説明

試料水中のアルカリ成分濃度の測定方法

【課題】 残留塩素の影響を受けずに試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定する方法を提供すること。
【解決手段】 試料水に対して、水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素,pH調整剤及び還元剤を添加し、得られた添加液の吸光度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水中のアルカリ成分濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラなどの冷熱機器類への給水ラインにおいては、水質管理の指標の一つとして酸消費量(pH4.8)が用いられている。酸消費量(pH4.8)は、水に溶解している炭酸水素塩、炭酸塩、りん酸塩、水酸化物などのアルカリ成分をpH4.8に中和するのに要した酸の量からもとのアルカリ成分の量を計算し、それを炭酸カルシウム(CaCO)に換算して、試料水1リットルあたりのmg数で表したものである。
【0003】
従来から、酸消費量(pH4.8)は、酸による滴定により求める公定法が一般的に用いられている。しかし、この方法では、酸を用いて滴定を行うため、測定に手間がかかり、また酸の濃度管理も確実に行う必要があるという問題がある。
【0004】
そこで、酸による滴定を行わずに酸消費量(pH4.8)を求める方法として、あらかじめ酸消費量(pH4.8)が既知の標準液にブロモフェノールブルー(またはその塩)を含む指示薬を添加し、得られた添加液について590nmの吸光度を測定して酸消費量(pH4.8)と吸光度との関係を表した検量線を作成し、次いで酸消費量(pH4.8)未知の試料水に前記指示薬を添加し、得られた添加液について上記と同様に吸光度を測定し、前記検量線に基づいて試料水中の酸消費量(pH4.8)を求める方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−356118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載の方法では、試料水中に残留塩素が含まれていると、残留塩素が指示薬を酸化し、残留塩素が存在しないときに比べて添加液の吸光度が低くなるので、酸消費量(pH4.8)が正確に測定できないことが分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、残留塩素の影響を受けずに試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、残留塩素を含む試料水に還元剤を添加すれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 試料水に対して、水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素,pH調整剤及び還元剤を添加し、得られた添加液の吸光度を検出することを特徴とする、試料水中のアルカリ成分濃度の測定方法、
〔2〕 所定のアルカリ成分濃度を有する標準水と所定の残留塩素濃度を有する残留塩素含有水とをそれぞれ所定容量混合してなる試験水に対して、発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加して得られる添加液と、前記残留塩素含有水に代えて純水を用いてなる対照水に対して、前記還元剤に代えて純水を用いてなる組成物を添加して得られる添加液について、測定波長における吸光度を検出し、
前記吸光度に基づいて前記試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と前記対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度を算出し、
両者のアルカリ成分濃度が実質的に同じ場合、試料水に対して前記発色色素,前記pH調整剤及び前記還元剤を混合して1液とした組成物を添加することを特徴とする、前記〔1〕記載の方法、
〔3〕 1液型の組成物中に含まれる還元剤が、アスコルビン酸,ハイドロサルファイト,ロンガリット,チオ尿素,塩化ヒドロキシルアンモニウム,L−システイン及びチオ硫酸からなる群より選ばれる1種以上である、前記〔2〕記載の方法、
〔4〕 所定のアルカリ成分濃度を有する標準水と所定の残留塩素濃度を有する残留塩素含有水とをそれぞれ所定容量混合してなる試験水に対して、発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加して得られる添加液と、前記残留塩素含有水に代えて純水を用いてなる対照水に対して、前記還元剤に代えて純水を用いてなる組成物を添加して得られる添加液の測定波長における吸光度を検出し、
