質量スペクトルからノイズを低減するシステムおよび方法
質量スペクトルにおける背景ノイズを低減するシステムおよび方法。方法は、以下のステップを含む。すなわち、(a)原質量スペクトルを得るステップと、(b)原質量スペクトルにおける背景ノイズに対応するノイズ質量スペクトルを決定するステップと、(c)原質量スペクトルからノイズ質量スペクトルを減じることによって、補正された質量スペクトルを決定するステップとである。該方法のステップ(b)は、A)原質量スペクトルを周波数領域に変換し、原周波数スペクトルを得るステップと、B)原周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、C)卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによってノイズ周波数スペクトルを生成するステップと、D)ノイズ質量スペクトルを質量領域に変換することによって、ノイズ質量スペクトルを決定するステップとを含み得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して質量分析法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
質量分析計は、試料の質量スペクトルを生成し、試料の組成を見つけるために用いられる。これは通常、試料をイオン化し、異なる質量のイオンを分離し、イオン束の強度を測定することによるイオンの相対存在度を記録することによって達成される。
【0003】
典型的には、質量スペクトルは、実信号を不明瞭にする背景ノイズを受けやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って利用者は、質量スペクトルからノイズを低減するかまたは除去する新しいシステムおよび方法に対する必要性を認識している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
一局面において、本発明は、質量スペクトルにおける背景ノイズを低減する方法に関する。本方法は、以下のステップを含む。すなわち、
(a)原質量スペクトルを得るステップと、
(b)原質量スペクトルにおける背景ノイズに対応するノイズ質量スペクトルを決定するステップと、
(c)原質量スペクトルからノイズ質量スペクトルを減じることによって、補正された質量スペクトルを決定するステップとである。
【0006】
該方法のステップ(b)は、
A)原質量スペクトルを周波数領域に変換し、原周波数スペクトルを得るステップと、
B)原周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
C)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによってノイズ周波数スペクトルを生成するステップと、
D)前記ノイズ質量スペクトルを質量領域に変換することによって、ノイズ質量スペクトルを決定するステップとを含み得る。
【0007】
請求されるような方法によって、原質量スペクトルは複数の原強度データポイントを備え、ノイズ質量スペクトルは、各ノイズ強度データポイントが原強度データポイントと関連するように複数のノイズ強度データポイントもまた備え得る。該方法は以下のステップをさらに備え得る。すなわち、
(E)原強度データポイントとノイズ強度データポイントとの各関連する対に関して、
(i)最小値を決定することと、
(ii)ノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって、ノイズ質量スペクトルを修正することとである。
【0008】
本発明はここで、以下の図面を参照して例としてのみ説明され、図面において同様の参照番号は同様の部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に従って作成されたノイズ低減システムの概略図である。
【図2】図2は、図1のシステムに入力され、該システムによって処理され得るような原質量スペクトルを示すグラフである。
【図3A】図3Aは、図2の原質量スペクトルを周波数領域に変換することによって決定される原周波数スペクトルを示すグラフである。
【図3B】図3Bは、図3Aのグラフの拡大されたセグメントである。
【図3C】図3Cは、図3Aの原周波数スペクトルをフィルタリングする、本発明に従って作成されそして用いられるフィルタのセグメントの概略図であり、該セグメントは図3Bに示される原周波数セグメントに対応する。
【図4】図4は、本発明に従って作成され、図3Aの原周波数スペクトルにおける卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、本発明に従って作成され、図4のノイズ周波数スペクトルを質量領域に変換することによって決定されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は、図5のノイズ質量スペクトルの拡大された部分であって、その上に図2の原質量スペクトルの対応する拡大された部分が一緒に重ねられている、部分を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、本発明に従って、全体のノイズ質量スペクトルおよび図6に示されたその原質量スペクトルからの強度データポイントの各対応する対の最小値を決定することによって作成されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図7B】図7Bは、図6における拡大された部分に対応する図7Aのノイズ質量スペクトルの拡大された部分を示すグラフである。
【図8】図8は、図7Aのノイズ質量スペクトルを周波数領域に変換することによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明に従って作成され、図8のノイズ周波数スペクトルにおける卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図10】図10は、本発明に従って作成され、図9のノイズ周波数スペクトルを質量領域に変換することによって決定されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図11】図11は、本発明に従って、図10の全体のノイズ質量スペクトルおよび図2の原質量スペクトルからの強度データポイントの各対応する対の最小値を決定することによって作成されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図12】図12は、本発明に従って作成され、図2の原質量スペクトルから図11のノイズ周波数スペクトルを減じることによって決定される補正された質量スペクトルを示すグラフである。
【図13】図13は、本発明に従って、質量スペクトルにおいてノイズを低減する方法のステップを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
