説明

超伝導液面計、及び超伝導液面測定方法

【課題】気体中の温度分布や圧力条件、気体の種類等に影響を受けることなく、所定の電圧値を出力する再現性に優れた超伝導液面計等を提供する。
【解決手段】超伝導液面計1は、低温液体の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材4、低温液体の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材5、超伝導線材4の上部を加熱する超伝導発熱部7、非超伝導線材5の上部を加熱する非超伝導発熱部8、超伝導線材4と非超伝導線材5と超伝導発熱部7と非超伝導発熱部8とに電流を供給する電源部6、超伝導線材4及び非超伝導線材5の電圧を測定するアイソレーションアンプ、及びアイソレーションアンプから出力された値に基づいて低温液体2の液面の位置を演算する演算部9を備え、超伝導線材4及び非超伝導線材5のそれぞれの両端電圧を測定して差分を算出することで、低温液体2の液位を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導線材を用いて低温液体の液面を検出する超伝導液面計等に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ヘリウム(大気圧下の沸点が約4K)のような超低温液体の液位を計測するため、ニオブ−チタン(NbTi)線材(臨界温度が約9K)を用いた超伝導液面計が一般的に知られている。超伝導液面計の動作原理は、容器内に鉛直に立設された超伝導線材に最適な電流を通電すると、液体中では電気抵抗ゼロの超伝導状態となり、気体中では抵抗がある常伝導状態となり、気体中の長さに比例した電圧値が出力されることで、その値に基づいて液位を算出するものである。
【0003】
これに関連して、超伝導センサ線をU字型、V字型に配設、あるいはそれらを多数直列に接続し、センサ部の機械的強度及び感度を高める技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、将来の水素エネルギー社会での利用が期待される液体水素(大気圧下の沸点が約20K)の液面を、高温超伝導体(例えば、二ホウ化マグネシウム:MgB2等)を用いて測定する液面計が試作、試験されている(例えば、特許文献2、3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第97/08518号
【特許文献2】特表2008−532022号公報
【特許文献3】特開2007−040825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1ないし3においては、気体中の温度分布や圧力条件、気体の種類等により、出力される電圧値が影響を受け、液位に応じた正確な電圧値を出力することができないという課題を有する。つまり、気体中においてはその温度分布や圧力条件等が常時変化しており、また運用方法によっては収納容器の外部から導入した任意の種類の気体による加圧状態や密閉した収納容器内における低温液体自体の蒸発による加圧状態により、出力される電圧値を再現よく測定することが非常に困難である。
【0007】
そこで、本発明は気体中の温度分布や圧力条件、気体の種類等に影響を受けることなく、所定の電圧値を出力する再現性に優れた超伝導液面計、及び超伝導液面測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示する超伝導液面計は、超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面計において、前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に立設し、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材と、当該超伝導線材と直列に接続され、前記低温液体の液面と平行な面上であって前記超伝導線材の両先端部が含まれる面上に両先端部が位置して立設し、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材と、前記超伝導線材、及び非超伝導線材に電流を供給する電源部と、前記超伝導線材の電気的な特性を測定する超伝導測定部と、前記非超伝導線材の電気的な特性を測定する非超伝導測定部と、前記
超伝導測定部、及び非超伝導測定部が測定した結果に基づいて、前記超伝導線材、及び前記非超伝導線材の電気的な特性の差分を算出し、当該算出した差分に基づいて前記低温液体の液面の位置を演算する演算手段とを備えるものである。
【0009】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、低温液体に少なくとも一部が接触した状態で収納容器内に立設された超伝導線材の電気的な特性と、超伝導線材と直列に接続され、低温液体の液面と平行な面上であって超伝導線材の両先端部が含まれる面上に両先端部が位置して立設された非超伝導線材の電気的な特性とを測定し、それぞれの電気的な特性の差分に基づいて低温液体の液面の位置を演算するため、気体中における電気的な特性が相殺され、液体中における非超伝導線材の電気的な特性のみを求めることができ、気体中の温度分布や圧力条件、気体の種類等の環境に影響を受けることなく、環境が安定している液体中の電気的な特性に基づいて、再現性よく正確な液面を測定することができるという効果を奏する。
