超疎水性ポリマー加工物
【課題】超疎水性ポリマー加工物を提供すること。
【解決手段】超疎水性ポリマー加工物を作製するための一方法により、超疎水性ポリマー加工物を迅速かつ容易に製造することができ、超疎水性表面はテンプレートを用いて繰り返しインプリントすることができ、ゆえに、大きな面積にわたる超疎水性ポリマー加工物の大量生産を経済的に行うことができる。
【解決手段】超疎水性ポリマー加工物を作製するための一方法により、超疎水性ポリマー加工物を迅速かつ容易に製造することができ、超疎水性表面はテンプレートを用いて繰り返しインプリントすることができ、ゆえに、大きな面積にわたる超疎水性ポリマー加工物の大量生産を経済的に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、超疎水性表面を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人々は、毎日、物体の表面に包囲され、さらされている。それゆえ、人々が頻繁に接触する表面上でどのような現象が起こるか、および生活をより快適にするために、これらの表面をどのように処理または作製するかに関して、広範な調査が行われてきた。超疎水性は、表面の物理的特性であり、それにより、表面が水に濡れることが極端に困難になる。例えば、植物の葉、昆虫の羽、または鳥類の翼は、あらゆる特定の除去プロセスを必要とすることなく、任意の外部混入物を除去することを可能にし、最初の段階で異物混入を防止する特性を有する。これが可能なのは、植物の葉、昆虫の羽、および鳥類の翼が超疎水性であるためである(W.BarthlootおよびC.Neinhuis、Planta、1997、202、1〜8頁を参照されたい)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超疎水性表面が施された物体は、防水、防汚損(dirt-proof)であることなどの特性を示すことができる。したがって、超疎水性表面を形成するための技術は、様々な産業分野で有用となり得る。しかしながら、人工超疎水性表面を形成するための方法は、現在まで技術的に不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
超疎水性の代表的な例は、ロータス効果(Lotus effect)を呈する植物葉の表面である。本開示では、超疎水性を呈する物体の表面を作り出すための方法として、ロータス効果を呈する植物葉の表面のようなバイオミメティック表面を物体が有するように技術を研究した。
【0005】
本開示は、とりわけ、超疎水性ポリマー加工物(superhydrophobic polymer fabrication)を作製するための方法、テンプレート、およびこの方法によって作製される超疎水性ポリマー加工物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
一実施形態において、超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法は、化学エッチングによってテンプレートの表面上にミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造を形成する工程、エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかけ、それによりエッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製することを可能にする工程、および複製されたポリマー加工物をエッチングされたテンプレートから取り外す工程を含む。
【0007】
その実用的な適用を可能にするためには、超疎水性表面は、以下の特性、すなわち、作製が簡単であること、安価であること、大きな面積にわたって生産できること、および様々な形状を有する任意の物体に適用できることを1つ以上包まなければならない。
【0008】
超疎水性表面が、上述した特性を1つ以上有するためには、超疎水性表面が上に形成される好適な材料を選択する必要がある。例えば、超疎水性表面が金属または硬い鉱石の表面上に形成される場合、作製手順は難しく、より高価であり、大きな面積にわたって行うことが困難であり、大量生産に適さないこととなり得る。例えば、金属または硬い鉱石の表面上に超疎水性表面を作製することが適度に簡単であっても、超疎水性表面を有する金属または硬い鉱石を他の物体上に塗布することは困難である。対照的に、超疎水性表面を有するポリマー加工物は、ポリマー加工物の成形容易性により、様々な形状を有する物体上に容易に塗布またはコーティングすることができる。さらに、ポリマー加工物は、取扱いが容易で、作製がより低価格であるという点において、利点を提供することになる。
【0009】
ポリマー加工物の表面上に超疎水性表面を形成するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、当該方法は、ポリマー加工物に超疎水性表面を複製するためのテンプレートを製作する工程、およびポリマー加工物上にテンプレートをインプリントする工程を含む。そのような方法は、テンプレートを繰り返し用いることによって、ポリマー加工物上に超疎水性表面を複製することができ、それゆえ、当該作製方法により、超疎水性ポリマー加工物の大量生産が可能になる。
【0010】
一実施形態において、超疎水性ポリマー加工物の表面上にミクロン・サイズのテラス構造が形成された超疎水性ポリマー加工物が提供される。さらに、ミクロン・サイズのテラス構造上にナノ・サイズの繊維構造が形成される。
