説明

詰め綿

【課題】嵩高性及び流動性に優れ、かつ耐洗濯性にも優れる詰め綿を提供する。
【解決手段】本発明の詰め綿は、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿であって、上記詰め綿には、合成樹脂フィルム片が混入されている。また、本発明の詰め綿製品は、本発明の詰め綿を収納体内に充填している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿であり、合成樹脂フィルムが混入された詰め綿に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛布団、羽毛ジャケット等の羽毛製品に充填される羽毛は、一般的には水鳥の羽毛が使用されている。水鳥としてはグース(ガチョウ)、ダック(アヒル)、北極圏の海岸線に生息するアイダー(野生の鴨)等がある。羽毛には、胸毛にあたるダウンと、羽根と呼ばれるフェザーがあり、ともに羽毛製品に使われている。羽毛の産地はポーランド、ハンガリー等の中欧、スカンジナビア半島を含む北欧、中国等である。羽毛は、嵩高性に優れ、暖かく、掛け布団や羽毛ジャケットの羽毛製品として高級素材の地位を占めている。
【0003】
しかし、天然の羽毛は水鳥に依存しており、その供給量には限度がある上、自然条件や厄病(例えば鳥ウィルス)の影響によって供給量も変動するという問題がある。あるいは自然保護の観点から、野生の鳥を捕捉することには限度がある。その上、天然の羽毛は、洗いが不充分であると悪臭の原因となるため、事前に悪臭の原因となる汚物を除去し、羽毛の洗浄の程度を見る清浄度と酸素計数を一定のレベルに保つ管理が必要である。加えて、羽毛枕、羽毛布団、羽毛ジャケット等の羽毛製品の洗濯は容易ではないという問題がある。
【0004】
従来から、羽毛の代わりの詰め綿として多くの提案がある。特許文献1には短繊維をループ状に屈曲させ、集中点を固着することが提案されている。特許文献2にはエアーノズルを用いて芯繊維とループ繊維とを空気交絡させた後に融着することが提案されている。特許文献3にはポリエステル繊維を加熱処理により収縮させて捲縮を発現させ、嵩高と弾力性を持たせることが提案されている。特許文献4には無撚の短繊維を低融点繊維で結束し、融着させることが提案されている。例えば、特許文献1及び4のように短繊維を花糸に使用した例では、嵩はへたり易く、嵩の耐久性に問題があった。また、特許文献2のように、単に空気交絡をさせ融着する方法では十分な嵩高性が得られなかった。特許文献3のように繊維自体の捲縮だけで嵩高性を発現させた例でも、やはり嵩はへたり易く、嵩の耐久性に問題があった。
【0005】
そこで、本出願人らは、特許文献5で、複数のループ状繊維を芯糸で一体化することにより、優れた嵩高性及び嵩耐久性を持たせた詰め綿を提案している。しかし、特許文献5の詰め綿は、芯糸のバリ、ループ状繊維のカール等で相互に絡み合い、フェルト化し、吹き込み及び洗濯耐久性が低下する傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−158366号公報
【特許文献2】特開昭58−146385号公報
【特許文献3】特開平6−93513号公報
【特許文献4】WO2006/104010A1
【特許文献5】特開2009−52183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿に、合成樹脂フィルム片を混入させることにより、嵩高性及び流動性に優れ、かつ耐洗濯性にも優れる詰め綿を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の詰め綿は、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿であって、上記詰め綿には、合成樹脂フィルム片が混入されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の詰め綿製品は、本発明の詰め綿を収納体内、例えば生地内に充填したものである。ここで詰め綿製品とは、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、首掛け、マフラー、ジャケット、ベスト、コート、羽毛服等をいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿に、合成樹脂フィルム片を混入させることにより、詰め綿相互の絡み合いを防ぎ、流動性を向上させて、嵩高性に優れ、かつ耐洗濯性にも優れる詰め綿を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、本発明における詰め綿の製造工程の一例を示す説明図であり、図1Bは、本発明における詰め綿の製造工程の他の一例を示す説明図である。