【0010】
なお、上記電気的な特性とは、例えば電圧値や抵抗値である。また、超伝導線材と非超伝導線材とが非常に離れて並設される場合には、各線材ごとに温度分布や圧力条件等が大きく相違してしまう可能性があるため、可能な限り近設するのが望ましい。
【0011】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材及び非超伝導線材が、超伝導体及び当該超伝導体を被覆するシースで形成され、前記非超伝導線材における超伝導体が常伝導化されているものである。
【0012】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材及び非超伝導線材が、超伝導体及び当該超伝導体を被覆するシースで形成され、非超伝導線材における超伝導体が常伝導化されているため、気体中における電気的な特性は相殺されると共に、超伝導線材は低温液体中で抵抗がゼロになるのに対して、非超伝導線材は超伝導体が常伝導化されているため低温液体中でも電圧値が測定され、その値に基づいて正確な液面の位置を再現性よく求めることができるという効果を奏する。
【0013】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材及び非超伝導線材のシースの抵抗率が同一であるものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材及び非超伝導線材の線径、及びシースの抵抗率が同一であり、常伝導状態では抵抗値に応じてシースに大部分の電流が流れるため、気体中における超伝導線材、及び非超伝導線材の発熱量と冷却量が等しくなり、電気的な特性を相殺し、正確で再現性よく液面の位置を求めることができるという効果を奏する。
【0014】
本願に開示する超伝導液面計は、前記非超伝導線材が、前記超伝導線材と同一の成分、且つ同一の分量で形成され、焼結処理により超伝導体が形成される前のものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、非超伝導線材が、超伝導線材と同一の成分、且つ同一の分量で形成され、焼結処理により超伝導体が形成される前のものであるため、超伝導線材を製造する過程で焼結処理していないものを非超伝導線材として用い、焼結処理したものを超伝導線材として用いることで、非常に効率よくそれぞれの線材を形成することができるという効果を奏する。
【0015】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材、及び非超伝導線材の上端部に配設され前記電源部から供給された電流により熱を発生する発熱部を備え、前記発熱部が、前記超伝導線材の上端部に配設される超伝導発熱部と、前記非超伝導線材の上端部に配設される非超伝導発熱部とを有し、前記超伝導発熱部、非超伝導発熱部、超伝導線材、及び非超伝導線材が前記電源部と直列に接続されているものである。
【0016】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材の上端部に配設される超伝導発熱部、非超伝導線材の上端部に配設される非超伝導発熱部、超伝導線材、及び非超伝導線材が電源部と直列に接続されているため、電源の数を減らして回路構成を簡略化し、装置の小型化を図ることができるという効果を奏する。
【0017】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであるものである。
【0018】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであるため、液体水素のように沸点が高いものであっても、高温超伝導線材を用いて液面を検出することができるという効果を奏する。
【0019】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材、及び非超伝導線材のそれぞれの上端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して各線材ごとに上部接続部を形成し、当該上部接続部と前記電源部とが電気的に接続された状態で、前記上部接続部を、伸縮性を有するバネ材、及びドーナツ状のリング体を介して前記収納容器内の上部に固着するものである。
【0020】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材、及び非超伝導線材のそれぞれの上端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して各線材ごとに上部接続部を形成し、上部接続部を、伸縮性を有するバネ材、及びドーナツ状のリング体を介して収納容器内の上部に固着するため、線材自体に変形等の加工を行う必要がなく直線状に維持することができ、また線材の膨張率の変化による伸縮や振動等による湾曲を吸収し、線材への付加を最小限に抑えると共に、線材の横方向の変位や周方向の回転変位等に対しても負荷を軽減して、線材の断線や損傷を確実に防止することができるという効果を奏する。
