説明

赤外線温度測定機器

本発明による無接触式温度測定のための測定機器(1)においては、測定スポット(14)から測定対象(16)へ入射するIR照射ビーム(5)のための結像光学系(3,3′)と、測定スポット(14)の範囲を定める測定スポットマーク(15)を生成する測定スポットマーキング装置(11)が設けられている。この場合結合光学系(3,3′)から検出された開口角度が調整装置(7)によって可変であり、さらに該調整装置(7)を用いて開口角度の変化に相応する測定スポットマーク(15)のサイズ変更が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IR放射ビーム検出器と、IR放射ビームのための結合光学系と、少なくとも1つの照準ビーム発生器を備えた測定スポットマーキング装置とを有し、前記結合光学系は測定対象における測定スポットから当該測定機器へ入射するIR放射ビームを検出し、IRビーム検出器に配向し、前記測定スポットマーキング装置は可視光のための放射源と少なくとも1つの光学素子を有しており、さらに前記測定スポットマーキング装置は測定スポットを縁取る測定スポットマーク15を測定対象上に生成する無接触式の温度測定のための測定機器、特に携帯型測定機器に関している。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べたような形式の赤外線ベースの携帯型温度測定機器は公知であり、様々な仕様のものが入手可能である。この場合測定対象から送出された放射ビーム信号が測定対象からセンサ素子までのパス上を走行し、これは測定機器へ入射するように固定されたビームパスを介して行われる。この状況では、温度測定機器の使用者のために測定スポットのサイズの変更が十分な精度のもとで適正に行われなければならない。所望のサイズに変更する場合には、測定機器自体から測定対象までの距離が所望のサイズになるまで繰り返し変更されなければならない。そして場合によっては極端な周辺条件に起因して測定スポットの所望のサイズを達成することができなくなる。なぜなら測定対象の温度が高くて光学装置の開口比が大きい場合には、ビームパスと結合される光学系の開口比が所望の測定スポットサイズに必要な対象までの距離との整合がとれなくなるからである。
【0003】
独国特許出願公開第195 28 590号明細書からは、光学系がダイクロイックビームスプリッタと赤外線レンズによって形成されている温度測定装置が開示されている。この場合測定スポットから放射される熱放射がまずビームスプリッタに到達し、このビームスプリッタは当該の熱放射を90°変更させて赤外線レンズに導いている。それに対してこのビームスプリッタは照準装置の可視光に対して透過的である。ここではこの照準装置を用いてマークが生成されるが、そのサイズは測定距離と所望の測定精度に依存している。
【0004】
独国特許出願公開第100 36 720号明細書からは、固定的に設けられたリング光学系がマーキングビームパスを形成している赤外線温度測定方法が開示されている。ここでは前記マーキングビームパスが測定ビームパスの外周を取り囲み、マーキング光は次のように配向されている。すなわちマーキングビームパスのあらゆる箇所においてその光軸に垂直な断面が丸い環状面を形成するように配向されている。
【0005】
さらに独国特許出願公開第103 43 258号明細書からは測定対象上の測定スポットの位置及び/又はサイズを表すための照準装置を有している、無接触式温度測定装置が開示されている。ここでの照準装置は少なくとも2つの照準ビームを生成するための光源を有し、各照準ビームを提供するためにそれぞれ1つの独立した光源が設けられている。
【0006】
欧州特許出願公開第1 489 398号明細書からは、少なくとも3つのレーザーを備えたレーザーシステムが公知であり、この場合1つのレーザーは中心若しくはほぼ中心の未分割のスポットを特定し、他の2つのレーザーは1つ若しくは複数のスポットを特定し、それらは検出器視野縁部かその近傍にそれぞれ配置されている。
【0007】
特開昭57−019626号公報からは、凹面鏡が光軸に沿って可動に構成された、人体からの放射赤外線のためのセンサが公知である。ここでは凹面鏡がその焦点距離内にセンサが配置されるように設けられており、人体が幅広な視野角で検出され、さらにセンサが凹面鏡の焦点に配置され人体の狭幅な視野角が検出されるように配置構成が調整されている。
【0008】
DE 20 2004 007 142 U1号明細書からは、複数の種々異なる絞り及び/又はフィルタに対する調節可能な支持部を有し、該支持部によってこれらの複数の絞り及び/又はフィルタが検出器のビームパス内に配置され、さらに前記検出器が熱放射の検出用に構成されている温度測定機器が公知である。
【0009】
