説明

記録装置及び吸引回復方法

【課題】 互いの混合によって凝固、粘度増加が生じる多種類のインクを1つの部材でキャッピング吸引しても、良好な記録が可能な記録装置及び吸引回復方法を提供することである。
【解決手段】 記録ヘッドに設けられた第1と第2の記録要素列から夫々第1と第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行うことを前提にして次の工程を備える。即ち、記録ヘッドの第1と第2の記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップし、その部材内を吸引して第1と第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復を実行する。さらに、第1と第2記録要素列の記録要素を駆動して予備吐出を行う。この時、前記吸引回復の動作直後に前記部材でインク吐出面をキャップしたまま、第1又は第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出を前記部材に対して行なわせるよう予備吐出を制御するとともに前記部材内を吸引して吸引回復を行わせるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及び吸引回復方法に関し、特に、例えば、電気熱変換体を記録素子として用いたインクジェット記録ヘッドを用いて記録を行なう記録装置及びその吸引回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置(以下、記録装置)は記録ヘッドから複数色のインクを吐出させることによって、高品質なカラー画像形成を比較的小型で低コストな構造によって実現することができることから、近年急速に普及している。
【0003】
この記録装置に使用される記録ヘッドには、インク吐出用のノズルを高密度に配列したノズル列が、使用するインクの種類数に応じて複数配置されている。各ノズル列を形成する各ノズルは、記録ヘッドの吐出口形成面に形成されたインク吐出口と、このインク吐出口に連通する液路と、この液路内に供給されたインクの吐出エネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子とからなる。各ノズルの液路には、記録ヘッド内に形成された共通液室を介してインクタンクなどのインク供給源からインクが定常的に供給される。また、吐出エネルギー発生素子は、記録データに基いて供給される電気エネルギーを熱エネルギーまたは機械的エネルギーなどの吐出エネルギーに変換し、その吐出エネルギーによって液路内に供給されたインクを吐出口から液滴として吐出する。
【0004】
ところで、このような記録装置において、記録ヘッドから異なる2色のインクが隣接して記録媒体に付与された場合、両インクがそれらの境界部で互いに混合し、カラー画像の品位を低下させる現象(以下、ブリーディングと称す)が発生する。特に、ブラックインクとカラーインクの境界部での混色は画像品位低下への影響が大きいため、様々な解決方法の開発が行なわれている。
【0005】
その代表的な解決方法として特許文献1に開示された方法がある。即ち、特許文献1は、2種のインクが隣接して記録媒体に付与された時、少なくとも一方のインクの粘度増加、或いは少なくとも一方のインクにおける色材の凝集または沈殿を生起させるような反応性インクを用いた例を開示している。このような方法によって、両インクの境界部分に発生するブリーディングを低減することができる。
【特許文献1】特開2001−152059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来例のように、反応系インクを用いた場合、記録装置や記録ヘッドの構成、記録装置の使用環境等によっては、吸引部材にインク堆積が生じ、それに起因する吸引不良、インク吐出不良やインク滴のヨレなどの不具合が発生することがある。
【0007】
また、このような問題の発生を回避するため、反応系インク同士を近接させたり、同じ吸引手段で吸引できない等の別の問題が生じ、記録装置本体の配置構成に影響を与え、小型化の妨げとなる場合があった。これは、反応系インクが吸引部材近傍で混合することにより反応し、固着、粘度が増加してしまうためである。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、互いの混合によって凝固、粘度増加が生じる異なる種類のインクを1つの部材でキャッピングして吸引しても、良好な記録を行なうことができる記録装置及び吸引回復方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は、以下のような構成からなる。
【0010】
即ち、インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から夫々第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行なう記録装置であって、前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2の記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング手段と、前記キャッピング手段により前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復手段と、前記第1記録要素列と前記第2記録要素列の記録要素を駆動してインクの予備吐出を行なう予備吐出手段と、前記吸引回復手段による吸引回復動作直後に、前記キャッピング手段により前記部材で前記インク吐出面をキャップしたまま、前記第1或いは前記第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出を前記部材に対して行なわせるように前記予備吐出手段を制御するとともに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