前記吸光度に基づいて前記試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と前記対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度を算出し、
両者のアルカリ成分濃度が異なる場合、試料水に対してあらかじめ前記還元剤を添加し、次いで前記発色色素及び前記pH調整剤を混合して1液とした組成物を添加することを特徴とする、前記〔1〕記載の方法、
〔5〕 試料水に対してあらかじめ添加される還元剤が、グルコース,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム,硫酸ヒドラジン,ヒドロキノン,ジエタノールアミン,2−アミノ−2−メチルプロパノール及びメチルエチルケトオキシムからなる群より選ばれる1種以上である、前記〔4〕記載の方法、
〔6〕 発色色素がメチルオレンジであり、アルカリ成分濃度が酸消費量(pH4.8)である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の方法、
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の方法に用いられ、発色色素,pH調整剤または還元剤のうち、少なくとも1種以上の試薬を備える試薬キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料水に対して、水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素,pH調整剤及び還元剤を添加し、得られた添加液の吸光度を検出するので、残留塩素の影響を受けずに試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、試料水中のアルカリ成分濃度の測定にあたり、試料水に対して、水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素,pH調整剤及び還元剤を添加し、得られた添加液の吸光度を検出する。これにより、残留塩素の影響を受けずに試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定することができる。
【0012】
本発明において試料水とは、ボイラなどの冷熱機器類への給水ラインから採取され、水質管理用にアルカリ成分濃度の測定のために用いられる水をいう。また、アルカリ成分濃度とは、酸消費量(pH4.8)または酸消費量(pH8.3)のいずれかをいう。酸消費量(pH4.8)は上記で定義したものである。また、酸消費量(pH8.3)とは、水に溶解している炭酸水素塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物などのアルカリ成分をpH8.3に中和するのに要した酸の量からもとのアルカリ成分の量を計算し、それを炭酸カルシウム(CaCO)に換算して、試料水1リットルあたりのmg数で表したものである。
【0013】
水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素(以下、単に「発色色素」という場合がある)とは、pH4.8またはpH8.3付近で変色するpH指示薬をいう。試料水中の酸消費量(pH4.8)を測定する場合、例えば、メチルオレンジ,メチルレッド,ブロモフェノールブルー,テトラブロモフェノールブルー,ブロモクレゾールグリーン,クロロフェノールレッドなどを例示することができる。また、試料水中の酸消費量(pH8.3)を測定する場合、例えば、フェノールフタレイン,チモールブルー,クレゾールレッド,ブロモチモールブルーなどを例示することができる。
【0014】
pH調整剤は、試料水に添加された発色試薬が変色しやすいpH条件に設定するために用いられるものであり、対象とするアルカリ成分濃度及び発色試薬の種類に応じて公知のものが使用される。酸消費量(pH4.8)を測定する場合、例えば、フタル酸塩、塩酸、リン酸、リン酸塩、グリシン、クエン酸、クエン酸塩、コハク酸、コハク酸塩、酒石酸、酒石酸塩、酢酸、酢酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸,乳酸塩などを例示することができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。酸消費量(pH8.3)を測定する場合、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ほう酸、ほう酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、塩化ナトリウム、塩化カリウム,アミン類などを例示することができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