【図2】図2は、詰め綿の製造における撚糸工程の概略説明図である。
【図3】図3は、ループヤーンの拡大側面図である。
【図4】図4は、撚り止めされたループヤーンの概略断面図である。
【図5】図5は、揉み工程でループ繊維が開繊された状態のループヤーンの概略側面図である。
【図6】図6は、詰め綿の概略側面図である。
【図7】図7Aは、本発明における一例の合成樹脂フィルム片の平面形状を示す概略説明図であり、図7Bは、同7Aの合成樹脂フィルム片の三次元形状を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詰め綿は、芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿であり、上記詰め綿には合成樹脂フィルム片が混入されている。
【0013】
(詰め綿)
上記詰め綿において、上記ループ状繊維はマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されており、上記芯糸は、融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成され、熱融着して上記ループ状繊維を一体していることが好ましい。
【0014】
<ループ状繊維>
上記詰め綿は、複数のループ状繊維(以下、花糸ともいう。)と芯糸で構成される。ループ状繊維は長繊維であるマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されている。ループ状繊維を長繊維であるマルチフィラメント繊維で構成し、かつ開繊することにより、風合いは天然の羽毛に近似し、嵩高であり、へたりにくく嵩耐久性のある詰め綿とすることができる。すなわち、マルチフィラメント繊維を用いて複数回芯部を往復させ、複数のループを形成することにより、ループ自体の構造により、嵩高とへたりにくさを付与できる。また、ループ状繊維を開繊することにより、風合いは柔軟なものとなるとともに嵩高性を実使用可能な程度まで向上させることができる。その結果、全体として空気を多く含み、風合いは天然の羽毛に近似したものとなる。ここで開繊とは、収束された繊維群を単繊維が実質的にフリーになるように開くことをいう。開繊は完全に行われていてもよいし、部分的に開繊されていてもよい。
【0015】
ループ状繊維はマルチフィラメント繊維であれば、どのようなものでも使用できる。例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ナイロン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、絹等の天然繊維を挙げることができる。弾力性及び嵩高性を考慮すると、中空状、W状、星状等の異形断面繊維や高強力繊維、特に中空状ポリエステル繊維及び高強力ポリエステル繊維が好ましい。また、弾力性及び嵩高性を向上させる観点から、マルチフィラメント繊維とともにモノフィラメント繊維を加えてもよい。
【0016】
複数のループ状マルチフィラメント繊維は、ストレート繊維と収縮繊維で構成されてもよい。このようにすると、収縮繊維が裏側に入り、ストレート繊維が外側に配置され、2層構造の詰め綿となり、ボリューム感がさらに高くなる。
【0017】
複数のループ状繊維のループの平均長さは1〜200mmの範囲が好ましく、5〜50mmの範囲がより好ましく、10〜40mmの範囲が特に好ましい。ループ繊維が上記の範囲であれば、風合いと嵩高性と嵩耐久性を更に高めることができる。
【0018】
ループ状繊維の単繊維繊度が0.1〜300dtex(dtexはdeci texを示す。)、かつトータル繊度が10〜600dtexの範囲が好ましい。より好ましくは単繊維繊度が1.0〜50dtex、かつトータル繊度が20〜250dtexの範囲であり、特に好ましくは単繊維繊度が2.0〜25dtex、かつトータル繊度が30〜200dtexの範囲である。繊度が上記の範囲であれば、へたりにくく、かつ風合いも良好である。