米国特許第6 467 952号明細書からは仮想黒体放射システムと放射温度測定システムが公知であり、ここではLEDが固定の電流のもとで作動され、当該LEDから照射された光の強度が光学ユニットによって、所定の国体放射の強度に整合可能であり、それによって当該仮想黒体放射システムが所望の強度の光をLEDの作動電流の変更なしで提供できるようになっている。
【0010】
さらにDE 91 00 941 U1明細書からは回転する対象の表面温度測定のための装置が開示されており、ここでは測定装置とターゲットレーザー装置が互いにパッケージングされて1つの共通のケーシング内に配設されている。このケーシングはその一方の側で赤外線測定ヘッドを支持し、さらに有効角を定める測定ビームパスの入射する開口部を備えている。この場合この開口部の他に側方にはそれぞれ1つの高温用ないし低温用の基準素子が配設され、ターゲットレーザー装置の指示光を測定軸内に入力結合するための反射手段が設けられている。
【0011】
本発明の課題は、困難な周辺状況のもとでも、温度測定機器の位置を変化させることなく、測定スポットサイズの変更を使用者に可能にさせ、さらに容易にかつ迅速に実行できる温度測定を可能にさせる、携帯型温度測定機器を提供することである。
【0012】
前記課題は本発明により、結像光学系に第1の調節装置が接続されており、該第1の調節装置は結像光学系の結像比を変更可能であり、第2の調節装置が設けられており、該第2の調節装置は測定対象上の測定スポットマークのサイズを変更可能であり、前記第1の調節装置が第2の調節装置と次のように結合されている、すなわち第1の調節装置による結像比の変更が、第2の調節装置による測定スポットマークの相応のサイズ変更を引き起こすように結合されて解決される。
【0013】
実質的に位置固定されている温度測定機器を用いた容易でかつ迅速な温度測定は次のことによって可能となる。すなわち、結像光学系を形成している本発明による光学装置の調節装置が、光学装置の光学素子相互の相対位置か若しくはセンサ素子に対する光学装置の位置を変更するか、あるいは、光学装置において別の光学素子、例えば絞りや、光学装置内をセンサ素子方向に通過する光束の直径を変更することによって可能となる。そのため測定機器の光学系の焦点位置近傍から遠隔領域までの測定スポットサイズの無段階の調節が可能となる。
【0014】
本発明による測定機器の容易な製造と良好な取扱いは次のことによって達成される。すなわち光学装置の光学素子を複数のレンズ及び/又はミラーによって形成し、それらが1つのケーシング内で相互に相対的にシフト可能であるようにして達成される。
【0015】
同様に携帯型温度測定機器の別の実施例によれば、光学素子の1つが絞りとして、第1の調節装置により離散的若しくは連続的に変更可能な開口直径を備えていることによって有利な取扱いが可能となる。これらの絞りは例えば箔板を備えたアイリス絞りとして構成されていてもよい。
【0016】
光学装置の調節装置は有利には、温度測定機器において次のように配設される。すなわち、たとえきつい条件のもとでもそれらの起用性に関する制約ができるだけ僅かで済むように配設される。そのため本発明による温度測定機器の別の有利な構成によれば、調節装置が移動させるべき温度測定機器の光学装置に対して並列に配置される。この調節装置はその他の適した箇所において、共通のケーシング内部に光学装置と共に収容されていてもよい。
【0017】
調節装置によって可動部材の確実な位置変化及び/又は状態変化を保証するために、結像光学系の調節装置が有利には少なくとも1つの駆動手段を備え、該駆動手段は手動式または電気式に、あるいは空気式又は油圧式に駆動可能であってもよい。
【0018】
特に光学装置の可動部材の位置変化及び/又は状態変化のもとで、回転運動から線形運動への変換が必要である場合には、有利には調節装置の駆動手段が少なくとも1つの光学素子に嵌合するクラッチ手段、特にスピンドル駆動系を備えている。
【0019】
光学装置の光学素子の特に正確な移動は、本発明による温度測定機器の実施例において、クラッチ要素が調節ねじによってマニュアル操作されるか若しくは電気モータ、特にステップモータを介して電動操作され得る。
【0020】
携帯型温度測定器のさらに別の実施例によれば、調節装置が光学装置の光学素子を所定の位置へ走行させるために若しくは無段階に位置変化させるために設けられる。この場合は絞り調整に対しては位置の事前設定が、そしてレンズに対しては無段階の手法が有利となる。同様に温度測定機器の光学装置のレンズ及び/又はミラーの固定された手法も考えられる。場合によっては異なる手法に基づいて異なる位置毎に駆動手段において種々の変速段が設けられていてもよい。
【0021】
使用者に対して測定対象の所定のポイントへのまたは所定の領域への温度測定機器の配向を容易にさせるために、本発明による温度測定機器は測定スポットマーキング装置を形成する投影手段を備え、該投影手段は検出すべき測定対象への測定スポットの伸張を投影する。
【0022】