還元剤は、公知の還元剤のうち、測定するpH領域又は、試料水のpH領域で残留塩素を還元できるものであれば特に限定されない。本発明に適用可能な還元剤としては、例えば、アスコルビン酸,ハイドロサルファイト,ロンガリット,チオ尿素,塩化ヒドロキシルアンモニウム,L−システイン,チオ硫酸,グルコース,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,メタ重亜硫酸ナトリウム,亜硝酸ナトリウム,硫酸ヒドラジン,ヒドロキノン,ジエタノールアミン,2−アミノ−2−メチルプロパノール,メチルエチルケトオキシムなどを例示することができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
以下、試料水中のアルカリ成分濃度の測定原理について説明する。試料水中のアルカリ成分には緩衝能力があり、アルカリ成分濃度の異なる所定容量の試料水に対して所定濃度の発色色素及び所定濃度のpH調整剤をそれぞれ所定容量添加すると、得られる添加液のpHは試料水中のアルカリ成分濃度に対応してそれぞれ異なる値を示す。また、発色色素は添加液のpHに応じて異なる形状の吸収スペクトルを示す。そこで、本発明では、アルカリ成分濃度の異なる所定容量の標準液に対して所定濃度の発色色素及び所定濃度のpH調整剤をそれぞれ所定容量添加し、上記標準液中のアルカリ成分濃度と得られた添加液の所定波長における吸光度との関係を示す検量線を作成し、該検量線を作成したときと実質的に同条件でアルカリ成分濃度未知の試料水に対して発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加し、得られた添加液の吸光度を測定し、上記検量線に基づいて試料水中のアルカリ成分濃度を定量している。
【0017】
標準液のアルカリ成分の濃度範囲は限定されず、通常は、300mg/リットル以下の濃度のものを用いることができる。また、検量線作成時の測定波長についても任意の波長を選択しうるが、測定精度を上げるため、分解能に優れる波長、すなわち、添加液のpHの違いにより吸光度が鋭敏に変化する波長を用いることが好ましい。このことを図4及び図5を用いて具体的に説明する。図4は、酸消費量(pH4.8)を測定対象とし、メチルオレンジを発色色素(変色領域及び色調はpH3.1(赤)〜4.4(黄))として、酸消費量(pH4.8)が0〜117.8mg/リットルの6種類の標準液に対して表1に示す試薬I〔試薬1(pH調整剤)と試薬2(発色試薬)とを混合して1液とした組成物〕を添加し、得られた添加液のうち2種類の添加液(0mg/リットル,117.8mg/リットル)について吸収スペクトルを示したものである。図5は、上記で得られた添加液の吸収スペクトルのうち、420nm及び525nmの吸光度と標準液の酸消費量(pH4.8)との関係を示す検量線である。
【0018】
図4のうち、スペクトルIは酸消費量(pH4.8)が0mg/リットルの標準液について得られた添加液の吸収スペクトル、スペクトルIIは酸消費量(pH4.8)が117.8mg/リットルの標準液について得られた添加液の吸収スペクトルである。図4より、標準液の酸消費量(pH4.8)が高くなるほど、400〜470nmの吸光度が増加し、470〜570nmが低下することが分かる。そして、図5より、420nmを測定波長とした場合、傾きが右上がりの検量線となり、一方、525nmを測定波長とした場合、傾きが右下がりの検量線となる。図5の場合、525nmを測定波長とする検量線の方が傾きが大きいので、測定精度を上げるには420nmよりは525nmの方が適しているといえる。
【0019】
また、本発明では、試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定するため、所定のアルカリ成分濃度を有する標準水と所定の残留塩素濃度を有する残留塩素含有水とをそれぞれ所定容量混合してなる試験水に対して、発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加して得られる添加液と、上記残留塩素含有水に代えて純水を用いてなる対照水に対して、上記還元剤に代えて純水を用いてなる組成物を添加して得られる添加液について、測定波長における吸光度を検出し、上記吸光度に基づいて上記試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と上記対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度を算出し、両者のアルカリ成分濃度が実質的に同じといえるか否かで、還元剤の添加方法を変えることができる。
【0020】
