説明

触媒及びその製造方法並びに燃料電池用燃料電極及び燃料電池

【課題】N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体等の有機金属錯体を用いた触媒の長寿命化を図る。
【解決手段】中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、前記中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法並びに燃料電池用燃料電極及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、改質ガスを用いる高分子型燃料電池、およびアルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池のような動作温度が約300°C以下の低温型燃料電池の水素極用電極触媒として、N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体に白金あるいは白金合金を混合し、グラファイト等の炭素質材料からなる担体に担持した低温型燃料電池の水素極用電極触媒が開示されている。この水素極用電極触媒は、上記各金属錯体の中心金属をマンガン等に最適選定することにより、耐CO被毒性をCO濃度10ppm〜100ppmであっても周知の白金−ルテニウム合金触媒より優れた性能を実現するものである。
また、上記特許文献1に加えて、下記特許文献2には当該特許文献1の金属錯体に類する有機金属錯体からなる燃料極用電極触媒が開示されている。
【特許文献1】特開2006−085976号公報
【特許文献2】特開2002−329500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者の知見によれば、上記特許文献1に記載された水素極用電極触媒は、初期的な触媒性能において周知の白金−ルテニウム合金触媒よりも優れているものの、継続使用した場合に触媒性能の失活が激しい。特に、電解質水溶液が酸性を呈する場合においては、実用に供することができない程に触媒性能の失活が著しいことが確認された。したがって、燃料電池に組み込んだ場合に交換を頻繁に行わなければならないので、ランニングコストが高くなる、あるいは実用に供することができないという問題がある。上記特許文献1に記載された水素極用電極触媒は、触媒性能の維持の面でさらなる改良が不可欠である。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体等の有機金属錯体を用いた触媒の長寿命化を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明では、触媒に係る第1の解決手段として、中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体からなる、という手段を採用する。
【0006】
触媒に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、2つの前記N,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいは2つのN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体の各中心金属元素が1つの酸化性物質に結合してなる、という手段を採用する。
【0007】
触媒に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、酸化性物質は酸素原子(O)である、という手段を採用する。
【0008】
触媒に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3いずれかの解決手段において、白金あるいは白金合金を混合してなる、という手段を採用する。
【0009】
触媒に係る第5の解決手段として、上記第1〜第3いずれかの解決手段において、所定の担体に担持してなる、という手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、燃料電池用燃料電極に係る第1の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかに記載の触媒を備える、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、燃料電池に係る第1の解決手段として、上記第1の解決手段に係る燃料電池用燃料電極を備える、という手段を採用する。
【0012】
さらに、本発明では、触媒の製造方法に係る解決手段として、化合物(C2634)から2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体の中心金属元素である鉄原子(Fe)が酸素原子(O)を介して架橋した化合物(C5264Fe13)を合成する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体の中心金属元素に所定の酸化性物質が結合しているので、N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体を用いた触媒の長寿命化を実現することができる。