また他の発明によれば、インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から夫々第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行なう記録装置の吸引回復方法であって、前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2の記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング工程と、前記キャッピング工程において前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復工程と、前記第1記録要素列と前記第2記録要素列の記録要素を駆動してインクの予備吐出を行なう予備吐出工程と、前記吸引回復工程における吸引回復動作直後に、前記部材で前記インク吐出面をキャップしたまま、前記第1或いは前記第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出を前記部材に対して行なわせるように前記予備吐出工程を制御するとともに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復工程を制御する制御工程とを有することを特徴とする吸引回復方法を備える。
【0012】
また、他の発明によれば、インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から接触することで凝固する第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置であって、前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング手段と、前記キャッピング手段により前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復手段と、前記第1記録要素列または前記第2記録要素列から予備吐出を行う予備吐出手段と、前記吸引回復手段による吸引回復動作後に、前記部材内の第1、第2種のインクが所定の混合比となるよう前記第1記録要素列または前記第2記録要素列から予備吐出を行わせるよう前記予備吐出手段を制御するとともに、さらに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
従って本発明によれば、キャッピングに用いる部材でのインク固着が発生せず、また、それに起因する吸引不良、インク吐出不良やインク滴のヨレなどが生じないので、良好な記録を行なうことができるという効果がある。
【0014】
特に、例えば、互いの混合により凝固または粘度が増加する染料系インクと顔料系インクを一1つ部材で吸引する際に、2つのインクの混合による凝固または増粘の影響を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、既に説明した部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0016】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0017】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0018】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0019】
またさらに、「ノズル」(「記録素子」、「記録要素」という場合もある)とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0020】
まず、本発明に適用されるインクジェット記録装置の全体構成を説明する。
【0021】
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の内部構成を示す概観斜視図である。
【0022】
インクジェット記録装置(以下、記録装置)1は、カラー画像を形成するシリアルスキャン型の記録装置である。このような記録装置では、記録ヘッドを搭載したキャリッジをx方向(主走査方向)に移動させながら記録ヘッドよりインクを吐出する動作と、主走査方向と交差するy方向(副走査方向)に記録媒体を搬送する動作とを交互に繰り返す。これにより、記録媒体に順次画像が形成される。
【0023】
具体的には、記録開始が指示されると、まず給紙モータ5が駆動され、ギヤ(不図示)を介して給紙ローラ6が回転する。給紙ローラ6の回転により給紙トレイ8に積載されている、例えば、記録用紙のような記録媒体の中から1枚の記録媒体が記録装置内へと給送される。複数色のインクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジ2は、キャリッジモータ3の駆動によって主走査方向へと移動する。このとき、記録ヘッドは画像信号に応じたタイミングでインクの吐出を行い、記録媒体上に1バンド分の画像を形成する。
【0024】
この1バンド分の画像とは、記録ヘッドの1回の走査で記録媒体上に形成し得る帯状の画像を指し、その幅は記録ヘッドに形成されるノズル列の副走査方向に関する長さL(図3参照)に一致する。ここで、1バンド分の画像が形成されると、搬送モータ(不図示)によって記録媒体が副走査方向に所定量搬送され、さらに記録ヘッドによる記録走査が実行される。
【0025】
図2はキャリッジに搭載される記録ヘッドの外観斜視図である。
【0026】
図2に示すように、キャリッジ2に搭載される複数の記録ヘッド9には、オリフィスプレート11a、11b、11c、11d、11e、11fが並設されている。各オリフィスプレートには、複数のインク吐出口を一定方向(Y方向)に配列した吐出口列が複数列形成されている。
【0027】
図2において、15aは第1インクとして染料ブラックインクを吐出する吐出口列、15bは第2インクとして顔料ブラックインクを吐出する吐出口列、15cは第3インクとして顔料ブラックインクを吐出する吐出口列である。また、15dはイエロインクを吐出する吐出口列、15eはマゼンタインクを吐出する吐出口列、15fはシアンインクを吐出する吐出口列である。