この投影手段は例えばレーザー照準器として構成されていてもよい。この照準器は測定スポットの伸張と共に十字若しくは円形のパターンを測定対象に投影する。
【0023】
本発明による測定機器の別の実施例によれば、投影手段が光学素子の配置構成に依存した測定スポットの投影のために構成され、それによって測定スポットのサイズが、調節装置を用いて位置付けないし変更される光学素子に依存して適合化される。それにより測定機器において測定スポットサイズに適するように割り当てられた光学装置の設定が達成される。
【0024】
この場合温度測定機器の別の有利な実施形態によれば、切換可能な制御手段が設けられ、該制御手段が光学素子の位置若しくは開口比の変更を、投影手段のための制御信号に自動的に変換するか、またはそれとは反対に、投影手段における投影パターンのサイズ変化を、光学装置の光学素子のための制御信号に変換する。該当する制御手段の遮断の際には、光学装置と投影手段が相互に独立的に作動可能である。ここでは投影手段が第2の調節装置を有しているか又はそのような調節装置と結合されている。
【0025】
本発明による携帯型温度測定機器のさらに別の実施例によれば、少なくとも1つのセンサ手段が設けられており、該センサ手段が測定スポット近傍における測定対象の領域を検出し、そのためセンサ手段によって測定対象の該当領域のフラットな結像が生成されそれが評価されるようになる。
【0026】
測定対象における測定スポットと温度測定機器との距離をできるだけ正確に確定するために、温度測定機器の有利な構成例によれば、センサ手段の少なくとも1つに対する評価を可能にする信号を生成する送信機、特に超音波送信機若しくは赤外線送信機が設けられていてもよい。
【0027】
光学的に良好な検出の可能性と共に簡単で正確な配置構成をもたらすために、温度測定機器の実施のもとで少なくとも1つのセンサ手段が画像センサ、有利にはCCDセンサとして構成され、測定機器において、センサ手段における1つ以上のポイント、領域またはセンサ面全体を測定値形成に関与させるか否かの設定が可能である。
【0028】
少なくとも1つのセンサ手段の光学的情報から距離情報を獲得するために、本発明による温度測定機器において評価装置が設けられ、少なくとも1つのセンサ手段の測定値が周波数分布に関して若しくは位相比較に関して評価される。
【0029】
センサを用いて検出され評価装置によって評価された距離情報を利用するために、温度測定機器において有利には評価装置に制御ユニットが割り当てられ、該制御ユニットはセンサ手段の測定値を特に集束用の調節装置に対する制御信号に変換するために設けられている。
【0030】
本発明によればさらに有利には、測定スポットマーキング装置が測定スポットを縁取る想定スポットマークを生成する。この場合測定スポットマーキング装置の照準ビーム発生器は少なくとも1つのビーム形成器を有し、該形成器は少なくとも1つの透過性及び/又は反射性の光学素子を有している。
【0031】
測定スポットの完全な縁取りによれば、測定スポットの一義的なマーキングが達成される。例えば測定スポットが矩形状であるならば、それによって測定スポットマークも矩形で現れる。ここにおいて測定対象が深度方向に段階付けられているか若しくは測定機器と測定対象の間で測定スポット内へ突出している場合には、本発明による測定スポットマーキングのもとでは、一義的な同定が可能である。なぜならこのケースでは測定スポットマーキングの一部が損なわれた対象に結像されるからである。換言すれば、測定対象において測定スポットマークが不完全にしか見えな時には、正確な測定は不可能である。
【0032】
それにより完全に縁取りされた測定スポットマークは測定スポットの一義的な描写のためにだけ用いられるのではなく、測定スポットの直接的なコントロールを可能にし、さらに使用者に対して場合によってはターゲットの修正も行わせ得る。
【0033】
透過的な光学素子は有利には回折性の素子、例えば回折構造、回折格子又はコンピュータ処理されたホログラムを有する。また数値的な手法によれば、回折構造を逆計算することも可能である。そのため所望の結果に基づいて、それに必要な回折構造を求めることもできる。それにより、測定スポットの考えられる形状毎に、対応する測定スポットマークを容易に作成することができる。
【0034】
代替的に透過性光学素子は、屈折性光学素子、例えば連続的な表面輪郭を有するレンズやレンズアレイを有し得る。また屈折性光学素子は逆計算も可能であり、それによって任意の構造が結像可能である。この屈折性光学素子のさらなる利点は、照射された光がほぼ完全に所望の分布に収まることである、それに対して回折性光学素子のもとでは破壊性の干渉によって光の一部が失われる。
【0035】