【0019】
芯糸は、融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成されている。相対的に低融点の芯糸は、熱融着させてループ状繊維と相対的に高融点の芯糸を一体化するのに使用し、又は花糸を撚り込んだ後の撚り止めに使用する。相対的に高融点の芯糸は、低融点の芯糸の熱融着時に芯糸の糸切れを防止するため使用し又は熱融着させてループ状繊維を一体化するのに使用する。熱融着の際には、芯糸を同時に熱収縮させても良い。芯糸を熱収縮させる場合は芯糸をフリーな状態で加熱させればよく、熱収縮させない場合は緊張もしくは定長状態で加熱するか、又は加熱ロールで押圧して加熱する。
【0020】
芯糸は、特に限定されないが、例えばポリプロピレン繊維(融点160〜165℃)、プロピレン−エチレンランダムコポリマー繊維(融点135〜150℃)、プロピレン−エチレンブロックコポリマー繊維(融点160〜165℃)、高密度ポリエチレン(融点123〜135℃)、中密度ポリエチレン(融点120〜123℃)、低密度ポリエチレン(融点105〜120℃)、低融点ポリエステル繊維(融点110〜200℃)、低融点ナイロン繊維(融点110〜120℃、東レ社製“エルダー”、及び融点:95〜145℃、ユニチカ製“フロール”)等を含む任意の繊維から、融点の異なる少なくとも2種の繊維を選択して使用することができる。本発明においては、花糸と芯糸とを熱融着させた後に開繊処理を行うため、花糸と芯糸とがより強固に接着しているのが好ましく、当該観点より低融点の芯糸としては、低融点ポリエステル繊維、低融点ナイロン繊維が好ましい。特に好ましくは低融点ナイロン繊維である。
【0021】
芯糸は、融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含む構成でもよい。融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維としては、融点の異なるポリマーを芯鞘状等に複合したコンジュゲート繊維等が例示され、具体的には、高融点ポリマーがポリプロピレンポリマーであり、低融点ポリマーが、ポリエチレンポリマーまたは低融点ポリプロピレンポリマーから成る芯鞘繊維等が挙げられる。融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維は、単独で芯糸を構成してもよく、また他の芯糸と組合せて、芯糸を構成してもよい。ループ状繊維をより確実に一体化する観点から、芯鞘繊維を低融点熱接着繊維糸と組合せて用いることが好ましい。
【0022】
上記融点が異なる少なくとも2種類の芯糸又は融点が異なる2以上のポリマーにおいて融点差は、10〜200℃あることが好ましい。
【0023】
上記詰め綿において、ループ状繊維と芯糸の全体重量を100重量%としたとき、ループ状繊維の割合は51〜99重量%の範囲が好ましい。より好ましくは80〜98重量%の範囲、特に好ましくは85〜97重量%の範囲である。上記範囲であれば、芯糸による固定一体化はしっかりしたものとなり、かつ風合いも良好となる。
【0024】
上記詰め綿は連続状であるか又は1個あたりの平均重量は、0.1〜1000mgの範囲が好ましく、より好ましくは1〜100mgであり、特に好ましくは2〜50mgの範囲である。なお、平均重量が上記の範囲であれば、取り扱い性がよく、詰物等の詰め綿製品にした時に良好な風合いを有する。ここで、1個あたりの平均重量の算出は、まず30g分の詰め綿を採取し、当該30gに含まれる詰め綿の個数を計測する。その後、1個あたりの平均重量(mg)を計算により算出する。
【0025】
上記詰め綿には、さらにシリコーン処理剤(シリコーン樹脂)が熱固定されていることが好ましい。詰め綿に平滑性を付与することができる。熱固定されたシリコーン処理剤の固着量は、詰め綿に対して0.1〜10重量%になることが好ましい。さらに、硬さ調整のためアクリル樹脂、ウレタン樹脂等を固定しても良い。熱固定されたアクリル処理剤の固着量は、詰め綿に対して0.1〜5.0重量%になることが好ましい。
【0026】
