説明

触媒担持体とその製造方法

【課題】担持させることのできる触媒の種類が制限されず、また使用時の触媒の脱離が抑制されるため、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易であり、かつ、取り扱い性も良好な触媒担持体を提供する。
【解決手段】含フッ素系樹脂を極性有機溶媒中に溶解させた後、さらに触媒微粒子を混合して触媒含有樹脂溶液を得る工程と、水中に前記触媒含有樹脂溶液を投入する工程と、前記水中で析出した触媒担持体を取出し減圧下で低温乾燥させる工程と、を有する触媒担持体の製造方法及びこの製造方法により得られる触媒担持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質球状の担体に触媒活性を有する微粒子が担持された触媒担持体及びその製造方法に係り、特に、含フッ素樹脂からなる担体を用いた触媒担持体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものであり、一般に、触媒活性を有する金属成分を主成分とし、特に、金属成分として貴金属からなるものがよく用いられている。
【0003】
通常、触媒は担体の表面に担持させて用いられるが、このように触媒を担体表面に担持させることで、触媒効率を向上させ有効利用が図られ、触媒の使用量をなるべく低減させるようにしている。これは、触媒が高価な貴金属を含む場合に特に有効である。
【0004】
担体に担持された触媒は適当な希釈剤中の溶液又は微細分散液の形態で反応液に導入され、反応終了後には反応生成物等から分離、回収しなければならないが、触媒が微粒子状である場合にも、上記のように担体表面に担持させておくことでその分離、回収をも容易に行うことができる。
【0005】
このような使用形態で用いられる担体材料としては、例えば、微粉状の活性炭がよく知られている。担体として活性炭を用いる代表例として活性炭にパラジウムを担持させたパラジウム−活性炭触媒があるが、このパラジウム−活性炭触媒は、一般に、活性炭を予め酸又は塩基類で処理しておき、その後に塩化パラジウム、硝酸パラジウム等の水溶性パラジウム塩の水溶液に浸漬し、蒸発乾固、還元処理することにより調製される。還元処理としては、通常のH還元の他、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等の液相還元剤により行うことができる(例えば、特許文献1参照)。また、活性金属として白金やルテニウム等を用いたものも同様な方法で調製されている。
【0006】
また、担体材料として、アルミナやシリカを用いるものも知られている。アルミナ担体は、金属イオンとの吸着を利用して、酸又は塩等の共存イオンにより担持量がコントロールされている。一方、シリカ担体は、金属イオン、特に、錯イオンを吸着する能力がないことから金属イオンの所在制御が困難で、例えば、金属塩溶液を添加した溶剤を瞬時に蒸発させて金属塩をシリカ担体の表面に強制的に付着させたり、金属塩が含浸されたシリカ担体をアルカリ溶液で処理することにより非水溶性貴金属化合物を沈殿させ、シリカ担体の表面に担持させたり、シリカ担体をアミノ基を有するシラン化合物と反応させて改質した後、貴金属塩の水溶液と接触させることにより貴金属イオンをシリカ表面に固定し、還元処理を行う(例えば、特許文献2参照)等の特殊な方法で担持させている。
【0007】
さらに、担体材料としてセルロースを含有するものも提案されている。セルロースとしては、例えば、リンター、パルプ、再生繊維等のセルロース質原料に化学的処理(酸加水分解、アルカリ酸化分解等)及び/又は機械的処理(粉砕、磨砕等)を施すことにより製造されたものが用いられ、セルロース担体への触媒の担持は、セルロース繊維を核として、そのまわりに結合液を利用して触媒を被覆する方法により行われている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
上記した担体は粒状で用いられるものであるが、担体形状としては、粒状のものだけではなくフィルム状のものも知られており、例えば、フィルムの上にバインダーで粉末状触媒を固定したフィルム状触媒が挙げられる(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−196905号公報
【特許文献2】特開昭64−85141号公報
【特許文献3】特開平5−329380号公報
