説明

親水性部材及び親水性部材用基板

【課題】親水性層と基材との密着性に優れ、親水性層の耐久性に優れる表面親水性部材及びそれに用いることができる親水性部材用基板を提供することにある。
【解決手段】本発明の親水性部材用基板は、基材上にM−OH(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)で表される部分構造を含有する下塗層を有し、該下塗層表面のM−OH/Mの値が1〜0.4であるものであり、本発明の親水性部材用基板は、その下塗層上にさらに親水性層を有することを特徴とする。該下塗層は、Si、Ti,Zr、Alから選択される金属アルコキシドを含有する組成物を、加水分解、重縮合させたものであることが好ましく、該加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面親水性部材及び親水性部材用基板に関し、詳細には、親水性層と基材との密着性に優れ、親水性層の耐久性に優れる表面親水性部材及びそれに用いることができる親水性部材用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム表面を有する製品・部材は、幅広い分野で用いられ、目的に応じ加工され機能を付与した上で使用されている。但しそれらの表面は、樹脂本来の特性から、疎水性・親油性を示すものが一般的である。従って、これらの表面に汚れ物質として、油分等が付着した場合、容易に除去することができず、また蓄積することにより、該表面を有する製品・部材の機能・特性を著しく低下させることがあった。また高湿度の条件や降雨下に曝される製品・部材では、水滴が付着することにより、透明な機能を有する製品・部材において、光の乱反射により光の透過性が阻害される問題があった。ガラスや金属等の無機表面を有する製品・部材においても、油分等の汚れ物質の付着に対する防汚性は十分とは言えず、水滴の付着による防曇性についても十分ではなかった。特に自動車用ガラス、建材用ガラスでは、都市媒塵、自動車等の排気ガスに含有されるカーボンブラック等の燃焼生成物、油脂、シーラント溶出成分等の疎水性汚染物質が付着する場合や、水滴の付着によりガラスを透して(鏡の場合は反射して)視界を確保することが妨げられる場合が多く、防汚性や防曇性の機能付与が強く求められていた。
【0003】
防汚性の観点から、汚れ物質を油分等の有機系物質と想定すると、汚れ防止の為には材料表面との相互作用を低減する、即ち親水化するか、撥油化する必要がある。また防曇性に対しても、付着水滴を表面に一様に拡げる拡張濡れ性(即ち親水性)を付与するか、付着水滴を除去し易くさせる撥水性を付与することが必要となる。従って、現在検討されている防汚・防曇材料は、親水化や撥水・撥油化に依拠しているものが多い。
従来提案されている親水化するための表面処理方法、例えば、エッチング処理、プラズマ処理等によれば、高度に親水化されるものの、その効果は一時的であり、親水化状態を長期間維持することができない。また、親水性樹脂の一つとして親水性グラフトポリマーを使用した表面親水性塗膜も提案されている(非特許文献1)。この報告によればこの塗膜はある程度の親水性を有するものの、基材との親和性が充分とはいえず、より高い耐久性が求められている。
【0004】
その他の表面親水性機能を有する部材として、従来から光触媒として酸化チタンの利用が知られている。これは、光照射による有機物の酸化分解機能と親水化機能に基づくもので、例えば、特許文献1において、基材表面に光触媒含有層を形成すると、光触媒の光励起に応じて表面が高度に親水化されることが開示されており、この技術をガラス、レンズ、鏡、外装材、水回り部材等の種々の複合材に適用すれば、これら複合材に優れた防曇、防汚等の機能を付与できることが報告されている。酸化チタンをガラス表面にコーティングした部材は、セルフクリーニング材料として、建材用窓ガラスや自動車用フロントガラスに使用されているが、防汚性や防曇性の機能発現には、長時間太陽光の下に曝すことが必要であり、長期経時での汚れの蓄積により、その性質が劣化することは避けられなかった。また膜強度が十分とは言えず、耐久性の向上が必要であった。またプラスチック基板上に酸化チタン層を設けたセルフクリーニングフィルムも自動車用サイドミラー等に使用されているが、同じく十分な膜強度を有さず、より良好な耐摩耗性を有する親水性材料が求められていた。
【0005】
【特許文献1】国際公開第96/29375号パンフレット
【非特許文献1】化学工業日報、1995年1月30日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、親水性層と基材との密着性に優れ、親水性層の耐久性に優れる表面親水性部材及びそれに用いることができる親水性部材用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、鋭意検討した結果、基材上に、表面に水酸基を多く有する下塗層を設けることにより、該下塗層と親水性層の界面の密着性が向上することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
(1)基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有する下塗層と親水性層とを少なくともこの順に有し、前記下塗層表面のM−OH/Mの値が1〜0.4であることを特徴とする親水性部材。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
(2)前記基材表面におけるM−OH/Mの値が、前記下塗層表面のM−OH/Mの値より小さいことを特徴とする前記(1)の親水性部材。
(3)前記下塗層が、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする前記(1)または(2)の親水性部材。
(4)前記加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることを特徴とする前記(3)の親水性部材。
(5)前記下塗層の表面粗さ(Ra)が1.0〜50nmであることを特徴とする前記(1)〜(4)の親水性部材。
(6)前記下塗層が、プラズマエッチング処理、或いは粒子が混入されていることを特徴とする前記(1)〜(5)の親水性部材。
(7)前記親水性層が、a)親水性ポリマー、b)Si、Ti,Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物、c)前記b)の金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合し、前記a)の親水性ポリマーとの結合を生起する触媒を含有する組成物を、加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする前記(1)〜(6)の親水性部材。
(8)前記a)の親水性ポリマーが、下記一般式(I)、(II)及び(III)から選ばれる少なくともいずれかで表される前記(7)の親水性部材。
【0009】
【化1】

【0010】
一般式(I)〜(III)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR10はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表し、mとnはモノマーのモル比を表わす。ただし、m1≧5、m2≧50、m1+n1=100、m2+n2=100である。Xは加水分解性シリル基(以下、反応性基ということがある)を表し、A、L、L、L3、L4及びL5は、それぞれ独立に単結合または連結基を示し、Yは−NHCOR11、−CONH2、−CON(R112、−COR11、−O、−CO2M、−SO3M、−POM、−OPOM又は−N(R11を表す。ここで、R11は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表し、Zはハロゲンイオンを表す。Bは下記一般式(IV)を表す。
【0011】
【化2】

