説明

親水性多孔膜

【課題】濾過用途に好適な、長期に渡り耐汚染性に優れた親水性多孔膜およびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る熱可塑性樹脂と有機液体との混合物を溶融混練した後冷却固化することで溶融成形を行い、得られた成形物より有機液体を抽出除去して多孔膜を得る方法において、上記混合物にHLB値が2以上14以下の非イオン性界面活性剤を、熱可塑性樹脂量の2質量%以上50質量%以下加えて溶融混練を行うことを特徴とする親水性多孔膜の製造方法、および上記製法により得られる親水性多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過用途に好適な、耐汚染性に優れた親水性多孔膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔膜は、広く濾過膜やバッテリーセパレーター等として用いられている。特に濾過膜としては、精密濾過膜や限外濾過膜等として産業の各方面に利用され、特に近年は河川水等を除濁して飲料水や工業用水を製造する手段や、下水の清澄化処理等に多く利用されるようになっている。
多孔膜の製造方法としては、相分離法が一般に多用されている(非特許文献1、2)。相分離法の中でも、高分子樹脂を高温で有機液体と溶融混練した後に冷却固化成形して相分離させ、その後有機液体を抽出除去して多孔膜を得る熱誘起相分離法は、基本的には熱可塑性高分子であれば常温付近に適当な溶剤がなく他の相分離法がとれない高分子樹脂にも広く適用が可能であり、また、用いる樹脂が結晶性高分子樹脂であれば結晶化度を高めて高強度にしやすい等、有用性の高い製膜方法である(非特許文献1、2)。
【0003】
多孔膜の素材としては、一般にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等の疎水性熱可塑性樹脂が用いられることが多い。これは、濾過膜の主用途が水系液の濾過処理であるため、水中でも強度が発現できる疎水性樹脂を膜素材に用いることが有利であるためである。しかしながら、膜素材に疎水性樹脂を用いた場合、膜が濾過中に、濾過原水中に含まれる有機物の吸着により汚染され、濾過性能が低下することもしばしばである。この問題を解決するために、(1)膜素材に親水性樹脂を用いる(例えばエチレンービニルアルコール共重合体;特許文献1)、(2)疎水性素材から成る膜の表面に親水性物質をコーティングする(特許文献2)、等の提案がなされている。しかしながら、(1)は素材自体が親水性であるため水中での強度が低くなりがちであり、(2)はコーティングゆえの親水性物質のはがれ、脱離による使用中での親水性の低下の問題が残る。
【0004】
【非特許文献1】滝澤章著、「膜」第1版、アイピーシー、平成4年1月30日、404−406頁
【非特許文献2】プラスチック・機能性高分子材料編集委員会編、「プラスチック・機能性高分子材料辞典、産業調査会、2004年2月20日、672−679頁
【特許文献1】特開2002−136851号公報
【特許文献2】特開2000−103886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、濾過用途に好適な、長期に渡り耐汚染性に優れた親水性多孔膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意努力した結果、水中での強度発現が期待できる疎水性熱可塑性樹脂(ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物)を例えば熱誘起相分離法を利用して製膜する際、熱可塑性樹脂と有機液体に加えて非イオン性界面活性剤を加えて溶融混練、冷却固化成形を行った後、有機液体を抽出除去することにより、界面活性剤を強固に抽出後の膜に固定残留させることができ、疎水性熱可塑性樹脂のみでは発現しえない親水性を経時的に安定して発現させ、有機物汚染に対する高い耐性を有する親水性多孔膜を得ることができることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を為すに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
(1)ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る熱可塑性樹脂と有機液体との混合物を溶融混練した後冷却固化することで溶融成形を行い、得られた成形物より有機液体を抽出除去して多孔膜を得る方法において、上記混合物にHLB値が2以上14以下の非イオン性界面活性剤を、熱可塑性樹脂量の2質量%以上50質量%以下加えて溶融混練を行うことを特徴とする親水性多孔膜の製造方法。
