説明

資料保存用中性紙管

【課題】 古地図や染織品、軸物、巻物等の貴重な資料を、変色や劣化を防止して長期にわたって安定した状態で保存することができる資料保存用中性紙管を提供する。
【解決手段】 冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にあり、乾燥後の質量1kg当たり全無機陰イオン含有量が300mg以下、かつ、該全無機陰イオン含有量中の硫酸イオン含有量が70mg以下である中性紙(11)を筒状に成形加工した筒状体(1)の両端に、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層(31)を内側に備えた蓋を設けて資料保存用中性紙管とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在まで受け継がれてきた貴重な古地図や染織品、軸物、巻物等の資料や、新しく生まれてくる美術品等の作品(以下、これらを総称して「資料」という)を長期にわたって安定した状態で保存するために使用される資料保存用中性紙管に関する。更に詳しくは、長期間資料と接して使用しても、資料に悪影響を及ぼすことなく、空気中の汚染ガスや資料から発生する酸性物質等を除去し、資料の変色、折れや割れ、波打ち等の変質、劣化等を防ぎ、資料の長期保存を効果的に行うことができる資料保存用中性紙管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、美術館や博物館に保存されている美術品や染織品が、建築物の内装材から発生するアンモニアやホルマリンおよび酢酸等の汚染ガスや、自動車や工場等から排出される硫黄酸化物や窒素酸化物等の大気汚染物質によって変質、劣化してしまうことが問題視されている。
【0003】
また、資料を長期間保存すると、資料自身の劣化に伴って発生する酸性物質が原因となって、より速く変質してしまうことへの対策も急がれている。
【0004】
このため本発明者等は、上記したような資料の保存・修復分野で使用するための中性紙およびその加工品に関して、特許文献1〜特許文献5において以下のような提案を行った。
すなわち特許文献1では、冷水抽出pH値が一定範囲以内で、かつ全無機陰イオン含有量が一定量以下の中性紙からなる保護・保存用紙を使用することで、資料の良好な保存性、安全性を達成できることを提案した。さらに、かような中性紙を応用して、特許文献2では軸装、額装用版画用紙を、特許文献3では額装用マットボードを、特許文献4では資料保存用の封筒を、特許文献5では資料保存用の中性段ボールを提案した。
【0005】
また、本発明者等は、調湿性および汚染ガス吸着性を有する紙に関し、特許文献6〜特許文献9において、以下のような提案を行った。
すなわち特許文献6では吸脱湿能を有する非結晶性無機粉体とガス吸着能を有する貝化石粉体を併用した物品保存用紙を、特許文献7では二酸化珪素、四価金属の水不溶性リン酸塩および二価金属の水酸化物を含有したシート状吸着材を、特許文献8では吸放湿性粉体と発泡性マイクロカプセルを使用した低密度の調湿紙を、特許文献9では吸放湿性粉体と熱融着性物質を使用して吸放湿性粉体の粉落ちの少ない調湿紙を提案した。
【0006】
一方、資料の保存施設や資料の修復工房、および大型作品の製作工房等では、収納棚や収納ケースに入りきれないような一定寸法以上の広幅や長尺の資料の保存や運搬に際し、安全で適切な容器が無いことでその取り扱いに苦慮している。また同様に、軸物や反物等の巻芯として使用される小径の紙管に関しても、安全で適切な材料が求められている。そこで不本意ながら、既存の酸性紙で作られた紙管の中に、巻いた資料を直接収納したり、あるいは資料の外側を中性紙で巻き、資料と酸性紙管とが直接触れないように使用しているのが実情である。
しかしながら、資料の外側を中性紙で巻き、資料と酸性紙管とが直接触れないようにしても、紙管として使用している酸性紙から発生する酸性物質が中性紙のカバーを突き抜け、その中に保存されている資料を傷めてしまう等の問題は解決されず、根本的な解決が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−194695号公報
【特許文献2】特開2003−119698号公報
【特許文献3】特開2003−171895号公報
【特許文献4】特開2003−171896号公報
【特許文献5】特開2003−171899号公報
【特許文献6】特許第1823632号
【特許文献7】特開平06−335614号公報
【特許文献8】特許第3176539号
【特許文献9】特開平10−212692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決することを課題とし、具体的には下記のごとき条件を具備した紙管を提供することを課題とするものである。
(1) 酸性物質を含まないか、若しくは極力少ない中性紙を使用することにより、紙管からの酸性物質の発生を防止すること。
(2) 調湿および汚染ガス吸着性能を有すること。
(3) 軽くて適度な強度があり、資料のサイズに合わせてカッター等で容易に紙管を切断できること。