有利には測定スポットマーキング装置はN個の照準ビーム発生器を有する。この場合前記Nは正の整数であり、測定スポットを縁取る測定スポットマークがN個の照射ビームから形成される。基本的には、1つの照準ビームを円形若しくは矩形に形成することは可能ではあるが、しかしながらこの照準ビームをセンサの光軸に配向させることは、この照準ビーム発生器自体を光軸に配置させない限りは困難である。しかしながらそこは測定領域内にあり、それ故少なくとも2つの照準ビーム発生器を使用する方が目的にかなっている。照準ビーム発生器の数が増えるに伴って測定スポットマークの輝度も増加し、そのため難しい光特性の中でもより良好な視認性を得ることが可能である。
【0036】
実際には、測定スポットマークがは、重畳可能な若しくは相互に離間させることが可能な複数の照準ビームによって形成される。例えば円形の測定スポットは2つの半円状の照準ビームあるいは2つの弓形セグメント(これらは多かれ少なかれ半円としてカバーされる)によって形成され得る。後者のケースでは円形の中断が生じるが、この場合は円形の中断のサイズに応じて常に良好な視認性が維持される。同様に矩形状の測定スポットも、例えば単に4つの線状の照準ビームによって形成することが可能である。
【0037】
特に有利には測定スポットマーキング装置がN≧2の照準ビーム発生器を有している。この場合特に取付けや調整に係わる全般的なコストと輝度及び形状精度に関する良好な妥協点として2〜4個の照準ビームが有利である。
【0038】
測定対象の放射ビームをセンサに結像する検出器の光学系に起因して、測定スポットは大抵は円形である。N個の照準ビーム発生器を備えた測定スポットマーキング装置は、それ故に有利にはビーム検出器に同軸的に配置され、少なくとも光軸に対して同心的に配置され、測定スポットを縁取りする実質的に円形の測定スポットマークを形成する。
【0039】
その際N個の照準ビーム発生器の透過性光学素子がそれぞれ1つの弓形セグメントを形成し、これらのセグメントが実質的に1つの円の1/Nの部分に相応している。照準ビーム発生器は有利にはそれぞれ360°/Nだけ相互にずれて均等に離間し、測定スポットマーキング装置内に配設されている。それにより全体的に円形に測定スポットを縁取る測定スポットマークが生じる。
【0040】
この縁取りされた測定スポットマーク内にはさらに十字線模様や第2の同心構造を描写することも考えられる。それにより測定スポットの中心もマーキングされる。透過性光学素子が付加的コストの負担なしで任意のビーム形態を可能にさせることによって、考えられ得るその他の測定スポットマークも非常に容易に実現することができる。
【0041】
その際には内方の円を例えばセンサ光学的の切換可能な焦点に合わせることも考えられる。それにより焦点切換の際には単に内方円がマークとして用いられる。第2の焦点のための第2の測定スポットマーキング装置が節約できることによって総じていえることは、当該機器が低コストで簡単に製造できることである。
【0042】
特に電流節約に対しては、個々の照準ビーム発生器が迅速な順序で逐次駆動制御され、それによって各時点毎に測定スポットマークのそれぞれ1つのセグメントが描写される。その際には少なくとも全体で25回は完全な測定スポットマークを描写することに注意しておけば、目の錯覚によってセグメントが個別に知覚されることはない。
【0043】
本発明のさらなる構成例は特に有利にはサーモグラフィックなイメージを生成する熱画像カメラであり、この場合は結合光学系の焦点調整の変更を可能にする第3の調節装置に結合光学系が接続される。この場合有利には画像の断面方向だけでなく、平面方向の分解能も変更可能である。
【0044】
本発明の有利な構成によれば、測定対象上の測定スポットマークのサイズ変更と結像比変更を結合させるために、第1及び第2の調節装置が機械的に及び/又は電子的に結合されており、あるいは第1及び第2の調節装置が同一的に構成されるか、あるいは共通の調節装置に包含される。
【0045】
特に使用者に優しい操作性と軽量構造は、第1の調節装置と第2の調節装置が共通の駆動部によって操作可能に構成されることによって得られる。
【0046】
測定スポットマークのサイズの変更に対しては第2の調節装置を用いて照準ビーム発生器の結像比を変更可能にしてもよい。
【0047】
代替的に若しくは付加的に測定スポットマークのサイズの変更に対して、第2の調節装置を用いて少なくとも2つの照準ビーム発生器の相対的な配向を変更可能にしてもよい。
【0048】
本発明は有利には、IR放射ビーム検出器が熱画像撮影用のマイクロボロメータのフィールド装置を有する測定機器に使用され得る。
【0049】
視認性が良好で取扱いも容易な測定スポットマークは、測定スポットの円形の縁取りを描く。
【0050】
本発明の有利な構成によれば、表示手段が測定された温度用に及び/又は撮影された熱画像用に構成される。この場合測定機器は有利には携帯可能なハンディ機器として構成され、これは付加的な表示手段なしでも作動が可能であり、実施された測定の直接のコントロールを可能にする。
【0051】