図1を参照すると、そこに示されるものは、総称的に10として表され、本発明に従って作成されたノイズ減少システムである。システム10は、適切にプログラムされたノイズ減少エンジン14を有するプロセッサすなわち中央処理装置(CPU)を備えている。エンジン14のためのプログラミングはまた、例えばコンピュータディスクまたはCD−ROMなどの記憶媒体にセーブされ得る。入力/出力(I/O)デバイス16(典型的には、データ入力コンポーネント16A、およびディスプレイ16Bなどの出力コンポーネントを含む)はまた、CPU12に動作可能に連結される。理解されるように、好ましくはデータ入力コンポーネント16Aは、質量スペクトルおよび/または周波数領域データを受信するように構成され、ディスプレイ16Bは、質量スペクトルおよび周波数領域に対応するグラフに適合するように同様に構成される。
【0011】
好ましくは、質量スペクトルおよび周波数領域データが記憶され得るデータ記憶装置17もまた、提供される。
【0012】
理解されるように、システム10は、質量スペクトル(または周波数領域データ)におけるノイズを低減するスタンドアロン分析システムであり得る。代案において、システム10は、分析されるべき試料から生成されるイオンのビームを放出するように構成される、イオン源20を有するスペクトロメータシステムの部分を備え得る(しかし必ずしも備える必要はない)。
【0013】
検出器22(1つ以上のアノードまたはチャネルを有する)もまた、スペクトロメータシステムの部分として提供され、検出器22は、放出されたイオンの経路において、イオン源20の下流に位置を決められ得る。光学装置24または静電レンズなどの他の収束要素もまた、検出器22にイオンを収束させるために、イオン源20と検出器22との間の、放出されたイオンの経路に配置され得る。
【0014】
ここで図2を参照すると、システム10に入力され、システム10によって分析され得るような原質量スペクトル40を示すグラフ30がそこに示される。縦軸42は信号強度に対応し、横軸44はm/z(質量/電荷)に対応する。グラフは原質量スペクトル40を表示し、原質量スペクトル40は、典型的には背景ノイズまたは背景信号と一緒に組み合わされ、それによって不明瞭にされた実信号を備えている。理解されるように、原質量スペクトル40に対応するデータは、好ましくはデータ記憶装置17に入力され、そこに記憶され、典型的にはグラフ30は、ディスプレイ16Bに表示される。
【0015】
図13は、全体的に200として表され、ノイズ減少システム10によって実行される方法のステップを説明する。原質量スペクトル40に対応するデータ(図2に示される)は、(典型的にはI/Oデバイスを介して、またはシステム10がスペクトロメータを備えている場合、システム10によって決定され)受信され、典型的にはデータ記憶装置17に記憶され、ノイズ減少エンジン14は、ノイズ減少分析を開始するようにプログラムされる(ブロック202)。原質量スペクトル40における背景信号コンポーネントに対応するノイズ質量スペクトルが、次いで決定される(ブロック204)。下記のブロック206〜232に関する論議において説明されるように、このステップ自体、若干数のステップを備え得る。
【0016】
図3Aのグラフ52(該グラフの拡大されたセグメントは図3Bのグラフ52’に示される)において示されるように、エンジン14は、原質量スペクトル40の周波数領域への変換を生み出し(典型的には、フーリエ変換、サイン/コサイン変換、または当該分野において公知の任意の数学的または実験的方法を原質量スペクトル40データに受けさせることによって)、原周波数スペクトル50を得るようにプログラムされ得る(ブロック206)。グラフ52において、縦軸54は強度に対応し、横軸56は周波数に対応する。
【0017】
原周波数スペクトル50は、卓越周波数に対応する明確なピーク58を備えている。理解されるように、背景ノイズはしばしば、性質上周期的であり、典型的には1原子質量単位の周期を有する。従って、卓越周波数58の強度の大部分はしばしば、原質量スペクトル40のノイズコンポーネントに起因し得る。これらの卓越周波数58はしばしば、背景ノイズの基本周波数およびその対応する高調波に対応する。
【0018】
エンジン14は、好ましくは原周波数スペクトル50における卓越周波数58のうちの少なくとも1つ、好ましくはその全てを同定する(但し、理解されるように、このステップはシステム10のユーザによって手動で実行され得る)(ブロック208)。次に、原周波数スペクトル50は、図4のグラフ61に示されるように、ノイズ周波数スペクトル60を生成するために、同定された卓越周波数58に対してフィルタリングされる(ブロック210)。
【0019】
これを達成するために、図3Cの概略グラフ64において例示的目的のために描かれるフィルタのようなフィルタ62が、同定された卓越周波数58に対して選択的にフィルタリングするために作られ得る。データフィルタ62は、典型的には減少エンジン14におけるソフトウェアを介して実行され、しばしばエンドユーザに対して表示されない。見られ得るように、縦軸軸66は、保持されるかまたはフィルタリングされる原周波数スペクトル50の割合(0〜1)を表す。横軸68は周波数に対応する。フィルタ62は、好ましくはブロック208において同定された卓越周波数58の数に対応する複数のタブ70を備えている。図3Aおよび図3Bを並置するとわかるように、タブ70によってフィルタ62は、同定された卓越周波数58データの100%を保存するかまたはそれに対してフィルタリングするように構成される。逆に、フィルタ62は、同定された卓越周波数データ58の部分を形成しない原周波数スペクトル50における周波数データを捨て、結果としてノイズ周波数スペクトル60データが生ずる。
【0020】
続いて、エンジン14は、好ましくは、典型的にはノイズ周波数スペクトル60データの質量領域への逆フーリエ変換を行なうことによって、図5のグラフ74において示されるノイズ質量スペクトル72を決定するように構成される(ブロック212)。
【0021】
理解されるように、ノイズ質量スペクトル72データは、原質量スペクトル40の背景ノイズ信号コンポーネントの推定を表す。
【0022】
図6を参照すると、ノイズ質量スペクトル72の対応する拡大されたセグメントによる、拡大された原質量スペクトル40のクローズアップセグメントのオーバレイされたグラフ76がそこに示される。理解されるようにノイズ72および原40質量スペクトルは、何千というデータポイントから形成される。1つのデータポイントが各m/z値に対応する各スペクトル40、72に存在するので、質量スペクトル72および40の両方におけるデータポイントは関連づけられ得る。
【0023】