【0021】
本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材、及び非超伝導線材の下端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい一の導電線を溶着して各線材に共通の下部接続部を形成し、当該下部接続部が前記収納容器内の下部に固着されるものである。
【0022】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材、及び非超伝導線材の下端部に、少なくとも超伝導線材よりも加工度が大きい一の導電線を溶着して各線材に共通の下部接続部を形成し、下部接続部が収納容器内の下部に固着されるため、それぞれの線材を収納容器内に容易に張設することができるという効果を奏する。
【0023】
本願に開示する超伝導液面測定方法は、超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面測定方法において、前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に配設され、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材の電気的な特性を測定する超伝導線材測定工程と、前記超伝導線材に並設され、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材の電気的な特性を測定する非超伝導線材測定工程と、前記超伝導線材測定工程、及び非超伝導線材測定工程で測定された結果に基づいて、前記超伝導線材、及び非超伝導線材の電気的な特性の差分を算出する差分算出工程と、前記差分算出工程が算出した差分に基づいて、前記低温液体の液面の位置を演算する液面演算工程とを含むものである。
【0024】
このように、本願に開示する超伝導液面測定方法においては、超伝導線材の電気的な特
性と非超伝導線材の電気的な特性との差分に基づいて、低温液体の液面の位置を演算するため、気体中における電気的な特性が相殺され、液体中における非超伝導線材の電気的な特性のみを求めることができ、気体中の温度分布や圧力条件、気体の種類等の環境に影響を受けることなく、環境が安定している液体中の電気的な特性に基づいて、再現性よく正確な液面を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態に係る超伝導液面計の原理を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る超伝導液面計の回路構成の一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る超伝導液面計における超伝導線材及び非超伝導線材の特性を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る超伝導液面計における線材の接続部の加工を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る超伝導液面計における線材の接続部を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る超伝導液面計の線材の状態を示す図である。
【図7】その他の実施形態に係る超伝導液面計における各線材の配置関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例における超伝導線材の温度特性及びシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る超伝導液面計について、図1ないし図5を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る超伝導液面計の原理を示す図、図2は、本実施形態に係る超伝導液面計の回路構成の一例を示す図、図3は、本実施形態に係る超伝導液面計における超伝導線材及び非超伝導線材の特性を示す図、図4は、本実施形態に係る超伝導液面計における線材の接続部の加工を示す図、図5は、本実施形態に係る超伝導液面計における線材の接続部を示す図である。
【0028】
図1において、超伝導液面計1は、収納容器3内に低温液体(ここでは、液体水素とする)2が収納されており、低温液体2に一部が浸漬する状態で超伝導線材4、及び非超伝導線材5が、収納容器3内に立設されている。超伝導線材4は低温液体2の大気圧下における沸点(ここでは、約20K)において超伝導状態に遷移するものであり、例えば2ホウ化マグネシウム線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材等が該当する。ここでは、2ホウ化マグネシウム線材(MgB2線材)を用いるものとする。
【0029】
非超伝導線材5は、低温液体2の大気圧下における沸点において超伝導状態に遷移しない線材であり、例えば超伝導線材4の超伝導体が無効化されたもの、超伝導体が取り除かれたもの(シースのみの状態)である。超伝導体を無効化する方法として、超伝導体を形成する場合の焼結を行わないことや、外部から変形等の力を加えて超伝導体を断線させる等の方法が有効である。
