説明

複合糸

【課題】織物に紡績糸様風合い、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果(シボ、表面嵩)とを同時に発現する複合糸を提供する。
【解決手段】長繊維フィラメントを芯成分とし、短繊維を鞘成分とする複合糸とし、該長繊維フィラメントを2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート繊維であり、かつ沸水中で20分間処理して捲縮を発現させた後の該コンジュゲート繊維の捲縮率が2.8%以上である複合糸とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長繊維フィラメントを芯成分とし、短繊維を鞘成分とする複合糸に関する。さらに詳しくは、織物に、ナチュラルな紡績糸様風合い、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果とを同時に発現する複合糸に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、長繊維と短繊維とを組み合わせた複合糸は、紡績糸がもたらすナチュラルな手触り、外観(以下紡績糸様風合いと称する)と長繊維がもたらす好ましい腰・反撥性とを同時に発現できる繊維素材として多くの提案がなされている。特に芯成分にポリエステル長繊維フィラメントを配した複合糸は、ポリエステル長繊維フィラメントの衣料用素材としての優れた特性故に長繊維/短繊維複合糸の主流となっている。
【0003】
しかし、芯成分にポリエステル長繊維フィラメントを配した長繊維/短繊維複合糸は、織物となした時、ストレッチ性が無く、さらに、織物表面は極めて平坦であり、好ましい凹凸変化(以下シボと称することもある)あるいは微細な捲縮がもたらす嵩に富んだ表面変化(以下単に表面嵩と称することもある)が乏しいという問題があった。
【0004】
また、長繊維/短繊維複合糸からの織物のストレッチ性を向上せしめる試みとして、特開平9−87940号公報、特開平9−195142号公報には、芯成分にポリトリメチレンテレフタレート長繊維フィラメントを配した長繊維/短繊維複合糸が開示されている。確かに、このようなポリトリメチレンテレフタレート長繊維フィラメントを芯成分に配した長繊維/短繊維複合糸からの織物は、紡績糸様風合いに加え、10〜20%程度のストレッチ性を有するが、着衣時圧迫感をもたらすような伸張時抵抗応力が大きく、従来のポリウレタン繊維を芯成分に配した長繊維/短繊維複合糸からの織物のような、圧迫感が少なくソフトなストレッチ性は実現していない。また、芯成分が捲縮等を有しない真っ直ぐな長繊維フィラメントであるため、織物表面は平坦で、シボ効果や表面嵩効果(以下まとめて好ましい表面変化と称する)の乏しい織物しか得られなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、織物に、ナチュラルな紡績糸様風合い、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果とを同時に発現する複合糸を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、上記課題は、「長繊維フィラメントを芯成分とし、短繊維を鞘成分とする複合糸であって、該長繊維フィラメントが2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート繊維であり、かつ沸水中で20分間処理して捲縮を発現させた後の該コンジュゲート繊維の捲縮率が2.8%以上であることを特徴とする複合糸」によって解決されることを見出した。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の複合糸は、長繊維フィラメントを芯成分とし、短繊維が鞘成分とする複合糸である。かかる複合糸は、糸の表面に多数の短繊維自由端が突出し、紡績糸様風合い発現能力を保持した繊維集合形態をなしている。
【0008】
本発明の複合糸においては、長繊維フィラメントが2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に貼り合わせたコンジュゲート繊維(以下単にポリエステルコンジュゲート繊維と称する)であり、該複合糸を沸水中で熱処理すると、該長繊維フィラメントが収縮し、さらにバイメタル効果により捲縮が発現し、複合糸全体が図1に示すように、コイル状となる。このような、コイル状形態が織物でのソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果をもたらす。この際、ポリエステルコンジュゲート繊維を沸水中で20分間処理して捲縮を発現させた後の捲縮率(以下捲縮率と称する)が2.8%以上、好ましくは4%以上であれば、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果が発現する。捲縮率が2.8%未満の場合、織物のストレッチ性は、通常のポリエステル長繊維フィラメントを芯成分とした長繊維/短繊維複合糸と格差が認められるほどにはならない。また、織物表面は平坦でシボおよび表面嵩は顕在化しない。