ここで、標準水とは、上記標準液のうち、任意に選択された所定のアルカリ成分濃度を有するものをいう。残留塩素含有水とは、次亜塩素酸ナトリウムを純水で溶解したものをいい、上記標準水に添加して得られる試験水中に通常0.5〜10ppmの範囲で含まれるように調製される。また、「両者のアルカリ成分濃度が実質的に同じ」とは、対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と、試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度とを対比して、前者を基準としたときに後者が相対誤差5%未満の値を示す場合をいう。
【0021】
上記の試験の結果、試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度が対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と実質的に同じ場合、試料水に対して、あらかじめ還元剤を添加し、次いで発色色素及びpH調整剤を混合して1液とした組成物を添加してもよいし、還元剤,発色色素及びpH調整剤を混合して1液とした組成物を添加してもよい。後者の方法を採用する場合、上記3種類の試薬を同時に添加できるので、添加操作が簡易になり好ましい。
【0022】
還元剤,発色色素及びpH調整剤を混合して1液の組成物として添加する場合に適用可能な還元剤は、上記に例示した還元剤の中では、アスコルビン酸,ハイドロサルファイト,ロンガリット,チオ尿素,塩化ヒドロキシルアンモニウム,L−システイン及びチオ硫酸が該当する。
【0023】
一方、上記の試験の結果、試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度が対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と実質的に同じといえない場合(すなわち、異なる場合)、この原因としては以下の3つが考えられる。(1)還元剤がpH調整後のpH領域で残留塩素を還元できない。(2)還元剤がpH調整を妨害してしまう。(3)上記(1)と(2)の両者である。上記(1)の場合、試料水に対して、あらかじめ還元剤を添加し、次いで発色色素及びpH調整剤を混合して1液とした組成物を添加しなければならない。「試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度が対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度のアルカリ成分濃度が異なる場合」とは、対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と、試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度とを対比して、前者を基準としたときに後者が相対誤差5%以上の値を示す場合をいう。
【0024】
上記の如く、還元剤を先入れする場合に適用可能な還元剤は、上記に例示した還元剤の中では、グルコース,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,メタ重亜硫酸ナトリウム,亜硝酸ナトリウム,硫酸ヒドラジン,ヒドロキノン,ジエタノールアミン,2−アミノ−2−メチルプロパノール,メチルエチルケトオキシムが該当する。
【0025】
上述のように還元剤を先入れした場合、該還元剤が試料水中の残留塩素と反応して試料水のpH領域で残留塩素を還元可能である。また、上記還元剤がアミン類の場合、試料水中の残留塩素と反応して結合塩素を形成すると推測されるので、残留塩素の影響を受けずに試料水中のアルカリ成分濃度を測定することができる。この場合、上述したようにアルカリ成分のみを含有する標準液ではなく、アルカリ成分と還元剤を含有する標準液を用いて作成した検量線を用いれば、試料水中のアルカリ成分濃度を正確に測定することができる。
【0026】
また、上記(2)のように還元剤がpH調整を妨害する場合、発色色素,pH調整剤及び還元剤を使用した組成物で予め、検量線を作成すればよい。
【0027】
本発明は、上述した本発明の方法により試料水中のアルカリ成分濃度を測定するための試薬キットをも包含する。該キットとしては、上記発色色素,上記pH調整剤または上記還元剤のうち、少なくとも1種以上の試薬を備えていればよい。上記各試薬を複数備える場合、上記各試薬をそれぞれ別個に備えていてもよいし、各試薬を混合した形態(例えば、発色色素とpH調整剤とを混合した組成物として)で備えていてもよい。
【実施例】
【0028】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。本実施例において、酸消費量(pH4.8)の単位として表示したppmはmg/リットルを意味する。
【0029】
1.検量線の作成