すなわち、本発明者は、従来のN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体を用いた触媒では、中心金属元素が外部元素と化学結合して中心金属元素が酸化される(電子を奪われる)ことによって触媒性能が失活していたことを見出した。本願発明に係る触媒の用途の一例は燃料電池の燃料極用触媒であり、その要求される機能は所定の電解質の雰囲気下かつ燃料電極の表面において燃料分子からの電子の奪取(酸化)を促進させることであるが、このような燃料極用触媒においては、電解質として酸化性のものを選定した場合には、その例外のものを選定した場合に比較して中心金属元素が酸化され易いので触媒性能の失活が著しい。
しかしながら、本発明によれば、中心金属元素との結合性、つまり当該中心金属元素に対して酸化性を有する物質(酸化性物質)が中心金属元素に予め結合しているので、中心金属元素が外部元素と化学結合することを防止あるいは抑制することが可能であり、これによって触媒性能が失活することを防止あるいは低減することができる。
なお、酸化性物質を中心金属元素に結合させることにより触媒性能が低下する虞があるが、中心金属元素を適度に酸化する(適度の電子を奪う)酸化性物質を選択することにより、触媒性能を従来程度に維持しつつ触媒性能の失活を防止あるいは低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る燃料電池用水素電極触媒は、中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体に白金あるいは白金合金を混合して混合体とし、当該混合体を所定の担体に担持させ、さらに200°C〜550°Cの温度範囲で熱処理して得られたものである。
【0015】
すなわち、本燃料電池用水素電極触媒は、中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体等の有機金属錯体からなる第1の触媒と白金あるいは白金合金からなる第2の触媒との混合体を所定の担体に担持したものである。
【0016】
従来の触媒は、有機金属錯体の中心金属が外部元素と化学結合(酸化)し易い状態にあったために触媒性能の失活が著しかったが、本実施形態における第1の触媒によれば、N,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体の中心金属元素に所定の酸化性物質が予め結合しているので、中心金属元素が外部元素と化学結合する(酸化する)ことを防止あるいは抑制することが可能であり、これによって触媒性能が失活することを防止あるいは低減することができる。
【0017】
なお、上述したように、酸化性物質は中心金属元素が外部元素と化学結合する(酸化する)ことを防止あるいは抑制するためのものであるが、中心金属元素と結合することによって有機金属錯体の触媒性能を低下させる虞がある。したがって、酸化性物質の選定に際しては、触媒性能が低下することを防止あるいは抑制する必要から、上記中心金属元素を適度に酸化する(適度に電子を奪う)ものを条件に選択する必要がある。
【0018】
ここで、第1の触媒を構成する有機金属錯体としては、上述した中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体等が好ましいが、これに限定されるものではない。触媒性能を発揮するものであれば他の有機金属錯体を用いても良い。
【0019】
また、有機金属錯体の中心金属元素に予め結合させる酸化性物質としては、後述する酸素原子(O)や塩素原子(Cl)が好ましいが、これら単独原子の他に中心金属元素と結合し得る単独原子であれば他の原子でも良い。また、酸化性物質は、酸素原子(O)や塩素原子(Cl)等の単独原子に限定されず、複数の原子からなる化合物であっても良い。
【0020】
化学式(1)は、上記第1の触媒の一例として実際に合成した化合物A(C5264Fe13)の構造を示している。この化合物Aは、中心金属元素として鉄(Fe)を、また酸化性物質として酸素(O)をそれぞれ選定し、かつ、2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体の中心金属元素(Fe)が1つの酸化性物質(O)に結合した構造を備えている。すなわち、この化合物Aは、各々の中心金属元素(鉄:Fe)を酸化性物質(O)を介して架橋することによって2つのN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体を一体として結合させたオクソ−ブリッジ(oxo-bridge)鉄サレン錯体としての構造を有する。
【0021】
【化1】