(2)さらに無機微粉を、混合物全体量に対し0.5質量%以上50質量%以下加えて溶融混練し、有機液体に加えて無機微粉をも抽出除去することを特徴とする(1)に記載の親水性多孔膜の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載の製造方法により作製された、非イオン性界面活性剤を含有する、ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る親水性多孔膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、濾過用途に好適な、長期に渡り耐汚染性に優れた親水性多孔膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明に用いられる親水性多孔膜の骨格素材となる熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る熱可塑性樹脂である。例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンまたはこれらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂は熱可塑性であるがゆえに熱誘起相分離法による製膜手段をとることができ、また、結晶性であるため熱誘起相分離法での製膜により高強度膜を得やすく、また疎水性ゆえに水中での強度発現が期待でき、膜の骨格素材として好適である。
【0010】
有機液体は、熱可塑性樹脂と混合した際に、常温では熱可塑性樹脂を溶解しないが、高温では溶解する濃度領域を持つ液体であることが好ましく、(溶解温度にて液状であればよく、必ずしも室温で液状である必要はない)単一液体でなく混合液体であってもよい。例えば熱可塑性樹脂がポリエチレンの場合、有機液体の例として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸エステル類、流動パラフィン等のパラフィン類やこれらの混合物等を挙げることができる。単独では高温で溶解しない液体を、溶解できる液体(例えば前記フタル酸エステル類や流動パラフィン等)と混合して高温で溶解できるようにして有機液体として用いることもできる。また、熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合、有機液体の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、シクロヘキサノン、ガンマブチルラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイトやこれらの混合物等を挙げることができる。単独では高温で溶解しない液体(例えばフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)等)を、溶解できる液体(例えばフタル酸ジブチル等)と混合して高温で溶解できるようにして有機液体として用いることもできる。
【0011】
有機液体としては、フタル酸エステル系物(フタル酸エステル単独物、フタル酸エステル同士の混合物、フタル酸エステルを50質量%以上、好ましくは70質量%以上含むフタル酸エステルと他の有機物との混合物)を用いることが、添加した非イオン性界面活性剤を最終的に多孔膜中に有効に残留させるうえで好ましい。
【0012】
これら熱可塑性樹脂と有機液体に加えて、非イオン性界面活性剤を加えて溶融混練させる点が、本願発明の特徴である。界面活性剤(表面活性剤)は、化学大辞典編集委員会編、化学大辞典7縮刷版、共立出版、1964年1月15日、539−540頁、や、藤本武彦著、全訂版新・界面活性剤入門、三洋化成、昭和56年10月1日、3−24頁、に記述されているように、1分子中に親水基と親油基の双方を持つ有機化合物で、親水基の種類により、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤に分類される。これら各種界面活性剤の中で、多孔膜に残留後、濾過時に荷電性物質に対しても非吸着性(すなわち耐汚染性)を発現できる非イオン性界面活性剤が、本願発明に用いられる。非イオン性界面活性剤の特性は、HLB値で表現できる。HLB値は、界面活性剤の持つ親水部分と親油部分との量的バランスを示すもので、値が大きいほど親水性にバランスが傾く。従って、親水性の効果を強めるためには用いる界面活性剤のHLB値は大きいほど好ましい。一方、溶融混練混合物中の非イオン性界面活性剤を有効に疎水性熱可塑性樹脂よりなる多孔膜骨格中に強固に残留させるためには、HLB値が小さくて疎水性熱可塑性樹脂とのなじみが良い方が好ましい。従って、用いる非イオン性界面活性剤のHLB値は、2以上14以下である。好ましくはHLB値が4以上10以下である。より好ましくは、HLB値が6を超え10以下である。また、HLB値を14以下、好ましくは10以下にすることで、溶融混合物の冷却固化に一般的に多用されている水浴中への非イオン性界面活性剤の流出を抑制することができる。
