説明

複合構造体、および複合構造体の製造方法

【課題】 断熱性と疎水性とを有する複合構造体および当該複合構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 複合構造体1は、フッ素系樹脂を主成分とする撥水フィルム11と、ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする断熱フィルム13と、チタン酸化物を主成分とし、撥水フィルム11と断熱フィルム13との間に形成される中間層15と、を有する。中間層15は、まず撥水フィルム11上に形成される。中間層15と断熱フィルム13との接合にはシランカップリング剤またはチタネートカップリング剤を用いる。複合構造体1は断熱フィルム13による断熱機能と撥水フィルム11による防曇機能とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性と疎水性とを有するシート状の複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題は世界的課題になっており、消費エネルギーの低減および代替エネルギーの技術開発が盛んに行われている。また、関連製品も数多く市場に出回っている。
例えば、地球温暖化が進行したことから、太陽光からの熱エネルギーによるビル、住宅、自動車等の室内温度上昇は深刻であり、こうした生活環境保全に使用される空調負荷低減も消費エネルギーの低減の観点から重要である。そのため、遮熱フィルムやLow-e複層ガラス等が急速に普及している。
【0003】
また、冬季暖房により保持された室内温度(熱)が窓ガラスを通して外部へ飛散することを抑制する、窓ガラスに貼って使用する透明断熱フィルムも販売されている。
他方、特に冬季に室内温度に対し外気温度が低く窓ガラスが結露し、それにより視界が妨げられたり、結露した水滴による窓ガラスの汚れやカビの発生等が安全上また住空間の環境保全上問題となっている。特に自動車の場合、冬季のガラスの曇りは安全上大きな問題でその解消には電力を消費する。従来の化石燃料の燃焼を動力源にする自動車から電池との併用によるハイブリッドや電気自動車へのシフトが進むにつれ益々電池への負荷が大きくなる。電池負荷低減のためにも防曇対策は緊急の課題となっている。
【0004】
窓ガラス等の結露抑制方法としてガラス表面に断熱フィルム等を介在させ低温外面による内面の温度低下を防ぐことにより防曇する方法があり、多くの製品が販売されている。また、断熱フィルムの表面に電子線照射により架橋した親水性膜を形成することで、防曇機能を高めた防曇性断熱シートが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2711857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すように、表面を親水性とすることで防曇機能を発揮させるシートは従来あったが、微細な水滴を弾くような高い疎水性を得られる防曇断熱シートは提案されていない。
【0007】
本発明の目的は、断熱性と疎水性とを有する複合構造体および当該複合構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、フッ素系樹脂を主成分とする第1のフィルムと、ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする第2のフィルムと、チタン酸化物を主成分とし、前記第1のフィルムと前記第2のフィルムとの間に形成される中間層と、を有し、前記中間層と前記第2のフィルムとは、シランカップリング剤またはチタネートカップリング剤により接合されている、複合構造体である。
【0009】
従来は上記第1のフィルムと第2のフィルムを接合することが困難であったが、本発明の発明者は第1のフィルム上にチタン酸化物の層を形成し、その層と第2のフィルムとをシランカップリング剤により接合させることで、第1のフィルムと第2のフィルムとを接合可能であることを発見した。
【0010】
上記構成の複合構造体は、第1のフィルムが高い疎水性(撥水性)を有しており、また、第2のフィルムが高い断熱性を有している。従って、この複合構造体は、断熱性と疎水性とを同時に有し、様々な場面で活用することができる。
【0011】
本発明の複合構造体は、シート状に形成することで、ガラス面、壁、あるいはさまざまな物の表面に貼り付けて使用することができる。
本発明の複合構造体における第1のフィルムおよび第2のフィルムは、可視光透過率が75%以上のものを用いてもよい。このようなに複合構造体を構成することで、ガラス面などの視認性が必要な面で用いることができる。特に車両用のガラスとして用いると優れた効果を発揮することができる。
【0012】
上述した中間層は、2nm〜1000nmの厚さのチタン酸化膜としてもよい。このようにチタン酸化膜を薄く形成することで、複合構造体全体としての視認性を向上させることができる。
【0013】
