説明

複合機能レーダ装置

【課題】目標物体までの距離と目標物体の温度とを共に高い精度で測定できる複合機能レーダ装置を提供する。
【解決手段】高周波信号発生部8から出力される送信信号は、送信間欠停止スイッチ11で間欠停止しながら、送信信号増幅部12で増幅され、サーキュレータ部2を経由して目標物体13に放射される。送受信アンテナ部2には、送信信号が放射されている間、目標物体13からの反射波が受信信号として入力され、送信信号が放射されていない間、目標物体13からの輻射波が受信信号として入力される。受信信号は、サーキュレータ部2を経由して、受信信号増幅部3で増幅され、周波数変換部4で高周波信号分岐部10から分岐された送信信号と混合されてビート信号を発生する。信号処理部6は、ビート信号増幅部5で増幅されたビート信号に基づいて、目標物体13までの距離及び目標物体13の温度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に係り、特に、複数の機能を有する複合機能レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周波数変調させた送信信号を目標物体に送信し、その反射波と送信信号とを混合させることにより生じるビート信号に基づいて、目標物体までの距離を測定するレーダ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、温度を持つすべての物体は赤外線を自然に放射しており、高い温度の物体ほど強く赤外線を放射する。このことより、目標物体から放射される赤外線を受信して、受信した赤外線の強度を解析することで、目標物体の温度を測定する赤外線温度計等が知られている。
【0004】
図9は、目標物体までの距離と目標物体の温度とを測定する機能を併せ持った従来の測定装置である。
【0005】
従来の測定装置は、送受信アンテナ部901とサーキュレータ部902と受信信号増幅部903と周波数変換部904とビート信号増幅部905と信号処理部906と周波数変調信号発生部908と高周波信号発生部909と高周波信号分岐部910と送信信号増幅部912と赤外線受光レンズ部914と赤外線温度計部915とを備えている。
【0006】
従来の測定装置では、高周波信号発生部909から発生する高周波信号が、信号処理部906の制御に基づいて周波数変調信号発生部908から出力された制御電圧によって周波数変調され、送信信号として出力される。
【0007】
図10は、従来の測定装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部908の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部909の周波数の概略である。図10(a)に示すように、信号処理部906の制御によって周波数変調信号発生部908から出力された制御電圧は、時間T1の間に電圧V1からV2まで変化することを時間T1毎に繰り返す。すると、高周波信号発生部909で発生する高周波信号は、図10(b)に示すように、周波数変調信号発生部908の制御電圧の変化に応じて、時間T1の間に周波数F1からF2まで変化することを時間T1毎に繰り返す。このように、高周波信号発生部909からは、周波数変調信号発生部908からの制御電圧によって周波数変調された送信信号が連続して出力される。
【0008】
図9に戻り、高周波信号発生部909から出力された送信信号は、高周波分岐部910で分岐され、送信信号増幅部912で電力増幅されて、サーキュレータ部902を介して送受信アンテナ部901から目標物体913に向けて放射される。
【0009】
送信信号の放射により、送受信アンテナ部901には、目標物体913からの反射波が入力される。目標物体913からの反射波は、受信信号として送受信アンテナ部901から出力され、サーキュレータ部902を介して受信信号増幅部903で増幅され、周波数変換部904に出力される。周波数変換部904では、高周波分岐部910で分岐された送信信号と受信信号とが混合され、ビート信号が出力される。出力されたビート信号は、ビート信号増幅部905で増幅されて信号処理部906に出力される。信号処理部906は、ビート信号に基づいて目標物体までの距離を計算する。
【0010】
また、目標物体913から放射された赤外線は、赤外線受光レンズ部914で受信され、赤外線温度計部915に出力される。赤外線温度計部915は、赤外線の強度を解析して解析信号を信号処理部906に出力する。信号処理部906は、解析信号に基づいて目標物体913の温度分布を求め、その平均値より目標物体の温度を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7-209413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示す測定装置では、目標物体までの距離と目標物体の温度とを同時に測定しようとする場合、送受信アンテナ部901と赤外線受光レンズ部914との方向及び焦点を共に目標物体913に合わせる必要がある。