説明

試料中の測定対象物の免疫測定方法および免疫測定試薬

【課題】ヘモグロビンの影響が抑制された、試料中の測定対象物の免疫測定方法および免疫測定試薬を提供する。
【解決手段】試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫測定方法、および細胞溶解物を含有することを特徴とする、測定対象物の免疫測定試薬。試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることにより、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の免疫測定方法および免疫測定試薬、ならびに、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響を抑制する方法、および、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響の抑制試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血液成分を免疫学的に測定する場合、全血から血球を除去した血清または血漿が試料として用いられるのが一般的である。しかし、血球を除去するためには遠心分離機等の専用の装置が必要であり、手間もかかるため、直接全血検体を測定する方法が提案されている(特許文献1参照)。全血を試料とする場合、溶血により検体に混入するヘモグロビン等の血球成分や血球の膜成分が、光学的な検出系に影響したり、免疫反応を阻害したり、測定対象物質を吸着することにより、測定に影響がでる問題がある。このような問題を回避するため、溶血をさせずに測定する全血を試料とする免疫測定方法が報告されている(特許文献2、3、4および5参照)。
【0003】
細胞内蛋白質等の血球成分を測定する場合には、血球を溶解する必要があるため、上記の溶血をさせずに測定する方法を用いることができない。この場合には、フローサイトメトリーにより、対象の血球を分離してから、分離した細胞を溶解させて目的の血球成分を測定する方法がとられてきたが、フローサイトメトリーのための専用の装置が必要であり、手間がかかる。一方、細胞内蛋白質の簡便な測定法の例として、界面活性剤で全血中の血球を溶解させたものを測定試料とした、MxAタンパク質の免疫測定法が報告されている(非特許文献1参照)。この報告では特にヘモグロビン等の影響を抑制するための手段はとられていない。したがって全血等のヘモグロビンを含有する試料中の血球を溶解させて、簡便かつ高感度で、ヘモグロビン等の影響を抑制した測定方法については、未だ確立されているとは言えなかった。
【特許文献1】特開平10−48214号公報
【特許文献2】特開平6−265554号公報
【特許文献3】国際公開第96/04558号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/73203号パンフレット
【特許文献5】特開2004−45395号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・インターフェロン・リサーチ(Journal of Interferon Research),(米国),1992年,第12巻,第2号,p.67−74
【非特許文献2】ペディアトリック・リサーチ(Pediatric Research),(米国)、1997年,第41巻,第5号,p.647−650
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ヘモグロビンの影響が抑制された、試料中の測定対象物の免疫測定方法および免疫測定試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることにより、ヘモグロビンの影響を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]〜[23]に関する。
[1]試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫測定方法。
[2]免疫測定方法が、サンドイッチ法または競合法である[1]に記載の方法。
[3]試料中の測定対象物と(i)〜(iii)のいずれかとを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫測定方法。
(i)該測定対象物に結合する第1の抗体、および、該測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合し、かつ、標識が結合した標識化抗体。
[4]試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響を抑制する方法。
【0006】
[5]試料が、全血である[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]全血が、血球を溶解させた全血である[5]に記載の方法。
[7]血球を溶解させた全血が、血球を界面活性剤により溶解させた全血である[6]に記載の方法。
[8]細胞溶解物が、動物細胞の細胞溶解物である[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]動物細胞が、動物の株化細胞である[8]に記載の方法。
[10]動物の株化細胞が、Raji細胞またはT98G細胞である[9]に記載の方法。
[11]測定対象物が、MxAタンパク質またはパンクレアティティス・アソシエーテド・プロテインである[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
【0007】
[12]細胞溶解物を含有することを特徴とする、測定対象物と該測定対象物に結合する抗体との反応に及ぼすヘモグロビンの影響の抑制試薬。
[13]細胞溶解物を含有することを特徴とする、測定対象物の免疫測定試薬。
[14]さらに、(i)〜(iii)のいずれかを含有する[13]に記載の免疫測定試薬。
(i)測定対象物に結合する第1の抗体、および、測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体。
【0008】
[15]さらに、試料中の血球を溶解させるための試薬を含有する[13]または[14]に記載の免疫測定試薬。
[16]血球を溶解させるための試薬が、界面活性剤である[15]に記載の免疫測定試薬。
[17]界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である[16]に記載の免疫測定試薬。
[18]非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン系界面活性剤である[17]に記載の免疫測定試薬。
[19]ポリオキシエチレン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである[18]に記載の免疫測定試薬。
【0009】
[20]細胞溶解物が、動物細胞の細胞溶解物である[12]〜[19]のいずれかに記載の試薬。
[21]動物細胞が、動物の株化細胞である[20]に記載の試薬。
[22]動物の株化細胞が、Raji細胞またはT98G細胞である[21]に記載の試薬。
[23]測定対象物が、MxAタンパク質またはパンクレアティティス・アソシエーテド・プロテインである[12]〜[22]のいずれかに記載の試薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヘモグロビンの影響が抑制された、試料中の測定対象物の免疫測定方法および免疫測定試薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1)試料
本発明の免疫測定方法において試料として使用される試料としては、例えば、全血、全血から調製した赤血球を含む血球画分、溶血が疑われる血漿または血清、赤血球、任意の試料にヘモグロビンを添加した試料等、ヘモグロビンを含有する試料またはヘモグロビンの含有が疑われる試料があげられる。全血としては、被検者より採取した血液そのものでもよいが、採取した血液を処理したものでもよく、処理した血液が好ましい。当該処理としては、例えば抗凝固処理、溶血処理等があげられ、これらの処理を組み合わせてもよい。測定対象物が血球の細胞内成分である場合は、全血として、溶血処理した血液が好ましく、抗凝固処理と溶血処理の両処理を行った血液が特に好ましい。抗凝固処理としては、例えば採取した血液にEDTA、ヘパリン等を添加する処理等があげられる。溶血処理としては、例えば界面活性剤またはサポニン類溶液の添加、低張液との混合、凍結融解、超音波処理等があげられる。界面活性剤としては、測定系に影響せず、細胞を溶解できるものであれば、どのような界面活性剤でも用いることができるが、本発明においては非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性剤としては、例えば後述の非イオン性界面活性剤があげられる。血球画分や赤血球を試料とする場合も上記に記載したような、抗凝固処理、溶血処理等を行ったものが好ましい。
【0012】
(2)測定対象物
本発明の免疫測定方法で測定される測定対象物は、(1)であげた試料に含まれる物質であれば特に制限はなく、血球の成分、血漿中に含まれる例えば、抗体、インターロイキン、ホルモン等の蛋白質や生理活性物質、外部から投与された薬物等があげられる。具体的な測定対象物の例としては、白血球の成分であるMxAタンパク質(Mol. Cell. Biol., 9, 5062-5072, 1989; J. Virol. 64, 1171-1181, 1990)、血漿中に含まれるパンクレアティティス・アソシエーテド・プロテイン(Pancreatitis Associated Protein;以下、PAPと略す)(Digestion, 29, 242-249, 1984)等があげられる。
【0013】
(3)細胞溶解物
本発明の免疫測定方法は、試料に由来しない細胞溶解物、すなわち、試料に含まれる細胞溶解物とは別の細胞溶解物の共存下で、測定対象物と測定対象物に結合する抗体とを反応させる点に特徴がある。本発明の方法で、共存させる細胞溶解物には、試料中の細胞を溶解して免疫測定を行う場合の、試料に含まれる細胞溶解物は含まれない。例えば、全血を試料とし、全血中の血球を溶解させて測定を行う場合、血球の溶解物が共存することになるが、この溶解物とは別に、細胞溶解物を添加して、抗原抗体反応を行う。
【0014】
細胞溶解物は、細胞を溶解、すなわち細胞膜を破壊して得られる細胞質を含む液体を意味し、例えば細胞を溶解した後、遠心分離を行い上清として得ることができる。細胞の溶解は、例えば前述の溶血処理により行うことができるが、界面活性剤による溶血が好ましい。界面活性剤としては、免疫測定に影響せず、細胞を溶解できるものであれば特に制限はないが、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0015】
前述の溶血処理および細胞の溶解に使用される非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等があげられるが、ポリオキシエチレン系界面活性剤が好ましい。ポリオキシエチレン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられ、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおけるアルキルとしては、例えばオクチル、ノニル等があげられる。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの具体例(市販品)としては、例えばノニデットP−40(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)等があげられる。
【0016】