また、上述した問題を解決するためになされた請求項4に記載の発明は、フッ素系樹脂を主成分とする第1のフィルムにチタン酸化物を主成分とする中間層を形成する工程と、前記中間層が形成された第1のフィルムに第1のシランカップリング剤被膜を形成する工程と、ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする第2のフィルムに第2のシランカップリング剤被膜を形成する工程と、前記第1のシランカップリング剤被膜が形成された中間層と、前記第2のシランカップリング剤被膜が形成された第2のフィルムと、を接合する工程と、を有する複合構造体の製造方法である。
【0014】
このような製造方法では、第1のフィルムと第2のフィルムを中間層を介して接合することが可能となり、断熱性と疎水性とを有する複合構造体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の複合構造体の模式的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
複合構造体1は、図1に示すように、フッ素系樹脂を主成分とする撥水フィルム11と、ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする断熱フィルム13と、チタン酸化物を主成分とし、撥水フィルム11と断熱フィルム13との間に形成される中間層15と、を有する。なお、撥水フィルム11が本発明の第1のフィルムの例であり、断熱フィルム13が本発明の第2のフィルムの例である。
【0017】
複合構造体1は断熱機能と防曇機能とを有する。防曇機能は、撥水フィルム11によって実現する。具体的には表面を疎水化(撥水化)することで、結露した水滴が撥水化した表面では微小な水滴となりさらに複数個が凝集し水滴となり重力に引かれすべり落ちることにより防曇効果を発揮する。
【0018】
撥水フィルム11としては、PCTFE(三フッ化塩化エチレン)フィルム、FEP(四フッ化エチレンー六フッ化プロピレン共重合体)フィルム、PFA(四フッ化エチレンパーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)フィルム、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素を含有する(ポリ)エチレン系透明フィルムなどを用いることができる。これらのフィルムにおいて、表面エネルギーが18〜50dyn/cm(=mN/m)のもの、特に18〜30dyn/cmのものを用いることで、顕著な撥水性を得ることができる。
従来、表面に微細な凹凸をつけることにより撥水性を向上させたシートが提案されているが、こうした表面改質フィルムは手で触れたりこすったりすることにより表面の微細構造が壊れ撥水性が失われるだけではなく、付着した油脂(例えば手の油はその大半がオレイン酸)が微細構造に埋め込まれ汚れとなっていた。特に自動車の運転席、助手席の窓ガラスにおいて使用できる厳しい耐久テストをクリアできる撥水表面はなかった。
しかしながら、上述したフッ素を含有するエチレン系透明フィルムは、比較的価格で且つバルクフィルムであり低摩擦係数であることが知られている。つまり、これらのフィルムは撥水性に関しては表面微細構造フィルムに劣る場合があるものの、たとえ傷つき擦り減ってもバルクフィルムであるため一定の撥水性を維持することができる。
【0019】
また撥水フィルム11として、可視光透過率75%以上のものを用いることで、高い視認性が必要な箇所にも用いることができる。
また、四フッ化エチレンフィルムを用いると、通常では白濁し不透明となるため、非常に薄く形成したり、透過性を有するように構造を調整したものを用いることができる。
【0020】
フィルム厚は50μm〜300μmのものを用いることができる。これらの撥水フィルムは水滴の付着を妨げる効果がある。
断熱フィルム13としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリカーボネート系の樹脂フィルムを用いることもできる。フィルム厚は50μm〜100μmのものを用いることができる。また、中空のナノバルーンが10〜50%ほど混入分散していてもよい。
【0021】
中間層15は、チタン酸化物(TiOx, x=1.5〜2.0)層である。中間層15の具体的な形成方法は、有機金属チタンの加水分解によりTiOx層を形成する方法や、真空成膜法により撥水フィルム11にTiOx層を形成する方法などがある。中間層15の厚さは極力薄いのが良いが通常2nm〜1000nmとする。
【0022】
なお、撥水フィルム11のフッ素系樹脂の表面エネルギーはおおよそ20dyn/cm程度であり撥水表面を呈することから多くの対象物と接合が困難であるが、チタン酸化物は比較的良好に接合させることができる。なお、チタン酸化物を形成する撥水フィルム11表面には予めプラズマ処理などの表面処理を施しても良い。
【0023】