このとき、送受信アンテナ部901と赤外線受光レンズ部914とを上下左右の方向に角度を調整するための構造が必要となるが、測定装置の構造及び測定場所によっては、十分に送受信アンテナ部901と赤外線受光レンズ部914との角度を調整できない場合がある。また、送受信アンテナ部901と赤外線受光レンズ部914との角度を調整することによって、送受信アンテナ部901から放射した送信信号が赤外線受光レンズ部914で不要に反射したり、目標物体913からの赤外線が送受信アンテナ部901で遮蔽されて赤外線受光レンズ部914に十分に入力されなかったりする虞がある。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、目標物体までの距離と目標物体の温度とを共に高い精度で測定できる複合機能レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の複合機能レーダ装置は、周波数変調された送信信号を出力する高周波信号発生手段と、前記送信信号を目標物体に放射すると共に、前記目標物体に関する測定情報を受信信号として受信するアンテナと、前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成する周波数変換手段と、前記ビート信号に基づいて前記目標物体に関する測定を行う信号処理手段と、を備えた複合機能レーダ装置であって、前記送信信号の放射を間欠させる送信信号間欠停止手段を備え、前記アンテナは、前記送信信号を放射している間、前記目標物体からの反射波を前記測定情報として受信し、前記送信信号を放射していない間、前記目標物体からの輻射波を前記測定情報として受信し、前記信号処理手段は、前記送信信号が放射されている間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体までの距離を測定し、前記送信信号が放射されていない間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体の温度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、目標物体までの距離と目標物体の温度とを共に高い精度で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複合機能レーダ装置の機能を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る複合機能レーダ装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部の周波数の概略であり、(c)は間欠停止信号発生部の制御電圧の概略である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る複合機能レーダ装置の機能を示す構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る複合機能レーダ装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部の周波数の概略であり、(c)は間欠停止信号発生部の制御電圧の概略であり、(d)は利得調整部の利得の概略である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る複合機能レーダ装置の機能を示す構成図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る複合機能レーダ装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部の周波数の概略であり、(c)は間欠停止信号発生部の制御電圧の概略であり、(d)は測定雑音切替信号発生部の制御電圧の概略である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る複合機能レーダ装置の機能を示す構成図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る複合機能レーダ装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部の周波数の概略であり、(c)は間欠停止信号発生部の制御電圧の概略であり、(d)は利得調整部の利得の概略であり、(e)は測定雑音切替信号発生部の制御電圧の概略である。
【図9】目標物体までの距離と目標物体の温度とを測定する機能を併せ持った従来の測定装置の構成図である。
【図10】従来の測定装置の制御電圧による制御の概略図であって、(a)は周波数変調信号発生部の制御電圧の概略であり、(b)は高周波信号発生部の周波数の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1に示す複合機能レーダ装置は、信号処理部6と周波数変調信号発生部8と高周波信号発生部9と高周波信号分岐部10と間欠停止信号発生部7と送信間欠停止スイッチ11と送信信号増幅部12とサーキュレータ部2と送受信アンテナ部1と受信信号増幅部3と周波数変換部4とビート信号増幅部5とを備える。
