説明

質量分析計用のイオン源及びこれを備えた質量分析計

【課題】グリッド加熱用の電源等を備えることなく、所定の感度を維持し得る高寿命かつ低コストの質量分析計用のイオン源を提供する。
【解決手段】フィラメント52及びグリッド51を備えてガスをイオン化する質量分析計用のイオン源5においては、グリッドが筒状の輪郭を有し、このグリッド内にフィラメントが挿設されている。この場合において、フィラメントは、その挿入方向の前端がグリッドの母線方向の中点Mpより挿入方向後側に位置するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の試験体内に残留するガス成分を分析するために用いられる質量分析計用のイオン源及びこれを備えた質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着による成膜等、真空処理装置内で実施される真空プロセスにおいては、真空処理装置の真空チャンバ内の圧力だけでなく、この真空チャンバ内に残留する気体の組成(ガス成分)が大きな影響を与える場合がある。このように真空チャンバ内に残留するガス成分を分析するために、質量分析計が従来から広く利用されている。
【0003】
質量分析計として四重極型のものを例に説明すると、質量分析計は、真空チャンバ等の試験体に着脱自在に装着されるセンサ部と、センサ部を制御する制御ユニットとから構成されている。試験体に対してセンサ部の装着する方向を上方として、センサ部は、下端に設けられてイオンを捕集するイオン検出部と、このイオン検出部の上側に設けられた、4本の円柱状の電極が周方向に所定間隔で配置されてなる四重極部(質量分離部)と、この四重極部の上側に設けられたイオン源とを備える。イオン源は、金属製のメッシュ状部材を筒状に成形してなるグリッドと、グリッドの周囲に配置したフィラメントとから構成される(特許文献1参照)。
【0004】
他方、制御ユニットは、一般に、フィラメントに直流電流(フィラメント電流)を通電してフィラメントを点灯するフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位(グリッド電圧)を印加するグリッド用の電源と、グリッドと四重極部との間に所定の電位差をつくるためにグリッドに電位を与える電源と、四重極部に直流電圧が重畳された交流電圧を印加する四重極部用の電源と、各電源の作動等を統括制御する制御部とを備える。
【0005】
ところで、各種の真空処理装置においては、その内部で実施される処理に応じて多種多様な材料やガスが用いられ、これらは汚染物質としてセンサ部の各構成部品に付着する場合がある。ここで、イオン源に関しては、例えばグリッド表面に汚染物質が付着してくると、その汚染物質の表面に負の電荷が形成されることで、フィラメントからグリッドへと飛び込む熱電子の軌道が変わったり、または、グリッド表面に付着した汚染物質が分解されて絶縁体となって熱電子の流れが悪くなったりする現象が生じる。上記質量分析計の感度は、イオン源でのガス成分のイオン化効率やイオン源から四重極部へとイオンを導く効率等で決定されることから、上記現象が生じると、感度低下を引き起こして測定の信頼性が損なわれる。このような場合、イオン源の寿命と判断されてイオン源を交換する必要が生じるため、イオン源の寿命が短くなるという問題が生じる。
【0006】
上記問題を解決するために、上記特許文献1記載のものでは、フィラメントとグリッドとの間に直流電圧を印加してグリッド表面に電子を衝突させてその表面に付着した分子、原子を除去することが提案されている。また、グリッドを抵抗加熱により加熱することで汚染物質の付着を防止しようとするものが特許文献2で知られている。然し、上記特許文献のものはいずれも、電源を別途設ける必要がある等、部品点数が増加してコスト高を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−139187号公報