【0009】
コンジュゲート繊維に用いるポリエステルとしては、テレフタール酸を主たる酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールをグリコール成分とするポリエステル、あるいは上記酸成分とグリコール成分に加えイソフタール酸等などを第3成分とした共重合したポリエステルをあげることができる。また、これらのポリエステルには公知の添加剤、例えば、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤などが配合されていても良い。
【0010】
これらポリエステルの中で、異なる固有粘度を有する2つのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとイソフタール酸を第3成分とする共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート、あるいは異なる固有粘度を有する2つのポリトリメチレンテレフタレートの貼り合わせを好ましく用いることができる。
【0011】
ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度(35℃のオルソ−クロロフェノール溶液を溶媒として使用し測定)が0.40〜1.10の範囲のものが好ましい。また、それらの中から、固有粘度の差が0.2〜0.7の範囲にあるもの2つを選択して用いることができる。ポリトリメチレンテレフタレートの場合、固有粘度(35℃のオルソ−クロロフェノール溶液を溶媒として使用し測定)が0.6〜1.5の範囲のものが好ましい。また、それらの中から、固有粘度の差が0.3〜0.7の範囲にあるもの2つを選択して用いることができる。
【0012】
貼り合わせ横断面形態は、バイメタル効果を発現させるためにサイドバイサイド型とする必要がある。横断面全体としては、図2に示すように、円形、多葉形あるいは中空存在形の何れであっても良い。
【0013】
2種類のポリエステルの貼り合わせ比率(重量比)は40/60〜60/40の範囲が好ましく、おのおののポリエステルの熱収縮性を考慮して上記範囲に設定すれば良い。
【0014】
なお、コンジュゲート繊維の単糸繊度は1〜5dtexの範囲が、織物の腰・反撥性とソフト感触のバランスをとる上で好ましい。
【0015】
また、ポリエステルコンジュゲート繊維の強度は2〜5cN/dtex、伸度は30〜50%、の範囲が織物用として好ましい。
【0016】
一方、鞘成分を構成する短繊維としては、通常の紡績工程に供される綿、毛、合成繊維などの短繊維であれば良い。特にポリエステル短繊維が、芯成分であるポリエステルコンジュゲート繊維とのなじみが良いので、好ましく用いることができる。これら、短繊維の繊度は0.8〜6.0dtex、繊維長は30〜70mmの範囲のものが織物用として好ましい。
【0017】
上記の長繊維フィラメントと短繊維との複合重量比率(長繊維フィラメント/短繊維)は30/70〜70/30の範囲が織物のストレッチ性、腰・反撥性、ソフト感触などのバランス上、好ましい。したがって、各々の繊維の総繊度は、複合糸の総繊度が100〜600dtexの範囲で、上記複合重量比率となるように設定すれば良い。
【0018】
本発明の複合糸は、例えば図3に示すような、一般的にコアスパン糸(長繊維/短繊維複合糸)を製造する工程を有する装置で製造することができる。
すなわち、コンジュゲート紡糸・延伸の常法に従い製造したポリエステルコンジュゲート繊維(1)を芯成分元糸として、また紡績粗糸(2)を鞘成分元糸として準備する。該ポリエステルコンジュゲート繊維は張力調整装置(3)を経て供給ローラー(4)によって送り出され、トップローラー(5)にて引き取り導糸される。一方、紡績粗糸(2)は、トランペットガイド(6)を介してバックローラー(7)で引き取られ、エプロン(8)で把持されながらトップローラー(5)によって牽引される。この時、バックローラー(7)とトップローラー(5)との間で20〜70倍のドラフトがかけられフリース(9)となる。
【0019】