(4) 資料に対して化学的、生物学的な被害を与えにくい接着剤を使用すること。
(5) 安価で資料の保護、保存性に優れていること。
(6) 廃棄処理が容易であること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にあり、乾燥後の質量1kg当たり全無機陰イオン含有量が300mg以下、かつ、該全無機陰イオン含有量中の硫酸イオン含有量が70mg以下である中性紙を筒状に成形加工した筒状体の両端に、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層を内側に備えた蓋を設けたことを特徴とする資料保存用中性紙管である。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1の資料保存用中性紙管において、前記筒状体を構成する中性紙が、冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙からなる内側と、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙からなる外側の二重構造とされていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項2の資料保存用中性紙管において、冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある前記内側中性紙は、木綿繊維を30質量%以上混合した製紙用繊維100質量部に対して、炭酸カルシウムを0.02〜5質量部含有してなり、密度が0.4〜0.6g/cm3 であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の資料保存用中性紙管において、前記筒状体の最外部に、防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材をさらに設けたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の資料保存用中性紙管において、前記中性紙の複数層さらに要すれば防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材を螺旋状に巻きながら接着剤で貼合したことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項5の資料保存用中性紙管において、前記接着剤として、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールを主成分とする接着剤を使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の資料保存用中性紙管(以下「中性紙管」と略称する)によれば、紙管に接する状態で資料を長期間保存しても、紙管からの酸性物質の発生がないため資料に悪影響を及ぼすことがなく、外部から流入する湿気や汚染ガスさらには資料の劣化に伴って発生する酸性物質等を効果的に除去することができ、かつ資料の折れ割れや波打ちを防ぐことができ、収納棚や収納ケースに入りきれないような一定寸法以上の広幅や長尺の資料の保存や運搬に際して、安全で適切に使用できる中性紙管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る最良の形態の中性紙管として第1実施形態〜第3実施形態を、図1〜図4を用いて説明する。
図1および図4は、本発明による中性紙管の第1実施形態を示しており、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙11を、螺旋状に巻ながら接着剤で貼合して筒状に成形加工してなる筒状体1(図1)の両端に、蓋3(図4)を設けた中性紙管である。
このように中性紙11から筒状体1を成形することにより、紙管からの酸性物質の発生を防止できる。
本発明における冷水抽出pH値は、JIS P8133「紙、板紙及びパルプ−水抽出液pHの試験方法」に基づいて測定した値である。
【0017】
この中性紙11としては、全無機陰イオン含有量が、紙の乾燥後の質量1kg当たり300mg以下であり、かつ無機陰イオン含有量中の硫酸イオン含有量が、紙の乾燥後の質量1kg当たり70mg以下である紙を用いる。なお、この中性紙11は、1層であってもよいが、強度を備えるために2層以上とすることが好ましい。
全無機陰イオン含有量が、紙の乾燥後の質量1kg当たり300mg以下であることとしたのは、全無機陰イオン含有量が300mgを超えると、中性紙の変色、強度劣化が顕著となり、酸性物質が発生して被保存物である資料に対する影響も大きくなるためである。
硫酸イオン含有量が、紙の乾燥後の質量1kg当たり70mg以下であることとしたのも同様の理由からであり、特に硫酸イオンが、中性紙の変色、強度劣化、酸性物質の発生等に大きな影響を与えるためである。
【0018】
本発明における全無機陰イオン含有量は、無機陰イオンのイオンクロマト分析法によって、IonPac AS4A分離カラム(4×250mm)を用いて測定したF- 、Cl- 、NO2 - 、Br- 、NO3 - 、PO4 3 - 、の陰イオン総量を、105℃で2時間乾燥した後の紙管質量1kg当たりのmg数で表したものである。
