説明

解析方法、解析装置、解析プログラム

【課題】数値計算する空間における、詳細解と均一解との差を解析する解析方法を提供する。
【解決手段】コンピュータが実行する解析方法であって、任意の空間の第1物理量α及び第2物理量βから当該空間の第3物理量を求める数理モデルに基づく、N個の領域に分けられた空間全体における第3物理量を求める、詳細解と、均一解との差分を算出するステップと、前記差分を、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量の差と、第i領域の第2物理量及び第j領域の第2物理量の差との積の項に分解するステップと、前記分解された差分に含まれる項のうち、第i領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値を、領域毎に算出するステップと、前記N個の領域のうち、前記指標値が最も大きい領域を抽出するステップとを、実行する解析方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値計算の解析方法、解析装置、解析プログラムに関する。本方法、装置、プログラムは、例えば、原子炉の熱流動解析、自動車の走行解析、航空機の飛行解析、DNA解析、気象解析、電磁場解析、空調解析等、分野を問わず汎用的に使用されうる。
【背景技術】
【0002】
ある空間の物理現象を説明する数理モデルの数値計算は、コンピュータの性能向上に伴い、均一モデルによる計算から、詳細モデルによる計算へと、発展してきた。詳細モデルは、均一モデルに比べ、現実により近い結果を得られるが、所望の解析結果を得るまで多くの時間を要する。よって、所望の解析結果を得るまでの計算時間を考慮すると、現在も均一モデルは十分に利便性がある。
【0003】
ここで、「均一モデル」は、物理現象を説明するために使用される変数が、説明する空間全体で、均一の値(1つの値)を有するとするモデルである。また、「詳細モデル」は、物理現象を説明するために使用される変数が、説明する空間全体を複数に分けたそれぞれの領域で、それぞれの値を有するとするモデルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−50027号公報
【特許文献2】特開2000−112516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
数理モデルの数値計算において、「均一モデル」から「詳細モデル」へ徐々に変更した場合、変更前後の数値のみの比較では、計算結果が改善されても、何が影響して結果が変化したのか不明である。よって、効率よく計算結果を改善させるために、モデルをどのように変更すればよいのか分からない。従って、均一モデルによる均一解と詳細モデルによる詳細解との差を解析することが求められる。
【0006】
本発明は、数値計算する空間における、詳細解と均一解との差を解析する解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
【0008】
即ち、本発明の1つの態様は、
コンピュータが実行する解析方法であって、
任意の空間の第1物理量α及び第2物理量βから当該空間の第3物理量を求める数理モデルModel(α,β)に基づく、N個の領域に分けられた空間全体における第3物理量を求める、詳細解
【0009】
【数1】