原質量スペクトル40およびノイズ質量スペクトル72のそれぞれの例示的データポイント74Aおよび74B(75Aおよび75B)を参照すると、各対は、同じm/z値に関連づけられる(点線によって示されるように)。ノイズ質量スペクトル72が特定のm/z値において原質量スペクトル40より高い強度値を有し得ることが見られ得る。しかしながら、理解されるように、このことは、背景ノイズ信号コンポーネントの推定値におけるアーティファクトを示す。なぜならノイズコンポーネントは、(対応するm/z値における)原質量スペクトル40の背景信号と実信号との結合を超えないはずであるからである。このアーティファクトは、例えば、ポイント74A、75Aにおける原質量スペクトル40についての現実ピークの結果であり、これらの点において、初期質量スペクトルはノイズ質量スペクトル72についての対応するポイント74B、75Bより高い強度値を有している。
【0024】
従って、背景信号推定をさらに改良するために、ノイズ質量スペクトル72データは、(同じm/z値を有する)ノイズ質量スペクトル72と原質量スペクトル40との各関連したデータポイントに対して、2つのデータポイントの最小強度値が決定されるように改訂される(ブロック214)。次に、ノイズ質量スペクトルは、好ましくはノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって修正される(ブロック216)。
【0025】
明確には、ブロック214および216のステップは、下記の式1に説明される関数を用いて実行される。
式1: f(x)=min(f(x),g(x))
ここで、xはm/zを表し、f(x)はノイズ質量スペクトル72の強度値を表し、g(x)は、原質量スペクトル40の強度値を表し、f(x)は修正されたノイズ質量スペクトルを表す。
【0026】
原およびノイズ質量スペクトル40、72における関連するデータポイントの全てに対するブロック216の完了は、図7A(および図7B)のグラフ82に示されるように、結果として修正されたノイズ質量スペクトル80が生ずる(ブロック218)。
【0027】
次に、修正されたノイズ質量スペクトル80の周波数領域への変換が行なわれ(再び、典型的には、フーリエ変換をノイズ質量スペクトル80データに受けさせることによって)、図8のグラフ92に示されるような、ノイズ周波数スペクトル90を得る(ブロック220)。
【0028】
次に、ノイズ周波数スペクトル90における卓越周波数94の少なくとも1つおよび好ましくは全てが同定される(ブロック222)。ノイズ周波数スペクトル90は次いで、フィルタリングされたノイズ周波数スペクトル98を生成するために、同定された卓越周波数94に対してフィルタリングされ、フィルタリングされたノイズ周波数スペクトル98の一部分は図9のグラフ99に示される(ブロック224)。
【0029】
典型的には、ブロック210に関して作られる図3Bのフィルタ62は、ノイズ周波数スペクトル98を作る際に、同定された卓越周波数94に対して選択的にフィルタリングするために再使用され得る。
【0030】
続いて、図10のグラフ102に示されるように、ノイズ質量スペクトル100は、典型的にはノイズ周波数スペクトル98データの質量領域への逆フーリエ変換を行なうことによって生成される(ブロック226)。
【0031】
背景信号推定をさらに改良するために、ブロック216に関して論議された方法と類似した方法で、ノイズ質量スペクトル100データは、(同じm/z値を共有することにより関連づけられた)ノイズ質量スペクトル100と原質量スペクトル40とにおける各関連したデータポイントに対して、2つのデータポイントの最小強度値が決定されるように改訂される(ブロック228)。次に、ノイズ質量スペクトル100は、好ましくはノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって修正される(ブロック230)。理解されるように、ブロック228および230のステップは、上記の式1を用いて実行され得る。
【0032】
原およびノイズ質量スペクトル40、100における関連するデータポイントの全てに対してブロック230の完了は、図11のグラフ104に示されるように、結果として、修正されたノイズ質量スペクトル102が生じる(ブロック232)。
【0033】
ブロック220〜232のステップは、好ましくは(必ずしも必要ではないが)、複数回繰り返され(図13の線233によって示されるように)、各繰り返しは、背景信号推定(ノイズ質量スペクトル102)をさらに改良し、該背景信号推定を実際の背景信号にさらに近くに接近させる。ブロック220〜232のステップは、所定の回数が繰り返され得(例えば、典型的には1〜20回であるが、一部の場合において、より多くの繰り返しが必要であり得る)、または、修正されたノイズ質量スペクトル102データのそれぞれのバージョンとノイズ質量スペクトル100データとの間の差が一旦所定の範囲内に入ると、エンジン14は繰り返しを自動的に中止させるようにプログラムされ得る。
【0034】
修正されたノイズ質量スペクトル102の最終バージョンが一旦決定されると、ノイズ質量スペクトル102は、原質量スペクトル40から減じられ、図12におけるグラフ112に示されるように、結果として、補正された質量スペクトル110が生じる(ブロック250)。理解されるように、補正された質量スペクトル110は、(原質量スペクトル40に存在する)背景ノイズの大部分が除去されて、分析された試料の意図される実信号に対応する。
【0035】
代替の実施形態200’において、(図2に示され、点線によって分離されるように)ブロック206の前に原質量スペクトル40を複数の初期ウィンドウ120にセグメント化することによって、改善された結果が時に得られ得ることが見出された(ブロック234)。典型的には、ウィンドウ120は等しい寸法であるが、但し、このことは必要とされない。好ましくは、点線236によって示されるように、ブロック206〜212が別の(典型的には連続の)初期ウィンドウ120に対して開始され、そして完了させられる前に、ブロック206から212までは各々、1つの初期ウィンドウ120に対して別々に完了させられる。
【0036】
もちろん、理解されるように、ブロック206〜212の各々の上記の説明は、全体として質量スペクトルおよび対応する周波数領域にあてはまる。しかしながら、原質量スペクトル40が適宜、ブロック234に従って別々に初期ウィンドウ120によって処理される場合、ブロック206〜212に関する説明における質量スペクトルおよび周波数領域の全体に関する言及は、これらのブロックの特定の反復中に処理される初期ウィンドウ120に対応する質量スペクトルおよび周波数領域のセグメントにあてはまると理解されるべきである。
【0037】
一旦、ブロック222に従う初期ウィンドウ120への原質量スペクトル40のセグメント化および各初期ウィンドウ12に対するブロック206〜212の後の完了がなされ、修正されたノイズ質量スペクトル80が、ブロック214〜218に従って生成されると、ブロック220の前に一連の複数の後のウィンドウ130(図7Aに示されるように)にセグメント化される(ブロック238)。好ましくは、連続する後のウィンドウ130は、質量領域においてどの後のウィンドウ130もどの開始ウィンドウ12とも同一の広がりを持たないように構成される。(質量スペクトルの開始および終了時以外において)ウィンドウ130が、立上りエッジまたは終了エッジ(図7Aの点線で示される)をどの開始ウィンドウ12とも共有しない場合もまた好ましい。