中間層15は、まず撥水フィルム11上に形成される。中間層15と断熱フィルム13との接合にはシランカップリング剤またはチタネートカップリング剤を用いる。その際、例えば断熱フィルム13側には、エポキシ系のシランカップリング剤を用いることができ、接合層15側には、アミノ系のシランカップリング剤を用いることができる。
【0024】
以下に本発明の実施例を記載する。なお本発明は実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
[実施例1]
本実施例では、本発明の複合構造体からなる断熱防曇フィルムを作成した。
【0025】
撥水フィルムとして、フッ素系フィルムで市販のニラコ製FEP(四フッ化エチレン‐六フッ化プロピレン共重合樹脂フィルム、50μm厚)を用いた。
また、断熱フィルムとして、東洋包材製CA80(PET系フィルム、80μm厚)を用いた。上記FEP、CA80は共に可視光透過率は80%である。
【0026】
本実施例では、撥水フィルムと断熱フィルムとの接合界面にごく薄いTi酸化膜からなる中間層を挿入することで、撥水フィルムと断熱フィルムとの接合を実現している。接合手順を以下に説明する。
【0027】
まず、撥水フィルムの表面を減圧グロー-プラズマ処理(RF300W, 10分)し、大気に晒すことなくスパッタリング法によりチタン酸化膜(TiO2膜)を100nm以下の厚さにて成膜した。
【0028】
次に、撥水フィルムに形成された中間層の表面を大気コロナプラズマ処理し、その後、信越化学製シランカップリング剤KBM903(アミノ系)のガス蒸気に暴露し中間層の表面にシランカップリング剤を吸着させた。
【0029】
次に、断熱フィルムを大気中で大気コロナ処理し、その後、信越化学製シランカップリング剤KBM403(エポキシ系)のガス蒸気に暴露し、断熱フィルム表面にシランカップリング剤を吸着させた。
【0030】
次に、中間層および断熱フィルムのシランカップリング剤を吸着させた(シランカップリング剤被膜を形成した)面同士をラミネーターにより貼り合わせ、130℃10分の熱処理により接合を完成させた。このようにして、断熱防曇フィルムを製造した。なお、シランカップリング剤を用いた接合方法としては、WO/2011/010738に記載された手法を用いることができる。
【0031】
このように製造された断熱防曇フィルムは、断熱は空調機の省エネ換算で約30%の効果とともに、FEPフィルムの高い撥水特性から防曇特性が確認された。
本発明の複合構造体(断熱防曇フィルム)は、断熱フィルムにより結露面の温度低下が30%程度緩和され一定の防曇効果が期待できる。しかし、寒冷地等では厳しい温度差により露点をきり結露することが予測されるが、エチレン系撥水フィルムなどの撥水フィルムの存在により結露をさらに緩和することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…複合構造体、11…撥水フィルム、13…断熱フィルム、15…中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂を主成分とする第1のフィルムと、
ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする第2のフィルムと、
チタン酸化物を主成分とし、前記第1のフィルムと前記第2のフィルムとの間に形成される中間層と、を有し、
前記中間層と前記第2のフィルムとは、シランカップリング剤またはチタネートカップリング剤により接合されている、複合構造体。
【請求項2】
前記第1のフィルムおよび前記第2のフィルムは、可視光透過率が75%以上である、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記中間層は、2nm〜1000nmの厚さのチタン酸化膜である、請求項1または請求項2に記載の複合構造体。
【請求項4】
フッ素系樹脂を主成分とする第1のフィルムにチタン酸化物を主成分とする中間層を形成する工程と、
前記中間層が形成された第1のフィルムに第1のシランカップリング剤被膜を形成する工程と、
ポリエチレン、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群から選択される1種以上を主成分とする第2のフィルムに第2のシランカップリング剤被膜を形成する工程と、
前記第1のシランカップリング剤被膜が形成された中間層と、前記第2のシランカップリング剤被膜が形成された第2のフィルムと、を接合する工程と、を有する複合構造体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−75464(P2013−75464A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217613(P2011−217613)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(507110729)
【Fターム(参考)】