【0010】
と、均一解Model(αs(α1,...,αi,...,αN),βs(β1,...,βi
,...,βN))との差分を算出するステップと、
前記差分を、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量の差と、第i領域の第2物理量及び第j領域の第2物理量の差との積の項に分解するステップと、
前記分解された差分に含まれる項のうち、第i(1≦i≦N)領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値f(i)を、領域毎に算出するステップと、
前記N個の領域のうち、前記指標値f(i)が最も大きい領域を抽出するステップとを、実行し、
第i領域における第1物理量がαiであり、第i領域における第2物理量がβiであり、前記空間全体における第1物理量の均一量がαiの関数であるαs(α1,...,αi,...,αN)であり、前記空間全体における第2物理量の均一量がβiの関数であるβs(β1,...,βi,...,βN)である解析方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、数値計算する空間における、詳細解と均一解との差を解析する解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、解析装置の例を示す図である。
【図2】図2は、格納部に格納される位置情報と物理量との対応テーブルの例を示す図である。
【図3】図3は、情報処理装置の例を示す図である。
【図4】図4は、解析装置100の動作フローの例(1)を示す図である。
【図5】図5は、解析装置100の動作フローの例(2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、開示の実施形態の構成に限定されない。
【0014】
〔実施形態〕
(機能概要)
本実施形態の解析装置は、複数の領域に分割されている所定の空間全体の複数種類の物理量から1つの物理量を算出する数理モデルにおける、詳細解と均一解との差分を算出する。詳細解は、当該数理モデルを、詳細モデルで計算したときの解である。均一解は、当該数理モデルを、均一モデルで計算した時の解である。また、当該解析装置は、領域毎に、当該差分における各領域の影響に関する指標値を算出する。当該指標値は、どの領域が当該差分に影響を与えているかを示す。当該解析装置は、差分に影響を与えている領域を操作することにより、詳細解と均一解との差分を、任意の所定の大きさの値にする。
【0015】
(構成例)
図1は、解析装置の例を示す図である。解析装置100は、演算部102、メモリ104、格納部112を有する。
【0016】
演算部102は、格納部112に格納されるデータ等を使用して、差分ε、指標値f(i)等を算出する。演算部の動作については、後述の動作例において、詳しく説明する。
【0017】
メモリ104は、演算部102で使用されるデータ、プログラム等を記憶する。メモリ104には、演算部102が使用するプログラムが展開される。
【0018】
格納部112は、解析で使用するデータ等を格納する。格納部112には、例えば、解析を行う空間における、温度、体積、圧力、分子数、反応度等の各物理量が、領域や位置情報の関数(分布関数)として、格納される。格納部112には、領域や位置情報と各物理量とが対応付けられた対応テーブルが格納されてもよい。格納部112に格納される各物理量は、所定の法則に基づく理論値であっても、実測に基づく実験値であってもよい。各物理量は、空間の位置等に依存しない定数であってもよい。
【0019】
また、格納部112は、解析を行う空間の情報を格納する。空間及び空間を分割する領域は、例えば、位置情報によって定義される。空間の情報には、例えば、空間の位置情報、空間を分割する領域の位置情報、領域を代表する点の位置情報、領域の体積の値、領域の境界の位置情報などが含まれる。
【0020】
領域は、例えば、1次元空間では、座標軸上の区間で定義されうる。また、領域は、2次元空間では、1又は複数の直線又は曲線を境界とする面の要素で定義されうる。領域は、3次元空間では、1又は複数の平面又は曲面を境界とする体積の要素で定義されうる。領域は、4次元以上の空間でも同様に定義されうる。
【0021】