【0038】
従って、後のウィンドウ130が開始ウィンドウ12と概して同じサイズであるように構成される場合、後のウィンドウセグメント130は、最初130’のおよび最後130”の後のウィンドウセグメントが典型的には後のウィンドウ130の残りのものよりも小さくなるように質量領域においてシフトされる。
【0039】
ブロック220〜226の各々は、点線240によって示されるように、ブロック220〜226が別の(典型的には連続する)後のウィンドウ130に対して完了される前に、1つの後のウィンドウ130(130’、130”を含む)に対して別々に完了される。上記に論議される最初の実施形態の場合のように、ブロック220〜232は繰り返され得る−後の繰り返しごとに(線233の代わりに点線233’によって示されるように)、好ましくは、一連の新しい後のウィンドウは、どの新しい後のウィンドウ130もどの以前のシリーズのどの後のウィンドウ130とも同一の広がりを持たないように、ブロック238において作られる。(質量スペクトルの開始および終了時以外において)どの新しい後のウィンドウ130も、立上りエッジまたは終了エッジ(図7Aの点線で示される)を以前のシリーズにおけるどの後のウィンドウ120とも共有しない場合もまた好ましい。
【0040】
後の繰り返しごとに立上りエッジまたは終了エッジのオーバラップを回避するかまたは最小限にするために、一連の新しい後のウィンドウ130は、前のシリーズのウィンドウ130と概ね同じサイズを有するが、m/z値に関して位置がシフトされるように構成され得る。あるいはウィンドウ130のサイズは、異なるシリーズのウィンドウ130に対して変更され、立上りエッジまたは終了エッジのオーバラップを最小限にし得る。
【0041】
従って、本明細書において示されかつ説明されることは本発明の好ましい実施形態を構成するが、本発明から逸脱することなく様々な変更がなされ得、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲において定義されることは理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して質量分析法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
質量分析計は、試料の質量スペクトルを生成し、試料の組成を見つけるために用いられる。これは通常、試料をイオン化し、異なる質量のイオンを分離し、イオン束の強度を測定することによるイオンの相対存在度を記録することによって達成される。
【0003】
典型的には、質量スペクトルは、実信号を不明瞭にする背景ノイズを受けやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って利用者は、質量スペクトルからノイズを低減するかまたは除去する新しいシステムおよび方法に対する必要性を認識している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
一局面において、本発明は、質量スペクトルにおける背景ノイズを低減する方法に関する。本方法は、以下のステップを含む。すなわち、
(a)原質量スペクトルを得るステップと、
(b)原質量スペクトルにおける背景ノイズに対応するノイズ質量スペクトルを決定するステップと、
(c)原質量スペクトルからノイズ質量スペクトルを減じることによって、補正された質量スペクトルを決定するステップとである。
【0006】
該方法のステップ(b)は、
A)原質量スペクトルを周波数領域に変換し、原周波数スペクトルを得るステップと、
B)原周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
C)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによってノイズ周波数スペクトルを生成するステップと、
D)前記ノイズ質量スペクトルを質量領域に変換することによって、ノイズ質量スペクトルを決定するステップとを含み得る。
【0007】
請求されるような方法によって、原質量スペクトルは複数の原強度データポイントを備え、ノイズ質量スペクトルは、各ノイズ強度データポイントが原強度データポイントと関連するように複数のノイズ強度データポイントもまた備え得る。該方法は以下のステップをさらに備え得る。すなわち、
(E)原強度データポイントとノイズ強度データポイントとの各関連する対に関して、
(i)最小値を決定することと、
(ii)ノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって、ノイズ質量スペクトルを修正することとである。
【0008】
本発明はここで、以下の図面を参照して例としてのみ説明され、図面において同様の参照番号は同様の部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に従って作成されたノイズ低減システムの概略図である。
【図2】図2は、図1のシステムに入力され、該システムによって処理され得るような原質量スペクトルを示すグラフである。
【図3A】図3Aは、図2の原質量スペクトルを周波数領域に変換することによって決定される原周波数スペクトルを示すグラフである。
【図3B】図3Bは、図3Aのグラフの拡大されたセグメントである。
【図3C】図3Cは、図3Aの原周波数スペクトルをフィルタリングする、本発明に従って作成されそして用いられるフィルタのセグメントの概略図であり、該セグメントは図3Bに示される原周波数セグメントに対応する。
【図4】図4は、本発明に従って作成され、図3Aの原周波数スペクトルにおける卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、本発明に従って作成され、図4のノイズ周波数スペクトルを質量領域に変換することによって決定されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は、図5のノイズ質量スペクトルの拡大された部分であって、その上に図2の原質量スペクトルの対応する拡大された部分が一緒に重ねられている、部分を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、本発明に従って、全体のノイズ質量スペクトルおよび図6に示されたその原質量スペクトルからの強度データポイントの各対応する対の最小値を決定することによって作成されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図7B】図7Bは、図6における拡大された部分に対応する図7Aのノイズ質量スペクトルの拡大された部分を示すグラフである。