【0019】
周波数変調信号発生部8は、信号処理部6の制御の下、周波数変調させるための制御電圧を高周波信号発生部9に出力する。高周波信号発生部9は、高周波信号を生成し、周波数変調信号発生部8から出力される制御電圧によって周波数変調された高周波信号を送信信号として出力する。
【0020】
高周波信号発生部9から出力された送信信号は、高周波信号分岐部10で分岐されて、送信間欠停止スイッチ11と周波数変換部4とに出力される。
【0021】
送信間欠停止スイッチ11には、信号処理部6の制御による間欠停止信号発生部7からの制御電圧が入力される。送信間欠停止スイッチ11は、間欠停止信号発生部7から出力される制御電圧に応じて、高周波信号分岐部10から出力される送信信号を送信信号増幅部12に出力し、又は出力しないように、信号経路を切り替える。
【0022】
その結果、送信間欠停止スイッチ11に入力された送信信号は、送信間欠停止スイッチ11の接続状態に応じて、間欠して送信信号増幅部12に出力される。
【0023】
送信信号増幅部12に入力された送信信号は、電力を増幅され、サーキュレータ部2を経由して、送受信アンテナ部1から目標物体13に向けて放射される。
【0024】
放射された送信信号は目標物体13で反射し、反射波が送受信アンテナ部1に入力される。
【0025】
送受信アンテナ部1に入力された反射波は、受信信号としてサーキュレータ部2に出力され、サーキュレータ部2によって受信信号増幅部3に出力され、受信信号増幅部3で増幅されて周波数変換部4に出力される。
【0026】
周波数変換部4は、高周波信号分岐部10から出力される送信信号と、受信信号増幅部3から出力される受信信号とを混合して、送信信号と受信信号との差信号であるビート信号を生成する。
【0027】
生成されたビート信号は、ビート信号増幅部5で増幅されて信号処理部6へ出力される。
【0028】
信号処理部6は、ビート信号増幅部5から出力されるビート信号に基づいて、目標物体13までの距離を計算する。
【0029】
ところで、熱を持つすべての物体はその温度に応じて熱雑音を放射している。そこで、送受信アンテナ部1から送信信号を放射していない間に、目標物体13からの熱雑音としての輻射波を受信して、目標物体13の温度を測定する。
【0030】
送受信アンテナ部1は、送信信号を放射していない間、目標物体13からの輻射波を受信すると受信信号としてサーキュレータ部2に出力する。サーキュレータ部2に入力された受信信号は、受信信号増幅部3で増幅された後、周波数変換部4において高周波信号分岐部10から分岐された送信信号と混合される。
【0031】
周波数変換部4で送信信号と受信信号とが混合されることにより生じるビート信号は、ビート信号増幅部5で増幅されて信号処理部6に出力される。
【0032】
信号処理部6は、ビート信号増幅部5から出力されるビート信号に基づいて目標物体13の温度を計算する。
【0033】
このように、本実施形態では、高周波信号の送信を間欠停止させることにより、目標物体13までの距離と目標物体13の温度との両方を測定できる。本実施形態における周波数変調信号発生部8の制御電圧と、高周波信号発生部9の周波数変調と、間欠停止信号発生部7の制御電圧との関係を、図2を参照して説明する。
【0034】
図2(a)は、周波数変調信号発生部8の制御電圧である。周波数変調信号発生部8の制御電圧は、時間T1の間に電圧V1からV2まで変化し、電圧V2まで変化すると電圧V1に戻り、次の時間T1の間に再び電圧V1からV2まで変化することを繰り返す。
【0035】
図2(b)は、高周波信号発生部9の周波数変調である。高周波信号発生部9の周波数は、周波数変調信号発生部8の制御電圧により周波数変調されるので、周波数変調信号発生部8の制御電圧が電圧V1からV2まで変化するのに応じて、時間T1の間に周波数F1からF2まで変化する。
【0036】
図2(c)は、間欠停止信号発生部7の制御電圧である。間欠停止信号発生部7の制御電圧は、時間T1毎に“ON”又は“OFF”となり、各時間T1の間、“ON”又は“OFF”の状態を保つ。間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”のとき、送信間欠停止スイッチ11の接続状態は、高周波信号発生部10から出力される送信信号を送信信号増幅部12に出力するよう制御される。一方、間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”のとき、送信間欠停止スイッチ11の接続状態は、高周波信号発生部10から出力される送信信号を送信信号増幅部12に出力しないよう制御される。
【0037】
以上説明した通り、本実施形態によれば、高周波信号の送信を間欠停止させる手段を備えることにより、高周波信号を送信している間は目標物体13から反射した高周波信号を受信して目標物体13までの距離を測定し、高周波信号を送信していない間は目標物体13から放射される輻射波を受信して目標物体13の温度を測定できる。そのため、一つの送受信アンテナ部1で目標物体13までの距離と目標物体13の温度との両方を計測できるので、目標物体13の測定に際して電波の妨害が少なく、目標物体13までの距離と目標物体13の温度との両方を高い精度で測定できる。