また、硫酸イオン含有量は、上記と同様にして測定したSO4 2 -を、紙管質量1kg当たりのmg数で表したものである。
【0019】
保存する資料に必要とする太さ、長さの筒状に成形加工した筒状体1には、その両端に、図4に示す蓋3を嵌合して紙管とするが、蓋3の内側には、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層31を備えている。この調湿性および汚染ガス吸着性を有する層31が具備すべき主な条件は、(1)吸放湿速度が速く、吸放湿量が多いこと、(2)多種類の汚染ガスを吸着し、吸着量が多いことである。
【0020】
具体的には、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層31として、セルロース繊維主体の繊維状物75〜20質量部に、非晶質及び低晶質性のシリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル等の吸脱湿能を有する非結晶性無機粉体20〜60質量部と、汚染ガス吸着能を有する貝化石粉体5〜20質量部とを混合したスラリーに、少量の定着剤0.02〜0.06質量部および/または有機結合剤1〜15質量部を添加して抄紙、乾燥して得られた調湿および汚染ガス吸着紙を用いることができる。
【0021】
上記したような調湿および汚染ガス吸着紙を筒状体1の両端に設ける蓋3の内部に貼合することで、中性紙管内の湿度を一定に保つことができ、かつ各種汚染ガスを吸着除去することが可能となるので、資料の保護・保存を効果的に行うことができる。また、中性紙管内部のデッドスペースは資料の保管スペースと比較して極めて少ないので、中性紙管内部の調湿や各種汚染ガスの吸着除去も速やかに行うことができ、このために必要な調湿および汚染ガス吸着紙も極めて少量ですむ。それ故、高価な調湿および汚染ガス吸着紙の使用量は必要最小限に止めることが可能となり、安価な中性紙管の提供が可能となる。
【0022】
本発明の第2実施形態は、図2に示すように、紙管中に保存された資料に直接触れる内側部分に、冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙12を使用して、その外側部分に、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙11を使用して、二重構造の筒状体1とされている。
このように、筒状体1のうち、資料に直接触れる内側部分にpH値が中性に近い6.5〜8.5の範囲にある中性紙12を使用することにより、pHの異なる各種の資料と紙管の内壁が長期間接触使用されても、資料の変色が少なく、資料の劣化に伴って発生する酸性物質も発生しにくくなる。
しかし、冷水抽出pH値を中性に近い6.5〜8.5の範囲とするには、製造条件が制約されて、コストもかかる。一方、冷水抽出pH値を高くすれば、耐久性を上げることができる。
このため、外側部分には、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙11を使用する。
【0023】
中性紙管を構成する中性紙の製造に使用される製紙用繊維としては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の晒化学パルプおよび塩素漂白法を用いないECF・TCPパルプ等の木材繊維や、コットンラグ、リンター、麻、亜麻、竹、藁、ケナフ、エスパルト、バガス、楮、三椏、雁皮等の非木材繊維や、必要に応じてレーヨン、ビニロン、ナイロン等の合成繊維や再生古紙も併用する場合もある。しかしながら、中性紙の変色や強度低下に悪影響を及ぼすリグニンやヘミセルロースの含有量の少ない高純度のバージンパルプを使用することが望ましい。
また、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙とするためには、アルカリ性を示す炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の填料を、製紙用繊維100質量部に対して0.02〜15.0質量部の範囲で使用する。
【0024】
図2に示す第2実施形態におけるように、筒状体1の内側部分に使用する冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙12としては、木綿繊維を30質量%以上混合した製紙用繊維100質量部に対して、炭酸カルシウムを0.02〜5質量部含有してなり、密度が0.4〜0.6g/cm3 である中性紙が特に好ましく使用できる。
【0025】
本発明の第3実施形態は、図3に示すように、第2実施形態(図2)における冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある外側中性紙11のさらに外側の最外部に、防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材13を設けて筒状体1を構成している。これにより、中性紙管内部を密閉して外部からの湿気の出入りや各種の汚染ガスの流入を確実に防止することができる。