839.4mgの炭酸水素ナトリウム(NaHCO)に純水を加え1リットルの水溶液を調製した(以下、この水溶液を「I溶液」という)。50ミリリットルのI溶液に1/50N 硫酸をpH4.8になるまで滴下し、消費された酸の量からI溶液中のアルカリ成分の量を計算し、それをCaCO量に換算した。結果、I溶液中の酸消費量(pH4.8)は494ppmと算出された。
【0030】
I溶液を純水で希釈し、酸消費量(pH4.8)が0ppm,10.4ppm,29.6ppm,56.3ppm,86.9ppm及び117.8ppmの標準液を調製するとともに、表1に示す試薬I〔試薬1(pH調整剤)と試薬2(発色試薬)とを混合して1液とした組成物〕を調製した。各標準液10ミリリットルに対して試薬Iを4.6ミリリットル添加し、室温で1分間静置させた後、得られた添加液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。上記セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、室温下、525nmの吸光度を測定した。横軸に各標準液の酸消費量(pH4.8)、縦軸に吸光度をとって得られた測定値をプロットし、検量線を作成した。図1に結果を示す。図1より、検量線は右下がりの直線を示した。
【0031】
【表1】

【0032】
2.還元剤の添加効果の確認
標準水(上記標準液のうち、酸消費量(pH4.8)が56.3ppmのもの)、残留塩素含有水(濃度138.6ppm,次亜塩素酸ナトリウムを純水で希釈して調製したもの)及び表2に示す試薬II〔試薬1(pH調整剤),試薬2(発色試薬)及び還元剤を混合して1液とした組成物〕を用いて、還元剤の添加により残留塩素の影響を受けずに試験水を構成する標準水中の酸消費量(pH4.8)が正確に測定できるか否か調べた。具体的には、標準水10ミリリットルに対して残留塩素含有水を0.08ミリリットル添加して試験水を調製し(試験水中、残留塩素濃度は1.1ppm)、次いで試薬IIを4.6ミリリットル添加した。そして、室温で1分間静置させた後、得られた添加液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。次いで、上記セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、室温下、波長350〜650nmの吸収スペクトルを測定した。このように、上記還元剤を含む試薬IIを用いた試験区(全部で17個)を、以下、「還元剤添加区」という。また、還元剤及び残留塩素含有水に代えて純水を用いたこと以外は上記還元剤添加区と同様の試験区(以下、この試験区を「ブランク」という)及び還元剤に代えて純水を用いたこと以外は上記還元剤添加区と同様の試験区(以下、この試験区を「対策なし」という)を用いて各添加液の吸収スペクトルを測定した。図2に吸収スペクトルを示すとともに、以下に上記各試験区の測定に用いた試薬と容量を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
<還元剤添加区>
標準水 10 ml
残留塩素含有水 0.08 ml
試薬II(試薬1:試薬2:還元剤(0.1 wt%)=80:12:1(容量比)) 4.6 ml
【0035】
<ブランク>
標準水 10 ml
純水 0.08 ml
試薬IIa(試薬1:試薬2:純水=80:12:1(容量比)) 4.6 ml
【0036】
<対策なし>
標準水 10 ml
残留塩素含有水 0.08 ml
試薬IIa(試薬1:試薬2:純水=80:12:1(容量比)) 4.6 ml
【0037】
図2のうち、525nmにおける各試験区の吸光度と上記「1.検量線の作成」で得られた検量線とから、各試験区で用いた標準水中の酸消費量(pH4.8)を算出した。そして、「ブランク」で用いた標準水中の酸消費量(pH4.8)を基準として、各試験区で用いた標準水中の酸消費量(pH4.8)を相対誤差(%)で表示した。表3に結果を示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3のうち、標準水中の酸消費量(pH4.8)について「ブランク」と「対策なし」とを比べると、「ブランク」が56.4ppmであるのに対し、「対策なし」は72.7ppmを示した。これは、「対策なし」では、添加された発色色素(メチルオレンジ)の一部が試験水(標準水+残留塩素含有水)中の残留塩素により酸化されたため、残留塩素を含有しない対照水(標準水+純水)を用いたときの吸光度(すなわち、「ブランク」の吸光度)よりも低くなったためである。すなわち、上記試験水中の残留塩素の影響により、「対策なし」では、酸消費量(pH4.8)が高い側に誤判定したものである。
【0040】