【0038】
<第2の実施形態>
本実施形態は、第1の実施形態における受信信号増幅部3の代わりに、利得調整部300を設けたものである。第1の実施形態と同一の機能を有する構成部品には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
図3に示す利得調整部300は、目標物体13からの反射波を受信した場合と目標物体13の輻射波を受信した場合とにおいて、受信信号を増幅する利得を変えて周波数変換部4に出力するものである。
【0040】
利得調整部300は、第1受信信号切替スイッチ301と第1受信信号増幅部302と第2受信信号増幅部303と第2受信信号切替スイッチ304と利得切替信号発生部305とを備えている。第1受信信号増幅部302と第2受信信号増幅部303とは、それぞれ利得が異なるように予め設定されており、本実施形態では、第2受信信号増幅部303の利得が第1受信信号増幅部302の利得より高くなるよう設定されている。
【0041】
第1受信信号切替スイッチ301と第2受信信号切替スイッチ304とには、信号処理部6の制御による利得切替信号発生部305からの制御電圧が入力される。利得切替信号発生部305は、第1受信信号切替スイッチ301と第2受信信号切替スイッチ304とに、送信信号が放射されている間は“ON”となる制御電圧を出力し、送信信号が放射されていない間は“OFF”となる制御電圧を出力する。
【0042】
第1受信信号切替スイッチ301は、“ON”となる制御電圧が出力されると、第1受信信号増幅部302に接続し、サーキュレータ部2からの受信信号を第1受信信号増幅部302に出力する。また、第2受信信号切替スイッチ304は、“ON”となる制御電圧が出力されると、第1受信信号増幅部302に接続し、第1受信信号増幅部302からの受信信号を周波数変換部4に出力する。
【0043】
一方、第1受信信号切替スイッチ301は、“OFF”となる制御電圧が出力されると、第2受信信号増幅部303に接続し、サーキュレータ部2からの受信信号を第2受信信号増幅部303に出力する。また、第2受信信号切替スイッチ304は、“OFF”となる制御電圧が出力されると、第2受信信号増幅部303に接続し、第2受信信号増幅部303からの受信信号を周波数変換部4に出力する。
【0044】
これにより、送信信号が放射されている間、送受信アンテナ部1で受信され、サーキュレータ部2から出力される受信信号は、利得切替信号発生部305からの制御電圧に応じて、第1受信信号切替スイッチ301から第1受信信号増幅部302に出力され、第1受信信号増幅部302で増幅されて、第2受信信号切替スイッチ304を経由して周波数変換部4に出力される。一方、送信信号が送信されていない間、送受信アンテナ部1で受信され、サーキュレータ部2から出力される受信信号は、利得切替信号発生部305からの制御電圧に応じて、第1受信信号切替スイッチ301から第2受信信号増幅部303に出力され、第2受信信号増幅部303で増幅されて、第2受信信号切替スイッチ304を経由して周波数変換部4に出力される。
【0045】
一般的に、目標物体13の輻射波からなる受信信号は、目標物体13の反射波からなる受信信号よりも微弱である。しかし、利得調整部300により、目標物体13の輻射波からなる受信信号は、目標物体13の反射波からなる受信信号よりも大きく増幅されるので、温度測定のための感度を向上させられる。
【0046】
本実施形態における周波数変調信号発生部8の制御電圧と、高周波信号発生部9の周波数変調と、間欠停止信号発生部7の制御電圧と、利得調整部300の利得との関係が、図4で示されている。
【0047】
図4(a)は周波数変調信号発生部8の制御電圧であり、図4(b)は高周波信号発生部9の周波数変調であり、図4(c)は間欠停止信号発生部7の制御電圧であり、これらの関係は、第1の実施形態で説明した図2と同一であるので説明を省略する。
【0048】
図4(d)は、利得調整部300の利得の変化である。利得調整部300の利得は、図4(c)に示す間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”となっている間、即ち、送信信号が放射されている間、第1受信信号増幅部302で受信信号が増幅されることになるので低くなる。一方、利得調整部300の利得は、間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”となっている間、即ち、送信信号が送信されていない間、第2受信信号増幅部303で受信信号が増幅されることになるので高くなる。
【0049】
以上説明した通り、本実施形態によれば、利得調整部300を設けることにより、受信信号のレベルに差があっても、それぞれの受信信号のレベルに適した利得で増幅できるので、測定感度を向上させられる。
【0050】
<第3の実施形態>