【0011】
本明細書で用いられる「テラス構造」との用語は、基板の表面上に不規則に分布した無定形な小部分で形成された表面構造を一般に指す。
【0012】
本明細書で用いられる「繊維構造」との用語は、草のような形状をした無定形の繊維が基板の表面上に形成された表面構造を一般に指す。
【0013】
本明細書で用いられる「ミクロン・サイズの」との用語は、限定されないが、1から数千マイクロメートルとして解釈することができる。
【0014】
本明細書で用いられる「ナノ・サイズの」との用語は、限定されないが、1から数千ナノメートルとして解釈することができる。
【0015】
表面上にミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの繊維構造を有する超疎水性ポリマー加工物を作製するために、テンプレートを用いて、インプリントにより、ポリマー加工物の表面上にそのような構造を形成させることができる。
【0016】
テンプレートの構造は、作製される超疎水性ポリマー加工物の超疎水性表面に対応する。それゆえ、テンプレートは、その表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造を有することができる。ミクロン・サイズのテラス構造上に、ナノ・サイズの溝構造を形成することができる。「溝構造」との用語は、化学エッチングによって凹部が作製された表面構造を一般に指し、これは繊維構造に対応する。
【0017】
ロータス効果を呈する植物の葉において観察されるミクロン・サイズの突起構造は、比較的規則的であり、一定の形態を示す。フォトリソグラフィーなどのエッチング方法を用いて、バイオミメティック表面を加工するためのテンプレートを作ることができる。バイオミメティック表面(biomimetic surface)は、規則的で一定の形態の突起構造を有することができる。しかしながら、フォトリソグラフィーを用いる場合、表面処理面積に限度があり、フォトリソグラフィーによって形成される表面のプロファイルを制御することが困難であり、特に、バイオミメティック階層表面を形成することが技術的に非常に複雑で困難である。
【0018】
規則的で一定の形態の突起構造は、超疎水性を得るために必ずしも必要ではない。これは、規則的で一定の形態の突起構造が形成されていない場合でも、ミクロン・サイズの隆起構造上に存在するナノ・サイズの繊維構造により、空中を浮遊する水分子と同じ効果を達成することができるためである。それゆえ、ミクロン・サイズの隆起構造は、規則的である必要も、一定の形態である必要もない。
【0019】
したがって、先に述べた生物体のミクロン・サイズの隆起構造をバイオミメティック的に実行するため、本開示の一実施形態において、規則的で一定の形態の隆起構造を形成する代わりに、テンプレートを化学的にエッチングすることによってミクロン・サイズのテラス構造を形成する。それゆえ、規則的で一定の形態の隆起構造を形成するためのテンプレートの作製に関連する複雑な手順が回避される。
【0020】
テンプレートが化学的にエッチングされる場合、別途の複雑な手順を必要とすることなく、ミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造がテンプレートの表面上に形成される。
【0021】
テンプレートが化学的にエッチングされる場合、材料により、ミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造をテンプレートの表面上に形成することが可能となる限り、任意の好適な材料を用いて、超疎水性表面ポリマー加工物を作製するためのテンプレートを形成することができる。さらに、以下の特徴、すなわち、取扱いが容易である、比較的安価である、ならびにテラス構造および溝構造が合わさった階層構造の形成が容易になることを1つ以上呈する材料を用いることは、さらに有利になり得る。
【0022】
一実施形態において、テンプレートは、金属で形成することができる。金属テンプレートの場合、化学エッチングを短時間で容易に実施することができ、階層構造を容易に形成することができる。例示であって限定するものではないが、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、タングステンまたはその合金などの任意の金属をテンプレートを形成するのに用いることができる。テンプレートを形成するための金属は、取扱いが容易であり、軽量であり、表面処理を容易にし、安価であり、作製プロセスの間にインプリントが繰り返し行われる場合でも、高い耐摩耗性を有しなければならない。例えば、アルミニウムを用いることができるが、その理由は、これが非常に軽く、満足な耐摩耗性を有し、比較的安価であり、化学エッチング時にバイオミメティック階層構造を明瞭に形成させるためである。
【0023】