【0026】
防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材としては、例えば低密度および高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の15〜25μmのフィルム、ポリエチレンラミネート紙や各種樹脂コート紙、エバール(商品名((株)クラレ製))の如き複合フィルム等を用いることができる。
【0027】
本発明による中性紙管は、保存する資料にとって必要とする太さ、長さがあり、保存や運搬時に必要な適度な強度を保持していればよい。すなわち、必要な太さや長さの筒状体に成形加工でき、適度な強度を有していれば問題なく使用できるが、中性紙管を効率よく製造するためには、中性紙の複数層さらに要すれば防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材を螺旋状に巻きながら接着剤で貼合する方法を採用することが好ましい。
【0028】
図1に示した第1実施形態においては、1層の中性紙11により筒状体1が構成されているように図示されているが、この中性紙11を複数枚の中性紙を螺旋状に貼合した筒状体とするができる。この場合、目的とする紙管の内径や長さによってその巻き数は異なるが、例えば、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある、坪量80〜350g/m2、密度0.4〜0.9g/cm3程度の中性紙を2〜12層巻くことにより、軽くて密度が低く、しかも適度な強度を有する筒状体を得ることができる。
さらにその上に冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある、坪量80〜120g/m2、密度0.65〜0.9g/cm3程度の中性紙を2〜4層巻くことにより、軽くて密度が低く、しかも適度な強度を有する筒状体を得ることができる。
【0029】
また、図2に示した第2実施形態においては、1層の内側中性紙12と、1層の外側中性紙11により二重構造の筒状体1が構成されているように図示されているが、この場合も、内側中性紙12および外側中性紙11を、それぞれ複数枚の中性紙を螺旋状に貼合して構成した多重構造の筒状体とするができる。例えば、冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある、坪量200〜350g/m2、密度0.4〜0.6g/cm3程度の中性紙12を2〜12層巻き、さらにその上に冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある、坪量80〜120g/m2、密度0.65〜0.9g/cm3程度の中性紙11を2〜4層巻くことにより、軽くて密度が低く、しかも適度な強度を有する筒状体を得ることができる。
【0030】
中性紙さらには防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材を螺旋状に巻きながら貼合する際の接着剤としては、ポリビニルアルコールのみからなる接着剤、ポリビニルアルコールを主成分とする接着剤、またはこれらを混合した接着剤を使用する。ポリビニルアルコールを主成分とする接着剤としては、ポリビニルアルコールを主成分とした糊材に、デキストリン、各種澱粉、変性澱粉、澱粉誘導体、繊維素誘導体、アルギン等の天然系糊材や、ポリアクリルアマイド樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂等の合成樹脂を配合したものが使用できる。
ポリビニルアルコールに天然系糊材や合成樹脂を配合する場合の配合比率は、ポリビニルアルコール60質量部に対して、天然系糊材や合成樹脂を最大40質量部までとすることが望ましい。しかしながら、この配合に用いる天然系糊材や合成樹脂には、酸性を呈するものやフリーの酸を含むものもあるため、硼砂、炭酸ソーダ、炭酸カルシウム等のアルカリ性薬品によって中和し、接着剤のpH値を中性〜弱アルカリ性に調整する必要がある。また、必要に応じて防腐剤や防黴剤および抗菌剤等を併用することもできる。
【0031】
本発明において、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコールを主成分とした接着剤を用いることが好ましいのは、以下の理由による。
従来の酸性紙からなる紙管は、主として酢酸ビニル樹脂が接着剤として使用されているが、酢酸ビニル樹脂を主成分とする接着剤は、フリーの酢酸を含みpHも酸性を呈しているために資料の保存にとっては極めて有害である。また膠やゼラチン等の接着剤は栄養価が高く、これらを使用した書籍において虫喰いが多く見られるように、このような栄養価の高い接着剤を中性紙管用の接着剤として使用することは好ましくない。