本実施形態は、第1の実施形態におけるサーキュレータ部2と受信信号増幅部3との間に測定雑音切替部200を設けたものである。第1の実施形態と同一の機能を有する構成部品には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0051】
図5に示す測定雑音切替部200は、送信信号が送信されていない間、目標物体13からの輻射波と複合機能レーダ装置内部の熱雑音とを切り替えて出力するものである。
【0052】
測定雑音切替部200は、受信信号切替スイッチ201と測定雑音切替信号発生部202とを備えている。受信信号切替スイッチ201には、信号処理部60の制御による測定雑音切替信号発生部202からの制御電圧が入力される。受信信号切替スイッチ201は、測定雑音切替信号発生部202からの制御電圧に応じて、送信信号が送信されていない間、サーキュレータ部2から出力される受信信号を受信信号増幅部3へ出力し、又は出力しないように信号経路を切り替える。受信信号切替スイッチ201が、サーキュレータ部2から出力される受信信号を受信信号増幅部3へ出力しない場合、複合機能レーダ装置内部の熱雑音が受信信号として受信信号増幅部3へ出力されることになる。
【0053】
測定雑音切替部200から出力された受信信号は、信号増幅部3で増幅され、周波数変換部4で高周波信号分岐部10から分岐された送信信号と混合される。測定雑音切替部200から出力された受信信号と高周波信号分岐部10で分岐された送信信号とに基づいて発生したビート信号は、ビート信号増幅部5で増幅されて信号処理部60へ出力される。
【0054】
信号処理部60は、複合機能レーダ装置内部の熱雑音に基づくビート信号と目標物体13の輻射波に基づくビート信号とを比較し、目標物体13の温度を計算する。
【0055】
複合機能レーダ装置内部の熱雑音は、「熱雑音電力(W)=KTB(K:絶対温度、T:帯域幅、B:ボルツマン定数)」より求められるから、例えば、高周波信号の受信帯域幅を1GHz、複合機能レーダ装置の温度を+23℃とすると、複合機能レーダ装置の内部で発生する熱雑音は約−84dBmとなる。一方、目標物体13の温度を−100℃から+800℃とすると、熱雑音電力は約−86dBmから約−78dBmとなる。
【0056】
つまり、受信信号増幅部3の入力を受信信号切替スイッチ201の抵抗で終端したときの複合機能レーダ装置の内部で発生する熱雑音を基準として、目標物体13からの輻射波と複合機能レーダ装置内部の熱雑音とを比較することで、目標物体13からの輻射波に基づく温度測定の精度を向上させられる。
【0057】
本実施形態における周波数変調信号発生部8の制御電圧と、高周波信号発生部9の周波数変調と、間欠停止信号発生部7の制御電圧と、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧との関係を図6に示す。
【0058】
図6(a)は周波数変調信号発生部8の制御電圧であり、図6(b)は高周波信号発生部9の周波数変調であり、図6(c)は間欠停止信号発生部7の制御電圧であり、これらの関係は、第1の実施形態で説明した図2と同一であるので説明を省略する。
【0059】
図6(d)は、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧である。測定雑音切替信号発生部202の制御電圧は、図6(c)に示す間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”である間、時間T2毎に“ON”又は“OFF”となることをN回繰り返し、各時間T2の間、“ON”又は“OFF”の状態を保つ。なお、図6(c)に示す間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”の間は、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧は“OFF”のままである。
【0060】
測定雑音切替部200は、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧が“OFF”である場合、サーキュレータ部2から出力される受信信号を受信信号増幅部3へ出力し、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧が“ON”である場合、サーキュレータ部2から出力される受信信号を受信信号増幅部3へ出力しない。従って、測定雑音切替部200は、間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”であることにより送信信号が送信されない時間T1の間、時間T1=時間T2*Nの関係で、サーキュレータ部2から出力される受信信号又は複合機能レーダ装置内部の熱雑音からなる受信信号のいずれかを受信信号増幅部3に出力するようN回切り替える。
【0061】
以上説明した通り、本実施形態によれば、測定雑音切替部200を設けたことにより、目標物体13の輻射波と複合機能レーダ装置内部の熱雑音とを比較できるので、目標物体13の温度を測定する精度を向上させられる。