【特許文献2】特開2000−39375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、グリッド加熱用の電源等を備えることなく、所定の感度を維持し得る高寿命かつ低コストの質量分析計用のイオン源及びこれを備えた質量分析計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、フィラメント及びグリッドを備えてガスをイオン化する質量分析計用のイオン源において、前記グリッドが筒状の輪郭を有し、このグリッド内にフィラメントを挿設したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、フィラメント用の電源によりフィラメントに直流電流を流してこのフィラメントを点灯(赤熱)させて熱電子を放出させる。グリッドとフィラメントとの間の電位差に相当するイオン化電圧で熱電子をグリッド側に引き込む。このとき、熱電子と衝突したグリッド周辺の気体原子、分子から正イオンが生じる。そして、例えばイオン源の近傍に設けられる四重極部とこのグリッドとの間の電位差に相当する加速電圧で正イオンがグリッド側から四重極部へと引き出される。
【0011】
ここで、本発明では、筒状の輪郭を有するグリッド内にフィラメントを挿設した構成を採用したため、上記従来例の如く、グリッドの周囲にフィラメントを配置するものと比較して、フィラメントからグリッドをみたときの立体角が大きくなり(言い換えると、グリッド内の中央空間に位置するフィラメントから放射状に熱電子がグリッドに向かって飛ぶようになり)、グリッド表面に汚染物質が付着しても、フィラメントからグリッドに飛び込む熱電子の軌道の変化の影響を少なくでき、感度が低下することが抑制される、即ち、長時間に亘って所定の感度での測定を維持できる。このように本発明では、イオン源自体の構成に変更を加えるだけで、グリッド加熱用の電源等を備えることなく、感度低下を抑制できる高寿命かつ低コストの質量分析計が実現できる。
【0012】
本発明において、前記フィラメントの挿入方向の前端が、前記グリッドの母線方向の中点より挿入方向後側に位置することが好ましい。これによれば、グリッド内のうち中点より挿入方向前方に、グリッド電位と略同等となる十分な空間が形成され、当該空間の前方に質量分離部を設けたときに、グリッド内で発生したイオンを質量分離部へと入射し易くなることで感度が向上する。このため、グリッド表面に付着した汚染物質が分解されて絶縁体となったような場合でも、所定の感度を維持できる。なお、フィラメントの挿入方向の前端が、グリッド外側に位置するように配置すると、熱電子がグリッドに向かって飛び込み難くなり、感度が低下する。
【0013】
また、本発明において、前記フィラメントの周囲に電子を反発させるシート状の電子反発電極を更に備えることが好ましい。これによれば、熱電子が振動して走行距離が長くなってイオン化効率が向上することで更に感度が向上する。しかも、表面積の大きいシート状の電子反発電極を用いることで、汚染物質による電子反発電極の表面状態の影響を抑え、感度低下を抑えることもできる。
【0014】
この場合、前記電子反発電極が筒状に成形されてグリッドに同心に配置されたものにおいて、前記グリッド内部の容積をグリッドと電子反発電極との間の空間の容積より大きくすることが好ましい。これによれば、グリッド内部で発生するイオンの量が増加することで、より一層感度が向上する。
【0015】
また、本発明は、請求項4記載のイオン源を備え、前記電子反発電極が全圧測定用のイオンコレクタを兼用するように質量分析計を構成すれば、この電極に電流計を接続するだけで、グリッドと電子反発電極の間で発生したイオンを検出することで、感度低下を抑制した全圧測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のイオン源を備えた四重極型質量分析計の構成を模式的に示す図。
【図2】発明品のグリッド内の電位分布を示す図。
【図3】比較品のグリッド内の電位分布を示す図。
【図4】(a)〜(c)は、発明実験にて質量数に対するイオン電流を測定したときのグラフ。
【図5】(a)〜(c)は、比較実験にて質量数に対するイオン電流を測定したときのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明のイオン源を四重極型質量分析計に適用した場合を例に実施形態を説明する。以下においては、図示省略の試験体に対する後述のセンサ部MAの装着方向を上方として説明する。
【0018】
図1及び図2を参照して、四重極型質量分析計は、センサ部MAと制御ユニットCとから構成される。センサ部MAは円板状の支持体1を有する。支持体1は、アルミやステンレス等の金属製であり、その上面外周縁部にはOリング11が設けられている。支持体1上にはイオン検出部2が設けられている。イオン検出部2は、後述の四重極部の各電極間を通ってその下方に到達するガス原子やガス分子を捕集するファラデーカップから構成されている。イオン検出部2は、支持体1に立設した接続端子21に配線接続されている。