細胞溶解物の原料となる細胞は、動物細胞、植物細胞、微生物等いかなる細胞でもよいが、動物の細胞が好ましく、動物の株化細胞がより好ましい。なお、動物細胞には、非ヒト動物の細胞だけでなく、ヒトの細胞も含まれる。動物の株化細胞としては、ヒト血球系細胞から樹立されたRaji、Namalwa、HL60、ヒト神経細胞から樹立されたT98G、CCF−STTG1、H4、ヒト子宮癌細胞から樹立されたHeLa、サル腎臓細胞から樹立されたCOS−7、Vero、ハムスター卵巣細胞から樹立されたCHO、ハムスター腎臓細胞から樹立されたBHK21、マウス繊維芽細胞から樹立されたNIH/3T3、ラットミエローマ細胞から樹立されたNS0、イヌ腎臓細胞から樹立されたMDCK等があげられる。
【0017】
細胞溶解物は、本発明の免疫測定方法における、試料中の測定対象物が関わる抗原抗体反応に共存される。すなわち、細胞溶解物は、サンドイッチ法における1次反応(測定対象物に結合する第1の抗体と試料中の測定対象物との反応)、競合法における競合反応に共存される。細胞溶解物は、あらかじめ試料に添加されていてもよいが、反応液に添加されてもよい。例えば、細胞溶解物を含む試料希釈液を調製しておき、試料を検体希釈液で希釈したものを試料として使用することができる。また、細胞溶解物を含む試料希釈液には、試料中の血球を溶解させるための前述の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0018】
細胞溶解物の添加量は、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響を抑制する濃度であれば特に制限はないが、例えば測定対象物の反応液中、細胞溶解物の蛋白質濃度として、1μg/mL〜2mg/mL、より好ましくは5〜50μg/mLの量添加する。容量としては、検体の0.1〜10%の量が好ましい。
細胞溶解物は、前述の測定対象物を含有していないものが好ましく、また、測定対象物を含有する場合は、あらかじめ、測定対象物の濃度を決定したものが好ましい。
【0019】
(4)抗体
本発明の測定方法において使用される抗体としては、測定対象物に特異的に結合する抗体であれば特に制限はなく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれも使用できるが、モノクローナル抗体が好ましい。また、本発明においては、抗体のみならず、抗体をパパイン処理により得られるFab、ペプシン処理により得られるF(ab’)2、ペプシン処理−還元処理により得られるFab’等のFc部分を除去した抗体フラグメントも使用できる。抗体フラグメントとしては、F(ab’)2が特に好ましい。
【0020】
本発明において使用する抗体は、測定対象物またはそのエピトープに相当するペプチドを抗原として用いて通常の方法により取得することができるが、市販品としても入手可能である。
【0021】
測定対象物がMxAタンパク質である場合、MxAタンパク質に特異的に結合する抗体としては、例えば、WO 96/05230に記載された、ハイブリドーマ細胞株KM1122、KM1123、KM1124(FERM BP−4729)、KM1125、KM1126、KM1127、KM1128、KM1129、KM1130、KM1131、KM1132(FERM BP−4730)、KM1133、KM1134、KM1135(FERM BP−4731)がそれぞれ産生する抗ヒトMxAタンパク質モノクローナル抗体KM1122、KM1123、KM1124、KM1125、KM1126、KM1127、KM1128、KM1129、KM1130、KM1131、KM1132、KM1133、KM1134、KM1135等があげられる。測定対象物がPAPである場合、PAPに特異的に結合する抗体としては、例えば6F3E4(WO94/15218)、16F4B8(WO94/15218)等があげられる。
【0022】
(5)競合物質
本発明において「競合物質」とは、本発明の免疫測定法において用いる「測定対象物に結合する抗体」に結合できる物質であって、かつその結合が、測定対象物と競合的であるような物質を意味し、測定対象物そのものも含まれる。「競合物質」は、試料中の測定対象物を競合法により測定する際に使用されるものである。したがって、競合法において用いる測定対象物に結合する抗体は、測定対象物および競合物質に結合する抗体であり、測定対象物と結合して免疫複合体を生成するとともに、競合物質とも結合して免疫複合体を生成する。競合物質としては、測定対象物に結合する抗体が認識するエピトープの構造と同じ構造を有している物質が好ましく、さらに測定対象物に結合する抗体に対する結合の強さが、該抗体に対する測定対象物の結合の強さと同程度であるものが好ましい。測定対象物そのものは競合物質として好適である。
【0023】
(6)免疫測定方法
本発明の免疫測定方法は、試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする方法である。本発明の免疫測定方法としては、例えばサンドイッチ法、競合法等があげられる。例えば、試料中の測定対象物と、以下の(i)〜(iii)のいずれかとを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする免疫測定方法があげられる。(i)はサンドイッチ法、(ii)および(iii)は競合法である。
(i)該測定対象物に結合する第1の抗体、および、該測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合し、かつ、標識が結合した標識化抗体。
【0024】
具体的には、例えば、以下の態様の方法があげられる。測定方法1および2はサンドイッチ法、測定方法3〜6は試料中の測定対象物と競合物質を競合させる競合法、測定方法7は、免疫複合体と免疫複合体に含まれない標識化抗体または標識化競合物質との分離(B/F分離)を行わないホモジニアス法である。
【0025】
測定方法1
以下の(a)〜(e)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、測定対象物に結合する第1の抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させて、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)(a)の工程で生成した免疫複合体と、測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体とを反応させ、第1の抗体、測定対象物および標識化抗体とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(c)(b)の工程で生成した免疫複合体と該免疫複合体に含まれない標識化抗体とを分離する工程;
(d)(b)の工程で生成した免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および、
(e)(b)の工程で生成した免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物の濃度を決定する工程。
【0026】
第1の抗体は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。工程(a)と工程(b)は順次行っても、同時に行ってもよい。第1の抗体と結合した測定対象物に第2の抗体が結合することができれば、第1の抗体が認識する測定対象物中の部位と、第2の抗体が認識する測定対象物中の部位とは同じであっても異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。
【0027】
測定方法2
以下の(a)〜(f)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、測定対象物に結合する第1の抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させて、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)(a)の工程で生成した免疫複合体と、測定対象物に結合する第2の抗体とを反応させ、第1の抗体、測定対象物および第2の抗体からなる免疫複合体を生成させる工程;
(c)(b)の工程で生成した免疫複合体と、第2の抗体に結合する第3の抗体に標識が結合した標識化抗体とを反応させ、標識化抗体を含む免疫複合体を生成させる工程;
(d)(c)の工程で生成した免疫複合体と、該免疫複合体に含まれない標識化抗体とを分離する工程;
(e)(c)の工程で生成した免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および
(f)(c)の工程で生成した免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物の量を決定する工程。
【0028】
第1の抗体は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。工程(a)〜(c)は順次行っても、同時に行ってもよい。第1の抗体と結合した測定対象物に第2の抗体が結合することができれば、第1の抗体が認識する測定対象物中の部位と、第2の抗体が認識する測定対象物中の部位とは同じであっても異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。
【0029】
なお、試料中の測定対象物がある特定の抗原に対する抗体である場合は、測定方法1または2において、第1の抗体の代わりに該抗原を用いることにより、該測定対象物の測定を行うこともできる。
【0030】
測定方法3
以下の(a)〜(d)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、標識化競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させ、該抗体と標識化競合物質とからなる免疫複合体、および、該抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)該抗体と標識化競合物質とからなる免疫複合体を、未反応の標識化競合物質から分離する工程;
(c)該抗体と標識化競合物質とからなる免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および、
(d)該抗体と標識化競合物質とからなる免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物の濃度を決定する工程。
抗体は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。
【0031】
測定方法4
以下の(a)〜(d)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させ、標識化抗体と競合物質とからなる免疫複合体および標識化抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)標識化抗体と競合物質とからなる免疫複合体を、未反応の標識化抗体、および、標識化抗体と測定対象物とからなる免疫複合体から分離する工程;
(c)標識化抗体と競合物質とからなる免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および、
(d)標識化抗体と競合物質とからなる免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物濃度を決定する工程。
【0032】
競合物質は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。なお、競合物質が測定対象物と同じ構造である場合には、(a)の工程において不溶性担体に固定化された競合物質を用いる。
【0033】
測定方法5