【0012】
一般式(IV)中、R1、R2、L及びYは一般式(I)中のものと同じものを表す。
(9)前記基材がSi−OH構造を含有するものであることを特徴とする前記(1)〜(8)の親水性部材。
【0013】
(10)自動車用ガラスである、前記(1)の親水性部材。
(11)建材用ガラスである、前記(1)の親水性部材。
【0014】
(12)基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有する下塗層を有し、前記下塗層表面のM−OH/Mの値が1〜0.4であることを特徴とする親水性部材用基板。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
(13)前記基材表面におけるM−OH/Mの値が、前記下塗層表面のM−OH/Mの値より小さいことを特徴とする前記(12)の親水性部材用基板。
(14)前記下塗層が、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする前記(12)又は(13)の親水性部材用基板。
(15)前記加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることを特徴とする前記(14)の親水性部材用基板。
(16)前記下塗層の表面粗さ(Ra)が1.0〜50nmであることを特徴とする前記(12)〜(15)の親水性部材用基板。
(17)前記下塗層が、プラズマエッチング処理、或いは粒子が混入されていることを特徴とする前記(12)〜(16)の親水性部材用基板。
(18)前記基材がSi−OH構造を含有するものであることを特徴とする前記(12)〜(17)の親水性部材用基板。
【0015】
(19)基材上に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を少なくとも含有する組成物を塗布し30〜200℃で加熱、乾燥することにより下塗層を塗設し、次いで、該下塗層上に親水性層を設けることを特徴とする親水性部材の製造方法。(20)前記組成物が触媒を含有することを特徴とする前記(18)の親水性部材の製造方法。
(21)基材上に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を少なくとも含有する組成物を塗布し、30〜200℃で加熱、乾燥することにより下塗層を塗設することを特徴とする親水性部材用基板の製造方法。
(22)前記組成物が触媒を含有することを特徴とする前記(19)の親水性部材用基板の製造方法。
【0016】
その他、以下の態様が好ましい。
(23)前記親水性層が、さらにd)コロイダルシリカを含有する前記(7)の親水性部材。
(24)前記親水性被膜の表面自由エネルギーが70mN/m〜95mN/mである、前記(1)の親水性部材。
(25)前記a)親水性ポリマーの親水性基の密度が1〜30meq/gである、前記(7)の親水性部材。
(26)前記a)親水性ポリマーの粘度が0.1〜100cPs(5%水溶液)である、前記(7)の親水性部材。
(27)前記親水性層の光透過率が100%〜70%である、前記(1)の親水性部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有しその表面のM−OH/Mの値が1〜0.4である下塗層を設けることにより、該下塗層と親水性層の界面の密着性が向上し、その結果、親水性層の耐久性に優れる表面親水性部材及びそれに用いることができる親水性部材用基板を提供できる。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の親水性部材用基板は、ガラス、プラスチック等の適切な基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有しその表面のM−OH/Mの値が1〜0.4である下塗層を有し、本発明の親水性部材は、該下塗層上にさらに、親水性層(親水性被膜または親水層ともいう)を有するものである。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
なお、本明細書中で本発明の親水性部材用基板及び親水性部材を説明するに当たり、便宜上、それらを纏めて、単に親水性部材または親水性部材用基板と称する場合もある。
【0019】
本発明の親水性部材において、M−OH/Mとは、金属原子全量に対しヒドロキシル基を有する金属原子の割合を意味し、M−OH/M=0の場合ヒドロキシル基を全く有さないことを表す。M−OH/Mは、測定器としてTOF-SIMSを用い、VとBi3+一次イオンガン(0.2pA,10kHz)を使用し、帯電補正に20eVの電子銃を使用して算出したM-OHとMの強度比によって求められる。
そして、本発明の親水性部材においては、基材表面におけるM−OH/Mの値が、前記下塗層表面のM−OH/Mの値より小さいものである。この意味するところは、下塗層表面の−OH基量が、基材表面における−OH基量よりも多いということである。下塗層表面の−OH基量が、基材表面における−OH基量よりも多いと、後述の親水性層を基材表面に直接設けるよりも、該下塗層を設けその上に設ける方が、該親水性層の密着性が向上し、親水性層の耐久性が優れたものとなる。
【0020】
本発明の親水性部材において、下塗層表面のM−OH/Mの値を1〜0.4とするための手法としては、特に限定されないが、下塗層が、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物(以下、単に金属アルコキシドとも称する)を加水分解、重縮合させたものとすることが好ましい。そしてその加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることが好ましい。
詳細に説明すると、基材上に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を少なくとも含有する組成物を塗布し30〜200℃で加熱、乾燥することにより上記の下塗層を塗設することができる。
上記の金属アルコキシド化合物を含有する組成物の塗布後の加熱、乾燥を30〜200℃の温度範囲で行うことにより、該下塗層は、該金属アルコキシド化合物が、完全ではないが適度に加水分解、重縮合された架橋構造を有し、また、該金属アルコキシド化合物が完全に加水分解、重縮合されていないために、適度な量のM−OH構造を有するものとすることができる。
なお、上記のような金属アルコキシドの加水分解、縮重合により形成された架橋構造を、本発明では以下、適宜、ゾルゲル架橋構造と称する。
【0021】
本発明の親水性部材において、下塗層表面のM−OH/Mの値が1を超えると、下塗層におけるゾルゲル架橋構造が不十分なものとなり、親水性部材の耐久性が不十分なものとなる場合がある。
また、下塗層表面のM−OH/Mの値が0.4未満であると、下塗層表面の−OH基量が不十分なものとなり、親水性層との密着性も不十分なものとなり、この場合にも親水性部材の耐久性が不十分なものとなる。
【0022】
なお、Si、Ti,Zr、Alから選択される金属アルコキシドは、その構造中に加水分解して重縮合可能な官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、金属アルコキシド同士が重縮合することにより架橋構造を有する強固な架橋皮膜を形成する。金属アルコキシドは一般式(IV-1)および一般式(IV-2)で表すことができ、式中、R8は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R9はアルキル基又はアリール基を表し、ZはSi、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。R8及びR9がア
ルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量2000以下であることが好ましい。
【0023】
(R8m−Z−(OR94-m (IV-1)
Al−(OR93 (IV-2)
【0024】
以下に、一般式(IV-1)および一般式(IV-2)で表される加水分解性化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。ZがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、γ−クロロプリピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、等を挙げることができる。これらのうち特に好ましいものとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、等を挙げることができる。
【0025】
ZがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。ZがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
また、中心金属がAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、トリイソプロポキシアルミネート等を挙げることができる。
【0026】
金属アルコキシドのなかでも、反応性、入手の容易性からSiのアルコキシドが好ましく、具体的には、シランカップリング剤に用いる化合物を好適に使用することができる。
【0027】
前記金属アルコキシド化合物を含有する組成物を塗布し30〜200℃で加熱、乾燥して下塗層を塗設する際には、該金属アルコキシド化合物を含有する組成物に、該加水分解、重縮合反応用の触媒を含有することが好ましい。
該触媒としては、特に限定されないが、金属のキレート化合物やシランカップリング剤等が挙げられる。
【0028】
金属のキレート化合物(以下、金属錯体とも称する)としては、特に限定されないが、周期律表の2A,3B,4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物から構成される金属錯体である。
構成金属元素の中では、Mg,Ca,St,Baなどの2A族元素、Al,Gaなどの3B族元素,Ti,Zrなどの4A族元素及びV,Nb及びTaなどの5A族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい。
【0029】
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸,酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基またはカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0030】
好ましい配位子はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基またはカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0031】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、アセチルアセトン、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンがとくに好ましい。上記のアセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0032】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、オルトチタン酸テトラエチル、テトライソプロポキシジルコニウム等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オルトチタン酸テトラエチル、テトライソプロポキシジルコニウムが好ましい。
【0033】
上記した金属錯体の対塩の記載を本明細書においては省略しているが、対塩の種類は、錯体化合物としての電荷の中性を保つ水溶性塩である限り任意であり、例えば硝酸塩、ハロゲン酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの化学量論的中性が確保される塩の形が用いられる。金属錯体のシリカゾルゲル反応での挙動については、J.Sol-Gel.Sci.and Tec. 16.209(1999)に詳細な記載がある。反応メカニズムとしては以下のスキームを推定している。すなわち、塗布液中では、金属錯体は、配位構造を取って安定であり、塗布後の加熱乾燥過程に始まる脱水縮合反応では、酸触媒に似た機構で架橋を促進させるものと考えられる。いずれにしても、この金属錯体を用いたことにより塗布液経時安定性及び皮膜面質の改善と、高耐久性を満足させるに至った。
【0034】
上記の金属錯体触媒は、市販品として容易に入手でき、また公知の合成方法、例えば各金属塩化物とアルコールとの反応によっても得られる。
【0035】
また、シランカップリング剤としては、特に限定されないが、酸性またはアルカリ性を示す官能基を有するものが挙げられ、さらに詳細には、りん酸、ペルオキソ酸、カルボン酸、カルボヒドラゾン酸、カルボキシイミド酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルフェン酸、セレノン酸、セレニン酸、セレネン酸、テルロン酸、及び上記のアルカリ金属塩などといった酸性を示す官能基、或いは、アミノ基などといった塩基性を示す官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0036】
また、上記下塗層に用いられる触媒としては、上記の金属キレート化合物やシランカップリング剤の他、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素または置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などの酸性を示す化合物、あるいは、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などの塩基性化合物等を用いても良い。
【0037】
しかしながら、30〜200℃という比較的低温度で、金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を効率良く行うという点、親水性層との密着性をさらに向上させるために加熱、乾燥後に該下塗層中に触媒が活性を持って残存できるという点で、金属キレート化合物及びシランカップリング剤が好ましく、さらに、下塗層用塗布液の経時安定性及び下塗層皮膜面質の改善と、高耐久性を満足という点で、金属キレート化合物が好ましい。
【0038】
本発明の親水性部材の下塗層は、基材上に上記金属アルコキシド化合物を少なくとも有する組成物を、基材上に、塗布し、加熱、乾燥することにより、該組成物が加水分解、重縮合させて、形成することができるが、下塗層形成のための加熱温度は、30〜200℃の範囲が好ましく、製造適性などの点から加熱温度は150℃以下であることがより好ましい。
また、加熱時間は、ゾル液中の溶媒が除去され、強固な皮膜が形成できれば特に制限はないが、製造適性などの点から1時間以内が好ましい。
本発明の親水性部材における下塗層は、公知の塗布方法で作成することが可能であり、特に限定がなく、例えばスプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、フィルムアプリケーター法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が適用できる。
【0039】
また、本発明の親水性部材の下塗層は、プラズマエッチングまたは下塗層用塗布液中に粒子を混入させて、微細凹凸を設けることにより、該下塗層表面の見かけ面積当たりの−OH基量を多くなり、それにより親水性層の界面における密着性をさらに高いものとすることができる。
【0040】
本発明の親水性部材は、上記の下塗層上にさらに親水性層を有する。
親水性層としては、特に限定されないが、a)親水性ポリマー、b)Si、Ti,Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物、c)前記b)の金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合し、前記a)の親水性ポリマーとの結合を生起する触媒を含有する組成物を、加水分解、重縮合させたものであることが好ましい。
上記のような親水性層は、前記の下塗層と同様のゾルゲル架橋構造を有し、金属アルコキシド化合物と、親水性グラフト鎖を形成しうる親水性の官能基を有する化合物と、適切な触媒とを用いて、適宜、形成することができる。金属アルコキシドのなかでも、反応性、入手の容易性からSiのアルコキシドが好ましく、具体的には、シランカップリング剤に用いる化合物を好適に使用することができる。
【0041】
このようなポリマー鎖の片末端が固定されずポリマー鎖の運動性が大きい親水性層は、例えば、(A)シランカップリング基等の反応性基を末端に有する下記一般式(I)で表される高分子化合物、または、該反応性基を幹ポリマーの側鎖として有する下記一般式(II)、(III)で表される高分子化合物と、(B)加水分解性の金属アルコキシド化合物と、該加水分解及び重縮合を生起する触媒とを含有する親水性塗布液組成物を調製し、それを塗布、乾燥して表面親水性層を形成することにより容易に形成し得る。以下に、この好ましい態様である親水性層を形成するための親水性塗布液組成物に含まれる各成分について説明する。
【0042】
〔親水性ポリマー〕
本発明に使用される親水性ポリマーは、親水性基を有し、且つSi、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物と、触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマーである。親水性基としては、好ましくはカルボキシ基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、スルホン酸基、スルホン酸基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基等の官能基が挙げられる。これらの基は、ポリマー中のどの位置に存在しても良い。ポリマー主鎖より直接、または連結基を介し結合しているか、ポリマー側鎖やグラフト側鎖中に結合しており、複数個が存在するポリマー構造が好ましい。金属アルコキシド化合物と、触媒の作用により結合を生じる基としては、カルボキシル基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、無水カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メチロール基、メルカプト基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、アルコキシシリル基、アルコキシチタネート基、アルコキシアルミネート基、アルコキシジルコネート基、エチレン性不飽和基、エステル基、テトラゾール基などの反応性基が挙げられる。また親水性基、および金属アルコキシド化合物と触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマー構造としては、エチレン性不飽和基(例えばアクリレート基、メタクリレート基、イタコン酸基、クロトン酸基、桂皮酸基、スチレン基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基など)がビニル重合したポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミック酸などのような縮重合したポリマー、ポリウレタンなどのような付加重合したポリマーの他、セルロース、アミロース、キトサンなどの天然物環状ポリマー構造を好ましく挙げることができる。
【0043】
また、本発明に使用される親水性ポリマーはその構成単位であるモノマーのlogPが−3〜2であるのが好ましく、−2〜0あるのがより好ましい。この範囲において、良好な親水性が得られる。
ここでlogPとは、Medicinal Chemistry Project, Pomona College, Claremont, Californiaで開発され、Daylight Chemical Information System Inc. より入手できるソフトウェアPCModelsを用いて算出した化合物のオクタノール/水分配係数(P)の値の対数である。
【0044】
本発明に用いうる親水性ポリマーとしては、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニル類或いはその加水分解物、スチレン類、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、アクリルニトリル、無水マレイン酸類、マレイン酸イミド類などのモノマーを原料とするポリマーが挙げられる。
特に上記のモノマーでもアミノ基、アンモニウム基、水酸基、スルホンアミド基、カルボキシル基又はその塩、リン酸基又はその塩、スルホン酸基又はその塩、エーテル基特にエチレンオキシ基を有するモノマーが好ましい。
また、上記以外に主鎖にウレタン結合、或いはアミド結合、或いはウレア結合を有する親水性ポリマーも使用することが可能である。
【0045】
アクリル酸エステル類の具体例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0046】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。
【0047】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0048】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
ビニル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルピロリドン等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、トリメトキシスチレン、カルボキシスチレン、スチレンスルホン又はその塩等が挙げられる。
【0050】
具体的には一般式(I)、(II)及び(III)で表される構造を挙げられる。
【0051】
【化3】