さらに、格納部112は、複数の物理量から1つの物理量を算出する数理モデルを格納する。数理モデルは、所定の物理量を算出するための他の物理量の関数、又は、物理量と物理量の関係を示す方程式、連立方程式等である。数理モデルにより、1または複数の物理量から所定の物理量が算出される。数理モデルは、格納部112に、例えば、複数の物理量の関数、複数の物理量間の関係を示す連立方程式の係数行列、複数の物理量間の時間微分値(速度、加速度など)や空間の微分値等の関係を示す連立方程式の係数行列、1つの物理量を他の1以上の物理量の一次式、多項式で表した時の係数等として格納される。また、数理モデルは、格納部112に、複数の物理量間の関係を示す微分方程式または偏微分方程式として格納され、当該微分方程式等をフーリエ変換、ウェーブレット変換、ラプラス変換等をすることにより代数方程式に変換されてもよい。当該関数等に所定の物理量を代入することにより、求める物理量が得られる。以下の説明では、主として、関数に所定の物理量を代入することにより、所望の物理量が得られる例を挙げているが、ここに挙げた方程式等によっても、同様に、所望の物理量が得られる。
【0022】
格納部112は、所定値ε0を格納する。所定値ε0は、差分εが所望の値であるか否かの判定基準となる値である。所定値ε0は、ユーザ等によって与えられてもよい。
【0023】
図2は、格納部に格納される位置情報と物理量との対応テーブルの例を示す図である。図2の対応テーブルでは、位置情報と物理量とが対応付けられている。演算部102等が、位置情報を指定することにより、物理量を取得することができる。1つの位置情報に対して、複数種類の物理量が対応付けられてもよい。物理量の種類に限定はない。例えば、密度、比熱、粘性、温度、湿度、応力、移動速度、加速度、電気抵抗、電圧、電流、電界強度、磁束、密度、圧力、原子炉の反応度、周波数、電荷量、電気容量、ひずみ量、起電力などが、挙げられる。
【0024】
解析装置100は、パーソナルコンピュータ(PC、Personal Computer)、PDA(Personal Digital Assistant)のような汎用のコンピュータまたはワークステーション(
WS、Work Station)、サーバマシンのような専用のコンピュータを使用して実現可能である。また、解析装置100は、コンピュータを搭載した電子機器を使用して実現可能である。また、解析装置100は、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション装置のような専用または汎用のコンピュータ、あるいは、コンピュータを搭載した電子機器を使用して実現可能である。
【0025】
図3は、情報処理装置の例を示す図である。コンピュータ、すなわち、情報処理装置は、プロセッサ、主記憶装置、及び、二次記憶装置や、通信インタフェース装置のような周辺装置とのインタフェース装置を含む。主記憶装置及び二次記憶装置は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0026】
コンピュータは、プロセッサが記録媒体に記憶されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて周辺機器が制御されることによって、所定の目的に合致した機能を実現することができる。
【0027】
プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Data Signal Processor)である。主記憶装置は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。
【0028】
二次記憶装置は、例えば、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディス
クドライブ(HDD、Hard Disk Drive)である。また、二次記憶装置は、リムーバブル
メディア、即ち可搬記録媒体を含むことができる。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、あるいは、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Versatile Disk)のようなディスク記録媒体である。
【0029】
通信インタフェース(I/F)装置は、例えば、LAN(Local Area Network)インタフェースボードや、無線通信のための無線通信回路である。
【0030】
周辺装置は、上記の二次記憶装置や通信インタフェース装置の他、キーボードやポインティングデバイスのような入力装置や、ディスプレイ装置やプリンタのような出力装置を含む。また、入力装置は、カメラのような映像や画像の入力装置や、マイクロフォンのような音声の入力装置を含むことができる。また、出力装置は、スピーカのような音声の出力装置を含むことができる。
【0031】
解析装置100を実現するコンピュータは、プロセッサが二次記憶装置に記憶されているプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、演算部102としての機能を実現する。一方、メモリ104、格納部112は、主記憶装置または二次記憶装置の記憶領域に設けられる。
【0032】
一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるが、ソフトウェアにより実行させることもできる。