【0030】
非超伝導線材5のより好ましい構成は、超伝導線材4と同一の成分、且つ同一の分量を用いることで、線材の引き伸ばしにより線径、及びシースの抵抗率を同一にし、その状態で焼結処理を行わないものである。つまり、超伝導線材4にのみ焼結処理を行い、非超伝導線材5には焼結処理を行わない。これらの線材を図1(A)、及び(B)に示すように、同一の長さで平行に並設し、且つ低温液体2の液面と平行な面上であって、それぞれの線材の両先端部が同一の面上に位置するように、各線材を収納容器3内に立設する。
【0031】
超伝導線材4と非超伝導線材5は、図1(A)、及び(B)に示すように直列に接続され、所定の電流Iが通電される。気体中では、超伝導線材4も非超伝導線材5も常伝導状態であるため抵抗があり、いずれも電圧VGが測定される。低温液体2中では、超伝導線材4は、超伝導状態であるため抵抗がなく電圧は0である。一方、非超伝導線材5は、低温液体2中であっても常伝導状態であるため、液温TLに依存する抵抗R(TL)により電圧VLが測定される。つまり、超伝導線材4にかかる電圧はVA=VGであるのに対して、非超伝導線材5にかかる電圧はVB=VG+VLである。
【0032】
図1(C)は、図1(A)及び(B)を簡略化した図であり、これらの図からわかる通り、超伝導線材4の電圧VAと非超伝導線材5の電圧VBとの差分を取ると、非超伝導線材5の低温液体2中の電圧のみを求めることができる。低温液体2中は温度分布がないか、又は非常に安定しているため、液温TLに応じた抵抗Rと電流Iの積で与えられる差分電圧が、再現性よく安定的に測定される。
【0033】
なお、超伝導線材4と非超伝導線材5とは、気体中の温度分布や圧力条件等の環境が同一と見なせる程度に近設させることが望ましい。
【0034】
図2は、本実施形態に係る超伝導液面計の回路構成の一例である。超伝導液面計1は、低温液体の大気圧下の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材4、低温液体の大気圧下の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材5、超伝導線材4の上部を加熱する超伝導発熱部7、非超伝導線材5の上部を加熱する非超伝導発熱部8、超伝導線材4と非超伝導線材5と超伝導発熱部7と非超伝導発熱部8とに電流を供給する電源部6、超伝導線材4及び非超伝導線材5の電圧を測定するアイソレーションアンプ、及びアイソレーションアンプから出力された値に基づいて低温液体2の液面の位置を演算する演算部9を備える。
【0035】
電源部6、超伝導発熱部7、非超伝導発熱部8、非超伝導線材5、及び超伝導線材4は直列に接続され、所定の電流が通電される。その状態で、超伝導線材4及び非超伝導線材5のそれぞれの両端電圧を測定して差分を算出することで、低温液体2の液位を演算する。超伝導発熱部7及び非超伝導発熱部8は、電源部6から供給される電流により発熱し、超伝導線材4及び非超伝導線材5の低温液体2に浸漬していない気体部分を確実に常伝導状態にしている。
【0036】
なお、超伝導発熱部7、及び非超伝導発熱部8は必ずしも備える必要はない。このような発熱手段を備えない場合であっても、線材の中心にある超伝導体(線材の構成については後述する)に電流が流れ込む際に、半田付け部分やシース材を介するため、特にシース部分における微小な発熱により常伝導状態を創り出すようにしてもよい。また、超伝導線材の作成方法により、臨界温度以下でも完全な電気抵抗ゼロとはならない線材とし、この非常に低抵抗な状態における微小な発熱により、常伝導状態を創り出すようにしてもよい。さらに、線材の一部を意図的に劣化させ、電流を通電するだけで常時発熱がある状態を実現して、常伝導状態を創り出すようにしてもよい。劣化の方法は、例えば機械的な変形、線材の作成行程で部分的に異物を混入、熱処理を加える等が考えられる。また、前記の非常に低抵抗な状態の線材や一部が劣化している線材も、超伝導線材に含まれるものとす
る。
【0037】
図3は、超伝導線材4及び非超伝導線材5の特性を示しており、図3(A)が超伝導線材4、図3(B)が非超伝導線材5を示す。超伝導線材4は、中心にMgB2の超伝導体4bを有し、当該超伝導体4bをSUS(ステンレス鋼)/Fe(鉄)シース、又はSUSのみのシース4aで被覆している。
【0038】
一方、非超伝導線材5は、同じく中心にMgB2の粉末5bを有し、当該粉末5bをSUS/Feシース、又はSUSのみのシース5aで被覆している。つまり、超伝導線材4は、線材を引き伸ばして焼結処理することで、完全な超伝導線材になっており、非超伝導線材5は、線材を引き伸ばしただけで焼結処理をしておらず、不完全な超伝導線材になっている。
【0039】
これらの抵抗率の温度依存性は、図3(C)に示すようなグラフになる。超伝導線材4は、MgB2の臨界温度Tc以下で抵抗値がゼロになるのに対して、非超伝導線材5は、臨界温度Tc以下でも抵抗値がゼロにならない。このような各線材を用いることで、図1に示すような原理の超伝導液面計を実現することができる。
【0040】