これに対して、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコールを主成分とした接着剤は、上述したような問題がないだけでなく、酢酸ビニル樹脂を主成分とした接着剤と比較してその使用量は約1/5で済み、1回の貼合に必要な接着剤の使用量を10g/m2 以下にすることが可能である。
しかも、中性紙は基本的に低密度で肉厚であるため、少ない貼合回数で所定の厚さの筒状体にすることができ、結果として接着回数も減るので接着剤の使用量を大幅に少なくすることができる。
またその結果、低密度で軽い筒状体となるので、カッター等で容易に切断することが可能となり、資料のサイズに合わせた長さの中性紙管を作業性よく得ることができる。
【実施例】
【0032】
筒状体の変色および強度低下について、下記の実施例1、2および比較例1により検証した。
【0033】
[実施例1]
リンターパルプ50質量部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)20質量部、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)30質量部を450mlC.S.F.に叩解して得られたパルプスラリーに、炭酸カルシウム(商品名「炭カルPライト100」、白石工業(株)製)を0.2質量部混合し、8質量%濃度のスラリーに調整した。このスラリーの固形分質量に対してサイズ剤(商品名「サイズパインK−903」、荒川化学工業(株)製)を0.2質量%、紙力増強剤(商品名「ポリアクロンCH−100」、星光化学工業(株)製)を0.2質量%、カチオン化澱粉(商品名「ネオタックL−1」、日本食品化工(株)製)を0.5質量%添加した後、常法により長網抄紙機で坪量250g/m2 の中性紙(a)を得た。この中性紙(a)の厚さは0.45mm、密度は0.55g/cm3 、冷水抽出pH値は7.2であった。
【0034】
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)60質量部、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)40質量部を400mlC.S.F.に叩解して得られたパルプスラリーに、炭酸カルシウム(商品名「炭カルPライト100」)を5質量部混合した他は、中性紙(a)と同様にして坪量100g/m2 の中性紙(b)を得た。この中性紙(b)の厚さは0.14mm、密度は0.71g/cm3 、冷水抽出pH値は8.7であった。
【0035】
中性紙(a)と(b)をスリッター加工して10cm幅の巻き取りとし、常法の紙管製造装置を使用して筒状体を製造した。この際、接着剤としてはポリビニルアルコール(商品名「クラレポバール117」、(株)クラレ製)を15質量%濃度に溶解したものを使用し、中性紙(a)を螺旋状に4層巻いて貼合した後、その上に中性紙(b)を螺旋状に2層巻いて貼合し、内径70mm、厚さ2.1mm、長さ2000mmの中性紙からなる筒状体を得た。
【0036】
[実施例2]
実施例1で得られた中性紙(a)と(b)をスリッター加工して10cm幅の巻き取りとし、実施例1と全く同じ方法で、中性紙(a)を螺旋状に2層巻いて貼合した後、その上に中性紙(b)を螺旋状に9層巻いて貼合し、内径70mm、厚さ2.2mm、長さ2000mmの中性紙からなる筒状体を得た。
【0037】
[比較例1]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)60質量部、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)40質量部を400mlC.S.F.に叩解して得られたパルプスラリーを8質量%濃度に調整した。このスラリーの固形分質量に対してサイズ剤(商品名「サイズパインE」、荒川化学工業(株)製)を2質量%、硫酸礬土(大明化学工業(株)製)を5質量%添加した後、常法により長網抄紙機で坪量100g/m2 の酸性紙(e)を得た。この酸性紙(e)の厚さは0.13mm、密度0.77g/cm3 、冷水抽出pH値は5.8であった。
【0038】
酸性紙(e)をスリッター加工して10cm幅の巻き取りとし、常法の紙管製造装置を使用して酸性紙からなる筒状体を製造した。この際、接着剤として酢酸ビニル樹脂エマルジョン(商品名「ボンドSP 220N」(株)コニシ製)を45質量%に希釈して使用し、酸性紙(e)を螺旋状に16層巻いて貼合し、内径70mm、厚さ2.1mm、長さ2000mmの酸性紙からなる筒状体を得た。
【0039】
外径74mm、内径70mmを目標に製造した実施例1、2および比較例1の筒状体について、厚さ、重さ、密度、冷水抽出pH値とともに、全無機陰イオン含有量および硫酸イオン含有量の測定結果、変色および強度低下の評価結果を、それぞれ表1に示した。但し、重さは筒状体を10cm幅に輪切りしたものを測定した。重さと密度に差が生じたのは、積層回数と接着剤の種類(ポリビニルアルコールと酢酸ビニル樹脂)の違いにより使用量が異なったこと、および低密度紙を使用したことによる。
【0040】
[変色]
実施例1、2および比較例1の筒状体を80℃、80%RHの恒温恒湿槽内に21日間曝し、筒状体の変色の状態を目視にて確認し、試験開始前の状態と試験終了後の状態を比較して以下のように評価した。○を合格とした。