【0028】
第2、第3インクである顔料ブラックインクは、高速、高精細化のために、異なる2つの吐出口列から同一のインクを吐出する。
【0029】
以下、第2、第3インクを夫々、第1顔料ブラックインク、第2顔料ブラックインクという。なお、記録ヘッド9の構成については、図2と図4を参照して後で詳述する。
【0030】
再び図1を参照して説明を続けると、この実施例では、キャリッジモータ3からキャリッジ2へ駆動力を伝達する手段としてキャリッジベルト4を用いている。但し、キャリッジベルトの代わりにリードスクリュー等他の駆動方法を用いることも可能である。記録装置内へ給送された記録媒体は給紙ローラ6と圧力ローラ7の間を通って、記録ヘッド9による記録が可能な位置に導かれる。
【0031】
また、図1において、キャリッジ2が位置する場所は、そのホームポジションである。記録が行われていない時、ホームポジションの下部に配設されているキャッピング機構(不図示)が記録ヘッド9の吐出口形成面を密閉する(キャッピングする)。記録が開始されると、キャッピング機構は記録ヘッド9を開放し、これによりキャリッジ2は主走査方向への移動が可能となる。
【0032】
さて、この実施例における顔料ブラックインクは水性媒体に分散している顔料を含んでいる。また、染料ブラックインクは、顔料ブラックインクと混合された時に顔料ブラックインク中の顔料の分散安定性を不安定化させる染料および添加剤の少なくとも一方を含んでいる。この顔料ブラックインクと染料ブラックインクとが記録媒体上で接触することによって両インクが反応して凝固し、特許文献1と同様にブリーディングを防止したり、色材を記録媒体の表層に留めることによって鮮やかな発色で画像を表現できる。
【0033】
図3は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0034】
図3において、プログラマブル・ペリフェラル・インタフェース(以下、PPI)101は、ホストコンピュータ(不図示、以下、ホスト)から入力される指令信号(コマンド)や記録情報信号を受信し、これをMPU102に転送する。また、コンソール106の制御を行なったり、キャリッジ2がホームポジションにあるか否かを検出するホームポジションセンサ107からの信号を受信する。
【0035】
MPU102は、ROM105に記憶された制御プログラムに従って、種々の判別処理、インク吐出数などの計数処理、及び装置内の各部の制御を実行する。RAM103は各種データを一時的に記憶するメモリであり、受信したデータを格納するデータ格納領域や、MPU102が種々の処理を実行するための作業領域として使用される。ROM104にはフォント発生に用いるために、コード情報に対応した文字や記録等のパターン情報が記憶されており、入力されたコード情報に対応して各種パターン情報を出力する。また、プリントバッファ121は、ROM104等により展開されたデータを記憶するために所定行分の容量を有している。
【0036】
以上示した各ブロックは、アドレスバス117およびデータバス118を介することによって、MPU102により制御される。
【0037】
また、110は記録用紙等の記録媒体を副走査方向に搬送するための搬送モータ、113はキャッピング機構を駆動し、記録ヘッド9のインク吐出口に当接させてキャッピングを行うキャッピングモータである。
【0038】
キャッピングモータ113を駆動してキャッピング機構を動作させることにより、記録ヘッド9のインク吐出口は外気より遮断されノズルの乾燥を極力抑制することができる。さらに、キャッピングモータ113の駆動により、キャッピング機構の近傍に配設された後述のワイパを駆動するワイピング機構120も駆動され、記録ヘッド9の吐出口面に付着したインクや塵埃などを払拭する動作も実行される。
【0039】
なお、114、115、116、及び119は、キャッピングモータ113、キャリッジモータ3、給紙モータ5、及び搬送モータ110を夫々駆動するためのモータドライバである。
【0040】
また、コンソール106には、キーボードスイッチおよび表示ランプなどが設けられている。また、ホームポジションセンサ107は、キャリッジ2のホームポジション近傍に設けられており、記録ヘッド9を搭載したキャリッジ2がホームポジションに到達したことを検知してMPUに検知情報を伝える。
【0041】
109は記録ヘッド9の主走査方向の経路と対向する部分(記録部)に設置されたシートセンサであり、記録媒体の有無を検出する。従って、シートセンサ109からの検出信号によって、給紙トレイ8から給送された記録媒体が記録部まで正常に送られたか否かを判断することができる。111は画像信号に応じて記録ヘッド9に設けられた電気熱変換素子(吐出用ヒータ)を駆動するためのヘッドドライバである。120は上述した各部へ電力を供給するための電源部であり、駆動電源としてACアダプタと電池とが用いられる。
【0042】
なお、図1および図3には示されていないが、キャリッジ2には、記録ヘッド9と共に各色のインクを収容した複数のインクタンクを搭載することが可能となっている。
【0043】
インクタンクの外装部分は、例えば、PP、PE等の樹脂をインジェクション・ブロー等によって成型し、その後、超音波溶着、熱溶着、接着および嵌合などの技術を用いて組み立てたものなどを適用することができる。インクタンクの内部構造としては、外装部分自体がインクチャンバーとして機能する構造、インクを充填したインク袋を持つ構造、或いは外装部内に多孔質体を挿入し、その毛管力でインクの保持およびタンク内の負圧の発生を行う構造などが採用可能である。また、インク袋を使用する構造を用いる場合は、インク袋の内部または外部に設けられたばね機構等によってインク袋を拡大方向に付勢するようにすれば、インク袋内に負圧を発生させることが可能である。
【0044】
ここで、先に概説した記録ヘッド9の構成を、再び、図2を参照してより詳細に説明する。
【0045】
記録ヘッド9は、記録データに基づいて供給される電気エネルギーを電気熱変換素子で熱エネルギーに変換し、その熱エネルギーによってインクに気泡を発生させ、その気泡の発生圧力によってインク滴を吐出する構成を採用している。