【図8】図8は、図7Aのノイズ質量スペクトルを周波数領域に変換することによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明に従って作成され、図8のノイズ周波数スペクトルにおける卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって決定されるノイズ周波数スペクトルを示すグラフである。
【図10】図10は、本発明に従って作成され、図9のノイズ周波数スペクトルを質量領域に変換することによって決定されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図11】図11は、本発明に従って、図10の全体のノイズ質量スペクトルおよび図2の原質量スペクトルからの強度データポイントの各対応する対の最小値を決定することによって作成されるノイズ質量スペクトルを示すグラフである。
【図12】図12は、本発明に従って作成され、図2の原質量スペクトルから図11のノイズ周波数スペクトルを減じることによって決定される補正された質量スペクトルを示すグラフである。
【図13】図13は、本発明に従って、質量スペクトルにおいてノイズを低減する方法のステップを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
図1を参照すると、そこに示されるものは、総称的に10として表され、本発明に従って作成されたノイズ減少システムである。システム10は、適切にプログラムされたノイズ減少エンジン14を有するプロセッサすなわち中央処理装置(CPU)を備えている。エンジン14のためのプログラミングはまた、例えばコンピュータディスクまたはCD−ROMなどの記憶媒体にセーブされ得る。入力/出力(I/O)デバイス16(典型的には、データ入力コンポーネント16A、およびディスプレイ16Bなどの出力コンポーネントを含む)はまた、CPU12に動作可能に連結される。理解されるように、好ましくはデータ入力コンポーネント16Aは、質量スペクトルおよび/または周波数領域データを受信するように構成され、ディスプレイ16Bは、質量スペクトルおよび周波数領域に対応するグラフに適合するように同様に構成される。
【0011】
好ましくは、質量スペクトルおよび周波数領域データが記憶され得るデータ記憶装置17もまた、提供される。
【0012】
理解されるように、システム10は、質量スペクトル(または周波数領域データ)におけるノイズを低減するスタンドアロン分析システムであり得る。代案において、システム10は、分析されるべき試料から生成されるイオンのビームを放出するように構成される、イオン源20を有するスペクトロメータシステムの部分を備え得る(しかし必ずしも備える必要はない)。
【0013】
検出器22(1つ以上のアノードまたはチャネルを有する)もまた、スペクトロメータシステムの部分として提供され、検出器22は、放出されたイオンの経路において、イオン源20の下流に位置を決められ得る。光学装置24または静電レンズなどの他の収束要素もまた、検出器22にイオンを収束させるために、イオン源20と検出器22との間の、放出されたイオンの経路に配置され得る。
【0014】
ここで図2を参照すると、システム10に入力され、システム10によって分析され得るような原質量スペクトル40を示すグラフ30がそこに示される。縦軸42は信号強度に対応し、横軸44はm/z(質量/電荷)に対応する。グラフは原質量スペクトル40を表示し、原質量スペクトル40は、典型的には背景ノイズまたは背景信号と一緒に組み合わされ、それによって不明瞭にされた実信号を備えている。理解されるように、原質量スペクトル40に対応するデータは、好ましくはデータ記憶装置17に入力され、そこに記憶され、典型的にはグラフ30は、ディスプレイ16Bに表示される。
【0015】
図13は、全体的に200として表され、ノイズ減少システム10によって実行される方法のステップを説明する。原質量スペクトル40に対応するデータ(図2に示される)は、(典型的にはI/Oデバイスを介して、またはシステム10がスペクトロメータを備えている場合、システム10によって決定され)受信され、典型的にはデータ記憶装置17に記憶され、ノイズ減少エンジン14は、ノイズ減少分析を開始するようにプログラムされる(ブロック202)。原質量スペクトル40における背景信号コンポーネントに対応するノイズ質量スペクトルが、次いで決定される(ブロック204)。下記のブロック206〜232に関する論議において説明されるように、このステップ自体、若干数のステップを備え得る。
【0016】
図3Aのグラフ52(該グラフの拡大されたセグメントは図3Bのグラフ52’に示される)において示されるように、エンジン14は、原質量スペクトル40の周波数領域への変換を生み出し(典型的には、フーリエ変換、サイン/コサイン変換、または当該分野において公知の任意の数学的または実験的方法を原質量スペクトル40データに受けさせることによって)、原周波数スペクトル50を得るようにプログラムされ得る(ブロック206)。グラフ52において、縦軸54は強度に対応し、横軸56は周波数に対応する。
【0017】
原周波数スペクトル50は、卓越周波数に対応する明確なピーク58を備えている。理解されるように、背景ノイズはしばしば、性質上周期的であり、典型的には1原子質量単位の周期を有する。従って、卓越周波数58の強度の大部分はしばしば、原質量スペクトル40のノイズコンポーネントに起因し得る。これらの卓越周波数58はしばしば、背景ノイズの基本周波数およびその対応する高調波に対応する。
【0018】
エンジン14は、好ましくは原周波数スペクトル50における卓越周波数58のうちの少なくとも1つ、好ましくはその全てを同定する(但し、理解されるように、このステップはシステム10のユーザによって手動で実行され得る)(ブロック208)。次に、原周波数スペクトル50は、図4のグラフ61に示されるように、ノイズ周波数スペクトル60を生成するために、同定された卓越周波数58に対してフィルタリングされる(ブロック210)。
【0019】
これを達成するために、図3Cの概略グラフ64において例示的目的のために描かれるフィルタのようなフィルタ62が、同定された卓越周波数58に対して選択的にフィルタリングするために作られ得る。データフィルタ62は、典型的には減少エンジン14におけるソフトウェアを介して実行され、しばしばエンドユーザに対して表示されない。見られ得るように、縦軸軸66は、保持されるかまたはフィルタリングされる原周波数スペクトル50の割合(0〜1)を表す。横軸68は周波数に対応する。フィルタ62は、好ましくはブロック208において同定された卓越周波数58の数に対応する複数のタブ70を備えている。図3Aおよび図3Bを並置するとわかるように、タブ70によってフィルタ62は、同定された卓越周波数58データの100%を保存するかまたはそれに対してフィルタリングするように構成される。逆に、フィルタ62は、同定された卓越周波数データ58の部分を形成しない原周波数スペクトル50における周波数データを捨て、結果としてノイズ周波数スペクトル60データが生ずる。