次いで、トップローラー(5)で引き取られたポリエステルコンジュゲート繊維と該フリース(9)とが複合され、糸ガイド(10)を介してスピンドル(11)にて巻き取られ、複合糸(12)となる。トップローラー(5)上で2糸条を複合する時、両糸条ともなるべく扁平状態で走行させ、芯成分となるポリエステルコンジュゲート繊維にかかる張力を鞘成分となるフリースにかかる張力より高く設定すれば、好ましい芯鞘構造の複合糸が得られる。
【0020】
また、複合糸の撚数を300〜800回/mの範囲とすると、より好ましい表面変化効果が得られる。
【0021】
このようにして得られた複合糸は、織物となした時、ナチュラルな紡績糸様風合いとともに、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果を発現する。なお、本発明の複合糸は編物に使用しても差し支えない。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0023】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。
【0024】
(2)貼り合わせ比率
ポリエステルコンジュゲート繊維を任意の繊維横断面方向に切り取り、市販の顕微鏡にて倍率750倍で繊維横断面を写真撮影し、構成単糸横断面全てについて、2種のポリエステル横断面が各々占める面積を測定し、その比を貼り合わせ比率とした(全単糸横断面についての平均値)。
【0025】
(3)中空率
前項のポリエステルコンジュゲート繊維断面顕微鏡写真で、各単糸断面の中空部面積(A)および断面を囲む面積(B)を測定し、下記式で計算し、測定した全単糸横断面についての平均値を中空率(%)とした。
中空率(%)=A/B×100
【0026】
(4)捲縮率
コンジュゲート繊維試料に0.044cN/dtex(50mg/デニール)の張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作る。カセ作成後、カセの一端に0.00177cN/dtex+0.177cN/dtex(2mg/デニール+200mg/デニール)の荷重を負荷し、1分間経過後の長さL(cm)を測定する。次いで、0.177cN/dtex(200mg/デニール)の荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理する。沸水処理後0.00177cN/dtex(2mg/デニール)の荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥する。自然乾燥した試料に、再び0.00177cN/dtex+0.177cN/dtex(2mg/デニール+200mg/デニール)の荷重を負荷し、1分間経過後の長さL(cm)を測定する。次いで、0.177cN/dtex(200mg/デニール)の荷重を除去し、1分間経過後の長さLを測定し、次の算式で捲縮率を算出した。この測定を10回実施し、その平均値で表した。
全捲縮率TC(%)=[(L−L)/L]×100
【0027】
(5)強度、伸度
繊維試料をJIS L1013 8.5.1の方法に準拠し、引張試験を行い、破断時の強度、伸度を測定した。
【0028】
(6)織物の風合い評価
複合糸サンプルに600回/mの撚りを施し、たて糸・よこ糸使いで綾織組織の織物とした。次いで、80℃で精錬・リラックス処理、160℃・45秒でプレセット乾熱処理、10%のアルカリ減量処理、120℃・30分で染色を行い、自然乾燥した後、160℃・45秒でファイナルセットを行い、風合い評価用織物とした。検査員により、織物のストレッチ性および表面変化効果(シボ、表面嵩)を官能検査し以下の格付けを行った。
ストレッチのソフト性
レベル1:織物の両端を両手で持ち、引っ張った時、抵抗感が少なく、円滑に伸びる。
レベル2:織物の両端を両手で持ち、引っ張った時、やや抵抗感が感じられる。
レベル3:織物の両端を両手で持ち、引っ張った時、強い抵抗感がある。
表面変化効果(シボ、表面嵩)
レベル1:表面に均一で微細な凹凸(シボ)および嵩が認められる。表面はソフトな感触がある。
レベル2:表面のシボおよび嵩がやや粗く感じられる。表面のソフト感がレベル1よりやや劣る。
レベル3:表面のシボおよび嵩がほとんど無く、平坦な外観を呈する。表面はフラットな感触がある。
(7)ストレッチ率
前項(6)で得た風合い評価用織物を、JIS L1096 8.14.1b(B法)に準じて、伸張試験を行い、伸張率(%)を計算した。
【0029】
[実施例1]
固有粘度0.43のポリエチレンテレフタレートおよび固有粘度0.82のポリエチレンテレフタレートとを重量比50/50で、常法の複合紡糸工程にて、サイドバイサイド型に張り合わせ、図2(a)に示すような中実円形断面のコンジュゲート繊維を作成し、複合糸芯成分元糸として準備した。該コンジュゲート繊維の特性および物性は表1の如くであった。一方、表1に示す特性を有するポリエチレンテレフタレート短繊維を紡績粗糸として準備した。