【0046】
図2に示した各吐出口列15a〜15fの各インク吐出口は、1cmあたり約490個の配列密度で、1280個ずつ各色のオリフィスプレート11a〜11fに形成されている。なお、図示の各吐出口列は、それぞれインク吐出口を千鳥状に配列した2列一組の吐出口列となっており、これにより高配列密度を実現している。
【0047】
また、9aは各オリフィスプレートに対応して設けられた複数(ここでは、6個)のインク供給口である。各インク供給口9aには、異なる種類のインク(染料ブラック、顔料ブラック、イエロ、マゼンタ、シアン)を収容した複数のインクタンクに連結され、吐出や吸引などによって各吐出口から吐出されて消費されたインクを、間断なくインク吐出口へと供給することができる。
【0048】
図4は、記録ヘッド9の内部構造を示す図である。
【0049】
この図は、図2に示すA−A’線及びB−B’線に沿って切断された断面を示す断面図である。
【0050】
図4に示すように、インク供給口9aより供給されたインクは、インク液室24内をH方向へと進む。インク液室24がある程度充填されると、インクはJ方向へと進み、フィルタ25を通過した後に、インク液室26、及びオリフィスプレートに形成された複数の吐出口15に供給される。インク流路にフィルタ25を設けることにより、混入したゴミ等を、微細なノズルに混入させない様にすることができる。
【0051】
なお、吐出口15を配列する面の位置は、オリフィスプレート11の中でも、TAB面30に対し、一段凹んだ位置にある。これは、各インク吐出口と記録媒体との接触を極力回避するためである。なお、図4では染料ブラックインクにおけるインク液室の構造を示しているが、他のインクにおけるインク液室も同様の構成を有している。
【0052】
この明細書において、ノズルとは、吐出口と、これに連通するインク流路と、そのインク流路内に設けられたヒータとにより構成される部分を指すものとする。そして、一つのオリフィスプレートに配列されている複数の吐出口列に対応するノズルの集合(ノズル列)をインク吐出部という。従って、この実施例における記録ヘッド9には、6個のオリフィスプレートに対応して6個のインク吐出部が形成されていることとなる。
【0053】
以下、染料ブラックインクを吐出するノズル列を染料ブラック用インク吐出部、第1顔料ブラックインクを吐出するノズル列を第1顔料ブラック用インク吐出部、第2顔料ブラックインクを吐出するノズル列を第2顔料ブラック用インク吐出部、イエロインクを吐出するノズル列をイエロ用インク吐出部、マゼンタインクを吐出するノズル列をマゼンタ用インク吐出部、シアンインクを吐出するノズル列をシアン用インク吐出部という。
【0054】
さて、上記構成の記録装置において、コンソール106或いはホストから記録指令が入力されると、MPU102は給紙モータ5を駆動して給紙トレイ8から記録媒体の給送を開始する。これと共に、MPU102はさらにキャッピングモータ113を駆動してキャッピング機構を記録ヘッド9から開放させる。これによりキャリッジ2は主走査方向への移動走査が可能となる。ここで、1回の記録走査分の画像データがプリントバッファ121に蓄積されると、キャッリッジモータ3はキャリッジ2の移動走査を開始し、記録媒体への記録動作が行われる。
【0055】
以後、記録媒体の搬送動作とキャリッジの移動走査とを繰り返し記録媒体上に画像が形成される。
【0056】
次に上記構成の記録装置において実行される記録ヘッド9の回復動作の実施例について説明する。
【0057】
この実施例では、記録ヘッド9の吐出性能を維持するために、1.予備吐出、2.吸引回復、3.ワイピング回復が行われる。以下、順次各回復動作について説明する。
【0058】
1.予備吐出
この実施例の記録装置では、記録ヘッド9の各インク吐出部がキャップ手段から開放されてから実際にインクの吐出が開始されるまでの間に、記録ヘッド9の吐出性能を維持するための回復動作として、予備吐出が実行される。
【0059】
通常、この記録動作開始前の予備吐出は一律の吐出数に従って行われるか、あるいは非記録時間によって決められた吐出数に従って行われる。また、インクの色別に発数が設定されている場合もある。予備吐出は、MPU102がインク吐出数に応じてヘッドドライバ111を制御し、記録ヘッド9からインクを吐出させることによって行われる。従って、予備吐出手段は、MPU102、ヘッドドライバ111、及び記録ヘッド9によって構成される。
【0060】
また、記録動作が開始されると、必要に応じて記録中にも予備吐出が実行される。
【0061】
この実施例の記録装置では、各記録走査の間のタイミングで予備吐出が行われるのが一般的である。このときの予備吐出は、全てのノズルについて行っても良いが、前回までの記録走査で使用されなかったノズルや、使用頻度が少なかったノズルに対してのみ行うようにしても良い。また、使用した頻度に基づいて予備吐出の回数を調整するような制御を行うようにしても良い。
【0062】
記録前や記録中の予備吐出については、所定の予備吐出のインク受口までキャリッジを移動させて行うのが一般的である。インク受口の幅が記録ヘッド9に対応できる幅を有している場合には、キャリッジがインク受口の位置に停止した状態で、記録ヘッド9による予備吐出を一括して完了させることができる。但し、この場合には、幅広なインク受口を用意しなければならず、記録装置自体が大型化することが懸念される。
【0063】
従って、この実施例では、インク1色分のノズル列に対応可能なインク受口を備え、記録ヘッド9が各色のノズル列の位置で、各色に対する予備吐出を順次実行可能な構成としている。
【0064】
2.ワイピング回復
図5〜図6は、記録ヘッド9の吐出口形成面に付着したインクや塵埃を払拭するためのワイピング回復を行うワイピング機構を示す図である。
【0065】
図5において、20は染料ブラックインク、第1顔料ブラックインク、第2顔料ブラックインクを吐出するオリフィスプレート11a、11b、11cの外面(吐出口形成面)を払拭するためのワイパ(以下、ブラック側ワイパ)である。21はイエロインク、マゼンタインク、及びシアンインクを吐出するオリフィスプレート11d、11e、11fを払拭するためのワイパ(以下、カラー側ワイパ)を示している。