【0052】
一般式(I)〜(III)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR10はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表し、mとnはモノマーのモル比を表わす。ただし、m1≧5、m2≧50、m1+n1=100、m2+n2=100である。Xは加水分解性シリル基(以下、反応性基ということがある)を表し、A、L、L、L3、L4及びL5は、それぞれ独立に単結合または連結基を示し、Yは−NHCOR11、−CONH2、−CON(R112、−COR11、−OH、−CO2M、−SO3M、−POM、−OPOM又は−N(R11を表す。ここで、R11は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表し、Zはハロゲンイオンを表す。Bは下記一般式(IV)を表す。
【0053】
【化4】

【0054】
一般式(IV)中、R1、R2、L及びYは一般式(I)中のものと同じものを表す。
【0055】
本発明で用いられる親水性ポリマーは、反応性基と親水性基を有する。反応性基は、主鎖の一つの末端のみに有する場合や、主鎖に複数個有する場合などがある。
「反応性基」は、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物に反応して化学結合を形成できる官能基を意味する。また、反応性基同士が化学結合を形成してもよい。親水性ポリマーは、水溶性であることが好ましく、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と反応することにより水不溶性になることが好ましい。
化学結合は、通常の意味と同様に、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合を含む。化学結合は、共有結合であることが好ましい。
反応性基は、一般には、ポリマーの架橋剤に含まれる反応性基と同様であり、熱または光により架橋を形成できる化合物である。架橋剤について、「架橋剤ハンドブック」山下晋三、金子東助著、大成社刊(1981)に記載がある。
【0056】
反応性基の例は、カルボキシル(HOOC−)、その塩(MOOC−、Mはカチオン)、無水カルボン酸基(例えば、無水コハク酸、無水フタル酸または無水マレイン酸から誘導される一価の基)、アミノ(H2N−)、ヒドロキシル(HO−)、エポキシ基(例、グリシジル基)、メチロール(HO−CH2−)、メルカプト(HS−)、イソシアナート(OCN−)、ブロックイソシアナート基、アルコキシシリル基、アルコキシチタネート基、アルコキシジルコネート基、エチレン性不飽和二重結合、エステル結合、テトラゾール基を含む。反応性基としては、アルコキシシリル基が最も好ましい。片末端には、2以上の反応性基を有していてもよい。2以上の反応性基は、互いに異なっていてもよい。
【0057】
親水性ポリマーの繰り返し単位と反応性基との間や、親水性ポリマーの繰り返し単位と主鎖に連結基が介在していることが好ましい。連結基AおよびL1、L2,L3は、それぞれ独立に単結合または、−O−、−S−、−CO−、−NH−、−N<、脂肪族基、芳香族基、複素環基、およびそれらの組合せから選ばれることが好ましい。連結基は、−O−、−S−、−CO−、−NH−、あるいは、−O−または−S−または−CO−または−NH−を含む組合せであることが好ましい。
【0058】
(末端に反応性基を有する親水性ポリマー(I))
片末端に反応性基を有する親水性ポリマーは、例えば、連鎖移動剤(ラジカル重合ハンドブック(エヌ・ティー・エス、蒲池幹治、遠藤剛)に記載)やIniferter (Macromolecules1986,19,p287−(Otsu)に記載)の存在下に、親水性モノマー(例、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸3−スルホプロピルのカリウム塩)をラジカル重合させることにより合成できる。連鎖移動剤の例は、3−メルカプトプロピオン酸、2−アミノエタンチオール塩酸塩、3−メルカプトプロパノール、2−ヒドロキシエチルジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む。また、連鎖移動剤を使用せず、反応性基(例、カルボキシル)を有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性モノマー(例、アクリルアミド)をラジカル重合させてもよい。
片末端に反応性基を有する親水性ポリマーの質量平均分子量は、100万以下が好ましく、1000乃至100万がさらに好ましく、2000乃至10万が最も好ましい。
【0059】
この一般式(I)で表される高分子化合物は、末端に反応性基を有する親水性ポリマーである。上記一般式(I)において、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数8以下の炭化水素基を表す。炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数8以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。R1、R2は、効果及び入手容易性の観点から、好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0060】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0061】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチルル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0062】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0063】
AおよびL1は単結合又は有機連結基を表す。ここで、AおよびL1が有機連結基を表す場合、AおよびL1は非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には、1個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、1個から100個までの水素原子、及び0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。より具体的な連結基としては下記の構造単位またはこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0064】
【化5】

【0065】
また、Yは−NHCOR7、−CONH2、−CON(R72、−COR7、−OH、−CO2M、−SO3M、−PO3M、−OPO3M又は−N(R731を表し、ここで、R7は、炭素数1〜18の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表し、Z1はハロゲンイオンを表す。また、−CON(R72のように複数のR7を有する場合、R7同士が結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R7はさらに置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R1、R2がアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0066】
7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。また、Mとしては、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムが挙げられる。Yとしては、具体的には、−NHCOCH3、−CONH2、−COOH、−SO3-NMe4+、モルホリル基等が好ましい。
【0067】
本発明に好適に用い得るa)親水性ポリマーの具体例(例示化合物1〜例示化合物38)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
【化6】

【0069】
【化7】

【0070】
【化8】

【0071】
【化9】

【0072】
上記に例示した親水性ポリマーは、下記一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(ii)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤を用いてラジカル重合することにより合成することができる。シランカップリング剤(ii)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
【0073】
【化10】

【0074】
上記式(i)及び(ii)において、A、R1〜R2、L1、Yは、上記式(I)と同義である。また、これらの化合物は、市販されおり、また容易に合成することもできる。
【0075】
(複数個反応性基を有する親水性ポリマー(II))
上記式(II)で表される反応性基を複数個有する親水性ポリマーは、金属アルコキシドと反応し得る官能基を有する幹ポリマーに親水性ポリマー側鎖を導入してなる親水性グラフトポリマーを用いることができる。
上記式(II)において、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立に、上記式(I)のR1、R2と同様の置換基を表す。L2、L3は、上記式(I)のL1と同義である。Bは、上記式(IV)で表され、式(IV)中の、R1、R2、L1及びYは式(I)および(II)中のものと同じである。Xは上記式(I)と同義である。
この親水性グラフトポリマーは、一般的にグラフト重合体の合成法として公知の方法を用いて作成することができる。具体的には、一般的なグラフト重合体の合成方法は、“グラフト重合とその応用”井手文雄著、昭和52年発行、高分子刊行会、および“新高分子実験学2、高分子の合成・反応”高分子学会編、共立出版(株)1995、に記載されており、これらを適用することができる。
【0076】
グラフト重合体の合成方法としては、基本的に1.幹高分子から枝モノマーを重合させる、2.幹高分子に枝高分子を結合させる、3.幹高分子に枝高分子を共重合させる(マクロマー法)という3つの方法に分けられる。これらの3つの方法のうち、いずれを使用しても本発明に用いる親水性グラフトポリマーを作成することができるが、特に製造適性、膜構造の制御という観点からは「3.マクロマー法」が優れている。
【0077】
マクロモノマーを使用したグラフトポリマーの合成は前記の“新高分子実験学2、高分子の合成・反応”高分子学会編、共立出版(株)1995に記載されている。また山下雄他著“マクロモノマーの化学と工業”アイピーシー、1989にも詳しく記載されている。本発明に使用されるグラフトポリマーは、まず、前記の方法により合成した親水性のマクロモノマー(親水性ポリマー側鎖の前駆体に相当する)と架橋剤と反応し得る官能基を有するモノマーとを共重合することにより、合成することができる。
【0078】
(親水性マクロモノマー)
本発明で使用される親水性マクロモノマーのうち特に有用なものは、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸、およびその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド系マクロモノマー、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基もしくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖もしくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明のマクロモノマーとして有用に使用することができる。これらのマクロモノマーのうち有用な高分子の質量平均分子量(以下、単に分子量と称する)は400〜10万の範囲であり、好ましい範囲は1000〜5万、特に好ましい範囲は1500〜2万である。分子量が400以上であれば有効な親水性が得られ、また10万以下であれば主鎖を形成する共重合モノマーとの重合性が高くなる傾向があり、いずれも好ましい。
【0079】
親水性マクロモノマーと共重合可能でかつ架橋剤と反応し得る官能基(以下、適宜、反応性官能基と称する)を有するモノマーの反応性官能基としては、カルボキシル基あるいはその塩、アミノ基、水酸基、フェノール性水酸基、グリシジルなどのエポキシ基、メチル基、(ブロック)イソシアネート基、シランカップリング剤等が挙げられる。一般的なモノマーとしては、「架橋剤ハンドブック」山下晋三、金子東助著、大成社刊〔1981〕、「紫外線硬化システム」加藤清視著、総合技術センター刊〔1989〕、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」加藤清視著、高分子刊行会〔1985〕、「新・感光性樹脂の実際技術」赤松清著、シーエムシー刊行(102−145頁)〔1987〕等に記載されているモノマーが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、下記式(1)で表される如きフェノール性水酸基含有モノマー、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、N−メチロールメタクリルアミド、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、また、下記式(2)で例示されるようなブロックイソシアネートモノマー等のブロックイソシアネートモノマー、ビニルアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランなどが挙げられる。
【0080】
【化11】