本発明は有利には、ワンポイントパイロメータとして構成された測定機器に使用可能である。この機器は測定期間中の唯一の温度値の検出が可能である。この種の機器では結像光学系の結像比の調整が可能なことによって、測定機器の位置を変更することなく測定対象の選択された断面の温度に対する平均値が測定によって検出可能である。
【0052】
以下の明細書では本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明するが、このことは本発明をこれらの実施例に限定することを意味するわけではない。それどころかさらなる別の実施例は、請求の範囲の特徴部分の相互の組み合わせによっても、あるいは実施例の特徴部分の組み合わせによっても得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による測定機器の概略図
【図2】本発明によるさらに別の測定機器の概略図
【図3】照準ビームの概要が示されている測定スポットマーキング装置の概略図
【図4】照準ビーム発生器の概略的断面図
【図5】測定スポットマーキングの様々な構成を示した図
【0054】
実施例の説明
その一部が破断図で示されている図1の概略図には携帯型温度測定機器の全体が符号1で表されており、この温度測定機器1は、図には示されていない測定対象における測定スポットの温度を測定するための赤外線ビーム検出器2を有している。この赤外線ビーム検出器2は光学素子4を備えた光学的装置3を有している。ここでは図を見やすくするために図中には光学素子4としてレンズのみが単独で示されている。この図には示されていない測定対象から送出されたビーム信号は、光学的装置3の光学素子4の設定に応じて種々異なるビームパス5に沿って検出器2のセンサ素子6に案内される。図ではこれらのビームパスの平面的な広がりが双方向矢印で表されている。良好な識別のために図1では温度測定機器1の光学的装置3が調節装置7を備えており、この調節装置7を用いることによって光学素子4は光学的装置3のイメージ幅を変更するための位置付けが可能となる。1つまたはそれ以上の光学素子4は、調節装置7によって引き起こされる位置付けのもとで調節装置7の双方向矢印によって表されている線形移動を実施し、これによって、相対的に位置付けされるか若しくはグループに分けられるか若しくはセンサ素子6に関する全体として位置付けされる。
【0055】
図1中にリニアに構成された光学素子4は別の図示されていない光学素子に対してケーシング8内でシフト可能である。同様に図1中ではさらに別の光学素子は示されていないが、これは観察者から見て温度測定機器1左方の入射領域にシェードとして配設されていてもよい。それに対して前記調節装置7は、ここでは温度測定機器1の移動可能な光学的装置3に並列に配置されている。この調節装置7は、ここではさらに図示されていない電気的なステップモーターの形態の駆動手段9を備えており、この駆動手段9は前記光学素子4の移動を駆動するものである。この駆動手段9から得られる回転運動を、光学素子4の線形運動に変換するために、当該駆動手段9と光学素子4の間には最終的に嵌合されるクラッチ手段10が設けられている。
【0056】
図1の描写においてはさらにこの温度測定機器が投影手段を備えていることが識別できないが、この投影手段は、測定対象における検出すべき測定スポットをそれに対して投影している。この投影は当該投影手段としてのレーザー照準を用いて行われており、そのビームパスは図には示されていない制御手段によって光学素子4の位置付けないしは設定状態に応じて制御可能である。この光学素子4の空間的な広がりにおいて前記投影はこの場合実質的に光学的装置3によってそのつど形成され対応付けられるビームパス5に相応している。
【0057】
従って前述してきた本発明は、測定対象における測定スポットの温度測定のための赤外線ビーム検出器2を備えた温度測定機器1に該当している。この赤外線ビーム検出器2は光学素子4を備えた光学的装置3を有しており、該光学的装置3は測定対象から送出されてきたビーム信号を当該検出器2のセンサ素子6に誘導している。困難な環境条件のもとであっても温度測定機器の位置を変えることなく測定スポットサイズの変更が可能で、それによる温度測定が簡単かつ迅速に実行できるような温度測定機器1を使用者に提供するために、光学的装置3は調節装置7を備えており、この調節装置7を用いることによって光学的装置3の少なくとも1つの光学素子4及び/又はセンサ素子6が当該光学的装置3のイメージング幅の変更のために位置付けないしポジショニング可能であり、及び/又は少なくとも1つの光学素子4がその開口比を変更可能である。
【0058】
図2には本発明による無接触式温度測定のための測定機器1の別の実施例の原理図が示されており、ここではその一部が破断図で示されている。
【0059】