以下の(a)〜(f)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する第1の抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させ、第1の抗体と競合物質とからなる免疫複合体、および、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)第1の抗体と競合物質とからなる免疫複合体を、未反応の第1の抗体、および、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体から分離する工程;
(c)第1の抗体と競合物質とからなる免疫複合体と、第1の抗体に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体とを反応させ、第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体を生成させる工程;
(d)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体と、未反応の標識化抗体とを分離する工程;
(e)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および、
(f)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物の濃度を決定する工程。
【0034】
競合物質は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。なお、競合物質が測定対象物と同じ構造である場合には、(a)の工程において不溶性担体に固定化された競合物質を用いる。
【0035】
測定方法6
以下の(a)〜(e)の工程を順次行う測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する第1の抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させ、第1の抗体と競合物質とからなる免疫複合体、および、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)第1の抗体と競合物質とからなる免疫複合体、および、第1の抗体と測定対象物とからなる免疫複合体と、第1の抗体に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体とを反応させ、第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体、および、第1の抗体、測定対象物および標識化抗体とからなる免疫複合体を生成させる工程;
(c)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体を、第1の抗体、測定対象物および標識化抗体とからなる免疫複合体、ならびに、未反応の標識化抗体から分離する工程;
(d)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体中の標識の量を測定する工程;および、
(e)第1の抗体、競合物質および標識化抗体からなる免疫複合体中の標識の量から、試料中の測定対象物濃度を決定する工程。
【0036】
競合物質は、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。なお、競合物質が測定対象物と同じ構造である場合には、(a)の工程において不溶性担体に固定化された競合物質を用いる。
【0037】
測定方法7
以下の(a)〜(c)の工程を有する測定方法。
(a)試料中の測定対象物と、測定対象物に特異的に結合する第1の抗体を標識物質1で標識した標識化抗体1、および、測定対象物に特異的に結合する第2の抗体を標識物質1とは異なる標識物質2で標識した標識化抗体2とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させ、標識化抗体1、測定対象物および標識化抗体2からなる免疫複合体を生成させる工程;
(b)標識物質1と標識物質2の相互作用の変化量を測定する工程;および
(c)相互作用の変化量から試料中の測定対象物の量を求める工程。
【0038】
第1の抗体と結合した測定対象物に第2の抗体が結合することができれば、第1の抗体が認識する測定対象物中の部位と、第2の抗体が認識する測定対象物中の部位とは同じであっても異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。
【0039】
上記の通り、測定方法1〜6は、B/F分離を伴う測定法(ヘテロジニアス法)である。測定方法1の工程(c)、測定方法2の工程(d)、測定方法3および4の工程(b)、測定方法5の工程(b)および(d)、測定方法6の工程(c)がB/F分離の工程である。このB/F分離は、抗体または競合物質が不溶性担体に固定化されている場合には、反応溶液を除去した後、不溶性担体を洗浄することにより容易に行うことができる。すなわち、抗原抗体反応後に反応溶液を除去し、不溶性担体を洗浄液により洗浄することにより、不溶性担体上に生成した免疫複合体と未反応の標識体(標識化抗体、標識化競合物質)とを分離することができる。洗浄液としては、リン酸緩衝化生理食塩水(0.15 mol/L 塩化ナトリウムを含有する10 mmol/L リン酸緩衝液、pH 7.2、以下、PBSと記す)、界面活性剤を含有するPBS、後述の水性媒体等をあげることができる。当該界面活性剤としては、例えばツイーン(Tween)20等の非イオン性界面活性剤等があげられる。また、測定方法1または2において、第1の抗体が不溶性担体に固定化されている場合には、工程(a)と工程(b)との間に不溶性担体を洗浄する工程を挿入することもできる。また、測定方法2において、第1の抗体が不溶性担体に固定化されている場合には、工程(b)と工程(c)との間に不溶性担体を洗浄する工程を有することが好ましい。
【0040】
測定方法3において、測定対象物に結合する抗体が不溶性担体に固定化されていない場合は、(c)の工程で標識化競合物質に結合せず、該抗体に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体を添加して、免疫複合体を不溶性担体に結合させた後、反応溶液を除去し、さらに不溶性担体を洗浄することにより、免疫複合体と、免疫複合体に含まれない標識化競合物質とを分離することができる。また、標識化競合物質に結合せず、該抗体に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体の存在下で、(a)の工程の免疫複合体を生成させる反応を行い、免疫複合体の生成と免疫複合体の不溶性担体への固定化を同時に行った後、反応溶液を除去し、さらに不溶性担体を洗浄することにより、免疫複合体と、免疫複合体に含まれない標識化競合物質を分離することができる。標識化競合物質に結合せず、該抗体に結合する結合性物質としては、例えば、該抗体の定常領域と結合する抗体等があげられる。また測定対象物がタンパク質でない場合は、(c)の工程で、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール等のタンパク質沈殿剤を添加して、免疫複合体のみを沈殿させた後、遠心分離することにより、免疫複合体と、免疫複合体に含まれない標識化競合物質を分離することができる。
【0041】
測定方法1または2の方法において、第1の抗体が不溶性担体に固定化されていない場合は、B/F分離の工程において、標識化抗体に結合せず、第1の抗体に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体を添加するか、あるいは免疫複合体を生成させる工程を、標識化抗体に結合せず、第1の抗体に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体の存在下で行い、それぞれ反応溶液を除去した後、不溶性担体を洗浄することにより、標識化抗体と免疫複合体に含まれない標識化抗体とを分離することができる。標識化抗体に結合せず、第1の抗体に結合する結合性物質としては、例えば、第1の抗体と標識化抗体の作製に用いた動物種が異なる場合には、第1の抗体の作製に用いた動物種の免疫グロブリンに対する抗体等があげられ、第1の抗体が定常領域を有する抗体で、標識化抗体がFabやF(ab’)2、Fab’等の定常領域を有しない抗体フラグメントである場合であれば、第1の抗体の定常領域に特異的に結合する抗体等があげられる。
【0042】
測定方法4〜6の方法において、競合物質が不溶性担体に固定化されていない場合は、測定対象物と競合物質が異なる構造を有する場合であれば、測定対象物に結合せず、競合物質に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体を反応液中に添加するか、あるいは免疫複合体を生成させる工程を、測定対象物に結合せず、競合物質に結合する結合性物質を固定化した不溶性担体の存在下で行い、それぞれ反応溶液を除去した後、不溶性担体を洗浄することにより、競合物質を含有する免疫複合体(競合物質と標識化抗体とからなる免疫複合体、競合物質と第1の抗体とからなる免疫複合体、あるいは、競合物質、第1の抗体および標識化抗体からなる免疫複合体)のみを分離することができる。測定対象物に結合せず、競合物質に結合する結合性物質としては、例えば、測定対象物には存在せず、競合物質だけが有する部分構造と結合する抗体等があげられる。
【0043】
これらの測定方法において、それぞれ(a)の工程を、(3)に記載した細胞溶解物の共存下で行うことにより、ヘモグロビンの影響を抑制することができ、より正確な測定を行うことができる。
【0044】
(7)不溶性担体および、抗体または競合物質の不溶性担体への固定化
抗体または競合物質を固定化するための不溶性担体としては、抗体または競合物質を安定に保持できるものであればいかなるものも包含される。不溶性担体の好ましい素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックス、磁性粒子や金属等があげられる。不溶性担体の好ましい形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックス等の微粒子、スティック等があげられる。例えば、1枚に96ウェルを有するポリスチレン製のマイクロタイタープレート等が好ましい。
【0045】
抗体または競合物質の不溶性担体への固定化方法としては、物理学的結合を利用した方法と化学的結合を利用した方法またはこれらの併用等、公知の方法が用いられる。物理学的結合としては、例えば静電的結合、水素結合、疎水結合等があげられる。化学的結合としては、例えば共有結合、配位結合等があげられる。例えば、ポリスチレン製免疫測定用マイクロタープレートを不溶性担体として使用する場合には、プレート内のウェルに抗体または競合物質の溶液を添加して、1時間から1日間、4℃〜30℃でインキュベートすることにより、物理吸着させ固定化する方法をあげることができる。
【0046】
抗体または競合物質は、直接、不溶性担体に固定化してもよいし、間接的に不溶性担体に固定化してもよい。間接的な固定化方法としては、例えばアビジンを固定化した不溶性担体に、ビオチン化した抗体または競合物質を添加し、ビオチンとアビジンとの特異的結合を介して、抗体または競合物質を不溶性担体に固定化する方法があげられる。また、不溶性担体に抗体に特異的に結合する抗体または競合物質に特異的に結合する抗体を固定化し、この抗体を介して抗体または競合物質を不溶性担体に固定化してもよい。あるいは、抗体または競合物質は、リンカーを介した共有結合により不溶性担体に固定化してもよい。リンカーとしては、例えば、抗体または測定対象物の官能基と不溶性担体の側鎖の官能基の両者と共有結合できる分子であればどのようなものでもよい。好ましい態様は、例えば、抗体または測定対象物が有する官能基と反応することができる第1の反応活性基と、不溶性担体の側鎖の官能基と反応することができる第2の反応活性基を同時に持つ分子であり、第1の反応活性基と第2の反応活性基が異なる基であることが好ましい。抗体または競合物質の官能基および不溶性担体がその表面に保持している官能基としては例えば、カルボキシ基やアミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、N−ヒドロキシサクシニル基、マレイミド基等があげられる。リンカーにおける活性な反応性基としては、例えば、アリルアジド、カルボジイミド、ヒドラジド、アルデヒド、ヒドロキシメチルホスフィン、イミドエステル、イソシアネート、マレイミド、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、ペンタフルオロフェニル(PFP)エステル、ソラレン、ピリジルジスルフィド、ビニルスルフォン等の基があげられる。