【0081】
これらのグラフトポリマーとしては、質量平均分子量が100万以下のものが好ましく用いられ、分子量1000〜100万、さらに好ましくは2万〜10万の範囲のものである。分子量が100万以下であれば親水性被膜形成用塗布液を調製する際に溶媒への溶解性が悪化することなく、塗布液粘度が低くなり、均一な被膜を形成し易いなどハンドリング性に問題がなく、好ましい。
【0082】
上記、親水性ポリマーは、式中Yで表される親水性を発現する親水性官能基を有しており、この官能基の密度が高いほど表面親水性が高くなり好ましい。親水性官能基密度は、親水性ポリマー1g当たりの官能基モル数で表すことができ、1〜30meq/gが好まく、2〜20meq/gがより好ましく、3〜15meq/gが最も好ましい。
親水性ポリマー(II)の共重合比率は、親水性官能基Yの量が上記範囲内になるように任意に設定することができる。好ましくは、Bを含有するモノマーのモル比(m)とXを含有するモノマーのモル比(n)が、m/n=30/70〜99/1の範囲が好ましく、m/n=40/60〜98/2がより好ましく、m/n=50/50〜97/3が最も好ましい。mがm/n=30/70以上の比率であれば親水性が不足することなく、一方、nがm/n=99/1以上の比率であれば、反応性基量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度も十分なものとなる。
【0083】
本発明に好適に用い得る一般式(II)で表される親水性ポリマーの具体例(例示化合物(II)−1〜例示化合物(II)−50)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
【化12】

【0085】
【化13】

【0086】
【化14】

【0087】
【化15】

【0088】
【化16】

【0089】
(複数個反応性基を有する親水性ポリマー(III))
上記式(III)において、R、R、RおよびR10は、それぞれ独立に、上記式(I)のR1、R2と同様の置換基を表す。L、Lは、上記式(I)のL1と同義である。YおよびXは式(I)および(II)中のものと同じである。なお本発明では、Lが、単結合、または、−CONH−、−NHCONH−、−OCONH−、−SONH−および−SO−からなる群より選択される構造を1つ以上有する連結基であることが高い親水性を発現するという理由から好ましい。
一分子当たりの加水分解性シリル基を数多く導入することができ、常温乾燥によって非常に良好な硬化性を得ることができることから、一般式(III)で表される側鎖型シランポリマーが最も好ましい。
【0090】
一般式(III)で表されるポリマーの共重合比率は、好ましくは、Yを含有するモノマーのモル比(m2)とXを含有するモノマーのモル比(n2)が、m2+n2=100としたときにm2≧50、好ましくはm2が70〜95であるのがよい。この範囲に各モノマーのモル比を設定することで、塗布液の高い安定性、高い膜強度と親水性が発現するという効果が奏される。
【0091】
以下に、一般式(III)で表されるポリマー具体例〔例示化合物(III)−(1)〜(III)−(50)〕をその質量平均分子量(M.W.)とともに以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す具体例のポリマーは、記載される各構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体であることを意味する。
【0092】
【化17】