【0033】
プログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくても、並列的または個別に実行される処理を含む。
【0034】
(動作例)
図4及び図5は、解析装置100の動作フローの例を示す図である。図4の「A」、及び、「B」は、それぞれ、図5の「A」、及び、「B」と接続する。
【0035】
ここでは、数理モデルにおける詳細解と均一解との差分εを所定値ε0以上にする場合について説明する。
【0036】
解析装置100の演算部102は、ユーザ等から、求める物理量、当該物理量を求める範囲(例えば、所定の空間)、使用する数理モデル、その他の初期条件等を指定される(
S101)。ユーザ等は、解析装置100に接続される入力装置や、解析装置100の通信インタフェース装置を介して接続される他の情報処理装置等から、これらを指定できる。ここで、所定値ε0が指定されてもよい。
【0037】
演算部102は、指定された数理モデルを、格納部112から取得する。また、演算部102は、指定された数理モデルから、計算に使用される物理量を抽出する(S102)。ここでは、抽出された物理量を、第1物理量、第2物理量とする。抽出される物理量は、ここでは2つとしたが、2つに限定されるものではない。求める物理量は、数理モデルにより、第1物理量、及び、第2物理量の関数として表される。
【0038】
演算部102は、求める物理量を計算する範囲(計算する空間、計算対象の空間)を、所定の数(ここでは、N個とする)の領域に分割する。また、計算する空間は、あらかじめ、N個の領域に分割されていてもよい。計算する空間のN個の領域は、ユーザ等により、あらかじめ指定されてもよい。
【0039】
演算部102は、計算する空間内のすべての領域の第1物理量、第2物理量を、格納部112から取得する。演算部102は、第i領域の位置情報等を用いて,格納部112に格納される、物理量の分布関数、位置情報と物理量との対応テーブルなどから、第1物理量及び第2物理量を取得する。物理量とは、物理量の値を指すが、物理量の種類を指すこともある。
【0040】
演算部102は、取得した数理モデル、及び、物理量等を使用して、詳細解と均一解との差分εを算出する(S103)。詳細解は、数理モデルを領域ごとの各物理量を使用して領域ごとに計算し、これらの計算結果を足し合わせて空間全体の物理量を得る詳細モデルの解である。均一解は、計算に使用する各物理量(変数)が空間全体で均一の値を有するとして、数理モデルを適用して空間全体の物理量を得る均一モデルの解である。
【0041】
差分εは、次のように表される。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、右辺第1項は詳細解であり、右辺第2項は均一解である。Model(α,β)は、ある空間の第1物理量α及び第2物理量βから当該空間の物理量を求める数理モデルを表す。αi、βiは、それぞれ、第i領域における第1物理量、第2物理量を示す。また、αs(α1,...,αi,...,αN)は、計算対象の空間全体における第1物理量の均一量である。βs(β1,...,βi,...,βN)は、計算対象の空間全体における第2物理量の均一量である。
【0044】
演算部102は、ステップS103で算出した差分εが、所定値ε0以上であるか否かを判定する(S104)。差分εが所定値ε0以上である場合(S104;YES)、演算部102は、計算結果(例えば、差分ε、詳細解、均一解)を出力装置等に出力して処理を終了する。このとき、計算結果は、ユーザが所望する結果になっている。
【0045】
差分εが所定値ε0未満である場合(S104;NO)、計算結果が、ユーザが所望する結果になっていない。演算部102は、ステップS105以降の処理により、再度、計算を行ない、ユーザが所望する計算結果となるようにする。
【0046】
演算部102は、差分εを、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量αi及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量αjの差と、第i領域の第2物理量βi及び第j領域の第2物理量βjの差との積の項に解析的に分解する(S105)。分解された差分εは次のように表される。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、Cijは、第i領域及び第j領域で決まる係数である。各領域に差がない場合、Cijは、領域に依存せず、一定となる。
【0049】
仮に、第1物理量αが示量変数であり、第2物理量βが示強変数であり、これらの物理量を使用してある物理量を算出する数理モデルが「α×β」である場合、詳細解、及び、均一解は、次のように表される。
【0050】
【数4】