図4に、超伝導線材4の接続部を形成する様子を示す。例えば、MgB2のような超伝導体は、高い温度で超伝導状態に遷移することができるが、Nb−Ti合金等に比べると機械的に脆く、曲げや伸線等を自由に行うことができず、無理な加工を行おうとすると断線、損傷等を生じてしまう。そのため、超伝導線材4の両端部に機械的な加工をせずに、超伝導線材4を直線状に維持しつつ、収納容器3内の中空領域に支持することが非常に重要である。ここでは、超伝導線材4の両端部に機械的な強度が大きく、自由に加工できる銅線を溶着して接続部を形成する。
【0041】
なお、非超伝導線材5については、超伝導体を形成する必要がないため図4のような加工が必ずしも必要ではないが、測定の正確性の点から、超伝導線材4と測定の環境や条件を一致させることが好ましく、非超伝導線材5にも図4と同様の加工を施すことが望ましい。
【0042】
図4(A)に示すように、超伝導線材4の銅コーティング部40a(例えば、長さ10mm程度とする)に、銅線40bをオーバーラップさせる。オーバーラップした部分に銅線40bよりも細い銅線40cを巻回して、銅コーティング部40aと銅線40bとを密着させる。その状態でオーバーラップ部分に半田付けをして接続部11(上電極),12(下電極)を形成する。そして、図4(B)に示すように、形成された接続部11に抵抗発熱線を巻回して超伝導発熱部7を形成する。超伝導発熱部7が、接続部に対して形成されることで、超伝導線材4が直接熱を受けて損傷してしまうことを防止することができる。
【0043】
このように形成された接続部11,12に対して、伸線、曲げ等の加工を行うことで、超伝導線材4を直線に維持し、外部からの力による断線や損傷等を確実に防止することができる。
【0044】
図5に、接続部11,12の加工の具体例を示す。図5(A)が上端部における接続部11の加工を示し、図5(B)が下端部における接続部12の加工を示す。図5(A)においては、超伝導線材4が、接続部11、リング体15、及びバネ材16を介して上部支持体14に支持されている。接続部11の上端には、半田付けにより環状に形成された環状体18を有しており、この環状体18とリング体15とが連環している。また、バネ材12の下端部にも、半田付け等により形成された環状体17を有しており、この環状体1
7とリング体11とが連環している。つまり、図5(A)に示すように、環状体17,18がリング体15を介して連環して接続されている。このように接続されることで、超伝導線材4の横方向の移動や捻れを最小限に抑えることができる。
【0045】
図5(B)においては、接続部12が電極金具13を下方向に貫通し、電極金具13の底部に沿って略90度に曲折されており。曲折箇所は半田付けにより固定され、余分な箇所はニッパにより切断しておく。つまり、超伝導線材4の上端部はある程度可動自在に支持され、超伝導線材4の下端部は固定されて支持されている。
【0046】
このように、接続部11,12が、銅線のように加工度が大きい材料により形成されるため、環状に変形したり略90度に曲折しても機械的に安定させることができ、超伝導線材4を中空内で安定して直線状に立設することができる。また、リング体15を介してバネ材16と連環して接続されるため、横方向や捻れに対しての負荷を最小限に抑えつつ、バネ材12により縦方向の付加を吸収することができ、超伝導線材4の断線、損傷を防止することができる。
【0047】
なお、上述したように、図4及び図5に示すような加工は、非超伝導線材5にも同様に施すことが望ましい。
【0048】
上記加工が施された各線材を同一の長さで収納容器3内に平行に並設し、それぞれの上端部と下端部との位置が、低温液体2の液面と平行な面上となるように立設する。そうすることで、図1に示す原理の超伝導液面計1を実現することができる。
【0049】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る超伝導液面計について、図6を用いて説明する。本実施形態に係る超伝導液面計1は、前記第1の実施形態における超伝導液面計1において、接続部12が一の導電線を溶着して各線材に共通の接続部12を形成しているものである。
【0050】
図6は、本実施形態に係る超伝導液面計の線材の状態を示す図である。図6に示すように、超伝導線材4及び非超伝導線材5が、上部ではそれぞれに接続部11を形成し、下部では共通の接続部12が形成されている。上部における接続部11は、それぞれが所定の間隔を空けて上部支持体14に支持され、下部における接続部12は、一の接続部12が電極金具13に固着されており、超伝導線材4及び非超伝導線材5がV字状支持されている。
【0051】
このように、各線材をV字状に配設することで、それぞれの線材間の距離を適切な間隔に保つことで相互の干渉をなくし、測定精度を高く保つと共に、下部の接続部12は一箇所だけを溶着する作業で双方の線材を固着できるため、作業の効率化を図ることができる。
【0052】
(その他の実施形態)
本実施形態に係る超伝導液面計について、図7を用いて説明する。図7は、各線材の配置関係を示す図である。図7(A)は、第1の実施形態に示す超伝導液面計の各線材の配置関係を示しており、超伝導線材4及び非超伝導線材5の長さが同一で平行に配設されている。このとき、低温液体2の液面と各線材とがなす角度θ1が垂直(=90度)である。