【0093】
【化18】

【0094】
【化19】

【0095】
【化20】

【0096】
【化21】

【0097】
一般式(III)で表されるポリマーを合成する前記各化合物は、市販されおり、また容易に合成することもできる。
一般式(III)で表されるポリマーを合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善)、物質工学講座、高分子合成化学(東京電気大学出版局) 等に記載されており、これらを適用することができる。
【0098】
また、一般式(III)で表されるポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0099】
一般式(III)で表されるポリマーの質量平均分子量としては、1,000〜1,000,000が好ましく、1,000〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。
【0100】
上記、親水性ポリマーは、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と混合した状態で架橋皮膜を形成する。有機成分である親水性ポリマーは、皮膜強度や皮膜柔軟性に対して関与しており、特に、親水性ポリマーの粘度が0.1〜100cPs(5%水溶液、25℃測定)、好ましくは0.5〜70cPs、さらに好ましくは1〜50cPsの範囲にあると、良好な膜物性を与える。
【0101】
上記、親水性ポリマーは、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と混合した状態で架橋皮膜を形成する。有機成分である親水性ポリマーは、皮膜強度や皮膜柔軟性に対して関与しており、特に、親水性ポリマーの粘度が0.1〜100cPs(5%水溶液、25℃測定)、好ましくは0.5〜70cPs、さらに好ましくは1〜50cPsの範囲にあると、良好な膜物性を与える。
【0102】
本発明の親水性部材のゾルゲル架橋構造を有する親水性層において用いられる、金属アルコキシドは、その構造中に加水分解して重縮合可能な官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、金属アルコキシド同士が重縮合することにより架橋構造を有する強固な架橋皮膜を形成し、さらに、前記親水性ポリマーとも化学結合する。
このような金属アルコキシドの例としては、前述の下塗層で挙げられたものと同じである。
【0103】
本発明の親水性部材のゾルゲル架橋構造を有する親水性層において用いられる、前記金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合し、前記親水性ポリマーとの結合を生起する触媒としては、特に限定されないが、前述の下塗層で挙げられたものと同様のものが例示され、用いられる。
その中でも、比較的低温度で、金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を効率良く行うという点で、金属キレート化合物及びシランカップリング剤が好ましく、さらに、親水性層用塗布液の経時安定性及び親水性層皮膜面質の改善と、高耐久性を満足という点で、金属キレート化合物が好ましい。
【0104】
本発明の親水層は、親水性の向上や、皮膜のひび割れ防止、膜強度向上のために、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムまたはこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、親水層中に安定に分散して、親水層の膜強度を十分に保持し、耐久性の高い親水性に優れる親水性部材を形成することができる。
上述したような無機微粒子の中で、特にコロイダルシリカ分散物が好ましく、市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、親水層の全固形分に対して、80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以下であるのがより好ましい。
【0105】
以下に、必要に応じて本発明の親水性部材の親水性層形成用塗布液に用いることのできる種々の添加剤について述べる。
1)界面活性剤
本発明の親水性部材の親水性層形成用塗布液には、界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。なお、前記界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0106】
2)紫外線吸収剤
本発明においては、親水性部材の耐候性向上、耐久性向上の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤、などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、固形分換算で0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0107】
3)酸化防止剤
本発明の親水性部材の安定性向上のため、親水性層形成用塗布液に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0108】
4)溶剤
本発明の親水性部材の親水性層形成時に、基板に対する均一な塗膜の形成性を確保するために、親水性層形成用塗布液に適度に有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、VOC(揮発性有機溶剤)の関連から問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量は親水性部材形成時の塗布液全体に対し0〜50質量%が好ましく、より好ましくは0〜30質量%の範囲である。
【0109】
5)高分子化合物
本発明の親水性部材の親水性層形成用塗布液には、親水性層の膜物性を調整するため、親水性を阻害しない範囲で各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0110】
この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、基板への密着性を改善するために、親水性を阻害しない範囲でタッキファイヤーなどを含有させることができる。
タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6pに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0111】
〔基材〕
本発明に用いられる基材は、特に限定されないが、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、皮革、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。特に好ましい基材は、ガラス基板またはでプラスチック基板である。
ガラス基板としては、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスなどの何れのガラスを使用しても良い。また目的に応じ、フロート板ガラス、型板ガラス、スリ板ガラス、網入ガラス、線入ガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、真空ガラス、防犯ガラス、高断熱Low−E複層ガラスを使用することができる。また素板ガラスのまま、前記親水層を塗設できるが、必要に応じ、親水層の密着性を向上させる目的で、片面又は両面に、酸化法や粗面化法等により表面親水化処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。粗面化法としては、サンドブラスト、ブラシ研磨等により機械的に粗面化することもできる。
【0112】
本発明に用いられるプラスチック基板としては、特に制限はないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、アクリル、ナイロン、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン等のフィルムもしくはシートを挙げることができる。その中でも特にポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステフィルムが好ましい。なお、光学的には、透明性に優れている方が好ましい場合が多いが、用途によっては半透明、あるいは、印刷されたものも用いられる。プラスチック基板の厚みは、積層する相手によってさまざまである。例えば曲面の多い部分では、薄いものが好まれ、6〜50μm程度のものが用いられる。また平面に用いられ、あるいは、強度を要求されるところでは50〜400μmが用いられる。
【0113】
基材と下塗層の密着性を向上させる目的で、所望により基材の片面又は両面に、酸化法や粗面化法等により表面親水化処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。粗面化法としては、サンドブラスト、ブラシ研磨等により機械的に粗面化することもできる。
【0114】
〔親水性部材使用時の層構成〕
本発明の親水性部材を、防汚性及び/または防曇性効果の発現を期待して使用する場合、その目的、形態、使用場所に応じ、適宜別の層を付加して使用することができる。以下に必要に応じ付加される層構成について述べる。
1)接着層
本発明の親水性部材を、別の基材上に貼り付けて使用する場合、基材の裏面に、接着層として、感圧接着剤である粘着剤が好ましく用いられる。粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエーテル系、スチレン系粘着剤などの一般的に粘着シートに用いられるものが使用できる。
光学的に透明なものが必要な場合は光学用途向けの粘着剤が選ばれる。着色、半透明、マット調などの模様が必要な場合は、基材における模様付けのほかに粘着剤に、染料、有機や無機の微粒子を添加して効果を出すことも行うことができる。
粘着付与剤が必要な場合、樹脂、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂、スチレン系樹脂およびこれらの水素添加物などの接着付与樹脂を1種類または混合して用いることができる。