【0019】
イオン検出部2の上側には四重極部3が設けられている。四重極部3は、周方向に所定間隔で配置された上下方向に延びる4本の円柱状の電極31、31(図1では2本の電極のみを図示)から構成されている。そして、相対する電極31、31の一方が、支持体1に立設した2本の接続端子32a、32bに夫々配線接続されている。また、四重極部3の上側には、中央開口を備えた金属板から構成されるフォーカス電極4が設けられている。フォーカス電極4は、後述するイオン源のグリッドより低い電位に常時保持され、イオン源からの四重極部3に入射するイオンの拡散を抑制するようになっている。
【0020】
フォーカス電極4の上側にはイオン源5が設けられている。イオン源5は、筒状の輪郭を有するグリッド51と、フィラメント52とから構成される。グリッド51は、金属細線を格子状に組み付けた後、筒状に成形したものであり、グリッド51の孔軸Haがフォーカス電極4の孔軸上に一致するように配置される。他方、フィラメント52としては、例えば、イリジウムからなる母材金属の表面をメッキ処理により酸化イットリウムで被覆したものを略V字状に成形したものが用いられる。そして、フィラメント52は、グリッド51の上側の開口を通してその内部に挿設されている。この場合、フィラメント52の挿入方向(装着方向と反対の下方)の前端が、孔軸Ha上に位置すると共に、グリッド51の母線方向における中点Mpより挿入方向後側(図1中、上側)に位置するように配置されている。
【0021】
また、フィラメント52の両端は、支持体1に立設した接続端子52a、52bに夫々配線接続されていると共に、グリッド51が支持体1に立設した接続端子51aに配線接続されている。また、グリッドの周囲には、熱電子を反発させる電子反発電極6が設けられている。電子反発電極6は、導電率のよい金属製でシート状のものから構成される。そして、シート状の電子反発電極6を筒状に成形した後、グリッド51に同心に配置され、アース接地されている。この場合、電子反発電極6の高さは、グリッドの高さより高くなるように形成されている。また、グリッド51内部の容積がグリッド51と電子反発電極6との間の空間の容積より大きくなるようにしている。
【0022】
他方、制御ユニットCは筐体F(図2中、一点鎖線で示す)を備え、筐体F内にはコンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部C1が内蔵されている。制御部C1は、後述の各電源の作動や後述の電流計Aにて測定されたイオン電流値を処理して例えば図示省略のディスプレイに表示する等の各種制御を統括して行う。また、筐体F内には、フィラメント52に直流電流を通電してフィラメント52を点灯するフィラメント点灯用の電源E1と、グリッド51に対してフィラメント52より高い電位をこのグリッド51に与えるグリッド用の電源E4とが内蔵されている。
【0023】
また、筐体F内には、電気的に結合された電極31、31にそれぞれ直流電圧と高周波電圧とを印加するDC+RF電源E3が内蔵され、DC+RF電源E3の出力は、相対する電極のいずれか一方31、31にそれぞれ接続されている。筐体F内にはまた、グリッド51と四重極部3との間に所定の電位差をつくるためにグリッド51に電位を与える電源E2が内蔵されている。また、筐体F内には、イオン検出部2に捕集されてアースへと流れるイオン電流値を測定する電流計Aが付設されている。
【0024】
なお、本実施形態では、特に図示して説明しないが、筐体Fには上記各電源に導通した出力端子が設けられ、センサ部MAと制御ユニットCとはコネクタ付きケーブルにて接続される。また、センサ部MAと制御ユニットCとを同一の筐体に組み込んで構成することもできる。
【0025】
次に、上記四重極型質量分析計の使用例を説明する。センサ部MAを、Oリング11を介して図示省略の試験体のテストポートに装着した後、試験体内を真空ポンプにより真空引きし、所定真空圧に達すると、ガス分析を開始する。先ず、電源E1によりフィラメント52に直流電流を通電してフィラメント52を点灯させ、熱電子を放出させる。電源E4によりグリッド51とフィラメント52との間の電位差に相当するイオン化電圧で熱電子をグリッド51側に引き込む。このとき、熱電子と衝突したグリッド51周辺の気体原子、分子から正イオンが生じる。そして、電源E2によりグリッド51と四重極部3との間の電位差に相当する加速電圧で、正イオンをグリッド51側から四重極部3へと引き込ませる。このとき、フォーカス電極4がグリッド51より低い電位に保持されることで、四重極部3へ向かうイオンが収束される。