また、還元剤添加区では、「ブランク」とほぼ同じ酸消費量(pH4.8)(相対誤差5%未満)を示したものもあれば、「ブランク」と異なる酸消費量(pH4.8)(相対誤差5%以上)を示し、「対策なし」に近い酸消費量(pH4.8)を示したものもあった。このうち、アスコルビン酸,ハイドロサルファイト,ロンガリット,チオ尿素,塩化ヒドロキシルアンモニウム,チオ硫酸またはL−システインを還元剤として添加した場合は、「ブランク」とほぼ同じ酸消費量(pH4.8)を示した。また、図2より、上記7種類の還元剤添加区とブランクとはほぼ同じ吸収スペクトルを示した。このことから、上記7種類の還元剤は、1液組成物(すなわち、試薬II)として用いた場合、試験水中の残留塩素がメチルオレンジを酸化する前に還元剤を酸化するので(すなわち、還元剤が残留塩素を還元するので)、残留塩素の影響を受けることなく酸消費量(pH4.8)を正確に測定できることが分かった。
【0041】
3.ジエタノールアミンの添加方法の検討
上記「2.還元剤の添加効果の確認」において、「ブランク」と異なる酸消費量(pH4.8)を示した還元剤添加区のうち、ジエタノールアミン添加区について、ジエタノールアミンの添加方法を変えることで、残留塩素の影響を受けることなく標準水中のMアルカリ濃度の測定ができるか否か検討した。検討にあたっては、上記「2.還元剤の添加効果の確認」で用いた標準水と残留塩素含有水を使用し、還元剤はジエタノールアミン(0.1wt%水溶液)を使用した。具体的には、標準水10ミリリットルに対して残留塩素含有水を0.08ミリリットル添加して試験水を調製し、次いでジエタノールアミンを50マイクロリットル添加し、1分間撹拌した後、表1に示す試薬Iを4.6ミリリットル添加した。室温で1分間静置させた後、得られた添加液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。次いで、上記セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、室温下、波長350〜650nmの吸収スペクトルを測定した。このように、ジエタノールアミンを試薬Iよりも先に添加する試験区を、以下、「DEA先入れ区」という。
【0042】
また、残留塩素含有水に代えて純水を用いたこと以外は上記DEA先入れ区と同様の試験区(以下、この試験区を「DEA先入れ区(ブランク)」という),ジエタノールアミンを先入れすることに代えて表2に示す試薬IIとして(すなわち、1液の組成物として)ジエタノールアミンを添加したこと以外は上記DEA先入れ区と同様の試験区(以下、この試験区を「DEA混合区」という)及び残留塩素含有水に代えて純水を用いたこと以外は上記DEA混合区と同様の試験区(以下、この試験区を「DEA混合区(ブランク)」という)を用いて吸収スペクトルを測定した。図3に各添加液の吸収スペクトルを示すとともに、以下に上記各試験区の測定に用いた試薬と容量を示す。なお、図3では、比較のため、図2の「ブランク」と「対策なし」の吸収スペクトルも併記した。
【0043】
<DEA先入れ区>
標準水 10 ml
残留塩素含有水 0.08 ml
還元剤(0.1 wt%) 50 μl
試薬I(試薬1:試薬2=80:12 (容量比)) 4.6 ml
【0044】
<DEA先入れ区(ブランク)>
標準水 10 ml
純水 0.08 ml
還元剤(0.1 wt%) 50 μl
試薬I(試薬1:試薬2=80:12 (容量比)) 4.6 ml
【0045】
<DEA混合区>
標準水 10 ml
残留塩素含有水 0.08 ml
試薬II(試薬1:試薬2:還元剤(0.1 wt%)=80:12:1(容量比)) 4.6 ml
【0046】
<DEA混合区(ブランク)>
標準水 10 ml
純水 0.08 ml
試薬II(試薬1:試薬2:還元剤(0.1 wt%)=80:12:1(容量比)) 4.6 ml
【0047】
図3より、DEA先入れ区とDEA先入れ区(ブランク)の吸収スペクトルがほぼ一致したのに対し、DEA混合区とDEA混合区(ブランク)の吸収スペクトルは一致しなかった。このことから、ジエタノールアミンを先入れした場合、ジエタノールアミンが残留塩素と反応して結合塩素を形成するため、残留塩素の影響を受けることなく標準水中の酸消費量(pH4.8)の測定を行えることが分かった。しかし、DEA先入れ区の吸収スペクトルは「ブランク」の吸収スペクトルとかなり形状が異なっていた。これは、ジエタノールアミンが添加液のpHを増加させているためと推測される。
【0048】
この点については、上記「1.検量線の作成」において、各標準液(10ミリリットル)に、試薬I(4.6ミリリットル)とジエタノールアミン(50マイクロリットル)を添加した添加液を用いた検量線を使用するようにすればよい。このことは、上記「2.還元剤の添加効果の確認」において、「ブランク」と異なる酸消費量(pH4.8)を示したジエタノールアミン添加区以外の還元剤添加区についても同様にいえる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、試料水中のアルカリ成分濃度を簡易に測定し得る測定方法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】酸消費量(pH4.8)が0〜117.8ppmの6種類の標準液に対して表1に示す試薬Iを添加して得られた添加液の吸収スペクトルのうち、525nmの吸光度と標準液の酸消費量(pH4.8)との関係を示す検量線である。