本発明で用いられる粘着剤の粘着力は一般に言われる強粘着であり、200g/25mm以上、好ましくは300g/25mm以上、さらに好ましくは400g/25mm以上である。なお、ここでいう粘着力はJIS Z 0237 に準拠し、180度剥離試験に
よって測定した値である。
【0115】
2)離型層
本発明の親水性部材が前記の接着層を有する場合には、さらに離型層を付加することができる。離型層には、離型性をもたせるために、離型剤を含有させることが好ましい。離型剤しては、一般的に、ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン系離型剤、フッ素系化合物、ポリビニルアルコールの長鎖アルキル変性物、ポリエチレンイミンの長鎖アルキル変性物等が用いることができる。また、ホットメルト型離型剤、ラジカル重合、カチオン重合、重縮合反応等により離型性モノマーを硬化させるモノマー型離型剤などの各種の離型剤や、この他、アクリル−シリコーン系共重合樹脂、アクリル−フッ素系共重合樹脂、及びウレタン−シリコーン−フッ素系共重合樹脂などの共重合系樹脂、並びに、シリコーン系樹脂とアクリル系樹脂との樹脂ブレンド、フッ素系樹脂とアクリル系樹脂との樹脂ブレンドが用いられる。また、フッ素原子及び/又はケイ素原子のいずれかの原子と、活性エネルギー線重合性基含有化合物を含む硬化性組成物を、硬化して得られるハードコート離型層としてもよい。
【0116】
3)その他の層
親水性層の上に、保護層を設けてもよい。保護層は、ハンドリング時や輸送時、保管時などの親水性表面の傷つきや、汚れ物質の付着による親水性の低下を防止する機能を有する。保護層としては、上記離型層に用いた親水性ポリマー層を使用することができる。保護層は、親水性部材を適切な基材へ貼り付けた後には剥がされる。
【0117】
〔構造体の形態〕
本発明の親水層を有する構造体は、シート状、ロール状あるいはリボン状の形態で供給されてもよく、適切な基材に貼り付けるために、あらかじめカットされたもとして供給することもできる。
【0118】
〔表面自由エネルギー〕
親水性層表面の親水性度は、汎用的に、水滴接触角で測定される。しかし、本発明のような非常に親水性の高い表面においては、水滴接触角が10°以下、さらには5°以下になることがあり、親水性度の相互比較を行うには、限界がある。一方、固体表面の親水性度をより詳細に評価する方法として、表面自由エネルギーの測定がある。種々の方法が提案されているが、本発明では、一例として、Zismanプロット法を用いて表面自由エネルギーを測定した。具体的には、塩化マグネシウムなどの無機電解質の水溶液が濃度とともに表面張力が大きくなる性質を利用し、その水溶液を用いて空中、室温条件で接触角を測定した後、横軸にその水溶液の表面張力、縦軸に接触角をcosθに換算した値をとり、種々の濃度の水溶液の点をプロットして直線関係を得、cosθ=1すなわち、接触角=0°になるときの表面張力を、固体の表面自由エネルギーと定義する測定方法である。水の表面張力は72mN/mであり、表面自由エネルギーの値が大きいほど親水性が高いといえる。
このような方法で測定した表面自由エネルギーが、70mN/m〜95mN/m、好ましくは72mN/m〜93mN/m、さらに好ましくは75mN/m〜90mN/mの範囲にある親水層が、親水性に優れ、良好な性能を示す。
【0119】
本発明の親水性被膜を塗設した親水性部材は、窓ガラス等に適用(使用、貼り付け)する場合、視界確保の観点から透明性が重要である。本発明の親水性被膜は、透明性に優れ、膜厚が厚くても透明度が損なわれず、耐久性との両立が可能である。本発明の親水性被膜の厚さは、0.01μm〜100μmが好ましく、0.05μm〜50μmがさらに好ましく、0.1μm〜20μmが最も好ましい。膜厚が0.01μm以上の場合は、十分な親水性、耐久性が得ら好ましく、膜厚が100μm以下の場合は、クラックが入るなど製膜性に問題を来たすことがなく、好ましい。
透明性は、分光光度計で可視光領域(400nm〜800nm)の光透過率を測定し評価する。光透過率が100%〜70%が好ましく、95%〜75%がより好ましく、95%〜80%の範囲にあることが最も好ましい。この範囲にあることによって、視界をさえぎることなく、親水性被膜を塗設した親水性部材を各種用途に適用することができる。
【0120】
本発明の親水性部材は、親水性層形成用塗布液組成物を、前述の下塗層上に塗布し、加熱、乾燥して表面親水性層を形成することで得ることができる。親水性層形成のための加熱温度と加熱時間は、ゾル液中の溶媒が除去され、強固な皮膜が形成できる温度と時間であれば特に制限はないが、製造適性などの点から加熱温度は150℃以下であることが好ましく、加熱時間は1時間以内が好ましい。
本発明の親水性部材における親水性層は、公知の塗布方法で作成することが可能であり、特に限定がなく、例えばスプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、フィルムアプリケーター法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が適用できる。
【0121】
本発明の親水性部材が適用可能なものとしては、例えば、防曇効果を期待する場合には透明なものであり、透明なガラス基板または透明なプラスチック基板、レンズ、プリズム、鏡等である。
ガラスとしては、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスなどの何れのガラスを使用しても良い。また目的に応じ、フロート板ガラス、型板ガラス、スリ板ガラス、網入ガラス、線入ガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、真空ガラス、防犯ガラス、高断熱Low−E複層ガラスを使用することができる。
防曇効果を有する部材が適用可能な用途としては、車両用バックミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズのようなレンズ;プリズム;建物や監視塔の窓ガラス;その他建材用ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、種々の乗物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、種々の乗物の風防ガラス;防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスクのシールド、スポーツ用マスクのシールド、ヘルメットのシールド、冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。最も好ましい用途は、自動車用及び建材用のガラスである。
【0122】
また、本発明の表面親水性部材に防汚効果を期待する場合には、その基材は、例えば、ガラス、プラスチック以外にも、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。
防汚効果を有する部材が適用可能な用途としては、建材、外壁や屋根のような建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、自動車、鉄道車両、航空機、船舶、自転車、オートバイのような乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用防音壁、鉄道用防音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムを含む。
看板、交通標識、防音壁、ビニールハウス、碍子、乗物用カバー、テント材、反射板、雨戸、網戸、太陽電池用カバー、太陽熱温水器等の集熱器用カバー、街灯、舗道、屋外照明、人工滝・人工噴水用石材・タイル、橋、温室、外壁材、壁間や硝子間のシーラー、ガードレール、ベランダ、自動販売機、エアコン室外機、屋外ベンチ、各種表示装置、シャッター、料金所、料金ボックス、屋根樋、車両用ランプ保護カバー、防塵カバー及び塗装、機械装置や物品の塗装、広告塔の外装及び塗装、構造部材、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、台所用品、食器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、窓レール、窓枠、トンネル内壁、トンネル内照明、窓サッシ、熱交換器用放熱フィン、舗道、浴室用洗面所用鏡、ビニールハウス天井、洗面化粧台、自動車ボディ、及びそれら物品に貼着可能なフィルム、ワッペン等を含む。
雪国用屋根材、アンテナ、送電線等への適用も可能であり、その際は、着雪防止性にも優れた特性が得られる。
【実施例】
【0123】
以下本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
最も一般的な透明の板ガラスであるフロート板ガラス(厚み2mm、SiO2濃度70wt%)を準備し、該板ガラスの表面を10分間UV/O3処理により親水化した後、下記組成の第1層塗布液をスピンコート塗布し、100℃、10分でオーブン乾燥して、乾燥塗布量1.0g/m2の第1層を形成した。室温で十分冷却した後、第1層塗布面に下記組成の第2層塗布液をスピンコート塗布し、100℃、10分でオーブン乾燥して乾燥塗布量1.0g/mの第2層を形成した。この親水性部材の表面自由エネルギーは、87mN/mで、非常に親水性の高い表面であった。親水性層の可視光透過率は、90%であった(日立分光光度計U3000で測定)。
第1層のSi−OH/Siは0.80であった。(ION−TOF社製TOF−SIMSで測定)
第1層のRaは1.6であった。(SII-NT社製SPA400を使用し、探針にはSII-NT社製 SI-DF20を用い、DFMモードで走査速度1〜2 Hz、触圧10〜20%で測定した。)
【0124】
<第1層塗布液>
・コロイダルシリカ分散物20質量%水溶液(スノーテックスC) 100g
・下記ゾルゲル調製液(1) 500g
・下記アニオン系界面活性剤の5質量%水溶液 30g
・精製水 450g
<第2層塗布液>
・コロイダルシリカ分散物20質量%水溶液(スノーテックスC) 100g
・下記ゾルゲル調製液(2) 500g
・下記アニオン系界面活性剤の5質量%水溶液 30g
・精製水 450g
【0125】
【化22】