【0026】
四重極部3の4本の電極31、31には、DC+RF電源E3によって直流と交流とが重畳した所定電圧が印加される。これにより、四重極部3中をイオン群が通過する時、これらが振動しながら通過し、交流電圧や周波数に応じて、一定のイオンのみが安定振動して通過することで、イオン検出部2へと到達する。そして、イオン検出部2に付設された電流計Aにてイオン電流が測定され、そのときのイオン電流値が制御部C1に出力される。また、上記直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ交流電圧を直線的に変化させることでスペクトルがとられ、イオン電流値から試験体内のガス成分が分析される。この場合、特定のガス成分についてイオン電流値から算出した指示値を表示することもできる。
【0027】
以上の構成によれば、筒状の輪郭を有するグリッド51内にフィラメント52を挿設した構成を採用したため、上記従来例の如く、グリッド51の周囲にフィラメント52を配置するものと比較して、フィラメント52からグリッド51をみたときの立体角が大きくなり(つまり、グリッド51内の中央空間に位置するフィラメント52から放射状に熱電子がグリッド51に向かって飛ぶようになり)、グリッド51表面に汚染物質が付着しても、フィラメント52からグリッド51に飛び込む熱電子の軌道の変化の影響を少なくでき、感度が低下することが抑制される、即ち、長時間に亘って所定の感度での測定を維持できる。このように本実施形態は、イオン源5自体の構成を変えるだけで、グリッド51加熱用の電源等を用いることなく、感度低下を抑制できる高寿命かつ低コストの質量分析計が実現できる。
【0028】
また、フィラメント51の挿入方向の前端が、グリッドの母線方向(孔軸方向)における中点Mpより挿入方向後側に位置することで、グリッド51内のうち中点より挿入方向前方に、グリッド51と略電位となる十分な空間を形成される。このため、グリッド51内、特に、前記空間で発生したグリッド51周辺の気体原子、分子の正イオンを四重極部3へと入射させ易くなることで感度が向上する。このため、グリッド51表面に付着した汚染物質が分解されて絶縁体となったような場合でも、所定の感度を維持できる。ここで、フィラメント52の挿入方向の前端が、グリッド51より上方(グリッドの外側)に位置するように設けると、熱電子がグリッドに向かって飛び込み難くなり、感度が低下する。
【0029】
更に、フィラメント52の周囲に電子反発電極6を設けたことで、フィラメント52からの熱電子が振動して走行距離が長くなってイオン化効率が向上することで更に感度が向上する。しかも、表面積が大きくなるため、汚染物質による電子反発電極6の表面状態の影響を抑え、感度低下を抑えることもできる。その上、グリッド51内部の容積をグリッド51と電子反発電極6との間の空間の容積より大きくしたため、グリッド51内部で発生するイオンの量が増加することで、より一層感度が向上する。この場合、電子反発電極6に図示省略の電流計を別途接続しておけば、電子反発電極6が全圧測定用のイオンコレクタとしての役割を果たし、グリッド51と電子反発電極6の間で発生したイオンを検出することで、感度低下を抑制した全圧測定が可能になる。
【0030】
次に、本発明の効果を確認するために、上記質量分析計を用いて次の実験を行った。即ち、質量分析計に搭載するイオン源として、フィラメント52の挿入方向(装着方向と反対の下方)の前端が、孔軸Ha上に位置すると共に、グリッド51の母線方向における中点Mpより挿入方向後側に位置し、フィラメント52の両自由端がグリッド51から上方向へと突出するように配置したもの(発明品)と、フィラメント52の挿入方向(装着方向と反対の下方)の前端が孔軸Ha上に位置すると共にグリッド51の母線方向における中点Mpより挿入方向前側に位置してグリッド51内にフィラメント52全体が収納されるように配置したもの(比較品)と、を用意した。そして、四重極電極の基準電位Vsを70V、イオン源で発生したイオンを四重極電極側に引き込むための加速電圧Eiを10V、フォーカス電圧Efoを−10V,フィラメントとグリッド間の電位差Eeを70Vに設定し、イオン源内の電位分布を測定した。