【特許文献4】特開2008−110340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、かかる従来の担体に触媒を担持させた触媒担持体、例えば、活性炭に触媒を担持させた触媒担持体は、触媒の塩水溶液に活性炭を浸漬し、還元処理して得られるが、使用時に担体から触媒が脱離することがあるため、触媒反応後の分離、回収が十分に行えないという問題がある。
【0011】
また、アルミナやシリカに吸着、改質等により触媒を担持させた触媒担持体は、担持させることのできる触媒の種類が非常に制限されてしまうという問題がある。
【0012】
さらに、セルロースを含有する担体に触媒を担持させた触媒担持体は、担体と触媒との接着力が弱く、使用時に担体から触媒が脱離することがあり、その分離、回収が十分に行えないという問題がある。
【0013】
また、フィルム化した触媒担持体は、使用時に小片化するため取り扱い性が容易でなく、分離、回収等の作業性にも乏しいという問題がある。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、担持させることのできる触媒の種類が制限されず、また使用時の触媒の脱離が抑制されるため、使用後の反応生成物等からの分離、回収も十分に行うことができ、かつ、取り扱い性も良好な触媒担持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、担体として含フッ素樹脂からなる多孔質担体を用いることで、担持させることのできる触媒の種類が制限されず、また使用時の触媒の脱離が抑制され、使用後の反応生成物等からの分離、回収も良好に行うことができる触媒担持体とすることができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明の触媒担持体は、含フッ素樹脂からなる多孔質球状担体と、前記多孔質球状担体に担持された触媒活性を有する微粒子と、を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の触媒担持体の製造方法は、極性有機溶媒に含フッ素樹脂を溶解させ、触媒微粒子を混合した触媒含有樹脂溶液を得る工程と、前記触媒含有樹脂溶液を前記含フッ素樹脂に対する非溶媒中に投入して触媒担持体を析出させる工程と、前記析出した触媒担持体を前記非溶媒中から取出し、減圧下で乾燥させる工程と、からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒活性を有する微粒子が担持される球状の多孔質担体として含フッ素樹脂からなるものを用いることで、担持されるべき触媒活性を有する微粒子の種類が制限されず、また使用時における触媒活性を有する微粒子の脱離が抑制されるため使用後における反応生成物等からの分離、回収を十分に行うことができ、かつ、触媒活性を阻害することなく反応促進に寄与させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の触媒担持体は、含フッ素樹脂からなる多孔質球状担体と、この担体に担持された触媒活性を有する金属微粒子(以下、単に触媒微粒子という)と、を有することを特徴としている。
【0021】
本発明で用いる多孔質球状担体は、極性有機溶媒に可溶な含フッ素樹脂からなる多孔質の球状担体であれば特に限定されるものではなく、用いる含フッ素樹脂としては、例えば、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキレンビニルエーテル、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等の化合物が重合したフッ素化モノポリマー、フッ素化コポリマー、又はそれらの混合物によるポリマー等からなるものが好適である。この中でも、特にポリフッ化ビニリデンが担持体としては好ましく、その主鎖中の構成単位の結合形態としてはHead to Tail結合を主鎖中に数多く含むものが好ましい。
【0022】
ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質球状物質が担体として好ましいのは、耐熱性、耐薬品性が良好であるため、使用環境を選ばず、製品寿命を長くすることもでき、さらに、球状に形成する時に多孔質性の球状担体を形成し易いためである。