【0047】
(8)抗体または測定対象物の標識
抗体または測定対象物を標識する標識物質としては酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、ビオチン、ジゴキシゲニン、タグ配列を含むポリペプチド等があげられる。
【0048】
酵素としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ等があげられる。
蛍光物質としては、例えば、FITC(フルオレッセイン イソチオシアナート)、RITC(ローダミンB−イソチオシアナート)等があげられる。その他の蛍光物質として、例えばquantum dot(Science, 281, 2016-2018, 1998)、フィコエリスリン等のフィコビリ蛋白質、GFP(Green fluorescent Protein)、RFP(Red fluorescent Protein)、YFP(Yellow fluorescent Protein)、BFP(Blue fluorescent Protein)等の蛍光を発する蛋白質があげられる。
【0049】
発光物質としては、例えば、アクリジニウムおよびその誘導体、ルテニウム錯体化合物、ロフィン等があげられる。またルテニウム錯体化合物としては、電子供与体と共に電気化学的に発光する、Clin. Chem. 37, 9, 1534-1539, 1991に示されたものが好ましい。
放射性同位元素としては、例えば、H、14C、35S、32P、125I、131I等があげられる。
【0050】
タグ配列を含むポリペプチドとしては、FLAGペプチド(FLAGタグ、Asp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lys)、ポリヒスチジン(Hisタグ、His His His His His His)、mycエピトープペプチド(mycタグ、Glu Gln Lys Leu Ile Ser Glu Glu Asp Leu)、ヘマグルチニンエピトープペプチド(HAタグ、Tyr Pro Tyr Asp Val Pro Asp Tyr Ala)等があげられる。
【0051】
抗体または測定対象物の標識化は、抗体または測定対象物と標識物質それぞれが有するの官能基の間で、リンカーを介してまたは介さず共有結合を生じる反応によって行うことができる。官能基としては、カルボキシ基やアミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシサクシニルエステル基、マレイミド基、イソチオシアナート基等があげられる。この官能基同士の間で縮合反応を行わせることが可能である。
【0052】
リンカーを介さない結合方法としては例えば、EDC等のカルボジイミド化合物を用いる方法等があげられる。この場合、NHSまたはその誘導体等の活性エステルを使用することも可能である。イソチオシアナート基とアミノ基の間の縮合反応は、他の試薬を必要とせず、中性〜弱アルカリ性の条件で混合するだけで進行するため、好ましい。
リンカーとしては、例えば、標識物質と抗体とをそれぞれの官能基を介して結合させうる分子であればどのようなものでもよい。好ましい態様は、例えば、抗体のアミノ酸残基と反応することができる第1の官能基と、標識物質の側鎖の官能基と反応することができる第2の官能基とを同一分子内に有する分子であり、第1の官能基と第2の官能基とが異なる基であることが好ましい。リンカーの官能基としては、例えば前述の官能基があげられる。
【0053】
放射性同位元素を化学的に結合させる方法としては、文献(Antibody Immunoconj. Radiopharm., 3, 60, 1990)記載の方法があげられる。
【0054】
標識物質が酵素、アビジン、蛍光を発する蛋白質、フィコビリ蛋白質、タグ配列を含むポリペプチド等のポリペプチドである場合には、公知の遺伝子組換え技術(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)にしたがって、標識物質と抗体の融合蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターを作製し、発現ベクターを適当な宿主に導入して、宿主を培養することにより製造することができる。融合蛋白質をコードするDNAは、抗体および標識物質をそれぞれコードするDNAをPCR等でクローニングし、それぞれのDNAをリガーゼ反応で連結することにより得ることができる。
【0055】
前述の(6)の測定方法7に記載のホモジニアス法に用いられる標識物質1と2としては、1つの測定対象物に結合して近接することにより相互作用を起こす標識物質があげられる。このような標識物質として、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:fluorescence resonance energy transfer)を起こす蛍光物質があげられる。FRETとは、第1の蛍光物質が励起光を受光することによって生じた蛍光エネルギーが、近接する第2の蛍光物質の蛍光エネルギーとして利用される現象であり、2種類の蛍光物質が1〜10nmまで近接することにより起こる。FRETを起こす蛍光物質の組み合わせとしては、一方の蛍光波長のスペクトルと、他方の励起波長のスペクトルとに重なりがある組合せがあげられる。蛍光物質としては、蛍光タンパク質、低分子有機蛍光色素、無機化合物等があげられる。FRETを起こす蛍光タンパク質の組み合わせとしては、例えばCFP[緑色蛍光タンパク質(GFP)の黄色変異体]とYFP[緑色蛍光タンパク質(GFP)のシアン色変異体]との組み合わせ等があげられる。低分子有機蛍光色素の組み合わせとしては、例えばCy3とCy5の組み合わせがあげられる。無機化合物としては例えばquantum dot(Science, 281,2016-2018, 1998)があげられる。
【0056】
また、ホモジニアス法での該標識物質の組み合わせとして、バイオルミネッセンス共鳴エネルギー移動(BRET:bioluminescence resonance energy transfer)を起こす、化学発光を生じる酵素と蛍光物質との組み合わせもあげることができる。BRETを起こす酵素と蛍光物質との組み合わせとしては、酵素が基質を分解して生じる発光波長のスペクトルと、蛍光物質の励起波長のスペクトルとに重なりがある組合せがあげられる。例えば酵素としてウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)、基質として例えばディープブルーC[Deep Blue C、パッカードバイオサイエンス(Packard BioScience)社製]、蛍光物質としてGFPを用いる組合せ等があげられる。この場合、Rlucによる基質の分解によって395nmの波長の光が生じ、RlucにGFPが近接することにより、GFPがこの光のエネルギーを受けて発する510nmの波長の蛍光を検出することができる。
【0057】
また、ホモジニアス法での該標識物質の組み合わせとして、標識物質1と標識物質2が近接して、ある配向性をもって結合したときに酵素活性を生じる物質の組み合わせがあげられる。例えば、標識物質の組み合わせとしては、標識物質1としてβ−ガラクトシダーゼのΔαサブユニット、標識物質2としてβ−ガラクトシダーゼのΔωサブユニットを用いる組合せ、標識物質1としてRlucのN末端側ドメイン、標識物質2としてRlucのC末端側ドメインを用いる組合せ等があげられる。
【0058】
(9)反応条件
抗原抗体反応は水性媒体中で行われることが好ましい。反応温度としては、例えば0〜50℃があげられ、4℃〜40℃が好ましい。反応時間としては、5分間〜20時間が好ましい。
【0059】
(10)標識の量の測定
免疫複合体の標識の量の測定方法は、標識物質に応じて適切なものを選ぶことができる。すなわち、標識物質が発色物質すなわちある波長の光を吸収する物質の場合には、分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が蛍光物質の場合には、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が発光物質の場合には、発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が放射性同位元素である場合、放射性同位元素の量は、放射活性をシンチレーションカウンター、γ−ウェルカウンター等により測定することができる。
【0060】
標識が酵素である場合、酵素の基質を当該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、標識量を測定することができる。
酵素がペルオキシダーゼである場合には、例えば吸光度法、蛍光法等によりペルオキシダーゼ量を測定することができる。吸光度法によりペルオキシダーゼ量を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素および酸化発色型色原体の組み合わせとを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等があげられる。酸化発色型色原体としては、例えばロイコ型色原体、酸化カップリング発色型色原体等があげられる。
【0061】
ロイコ型色原体は、過酸化水素およびペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質である。具体的には、テトラメチルベンジジン、o−フェニレンジアミン、10−N−カルボキシメチルカルバモイル−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン(CCAP)、10−N−メチルカルバモイル−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン(MCDP)、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA−64)、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等があげられる。
【0062】
酸化カップリング発色型色原体は、過酸化水素およびペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、2つの化合物が酸化的カップリングして色素を生成する物質である。2つの化合物の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類(トリンダー試薬)との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせ等があげられる。カプラーとしては、例えば4−アミノアンチピリン(4−AA)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラジン等があげられる。アニリン類としては、N−(3−スルホプロピル)アニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N−ジメチル−3−メチルアニリン、N,N−ジ(3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−アセチルエチレンジアミン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−4−フルオロ−3,5−ジメトキシアニリン(F−DAOS)等があげられる。フェノール類としては、フェノール、4−クロロフェノール、3−メチルフェノール、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸(HTIB)等があげられる。