詰め綿の製造方法について、以下図面を用いて説明する。各図面において、同一符号は同一部分を示す。図1Aは、本発明の詰め綿の製造工程の一例を示す説明図、図2は撚糸工程の概略説明図である。図1Aに示すように、花糸1と芯糸2をウエストゲージ3に供給し、撚糸工程4で撚糸する。具体的には図2に示すように、花糸11をウエストゲージ13に回転又は糸振りさせて供給し、融点が異なる少なくとも2種類の芯糸12a、12bは、花糸11の少なくとも一部を挟み込むようにウエストゲージ13に供給する。ここでウエストゲージとは、漏斗状の器具であり、上部が大きく開放され、ここに糸を落とすことができ、下部出口は狭くなっていて、糸を一時的に貯めることができる器具をいう。
【0027】
次いで、花糸11と芯糸12a、12bをまとめて撚りを掛け、ループヤーン14を形成する。ループヤーン14は撚糸機20によって実撚りを掛けて形成される。すなわち、モーター15、ベルト16を介してボビン17が回転され、この周りのリング18にトラベラー19が組み込まれ、ボビン17の回転より遅れて回転することにより、トラベラー19を通過するループヤーン14には実撚りが掛けられる。好ましい撚り数は150〜450回/mである。得られたループヤーン14の拡大図を図3に示す。花糸11はループを形成し、芯糸12a、12bは撚り掛けされて、全体をまとめている。
【0028】
得られたループヤーン14はボビン17から解舒し、図1Aに示す熱処理工程5で熱処理する。熱処理温度は、相対的に低融点の芯糸が融着する例えば90〜200℃、熱処理時間は1秒〜20分程度が好ましい。さらに、1kg/cm2以上の圧力を加えるとより好ましい。この熱処理により、相対的に低融点の芯糸が融着され、ループ繊維は撚り止めされる。得られたループヤーン21の概略断面図を図4に示す。22は融着された芯糸である。
【0029】
次に、撚り止めされたループヤーンは、図1Aに示す揉み工程6で開繊処理される。揉み工程では、ゴム、織物、不織布、樹脂シート等を2枚擦り合わせることにより、間に入れたループヤーン21は揉まれ、図5に示すループ繊維24のように開繊される。このような開繊処理を行うことで、40mm以上の嵩高性を得ることができる。また、花糸として上記中空状や高強力ポリエステル繊維を選択し開繊処理を組合せたり、30dtex以下のポリエステルモノフィラメント繊維をマルチフィラメント繊維に加えて開繊処理を組合せることにより、50〜150mm程度の嵩高性を発現させることが可能となる。なお、熱処理工程後に開繊処理を施さない場合では嵩高性は30mm程度しか発現しない。開繊するには揉み手段のほか、叩いたり、ブラッシング処理を採用することもできる。機械的揉み機の揉み部材としては、ネオプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等のゴム、ウレタンフォーム、シリコーンゴムフォーム、エチレン−ビニルアルコール(EVA)系発泡体、セルロース系発泡体等の発泡体、不織布、人工皮革等がある。また、ブラシの場合は、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィン、塩化ビニル、アクリル、アラミド、フッ素樹脂等の合成繊維、羊毛、馬毛、鹿毛、豚毛等の獣毛繊維、金属線等のブラシがある。
【0030】
揉み工程6で開繊処理されたループヤーンは、次に樹脂処理工程7において、シリコーン処理剤等の樹脂、例えばシリコーン処理剤を水中に分散した樹脂分散液等により処理される。シリコーン処理剤としては、分子末端がハイドロジェン基(−H)、ビニル基(−CH=CH2)等を有する反応性シリコーン処理剤を用いることが好ましい。例えば、松本油脂製薬社製“TERON E 530”バルキーシリコン、“TERON E 731”、“TERON E 722”等のソフトシリコーンを用いることができる。また、上記樹脂分散液は、さらにアクリル樹脂、ウレタン樹脂等を含んでもよい。アクリル樹脂としては、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体をベースに分子末端が、エチル基(−CH3)、ビニル基(−CH=CH2)等を有する水溶性アクリル処理剤及びアクリル樹脂エマルジョンを用いることが好ましい。例えば、ニカゾール(日本カーバイト工業社製)、プライマル(ローム・アンド・ハース社製)等を用いることができる。上記樹脂分散液におけるシリコーン処理剤の含有量は、樹脂分散液全体に対して、0.1〜20重量%であることが好ましい。また、上記樹脂分散液におけるアクリル処理剤の含有量は、樹脂分散液全体に対して、0.1〜20重量%であることが好ましい。なお、処理剤は、例えば140〜180℃程度で1秒〜20分程度熱処理を行うことにより繊維に固定される。熱固定されたシリコーン処理剤の固着量は、詰め綿に対して0.1〜10重量%であることが好ましく、熱固定されたアクリル処理剤の固着量は、詰め綿に対して0.1〜5.0重量%であることが好ましい。