【0030】
該ポリエチレンテレフタレート短繊維を紡績粗糸として、図3に示すコアスパン糸製造装置にて40倍のドラフトを掛け、フリースとなし、トップローラー上で該ポリエステルコンジュゲート繊維と複合し、表1に示す特性の複合糸を得た。
【0031】
該複合糸を、前述の方法((6)項)で織物となし、ストレッチ率の測定、ストレッチのソフト性および表面変化効果(シボ、表面嵩)の評価を行った。表1から明らかなように、本例の複合糸からの織物では、優れた紡績糸様風合いを保持しつつ、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果を有していた。
【0032】
【表1】



【0033】
[比較例1]
貼り合せる2種類のポリエステル、横断面形状および中空率を表1に示すように変えた以外は実施例1と同じ条件、方法で、表1(比較例1項)に示す特性および物性のポリエステルコンジュゲート繊維を得た。該ポリエステルコンジュゲート繊維を複合糸芯成分元糸として、実施例1と同じ条件、方法で表1(比較例1)に示す特性の複合糸を得た。
【0034】
該複合糸を、実施例1と同じ評価を行った結果、表1から明らかなように、本例の複合糸からの織物では、充分なストレッチ性および表面変化効果は発現しなかった。
【0035】
[実施例2〜4]
貼り合せる2種類のポリエステル、横断面形状、中空率および繊度(dtex)/フィラメント数を表1(実施例2〜4項)に示すように変えた以外は実施例1と同じ条件、方法で、表1(実施例2〜4項)に示す特性および物性のポリエステルコンジュゲート繊維を得た。該ポリエステルコンジュゲート繊維を芯成分元糸および表1(実施例2〜4項)に示す短繊維を紡績粗糸として、ドラフト率、撚数および複合比率を表1(実施例2〜4項)に示すように変えた以外は実施例1と同じ条件、方法で表1(実施例2〜4項)に示す特性の複合糸を得た。
【0036】
該複合糸を、実施例1と同じ評価を行った結果、表1(実施例2〜4項)から明らかなように、何れの例においても、複合糸からの織物は、優れた紡績糸様風合いを保持しつつ、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果を有していた。
【0037】
【発明の効果】
本発明の複合糸によれば、織物に紡績糸様風合い、ソフトなストレッチ性および好ましい表面変化効果(シボ、表面嵩)とを同時に発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合糸の1実施態様を示した側面図。
【図2】本発明のコンジュゲート繊維の横断面を例示した模式図。
【図3】本発明で用いる複合糸製造の1態様を例示した略線図。
【符号の説明】
1 : ポリエステルコンジュゲート繊維
2 : 紡績粗糸
3 : 張力調整装置
4 : 供給ローラー
5 : トップローラー
6 : トランペットガイド
7 : バックローラー
8 : エプロン
9 : フリース
10: 糸ガイド
11: スピンドル
12: 複合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維フィラメントを芯成分とし、短繊維を鞘成分とする複合糸であって、該長繊維フィラメントが2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート繊維であり、かつ沸水中で20分間処理して捲縮を発現させた後の該コンジュゲート繊維の捲縮率が2.8%以上であることを特徴とする複合糸。
【請求項2】
2種類のポリエステルが、異なる固有粘度を有するポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の複合糸。
【請求項3】
2種類のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートと、イソフタール酸を第3成分として共重合せしめたポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の複合糸。
【請求項4】
2種類のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートである請求項1記載の複合糸。
【請求項5】
2種類のポリエステルが、異なる固有粘度を有するポリトリメチレンテレフタレートである請求項1記載の複合糸。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate



【図3】
image rotate