【0020】
続いて、エンジン14は、好ましくは、典型的にはノイズ周波数スペクトル60データの質量領域への逆フーリエ変換を行なうことによって、図5のグラフ74において示されるノイズ質量スペクトル72を決定するように構成される(ブロック212)。
【0021】
理解されるように、ノイズ質量スペクトル72データは、原質量スペクトル40の背景ノイズ信号コンポーネントの推定を表す。
【0022】
図6を参照すると、ノイズ質量スペクトル72の対応する拡大されたセグメントによる、拡大された原質量スペクトル40のクローズアップセグメントのオーバレイされたグラフ76がそこに示される。理解されるようにノイズ72および原40質量スペクトルは、何千というデータポイントから形成される。1つのデータポイントが各m/z値に対応する各スペクトル40、72に存在するので、質量スペクトル72および40の両方におけるデータポイントは関連づけられ得る。
【0023】
原質量スペクトル40およびノイズ質量スペクトル72のそれぞれの例示的データポイント74Aおよび74B(75Aおよび75B)を参照すると、各対は、同じm/z値に関連づけられる(点線によって示されるように)。ノイズ質量スペクトル72が特定のm/z値において原質量スペクトル40より高い強度値を有し得ることが見られ得る。しかしながら、理解されるように、このことは、背景ノイズ信号コンポーネントの推定値におけるアーティファクトを示す。なぜならノイズコンポーネントは、(対応するm/z値における)原質量スペクトル40の背景信号と実信号との結合を超えないはずであるからである。このアーティファクトは、例えば、ポイント74A、75Aにおける原質量スペクトル40についての現実ピークの結果であり、これらの点において、初期質量スペクトルはノイズ質量スペクトル72についての対応するポイント74B、75Bより高い強度値を有している。
【0024】
従って、背景信号推定をさらに改良するために、ノイズ質量スペクトル72データは、(同じm/z値を有する)ノイズ質量スペクトル72と原質量スペクトル40との各関連したデータポイントに対して、2つのデータポイントの最小強度値が決定されるように改訂される(ブロック214)。次に、ノイズ質量スペクトルは、好ましくはノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって修正される(ブロック216)。
【0025】
明確には、ブロック214および216のステップは、下記の式1に説明される関数を用いて実行される。
式1: f(x)=min(f(x),g(x))
ここで、xはm/zを表し、f(x)はノイズ質量スペクトル72の強度値を表し、g(x)は、原質量スペクトル40の強度値を表し、f(x)は修正されたノイズ質量スペクトルを表す。
【0026】
原およびノイズ質量スペクトル40、72における関連するデータポイントの全てに対するブロック216の完了は、図7A(および図7B)のグラフ82に示されるように、結果として修正されたノイズ質量スペクトル80が生ずる(ブロック218)。
【0027】
次に、修正されたノイズ質量スペクトル80の周波数領域への変換が行なわれ(再び、典型的には、フーリエ変換をノイズ質量スペクトル80データに受けさせることによって)、図8のグラフ92に示されるような、ノイズ周波数スペクトル90を得る(ブロック220)。
【0028】
次に、ノイズ周波数スペクトル90における卓越周波数94の少なくとも1つおよび好ましくは全てが同定される(ブロック222)。ノイズ周波数スペクトル90は次いで、フィルタリングされたノイズ周波数スペクトル98を生成するために、同定された卓越周波数94に対してフィルタリングされ、フィルタリングされたノイズ周波数スペクトル98の一部分は図9のグラフ99に示される(ブロック224)。
【0029】
典型的には、ブロック210に関して作られる図3Bのフィルタ62は、ノイズ周波数スペクトル98を作る際に、同定された卓越周波数94に対して選択的にフィルタリングするために再使用され得る。
【0030】
続いて、図10のグラフ102に示されるように、ノイズ質量スペクトル100は、典型的にはノイズ周波数スペクトル98データの質量領域への逆フーリエ変換を行なうことによって生成される(ブロック226)。
【0031】
背景信号推定をさらに改良するために、ブロック216に関して論議された方法と類似した方法で、ノイズ質量スペクトル100データは、(同じm/z値を共有することにより関連づけられた)ノイズ質量スペクトル100と原質量スペクトル40とにおける各関連したデータポイントに対して、2つのデータポイントの最小強度値が決定されるように改訂される(ブロック228)。次に、ノイズ質量スペクトル100は、好ましくはノイズ強度データポイントを最小値に等しくすることによって修正される(ブロック230)。理解されるように、ブロック228および230のステップは、上記の式1を用いて実行され得る。
【0032】
原およびノイズ質量スペクトル40、100における関連するデータポイントの全てに対してブロック230の完了は、図11のグラフ104に示されるように、結果として、修正されたノイズ質量スペクトル102が生じる(ブロック232)。
【0033】
ブロック220〜232のステップは、好ましくは(必ずしも必要ではないが)、複数回繰り返され(図13の線233によって示されるように)、各繰り返しは、背景信号推定(ノイズ質量スペクトル102)をさらに改良し、該背景信号推定を実際の背景信号にさらに近くに接近させる。ブロック220〜232のステップは、所定の回数が繰り返され得(例えば、典型的には1〜20回であるが、一部の場合において、より多くの繰り返しが必要であり得る)、または、修正されたノイズ質量スペクトル102データのそれぞれのバージョンとノイズ質量スペクトル100データとの間の差が一旦所定の範囲内に入ると、エンジン14は繰り返しを自動的に中止させるようにプログラムされ得る。
【0034】
修正されたノイズ質量スペクトル102の最終バージョンが一旦決定されると、ノイズ質量スペクトル102は、原質量スペクトル40から減じられ、図12におけるグラフ112に示されるように、結果として、補正された質量スペクトル110が生じる(ブロック250)。理解されるように、補正された質量スペクトル110は、(原質量スペクトル40に存在する)背景ノイズの大部分が除去されて、分析された試料の意図される実信号に対応する。
【0035】
代替の実施形態200’において、(図2に示され、点線によって分離されるように)ブロック206の前に原質量スペクトル40を複数の初期ウィンドウ120にセグメント化することによって、改善された結果が時に得られ得ることが見出された(ブロック234)。典型的には、ウィンドウ120は等しい寸法であるが、但し、このことは必要とされない。好ましくは、点線236によって示されるように、ブロック206〜212が別の(典型的には連続の)初期ウィンドウ120に対して開始され、そして完了させられる前に、ブロック206から212までは各々、1つの初期ウィンドウ120に対して別々に完了させられる。