【0031】
樹脂処理を施されたループヤーンは、次にカット工程8で所定の長さにカットされる。カット長は通常10〜50mmであり、好ましくは20〜40mmである。
【0032】
図1Bは他の一例の詰め綿の製造例である。図1Aと異なる部分は、まず、第二熱処理工程41を樹脂処理工程7の後に設けたこと、及びカット工程8の後に第二揉み(開繊)工程42を加えたことである。なお、カット工程8は省略することもできる。
【0033】
(合成樹脂フィルム片)
上記合成樹脂フィルム片としては、合成樹脂フィルムを所定の形状と大きさにカットしたものを用いることができる。上記合成樹脂フィルムとしては、合成樹脂を素材とするフィルムであればよく、特に限定されないが、例えばポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を用いることができる。耐熱性が高く、それゆえ耐洗濯性にも優れるという観点から、ポリエステルフィルムであることが好ましい。上記ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンナフタレートフィルム等を用いることができる。また、リサイクル性に優れるという観点から、PETフィルムが好ましい。
【0034】
上記合成樹脂フィルムは、合成樹脂フィルムに平滑性を与え、詰め綿の流動性を向上させるという観点から、シリコーン樹脂でコーティングされていることが好ましくい。中でも、シリコーン樹脂でコーティングされているポリエステル樹脂であることが特に好ましい。シリコーン樹脂のコーティングは、例えば合成樹脂フィルムをシリコーン樹脂を含む樹脂分散液で含浸処理した後、余分な樹脂分散液を除去し、乾燥することにより行う。上記シリコーン樹脂としては、一般的に合成樹脂フィルムのコーティングに用いるものであればよく、特に限定されない。また、上記樹脂分散液に帯電防止剤を含ませることにより、合成樹脂フィルムに帯電防止機能を付与してもよい。上記帯電防止剤としては、一般的に合成樹脂フィルムに帯電防止機能を付与するのに用いるものであればよく、特に限定されない。
【0035】
上記合成樹脂フィルム片は、特に限定されないが、厚さが3〜14μmであることが好ましく、4〜10μmであることがより好ましい。合成樹脂フィルム片の厚さが4μm以上であると、フィルムに腰があり、下記のような三次元形状が維持しやすい。また、合成樹脂フィルム片の厚さが10μm以下であると、流動性を良好に維持する上、軽量化も維持しやすい。
【0036】
上記合成樹脂フィルム片の形状は、特に限定されないが、例えば長方形、楕円形等が挙げられる。流動性をより向上させる観点から、長手方向における断面形状が凹凸形状であることが好ましく、山形状及び/又は波形状であることがより好ましく、山形状であることが特に好ましい。図7Aに、長手方向における断面形状が山形状である合成樹脂フィルム片の平面形状の概略説明図を示している。上記合成樹脂フィルム片は、特に限定されないが、詰め綿との絡みやすさ及び流動性をより向上させる観点から、長さ例えば図7Aに示す長さBが、詰め綿におけるカット長の50〜450%であることが好ましく、100〜250%であることがより好ましい。さらに、詰め綿におけるループ状繊維のループの平均長さの100〜400%であることが好ましく、150〜200%であることがより好ましい。具体的には、長さ10〜50mm、特に長さ20〜40mmであることがより好ましい。また、合成樹脂フィルム片は、特に限定されないが、詰め綿との絡みやすさ及び流動性をより向上させる観点から、幅例えば図7Aに示す幅Aが、詰め綿におけるカット長の10〜50%であることが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。