【0126】
<ゾルゲル調製液(1)>
エチルアルコール200g、アセチルアセトン10g、オルトチタン酸テトラエチル10g、精製水100g中に、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)8gを混合し、室温で2時間撹拌して、調製した。
<ゾルゲル調製液(2)>
エチルアルコール200g、アセチルアセトン10g、オルトチタン酸テトラエチル10g、精製水100g中に、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)8gと下記の末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマー5gを混合し、室温で2時間撹拌して、調製した。
【0127】
<末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーの合成>
三口フラスコにアクリルアミド25g、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.5g、ジメチルホルムアミド51.3gを入れて窒素気流下、65℃まで加熱し、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.25g添加し、反応を開始した。6時間攪拌した後、室温まで戻して酢酸エチル1.5L中に投入したところ固体が析出した。その後、濾過を行い、充分酢酸エチルで洗浄し、乾燥を行った(収量21g)。GPC(ポリスチレン標準)により、4000の質量平均分子量を有するポリマーであることを確認した。5%水溶液粘度は2.5cPs、親水性基の官能基密度は、13.4meq/gであった。
【0128】
(評価)上記親水性部材について、以下の評価を行った。
親水性:空中水滴接触角の測定(協和界面科学株式会社製DropMaster500で測定)した。
耐久性 磨耗試験:不織布(BEMCOT、旭化学繊維社製)に100g、200g、500g、1000gと加重かけて200回こすり、傷付きが発生した加重を評価した。加重が大きくても傷つきがないほうが耐久性が良好である。
引っかき試験:0.1mm径サファイア針に5gから始めて5gきざみに加重かけて親水層表面を走査し、傷つきが発生した加重を評価(新東科学株式会社製引っかき強度試験機Type18Sで測定)した。加重が大きくても傷つきがないほうが耐久性が良好である。
【0129】
その結果、水滴接触角は、5°以下で非常に親水性が高かった。磨耗試験では200gまで傷付きがなく、また引っかき試験では、100gまで傷付きがなく、耐久性に優れていた。
【0130】
実施例2
第1層塗布液の乾燥温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は200gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、150gまで傷付きがなかった。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.88、Raは1.6nmであった。
【0131】
実施例3
第1層塗布液のゾルゲル液の触媒を1N硝酸水溶液(硝酸触媒)1.5gに変更し、乾燥温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、磨耗試験は100gまで傷付かなかった。引っ掻き試験においては、加重80gで傷が付いた。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.76、Raは1.5nmであった。
【0132】
実施例4
第1層塗布液のスノーテックスCを除いた以外は実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、70gまで傷付かなかった。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.75、Raは0.9nmであった。
【0133】
実施例5
第1層塗布液のスノーテックスCをスノーテックスOXS(粒径:4〜6nm)に変更した以外は実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、90gまで傷付かなかった。
下塗層のSi−OH/Siは0.78、Raは1.2nmであった。
【0134】
実施例6
第1層塗布液のスノーテックスCをスノーテックスXL(粒径:40〜60nm)に変更した以外は実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は200gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、130gまで傷付かなかった。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.84、Raは3.4nmであった。
【0135】
実施例7
第1層塗布液のスノーテックスCをスノーテックスYL(粒径:50〜80nm)に変更した以外は実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は200gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、180gまで傷付かなかった。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.90、Raは10.3nmであった。
【0136】
実施例8
第1層を塗布・乾燥した後、プラズマエッチング処理を30秒間行った以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は200gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、220gまで傷付かなかった。
なお、プラズマエッチング後の下塗層のSi−OH/Siは0.91、Raは21.2nmであった。
【0137】
実施例9
第1層を塗布・乾燥した後、塗布基板を洗浄液中(フルウチ化学(株)セミコクリーン56)で30秒間超音波処理を行った以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は200gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、120gまで傷付かなかった。
なお、洗浄後の下塗層のSi−OH/Siは0.82、Raは0.7nmであった。
【0138】
実施例10
末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーに変えて、側鎖にシランカップリング基を有する親水性ポリマーを用いた以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。
<側鎖にシランカップリング基を有する親水性ポリマーの合成>
500ml三口フラスコにアクリルアミド12.9g、アクリルアミド−3−(エトキシシリル)プロピル11.6g、及び1−メトキシ−2−プロパノール280gを入れ、80℃窒素気流下、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル1.8gを加えた。6時間攪拌しながら同温度に保った後、室温まで冷却した。アセトン2リットル中に投入し、析出した固体をろ取した。得られた固体をアセトンにて洗浄後、親水性ポリマー(2)を得た。乾燥後の質量は22.7gであった。GPC(ポリエチレンオキシド標準)により質量平均分子量15000のポリマーであった。
【0139】
実施例11
末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーに変えて、側鎖にシランカップリング基を有する親水性ポリマーを用いた以外は実施例7と同様に親水性層を作成した。
なお、実施例1〜11の親水性部材の評価結果を纏めて下記表に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
比較例1
第1層塗布液を塗布せずに、第2層塗布液のみを塗布して実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gでも傷付いた。引っ掻き試験は20gで傷付き、耐久性が十分ではなかった。なお、ガラス基板のSi−OH/Siは0.26、Raは0.7nmであった。
【0142】
比較例2
第1層塗布液を塗布せずに、基材にプラズマエッチング処理を30秒行った以外は実施例1と同様に親水性膜を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gでも傷付いた。引っ掻き試験は40gで傷付き、耐久性が十分ではなかった。
なお、プラズマエッチング後のガラス基板のSi−OH/Siは0.31、Raは19.5nmであった。
【0143】
比較例3
第1層塗布液を塗布した後、1000℃で加熱、更にプラズマエッチング処理を30秒間行った以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、30gまで傷付かなかった。
なお、プラズマエッチング後の下塗層のSi−OH/Siは0.35、Raは18.2nmであった。
【0144】
比較例4
第1層塗布液のゾルゲル液の触媒を1N硝酸水溶液(硝酸触媒)1.5gに変更し、乾燥温度を500℃に変更した以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、磨耗試験は100gまで傷付かなかった。引っ掻き試験においては、加重30gで傷が付いた。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.33、Raは1.6nmであった。
【0145】
比較例5
第1層塗布液の乾燥温度を1000℃に変更した以外は実施例1と同様に親水性層を作成した。得られた親水性部材は、水滴接触角5°以下で親水性が高かった。磨耗試験は100gまで傷付きがなく、また引っ掻き試験では、30gまで傷付かなかった。
なお、下塗層のSi−OH/Siは0.36、Raは1.5nmであった。
【0146】
なお、比較例1〜5の親水性部材の評価結果を纏めて下記表に示す。
【0147】
【表2】