一実施形態において、好適なエッチング液を使用する化学エッチングを用いて、テンプレートの表面上にテラス構造および溝構造を形成することができる。エッチング液は、テラス形状の組織(texture)を表面上に形成できるものであることができる。エッチング液は、以下の溶液、すなわち、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2CrO4、HCl、HF、NH4OH、NaOH、KOHなどのうちの少なくとも1種の混合物を含むことができる。エッチング液は、テンプレートを形成するために用いられる材料の種類によって変更してもよい。金属に対して用いることのできるエッチング液の組成は、「Vander Voort、G.F.、「Metallography:Principles and Practice」、McGraw−Hill、New York、1984」に例証されており、その全体を参照により本明細書に取り入れる。例えば、Alをエッチングするためのエッチング液には、HCl、HNO3、およびHF(50:47:3)の混合物、無水酢酸と過塩素酸(2:1)との混合物、メタノール、HNO3、HCl、HF、および水(50:50:32:2:50)の混合物、HCl、水、およびHF(80:25:5)の混合物などを挙げることができ、Cuをエッチングするためのエッチング液として、FeCl3、HCl、酢酸、およびBr2(20:20:5:2)の混合物、H3PO4と水(60:40)との混合物、NH4OH中の過硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウム(70:0.5)の混合物などを挙げることができる。
【0024】
例えば、塩化水素(HCl)およびフッ化水素(HF)を含むエッチング液をアルミニウムに対するエッチング液として用いる場合、HClは、アルミニウムを直接エッチングするように作用し、HFは、FeまたはSiなどのアルミニウム中に含有する少量の不純物を除去するように作用して、HClがテンプレートの表面を均一にエッチングするのを助ける。テンプレートを形成する材料が変更される場合、そのような作用を実施するためのエッチング液の成分をそれに応じて変更することができる。
【0025】
一実施形態において、テンプレートのテラス構造および溝構造の形成は、エッチングの温度および持続時間を調節することによって制御することができる。例えば、金属をテンプレートとしてエッチングする場合、ミクロン・サイズのテラス構造を0℃から室温の範囲の低温で形成することができる。金属とエッチング液との間の発熱反応により、反応温度が経時的に上昇し、これにより、ナノ・サイズの溝構造を60℃から100℃の範囲の高温で形成することが可能になる。したがって、温度またはエッチング時間を適切に調節して、テンプレートの表面上に所望の階層構造を形成することができる。エッチングが行われる温度は、例えば0℃から100℃の範囲内で調節することができ、エッチングが実施される時間は、例えば、1秒から10分の範囲内で調節することができる。
【0026】
このようにして、化学エッチングによりテンプレートの表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造を有するテンプレートを用いて、バイオミメティック表面を有する超疎水性ポリマー加工物を形成することができる。
【0027】
この目的のために、エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかける工程、エッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製する工程、およびテンプレートから複製されたポリマー加工物を取り外す工程を含む手順を行うことができる。
【0028】
ポリマー加工物をインプリントするためのテンプレートは、任意の形状を有することができる。テンプレートの形状は、作製されるポリマー加工物の所望の形状によって変更することができる。例えば、テンプレートは、限定することなく、プレートまたは円柱のような形状にすることができる。ポリマー加工物がプレート形状を有するテンプレートから複製される場合、プレートの形状を適切に設定することによって、所望の外部形状を有するポリマー加工物を作ることができる。さらに、ポリマー加工物が円柱形状を有するテンプレートから複製される場合、例えば、ロール・ツー・ロール・プロセスを適用して、大きな面積にわたるポリマー加工物の大量生産を行うことができる。
【0029】
上述した方法によってテンプレートから複製されるポリマー加工物は、ポリマー加工物の表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造上にナノ・サイズの繊維構造を有することができる。化学エッチングにより凹部が作製されたミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの溝構造を有するテンプレートの表面がポリマー表面上にインプリントされる場合、ポリマー加工物の表面は、反対方向に突起するミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの繊維構造を有する。
【0030】
テンプレートからポリマー加工物の表面への複製が容易かつ正確に行われることを可能にし、得られる構造が無傷のままであることを可能にする特性を有するポリマーを用いることが有利である。可撓性で、適正な強度を有する限り、任意のポリマーを用いることができる。
【0031】
一実施形態において、ポリマーは熱可塑性ポリマーである。熱可塑性ポリマーは、加熱されると塑性変形するが、冷却されると可逆的に堅くなるポリマーである。テンプレートを複製するために熱可塑性ポリマーを用いる場合、ポリマーは熱および圧力によって可撓性となり、ゆえに、テンプレート上に凹部が作製された構造などの構造を複製することが容易である。冷却によってポリマーが堅くなり、次いでテンプレートから取り除いたとき、複製によって形成された構造は維持され得る。