【0022】
なお、従来技術で説明したように、N,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体もN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体と同様に触媒性能を発することが知られているので、2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体に代えて、2つのN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体を1つの酸化性物質(O)を介して相互に結合したものを第1の触媒として用いることが考えられる。
【0023】
また、この化合物Aにおける酸化性物質は酸素原子(O)であるが、中心金属元素との結合性、つまり当該中心金属元素に対して酸化性(電子を奪う性質)を有する物質であれば良いので、例えば塩素原子(Cl)であっても良い。
【0024】
また、本燃料電池用水素電極触媒は、燃料電池の水素電極(燃料電極)用に必要な触媒性能を満足する必要から第1の触媒に白金あるいは白金合金からなる第2の触媒を混合する態様を採用しているが、第1の触媒と第2の触媒との混合割合については、経験的に最適な割合を見追い出せば良く必要に応じて適宜決定される。通常では20:80または90:10の範囲で選ばれ、効果を最大限にするには45:55から55:45の割合にすることが好ましい。また、例えば燃料電池の水素電極(燃料電極)用以外の用途に利用する場合で触媒性能の失活の防止あるいは低減のみを純粋に追い求める場合には、第2の触媒を混合することなく第1の触媒を単独で用いることも考えられる。
【0025】
本燃料電池用水素電極触媒の調整法については一例の詳細を後述するが、物理的混合法、熱分解法、液相法、プラズマ同時蒸着法等を採用することが考えられる。例えば、熱分解法に基づいて本燃料電池用水素電極触媒を調整する場合には、白金あるいは合金合金を同金属の錯化合物前駆体のような熱分解し易いもの(例えばアンミン錯体、カルボニル錯体、アセチルアセトナート錯体、カルボン酸錯体、ニトロソ錯体や酢酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物)とし、この熱分解し易いものと有機金属錯体であるN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体とを可溶性の有機溶媒に同時に溶解させ、さらに有機溶媒を蒸発させることにより得る。
【0026】
上記担体は、例えばグラファイト、カーボンブラック、ケッチェンブラック、活性炭、グラッシーカーボン等の炭素質材料、あるいはラネーニッケル、ラネー銀等のポーラス金属である。このような炭素質材料あるいはポーラス金属等のうち、担持が比較的良好な炭素質材料が好ましく、また炭素質材料としては粒径0.01μm〜100μm、さらに好ましくは0.02μm〜10μmのものが好ましい。
【0027】
上記第1の触媒と第2の触媒とからなる混合体を担体に担持させる方法としては、溶解乾燥法、プラズマ蒸着法、加熱蒸着法、CVD法等の採用が考えられる。溶解乾燥法を採用する場合、遷移金属触媒を同金属の錯化合物、例えばアンミン錯体やカルボニル錯体等のような熱分解し易いものとし、これと有機金属錯体であるN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体とを可溶性有機溶媒に溶解させ、さらに上述した担体を加えて攪拌混合し、最後に有機溶媒を蒸発させて乾燥させる。
【0028】
なお、上記混合体を担体に担持させることは、触媒性能の失活の防止あるいは低減のみを純粋に追い求める場合には必須の事項ではない。例えばN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体と白金あるいは白金合金との混合体を担体に担持させることなく微細粉末化して用いても良い。
【0029】
本燃料電池用水素電極触媒は、第1の触媒と第2の触媒とからなる混合体が担持された担体を不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより完成する。この熱処理は、有機金属錯体であるN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体が電解質に溶出して耐CO被毒性が低下することを防止するためのものである。
【0030】
この熱処理における処理温度は、白金あるいは白金合金の粒径増大を防ぐ意味からは低い方が望ましいが、有機金属錯体であるN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体を安定化させるには200°C以上の温度が必要である。この処理温度は、例えば200°C〜550°C、好ましくは300°C〜500°Cである。なお、耐CO被毒性の向上が必要ない場合には、このような熱処理は不要である。
【0031】
本実施形態における燃料電池は、上述した燃料電池用水素電極触媒を後述するように混合触媒修飾電極(燃料電池用燃料電極)として構成し、当該燃料電池用燃料電極と対をなす空気電極とともに所定の電解液に浸漬させ、燃料電池用燃料電極には燃料として水素ガスを接触させ、また空気電極には空気(酸素)を接触させることによって構成される。周知のように、燃料電池には電解液の種類に応じて種々のものがあるが、本燃料電池用水素電極触媒及び本燃料電池用燃料電極は、酸性の電解液、つまりN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体の中心金属を酸化させ易い(電子を奪い易い)電解液の燃料電池に用いたときに特に有意義である。
【0032】
次に、本燃料電池用水素電極触媒及び本燃料電池用燃料電極の製造方法について詳しく説明する。
【0033】
〔第1工程〕
化合物1である4-ニトロフェノール(4-nitrophenol、25g、0.18mol)にヘキサメチレンテトラミン(hexamethylenetetramine、25g、0.18mol)及びポリりん酸(polyphosphoric-acid、200ml)を加えた混合物を100°Cの状態で1時間攪拌する。そして、この混合物を酢酸エチル(500ml)とともに1L(リットル)の水の中に入れ、完全に溶解するまで攪拌する。そして、この溶液に酢酸エチル(400ml)を加える。この結果、溶液は2相に分離するので、水の相を取り除き、残りの化合物を塩性溶剤(例えば塩酸)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥させることにより、下記反応式(2)に示すように化合物1(CNO)から化合物2(CNO)を17g(収率57%)合成する。
【0034】
【化2】