【0023】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、市販のものを使用することができる。例えば、クレハKFポリマー(株式会社クレハ製、商品名)、カイナー720(ペンウォルト社製、商品名)等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の触媒担持体の担体形状は球状であり、その平均粒径は担持させる触媒微粒子の大きさやその担持量等によって適宜決定することができるが、触媒活性を阻害しないように、また、使用後の分離、回収性等を考慮すると、例えば、平均粒径が0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2mm以下であることがより好ましい。
【0025】
用いる担体の平均粒径が0.1mm未満の場合、その取り扱い性が困難となってしまい、一方、担体の平均粒径が5mmを超えるものは、技術的には製造可能なものの、必ずしも製造が容易でなく、また触媒微粒子を担持させて多孔質球状触媒とした場合、球状触媒全体に対する触媒微粒子の担持量が相対的に低下するため好ましくない。
【0026】
なお、担体の平均粒径は、粒度分布において0μmからの積算体積が50%となる粒径(d50)を意味し、平均粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(株式会社 堀場製作所製、商品名:LA950)で測定することができる。すなわち、ここで言う平均粒径は、メジアン径のことである。
【0027】
また、担体の表面に担持される触媒微粒子としては、公知の触媒活性を有する金属微粒子であれば特に限定されずに用いることができる。ここで用いることができる触媒としては、より具体的には、樹脂製の多孔質球状担体に固定できる金属触媒、金属酸化物触媒、有機金属化合物触媒等の固体触媒が挙げられるが、金属酸化物触媒であることが好ましく、その反応変換率が高いことからペロブスカイト型金属酸化物であることが特に好ましい。
【0028】
このとき、触媒中に含まれる金属は、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミニウム、イリジウム、銀、金、白金、スズ等の金属から選ばれる複数種の金属を含む複合金属酸化物が挙げられ、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、LaFe0.95Pd0.05等のようにパラジウムを含むものが好ましい。
【0029】
また、触媒微粒子は平均粒径が1μm以下であることが好ましく、例えば、その平均一次粒径は1nm以上100nm以下といったナノサイズの複合酸化物微粒子等をいることが好ましく、その平均二次粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。この平均粒径もメジアン径を意味する。
【0030】
多孔質担体と触媒微粒子の質量比は、それぞれ使用するものの組み合わせにより適宜決定することができるが、例えば、担体:触媒微粒子=1:10〜10000:1程度である。
【0031】
上記で好ましいとしたペロブスカイト型金属酸化物の触媒微粒子としては、例えば、パラジウムを含むペロブスカイト型化合物としてLaFe(1−r)Pd(0<r<0.2)が挙げられ、このようなペロブスカイト構造を有する触媒微粒子をフッ素樹脂担体と組み合わせて用いることによって触媒活性を有する担持体を得ることができる。
【0032】
次に、本発明の触媒担持体の製造方法について説明する。上記のような触媒担持体は、極性有機溶媒中に、これに溶解(膨潤)させた含フッ素樹脂と触媒微粒子とを混在させて触媒含有樹脂溶液とした後、これを球状に形成することで容易に製造することができる。
【0033】
このとき、触媒含有樹脂溶液は、極性有機溶媒に溶解(膨潤)させたフッ素樹脂に触媒微粒子を混合・分散させて調整してもよいし、触媒を混合・分散させた極性有機溶媒にフッ素樹脂を後から溶解(膨潤)させて調整してもよい。
【0034】
このフッ素樹脂の溶解(膨潤)及び触媒微粒子の混合・分散は、公知の撹拌装置等による一般的な混合・分散方法で容易に行うことができる。この撹拌は、通常は常温で行うことができ、また撹拌速度も担体の混合液と触媒微粒子の分散液とを均一に混合できる程度のものであれば特に制限されるものではない。なお、このとき、充分に分散させたり、微粒子が凝集し易い場合にはこれを解砕して分散させたりするために、ボールミル等によるメディア分散装置、高圧ホモジナイザー等による高速高剪断ミキサー等を用いて、フッ素樹脂中に触媒微粒子が均一に分散する操作を行ってもよい。
【0035】