【0063】
蛍光法によりペルオキシダーゼ量を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素および蛍光物質の組み合わせとを反応させ、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で生成した蛍光の強度を測定する方法等があげられる。当該蛍光物質としては、例えば4−ヒドロキシフェニル酢酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、クマリン等があげられる。
【0064】
発光法によるペルオキシダーゼ量を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素および発光物質の組み合わせとを反応させ、発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で生成した発光の強度を測定する方法等があげられる。当該発光物質としては、例えばルミノール化合物、ルシゲニン化合物等があげられる。
酵素がアルカリフォスファターゼである場合には、例えば発光法等によりアルカリフォスファターゼ量を測定することができる。発光法によりアルカリフォスファターゼ量を測定する方法としては、例えばアルカリフォスファターゼとその基質とを反応させ、生成した発光の発光強度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等があげられる。アルカリフォスファターゼの基質としては、例えば3−(2'−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3'−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン・二ナトリウム塩(AMPPD)、2−クロロ−5−{4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]カン]−4−イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CDP−StarTM)、3−{4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]−4−イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CSPDTM)、[10−メチル−9(10H)−アクリジニルイデン]フェノキシメチルリン酸・二ナトリウム塩(LumigenTM APS−5)等があげられる。
【0065】
酵素がβ−D−ガラクトシダーゼである場合には、例えば吸光度法(比色法)、発光法または蛍光法等によりβ−D−ガラクトシダーゼ量を測定することができる。吸光度法(比色法)によりβ−D−ガラクトシダーゼ量を測定する方法としては、例えばo−ニトロフェル−β−D−ガラクトピラノシド等があげられる。発光法によりβ−D−ガラクトシダーゼ量を測定する方法としては、例えばβ−D−ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等があげられる。β−D−ガラクトシダーゼの基質としては、例えばガラクトン−プラス[Galacton-Plus、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製]またはその類似化合物等があげられる。蛍光法によりβ−D−ガラクトシダーゼ量を測定する方法としては、例えばβ−D−ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の蛍光度を蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等があげられる。β−D−ガラクトシダーゼの基質としては、例えば4−メチルウンベリフェリル−β−D−ガラクトピラノシド等があげられる。
【0066】
酵素がルシフェラーゼである場合には、例えば発光法等によりルシフェラーゼ量を測定することができる。発光法によりルシフェラーゼ量を測定する方法としては、例えばルシフェラーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等があげられる。ルシフェラーゼの基質としては、例えばルシフェリン、セレンテラジン等があげられる。
【0067】
標識物質が蛍光物質、発光物質、放射性同位元素および酵素以外の場合は、当該標識物質に特異的に結合する物質を蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、酵素等で標識した標識体と、免疫複合体中の標識化抗体または標識化競合物質を構成している当該標識物質とを結合させ、当該標識物質に特異的に結合する物質を標識している蛍光物質、発光物質、放射性同位元素または酵素を用いて、上記の記載と同様にして検出を行うことができる。標識物質に特異的に結合する物質としては、標識物質を特異的に結合する抗体、また標識物質がビオチンの場合は、アビジンやストレプトアビジン等があげられる。また、標識物質に特異的に結合する物質(標識物質に特異的に結合する抗体、アビジンまたはストレプトアビジン等)は非標識のものを用いて、免疫複合体中の標識物質と結合させた後、標識物質に特異的に結合する物質に結合する抗体、例えば、抗体の定常領域に特異的に結合する抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンに特異的に結合する抗体を蛍光物質、発光物質、放射性同位元素または酵素で標識したものを結合させ、これらの抗体を標識している蛍光物質、発光物質、放射性同位元素または酵素を用いて、上記の記載と同様にして検出を行うこともできる。
【0068】
これらの検出に用いる抗体、アビジンまたはストレプトアビジンや標識物質に特異的に結合する抗体、抗体の定常領域に特異的に結合する抗体、アビジンまたはストレプトアビジンに特異的に結合する抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、あるいはFab、ペプシン処理により得られるF(ab’)2、ペプシン処理−還元処理により得られるFab’等のFc部分を除去した抗体フラグメントでもよい。
【0069】
(11)測定対象物の定量
測定対象物を定量するためには、標準物質、すなわち既知の濃度の測定対象物の溶液を用いる。好ましくは、既知濃度の測定対象物溶液を複数用いる。この既知濃度の測定対象物溶液を測定用試料として、実際の試料の測定と同じ方法により測定を行い、測定対象物濃度と測定値(標識由来の情報量)との間の関係を示す検量線を作成する。次いで、試料の測定により得られる測定値を先に作成した検量線に当てはめることにより、試料中の測定対象物の濃度を決定することができる。
【0070】
(12)水性媒体およびその他の共存物
本発明の免疫測定方法において、測定対象物の抗原抗体反応を行うための水性媒体としては、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等があげられ、緩衝液が好ましい。緩衝液の調製に使用される緩衝剤としては、緩衝能を有するものならば特に限定されないが、pH1〜11の例えば乳酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリエタノールアミン緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、リジン緩衝剤、バルビツール緩衝剤、イミダゾール緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、グッド緩衝剤等があげられる。
【0071】
グッド緩衝剤としては、例えば2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝剤、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝剤、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝剤、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝剤、2−[N−(2−アセトアミド)アミノ]エタンスルホン酸(ACES)緩衝剤、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)緩衝剤、2−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸(BES)緩衝剤、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝剤、2−{N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸(TES)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(2−スルホエチル)ピペラジン(HEPES)緩衝剤、3−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)緩衝剤、2−ヒドロキシ−3−{[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPSO)緩衝剤、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパン−3−スルホン酸)(POPSO)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ピペラジン(HEPPSO)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(3−スルホプロピル)ピペラジン(EPPS)緩衝剤、トリシン[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン]緩衝剤、ビシン[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝剤、3−[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノプロパンスルホン酸(TAPS)緩衝剤、2−(N−シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)緩衝剤、3−(N−シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)緩衝剤、3−(N−シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)緩衝剤等があげられる。
【0072】
緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001〜2.0mol/Lが好ましく、0.005〜1.0mol/Lがより好ましく、0.01〜0.1mol/Lが特に好ましい。
本発明の免疫学的定量方法においては、測定対象物の抗原抗体反応に、金属イオン、塩類、糖類、界面活性剤、防腐剤、タンパク質、タンパク質安定化剤等を共存させることができる。
【0073】
金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン等があげられる。
塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等があげられる。
糖類としては、例えばマンニトール、ソルビトール等があげられる。
界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等があげられ、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばツイーン20、ノニデットP−40等があげられる。 防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質(ストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、バイオエース、プロクリン300、プロキセル(Proxel)GXL等があげられる。
【0074】
タンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児血清(FBS)、カゼイン、ブロックエース(大日本製薬社製)等があげられる。
タンパク質安定化剤としては、例えばペルオキシダーゼ安定化緩衝液[Peroxidase Stabilizing Buffer、ダコサイトメーション(DakoCytomation)社製]等があげられる。
【0075】
(13)免疫測定試薬
本発明の免疫測定試薬は、試料中の測定対象物をヘモグロビンの影響を抑制して免疫測定するための免疫測定試薬であり、上記(3)に記載した細胞溶解物を含有することを特徴とする。本発明の免疫測定試薬としては、例えば(3)に記載した細胞溶解物にさらに、(i)〜(iii)のいずれかを含有する免疫測定試薬があげられる。
(i)測定対象物に結合する第1の抗体、および、測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体。
【0076】
本発明の免疫測定試薬は、本発明の免疫測定方法に使用され得る。本発明の免疫測定試薬において使用される、細胞溶解物、測定対象物に結合する抗体、競合物質、測定対象物に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体、標識化競合物質としては、例えば、それぞれ、前述の細胞溶解物、測定対象物に結合する抗体、競合物質、測定対象物に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体、標識化競合物質をあげることができる。また、本発明の免疫測定試薬は、必要に応じて、前述の金属イオン、塩類、糖類、界面活性剤、防腐剤、タンパク質、タンパク質安定化剤等を含有する。
【0077】
さらに、(1)に記載した試料中の血球を溶解させるための界面活性剤等の試薬、(12)に記載した反応の水性媒体および共存物、(6)に記載した洗浄液、(10)に記載した標識の量の測定に用いる試薬、および(11)に記載した標準物質をそれぞれ含んでもよい。細胞溶解物、(12)に記載した反応の水性媒体および共存物は、それぞれ別々の試薬としてもよいが、細胞溶解物と共存物を含む水性媒体を検体希釈液としてもよい。
【0078】
また、上記(3)に記載した細胞溶解物を含有する試薬は、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響の抑制試薬とすることができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0079】
MxAタンパク質のサンドイッチELISAによる測定および細胞溶解物によるヘモグロビンの影響の抑制
[1]抗MxAタンパク質モノクローナル抗体の調製
以下のようにして、エピトープの異なる2種類の抗ヒトMxAタンパク質モノクローナル抗体KM1124(WO96/05230)およびKM1135(WO96/05230)を調製した。なお、KM1124は、ヒトMxAタンパク質のアミノ末端から220〜297残基中に存在するエピトープ、KM1135はヒトMxAタンパク質のアミノ末端から10〜220残基中に存在するエピトープとそれぞれ結合するマウスモノクローナル抗体である。
【0080】
プリスタン処理した8週令ヌード雌マウス(Balb/c)に、モノクローナル抗体KM1124を生産するハイブリドーマ株KM1124(FERM BP−4729)およびモノクローナル抗体KM1135を生産するハイブリドーマ株KM1135(FERM BP−4731)をそれぞれ5〜20×106細胞/匹ずつ腹腔内注射した。10〜21日後に、ハイブリドーマ株が腹水癌化し、腹水のたまったマウスから腹水を採取した。採取した腹水を3000rpmで5分間、遠心分離して固形分を除去し、上清を回収した。この上清から、カプリル酸沈殿法(Antibodies-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)により精製したモノクローナル抗体を、MxAタンパク質の免疫測定方法に用いた。
【0081】
[2]リコンビナントMxAタンパク質の調製
ヒトMxAタンパク質をコードするcDNAを含むNdeI−BamHI断片を、ベクターpET−14b[ノバジェン(Novagen)、EMDバイオサイエンシズ(EMD Biosciences)社製]のNdeI−BamHI間に挿入して作製したヒトMxAタンパク質発現ベクターpET14b−MxA(Nucleic Acids Res, 32, 643-652, 2004)でEscherichia coli BL21(DE3)pLysS株を形質転換した。この形質転換体は、N末端にHisタグが付加したMxAタンパク質を発現する。
【0082】
得られた形質転換体を、アンピシリンを含むLB培地5mLに植菌し、600nmの吸光度(OD600)が0.5になるまで37℃で振とう培養した。この培養液をアンピシリンを含むLB培地250mLに植菌し、600nmでの吸光度が0.3〜0.5になるまで37℃で振とう培養した。ここに、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を終濃度0.4mmol/Lになるように添加し、さらに37℃で2時間振とう培養して培養を終了した。培養液を4℃で3000rpm、10分間遠心分離して菌体を回収した。菌体はMxAタンパク質の調製まで−80℃で保存した。
【0083】
MxAタンパク質は菌体内に不溶体(inclusion body)の状態で存在していたので、菌体を氷上で融解させ、氷冷した結合緩衝液(5mmol/Lイミダゾール、0.5mol/L塩化ナトリウム、20mmol/L Tris−HCl、pH7.9)20mLを添加し、懸濁させた。菌体懸濁液に30秒ずつ5回の超音波処理をして菌体を破砕した後、4℃で4000rpmで10分間遠心分離を行った。上清を除き、沈殿に氷冷した結合緩衝液20mLを添加して懸濁させ、再び同様に超音波処理と遠心分離を行った。上清を除き、沈殿に6mol/L尿素を含む結合緩衝液20mLを添加し、懸濁させた。同様に超音波処理を行った後、氷上で30分間静置して不溶体を溶解させ、4℃で10000rpmで30分間遠心分離を行った。上清を回収して0.45nmミリポアフィルターでろ過した。
【0084】
得られた溶液にNi−NTA His・Bindレジン(ノバジェン、EMDバイオサイエンシズ社製)0.5mLを添加し、4℃で2時間回転させながら混和させ、Hisタグを介してレジンにMxAタンパク質を結合させた。4℃で3000rpmで2分間遠心分離し、レジンを回収した。レジンに氷冷した6mol/L尿素を含む結合緩衝液10mLを添加した後、4℃で3000rpmで2分間遠心分離し、レジンを回収した。この洗浄操作を再度繰り返した後、さらにレジンに氷冷した洗浄緩衝液(6mol/L尿素、60mmol/Lイミダゾール、0.5mol/L塩化ナトリウム、20mmol/L Tris−HCl、pH7.9)10mLを添加し、4℃で3000rpmで2分間遠心分離し、レジンを回収した。
【0085】
レジンに氷冷した溶出緩衝液(6mol/L尿素、1mol/Lイミダゾール、0.5mol/L塩化ナトリウム、20mmol/L Tris−HCl、pH7.9)10mLを添加し、4℃で2時間回転させながら混和させ、レジンからMxAタンパク質を溶出させた。4℃で3000rpmで2分間遠心分離し、上清を回収し、MxAタンパク質の測定において、標準となるMxAタンパク質溶液として使用した。
【0086】
[3]抗MxAタンパク質抗体固相化プレートの調製
[1]で調製した抗MxAタンパク質モノクローナル抗体KM1135を5μg/mLになるようにPBS(pH7.5)で希釈し、96ウェルマイクロタイタープレート[ナルジェンヌンクインターナショナル(Nalge Nunc International)社製]に50μL/ウェルの量で分注した。一晩放置後、上清を吸引除去し、25%ブロックエース(大日本製薬社製)、50mmol/L塩化ナトリウムを含むpH7.2リン酸緩衝液200μLを分注し室温で2時間静置しブロッキングした。ブロッキング液を除去した後、PBSで洗浄した。真空乾燥機で一晩乾燥したものを、抗MxAタンパク質モノクローナル抗体固相化プレートとして使用した。
【0087】
[4]ペルオキシダーゼ標識抗MxAタンパク質抗体の調製
[1]で調製した抗MxA蛋白質モノクローナル抗体KM1124を以下のようにしてマレイミド法でペルオキシダーゼ(以下、PODと略す)と結合させ、POD標識抗MxA蛋白質抗体を作製した。
【0088】
まず、KM1124 2mgを含む溶液の溶媒を0.1mol/Lホウ酸緩衝液(pH8.0)に置換し、0.086mgの2−イミノチオラン塩酸塩[ピアース(Pierce)社製]を添加し、攪拌後、30℃で30分間反応させた。0.1mol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したセファデックス(Sephadex)G25(アマシャム・バイオサイエンス社製)カラム(直径1.5cm×30cm)を用いて、反応溶液中の未反応の2−イミノチオランを除去し、スルフヒドリル化したKM1124を回収した。
【0089】
一方、KM1124に対しモル比で5倍量にあたるPOD(東洋紡績社製、ペルオキシダーゼI−C)2.5mgを0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)250μLに溶解させた。この溶液を30℃で5分間加温した後、N,N−ジメチルホルムアミド(ナカライテスク社製)に溶解させた0.72mgのN−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS、同仁化学研究所社製)を加えて攪拌し、30℃で30分間反応させた。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したセファデックスG25カラム(直径1.5cm×30cm)を用いて、反応後の溶液のゲルろ過を行い、未反応のEMCSを除去し、マレイミド化したPODを回収した。
【0090】
上記で得られたスルフヒドリル化したKM1124の溶液とマレイミド化したPODの溶液を混合し、30℃で1時間反応させた。反応後、0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したセファクリルS−300(ファルマシア製)カラム(直径3cm×60cm)を用いて、反応後の溶液のゲルろ過を行い、未反応のPODを除去すると共に、標識化抗体を精製した。ゲルろ過の各フラクションの280nmでの吸光度(A280)および403nmでの吸光度(A403)を測定し、A280からKM1124のモル数、A403からPODのモル数を計算し、PODのモル数/KM1124のモル数が1.5以上のフラクションを、標識化抗体を含むフラクションとして回収した。得られた標識化抗体はPBS(pH7.5)で200倍に希釈し使用した。
【0091】
[5]サンドイッチELISAによるMxAタンパク質測定系の構築