【0051】
【数5】

【0052】
また、このとき、差分εは、次のように表される。
【0053】
【数6】

【0054】
さらに、Nが無限大のときは次のような積分形で表すこともできる。
【0055】
【数7】

【0056】
演算部102は、ステップS105で分解された差分εに含まれる項のうち、第i(1≦i≦N)領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値f(i)を算出する(S106)。演算部102は、N個の領域すべてにおいて、指標値f(i)を算出する。指標値f(i)は、差分εのうち第i領域に関連する項のみを抽出し、足し合わせた値である。指標値f(i)は、次のように表される。
【0057】
【数8】

【0058】
指標値f(i)は、どの領域が差分εに影響を与えているかを示す指標値である。指標値が大きい領域は、差分εに大きな影響を与えている。差分εから指標値f(i)を引いた値は、差分εから第i領域に関連しない項のみを抽出し足し合わせた値となる。
【0059】
また、指標値f(i)は、次のようにしてもよい。
【0060】
【数9】

【0061】
ここでは、第i領域と第j領域との間の距離Rijで重み付けをしている。第i領域と
第j領域との距離が近いほど、差分εに与える影響が大きい場合はこのようにできる。また、距離ではなく、第i領域と第j領域とに関する他の値で重み付けをしてもよい。適切な重み付けをすることで、差分εに、より大きな影響を与える領域の指標値f(i)を相対的に大きくすることができる。
【0062】
演算部102は、ステップS106で算出された、領域ごとの指標値f(i)が、最も大きい領域を抽出する(図5:S107)。この抽出された領域を、第X領域とする。指標値が最も大きい領域は、差分εに最も大きな影響を与えているとみなされる。従って、指標値が最も大きい領域を小領域に分割して、再計算すれば、差分εが大きく変化する可能性が高い。ここで、演算部102は、指標値f(i)の絶対値が最も大きい領域を抽出してもよい。
【0063】
演算部102は、ステップS107で抽出された第X領域を、複数の小領域に分割する(S108)。計算対象の空間を分割した領域(第X領域等)が位置情報で定義されている場合、当該小領域は、同様に位置情報で定義される。
【0064】
第X領域がすでに複数の小領域に分割されている場合、演算部102は、第X領域を更に大きな数の複数の小領域に分割する。また、更に大きな数の複数の小領域に分割する代わりに、指標値f(i)が2番目に大きい領域を、複数の小領域に分割してもよい。指標値f(i)が2番目に大きい領域もすでに分割されている場合は、同様に、指標値f(i)が3番目以降に大きい領域について、複数の領域に分割してもよい。また、小領域に分割した後の差分εが小領域に分割する前の差分εよりも小さい場合、ステップS111で使用する第X領域の第1物理量及び第2物理量を分割前の値としてもよい。ここでは、差分εを大きくしたいのであるから、第X領域を小領域に分割したことによって、差分εが所望の値から離れている場合は第X領域の物理量として新たな値を使用しないようにできる。
【0065】
演算部102は、ステップS108で得られた小領域について、第1物理量、第2物理量を、格納部112から取得する(S109)。演算部102は、小領域の位置情報等を用いて、格納部112に格納される、物理量の分布関数、位置情報と物理量との対応テーブルなどから、第1物理量及び第2物理量を取得する。
【0066】
演算部102は、ステップS109で取得した第1物理量、第2物理量に基づいて、第X領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出する(S110)。これらの均一量は、均一モデルによって、算出される。
【0067】
演算部102は、ステップS110で算出した第X領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、第X領域における第1物理量及び第2物理量として、差分ε及びすべての領域の指標値f(i)を算出する(S111)。演算部102は、ステップS103やステップS106で算出したのと同様に、差分ε及びすべての領域の指標値f(i)を算出する。ここで、第X領域以外の領域の物理量として、先に使用した値が使用される。
【0068】
演算部102は、ステップS111で算出した差分εが、所定値ε0以上であるか否かを判定する(S112)。差分εが所定値ε0以上である場合(S112;YES)、演算部102は、計算結果(例えば、差分ε、詳細解、均一解)を出力装置等に出力して処理を終了する。このとき、計算結果は、ユーザが所望する結果になっている。詳細解と均一解との差分εが所定値ε0以上になっている。
【0069】
差分εが所定値ε0未満である場合(S112;NO)、計算結果が、ユーザが所望す
る結果になっていない。演算部102は、処理をステップS107に戻し、再度、計算を行ない、ユーザが所望する計算結果となるようにする。
【0070】
ここでは、数理モデルにおける詳細解と均一解との差分εを所定値ε0以上にする場合について説明した。差分εを所定値ε0未満にする場合、即ち、差分εを小さくする場合、主として、図4及び図5の動作フローのステップS104及びステップS112の判定を逆にすることで、図4及び図5の動作フローと同様にできる。また、差分εを所定の範囲以内にする場合、主として、図4及び図5の動作フローのステップS104及びステップS112で、差分εが所定の範囲以内であるか否かを判定することで、図4及び図5の動作フローと同様にできる。
【0071】
また、ここでは、数理モデルにおける変数を2個としたが、数理モデルが3個以上の変数を有する場合であっても同様に適用できる。
【0072】
また、示量変数と示強変数との積の例を示しているが、他の組み合わせであっても同様に適用できる。
【0073】
(具体例)
ここでは、数値モデルが、理想気体の状態方程式である場合を例に挙げて説明する。理想気体の状態方程式は、次のように表される。
【0074】
【数10】

【0075】
pは圧力、Vは体積、nは分子数、Rは気体定数、Tは(絶対)温度である。
【0076】
ここで、圧力p、体積V、及び温度Tから、分子数nを求める数理モデルについて検討する。ここでは、温度Tが一定であるとする。即ち、次のように表される式で、分子数nを求める。この式が、数値モデルの一例である。
【0077】
【数11】

【0078】
気体定数R及び温度Tは、定数である。よって、右辺における変数は、圧力p及び体積Vである。圧力pは、示強変数である。体積Vは、示量変数である。圧力p、体積Vは、第1物理量、第2物理量の一例である。
【0079】
ここで、詳細モデルにおける解である詳細解と、均一モデルにおける解である均一解の差分εは、次のように求まる。ここでは、定数(R×T)を除いている。
【0080】
【数12】