ここで用いる極性有機溶媒としては、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチレンジクロライド、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トリフルオロ酢酸等が使用できるが、溶剤の揮発性の観点からDMAc又はNMPを用いるのが好ましい。
【0036】
調製する触媒含有樹脂溶液のフッ素樹脂濃度は1〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%程度とするのがより好ましい。このとき、触媒含有樹脂溶液の粘度は、8000mPa・s以下であることが好ましく、3000mPa・s以下とするのがより好ましい。なお、溶液の粘度は、25℃で、ローター(1.34°×R24)を1回転/分の条件によりE型粘度計を用いて測定したものである。
【0037】
そして、上記操作により得られた触媒含有樹脂溶液を球状に形成した触媒担持体とするには、例えば、上記触媒含有樹脂溶液を水等の含フッ素樹脂に対する非溶媒中にノズル等により滴下し、固化させ析出した樹脂球を取り出し、低温減圧下で乾燥させればよい。
【0038】
ここで、触媒含有樹脂溶液を投入する非溶媒としては、触媒含有樹脂溶液の含フッ素樹脂を溶解せず、かつ、極性有機溶媒とは相互に溶解する性質を有するものを用いることで、投入された触媒含有樹脂溶液が、媒体中で固化、析出し、球状で多孔質の触媒担持体を得ることができる。
【0039】
例えば、含フッ素樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用いた場合には、触媒担持体を球状化するのに用いる媒体としては、ポリフッ化ビニリデンを溶解せず、かつ、極性有機溶媒と相互に溶解する観点から、水が最も好ましい。上記性質を阻害しないものであれば、水以外の非溶媒を使用することもでき、具体的には、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール等のアルコール系有機溶剤が挙げられる。また、水とこれらアルコール系有機溶剤とを併用して非溶媒とすることもできる。
【0040】
このように触媒担持体を上記非溶媒中で球状化した後、固化した触媒担持体を濾過等により分離して取出し、次いで、30〜70℃、0.0001〜0.05MPaの低温減圧下に置き、乾燥させることで本発明の触媒担持体が得られる。
【0041】
得られる触媒担持体の大きさは、用いる触媒含有樹脂溶液の粘度、媒体中に投入するノズルの径、触媒含有樹脂溶液の塗出速度を変えて、媒体中へ滴下する量をコントロールすることで任意の大きさの触媒担持体を調整することができる。溶液粘度を高くする、もしくは、投入するノズルの径を大きくする、もしくは、塗出の速度を遅くすることで、粒子径は大きくなる。一方で、溶液の粘度を低くする、もしくは、ノズルの径を小さくする、もしくは、吐出の速度を速くすることで、粒子径は小さくなる。触媒含有樹脂溶液の粘度を3000mPa・s以下、投入するノズルの径1mm、投入1滴/2秒の条件で粒子を作成することで、本発明の1〜4mmの粒子を得ることができることができる。
【0042】
このとき、溶媒及び非溶媒を揮発、乾燥させて得られた触媒担持体を、さらに、100℃〜150℃の高温下でアフターベイクしてもよい。アフターベイクを行うことにより、得られた触媒担持体に残存している溶媒及び非溶媒を完全に除去することができ好ましい。
【0043】
上記ようにして、金属微粒子や金属酸化物微粒子等の触媒微粒子を用い、多孔質球状担体を形成することで、得られる多孔質球状担体は触媒微粒子を担持した触媒担持体となり、含フッ素樹脂からなる多孔質担体にその触媒微粒子由来の特定の触媒機能を付加させたものとすることができる。そして、その触媒が作用する化学反応を行う反応系に、その触媒担持体を存在させることで、液体中での化学反応を促進させることができる。
【0044】
本発明における担体は含フッ素樹脂のみからなるものであってもよいが、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、必要に応じて無機微粒子等を含有させていてもよい。含有させる無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機微粒子は、所望とする多孔質球状粒子担持体の平均粒径よりも十分に小さいものであればよく、おおむね得たい粒子の20分の1以下であれば、特に、その平均粒径は限定されるものではない。