【0062】
<第4の実施形態>
本実施形態は、上述した第2の実施形態と第3の実施形態とを第1の実施形態に組み合わせたものである。即ち、本実施形態は、上述した測定雑音切替部200と利得調整部300とを備えている。第1の実施形態と同一の機能を有する構成部品には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0063】
測定雑音切替部200は、サーキュレータ部2に接続されており、測定雑音切替信号発生部202から出力される制御電圧に応じて、サーキュレータ部2から出力される受信信号又は複合機能レーダ装置内部の熱雑音を受信信号として、利得調整部300に出力するよう信号経路を切り替える。
【0064】
利得調整部300は、利得切替信号発生部305から出力される制御電圧に応じて、測定雑音切替部200から出力される受信信号を第1受信信号増幅部302又は第2受信信号増幅部303で増幅して、周波数変換部4に出力する。
【0065】
周波数変換部4では、受信信号と高周波分岐部10で分岐された送信信号とが混合され、送信信号と受信信号との差信号であるビート信号が生成される。生成されたビート信号は、ビート信号増幅部5で増幅され、信号処理部60へ出力される。
【0066】
信号処理部60は、送信信号が放射されている間、ビート信号増幅部5から出力されるビート信号に基づいて目標物体13までの距離を求め、送信信号が送信されていない間、ビート信号増幅部5から出力されるビート信号に基づいて目標物体13の温度を求める。
【0067】
本実施形態における周波数変調信号発生部8の制御電圧と、高周波信号発生部9の周波数変調と、間欠停止信号発生部7の制御電圧と、利得調整部300の利得と、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧との関係を図8に示す。
【0068】
図8(a)は周波数変調信号発生部8の制御電圧であり、図8(b)は高周波信号発生部9の周波数変調であり、図8(c)は間欠停止信号発生部7の制御電圧であり、これらの関係は、第1の実施形態で説明した図2と同一であるので説明を省略する。また、図8(d)は利得調整部300の利得であり、図8(e)は測定雑音切替信号発生部202の制御電圧である。図8(d)と図8(a)〜(c)との関係は第2の実施形態で説明した図4と同一であり、図8(e)と図8(a)〜(c)との関係は第3の実施形態で説明した図6と同一である。
【0069】
図8(c)に示す間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”である間、送信信号が送信されているので、図8(e)に示す測定雑音切替信号発生部202の制御電圧は“OFF”に維持される。そのため、測定雑音切替部200は、サーキュレータ部2から出力される受信信号を利得調整部300に出力する。このとき、利得調整部300に入力された受信信号は、図8(d)に示すように、低い利得で出力される。
【0070】
一方、図8(c)に示す間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”である間、送信信号が送信されていないので、図8(e)に示す測定雑音切替信号発生部202の制御電圧は“ON”又は“OFF”にT1=T2*NとなるようN回切り替わる。これにより、測定雑音切替部200は、サーキュレータ部2から出力される受信信号と複合機能レーダ装置内部の熱雑音からなる受信信号とを交互に利得調整部300に出力する。このとき、利得調整部300に入力された受信信号は、図8(d)に示すように、高い利得で出力される。
【0071】
以上説明した通り、本実施形態によれば、測定雑音切替部200と利得調整部300とを備えているので、目標物体13の輻射波と複合機能レーダ装置内部の熱雑音とを比較することにより、目標物体13の温度を測定する精度を向上させられると共に、複合機能レーダ装置に入力される受信信号のレベルに差があっても、それぞれの受信信号のレベルに適した利得で増幅できるので、測定感度を向上させられる。
【0072】
なお、上記第1〜4の実施形態では、図2,4,6,8の(a)〜(c)で、各値は、時間T1毎に繰り返し変化しているが、特に時間の組み合わせを限定するものではない。例えば、送信信号を放射しない時間をn*T1にし、送信信号を放射する時間をm*T1にしてもよい。
【0073】
また、上記第1〜4の実施形態では、利得調整部300は、送信信号が送信されていない間に利得調整部300に入力される受信信号の利得を、送信信号が放射されている間に利得調整部300に入力される受信信号の利得よりも高く調整したが、利得調整部300に入力される受信信号のレベルに合わせて適宜調整すればよい。
【0074】
また、上記第3,4の実施形態では、図6,8で間欠停止信号発生部7の制御電圧が“OFF”である場合、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧を17回切り替えているので、時間T1=時間T2*17の関係となっている。しかし、少なくとも2回切り替えれば、サーキュレータ部2から出力される受信信号又は複合機能レーダ装置内部の熱雑音からなる受信信号の両方が出力されるので、信号処理部60での比較処理に用いることができる。