【0032】
熱可塑性ポリマーには、限定するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)を含めたポリエステル、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)を含めたポリアルキレン、ポリ塩化ビニル(PVC)を含めたビニルポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含めたポリアクリレート、ポリカルボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、ハロゲン化ポリアルキレン、ポリアリーレンオキシド、ならびにポリアリーレンスルフィドが含まれてもよい。
【0033】
上記方法によって作製される超疎水性ポリマー加工物は、大きな面積にわたって迅速かつ容易に大量生産することができる。超疎水性ポリマー加工物は、超疎水性を必要とする任意の分野に適用することができる。例えば、水による損害の防止、異物混入の防止または遮断などの用途に広く適用することができる。超疎水性ポリマー加工物は、限定するものではないが、コーティングまたは塗布することによって、防水、防汚損、凍結防止、曇り防止(anti-fogging)、または自浄性(self-cleaning)であることなどの特性を提供することができる。例えば、超疎水性ポリマー加工物は、異物混入を遮断し自動車が蒸気で曇るのを防止するために車体上にコーティングする、船がめば土で覆われるのを防止するために船底上にコーティングする、雪または氷の形成を防止するために大きなサイズのアンテナの表面上にコーティングする、腐食および異物混入を防止し水の流動性を高めるために水輸送管の内部表面上にコーティングする、あるいは温室内の撥水システムに塗布することができる。
【0034】
以下に、超疎水性ポリマー加工物を作製する方法を特定の実施例について説明する。さらに、実施例の方法を通じて作製されたポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を測定することによって、ポリマー加工物表面が超疎水性を呈するかどうかを判定するための実験を開示する。実験結果は、階層構造を有するポリマー加工物の表面が良好な超疎水性を呈することを示している。
【0035】
さらに、以下の実験例は、様々なpHを有する様々な溶媒および溶液中でのポリマー加工物表面の安定性および自浄効果を例示する。
【0036】
本開示は、ポリマー加工物上にバイオミメティック超疎水性表面を簡単かつ容易な様式で形成するための方法を提供する。当該方法によれば、超疎水性ポリマー加工物を迅速かつ容易に作製することができ、超疎水性表面をテンプレートを用いて繰り返しインプリントすることができ、ゆえに、大きな面積にわたる超疎水性ポリマー加工物の大量生産を経済的に行うことができる。さらに、当該方法によって形成される超疎水性ポリマー加工物は、様々なpHの様々な溶液および溶媒中で表面構造を変化させることなく超疎水性を維持し、良好な自浄効果を有する。
【0037】
本開示は、詳細に説明される以下の実施例からさらに明瞭にされるであろう。しかしながら、本開示は、それに限定されるものではなく、他に様々に具体化し、実施することができると理解されるべきである。
【0038】
当業者は、本明細書で開示される本プロセスおよび方法および他のプロセスおよび方法について、当該プロセスおよび方法において遂行される機能は異なる順序で行うことができることを理解するであろう。さらに、概略の工程および操作は例示としてのみ提供され、いくつかの工程および操作は、本開示の本質から逸脱することなく、任意選択によるものとするか、より少ない工程および操作に集約するか、あるいは拡張して追加の工程および操作を含めることができる。
【実施例】
【0039】
超疎水性ポリマー加工物の作製
図1は、超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法の例示的実施例の概略図である。図1に示したように、Alプレートをエッチングして、階層構造を有するアルミニウム・テンプレートを形成する。次いで、テンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかける。次いで、テンプレートからポリマー加工物を複製して、超疎水性ポリマー加工物を作製する。
【0040】
(1)アルミニウム・テンプレートの作製およびテンプレートの表面構造変化の分析
超疎水性ポリマー加工物を作製するためのテンプレートとして、アルミニウム(Al)プレートを用いた。
【0041】
市販のAlプレート(99.0%、2×3×0.3cm)をHClおよびHF(HCl:HF:H2O=40ml:2.4ml:12.5ml)を含むエッチング液中に浸漬し、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒、120秒、240秒、480秒のそれぞれについて、室温でエッチングを行った。エッチング後、プレートを水で数回浄化し、N2ガスで乾燥させ、次いで保管した。
【0042】
FE−SEM(日立、s−4300)を用いて、Alプレートの表面を分析した。
【0043】
図2は、未処理のアルミニウム表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。アルミニウムは、表面全体にわたって滑らかな構造を有していないが、アルミニウムは実質的に平坦な構造を有していることが分かる。