【0081】
第i領域における圧力pi及び体積Viは、演算部102が格納部112から取得する。演算部102は、第i領域の位置情報等を指定することにより、圧力pi及び体積Viを取得できる。また、演算部102は、第i領域が小領域に分割された際の小領域の圧力及び体積は、当該小領域の位置情報を指定することにより、格納部112から取得できる。
【0082】
体積Vのような示量変数と、圧力pのような示強変数との積により所定の物理量が求まる数理モデルに対しては、上記の例と同様に適用できる。例えば、原子炉物理において、温度係数αと温度上昇ΔTとから、温度係数αと温度上昇ΔTとの関数として表される反応度ρ(=α×ΔT)を求める場合に適用できる。
【0083】
(実施形態の作用効果)
解析装置100は、複数の領域に分けられた空間全体の物理量を求める数理モデルに基づく、詳細解と均一解との差分εを算出する。解析装置100は、差分εを、第i領域及び第j領域における第1物理量および第2物理量の差の積の項に分解する。解析装置100は、前記分解された差分に含まれる項のうち、第i領域の物理量を含む項の和である指標値を、領域ごとに算出する。解析装置100は、指標値が最も大きい領域を抽出し、抽出した領域を小領域に分解する。解析装置100は、分解した小領域の物理量を利用して、抽出した領域の新たな物理量を算出する。解析装置100は、新たな物理量を利用して、差分ε及び指標値を算出する。このようにして、解析装置100は、所望の差分εを得る。
【0084】
解析装置100によれば、指標値f(i)を使用することで、差分εに影響を与える領域を判別できる。解析装置100によれば、差分εに影響を与える領域を分割して再計算することにより、より高速に所望の差分εを得られる。即ち、解析装置100によれば、どの領域の値が大きく影響して、詳細解と均一解との差が発生しているのかを認識することができるため、影響する領域を選択して操作することにより、より高速に所望の結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
ここで説明した解析装置100は、所定の領域等における、示量変数または示強変数としての物理量から所定の物理量を算出する数理モデルを使用して数値計算をする際に、利用できる。解析装置100は、例えば、原子炉の熱流動解析、自動車の走行解析、航空機の飛行解析、DNA解析、気象解析、電磁場解析、空調解析等、分野を問わず汎用的に使用されうる。
【符号の説明】
【0086】
100 解析装置
102 演算部
104 メモリ
112 格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する解析方法であって、
任意の空間の第1物理量α及び第2物理量βから当該空間の第3物理量を求める数理モデルModel(α,β)に基づく、N個の領域に分けられた空間全体における第3物理量を求める、詳細解
【数1】

と、均一解Model(αs(α1,...,αi,...,αN),βs(β1,...,βi
,...,βN))との差分を算出するステップと、
前記差分を、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量の差と、第i領域の第2物理量及び第j領域の第2物理量の差との積の項に分解するステップと、
前記分解された差分に含まれる項のうち、第i領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値f(i)を、領域毎に算出するステップと、
前記N個の領域のうち、前記指標値f(i)が最も大きい領域を抽出するステップとを、実行し、
第i領域における第1物理量がαiであり、第i領域における第2物理量がβiであり、前記空間全体における第1物理量の均一量がαiの関数であるαs(α1,...,αi,...,αN)であり、前記空間全体における第2物理量の均一量がβiの関数であるβs(β1,...,βi,...,βN)である解析方法。
【請求項2】
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定するステップと、
前記差分が前記所定値以上である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行する、
請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定するステップと、
前記差分が前記所定値未満である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行する、
請求項1に記載の解析方法。
【請求項4】
前記差分が、所定の範囲以内であるか否かを判定するステップと、
前記差分が前記所定の範囲以内である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行する、
請求項1に記載の解析方法。
【請求項5】
前記第1物理量が示量変数であり、前記第2物理量が示強変数であり、
前記数理モデルが
【数2】

であり、
前記空間全体における第1物理量の均一量が
【数3】

であり、前記空間全体における第2物理量の均一量が
【数4】

である請求項1乃至4のいずれか1つに記載の解析方法。
【請求項6】
任意の空間の位置情報に対応付けられる第1物理量及び第2物理量、前記第1物理量及び前記第2物理量から当該空間の第3物理量を求める数理モデルを格納する格納部と、
前記格納部に格納される前記第1物理量α及び前記第2物理量βを用いて、前記格納部に格納される前記数理モデルModel(α,β)に基づく、N個の領域に分けられた空間全体における第3物理量を求める、詳細解
【数5】

