対する抵抗力を増大させるための螺旋状羽根20が形成されているので、当該螺旋状羽根20を堅い地層G2に埋設して、杭11の支持力を向上できる。
【0031】
ところで、上記実施の形態における複合杭1において、例えば図4に示すようにソイルセメントコム10の杭11が貫通する部分に、他の部分よりもソイルセメントのせん断強度が小さい層10aが形成されていてもよい。かかる場合、例えば杭11の外周面には、図5に示すような周囲のソイルセメント(地盤+セメントミルク)を外側に押し出す押出部材50が設けられる。押出部材50は、例えば杭11の外周面から外側に突出する形状に形成され、ソイルセメントコラム10内に杭11を回転させて貫入する際に、衝突したソイルセメントを外側に押し出してソイルセメントのせん断強度を下げることができる。
【0032】
この例によれば、ソイルセメントコラム10の杭11が貫通する部分にせん断強度が小さい層10aが形成されるので、杭11とソイルセメントコラム10との間の摩擦抵抗力がさらに低下する。この結果、ソイルセメントコラム10が杭11に対しさらに動きやすくなり、大規模地震の揺れによりソイルセメントコラム10に外力がかかった場合にソイルセメントコラム10が杭11に対し動いて力を逃がし、ソイルセメントコラム10の破損を抑制できる。
【0033】
以上の実施の形態において、図6及び図7に示すように杭11の上面が、ソイルセメントコラム10の上面より低くなっていてもよい。かかる場合、平常時には、構造物2を複合杭1のソイルセメントコラム10のみで支持し、例えば大規模地震時の液状化等によりソイルセメントコラム10が沈下した時に、構造物2を杭11で支持することができる。これにより、例えば構造物2の設計時の強度計算を、平常時に機能するソイルセメントコラム10の部分のみを考慮して行うことができる。これより、基礎構造Aの複合杭1でない他のソイルセメントコラム3と同じ扱いで強度計算を行うことができ、強度計算を容易に行うことができる。
【0034】
ところで、平常時に、支持力が大きい杭11が構造物2を支持する場合、強度計算において、構造物2に対する杭11の支持負担率が大きくなる。この結果、安全強度を確保するために、強度計算上、通常のソイルセメントコラム3の数に対する複合杭1の本数が多くなる可能性があり、その分コストが上がることが懸念される。この例によれば、平常時に杭11が構造物2を支持しないので、かかる問題も解消できる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば上述の杭11の突状部は、螺旋状羽根20により実現されていたが、地盤との抵抗力を増大させるものであれば、これに限られるものではない。例えば杭11の突状部は、鉄筋をスパイラル状に巻いたもの、鉄筋の円環状のもの又はドーナツ板状のもの、複数の螺旋羽根または羽根からなるもの等であってもよい。また、杭11のソイルセメントコラム10が貫通する部分11aの外周面は、突状部のない平滑形状に形成されているが、この平滑形状には、杭11とソイルセメントコラム10との摩擦抵抗力を実質的に増大させるものでなければ、多少の凹凸があるものも含まれる。また、杭11の突状部が貫入される地層G2は、杭11の突状部により、摩擦による抵抗力または先端抵抗力が向上することが期待できる地層であって、必ずしもソイルセメントコラム10のある地層G1より強固な地層である必要はなく、地層G1より下の地層であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、大規模地震時において構造物への支持力を維持し、またソイルセメントコラムが破損することを抑制する際に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 複合杭
10 ソイルセメントコラム
11 杭
20 螺旋状羽根
G1 地層
G2 地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成されたソイルセメントコラムと、
前記ソイルセメントコラム内を上下方向に貫通し、当該ソイルセメントコラムの底面から下方に突出して地盤に打設された杭と、を有し、
前記杭の前記ソイルセメントコラム内を貫通する部分の外周面は平滑に形成されている、複合杭。
【請求項2】
前記杭の前記ソイルセメントコラムの底面から突出した部分は、地盤に対する抵抗力を増大させるための突状部を有する、請求項1に記載の複合杭。
【請求項3】
前記ソイルセメントコラムの前記杭が貫通する部分には、他の部分よりもソイルセメントのせん断強度が小さい層が形成されている、請求項1又は2に記載の複合杭。
【請求項4】
前記杭の外周面には、前記ソイルセメントコラム内に前記杭を回転させて貫通する際にソイルセメントを外側に押し出す押出部材が設けられている、請求項3に記載の複合杭。
【請求項5】
前記杭の上面が前記ソイルセメントコラムの上面より低くなっている、請求項1〜4のいずれかに記載の複合杭。
【請求項6】
複合杭の施工方法であって、
地盤にソイルセメントコラムを形成する工程と、
前記ソイルセメントコラム内に杭を貫通しソイルセメントコラムの底面から突出させて、前記杭を地盤に打設する工程と、を有し、
前記杭が打設された際に、平滑に形成された前記杭の外周面が前記ソイルセメントコラム内を貫通している、複合杭の施工方法。
【請求項7】
前記杭の前記ソイルセメントコラムの底面から突出した部分に形成された、地盤に対する抵抗力を増大させるための突状部を、前記ソイルセメントコラムのある地層より下の地層に貫入する、請求項6に記載の複合杭の施工方法。
【請求項8】
前記ソイルセメントコラムの前記杭と接触する部分に、他の部分よりもソイルセメントのせん断強度が小さい層を形成する、請求項6又は7に記載の複合杭の施工方法。
【請求項9】
前記ソイルセメントコラム内に前記杭を回転させて貫通する際に、前記杭の外周面に形成された押出部材によりソイルセメントを外側に押し出して、前記せん断強度が小さい層を形成する、請求項8に記載の複合杭の施工方法。
【請求項10】
前記杭の上面を前記ソイルセメントコラムの上面より低くする、請求項6〜9のいずれかに記載の複合杭の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108335(P2013−108335A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256544(P2011−256544)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】