さらに、詰め綿におけるループ状繊維のループの平均長さの5〜50%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましい。具体的には、幅1〜6mm、特に3〜5mmであることがより好ましい。また、上記凹凸形状において、凹凸の巾すなわち凹部の幅又は凸部の幅例えば図7Aに示す凹部31aの幅D又は凸部31bの幅Cは、各凹部又は凸部において同様であってもよく、異なっていてもよい。また、上記凹凸形状において、凹凸の深さすなわち凸部の頂点と凹部の底点との間の高さの差例えば図7Aに示す深さEは、各凹部又は凸部において同様であってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
また、上記合成樹脂フィルム片は、ランダム揉み、螺旋ねじり、波折り、エンボスロール等により三次元形状を形成していることが好ましく、ランダム揉み及び波折りにより三次元形状を形成していることがより好ましく、波折りにより三次元形状を形成していることが特に好ましい。詰め綿と絡みやすく、流動性が向上するうえ、嵩高性も良好に維持できる。図7Bは、図7Aに示している合成樹脂フィルム片を波折りして形成した三次元形状の概略説明図である。具体的には、合成樹脂フィルム片を折り目32に沿って谷折し、折り目33に沿って山折することにより、捲縮状態の三次元形状を形成している。なお、折り目と凹部31aの底点は一致してもよく、一致しなくてもよい。
【0038】
上記詰め綿を100重量%とした場合、上記合成樹脂フィルム片の混合量は1〜25重量%であることが好ましい。上記範囲内であれば、嵩高性に優れ、流動性にも優れる。また、流動性及び嵩高性をより良好にするという観点から、合成樹脂フィルムの混合量は5〜20重量%であることがより好ましく、10〜15重量%であることが特に好ましい。
【実施例】
【0039】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(詰め綿)
<製造例1>
図2に示す花糸11として、PETマルチフィラメント繊維糸(帝人製“エアロカプセル”、トータル繊度:40dtex、フィラメント数:12本、ストレート糸)と、PETマルチフィラメント繊維(ユニチカ製“シルミー”、トータル繊度:36dtex、フィラメント数:18本、異収縮混繊糸)をウェストケージ13に回転又は糸振りさせて供給した。一例として、糸振りの場合は往復距離が約40mm、回転の場合はループの中央部で摘み上げたときの片側のループが約20mmとなるようにした。
【0041】
芯糸12aとして低融点ナイロン繊維糸(ユニチカ製“フロール”、融点:95〜125℃、トータル繊度:56dtex、ストレート糸)とPETマルチフィラメント繊維糸(帝人製、融点:250℃、トータル繊度:56dtex、ストレート糸)を、芯糸12bとして低融点ナイロン繊維糸(ユニチカ製“フロール”、融点:95〜125℃、トータル繊度:56dtex、ストレート糸)とPETマルチフィラメント繊維糸(帝人製、融点:250℃、トータル繊度:56dtex、ストレート糸)をウェストケージ13に供給した。このとき、芯糸12a、12bにより、花糸11のループを挟み込むように供給した。次いで、花糸11と芯糸12a、12bをまとめて撚りを掛け、ループヤーン14を形成した。ループヤーン14は撚糸機30によって実撚りを掛けた。撚り数は280回/mであった。得られたループヤーン14は図3に示す。
【0042】
得られたループヤーン14はボビン17から解舒し、図1Aに示す熱処理工程5で熱処理した。熱処理温度は、“フロール”糸が融着する150℃、熱処理時間は5秒とした。この熱処理により、“フロール”糸が融着され、ループ繊維は撚り止めされた。得られたループヤーン21の概略断面図を図4に示す。22は融着された芯糸である。
【0043】
次に、撚り止めされたループヤーンは、図1Aに示す揉み工程6で開繊処理した。揉み工程では、上部揉み部材(ネオプレンゴム製)と下部ベルト材(ポリ塩化ビニル製)との間にループヤーン21を通し、上部揉み部材でループヤーン21に擦るような力を加えることにより、ループヤーン21は揉まれ、図5に示すループ繊維24のように開繊された。
【0044】