と、均一解Model(αs(α1,...,αi,...,αN),βs(β1,...,βi
,...,βN))との差分を算出し、
前記差分を、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量の差と、第i領域の第2物理量及び第j領域の第2物理量の差との積の項に分解し、
前記分解された差分に含まれる項のうち、第i領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値f(i)を、領域毎に算出し、
前記N個の領域のうち、前記指標値f(i)が最も大きい領域を抽出する演算部とを、
有し、
第i領域における第1物理量がαiであり、第i領域における第2物理量がβiであり、前記空間全体における第1物理量の均一量がαiの関数であるαs(α1,...,αi,...,αN)であり、前記空間全体における第2物理量の均一量がβiの関数であるβs(β1,...,βi,...,βN)である解析装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定し、
前記差分が前記所定値以上である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割し、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出し、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出し、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出する、
請求項6に記載の解析装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定し、
前記差分が前記所定値未満である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割し、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出し、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出し、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出する、
請求項6に記載の解析装置。
【請求項9】
前記演算部は、
前記差分が、所定の範囲以内であるか否かを判定し、
前記差分が前記所定の範囲以内である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割し、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出し、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出し、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出する、
請求項6に記載の解析装置。
【請求項10】
前記第1物理量が示量変数であり、前記第2物理量が示強変数であり、
前記数理モデルが
【数6】

であり、
前記空間全体における第1物理量の均一量が
【数7】

であり、前記空間全体における第2物理量の均一量が
【数8】

である請求項6乃至9のいずれか1つに記載の解析装置。
【請求項11】
コンピュータに、
任意の空間の第1物理量α及び第2物理量βから当該空間の第3物理量を求める数理モデルModel(α,β)に基づく、N個の領域に分けられた空間全体における第3物理量を求める、詳細解
【数9】

と、均一解Model(αs(α1,...,αi,...,αN),βs(β1,...,βi
,...,βN))との差分を算出するステップと、
前記差分を、第i(1≦i≦N)領域の第1物理量及び第j(1≦j≦N)領域の第1物理量の差と、第i領域の第2物理量及び第j領域の第2物理量の差との積の項に分解するステップと、
前記分解された差分に含まれる項のうち、第i領域における第1物理量及び第2物理量を含む項の和である指標値f(i)を、領域毎に算出するステップと、
前記N個の領域のうち、前記指標値f(i)が最も大きい領域を抽出するステップとを、実行させ、
第i領域における第1物理量がαiであり、第i領域における第2物理量がβiであり、前記空間全体における第1物理量の均一量がαiの関数であるαs(α1,...,αi,...,αN)であり、前記空間全体における第2物理量の均一量がβiの関数であるβs(β1,...,βi,...,βN)である解析プログラム。
【請求項12】
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定するステップと、
前記差分が前記所定値以上である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行させる、
請求項11に記載の解析プログラム。
【請求項13】
前記差分が、所定値以上であるか、前記所定値未満であるかを判定するステップと、
前記差分が前記所定値未満である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行させる、
請求項11に記載の解析プログラム。
【請求項14】
前記差分が、所定の範囲以内であるか否かを判定するステップと、
前記差分が前記所定の範囲以内である場合、
前記指標値が最も大きい領域について、当該領域を複数の小領域に分割するステップと、
当該複数の小領域ごとに、第1物理量及び第2物理量を算出するステップと、
前記複数の小領域ごとの第1物理量及び第2物理量に基づいて、当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を算出するステップと、
算出された当該領域における第1物理量の均一量及び第2物理量の均一量を、それぞれ、当該領域における新たな第1物理量及び第2物理量として、前記差分及び前記指標値を算出するステップと、を実行させる、
請求項11に記載の解析プログラム。
【請求項15】
前記第1物理量が示量変数であり、前記第2物理量が示強変数であり、
前記数理モデルが
【数10】

であり、
前記空間全体における第1物理量の均一量が
【数11】

であり、前記空間全体における第2物理量の均一量が
【数12】

である請求項11乃至14のいずれか1つに記載の解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−48499(P2012−48499A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189956(P2010−189956)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】