【図2】標準水と残留塩素含有水を混合した試験水に対して表2に示す試薬II(各種還元剤を含有する)を添加して得られた添加液の吸収スペクトルである。
【図3】標準水と残留塩素含有水を混合した試験水に対してジエタノールアミン(還元剤)を種々の態様で添加して得られた添加液の吸収スペクトルである。
【図4】酸消費量(pH4.8)の異なる2種類の標準液に対して表1に示す試薬Iを添加して得られた添加液の吸収スペクトルである。
【図5】酸消費量(pH4.8)の異なる6種類の標準液に対して表1に示す試薬Iを添加して得られた添加液の吸収スペクトルのうち、420nm及び525nmの吸光度と標準液の酸消費量(pH4.8)との関係を示す検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に対して、水中の水素イオン濃度の変化に伴って変色する発色色素,pH調整剤及び還元剤を添加し、得られた添加液の吸光度を検出することを特徴とする、試料水中のアルカリ成分濃度の測定方法。
【請求項2】
所定のアルカリ成分濃度を有する標準水と所定の残留塩素濃度を有する残留塩素含有水とをそれぞれ所定容量混合してなる試験水に対して、発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加して得られる添加液と、前記残留塩素含有水に代えて純水を用いてなる対照水に対して、前記還元剤に代えて純水を用いてなる組成物を添加して得られる添加液について、測定波長における吸光度を検出し、
前記吸光度に基づいて前記試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と前記対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度を算出し、
両者のアルカリ成分濃度が実質的に同じ場合、試料水に対して前記発色色素,前記pH調整剤及び前記還元剤を混合して1液とした組成物を添加することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1液型の組成物中に含まれる還元剤が、アスコルビン酸,ハイドロサルファイト,ロンガリット,チオ尿素,塩化ヒドロキシルアンモニウム,L−システイン及びチオ硫酸からなる群より選ばれる1種以上である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
所定のアルカリ成分濃度を有する標準水と所定の残留塩素濃度を有する残留塩素含有水とをそれぞれ所定容量混合してなる試験水に対して、発色色素,pH調整剤及び還元剤を混合して1液とした組成物を添加して得られる添加液と、前記残留塩素含有水に代えて純水を用いてなる対照水に対して、前記還元剤に代えて純水を用いてなる組成物を添加して得られる添加液の測定波長における吸光度を検出し、
前記吸光度に基づいて前記試験水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度と前記対照水を構成する標準水中のアルカリ成分濃度を算出し、
両者のアルカリ成分濃度が異なる場合、試料水に対してあらかじめ前記還元剤を添加し、次いで前記発色色素及び前記pH調整剤を混合して1液とした組成物を添加することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試料水に対してあらかじめ添加される還元剤が、グルコース,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム,硫酸ヒドラジン,ヒドロキノン,ジエタノールアミン,2−アミノ−2−メチルプロパノール及びメチルエチルケトオキシムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
発色色素がメチルオレンジであり、アルカリ成分濃度が酸消費量(pH4.8)である、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の方法に用いられ、発色色素,pH調整剤または還元剤のうち、少なくとも1種以上の試薬を備える試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−241382(P2008−241382A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80604(P2007−80604)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】