【0013】
HLB値は、グリフィンのHLBの定義を用いて計算できる。グリフィンのHLBの定義およびHLB値の例は、前記の藤本武彦著、全訂版新・界面活性剤入門、三洋化成、昭和56年10月1日の128−132頁に記載されている。非イオン性界面活性剤の具体例およびHLB値については、前記の藤本武彦著、全訂版新・界面活性剤入門、三洋化成、昭和56年10月1日、89−132頁に記載例がある。
【0014】
非イオン性界面活性剤を加える量は、非イオン性界面活性剤の添加効果(多孔膜に残留して親水性を発現する)を得る観点から、熱可塑性樹脂量に対して2質量%以上であり、一方、得られる親水性多孔膜の強度保持の観点から、熱可塑性樹脂量に対し50質量%以下である。好ましくは、5質量%以上20質量%以下である。2質量%以上の非イオン性界面活性剤を添加すれば、抽出除去工程を経た後も多孔膜中に充分残存する。抽出工程を経て多孔膜中に残留した非イオン性界面活性剤は、親油部が疎水性熱可塑性樹脂からなる多孔膜骨格中に強固に固定され、一方親水部は疎水性熱可塑性樹脂とはなじみがよくないために孔表面に出て、経時的に安定な親水性が発現されるものと推測される。
【0015】
熱可塑性樹脂、有機液体、非イオン性界面活性剤から成る混合物中の熱可塑性樹脂量は、得られる親水性多孔膜の強度維持の点から10質量%以上が好ましく、透水性能確保の点から50質量%以下が好ましい。溶融混練は、通常の溶融混練装置、例えば1軸や2軸の押出し機等を用い、熱可塑性樹脂が有機液体に溶解する温度以上の温度にて溶融混練することで行うことができる。得られた溶融混練物を溶融状態のまま口金(ダイ)に導き、口金から溶融状態のまま押出し、冷却することで溶融成形を行うことができる。口金の吐出部の形状により、成形物の形状を決めることができる。例えば、口金としてTダイ等を用いて溶融混練物をシート状に押出し冷却することでシート状の成形物を得ることができ、抽出により平膜状の多孔膜を得ることができる。口金として紡口を用いて溶融混練物を円環状に押出し冷却することで中空糸状の成形物を得ることができ、抽出により中空糸状の多孔膜を得ることができる。押出した溶融混練物の冷却は、空冷、水冷等の通常の冷却手段を用いて行うことができる。なお、多孔膜の形状としては、単位容積当たりに充填できる膜面積を大きくできる点から、中空糸状が好ましい。
【0016】
得られた成形物からの有機液体の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずにかつ有機液体とは混和し(有機液体を溶解し)、かつ添加した非イオン性界面活性剤を変性(化学変化)させない液体を用いて行うことができ、例えば、有機液体がフタル酸エステル系であれば、エチルアルコールを例示することができる。非イオン性界面活性剤は、冷却固化された時点で多孔膜に強固に固定されるため、抽出用の液体は、非イオン性界面活性剤を溶解させる性質の液体でも用いることができる。
【0017】
熱可塑性樹脂、有機液体、非イオン性界面活性剤に加えて無機微粉を加えて溶融混練し、冷却固化させて成形を行い、得られた成形物から有機液体に加えて無機微粉も抽出除去することで、さらに強度の高い親水性多孔膜を得ることができる。無機微粉としては、平均一次粒子径が0.5マイクロメートル以下5ナノメートル以上のシリカ微粉を好適に用いることができる。無機微粉の添加量は、熱可塑性樹脂、有機液体、非イオン性界面活性剤、無機微紛を合わせた混合物全体質量に対し0.5質量%以上50質量%以下が好ましい。無機微粉の添加量が0.5質量%以上であれば強度増強効果が高く、添加量が50質量%以下であれば溶融成形性が好適に保たれる。冷却固化後の成形物中に含まれる無機微粉を抽出除去し、得られる親水性多孔膜の透水性能を高めることが好ましい。無機微粉が添加されている場合でも、無機微粉が添加されていない場合と同様に、溶融混練、溶融押出し、冷却固化成形、有機液体の抽出を行うことができる。無機微粉の抽出除去は、有機液体の抽出除去の前、後のどちらでも行うことができる。有機液体と同じ抽出液体が使える場合は、有機液体との同時除去もできる。無機微粉がシリカ微粉の場合、成形物をアルカリ液中に浸漬し、成形物中に残存するシリカ微粉を水溶性のケイ酸塩に転化させ、次いで水洗することで抽出除去することができる。
【実施例】
【0018】
本発明について、以下に実施例によりさらに具体的に説明する。