【0031】
図2及び図3は、発明品と比較品との夫々のイオン源5内の電位分布を示す。これによれば、比較品のものでは、フィラメント52付近の電位、特に、当該フィラメント52の挿入方向前方(正イオンがグリッド側から四重極部3へと引き込まれる方向)での電位が極めて低くなっていることが判る(図3参照)。これにより、グリッド内で発生したイオンは四重電極側に引き込まれに難って感度が低くなる。それに対して、発明品では、フィラメント52の挿入方向前側での空間における電位は、グリッド電位と略同等となっていることが判る(図2参照)。これにより、フィラメント52の挿入方向の前端が、少なくともグリッド51の母線方向の中点Mpより挿入方向後側に位置すれば、グリッド内で発生したイオンは四重電極側に引き込まれに易くでき、感度が高くなる。
【0032】
次に、発明品のイオン源を備えた上記四重極型質量分析計を用いて他の実験を行った。即ち、この四重極質量分析計を図外の試験体に装着し、減圧下で四重極質量分析計にシリコーンオイル(シロキサン化合物)を導入し、時間経過に伴う感度低下の様子を測定した(発明実験)。この場合、感度測定は、20分後、2時間後、8時間後とした。また、比較実験として、従来例のB−Aイオン源を設けた四重極質量分析計を用意し、同様の実験を行った(比較実験)。
【0033】
図4(a)乃至(c)は発明実験に係るものであり、図5(a)乃至(c)は比較実験に係るものである。これによれば、20分後の測定結果を見ると、発明実験でも、従来例に相当する比較実験と比較して同等の感度を有していることが判る(図4(a)及び図5(a)参照)。そして、比較実験では、時間の経過と共に、感度が低下し、8時間経過すると、いずれの質量数のものにおいても殆どピークが現れず、試験体のガス成分を殆ど検出ができないことが判る(図5(b)及び(c)参照)。それに対して、発明実験では、8時間経過後においても特定質量数のガス成分でピークが現われており、汚染物質の付着に対しても強いことが判る(図4(b)及び(c)参照)。
【0034】
以上、本発明の実施形態のイオン源及びこれを備えた質量分析計について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、四重極型のものを例に説明したが、他の形式の質量分析計にも本発明のイオン源は広く適用できる。
【符号の説明】
【0035】
MA…センサ部、C…制御ユニット、2…イオン検出部、3…四重極部、4…フォーカス電極、5…イオン源、51…グリッド、52…フィラメント、6…電子反発電極、Ha…孔軸、Mp…(グリッドの母線方向における)中点、E1〜E5…電源、W、W1…配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント及びグリッドを備えてガスをイオン化する質量分析計用のイオン源において、
前記グリッドが筒状の輪郭を有し、このグリッド内にフィラメントを挿設したことを特徴とする質量分析計用のイオン源。
【請求項2】
前記フィラメントの挿入方向の前端が、前記グリッドの母線方向の中点より挿入方向後側に位置することを特徴とする請求項1記載の質量分析計用のイオン源。
【請求項3】
前記フィラメントの周囲に電子を反発させるシート状の電子反発電極を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の質量分析計用のイオン源。
【請求項4】
請求項3記載の質量分析計用のイオン源であって、前記電子反発電極が筒状に成形されてグリッドに同心に配置されたものにおいて、前記グリッド内部の容積をグリッドと電子反発電極との間の空間の容積より大きくしたことを特徴とする質量分析計用のイオン源。
【請求項5】
請求項4記載のイオン源を備え、前記電子反発電極が全圧測定用のイオンコレクタを兼用することを特徴とする質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−234776(P2012−234776A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104541(P2011−104541)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】