【0035】
〔第2工程〕
上述したように合成した化合物2(17g、0.10mol)、無水酢酸(acetic anhydride、200ml)、硫酸(必要に応じて少々)を室温で1時間攪拌させ、攪拌後の溶液に氷水(2L(リットル))を混ぜて0.5時間放置して加水分解させる。そして、この加水分解によって得られた溶液をフィルターにかけて不純物を除去した上で、大気中で乾燥させることにより白い粉末状の物質を得る。この粉末を酢酸エチルを含む溶液を使って再結晶化させることにより、下記反応式(3)に示すように化合物2(CNO)から白い結晶である化合物3(C1313NO)を24g(収率76%)合成する。
【0036】
【化3】

【0037】
〔第3工程〕
このように合成した化合物3(24g、77mmol)をメタノール(500ml)に10%のパラジウム(Pd)を担持したカーボン(2.4g)の混合物を1.5気圧の水素還元雰囲気下で一晩放置して還元処理する。このようにして還元処理されたものをフィルターを用いて不純物をろ過することにより、下記反応式(4)に示すように化合物3(C1313NO)から茶色油状物である化合物4(C1315NO)を21g合成する。
【0038】
【化4】

【0039】
〔第4工程〕
上記化合物4(21g、75mmol)及び二炭酸ジ-tert-ブチル(di(tert-butyl) dicarbonate、18g、82mmol)を200mlの無水ジクロメタン(DCM)に加え、窒素雰囲気下で一晩攪拌する。この攪拌後の溶液の液相を真空中で蒸発させて得られた固相を100mlのメタノールに溶解させ、また水酸化ナトリウム(15g、374mmol)及び水(50ml)を加えて5時間還流させる。そして、この還流後に冷却し、フィルターで不純物をろ過し、さらに水で洗浄した後、真空中て乾燥させることにより、茶色化合物を得る。この茶色化合物にシリカジェル(=シリカゲル)を用いたフラッシュクロマトグラフィーを2回施すことにより、下記反応式(5)に示されるように上記化合物4(C1315NO)から化合物5(C1823NO)を経て化合物6(C1215NO)を10g(収率58%)得る。
【0040】
【化5】

【0041】
〔第5工程〕
上記化合物6(10g、42mmol)を400mlの無水エタノールに加えたものを加熱しながら還流させ、20mlの無水エタノールにエチレンジアミン(1.3g、21mmol)を数滴加えて0.5時間攪拌する。そして、この攪拌後に混合溶液をかき混ぜつつ氷によって15分間冷却する。この後、200mlのエタノールで洗浄し、フィルターによって不純物を除去した後に真空乾燥させることにより、下記反応式(6)に示されるように化合物6から化合物7(C2634)を8.5g(収率82%)合成する。
【化6】

【0042】
〔第6工程〕
さらに、上記化合物7(8.2g、16mmol)及びトリエチルアミン(triethylamine、22ml、160mmol)を50mlの無水メタノールに加え、10mlのメタノール中に塩化第二鉄(FeCl、2.7g、16mmol)を加えた溶液を窒素雰囲気下で1時間放置し、さらに真空中で乾燥させることにより、茶色の化合物を得る。そして、この茶色の化合物を400mlのジクロロメタンで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、さらに硫酸ナトリウム(NaSO)を用いて真空中で乾燥させることにより、下記反応式(7)に示されるように化合物7(C2634)から2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体の中心金属元素である鉄原子(Fe)が酸素原子(O)を介して架橋した化合物A(C5264Fe13)を5.7g(収率62%)合成した。
【0043】
【化7】