【0036】
もちろん、理解されるように、ブロック206〜212の各々の上記の説明は、全体として質量スペクトルおよび対応する周波数領域にあてはまる。しかしながら、原質量スペクトル40が適宜、ブロック234に従って別々に初期ウィンドウ120によって処理される場合、ブロック206〜212に関する説明における質量スペクトルおよび周波数領域の全体に関する言及は、これらのブロックの特定の反復中に処理される初期ウィンドウ120に対応する質量スペクトルおよび周波数領域のセグメントにあてはまると理解されるべきである。
【0037】
一旦、ブロック222に従う初期ウィンドウ120への原質量スペクトル40のセグメント化および各初期ウィンドウ12に対するブロック206〜212の後の完了がなされ、修正されたノイズ質量スペクトル80が、ブロック214〜218に従って生成されると、ブロック220の前に一連の複数の後のウィンドウ130(図7Aに示されるように)にセグメント化される(ブロック238)。好ましくは、連続する後のウィンドウ130は、質量領域においてどの後のウィンドウ130もどの開始ウィンドウ12とも同一の広がりを持たないように構成される。(質量スペクトルの開始および終了時以外において)ウィンドウ130が、立上りエッジまたは終了エッジ(図7Aの点線で示される)をどの開始ウィンドウ12とも共有しない場合もまた好ましい。
【0038】
従って、後のウィンドウ130が開始ウィンドウ12と概して同じサイズであるように構成される場合、後のウィンドウセグメント130は、最初130’のおよび最後130”の後のウィンドウセグメントが典型的には後のウィンドウ130の残りのものよりも小さくなるように質量領域においてシフトされる。
【0039】
ブロック220〜226の各々は、点線240によって示されるように、ブロック220〜226が別の(典型的には連続する)後のウィンドウ130に対して完了される前に、1つの後のウィンドウ130(130’、130”を含む)に対して別々に完了される。上記に論議される最初の実施形態の場合のように、ブロック220〜232は繰り返され得る−後の繰り返しごとに(線233の代わりに点線233’によって示されるように)、好ましくは、一連の新しい後のウィンドウは、どの新しい後のウィンドウ130もどの以前のシリーズのどの後のウィンドウ130とも同一の広がりを持たないように、ブロック238において作られる。(質量スペクトルの開始および終了時以外において)どの新しい後のウィンドウ130も、立上りエッジまたは終了エッジ(図7Aの点線で示される)を以前のシリーズにおけるどの後のウィンドウ120とも共有しない場合もまた好ましい。
【0040】
後の繰り返しごとに立上りエッジまたは終了エッジのオーバラップを回避するかまたは最小限にするために、一連の新しい後のウィンドウ130は、前のシリーズのウィンドウ130と概ね同じサイズを有するが、m/z値に関して位置がシフトされるように構成され得る。あるいはウィンドウ130のサイズは、異なるシリーズのウィンドウ130に対して変更され、立上りエッジまたは終了エッジのオーバラップを最小限にし得る。
【0041】
従って、本明細書において示されかつ説明されることは本発明の好ましい実施形態を構成するが、本発明から逸脱することなく様々な変更がなされ得、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲において定義されることは理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトルにおける背景ノイズを低減する方法であって、該方法は、
(a)原質量スペクトルを得るステップと、
(b)該原質量スペクトルにおける背景ノイズに対応するノイズ質量スペクトルを決定するステップと、
(c)該原質量スペクトルから該ノイズ質量スペクトルを減じることによって、補正された質量スペクトルを決定するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
ステップ(b)は、
A)前記原質量スペクトルを周波数領域に変換し、原周波数スペクトルを得るステップと、
B)該原周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
C)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによってノイズ周波数スペクトルを生成するステップと、
D)前記ノイズ質量スペクトルを質量領域に変換することによって、該ノイズ質量スペクトルを決定するステップと
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原質量スペクトルは複数の原強度データポイントを備え、前記ノイズ質量スペクトルは、各ノイズ強度データポイントが原強度データポイントとに関連するように複数のノイズ強度データポイントを備え、前記方法のステップ(b)は、
(E)原強度データポイントとノイズ強度データポイントとの各関連する対に関して、
(i)最小値を決定することと、
(ii)該ノイズ強度データポイントを該最小値に等しくすることによって、該ノイズ質量スペクトルを修正することと
をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)は、
F)ステップ(E)において修正された前記ノイズ質量スペクトルを前記周波数領域に変換して、ノイズ周波数スペクトルを得るステップと、
G)該ノイズ周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
H)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって該ノイズ周波数スペクトルを修正するステップと、
I)該ノイズ周波数スペクトルを前記質量領域に変換することによって、該ノイズ質量スペクトルを決定するステップと
をさらに包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)は、