【0044】
図3は、それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlの表面構造の変化を例示するFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。図3に示したように、短時間エッチングされたAlの表面はミクロン・サイズのテラス構造を有する。しかしながら、初期段階で形成されたミクロン・サイズのテラス構造は、エッチング時間が徐々に増加すると変形することが分かる。ナノ・サイズの溝構造がミクロン・サイズのテラス構造の表面上に形成され、ゆえに階層構造が徐々に増大する。
【0045】
(2)アルミニウム・テンプレート表面の構造変化と温度との間の相関の分析
エッチング液は、Al表面に露出した欠陥およびAl結晶の不完全な部分を最初に攻撃することによって、エッチングを行う。これにより、エッチング時間にかかわらず、ほとんど同様の構造を有するAl表面になるはずであるが、図3によって例示したように、Alの表面構造はエッチング時間によって変化する。エッチング時間の増加によってミクロン・サイズの構造がナノ・サイズの構造に変形される理由を判定するために、温度と構造変化との間の相関の分析を行った。
【0046】
図4は、エッチング時間に対する反応温度の上昇を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図4に示したように、最初のエッチングは室温で開始し、反応温度はエッチング時間が増加するにつれて最高約100℃まで上昇する。エッチング反応は室温では活発に行われないゆえに、ミクロン・サイズの構造が生成し、次いで、エッチング時間の経過につれて反応温度が上昇することによってエッチング反応が活発に行われるゆえに、より小さなサイズにより活発にエッチングされ、それによりAl表面上でナノ・サイズの構造になると仮定することができる。
【0047】
そのような仮定に基づき、反応温度を調節することによって構造変化を観察した。図5は、それぞれ、低温および高温で短時間エッチングされたAlの表面構造の写真の例示的実施形態を示す。図5に示したように、Alを低温で短時間エッチングした場合にはミクロン・サイズの構造が得られ、Alを高温で短時間エッチングした場合には、ナノ・サイズの構造が得られる。実験結果により、高い反応温度(約70℃以上)で短時間(1秒から10秒)エッチングを行った場合には、ミクロン・サイズの構造のないナノ・サイズの構造を得ることができたが、低温(約0℃)で長時間(約30秒以上)エッチングを行った場合でも、ナノ・サイズの構造を生じることなく、ミクロン・サイズの構造が維持されたことが確認された。さらに、ミクロン・サイズの構造が既に形成されたAlテンプレート上に高温(約70℃)で短時間(5秒から10秒)エッチングを行った場合には、ナノ・サイズの構造が形成され、そのようなナノ・サイズの構造を有するAlテンプレート上に低温(約10℃)でエッチングを行った場合には、ミクロン・サイズの構造が再び形成されたことが示された。上述した手順を繰り返し行った場合でも、同じ現象が観察されたことが確認された。したがって、ミクロン・サイズの構造またはナノ・サイズの構造の形成は、温度またはエッチング時間を調節することによって制御することができる。
【0048】
さらに、エッチング液の成分がどのようにAlのエッチングに影響するかを判定するための実験を行った。実験により、HClはAlを直接エッチングしたが、HClのみがAlをエッチングする場合には、Alの面積全体にわたって均一にエッチングを行うことができなかったことが示された。しかしながら、HFのみでエッチングを行った場合、Alはほとんどエッチングされなかった。Alプレートの場合、少量のFeおよびSiがAlと均一に混合されている。それゆえ、HFがそのような不純物を除去して、HClがAl表面を均一にエッチングすることの助けになることが確認された。
【0049】
(3)ポリマー加工物の作製およびポリマー加工物表面の構造変化の分析
上述したように製造したAlテンプレートを用いて、熱および圧力を用いる方法により、約20分間、HDPEのポリマー複製を行った。HDPEの場合、約150℃でポリマー複製を行い、次いでこれを室温に冷却し、ストリッピング法(stripping method)によってテンプレートを複製物から取り除いた。
【0050】
FE−SEM(日立、s−4300)を用いて、ポリマー複製物の表面を分析した。
【0051】
図6は、未処理のHDPE表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。表面全体にわたって表面はほとんど平坦であることが分かる。
【0052】
図7は、それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物の表面変化のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。
【0053】
図7に示したように、テラス様ミクロン・サイズの構造が形成されているAlテンプレート(すなわち、10秒から30秒間エッチングされたAlテンプレート)が用いられる場合、テンプレートの形状は、対応して、複製されるポリマー加工物に複製される。しかしながら、テンプレートのナノ構造は、ナノ・サイズの構造が発生し始めるAlテンプレート(すなわち、40秒から480秒エッチングされたAlテンプレート)から、草様のナノ・サイズの繊維構造に複製されることが分かる。エッチング時間が増加するにつれて、反応温度が上昇し、ナノ・サイズの構造だけでなく、Al表面の階層構造も徐々に形成される。ポリマー複製手順の間に融解したポリマーを、テンプレート全体にわたって配置し、次いで冷却する。テンプレートからポリマー複製物を取り外すためにストリッピング法を用いる場合、ポリマーは延ばされ、取り除かれ、このようにして草様のナノ・サイズの繊維構造になる。