この測定機器1は、ビーム検出器2を有しており、該ビーム検出器2はIR放射ビームに対する結像光学系3を有している。この結像光学系3は少なくとも1つの光学素子4を含んでおり、該光学素子4を用いることによって、図3に詳細に示されている測定対象16における測定スポット14から当該測定機器1に入射するIR放射ビーム5が検出され、IR放射ビーム検出器2のセンサ素子6配向される。
【0060】
少なくとも1つの光学素子4はレンズ若しくはミラーとして構成されており、さらに当該の赤外線放射ビーム(IRビーム)の配向に適している材料、例えばゲルマニウム、珪素などの材料から製造されている。
【0061】
ビーム検出器2はさらに測定スポットマーキング装置11を有しており、この測定スポットマーキング装置11はビーム検出器2の光軸に対して同心的若しくは同軸的に配設された2つの照準ビーム発生器12を有しており、この発生器は図3及び図4に詳細に表されており、以下の明細書でも具体的に説明する。この発生器12はそれぞれ1つの可視光放射源13を有しており、該ビーム源を用いることによって当該測定スポットマーキング装置11が測定対象上の測定スポットを縁取る測定スポットマーキングが生成される。
【0062】
IR放射ビーム検出器2は前記放射源13からの可視光の光学的パス内とIR放射ビームのビームパス5内に図には示されていないさらなる結合光学系3′を有している。このさらなる結合光学系3′はレンズ及び/又はミラー装置から形成されている。
【0063】
入射するIR放射ビーム5に対する開口角度と測定対象上の測定スポットのサイズの変更に対して本来の結像光学系3とさらなる結合光学系3′は、第1の調節装置7に接続されている。この場合開口角度の変更は、本来の結合光学系3の結像比ないしはさらなる結合光学系3′の結像比を変更可能にすることによって達成される。
【0064】
この場合調節装置7は1つの走行経路のみを提供するのではなく、本来の結合光学系3ないしはさらなる結合光学系3′のレンズ系に適した、結合光学的3に合わせて調整された複数の走行経路が提供される。
【0065】
前記調節装置7の駆動は駆動手段9を介して行われる。この駆動手段9は本発明の実施例では電気的に構成されているが、本発明のさらに別の実施例によれば、この駆動手段は代替的に若しくは付加的に、機械式、空気式、モーター式あるいはその他の方式で操作可能なものであり得る。
【0066】
測定対象上の測定スポットマークのサイズの変更、すなわち入射するIR放射ビーム5に対する開口角度の変更に対しては、さらなる調整装置が設けられ、このさらなる調整装置は前記実施例における調整装置7に含まれていてもよい。
【0067】
このさらなる調節装置は第1の調節装置7と次のように接続されている。すなわち第1の調節装置7による、入射IR放射ビーム5に対する結像比の変更が、第2の調節装置による入射IR放射ビーム5に対する測定スポットマーキング15ないし開口角度の相応のサイズ変更を引き起こすように接続されている。入射IR放射ビーム5に対する開口角度の可変性は、図2において矢印26によって示されており、この描写は様々なビームパス5で表されている。矢印26は同時に入射IR放射ビーム5に対するそのつどの開口角度をマーキングしている。
【0068】
図2に示されている測定機器は一点パイロメータとして形成されている。ここではセンサ素子6がIR放射ビームに感応する唯一の測定セルからなっている。それにより入射IR放射ビーム5に対する開口角度の変更によって測定対象上の測定スポット領域における平均温度が検出可能となる。
【0069】
さらに別の実施例によれば、センサ素子6が熱画像の撮影のためのマイクロボロメータのフィールド装置として構成され、結像光学系3ないし3′が第3の調節装置を有している。この第3の調節装置は結合光学系3ないし3′の焦点調節を変更可能である。
【0070】
図2による実施例の場合は、光学素子4が可視光に対してその放射方向にある縁部領域27において光学的にアクティブとなり、それ故照準ビーム発生器12から照射されたビームの配向を実施するのに適している。それと共に光学素子4,特にその放射方向にある縁部領域27によって次のような基本的な調節装置が提供される。すなわち、測定対象上の測定スポットマークのサイズを変更できる装置である。
【0071】
この光学素子4は、クラッチ手段10を介して第1の調節装置7に次のように接続されている。すなわち、調節装置7によって設定される結像光学系3ないし3′の結像比の変化が、光学素子4の特に放射方向にある縁部領域27による測定スポットマークの相応のサイズ変更を引き起こさせるように接続されている。測定スポットマークのサイズ変更のために構成されている放射方向の縁部領域27は、当該実施例では機械的な形式で調節装置7に結合されている。
【0072】
光学素子4並びに結像光学系3ないし3′の固定の構成要素ないし可動な構成要素はケーシング8内に配設されており、その中でガイドされている。
【0073】