ループヤーンは、次に樹脂処理工程7において、樹脂分散液に含浸した。樹脂分散液は、シリコーン処理剤(松本油脂製薬社製“TERON E−722及びE−530”)をそれぞれ0.5重量%及び5.0重量%、アクリル処理剤(日本カーバイト工業社製“ニカゾールFX−586K”)5.0重量%、水89.5重量%を含むようにした。なお、余分な樹脂分散液は、ニップローラーにて除去した。
【0045】
次に、140℃で10分間熱処理し、シリコーン処理剤及びアクリル処理剤を詰め綿に熱固定した。詰め綿10におけるシリコーン処理剤及びアクリル処理剤の合計固着量は、5.0重量%であった。このようにして得られた詰め綿10は、図6に示すように開繊されたループ状繊維23と芯糸が収縮かつ熱融着している芯部22とから形成されていた。得られた詰め綿1個あたりの平均重量は、4mgであった。
【0046】
得られた詰め綿10を、カット工程8において、ロータリーカッターにより約20mmのカット長にカットした。なお、詰め綿10において、ループ状繊維のループの平均長さは17.5mmであった。
【0047】
(合成樹脂フィルム片)
<製造例2>
ポリエステルフィルム(東洋紡社製、厚さ:4.45μm)を、シリコーン樹脂(松本油脂製薬社製“TERON E−722及びE−530”)それぞれ0.5重量%及び5.0重量%、帯電防止剤(松本油脂製薬社製“エフコール301”、0.5重量%)を含む樹脂分散液で含浸処理した後、余分な樹脂分散液を、ニップローラーにて除去した。次いで、140℃、10分間乾燥させて、シリコーン樹脂でコーティングしたポリエステルフィルムを得た。次いで、ピンキングバサミでカットして、図7Aに示すような、長手方向の端面形状が山形状であり、幅Aが4mmであり、長さBが35mmである、製造例2の合成樹脂フィルム片を得た。なお、得られたフィルム片の長さは、製造例1における詰め綿10のカット長に対して175%及び製造例1における詰め綿10におけるループ状繊維のループの平均長さに対して200%であり、フィルム片の幅は、製造例1における詰め綿10のカット長に対して20%及び製造例1における詰め綿10におけるループ状繊維のループの平均長さに対して23%であった。
【0048】
<製造例3>
ポリエステルフィルムとして、厚さが7.00μmであるポリエステルフィルム(東洋紡社製)を用いた以外は、製造例2と同様にして製造例3の合成樹脂フィルム片を得た。
【0049】
<製造例4>
ポリエステルフィルムとして、厚さが11.00μmであるポリエステルフィルム(東洋紡社製)を用いた以外は、製造例2と同様にして製造例4の合成樹脂フィルム片を得た。
【0050】
(実施例1〜5)
詰め綿100重量%に対して、製造例2の合成樹脂フィルム片の混合量が、それぞれ25重量%、20重量%、15重量%、10重量%、5重量%になるように、製造例1の詰め綿と製造例2の合成樹脂フィルム片を均一に混合して、実施例1〜5の詰め綿を得た。なお、製造例2の合成樹脂フィルム片は、図7Bに示しているように、波折りして捲縮状態の三次元形状を形成して用いた。
【0051】
(実施例6〜10)
詰め綿100重量%に対して、製造例3の合成樹脂フィルム片の混合量が、それぞれ25重量%、20重量%、15重量%、10重量%、5重量%になるように、製造例1の詰め綿と製造例3の合成樹脂フィルム片を均一に混合して、実施例6〜10の詰め綿を得た。なお、製造例3の合成樹脂フィルム片は、図7Bに示しているように、波折りして捲縮状態の三次元形状を形成して用いた。
【0052】
(実施例11〜15)
詰め綿100重量%に対して、製造例4の合成樹脂フィルム片の混合量が、それぞれ25重量%、20重量%、15重量%、10重量%、5重量%になるように、製造例1の詰め綿と製造例4の合成樹脂フィルム片を均一に混合して、実施例11〜15の詰め綿を得た。なお、製造例4の合成樹脂フィルム片は、図7Bに示しているように、波折りして捲縮状態の三次元形状を形成して用いた。
【0053】
(比較例1)
合成樹脂フィルム片を混合せず、製造例1の詰め綿そのものを比較例1とした。
【0054】
実施例1〜15及び比較例1の詰め綿の嵩高性、流動性及び耐洗濯性を下記のとおり測定・評価して、その結果を下記表1に示した。なお、表1には、実施例1〜15に用いた合成樹脂フィルム片の製造例、厚さ、及び含有率も併せて示した。
【0055】
(嵩高性)