【0066】
また、ワイパ22は、各オリフィスプレートが取り付けられるTAB面を含む記録ヘッド9の底面部全体に付着したインクを払拭するための全面ワイパとなっている。
【0067】
ワイパ20、21および22は、図6に示すように、ワイパ固定金具によって本体内に設置されたワイパホルダ23に取り付けられている。ワイパホルダ23は、キャッピングモータ113の駆動力によって、副走査方向(矢印Y方向)に沿って配置された2本のガイドシャフト23aに沿って往復移動可能となっている。このようなワイピング機構と、その動作を制御するMPU102とによってワイピング回復手段が構成されている。
【0068】
ワイピング動作を行わない時、ワイパ20、21、及び22は、ホームポジションに位置する記録ヘッド9の各オリフィスプレートとの対向位置から退避した初期位置(図6に示す位置)に保持されている。また、ワイピング動作時には、キャッピングモータ113の駆動により、ワイパ20、21、及び22はワイパホルダ23と共に図6のY1方向へと移動する。これにより、オリフィスプレートおよび吐出口形成面全体がワイパ20、21、及び22によって払拭される。
【0069】
このワイパによる払拭動作(ワイピング動作)が終了すると、キャリッジ2の移動によって記録ヘッド9はワイピング動作領域の外に退避する。この後、ワイパホルダ23の移動によってワイパ20、21、及び22は、ワイピング動作時と逆方向(Y2方向)へと移動し、初期位置に復帰する。
【0070】
この実施例では、記録媒体各ページの記録終了時に、ワイピング動作を実行すべきか否かの判断を行い、実行すべきであると判断された場合のみ上述したようなワイピング動作を行う。ワイピング動作を実行すべきか否かの判断は、記録装置本体内に設けられたドットカウンタによって記録媒体1ページ分の記録における吐出回数をカウントし、そのカウント値に基づいてMPU102が行う。即ち、カウント値が所定の閾値以上である場合、MPU102はワイピングを実行すべきと判断し、ワイピング動作を実行する。
【0071】
但し、このような構成や制御は本発明を限定するものではない。例えば、この実施例で適用可能な記録媒体としてはA4サイズ程度としているが、記録領域がさらに大きいプロッターや大判プリンタに本発明を適用する場合には、各記録走査後にワイピングを実行すべきか否かの判断を行うようにしても良い。
【0072】
3.吸引回復
この実施例の記録装置は、ノズル内のインクや吐出口形成面に付着したインクを吸引するための吸引回復動作を行う吸引回復機構がキャリッジ2のホームポジションに設けられている。
【0073】
上述した図6には吸引回復機構も模式的に示されている。図6に示す吸引回復機構は、キャップホルダ202に保持された一対のキャップ201a、201bと、キャップホルダ202と共に両キャップを昇降させる昇降機構と、各キャップ201a、201bに接続されたポンプ203a、203bとを有する。キャップ201a、201bには、吸引口201c、201dが形成されており、吸引口201cはポンプ203aに、吸引口201dはポンプ203bに夫々連結されている。ポンプ203a、203bは、キャッピングモータ113の駆動力を用いてそれぞれ独立に駆動可能である。
【0074】
キャップ201aは記録ヘッド9のオリフィスプレート11d、11e、11fに当接し、イエロインク、マゼンタインク、シアンインクを吸引する。同様に、キャップ201bは記録ヘッド9のオリフィスプレート11a、11b、11cに当接し、染料ブラックインク、第1顔料ブラックインク、第2顔料ブラックインクを吸引する。なお、この吸引回復機構とその駆動を制御するMPU102とによって吸引回復手段が構成されている。
【0075】
吸引回復動作が行われない待機状態において、キャップ201a、201bはワイパホルダ23の移動経路より下方の開放位置に保持されている。また、吸引回復動作を行う場合には、キャリッジ2がホームポジションへ移動した後、キャップ201a、201bが昇降機構によってキャップホルダ202と共に矢印Z方向に上昇する。これにより、ワイパキャップ201aはオリフィスプレート11d〜11fに、キャップ201bはオリフィスプレート11a〜11cに夫々密接し、各ノズルのインク吐出口は外気と遮断された状態になる。ここで、ポンプ203a、203bが駆動されると、キャップ201a、201b内には負圧が発生する。この負圧によって吐出口形成面や各ノズル内で増粘、固着したインクはポンプ側と吸引され、除去される。
【0076】
上記の吸引回復動作は、所定時間毎あるいは所定の吐出数毎に自動的に行われ、これによって記録ヘッド9の吐出性能の低下を軽減することができる。
【0077】
しかし、この実施例のように、互いに混合することで凝固する染料ブラックインク、顔料ブラックインクを同一キャップで吸引する構成であると、装置の使用環境や使用頻度、放置状態、或いは耐久性などによって、キャップ内にインクの堆積が生じる。このため、互いに混合することで凝固するインク対は別々のキャップで吸引することが望ましいが、独立したキャップを備えると、本体の構成、大きさやインク吐出順等に制約を与えることとなる。
【0078】
そこで、この実施例では互いに混合することで凝固する染料ブラックインク、顔料ブラックインクを同一キャップで吸引する構成を採用しながら、キャップ内インク堆積を防止するようにしている。
【0079】
以下、この点について2つの実施例を説明する。
【実施例1】
【0080】
図7は実施例1に従うクリーニングシーケンスを示すフローチャートである。
【0081】
まず、ステップS10でキャップ201bにより記録ヘッド9のオリフィスプレート11a〜11cをキャッピングする。次に、ステップS20では、吸引ポンプ203bを駆動して染料ブラックインクと顔料ブラックインクを吐出するオリフィスプレート11a〜11cのノズルの吸引回復を実行する。
【0082】