【0054】
(4)複製されたポリマー加工物の超疎水性の確認
ポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を測定することによって、複製されたポリマー加工物の表面が超疎水性を呈するかどうかを確認した。Florian Exlらによる文献「Proceedings of the XIVth International Symposium on High Voltage Engineering、2005、D−47」に開示された方法を測定方法として使用した。図8および9は、それぞれのポリマー加工物に関して、9つの異なる点で測定した平均接触角を例示する。
【0055】
図8は、HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す。表1および図9は、HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角(θs)、前進接触角(θa)、後退接触角(θr)、および接触角ヒステリシス(θa−θr)を例示するグラフの例示的実施形態を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
HDPEポリマー加工物が約150°の静止接触角および5°以下の接触角ヒステリシスを有する場合、このポリマー加工物は超疎水性表面を有するものとして見なすことができる。図8に示したように、30秒より長い時間エッチングされたAlテンプレートを用いてHDPEポリマー加工物を作製した場合、これが、超疎水性表面を有したことが分かる。さらに、超疎水性表面を有するHDPEポリマー加工物の場合、これは、平坦なHDPEポリマープレートに対して、約65%のθsの効果の向上を達成することができた。HDPEポリマー加工物の場合、超疎水性表面を有する複製物(30秒から60秒)において接触角ヒステリシスは3°以下であり、ゆえに複製物は紛れもなく超疎水性表面を有することが判定された。図8および9に例示された結果は、ポリマー表面の構造を変化させることによって階層構造が徐々に形成される場合、材料にかかわらず、超疎水性が高められることを示唆する。
【0058】
実験例1:複製された超疎水性ポリマー加工物の安定性の確認
超疎水性ポリマー加工物を実際に適用するために、ポリマー加工物の超疎水性は外部環境または混入物によって損傷しないように安定である必要がある。それゆえ、超疎水性ポリマー加工物が様々なpHを有する様々な溶媒および溶液中でその安定性を維持するかどうかを判定する実験を行った。
【0059】
最初に、様々な溶媒での超疎水性ポリマー加工物の安定性を試験するために、エッチング液中で60秒間エッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物をヘキサン、石油エーテル、トルエン、Cl−ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、THF、EtOH、アセトン、MeOH、および水中に5日間浸漬し、ポリマー加工物の表面形状を観察し、次いで接触角を測定した。
【0060】
HDPEポリマー加工物を様々な溶媒で処理した後、HDPEポリマー加工物の表面をFE−SEMを用いて分析し、HDPEポリマー加工物の処理表面と未処理表面との間に変化のないことが判明した。
【0061】
図10は、様々な溶媒を用いて処理されたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角の測定を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図10に示したように、様々な溶媒にさらされるHDPEポリマー加工物は、HDPEポリマー加工物が様々な溶媒で処理された場合でも、約160°の接触角を有する。したがって、ポリマー加工物の表面は、これを様々な溶媒で処理した場合でも変化せず、ゆえに安定な超疎水性特性を有する。
【0062】
次に、様々なpHの溶液中での超疎水性ポリマー加工物の安定性を試験するために、エッチング液中で60秒間エッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物を1から13のpHの溶液中に3日間浸漬し、次いでこれを水で数回浄化し、接触角を測定した。
【0063】
HDPEポリマー加工物を1から13のpHの溶液にさらした後、HDPEポリマー加工物の表面をFE−SEMを用いて分析し、HDPEポリマー加工物の処理表面と未処理表面との間に変化のないことが判明した。
【0064】
図11は、様々なpHを有する溶液にさらしたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角の測定を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図11に示したように、HDPEポリマー組成物を様々なpHを有する溶液に3日間さらした場合でも、水滴の接触角はほとんど変化しない。したがって、ポリマー加工物の表面は、これを様々なpHを有する溶媒で処理した場合でも変化せず、ゆえに安定な超疎水性特性を有する。