○:筒状体の色に変化がない。
×:筒状体に変色が確認された。
【0041】
[強度低下]
実施例1、2および比較例1の筒状体を30cmの長さにカットして80℃、80%RHの恒温恒湿槽内に21日間曝し、筒状体の中央に10Kgの荷重をかけた際の破壊状態を目視観察して以下のように評価した。○を合格とした。
○:荷重によりひび割れや亀裂が生じない。
×:荷重によりひび割れや亀裂が生じた。
【0042】
【表1】

【0043】
表1からわかるように、実施例1および2は、(1)軽くて密度が低い、(2)適度な冷水抽出pH値を示す、(3)全無機陰イオン含有量が300mg/kg以下であり、硫酸イオン含有量も70mg/kg以下の所望の中性紙からなる筒状体が得られた。
これに対し比較例1は、上記(1)〜(3)の値が、所望値を遥かに超えたものとなった。
この結果、80℃、80%RHで21日間の強制劣化処理によって、比較例1は変色や強度低下を示したが、実施例1および2は耐久性のあるものとして評価できた。
【0044】
次に、外部環境の温度変化に伴う中性紙管内の湿度変化および中性紙管の汚染ガスの吸着性能について、下記の実施例3および比較例2により検証した。
【0045】
[実施例3]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)40質量部、非結晶性無機粉体(商品名「シリカゲルPA−270A」、富士シリシア化学(株)製)50質量部、貝化石((株)グリーン・カルチュア製)5質量部との混合物に、熱融着性物質(商品名「TJ04CN」、帝人(株)製)5質量部を混合し、離解して得られた均一なスラリーに、紙力増強剤(商品名「ネオタックL−1」)を固形分換算で0.5質量%添加して分散し、さらに高分子アニオン性凝集剤(商品名「ハイホルダー351」、栗田工業(株)製)を固形分換算で0.006質量%添加した後、常法により長網抄紙機で坪量1200g/m2 の調湿および汚染ガス吸着紙(d)を得た。
【0046】
実施例1で得た内径70mmの筒状体を長さ500mmに切断し、その両端に市販の金属製の蓋を取り付けて中性紙管を得た。この金属製の蓋の内側には、上記で得られた厚さ3mm、坪量1200g/m2 の調湿および汚染ガス吸着紙(d)を直径70mmの円形に打ち抜き、ポリビニルアルコール(商品名「クラレポバール117」)を15質量%濃度に溶解したものを接着剤として貼合した。
【0047】
[比較例2]
金属製の蓋の内側に調湿および汚染ガス吸着紙(d)を貼合しなかった以外は、実施例3と同様にして、中性紙管を得た。
【0048】
実施例3および比較例2により得られた中性紙管を用い、調湿および汚染ガス吸着紙(d)の有無による、外部環境の温度変化に伴う中性紙管内の湿度変化および汚染ガスの吸着性能の試験を行い、結果をそれぞれ図5および表2に示した。図5において、実線は実施例3の相対湿度を示し、点線は比較例2の相対湿度を示す。
【0049】
[外部環境の温度変化に伴う中性紙管内の湿度変化]
実施例3および比較例2の筒状体の中にそれぞれ温湿度計(データロガー)を固定し、22℃、55%RHの恒温恒湿槽で6時間調整した後、この筒状体の両端を実施例3と比較例2で使用される蓋を嵌合して閉じ、蓋の周囲を防湿テープで目張りし、槽内の温度を22℃→12℃→40℃→22℃と6時間毎に変化させたときの中性紙管内の湿度変化を計測した結果を図5に示した。
【0050】
[汚染ガスの吸着性能]
実施例3および比較例2の中性紙管を、それぞれ汚染ガスの種類と同数用意し、22℃、55%RHで48時間調整した。中性紙管の一定箇所に穴を開け一定濃度のガスを注入した後、穴を密封し、2時間後の中性紙管内の汚染ガス濃度を測定して以下のように評価した。○を合格とした。評価結果を表2に示す。
○:初期濃度より著しく濃度が低下したもの。
×:濃度低下があまり起こらなかったもの。
【0051】
【表2】

【0052】
図5の結果から、比較例2のように調湿および汚染ガス吸着紙(d)を使用しないと、吸放湿量が少ないため、特に昇温時に元の湿度に戻り難いことがわかる。一方、調湿および汚染ガス吸着紙(d)を使用した実施例3では、この点が大幅に改善されることが確認できた。すなわち実施例3は、中性紙管内の湿度変動が少なく、かつ一定の範囲に保たれるため、調湿および汚染ガス吸着紙(d)の使用が、資料の長期保存に有効であることわかる。
【0053】
また表2から明らかなように、実施例3の調湿および汚染ガス吸着紙(d)を使用した中性紙管が、調湿および汚染ガス吸着紙(d)を使用しない比較例2と比較して、あらゆる種類の汚染ガスについて、吸着性能が優れていることが確認できた。
【0054】
[実施例4]