【0053】
図7(B)は、超伝導線材4及び非超伝導線材5が異なる長さを有しており、平行に配設されていない。また、このとき低温液体2の液面及び超伝導線材4のなす角度θ1と、低温液体2の液面及び超伝導線材4のなす角度θ2とが異なる。図7(C)は、第2の実
施形態に示す超伝導液面計の各線材の配置関係を示しおり、超伝導線材4及び非超伝導線材5の長さが同一でV字状に配設されている。このとき、低温液体2の液面と各線材とがなす角度θ3が同じである。図7(D)は、超伝導線材4及び非超伝導線材5の長さが同一で平行に配設されている。このとき、低温液体2の液面と各線材とがなす角度θ4が同じであり90度ではない。
【0054】
図7の各状態において、低温液体2の液面と平行な面上であって超伝導線材4の両先端部が含まれる面上に、非超伝導線材5の両先端部が位置して立設されていることがわかる。つまり、低温液体2の液位に関係なく次の関係が成立すれば、本発明を実現することができる。
【0055】
〔数1〕
L1l/L1g=L2l/L2g
ただし、L1lが超伝導線材4における液体中の長さ、L1gが超伝導線材4における気体中の長さ、L2lが非超伝導線材5における液体中の長さ、L2gが非超伝導線材5における気体中の長さとする。
【0056】
なお、超伝導線材4と非超伝導線材5との長さが異なる場合は、その長さの比率に応じて測定された電圧値を補正する補正手段を備え、その補正した値について差分を算出するものとする。また、長さだけでなく材料や構成が異なる場合には、前記補正手段が、それぞれの線材の常伝導状態における抵抗率の比率に応じて補正することで、低温液体2の液面を正確に演算することができる。
【0057】
また、非超伝導線材5は低温液体2中であっても抵抗があるため発熱しており、その熱により低温液体2が僅かながら蒸発してしまう可能性がある。そこで、非超伝導線材5の特性において、抵抗率のみを下げることで、発熱の影響を最小限に抑えるようにしてもよい。このとき、超伝導線材4と非超伝導線材5との抵抗率の比率を予め求めておき、その比率に基づいて前記のような補正手段により、測定された電圧値を補正して液面を演算するようにしてもよい。
【実施例】
【0058】
本発明の超伝導液面計について、シミュレーションを行った。シミュレーションは、参考文献(K.Kajikawa, K.Tomachi, K.Tanaka, K.Funaki, T.Kamiyama, M.Okada and
H.Kumakura, "Numerical simulation of a superconducting level sensor for liquid hydrogen with MgB2 wire", Proceeding of ICEC22-ICMC2008(2009.5), pp.425-430)に記載のモデルを用いて行った。
【0059】
シミュレーションにおける条件を下記の表1に示す。また、シミュレーションする超伝導線材の温度特性とシミュレーション結果を図8に示す。図8(A)に示すように、超伝導線材(A)は臨界温度で抵抗値がゼロとなり、非超伝導線材(B)は臨界温度以下でも抵抗がゼロにならない。
【0060】
【表1】

【0061】
また、動作としては、まず(1)液位を250mmの高さで100秒維持し、(2)次の100秒で液位を除々に50mmまで下げ、(3)次の100秒は液位を50mmの高さで維持し、(4)次の100秒で液位を除々に250mmまで上げ、(5)次の100秒は液位を250mmの高さで維持する。
【0062】
上記条件におけるシミュレーション結果を図8(B)、(C)に示す。図8(B)は時間と発生電圧との関係を示すグラフで、図8(C)は液体中の長さ(気体中の長さ)と発生電圧との関係を示すグラフである。いずれのグラフにおいても、長破線が超伝導線材を示し、破線が非超伝導線材を示し、実線がその差分を示す。
【0063】
図8(B)において、上記の各工程((1)〜(5))は、図8(B)の上部に示す(1)〜(5)に対応するものである。図8(B)からわかる通り、超伝導線材も非超伝導線材も液位に応じて電圧値が変化しており、超伝導線材の方が液体に浸かっている長さの分だけ抵抗値がゼロになるため、電圧値の変化が大きくなっている。
【0064】
図8(C)において、超伝導線材も非超伝導線材も液中の長さに対する発生電圧は非線形となっている。これは気体中の温度分布と線材の温度依存性によるものであり、気体中の環境に影響を受けていることが示されている。一方、超伝導線材と非超伝導線材の差分を示す実線は線形となっている。つまり、気体中の電圧値が差し引かれて、液体中の電圧値のみを線形で得ることができる。
上記実験結果から、本発明の超伝導液面計が気体中の環境に左右されずに、安定した電圧値を得ることができ、液位を正確に測定することができることがわかる。
【符号の説明】
【0065】
1 超伝導液面計
2 低温液体
3 収納容器
4 超伝導線材
4a シース
4b 超伝導体
5 非超伝導線材
5a シース
5b 粉末
6 電源部
7 超伝導発熱部
8 非超伝導発熱部
9 演算部
11,12 接続部
13 電極金具
14 上部支持体
15 リング体
16 バネ材
17,18 環状体
40a 銅コーティング部