さらに別の実施例によれば、図2中の駆動手段9が測定スポットマーキング装置11と特に照準ビーム発生器12に係合しており、それによって照準ビーム発生器12の相対的な配向が変更可能となり、ひいては当該照準ビーム発生器によって生成される測定スポットマークのサイズ及び/又は形態が変更可能となる。
【0074】
図3には、図1若しくは図2による携帯型温度測定機器1(ここでは図示せず)の部材としての測定スポットマーキング装置11が示されている。
【0075】
そこではビーム検出器2の光軸18に対して同心的に4つの照準ビーム発生器12が配置されており、それらの照準ビーム19はセンサ光学系の焦点20にて交差し、それに伴う結像が測定スポット14に相応している。図示の例では円形の測定スポットマーク15が4つの弓形セグメント17から形成されており、これらは測定対象16上で正確に測定スポット14を囲んでいる。それにより不所望な誤った対象の測定を引き起こすことなく望み通りの正確な測定が可能となる。
【0076】
図4に概略的に描写されている照準ビーム発生器12は、一方の端部にレーザー放射源13を有している。レーザービーム21は、ビーム処理のためのレンズ22を通って案内され、当該照準ビーム発生器12のもう一方の端部における透過性光学素子23に入射される。そこではレーザービーム21が成形され、図示の実施例では四分円(象限)のセグメント17として形成されている。
【0077】
レンズ22は、ここでは図示されていない調節装置(これは図1若しくは図2による調節装置7に結合されており、測定スポットマーク15のサイズを測定スポット14のサイズに調整している)の構成要素である。
【0078】
図5には本発明による測定スポットマーク15の考えられる複数の実施例が示されている。図5の(a)に示されている円形の測定スポットマーク15は、この場合4つのセグメント17から形成されており、それらは互いに接触していない。しかしながらここで生じているギャップ23は、完全なる円形としての知覚を阻害するほどのものではない。この4つの弓形形状部は、4つの照準ビーム発生器によって生成される測定スポットマーク15にほぼ一致するように見える。しかしながらビーム形成器23を用いれば任意の形態が表示できるため、2つ若しくは任意の数の照準ビーム発生器12を用いるだけで当該の測定スポットマーク15を生成することも可能となる。
【0079】
図5の(b)に示されている測定スポットマーク15は、3つの弓形セグメント17から形成されており、それらはほぼ接触している。そのためここでの円形の測定スポット14はほぼ完全につながっている。従ってここでは前記のようなギャップ23はほとんど見ることができない。なおここでの測定スポットマーク15も基本的には任意の数の照準ビーム発生器によって生成可能である。
【0080】
測定スポット14の中央を強調するために、図5の(c)に示されている測定スポットマーク15では、第2の同心円的マーク24が測定スポット14の中心か若しくはその近傍に配置されている。また2つの照準ビーム発生器12を用いてそれぞれ内円と外円を生成することも考えられる。しかしながら合目的には4つの照準ビーム発生器12を用いて、それぞれ内側ラインと外側ラインを有する弓形セグメント17を生成するのが有利である。その場合には外方のセグメントを重畳させることによって完全につながった円が得られる。
【0081】
図5の(d)には、2つのセグメント17から形成された矩形の測定スポットマーク15が描写されている。図5の(e)に示されている矩形の測定スポットマーク15は、付加的な縁取りのために、測定スポット14の中心をマークする中央十字線25を有している。
【0082】
これまでに例示的に描写してきた測定スポットマークは、その説明のために多義的可能性の一部から選択しただけのものである。従って本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0083】
無接触式の温度測定のための測定機器1では、測定対象16上の測定スポット14から入射されるIR放射ビーム5のための結合光学系3,3′と測定スポットマーキング装置11(これは測定スポット14を縁取る測定スポットマーク15を生成している)が設けられており、この場合結合光学系3,3′によって検出される開口角度が調節装置7を用いて変更可能であり、この調節装置7を用いて開口角度の変更に相応する測定スポットマーク15のサイズ変更が引き起こされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無接触式温度測定のための測定機器、特に携帯型測定機器であって、
IR放射ビーム検出器(2)と、
IR放射ビームのための結合光学系(3,3′)と、
少なくとも1つの照準ビーム発生器(12)を備えた測定スポットマーキング装置(11)とを有し、
前記結合光学系(3,3′)は測定対象(16)における測定スポット(14)から当該測定機器(1)へ入射するIR放射ビーム(5)を検出し、IRビーム検出器(2)に配向し、