なお、中空糸状親水性多孔膜の各種評価は、以下の測定方法により行った。
純水透水速度:10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、25℃の環境にて注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面から透過してくる純水の透過量を測定し、以下の式より純水透水速度を決定した。
【0019】
【数1】

【0020】
破断強度伸度:島津製作所製、商品名:AGS−J型引張り試験装置を用い、25℃雰囲気下、有効試料長50mm、引張り速度50mm/minにて測定した。
粒子阻止率:有効長20cmの湿潤中空糸に対し、粒子径既知のポリスチレンラテックス(Duke Scientific Corporation社製、商品名:Nanosphere)の0.01質量%水溶液を、内圧濾過方式、濾過圧50kPa、線速0.5m/秒にて5分間濾過し、吸光光度法により求めた原水と透過水のポリスチレンラテックス濃度より、以下の式により阻止率を決定した。
【0021】
【数2】

【0022】
接触角:乾燥中空糸膜を縦に半割りにし、平らに広げた後、水滴を落とし、水滴との接触角を測定した。
タンパク質水溶液濾過テスト:0.03Mクエン酸水溶液と、0.03Mリン酸水素二ナトリウム水溶液を混合してpHを4.9に調整し、さらに1.0M塩化ナトリウム水溶液を0.9質量%加えた。このようにして調整した緩衝液にウシ血清アルブミン(略称:BSA和光純薬工業製、和光1級)を0.05質量%になるように溶解した。このようにしてBSA水溶液を得た。有効長20cmの湿潤中空糸に対し、得られたBSA水溶液を内圧濾過方式、濾過圧50kPa、線速0.5m/秒にて濾過を行い、1分間当たりの透過液量の経時変化を測定した。
【0023】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ製、商品名:SH800、粘度平均分子量25万)20質量部、有機液体としてフタル酸ジイソデシル(和光純薬工業製、和光1級)78質量部、非イオン性界面活性剤としてソルビタンオレイン酸モノエステル(和光純薬工業製、化学用)(HLB値4.3)2質量部(熱可塑性樹脂に対して10質量%)を計量後、小型2軸押出機(井元製作所製、商品名:循環式混練押出反応機)中へ投入し、210℃にて溶融混練を行い、中空糸成形用紡口から押出した。紡口下面の外径1.6mm、内径0.8mmの円環状穴から溶融混練物を押出し、紡口下面のこの円環穴の内側にある0.6mmφの穴よりフタル酸ジイソデシルを吐出させ、紡口から押出されたこの中空状物を5mm空気中を走行させた後、40℃の水浴中に導いて冷却固化させ、20m/minの速度でかせに巻き取った。次いで、エチルアルコール中への浸漬を繰り返すことにより、中空糸状成形物よりフタル酸ジイソデシルを抽出除去した。得られた、本発明による親水性多孔中空糸膜は、外径1.2mm、内径0.8mm、純水透水速度8000L/m/h、破断強度2.4MPa、破断伸度200%、接触角74°であった。ポリスチレン粒子の阻止率を図1に、タンパク質水溶液濾過テスト結果を図2に示す。なお、接触角の値は、水中保存3ヶ月後で73°であり、作製直後からほとんど変化していなかった。
【0024】
[比較例1]
フタル酸ジイソデシルの量を80質量部とし、非イオン性界面活性剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして多孔中空糸膜を得た。得られた多孔中空糸膜は、外径1.2mm、内径0.8mm、純水透水速度7500L/m/h、破断強度2.4MPa、破断伸度210%、接触角87°であった。ポリスチレン粒子の阻止率を図1に、タンパク質水溶液濾過テスト結果を図2に示す。図2より、実施例1の親水性多孔膜は比較例1の多孔膜よりも透過液量の経時低下が小さく、タンパク質汚染を受けにくい(耐汚染性に優れる)ことがわかる。なお、図2では透過液量の経時変化は、それぞれの多孔膜に対し初期の透過液量を100としたときの相対値の変化で表記されているが、実施例1の親水性多孔膜と比較例1の多孔膜とは、初期の透過液量の絶対値は、両者ともほぼ同じであった。
【0025】
[実施例2]