【0075】
また、上記第3,4の実施形態では、間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”である場合、即ち、送信信号が放射されている間も、間欠停止信号発生部7の制御電圧が“ON”である場合と同様に、測定雑音切替信号発生部202の制御電圧を切り替える構成としてもよい。
【0076】
以上概説すると、本発明の複合機能レーダ装置は、周波数変調された送信信号を出力する高周波信号発生手段と、前記送信信号を目標物体に放射すると共に、前記目標物体に関する測定情報を受信信号として受信するアンテナと、前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成する周波数変換手段と、前記ビート信号に基づいて前記目標物体に関する測定を行う信号処理手段と、を備えた複合機能レーダ装置であって、前記送信信号の放射を間欠させる送信信号間欠停止手段を備え、前記アンテナは、前記送信信号を放射している間、前記目標物体からの反射波を前記測定情報として受信し、前記送信信号を放射していない間、前記目標物体からの輻射波を前記測定情報として受信し、前記信号処理手段は、前記送信信号が放射されている間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体までの距離を測定し、前記送信信号が放射されていない間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体の温度を測定することを特徴とする。
【0077】
また、前記受信信号の利得を調整する利得調整手段を備えても良い。
また、前記利得調整手段は、前記送信信号が放射されている間に入力される受信信号を低い利得で出力し、前記送信信号が放射されていない間に入力される受信信号を高い利得で出力してもよい。
また、前記複合機能レーダ装置の内部の熱雑音を前記受信信号として入力する測定雑音切換手段を備え、前記信号処理部は、前記送信信号が放射されていない間、前記目標物体からの輻射波に基づくビート信号と前記複合機能レーダ装置の内部の熱雑音に基づくビート信号とを比較して、前記目標物体の温度を測定してもよい。
【0078】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々様々に変更が可能であることは言うまでもない。また、同一機能を有する構成部品には、同一名称及び同一符号を付してある。
【符号の説明】
【0079】
1、901・・・送受信アンテナ部
2、902・・・サーキュレータ部
3、903・・・受信信号増幅部
4、904・・・周波数変換部
5、905・・・ビート信号増幅部
6、60、906・・・信号処理部
7・・・間欠停止信号発生部
8、908・・・周波数変調信号発生部
9、909・・・高周波信号発生部
10、910・・・高周波信号分岐部
11・・・送信間欠停止スイッチ
12、912・・・送信信号増幅部
13、913・・・目標物体
200・・測定雑音切替部
201・・受信信号切替スイッチ
202・・測定雑音切替信号発生部
300・・利得調整部
301・・第1受信信号切替スイッチ
302・・第1受信信号増幅部
303・・第2受信信号増幅部
304・・第2受信信号切替スイッチ
305・・利得切替信号発生部
914・・赤外線受光レンズ部
915・・赤外線温度計部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された送信信号を出力する高周波信号発生手段と、前記送信信号を目標物体に放射すると共に、前記目標物体に関する測定情報を受信信号として受信するアンテナと、前記送信信号と前記受信信号とを混合してビート信号を生成する周波数変換手段と、前記ビート信号に基づいて前記目標物体に関する測定を行う信号処理手段と、を備えた複合機能レーダ装置であって、
前記送信信号の放射を間欠させる送信信号間欠停止手段を備え、
前記アンテナは、前記送信信号を放射している間、前記目標物体からの反射波を前記測定情報として受信し、前記送信信号を放射していない間、前記目標物体からの輻射波を前記測定情報として受信し、
前記信号処理手段は、前記送信信号が放射されている間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体までの距離を測定し、前記送信信号が放射されていない間、前記ビート信号に基づいて前記目標物体の温度を測定する
ことを特徴とする複合機能レーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−204003(P2010−204003A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51838(P2009−51838)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】