防湿性とガスバリヤー性を有する基材(c)(商品名「エバール」)をスリッター加工して10cm幅の巻き取りとし、この基材(c)を実施例2で得られた筒状体の上に螺旋状に2層巻いて貼合し、内径70mm、厚さ2.25mm、長さ2000mmの中性紙および防湿性とガスバリヤー性を有する基材からなる筒状体を得た。貼合する際の接着剤としてはポリビニルアルコール(商品名「クラレポバール117」)を15質量%濃度に溶解したものを使用した。このようにして製造された中性紙管は、防湿性とガスバリヤー性を有する基材(c)により密閉性が高まることにより、外部からの湿気の出入りや各種の汚染ガスの流入をより一層効果的に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の中性紙管は、中性紙からの酸性物質の発生がなく、さらには蓋内側に設けた調湿性および汚染ガス吸着性を有する層によって、外部からの湿気や汚染ガスの影響を低減できるため、資料を長期間にわたって安全に保存、運搬を可能にする容器として利用することができる。
また、資料の保存施設や修復工房、および大型作品の製作工房等において、収納棚や収納ケースに入りきれないような一定寸法以上の広幅や長尺の資料の保存や運搬に際し、安全で適切な中性紙管として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙を使用した本発明の第1実施形態による筒状体を示す一部破断斜視図である。
【図2】冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙の外側に冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙を使用した本発明の第2実施形態による筒状体を示す一部破断斜視図である。
【図3】図2に示した第2実施形態の筒状体の外側に、防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材を設けた本発明の第3実施形態による筒状体を示す一部破断斜視図である。
【図4】図1に示した第1実施形態の筒状体の端部に、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層を内側に備えた蓋を取り付けてなる本発明の中性紙管を示す一部破断斜視図である。
【図5】実施例3および比較例2の中性紙管内の湿度変化を示した図である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・筒状体
3・・・蓋
11・・・冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙
12・・・冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙
13・・・防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材
31・・・調湿性および汚染ガス吸着性を有する層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にあり、乾燥後の質量1kg当たり全無機陰イオン含有量が300mg以下、かつ、該全無機陰イオン含有量中の硫酸イオン含有量が70mg以下である中性紙を筒状に成形加工した筒状体の両端に、調湿性および汚染ガス吸着性を有する層を内側に備えた蓋を設けたことを特徴とする資料保存用中性紙管。
【請求項2】
前記筒状体を構成する中性紙が、冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある中性紙からなる内側と、冷水抽出pH値が6.5〜10.0の範囲にある中性紙からなる外側の二重構造とされていることを特徴とする請求項1に記載の資料保存用中性紙管。
【請求項3】
冷水抽出pH値が6.5〜8.5の範囲にある前記内側中性紙は、木綿繊維を30質量%以上混合した製紙用繊維100質量部に対して、炭酸カルシウムを0.02〜5質量部含有してなり、密度が0.4〜0.6g/cm3 であることを特徴とする請求項2に記載の資料保存用中性紙管。
【請求項4】
前記筒状体の最外部に、防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材をさらに設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の資料保存用中性紙管。
【請求項5】
前記中性紙の複数層さらに要すれば防湿性および/またはガスバリヤー性を有する基材を螺旋状に巻きながら接着剤で貼合したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の資料保存用中性紙管。
【請求項6】
前記接着剤として、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルアルコールを主成分とする接着剤を使用することを特徴とする請求項5に記載の資料保存用中性紙管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−51976(P2006−51976A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234299(P2004−234299)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【出願人】(502155013)株式会社彌生洋紙店 (1)
【Fターム(参考)】