前記[2]で調製したMxAタンパク質溶液を緩衝液[150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA(インタージェン(InterGen)社製)、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2]で希釈し、MxAタンパク質の0(緩衝液のみ)、3.2、6.3、12.5、25、50、100、200ng/mLの各濃度の溶液を調製し、測定試料とした。
【0092】
前記[3]で作製した抗MxAタンパク質抗体(KM1135)固定化プレートに100μLの測定試料を添加し、室温で1時間インキュベートし、抗体に測定試料中のMxAタンパク質を結合させた。測定試料を除去した後、洗浄液[0.05%ツイーン20(関東化学社製)を含むPBS]を400μL添加して除去する洗浄操作を5回行った。次いで、[4]で作製したPOD標識抗MxAタンパク質抗体(KM1124)を100μL添加して室温で30分間反応させた。標識化抗体を除去し、洗浄液を400μL添加して除去する洗浄操作を5回行った。暗所で、0.05%テトラメチルベンジジンおよび過酸化水素を含むPODの発色基質TMBlue[セロロジカル(Serological)社製]を100μL添加し、室温で10分間反応させた。0.5mol/L硫酸を100μL添加して室温で10分間インキュベーションして反応を停止させた。波長450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。その結果、測定試料中のMxAタンパク質の濃度の上昇にしたがって、吸光度の上昇が見られ、高感度にMxAタンパク質の測定ができることが示された。
【0093】
[6]細胞溶解物の調製
浮遊性のヒトバーキットリンパ腫細胞株Raji細胞(Lancet, 39, 238-240, 1964、大日本製薬株式会社製)を、10%非働化FBS、1%Antibiotic−Antimycotic[インビトロジェン(Invitrogen)社製]、0.1%ゲンタマイシン(インビトロジェン社製)を含むRPMI1640培地[シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社製]10mLで、1×106細胞/mLになるよう懸濁させた。細胞懸濁液を25cm2Tフラスコに全量移し、炭酸ガス培養装置(5%CO2)で、37℃で2〜3日浮遊培養した。その後、150cm2Tフラスコ、225cm2Tフラスコへと順次拡大培養を行った。225cm2Tフラスコ内で細胞がコンフルエントになったところで、細胞を含む培養液を滅菌された容器に回収し、25℃で1400rpm、5分間遠心分離した。上清を除去し、細胞数107個/mLになるように低張緩衝液(10mmol/L HEPES、1.5mmol/L MgCl2、10mmol/L KCl)で懸濁して回収し、凍結保存した。
【0094】
上記で得られた107個/mLの培養細胞を含む溶液を5%の濃度で細胞溶解用緩衝液(1%ノニデットP40、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)に添加して、30分間インキュベートをして、細胞を溶解させた後に、室温で1400rpm、5分間遠心分離して、不溶解成分を沈殿させ上清を回収し、細胞溶解物を得た。
得られた細胞溶解物中のタンパク質含量を、ブラッドフォード法によるプロテインアッセイキット[バイオラッド(Bio-Rad)社製]を用いて測定した。タンパク質含量は1mg/mLのBSAを標準とし段階的希釈を行い、得られる吸光度とタンパク質濃度をプロットし、検量線を作成し、これを用いて濃度換算を行った。溶液は、−80℃で保管した。
【0095】
[7]細胞溶解物によるMxAタンパク質測定におけるヘモグロビンの影響の抑制
前記[6]で調製したRaji細胞の細胞溶解物を0、0.63、1.25、2.5、5%の各濃度(蛋白質濃度として、それぞれ0、4.3、9.3、17.9、35.8μg/mLに相当した)で含む緩衝液(150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)を調製し、検体希釈液とした。
【0096】
MxAタンパク質陰性健常者10名の血液に、4倍の容量のPBSを添加して、3000rpmで10分間遠心分離して、上清を除いた。沈殿の血球に4倍の容量のPBSを添加して懸濁し、3000rpmで10分間遠心分離して、上清を除く洗浄操作を3回繰り返した。得られた洗浄血球を−30℃で凍結した後、融解し、さらに蒸留水を添加して赤血球をバーストさせた。得られた溶液のヘモグロビン濃度を、ヘモグロビン測定キットHbテストワコー(和光純薬工業社製)で測定し、蒸留水でヘモグロビン濃度を60mg/mLに調整したものをヘモグロビン溶液とした。
【0097】
各濃度の細胞溶解物を含む検体希釈液にヘモグロビン溶液をヘモグロビン濃度が30mg/mL、15mg/mL、7.5mg/mLになるように添加した各溶液、およびヘモグロビン溶液を添加しない各検体希釈液で、[2]で調製したMxAタンパク質溶液を50ng/mLの濃度になるように希釈したものを測定試料とし、[5]と同様のサンドイッチELISAを行い、吸光度を測定した。
【0098】
ヘモグロビン溶液を添加した各測定試料の吸光度の値を、ヘモグロビン溶液を添加しない測定試料の吸光度の値と比較してヘモグロビンの影響を調べた。その結果、図1に示すように、ヘモグロビン溶液を添加した測定試料では、ヘモグロビン溶液を添加しない測定試料と比較して、ヘモグロビンの濃度が増えるにつれて、測定値の低下がみられ、ヘモグロビンは測定値を低下させる影響を与えることが示された。測定試料に細胞溶解物を添加しない場合と比較して、細胞溶解物を添加した測定試料では、添加した細胞溶解物の濃度が増加するにつれて、ヘモグロビンによる測定値の低下が抑制されており、細胞溶解物を添加することで、ヘモグロビンの影響を抑制できることが示された。
【実施例2】
【0099】
T98G細胞の細胞溶解物によるヘモグロビンの影響の抑制
[1]T98G細胞の細胞溶解物の調製
接着性のヒトグリア芽細胞種由来の細胞株T98G(大日本製薬株式会社より購入、J. Cell. Physiol., 99, 43-54, 1979)を、10%FBS、1%非必須アミノ酸(インビトロジェン社製)、1mmol/mLピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)を添加したイーグルMEM培地「ダイゴ」(日本製薬株式会社製)10mLを添加した細胞培養用の6cmシャーレ内で、コンフルエントになるまで、炭酸ガス培養装置(5%CO、37℃)を用いて2〜3日間培養した。細胞がコンフルエントになったところで、細胞を15cmシャーレに移して同様に培養を行った。15cmシャーレ内で細胞がコンフルエントになったところで、培地を吸引除去し、PBSで洗浄し、0.02%EDTAで洗浄した。細胞を0.25%トリプシン溶液を添加して細胞をシャーレからはがした後、25℃5分間遠心分離(1400rpm)した。上清を除去し、低張緩衝液(10mmol/L HEPES、1.5mmol/L MgCl2、10mmol/L KCl)を添加して細胞を懸濁し溶液を回収した。
【0100】
上記で得られた培養細胞を含む溶液を5%の濃度で細胞溶解用緩衝液(1%ノニデットP40、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)に添加して、30分間インキュベートをして、細胞を溶解させた後に、室温で1400rpm、5分間遠心分離して、不溶解成分を沈殿させ上清を回収し、細胞溶解物として用いた。実施例1[6]と同様にして、細胞溶解物の蛋白質濃度を測定し、−80℃で保管した。
【0101】
[2]T98G細胞の細胞溶解物によるMxAタンパク質測定におけるヘモグロビンの影響の抑制
[1]で調製したT98G細胞の細胞溶解物をタンパク質濃度0.2、0.4、0.7、1.4mg/mLになるように、緩衝液(150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)に添加したもの、および細胞溶解物を添加しない緩衝液を、検体希釈液とした。これらの検体希釈液に、実施例1[7]で調製した60mg/mLヘモグロビン溶液をヘモグロビン濃度が3.75、7.5、15、30mg/mLになるように添加した各溶液、およびヘモグロビン溶液を添加しない各検体希釈液で、実施例1[2]で調製したMxAタンパク質溶液を濃度になるように希釈したものを測定試料とし、実施例1[5]と同様のサンドイッチELISAを行い、吸光度を測定した。
【0102】
ヘモグロビン溶液を添加した各測定試料の吸光度の値を、ヘモグロビン溶液を添加しない測定試料の吸光度の値と比較してヘモグロビンの影響を調べた。図2に示すように、実施例1[7]と同様に、ヘモグロビンは測定値を低下させる影響を与えることが示された。実施例1[7]のRaji細胞の細胞溶解物と同様に、測定試料にT98Gの細胞溶解物を添加しない場合と比較して、T98Gの細胞溶解物を添加した測定試料では、添加した細胞溶解物の濃度が増加するにつれて、ヘモグロビンによる測定値の低下が抑制されており、細胞の種類に関わらず、細胞溶解物を添加することで、ヘモグロビンの影響を抑制できることが示された。
【実施例3】
【0103】
全血中のMxAタンパク質の測定
健常者4例の血液を採取し、それぞれの血液を二つに分け、それぞれに血液と等量の10%非働化FBS、1%Antibiotic−Antimycotic、0.1%ゲンタマイシンを含むRPMI1640培地を添加し、一方はインターフェロンαを1000U/mLの濃度で添加し24時間培養することにより白血球でのMxAタンパク質の発現を誘発し、他方はインターフェロンαを添加せずに24時間培養した。培養後の全血試料に4倍の容量の、血球溶解用緩衝液[1%ノニデットP40を含む50mmol/Lトリス緩衝液(pH7.2)]を添加して試料中の血球を溶解させ、血球内のMxAタンパク質を溶液中に放出させ、さらに、検体希釈液[実施例1[6]で調製したRaji細胞の細胞溶解物を5%の濃度で含む緩衝液(150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)]で2倍に希釈したものを測定試料とした。測定試料中のMxAタンパク質を実施例1[5]と同様にして測定を行った。
【0104】
実施例1[2]で調製したMxAタンパク質溶液を、検体希釈液で希釈し、0(検体希釈液のみ)、3.2、6.3、12.5、25、50、100、200ng/mLの各濃度の溶液を調製し、同様に測定を行い、MxAタンパク質濃度および吸光度をプロットして検量線を作成した。検量線に基づいて、測定試料の吸光度から測定試料中のMxAタンパク質濃度を求め、さらに希釈率[検体希釈液による希釈(2倍)×血球溶解用緩衝液による希釈(5倍)=10倍]を乗じて全血試料中のMxAタンパク質濃度を定量した。図3に定量結果を示した。図3に示すように、インターフェロンαで刺激した健常人血液に含まれるMxAタンパク質は117.1〜171.6ng/mL、インターフェロンα刺激しない健常人血液に含まれるMxAタンパク質は0.8〜9.4ng/mLと決定された。
【実施例4】
【0105】
全血検体の希釈試験
実施例3の方法に従って、MxAタンパク質陽性の臨床検体の希釈試験を行った。