(J)ステップ(I)において決定された前記ノイズ質量スペクトルを用いて、ステップ(E)を繰り返すステップをさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(F)〜(J)までを繰り返すことをさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップAの前に、前記原質量スペクトルを複数の初期ウィンドウにセグメント化し、各初期ウィンドウに対してAからDまでのステップを別々に行なうステップをさらに包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップFの前に前記ノイズ質量スペクトルを複数の後のウィンドウにセグメント化し、各後のウィンドウに対してFからIまでのステップを別々に行なうステップをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記後のウィンドウは、どの後のウィンドウもどの初期ウィンドウとも同一の広がりを持たないように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップG〜Jの各繰り返しに対するステップJの後のステップをさらに包含し、ステップGの前に前記ノイズ質量スペクトルを複数の新ウィンドウにセグメント化し、各新ウィンドウに対してステップGからJまでのステップを別々に行ない、そして該新ウィンドウは、どの新ウィンドウもどの後のウィンドウとも同一の広がりを持たないように構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法を実行するように構成されるコンピュータシステム。
【請求項12】
請求項3に記載の方法を実行するように構成されるコンピュータを備えているスペクトロメータ。
【請求項13】
コンピュータシステムに請求項1に記載の方法を実行させるように構成されるプログラムを包含する記憶装置媒体。
【請求項1】
質量スペクトルにおける背景ノイズを低減する方法であって、該方法は、
(a)原質量スペクトルを得るステップと、
(b)該原質量スペクトルにおける背景ノイズに対応するノイズ質量スペクトルを決定するステップと、
(c)該原質量スペクトルから該ノイズ質量スペクトルを減じることによって、補正された質量スペクトルを決定するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
ステップ(b)は、
A)前記原質量スペクトルを周波数領域に変換し、原周波数スペクトルを得るステップと、
B)該原周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
C)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによってノイズ周波数スペクトルを生成するステップと、
D)前記ノイズ質量スペクトルを質量領域に変換することによって、該ノイズ質量スペクトルを決定するステップと
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原質量スペクトルは複数の原強度データポイントを備え、前記ノイズ質量スペクトルは、各ノイズ強度データポイントが原強度データポイントとに関連するように複数のノイズ強度データポイントを備え、前記方法のステップ(b)は、
(E)原強度データポイントとノイズ強度データポイントとの各関連する対に関して、
(i)最小値を決定することと、
(ii)該ノイズ強度データポイントを該最小値に等しくすることによって、該ノイズ質量スペクトルを修正することと
をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)は、
F)ステップ(E)において修正された前記ノイズ質量スペクトルを前記周波数領域に変換して、ノイズ周波数スペクトルを得るステップと、
G)該ノイズ周波数スペクトルにおいて少なくとも1つの卓越周波数を同定するステップと、
H)該少なくとも1つの卓越周波数に対して選択的にフィルタリングすることによって該ノイズ周波数スペクトルを修正するステップと、
I)該ノイズ周波数スペクトルを前記質量領域に変換することによって、該ノイズ質量スペクトルを決定するステップと
をさらに包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)は、
(J)ステップ(I)において決定された前記ノイズ質量スペクトルを用いて、ステップ(E)を繰り返すステップをさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(F)〜(J)までを繰り返すことをさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップAの前に、前記原質量スペクトルを複数の初期ウィンドウにセグメント化し、各初期ウィンドウに対してAからDまでのステップを別々に行なうステップをさらに包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップFの前に前記ノイズ質量スペクトルを複数の後のウィンドウにセグメント化し、各後のウィンドウに対してFからIまでのステップを別々に行なうステップをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記後のウィンドウは、どの後のウィンドウもどの初期ウィンドウとも同一の広がりを持たないように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップG〜Jの各繰り返しに対するステップJの後のステップをさらに包含し、ステップGの前に前記ノイズ質量スペクトルを複数の新ウィンドウにセグメント化し、各新ウィンドウに対してステップGからJまでのステップを別々に行ない、そして該新ウィンドウは、どの新ウィンドウもどの後のウィンドウとも同一の広がりを持たないように構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法を実行するように構成されるコンピュータシステム。
【請求項12】
請求項3に記載の方法を実行するように構成されるコンピュータを備えているスペクトロメータ。
【請求項13】
コンピュータシステムに請求項1に記載の方法を実行させるように構成されるプログラムを包含する記憶装置媒体。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−518362(P2010−518362A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547503(P2009−547503)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000209
【国際公開番号】WO2008/092269
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(508298514)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000209
【国際公開番号】WO2008/092269
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(508298514)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
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