その吸引回復の直後に、ステップS30では、キャップ201b内に対して吐出口列15b、15cから顔料ブラックインクの予備吐出を行う。その後直ちに、ステップS40ではキャップ201b内のインクの空吸引を行う。
【0083】
このような処理を実行することで、染料ブラックインク、及び、染料ブラックインクと顔料ブラックインクの反応物がキャップ内に滞留するのを防止する。
【0084】
このとき、キャップ201b内に予備吐出を実行しながら空吸引を行うのではなく、予備吐出したインクをキャップ内にある程度貯めてから空吸引を行うことが望ましい。
【0085】
図8は空吸引と予備吐出の動作タイミングをずらす様子を示す図である。
【0086】
或いは、図8に示すように予備吐出と空吸引の開始タイミングをずらし、時間当たりの予備吐出量と空吸引量のバランスをとることで、キャップ内にある程度インクを貯めながら空吸引することも好ましい。これはキャップ内の隅々にまで予備吐出したインクを行き渡らせ、反応インクを排出しやすくするためである。
【0087】
また、顔料ブラックインクの予備吐出量は吐出口列15bからの第1顔料ブラックインク、吐出口列15cからの第2顔料ブラックインクとも約0.4g相当としている。
【0088】
これは以下のようなインクの特性に基づいている。
【0089】
図9は染料ブラックインクと顔料ブラックインクを混合した際の粘度上昇率を示す図である。図9において、縦軸はインクの粘度、横軸は染料ブラックインクの比率(%)、破線はインクの平均粘度を示す。
【0090】
従って、染料ブラックインクの比率(%)が0%であれば、そのインクは100%顔料ブラックインクであり、50%であれば、そのインクは顔料ブラックインクを50%含み、100%であれば、そのインクは100%染料ブラックインクである。ここで、粘度上昇率=混合インクの粘度/各々のインク粘度の平均粘度と定義する。
【0091】
図9に示すように、インク粘度はほぼ混合比50:50で最大となり、粘度がほぼ平均粘度並に抑えられるのは混合比0:100〜20:80、80:20〜100:0であることがわかる。
【0092】
この実施例での吸引後にキャップ内に残存するインク量は各約0.1gである。従って、吸引直後に第1、第2顔料ブラックインク各々の予備吐量を0.4g、計0.8gとすることで混合比を約1:10とすることができる。
【0093】
図10は吐出口列15a、15b、15cから吐出されたインクのキャップ内残存量を示す図である。図10において、□は0.1gのインクを示している。
【0094】
図10から分かるように、キャップ201bにはステップS20の吸引回復直後には、第1、第2顔料ブラックインクと染料ブラックインクとが夫々0.1g残存している。一方、ステップS30直後には、第1、第2顔料ブラックインクの残存量は夫々、0.5gとなる。
【0095】
このようにして、ステップS40の空吸引が行なわれると、その後、キャップに残る混合インクの顔料インクと染料インクの混合比は約10:1となり、染料ブラックインクの比率は約9.1%程度になる。図9から分かるように示すように、この時の混合インクの粘度は平均粘度程度であり、粘度増加は発生しない。
【0096】
従って以上説明した実施例によれば、互いに混合することで凝固する染料ブラックインクと顔料ブラックインクを同一のキャップで吸引する構成でありながら、互いに反応するこれらのインクを効果的にキャップ内から排出することができる。これにより、キャップ内のインク堆積を防止することができる。その結果、高精細な画像を安定的に出力することが可能となる。
【実施例2】
【0097】
ここでは、染料ブラックインクと顔料ブラックインクを吐出する吐出口列に関し、同一のキャップで吸引回復した直後に顔料ブラックインクを吐出する吐出口列の予備吐出と空吸引を複数回行う例について説明する。
【0098】
図11は実施例2に従うクリーニングシーケンスを示すフローチャートである。
【0099】
なお、図11において、既に実施例1で説明したのと同じ処理ステップには同じステップ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0100】
図11によれば、ステップS25で顔料ブラックインクを吐出する吐出口列のみの予備吐出と空吸引の実行回数(n)を変数(N)にセットする。ステップS30〜S40の処理を終了すると、ステップS45において変数(N)の値を“−1”デクリメントして、ステップS50でN=0となったかどうかを調べる。ここで、N≠0であれば、処理はステップS30に戻り、顔料ブラックインクを吐出する吐出口列の予備吐出と空吸引を繰返し、N=0であれば、処理を終了する。
【0101】
ここで、n=2の場合を考える。
【0102】
実施例2では、このときの予備吐量は1回当たり、第1、第2顔料ブラックインク各々0.2g、計0.4gとする。即ち、予備吐出2回合計で、その吐出量は各々0.4g、計0.8gとなる。つまり、実施例2では、2回の予備吐出でインク吐出量が実施例1における1回の予備吐出と同量になる。
【0103】
発明者らの実験によれば、キャップ内インク堆積防止効果は実施例1に比べ、実施例2の方さらに高いと考えられる。これは以下のように考えられる。
【0104】
図12はキャップ内インク堆積防止効果を検証するための実験を示す図である。図12において、□は0.1gのインクを示している。
【0105】
図12(a)は実施例1のような状態を作り出して検証する様子を示す。即ち、ステップS20直後の状態を作り出すため、インクAを0.2gとインクBを0.1g、キャップに注入し、その後、ステップS30直後の状態を作り出すため、インクAを0.8g、キャップに注入する。その後、ステップS40のように空吸引を行なう。このようにして得られた、キャップ残存インクの内のインクBの比率は5%であった。
【0106】
ここで、インクAとは顔料ブラックインクをインクBとは染料ブラックインクを想定すれば良い。
【0107】