MxAタンパク質陽性全血検体に、4倍の容量の血球溶解用緩衝液を添加して試料中の血球を溶解させ、血球内のMxAタンパク質を溶液中に放出させた。これを2つに分け、一方はRaji細胞の細胞溶解物を5%の濃度で含む検体希釈液(150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2)で、もう一方は細胞溶解物を含まない検体希釈液(0.1%BSAを含むPBS)で、それぞれ2倍に希釈したものを測定試料として用いた。細胞溶解物を含む検体希釈液で希釈した試料をさらに、同じ細胞溶解物を含む検体希釈液で4/5、3/5、2/5、1/5と段階的に希釈した。他方の細胞溶解物を含まない検体希釈液で希釈した測定試料も、さらに同じ細胞溶解物を含まない検体希釈液で4/5、3/5、2/5、1/5と段階的に希釈した。段階的に希釈する前の測定試料および段階的に希釈した測定試料それぞれについて、実施例1[5]と同様にしてMxAタンパク質の測定を行い、実施例3と同様にして作成した検量線に基づいてMxAタンパク質の定量を行った。図4に細胞溶解物を含む検体希釈液で希釈した場合の測定結果、図5に細胞溶解物を含まない検体希釈液で希釈した場合の測定結果を、実際の測定値と理論値(段階的な希釈前の測定試料(5/5)の測定値に希釈率を乗じて求められる値)で示した。第1表に各試料のMxAタンパク質濃度の理論値に対する実際の測定値の比(%)を示した。
【0106】
【表1】

【0107】
図4、図5および第1表からわかるように、細胞溶解物を含まない検体希釈液による希釈では、希釈が進むにつれて理論値と測定値の乖離率が上昇し、希釈率1/5では乖離率+20%以上となった。これは、希釈率5/5の状態では、試料中のヘモグロビンにより測定が阻害されており、試料の希釈によりその阻害が弱まったためと考えられた。これに対し、細胞溶解物を含む検体希釈液では希釈直線性は良好で、乖離率±5%以内であり、細胞溶解物の共存下で測定を行うことにより、ヘモグロビンの影響を抑制できることが示された。
【実施例5】
【0108】
MxAタンパク質測定キット
下記の各試薬からなるMxAタンパク質の酵素免疫測定用の試薬キットを作製した。
(a)抗MxAタンパク質抗体固定化プレート 1枚
実施例1[3]に記載の方法にしたがって、5μg/mLの抗MxAタンパク質モノクローナル抗体KM1135のPBS溶液(pH7.5)を、50μL/ウェルの量で分注して固定化後、25%ブロックエースでブロッキングし、乾燥させた、96ウェルマイクロタイタープレート。
(b)血球溶解用緩衝液
組成:1%ノニデットP40を含む50mmol/Lトリス緩衝液(pH7.2)
容量:10mL/ボトル
(c)検体希釈液
組成:5% Raji細胞の細胞溶解物(実施例1[2]に記載の方法に従って調製したもの)、150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl(pH7.2)
容量:30mL/ボトル
(d)標識抗MxAタンパク質抗体
実施例1[4]に記載の方法にしたがって調製したPOD標識抗MxAタンパク質モノクローナル抗体KM1124。測定時に標識化抗体希釈液で希釈して使用。
(e)標識化抗体希釈液
組成:PBS(pH7.5)
容量:11mL/ボトル
(f)発色基質液
組成:TMBlue(セロロジカル社製)
容量:11mL/ボトル
(g)反応停止液
組成:0.5mol/L硫酸
容量:11mL/ボトル
(h)洗浄液原液
組成:0.5%ツイーン20、1.5mol/L塩化ナトリウムを含有する10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)
容量:100mL/ボトル
使用時に蒸留水で10倍に希釈して使用する。
(i)標準物質
実施例1[2]で調製したMxAタンパク質溶液を、緩衝液[150mmol/L塩化ナトリウム、0.1%BSA、50mmol/L Tris−HCl、pH7.2]で1μg/mLに調製した溶液
【実施例6】
【0109】
PAP測定における細胞溶解物によるヘモグロビンの影響の抑制
PAPの測定に対するヘモグロビンの影響を、細胞溶解物で抑制できるかどうかを、PAPのELISAキットであるPAP測定キット[ディナビオ(Dynabio)社製]を用いて検討した。
実施例1[6]で調製したRaji細胞の細胞溶解物を蛋白質濃度0(検体希釈液のみ)、17.9、35.8μg/mLになるよう、PAP測定キットに含まれる検体希釈液に添加した。ついで、これらの検体希釈液に実施例1[7]で調製したヘモグロビン溶液をヘモグロビン濃度0.469、0.938、1.88、3.75、7.5、15mg/mLになるよう添加した。これらのヘモグロビン溶液を添加した各検体希釈液およびヘモグロビン溶液を添加しない検体希釈液それぞれに、PAP測定キットに含まれるリコンビナント膵PAP抗原を1ng/mLになるように添加したものを測定試料とし、PAP測定キットを用いて、測定試料中のPAPの測定をおこなった。測定方法は、キットに添付されたマニュアルに従い、以下のように行った。
【0110】
キットの抗PAP抗体固定化96ウェルプレートのウェルに各測定試料および標準物質溶液をそれぞれ100μL添加し、室温で3時間インキュベートして、抗体に試料中のPAPを結合させた。ウェルの溶液を除去した後、洗浄液を400μL添加して除去する洗浄操作を5回行った。次いで、ウェルにビオチン標識抗PAP抗体を添加して、室温で30分間インキュベーションした。ウェルの溶液を除去し、上記と同様に5回洗浄した。ウェルにアビジン−POD溶液を100μL添加し、室温で15分間インキュベーションした。ウェルの溶液を除去し、上記と同様に5回洗浄した。キットのTMB(テトラメチルベンジジン)溶液と過酸化水素溶液を混合して発色試薬を調製し、ウェルに100μL添加した。暗所で10〜15分間インキュベーションした後、キットのオルトリン酸溶液を100μL添加して発色反応を停止させた。波長450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。結果を図6に示した。
【0111】
実施例1のMxAタンパク質のELISAと同様に、PAP測定においても、ヘモグロビンの濃度が増えるにつれて、測定値の低下がみられ、ヘモグロビンは測定値を低下させる影響を与えることが示された。測定試料に細胞溶解液を添加しない場合と比較して、細胞溶解液を添加した測定試料では、ヘモグロビンによる測定値の低下が抑制されており、PAPの免疫測定においても、細胞溶解液を添加することで、ヘモグロビンの影響を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明により、臨床診断において有用な、ヘモグロビンの影響が抑制された、試料中の測定対象物の測定方法が提供される。該測定方法により、ヘモグロビンを含有する試料中の測定対象物を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】各蛋白質濃度のRaji細胞の細胞溶解物を添加した場合の、MxAタンパク質測定におけるヘモグロビンの影響の抑制を示す。横軸はヘモグロビン添加濃度、縦軸はヘモグロビンを添加しない場合に対する吸光度の影響率を表す。
【図2】各蛋白質濃度のT98G細胞の細胞溶解物を添加した場合の、MxAタンパク質測定におけるヘモグロビンの影響の抑制を示す。横軸はヘモグロビン添加濃度、縦軸はヘモグロビンを添加しない場合に対する吸光度の影響率を表す。
【図3】4種類の全血の検体に対し、インターフェロンαで刺激した場合としなかった場合それぞれのMxAタンパク質の濃度を測定した結果を示す。
【図4】MxAタンパク質陽性の全血の検体を、細胞溶解物を含む検体希釈液で希釈した場合のMxAタンパク質の測定結果を示す。
【図5】MxAタンパク質陽性の全血の検体を細胞溶解物を含まない検体希釈液で希釈した場合のMxAタンパクの測定結果を示す。
【図6】各蛋白質濃度のRaji細胞の細胞溶解物を添加した場合の、PAP測定におけるヘモグロビンの影響の抑制を示す。横軸はヘモグロビン添加濃度、縦軸はヘモグロビンを添加しない場合に対する吸光度の影響率を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを、試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫測定方法。
【請求項2】
免疫測定方法が、サンドイッチ法または競合法である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料中の測定対象物と(i)〜(iii)のいずれかとを、試料に 由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫測定方法。
(i)該測定対象物に結合する第1の抗体、および、該測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、該測定対象物および競合物質に結合し、かつ、標識が結合した標識化抗体。
【請求項4】
試料中の測定対象物と該測定対象物に結合する抗体とを試料に由来しない細胞溶解物の共存下で反応させることを特徴とする、測定対象物の免疫反応に及ぼすヘモグロビンの影響を抑制する方法。
【請求項5】
試料が、全血である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
全血が、血球を溶解させた全血である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血球を溶解させた全血が、血球を界面活性剤により溶解させた全血である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞溶解物が、動物細胞の細胞溶解物である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
動物細胞が、動物の株化細胞である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
動物の株化細胞が、Raji細胞またはT98G細胞である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
測定対象物が、MxAタンパク質またはパンクレアティティス・アソシエーテド・プロテインである請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
細胞溶解物を含有することを特徴とする、測定対象物と該測定対象物に結合する抗体との反応に及ぼすヘモグロビンの影響の抑制試薬。
【請求項13】
細胞溶解物を含有することを特徴とする、測定対象物の免疫測定試薬。
【請求項14】
さらに、(i)〜(iii)のいずれかを含有する請求項13に記載の免疫測定試薬。
(i)測定対象物に結合する第1の抗体、および、測定対象物に結合する第2の抗体に標識が結合した標識化抗体、
(ii)競合物質に標識が結合した標識化競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体、
(iii)競合物質、ならびに、測定対象物および競合物質に結合する抗体に標識が結合した標識化抗体。
【請求項15】
さらに、試料中の血球を溶解させるための試薬を含有する請求項13または14に記載の免疫測定試薬。
【請求項16】
血球を溶解させるための試薬が、界面活性剤である請求項15に記載の免疫測定試薬。
【請求項17】
界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項16に記載の免疫測定試薬。
【請求項18】
非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン系界面活性剤である請求項17に記載の免疫測定試薬。
【請求項19】
ポリオキシエチレン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである請求項18に記載の免疫測定試薬。
【請求項20】
細胞溶解物が、動物細胞の細胞溶解物である請求項12〜19のいずれかに記載の試薬。
【請求項21】
動物細胞が、動物の株化細胞である請求項20に記載の試薬。
【請求項22】
動物の株化細胞が、Raji細胞またはT98G細胞である請求項21に記載の試薬。
【請求項23】
測定対象物が、MxAタンパク質またはパンクレアティティス・アソシエーテド・プロテインである請求項12〜22のいずれかに記載の試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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