【0045】
無機微粒子を添加することで、比表面積の増大、耐熱性の向上を図ることができる。ここで、無機微粒子の配合量は、本発明の効果を阻害しないように適宜決定することができ、例えば、触媒担持体中に0〜15質量%の範囲で含有するようにすることが好ましい。
【0046】
無機微粒子を含有した触媒担持体を製造するには、上記触媒含有樹脂溶液中に無機微粒子も添加して分散させておき、これを上記と同一の操作により水等の媒体中に投入して、固化させて球状化すればよい。
【0047】
以上のように本発明の触媒担持体は、触媒が担体に担持されたものであるから、反応後に反応液から容易に分離、回収することができる。このようにして分離、回収された触媒担持体は、通常の触媒と同様にして繰り返し触媒反応に用いることができる。
【0048】
本発明の触媒担持体について、上記の通り説明したが、担体への触媒微粒子の担持方法は必ずしも上記方法に限らず、例えば、予め、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂のみから形成したフッ素樹脂球状担体表面に触媒微粒子を加熱、加圧等しながら固定して担持させても良く、その他有効な担持方法であれば特に担持方法は制限されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製;一次粒径50nm(以下、LFPOと称する。))をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に混合、分散させ、触媒微粒子が分散した30質量%NMP分散液とした。これとは別にポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、商品名:W#7300;質量平均分子量 100万(以下、PVDFと称する。))をNMPに溶解させて5質量%NMP溶液とし、この5質量%NMP溶液100gに、上記30質量%NMP分散液を16.67g投入して、触媒含有樹脂溶液を調整した。
【0051】
作成した触媒含有樹脂溶液を、口径1mmのピペットで水中に滴下して60分間放置した。その後、水中に析出した樹脂球を取出して、0.01MPaの減圧下、60℃で十分乾燥させた後、120℃で1時間処理して残留する溶剤を除去して、直径2〜5mmの球状の触媒担持体を得た。
【0052】
(実施例2)
ペロブスカイト型金属酸化物としてLaFe0.57Co0.38Pd0.05(北興化学工業株式会社製;(以下、LFCPOと称する。))を、極性有機溶媒全てをNMPからN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は実施例1と同様の手順によって直径1〜4mmの球状の触媒担持体を得た。
【0053】
(比較例1)
担体を用いず、触媒微粒子であるペロブスカイト型金属酸化物(LFPO)をそのままの状態で用意した。
【0054】
(比較例2)
ペロブスカイト型金属酸化物(LFPO)の30質量%DMAc分散液100gにカーボン粒子(伊藤黒鉛株式会社製、商品名:SG−BL40;平均粒径40μm)30gを混入して、30分撹拌した。その後、カーボン粒子を取出し、120℃、1時間で乾燥して触媒担持体を得た。
【0055】
(比較例3)
撹拌モータ、還流コンデンサー及び温度計を具備した300mLのセパラブルフラスコに、メラミン7.6g、37質量%ホルマリン 14.6g、硫酸ナトリウム 0.090g、水 128.2gを仕込み、25質量%アンモニア水にてpHを8.5に調整した。上記混合物を撹拌しながら昇温して、温度を70℃に保ち、30分反応させてメラミン樹脂の初期縮合物の水溶液を調製した。
【0056】
その後、温度を50℃に下げ、ペロブスカイト型金属酸化物(LFPO)の30質量%水分散液 3.24gを仕込んだ。ついで、温度を50℃に維持したまま、10質量%パラトルエンスルホン酸水溶液を添加してpHを5.1に調整した。その後、さらに50℃で3時間反応させた後、温度を90℃まで昇温して1時間硬化反応を続け触媒担持体を形成させた。
【0057】
30℃以下に冷却後、反応液を濾過し、得られた粒子を洗浄、乾燥して、平均粒径 67.8μmの褐色の触媒担持粒子を得た。得られた触媒担持粒子を観察したところ、5μm程度の球径の粒子が集まって葡萄状の粒子になっているのが観察された。
【0058】
(試験例)
次に、実施例及び比較例の触媒又は触媒担持体について、分離・回収性、反応活性、触媒微粒子の維持について評価し、その結果を表1にまとめて示した。