【0065】
実験例2:複製された超疎水性ポリマー加工物の自浄効果の確認
超疎水性表面は、それ自体によって混入物を除去することができる自浄効果を呈する。上述したように作製したポリマー加工物の表面が自浄効果を呈するかどうかを確認するために、HDPEポリマー加工物の表面上に活性炭を均一に置き、次いで注射器を用いて水滴を1滴ずつ表面上に滴下した。結果として、所定の角度(2°から5°)で傾けられたポリマー加工物の表面上で、活性炭は水滴によって除去された。上記手順をデジタル・カメラによって記録した。
【0066】
図12は、HDPEポリマー加工物の表面上に置かれた活性炭が水滴によって除去される手順の連続写真の例示的実施形態を示す。図12に示したように、実施例によって形成されたHDPEポリマー加工物の超疎水性表面は自浄効果を呈する。
【0067】
前述から、本開示の様々な実施形態が例示の目的のために本明細書に記載され、本開示の範囲および真意から逸脱することなく、様々な改変を行うことができることが理解されよう。それゆえ、本明細書に開示された様々な実施形態は、以下の特許請求の範囲によって示されている真の範囲および真意を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法の例示的実施形態の概略図である。
【図2】未処理のアルミニウム表面の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真の例示的実施形態を示す図である。
【図3】それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlの表面構造の変化を例示するFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図4】エッチング時間に対する反応温度の上昇を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図5】低温および高温で短時間エッチングされたAlの表面構造の写真の例示的実施形態を示す図である。
【図6】未処理の高密度ポリエチレン(HDPE)表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図7】それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物の表面変化のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図8】HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図9】HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角(θs)、前進接触角(θa)、後退接触角(θr)、および接触角ヒステリシス(θa−θr)を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図10】様々な溶媒で処理されたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図11】様々なpHを有する溶液にさらしたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図12】HDPEポリマー加工物の表面上に置かれた活性炭が水滴によって除去される手順の連続写真の例示的実施形態を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、超疎水性表面を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人々は、毎日、物体の表面に包囲され、さらされている。それゆえ、人々が頻繁に接触する表面上でどのような現象が起こるか、および生活をより快適にするために、これらの表面をどのように処理または作製するかに関して、広範な調査が行われてきた。超疎水性は、表面の物理的特性であり、それにより、表面が水に濡れることが極端に困難になる。例えば、植物の葉、昆虫の羽、または鳥類の翼は、あらゆる特定の除去プロセスを必要とすることなく、任意の外部混入物を除去することを可能にし、最初の段階で異物混入を防止する特性を有する。これが可能なのは、植物の葉、昆虫の羽、および鳥類の翼が超疎水性であるためである(W.BarthlootおよびC.Neinhuis、Planta、1997、202、1〜8頁を参照されたい)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超疎水性表面が施された物体は、防水、防汚損(dirt-proof)であることなどの特性を示すことができる。したがって、超疎水性表面を形成するための技術は、様々な産業分野で有用となり得る。しかしながら、人工超疎水性表面を形成するための方法は、現在まで技術的に不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
超疎水性の代表的な例は、ロータス効果(Lotus effect)を呈する植物葉の表面である。本開示では、超疎水性を呈する物体の表面を作り出すための方法として、ロータス効果を呈する植物葉の表面のようなバイオミメティック表面を物体が有するように技術を研究した。
【0005】