直径120mmの円筒に5gの試料を均一に入れて、次に、荷重20gの中落とし蓋(直径115mm)を載せ、中落とし蓋につないだ紐を徐々に伸ばして中落とし蓋を下に落とし、落ち切った時点で2分間放置し、この時の高さを測定した。
【0056】
(流動性)
試料を片手で軽くつまみ、軽く振るようにし、落下していく程度を観察して、以下のように判断した。
A:詰め綿1〜3個程度が塊となって落ちる
B:詰め綿1〜10個程度が塊となって落ちる
C:全体が2〜3に固まって落ちる
【0057】
(洗濯試験)
JIS L 0217:1995の付表1(番号103)に記載される試験法に準じて洗濯を実施した。具体的には、洗濯ネットに5gの試料を入れて、家庭用自動洗濯機にて洗濯後、脱水層にて脱水し、65℃に設定した熱風乾燥機にて乾燥させた。
【0058】
(耐洗濯性)
耐洗濯性は、以下のように、嵩高性、試料の均一性及び流動性を観察することにより評価した。
【0059】
<嵩高性>
洗濯ネットから試料を取り出し、上記のとおり嵩高性を観察した。
【0060】
<均一性>
洗濯ネットのまま手の平で軽くたたき、中の試料の広がりを観察し、以下のように評価した。
A:均一に広がる
B:やや均一に拡がる
C:やや試料の片寄りがある
D:試料の片寄りがある
【0061】
<流動性>
洗濯ネットから試料を取り出し、上記のとおり流動性を観察した。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜15の詰め綿を、枕の側地(縦:50cm、横:70cm、綿100%)内に1.0kg充填し、実用試験をしたところ、天然の羽毛を詰め綿とする枕と似たような、風合いがあり、嵩高であった。また、洗濯を繰り返した場合も、詰め綿の片寄り、嵩高性の低下、型崩れ及び風合いの低下がなく、耐洗濯性に優れていた。さらに、3月間継続して使用したが、へたりはほとんど起こらず、本発明の詰め綿が嵩耐久性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の詰め綿は、収納体内、例えば生地内に充填することにより、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、首掛け、マフラー、ジャケット、ベスト、コート、羽毛服等に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1、11 花糸
2、12a、12b 芯糸
3、13 ウエストゲージ
4 撚糸工程
5 熱処理工程
6 揉み工程
7 樹脂処理工程
8 カット工程
10 詰め綿
14、21 ループヤーン
15 モーター
16 ベルト
17 ボビン
18 リング
19 トラベラー
20 撚糸機
22 融着芯糸
23、24 ループ状繊維
30 合成樹脂フィルム片
31 凹凸形状
31a 凸部
31b 凹部
32、33 折り目
41 第二熱処理工程
42 第二揉み(開繊)工程
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸で一体化した複数のループ状繊維を含む詰め綿であって、
前記詰め綿には、合成樹脂フィルム片が混入されていることを特徴とする詰め綿。
【請求項2】
前記合成樹脂フィルムはポリエステルフィルムであり、前記ポリエステルフィルムはシリコーン樹脂でコーティングされている請求項1に記載の詰め綿。
【請求項3】
前記詰め綿100重量%に対して、前記合成樹脂フィルム片の混合量は5〜15重量%である請求項1又は2に記載の詰め綿。
【請求項4】
前記合成樹脂フィルム片は、厚さが4〜10μmである請求項1〜3のいずれかに記載の詰め綿。
【請求項5】
前記合成樹脂フィルム片は、長手方向における断面形状が凹凸形状である請求項1〜4のいずれかに記載の詰め綿。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の詰め綿を収納体内に充填している詰め綿製品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2010−270424(P2010−270424A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125623(P2009−125623)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】