【0059】
【表1】

【0060】
[分離・回収性]
後述する反応活性試験に使用した触媒含有樹脂粒子を反応液から濾別したものを、120°で乾燥させたものの質量を計測し、投入した質量と比較して分離・回収性を判定した。このときの分離、回収性の評価基準は次の通りである。
回収量/投入量の値が、95%以上のものを「○」、95%未満〜90%以上のものを「△」、90%未満のものを「×」とした。
【0061】
[反応活性](ターンオーバー数(TON(触媒反応変換率))の測定、鈴木カップリング反応のモデル系で反応活性を確認)
4−ブロモアニソール 2.24g(0.012モル)、フェニルボロン酸 2.19g(0.018モル)、炭酸カリウム 4.98g(0.036モル)を、100mL容量の丸底フラスコに加え、溶剤として純水及び1−メトキシ−2−プロパノールを各18mL加え、撹拌溶解した。この溶液に、実施例及び比較例で得られた触媒担持粒状物質を接触させ(このとき、4−ブロモアニソールに対し、触媒微粒子中のPdが0.005モル%に相当する量を含む触媒担持粒状物質を使用)、室温で24時間反応させた。
【0062】
反応終了後、反応液にトルエン及び純水を20mLずつ加えて、生成物を溶解した後、吸引ろ過により不溶解物を除去して、分液ロートに移し、下層の水層を分液し、上層のトルエン層を、ガスクロマトグラフィーにより分析し、以下の式により変換率を求めた。
変換率(%)=4−メトキシビフェニル/(4−ブロモアニソール+4−メトキシビフェニル)×100
(予め4−メトキシビフェニルと4−ブロモアニソールのトルエン溶液を個別に測定して相対感度を求め補正した。)
【0063】
上記と同様の反応条件により、4−ブロモアニソールとフェニルボロン酸とを反応させ、ガスクロマトグラフィーを用いて、パラジウム1モル当りの得られた4−メトキシビフェニルのモル数として、下記式により、ターンオーバー数(turnover number(TON))を求めた。
ターンオーバー数=4−メトキシビフェニル(モル)/パラジウム(モル)×変換率
【0064】
[触媒微粒子の維持]
また、触媒活性を調べるために用いられた粒状触媒粒子を回収し、残存しているパラジウム粒子の質量から、粒状触媒粒子におけるパラジウム粒子の保持率(触媒微粒子の保持率)を求めた。
【0065】
表1から明らかなように、実施例1、2では、分離・回収性、反応活性、触媒微粒子の維持いずれも良好であった。これに対して、担体を有しない比較例1では作業性の評価が悪い。担体を有するものでもカーボン粒子を用いた比較例2においては作業性が若干劣り、粒子の欠落も確認された。また、実施例1、2と同様、樹脂担体を使用した比較例3の場合、触媒微粒子の維持は良好であるものの、作業性が若干劣り、さらには反応活性も実施例に比べて低いものであった。以上より、本発明の触媒担持体が、触媒として優れた性質を有するものであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素樹脂からなる多孔質球状担体と、前記多孔質球状担体に担持された触媒活性を有する微粒子と、を有することを特徴とする触媒担持体。
【請求項2】
含フッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1記載の触媒担持体。
【請求項3】
前記触媒活性を有する微粒子は、金属、金属酸化物及び有機金属化合物の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の触媒担持体。
【請求項4】
前記担体は、平均粒径0.1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の触媒担持体。
【請求項5】
極性有機溶媒に含フッ素樹脂を溶解させ、触媒微粒子を混合した触媒含有樹脂溶液を得る工程と、
前記触媒含有樹脂溶液を前記含フッ素樹脂に対する非溶媒中に投入して触媒担持体を析出させる工程と、
前記析出した触媒担持体を前記非溶媒中から取出し、減圧下で乾燥させる工程と、
からなることを特徴とする触媒担持体の製造方法。

【公開番号】特開2011−177614(P2011−177614A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42028(P2010−42028)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】