【0148】
以上の結果より、基材と親水性層の間に一般式(1)で表される部分構造を含有しその表面のM−OH/Mの値が1〜0.4である下塗層を有する、本発明の親水性部材は、親水性層の耐久性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有する下塗層と親水性層とを少なくともこの順に有し、前記下塗層表面のM−OH/Mの値が1〜0.4であることを特徴とする親水性部材。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
【請求項2】
前記基材表面におけるM−OH/Mの値が、前記下塗層表面のM−OH/Mの値より小さいことを特徴とする請求項1に記載の親水性部材。
【請求項3】
前記下塗層が、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の親水性部材。
【請求項4】
前記加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることを特徴とする請求項3に記載の親水性部材。
【請求項5】
前記下塗層の表面粗さ(Ra)が1.0〜50nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の親水性部材。
【請求項6】
前記下塗層が、プラズマエッチング処理、或いは粒子が混入されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の親水性部材。
【請求項7】
前記親水性層が、a)親水性ポリマー、b)Si、Ti,Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物、c)前記b)の金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合し、前記a)の親水性ポリマーとの結合を生起する触媒を含有する組成物を、加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の親水性部材。
【請求項8】
前記基材がSi−OH構造を含有するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の親水性部材。
【請求項9】
基材上に、下記一般式(1)で表される部分構造を含有する下塗層を有し、前記下塗層表面のM−OH/Mの値が1〜0.4であることを特徴とする親水性部材用基板。
M−OH 一般式(1)
(式中、MはSi、Ti、ZrまたはAlを表す。)
【請求項10】
前記基材表面におけるM−OH/Mの値が、前記下塗層表面のM−OH/Mの値より小さいことを特徴とする請求項9に記載の親水性部材用基板。
【請求項11】
前記下塗層が、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を加水分解、重縮合させたものであることを特徴とする請求項9又は10に記載の親水性部材用基板。
【請求項12】
前記加水分解、重縮合が30〜200℃でなされたものであることを特徴とする請求項11に記載の親水性部材用基板。
【請求項13】
前記下塗層の表面粗さ(Ra)が1.0〜50nmであることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の親水性部材用基板。
【請求項14】
前記下塗層が、プラズマエッチング処理、或いは粒子が混入されていることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の親水性部材用基板。
【請求項15】
前記基材がSi−OH構造を含有するものであることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の親水性部材用基板。
【請求項16】
基材上に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を少なくとも含有する組成物を塗布し30〜200℃で加熱、乾燥することにより下塗層を塗設し、次いで、該下塗層上に親水性層を設けることを特徴とする親水性部材の製造方法。
【請求項17】
前記組成物が触媒を含有することを特徴とする請求項16記載の親水性部材の製造方法。
【請求項18】
基材上に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を少なくとも含有する組成物を塗布し30〜200℃で加熱、乾燥することにより下塗層を塗設することを特徴とする親水性部材用基板の製造方法。
【請求項19】
前記組成物が触媒を含有することを特徴とする請求項18記載の親水性部材用基板の製造方法。

【公開番号】特開2008−132474(P2008−132474A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242318(P2007−242318)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】