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ製、商品名:SH800)20質量部、有機液体としてフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(和光純薬工業製、和光1級)78質量部、界面活性剤としてソルビタンラウリン酸モノエステル(和光純薬工業製、化学用)(HLB値8.6)2質量部(熱可塑性樹脂に対して10質量%)を計量後、小型2軸押出機(井元製作所製、商品名:循環式混練押出反応機)中へ投入し、230℃にて溶融混練を行い、中空糸成形用紡口から押出した。紡口下面の外径1.6mm、内径0.8mmの円環状穴から溶融混練物を押出し、紡口下面のこの円環穴の内側にある0.6mmφの穴よりフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)を吐出させ、紡口から押出されたこの中空状物を5mm空気中を走行させた後、40℃の水浴中に導いて冷却固化させ、20m/minの速度でかせに巻き取った。次いで、エチルアルコール中への浸漬を繰り返すことにより、中空糸状成形物よりフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)を抽出除去した。得られた、本発明による親水性多孔中空糸膜は、外径1.2mm、内径0.8mm、純水透水速度7800L/m/h、破断強度2.3MPa、破断伸度190%、接触角70°であった。ポリスチレン粒子の阻止率は粒子径300nmが80%、粒子径500nmが99%であった。タンパク質水溶液濾過テスト結果を行ったところ、初期値を100としたときの透過液量は、濾過300分時点で60であった。なお、接触角の値は、水中保存3ヶ月後で70°であり、作製直後からほとんど変化していなかった。
【0026】
[実施例3]
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ製、商品名:SH800)18質量部、有機液体としてフタル酸ジブチル(和光純薬工業製、和光1級)53質量部、界面活性剤としてノニルフェノールのエチレンオキサイド3モル付加物(ミヨシ油脂製、商品名:ペレテックス1218)(HLB値7.5)2質量部(熱可塑性樹脂に対して11質量%)、無機微粉としてシリカ微粉(日本アエロジル製、商品名:R972、平均1次粒子径約16nm)27質量部を計量後、2軸押出機(東芝機械製、商品名:TEM37)にて230℃にて溶融混練を行い、中空糸成形用紡口から押出した。紡口下面の外径1.6mm、内径0.8mmの円環状穴から溶融混練物を押出し、紡口下面のこの円環穴の内側にある0.6mmφの穴より空気を吐出させ、紡口から押出されたこの中空状物を450mm空気中を走行させた後、25℃の水浴中に導いて冷却固化させ、10m/minの速度でかせに巻き取った。次いで、エチルアルコール中への浸漬を繰り返すことにより、中空糸状成形物よりフタル酸ジブチルを抽出除去した。さらに、5質量%NaOH水溶液に40℃にて2時間浸漬した後水洗することにより、無機微粉を抽出除去した。得られた、本発明による親水性多孔中空糸膜は、外径1.2mm、内径0.8mm、純水透水速度7000L/m/h、破断強度3.5MPa、破断伸度300%、接触角70°であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により得られる親水性多孔膜は、耐汚染性に優れるため、濾過膜としての利用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1および比較例1の多孔膜のポリスチレン粒子阻止率曲線を示すグラフである。
【図2】実施例1および比較例1の多孔膜のタンパク質水溶液濾過テスト結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る熱可塑性樹脂と有機液体との混合物を溶融混練した後冷却固化することで溶融成形を行い、得られた成形物より有機液体を抽出除去して多孔膜を得る方法において、上記混合物にHLB値が2以上14以下の非イオン性界面活性剤を、熱可塑性樹脂量の2質量%以上50質量%以下加えて溶融混練を行うことを特徴とする親水性多孔膜の製造方法。
【請求項2】
さらに無機微粉を、混合物全体量に対し0.5質量%以上50質量%以下加えて溶融混練し、有機液体に加えて無機微粉をも抽出除去することを特徴とする請求項1に記載の親水性多孔膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により作製された、非イオン性界面活性剤を含有する、ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、またはこれらの混合物より成る親水性多孔膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−88114(P2006−88114A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280198(P2004−280198)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】