40b,40c 銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面計において、
前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に立設し、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材と、
当該超伝導線材と直列に接続され、前記低温液体の液面と平行な面上であって前記超伝導線材の両先端部が含まれる面上に両先端部が位置して立設し、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材と、
前記超伝導線材、及び非超伝導線材に電流を供給する電源部と、
前記超伝導線材の電気的な特性を測定する超伝導測定部と、
前記非超伝導線材の電気的な特性を測定する非超伝導測定部と、
前記超伝導測定部、及び非超伝導測定部が測定した結果に基づいて、前記超伝導線材、及び前記非超伝導線材の電気的な特性の差分を算出し、当該算出した差分に基づいて前記低温液体の液面の位置を演算する演算手段とを備えることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材及び非超伝導線材が、超伝導体及び当該超伝導体を被覆するシースで形成され、前記非超伝導線材における超伝導体が常伝導化されていることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項3】
請求項2に記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材及び非超伝導線材の線径、及びシースの抵抗率が同一であることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の超伝導液面計において、
前記非超伝導線材が、前記超伝導線材と同一の成分、且つ同一の分量で形成され、焼結処理により超伝導体が形成される前のものであることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材、及び非超伝導線材の上端部に配設され前記電源部から供給された電流により熱を発生する発熱部を備え、
前記発熱部が、前記超伝導線材の上端部に配設される超伝導発熱部と、前記非超伝導線材の上端部に配設される非超伝導発熱部とを有し、
前記超伝導発熱部、非超伝導発熱部、超伝導線材、及び非超伝導線材が前記電源部と直列に接続されていることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項7】
請求項6に記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材、及び非超伝導線材のそれぞれの上端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して各線材ごとに上部接続部を形成し、当該上部接続部と前記電源部とが電気的に接続された状態で、前記上部接続部を、伸縮性を有するバネ材、及びドーナツ状のリング体を介して前記収納容器内の上部に固着することを特徴とする超伝導液面計。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材、及び非超伝導線材の下端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい一の導電線を溶着して各線材に共通の下部接続部を形成し、当該下部接続部が前記収納容器内の下部に固着されることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項9】
超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面測定方法において、
前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に配設され、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移する超伝導線材の電気的な特性を測定する超伝導線材測定工程と、
前記超伝導線材に並設され、少なくとも前記低温液体の沸点において超伝導状態に遷移しない非超伝導線材の電気的な特性を測定する非超伝導線材測定工程と、
前記超伝導線材測定工程、及び非超伝導線材測定工程で測定された結果に基づいて、前記超伝導線材、及び非超伝導線材の電気的な特性の差分を算出する差分算出工程と、
前記差分算出工程が算出した差分に基づいて、前記低温液体の液面の位置を演算する液面演算工程とを含むことを特徴とする超伝導液面測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−257181(P2011−257181A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129953(P2010−129953)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(397036457)株式会社ジェック東理社 (4)
【Fターム(参考)】