【0044】
このように合成された化合物A(C5264Fe13)をジエチルエーテル及びパラフィンの溶液中で再結晶させ、高速液化クロマトグラフィーで分析したところ、純度95%以上のオクソ−ブリッジ(oxo-bridge)鉄サレン錯体、つまり2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体の中心金属元素である鉄(Fe)が酸素原子(O)を介して架橋した化合物であることが分かった。
【0045】
〔第7工程〕
第1の触媒である上記化合物A(C5264Fe13)と第2の触媒である市販の白金テトラアンミン錯体([Pt(NH)]Cl・nHO)とを重量比にして100:0、50:50及び0:100の各割合で混合し、各々の混合比(重量比)の混合触媒をグラファイト粒子(粒径1〜2μm、Aldrich Chemicals)と1:4の割合になるように秤量して少量のエタノールに溶かし、またメノウ乳鉢を使って十分に混合した後、空気中(約80°C)で乾燥させる。
【0046】
〔第8工程〕
このようにして得られた触媒担持グラファイト粒子を環状雰囲気炉に入れて、アルゴンガス雰囲気中において600°Cで2時間熱処理することにより触媒担持グラファイト粒子を得る。そして、この触媒担持グラファイト粒子を20重量倍のナフィオン高分子5%溶液(Aldrich Chemicals)とともにデイスク部が直径6mmの高密度パイロリテイックグラファイトでできた回転電極に滴下して乾燥させることによって、本実施形態における燃料電池用燃料電極である混合触媒修飾電極を作製した。
【0047】
この混合触媒修飾電極(試験電極)のメタノール酸化触媒性能を、室温、かつ窒素脱気した0.05M硫酸と1Mメタノール混合溶液(電解液)中において評価した。この触媒性能評価には、ポテンショスタットを用い、参照電極としての飽和カロメル電極を試験電極の対極として用い、電流−電圧曲線を測定した。
【0048】
この測定の結果、第2の触媒である市販の白金テトラアンミン錯体単独(重量比が100:0)、第1の触媒である化合物A単独(重量比が0:100)では非常に低いメタノール酸化能しか示さないのに対して、第1の触媒と第2の触媒との重量比が50:50の混合触媒は、第2の触媒単独の場合の15倍以上のメタノール酸化能を示すことが確認できた。
また、この測定の結果、第1の触媒である化合物A単独の場合及び第1の触媒と第2の触媒との重量比が50:50の混合触媒の場合の何れにおいても、従来の触媒に比較して触媒性能の失活が極めて少ないことが確認できた。
【0049】
すなわち、上記触媒性能の評価によって、本燃料電池用水素電極触媒及び本燃料電池用燃料電極がメタノールの酸化に関する触媒性能が十分であり、かつ、十分な寿命を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属元素がバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)のいずれかであって、かつ、前記中心金属元素に所定の酸化性物質が結合したN,N’−ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいはN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体からなることを特徴とする触媒。
【請求項2】
2つの前記N,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体あるいは2つのN,N’−モノ−8−キノリル−o−フェニレンジアミン金属錯体の各中心金属元素が1つの前記酸化性物質に結合してなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記酸化性物質は酸素原子(O)であることを特徴とする請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
白金あるいは白金合金を混合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項5】
所定の担体に担持してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒を備えることを特徴とする燃料電池用燃料電極。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池用燃料電極を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
化合物(C2634)から2つのN,N’-ビス(サリシリデン)エチレンジアミノ金属錯体の中心金属元素である鉄原子(Fe)が酸素原子(O)を介して架橋した化合物(C5264Fe13)を合成することを特徴とする触媒の製造方法。



【公開番号】特開2010−113894(P2010−113894A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284312(P2008−284312)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】