前記測定スポットマーキング装置(11)は可視光のための放射源(13)と少なくとも1つの光学素子(4,22,23)を有しており、さらに前記測定スポットマーキング装置(11)は測定スポット(14)を縁取る測定スポットマーク15を測定対象(16)上に生成している形式のものにおいて、
結像光学系(3,3′)に第1の調節装置(7)が接続されており、該第1の調節装置(7)は結像光学系(3,3′)の結像比を変更可能であり、
第2の調節装置(7,9,27)が設けられており、該第2の調節装置は測定対象(16)上の測定スポットマーク(15)のサイズを変更可能であり、
前記第1の調節装置(7)が第2の調節装置(7,9,27)と次のように結合(10)されている、すなわち第1の調節装置(7)による結像比の変更が、第2の調節装置(7,9,27)による測定スポットマーク(15)の相応のサイズ変更を引き起こすように結合されていることを特徴とする測定機器。
【請求項2】
前記結像光学系(3,3′)は第3の調節装置と接続されており、該第3の調節装置は結像光学系(3,3′)の焦点調整の変更が可能である、請求項1記載の測定機器。
【請求項3】
前記第1の調節装置(7)と第2の調節装置(7,9,27)は、機械的及び/又は電子的に結合(10)されている、請求項1または2記載の測定機器。
【請求項4】
前記第1の調節装置(7)と第2の調節装置(7,9,27)は、共通の駆動部(9)を用いて操作可能であり、及び/又は前記第1の調節装置(7)と第2の調節装置(7,9,27)は同一仕様の構成である、請求項1から3いずれか1項記載の測定機器。
【請求項5】
前記第2の調節装置(7,9,27)は照準ビーム発生器(12)の結像比を変更可能である、請求項1から4いずれか1項記載の測定機器。
【請求項6】
前記第2の調節装置(7,9,27)は、少なくとも2つの照準ビーム発生器(12)の相対的配向を変更可能である、請求項1から5いずれか1項記載の測定機器。
【請求項7】
前記IRビーム検出器(2)は、熱画像撮影用のマイクロボロメータのフィールド装置を有している、請求項1から6いずれか1項記載の測定機器。
【請求項8】
測定スポットマーク(15)が、測定スポット(14)の円形の縁取り(17)を表している、請求項1から7いずれか1項記載の測定機器。
【請求項9】
表示手段が、測定された温度用に形成されているか、及び/又は撮影された熱画像用に形成されている、請求項1から8いずれか1項記載の測定機器。
【請求項10】
前記測定機器(1)は、ワンポイントパイロメータである、請求項1から9いずれか1項記載の測定機器。
【請求項11】
前記結合光学系(3,3′)は、ケーシング(8)内部で相互にシフト可能に配設されている複数のレンズ及び/又はミラーによって形成さている、請求項1から10いずれか1項記載の測定機器。
【請求項12】
前記光学系(3,3′)の光学素子の1つが絞りとして、第1の調節装置(7)により離散的若しくは連続的に変更可能な開口直径を備えている、請求項1から11いずれか1項記載の測定機器。
【請求項13】
前記第1の調整装置(7)が少なくとも1つの駆動手段(9)を備えており、該駆動手段(9)は手動方式、電動方式、空気方式または油圧方式で駆動が可能である、請求項1から12いずれか1項記載の測定機器。
【請求項14】
前記照準ビーム発生器(12)は、少なくとも1つの透過性の光学素子を有するビーム形成器(23)を備えている、請求項1から13いずれか1項記載の測定機器。
【請求項15】
前記赤外線ビーム検出器(2)は円形の測定スポット(14)を有し、前記測定スポットマーキング装置(11)は、前記赤外線ビーム検出器(2)に同軸的に配置されているか、及び/又は前記測定スポット(14)を縁取りする実質的に円形の測定スポットマーク(15)を生成している、請求項1から14いずれか1項記載の測定機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図5(e)】
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【公表番号】特表2010−536045(P2010−536045A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520473(P2010−520473)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006556
【国際公開番号】WO2009/021691
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(307033590)テスト アクチエンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】