図12(b)は実施例2のような状態を作り出して検証する様子を示す。即ち、ステップS20直後の状態を作り出すため、インクAを0.2gとインクBを0.1g、キャップに注入し、その後、ステップS30直後の状態を作り出すため、インクAを0.4g、キャップ注入する。その後、ステップS40のように空吸引を行なう。さらに、もう一度、ステップS30直後の状態を作り出すため、インクAを0.4g、キャップに注入し、その後、ステップS40のように空吸引を行なう。このようにして得られたキャップ残存インクの内のインクBの比率は1%であった。
【0108】
図12(c)は実施例2のような状態を作り出し、顔料ブラックインクを吐出する吐出口列のみの予備吐出と空吸引の実行回数(n)を8回とし、1回当たりインクAのキャップ注入量を0.1gとした場合を示す。このときに得られたキャップ残存インクの内のインクBの比率は20%であった。
【0109】
図12(a)〜(c)から分かるように、追加するインク量の合計が同量であっても、何回かに分けることによって、インクBを薄める効果が異なることがわかる。
【0110】
図12(a)の場合に比べ図12(b)の場合の薄め効果が高い理由には、1回目のインク注入で十分キャップ内の隅々にまでインクを行き渡らせ空吸引を行った上に、さらに再度のインクの注入、空吸引により、インクB比率を下げることができることがある。図12(a)の場合に比べ図12(c)の場合の薄め効果が低い理由には、1回のインク注入で十分キャップ内の隅々にまでインクを行き渡らせることができずインクBを効果的に排出することができないことがある。
【0111】
図13は同量のインクAを回数を異ならせて注入して吸引回復と予備吐出を行なった場合の残存混合インクにおけるインクBの比率を示す図である。
【0112】
図13において、(a)、(b)、(c)は夫々、図12(a)、(b)、(c)に対応している。
【0113】
図13(b)では、毎回の吸引回復と予備吐出後に注入されたインクAがキャップ内に行き渡っているが、図13(c)では、毎回の吸引回復と予備吐出後に注入されたインクAがキャップ内の局所領域に留まっていることが模式的に示されている。従って、図13(c)では注入されたインクが残存インクと十分に混合しないままに、次の吸引回復と予備吐出が発生する。
【0114】
このような検討結果から、以上説明した実施例に従えば、吸引回復と予備吐出の回数とその後の予備吐出インク吐出量とを実験的に或いは経験的に定めることで、最も効果的なインク堆積防止を達成することができる。
【0115】
なお、以上した実施例では、染料ブラックインクと顔料ブラックインクとが互いに混合することによって凝固反応などを生じる場合を例に採り説明したが、それ以外の反応の組み合わせの場合にも、本発明は適用可能である。また、互いに反応するインクが複数種存在する場合にも本発明は適用可能である。
【0116】
また、上述の実施例では、複数の吐出口列から顔料ブラックインクを吐出する構成としたが本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、キャップ内のインクが所定の範囲内の混合比となるように、顔料ブラックインクが吐出されればよく、染料ブラックインクと同じく、1つの吐出口列から顔料ブラックインクを吐出する構成としてもよい。なお、上述の実施例では、染料ブラックインクに対して顔料ブラックインクを多く吐出する構成としたが、逆に、染料ブラックインクを多く吐出する構成としてもよい。
【0117】
なお、以上の実施例において、記録ヘッドから吐出される液滴はインクであるとして説明し、さらにインクタンクに収容される液体はインクであるとして説明したが、その収容物はインクに限定されるものではない。例えば、記録画像の定着性や耐水性を高めたり、その画像品質を高めたりするために記録媒体に対して吐出される処理液のようなものがインクタンクに収容されていても良い。
【0118】
以上の実施例は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出のために熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体等)を備え、その熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式を用いて記録の高密度化、高精細化が達成できる。
【0119】
さらに加えて、本発明のインクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力装置として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、複数の機器(例えばホストコンピュータ、インタフェース機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置など)に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の内部構成を示す概観斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すインクジェット記録装置に搭載する記録ヘッドの外観斜視図である。
【図4】図3に示す記録ヘッドの内部構造を示す側断面図である。
【図5】ワイピング機構のワイパを示す斜視図である。
【図6】ワイピング機構を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例1に従う吸引シーケンスの一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に従う吸引シーケンス中の予備吐出と空吸引のタイミングを示す図である。
【図9】本発明の実施例1で用いられる染料ブラックインクと顔料ブラックインクを混合した際の粘度を示す図である。
【図10】本発明の実施例1で用いられる吸引シーケンスでの染料ブラックインクと顔料ブラックインクの比率を示す図である。
【図11】本発明の実施例2に従う吸引シーケンスの一例を示す図である。
【図12】本発明の実施例2におけるインク薄め効果を説明する図である。
【図13】本発明の実施例2におけるインク薄め効果を説明する図である。
【符号の説明】
【0122】
1 インクジェット記録装置
2 キャリッジ
9 記録ヘッド
11a 染料ブラックオリフィスプレート
11b 第1顔料ブラックオリフィスプレート
11c 第2顔料ブラックオリフィスプレート
11d イエロオリフィスプレート
11e マゼンタオリフィスプレート
11f シアンオリフィスプレート
15a 染料ブラックインク吐出口列
15b 第1顔料ブラックインク吐出口列
15c 第2顔料ブラックインク吐出口列
15d イエロインク吐出口列
15e マゼンタインク吐出口列
15f シアンインク吐出口列
20、21 ワイパ
102 MPU
110 搬送モータ
120 ワイピング機構
201a、201b キャップ
203a、203b 吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から夫々第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行なう記録装置であって、
前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2の記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング手段と、
前記キャッピング手段により前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復手段と、
前記第1記録要素列と前記第2記録要素列の記録要素を駆動してインクの予備吐出を行なう予備吐出手段と、
前記吸引回復手段による吸引回復動作直後に、前記キャッピング手段により前記部材で前記インク吐出面をキャップしたまま、前記第1或いは前記第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出を前記部材に対して行なわせるように前記予備吐出手段を制御するとともに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記部材に対する予備吐出によるインク吐出量が一定量以上となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記予備吐出手段による前記第1或いは前記第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出と、前記吸引回復手段による吸引回復を複数回行なうように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記複数回のインクの予備吐出によるインク吐出量の合計が、1回のインク予備吐出と1回の吸引回復動作とで前記制御手段による制御が完了する場合のインク吐出量と同じであることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1種のインクは染料系インクであり、
前記第2種のインクは顔料系インクであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記染料系インクと前記顔料系インクとは両者の混合により凝固或いは粘度が増加することを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記染料系インクと前記顔料系インクの混合インクは、両者の混合比により粘度が変化し、
前記染料系インクと前記顔料系インクのいずれか一方の比が高い場合には粘度が低く、両者の比が同じに近いほど粘度は高くなることを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から夫々第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行なう記録装置の吸引回復方法であって、
前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2の記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング工程と、
前記キャッピング工程において前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復工程と、
前記第1記録要素列と前記第2記録要素列の記録要素を駆動してインクの予備吐出を行なう予備吐出工程と、
前記吸引回復工程における吸引回復動作直後に、前記部材で前記インク吐出面をキャップしたまま、前記第1或いは前記第2記録要素列の記録要素からインクの予備吐出を前記部材に対して行なわせるように前記予備吐出工程を制御するとともに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復工程を制御する制御工程とを有することを特徴とする吸引回復方法。
【請求項9】
インクジェット記録ヘッドに設けられた第1の記録要素列と第2の記録要素列から接触することで凝固する第1種のインクと第2種のインクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置であって、
前記インクジェット記録ヘッドの第1記録要素列と第2記録要素列とが備えられたインク吐出面を1つの部材によりキャップするキャッピング手段と、
前記キャッピング手段により前記インク吐出面をキャップした前記部材内を吸引して前記第1の記録要素列と前記第2の記録要素列のインク吐出性能を回復させる吸引回復手段と、
前記第1記録要素列または前記第2記録要素列から予備吐出を行う予備吐出手段と、
前記吸引回復手段による吸引回復動作後に、前記部材内の第1、第2種のインクが所定の混合比となるよう前記第1記録要素列または前記第2記録要素列から予備吐出を行わせるよう前記予備吐出手段を制御するとともに、さらに、さらに、前記部材内を吸引して吸引回復を行なわせるように前記吸引回復手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−268806(P2007−268806A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95853(P2006−95853)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】