本開示は、とりわけ、超疎水性ポリマー加工物(superhydrophobic polymer fabrication)を作製するための方法、テンプレート、およびこの方法によって作製される超疎水性ポリマー加工物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
一実施形態において、超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法は、化学エッチングによってテンプレートの表面上にミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造を形成する工程、エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかけ、それによりエッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製することを可能にする工程、および複製されたポリマー加工物をエッチングされたテンプレートから取り外す工程を含む。
【0007】
その実用的な適用を可能にするためには、超疎水性表面は、以下の特性、すなわち、作製が簡単であること、安価であること、大きな面積にわたって生産できること、および様々な形状を有する任意の物体に適用できることを1つ以上包まなければならない。
【0008】
超疎水性表面が、上述した特性を1つ以上有するためには、超疎水性表面が上に形成される好適な材料を選択する必要がある。例えば、超疎水性表面が金属または硬い鉱石の表面上に形成される場合、作製手順は難しく、より高価であり、大きな面積にわたって行うことが困難であり、大量生産に適さないこととなり得る。例えば、金属または硬い鉱石の表面上に超疎水性表面を作製することが適度に簡単であっても、超疎水性表面を有する金属または硬い鉱石を他の物体上に塗布することは困難である。対照的に、超疎水性表面を有するポリマー加工物は、ポリマー加工物の成形容易性により、様々な形状を有する物体上に容易に塗布またはコーティングすることができる。さらに、ポリマー加工物は、取扱いが容易で、作製がより低価格であるという点において、利点を提供することになる。
【0009】
ポリマー加工物の表面上に超疎水性表面を形成するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、当該方法は、ポリマー加工物に超疎水性表面を複製するためのテンプレートを製作する工程、およびポリマー加工物上にテンプレートをインプリントする工程を含む。そのような方法は、テンプレートを繰り返し用いることによって、ポリマー加工物上に超疎水性表面を複製することができ、それゆえ、当該作製方法により、超疎水性ポリマー加工物の大量生産が可能になる。
【0010】
一実施形態において、超疎水性ポリマー加工物の表面上にミクロン・サイズのテラス構造が形成された超疎水性ポリマー加工物が提供される。さらに、ミクロン・サイズのテラス構造上にナノ・サイズの繊維構造が形成される。
【0011】
本明細書で用いられる「テラス構造」との用語は、基板の表面上に不規則に分布した無定形な小部分で形成された表面構造を一般に指す。
【0012】
本明細書で用いられる「繊維構造」との用語は、草のような形状をした無定形の繊維が基板の表面上に形成された表面構造を一般に指す。
【0013】
本明細書で用いられる「ミクロン・サイズの」との用語は、限定されないが、1から数千マイクロメートルとして解釈することができる。
【0014】
本明細書で用いられる「ナノ・サイズの」との用語は、限定されないが、1から数千ナノメートルとして解釈することができる。
【0015】
表面上にミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの繊維構造を有する超疎水性ポリマー加工物を作製するために、テンプレートを用いて、インプリントにより、ポリマー加工物の表面上にそのような構造を形成させることができる。
【0016】
テンプレートの構造は、作製される超疎水性ポリマー加工物の超疎水性表面に対応する。それゆえ、テンプレートは、その表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造を有することができる。ミクロン・サイズのテラス構造上に、ナノ・サイズの溝構造を形成することができる。「溝構造」との用語は、化学エッチングによって凹部が作製された表面構造を一般に指し、これは繊維構造に対応する。
【0017】
ロータス効果を呈する植物の葉において観察されるミクロン・サイズの突起構造は、比較的規則的であり、一定の形態を示す。フォトリソグラフィーなどのエッチング方法を用いて、バイオミメティック表面を加工するためのテンプレートを作ることができる。バイオミメティック表面(biomimetic surface)は、規則的で一定の形態の突起構造を有することができる。しかしながら、フォトリソグラフィーを用いる場合、表面処理面積に限度があり、フォトリソグラフィーによって形成される表面のプロファイルを制御することが困難であり、特に、バイオミメティック階層表面を形成することが技術的に非常に複雑で困難である。
【0018】
規則的で一定の形態の突起構造は、超疎水性を得るために必ずしも必要ではない。これは、規則的で一定の形態の突起構造が形成されていない場合でも、ミクロン・サイズの隆起構造上に存在するナノ・サイズの繊維構造により、空中を浮遊する水分子と同じ効果を達成することができるためである。それゆえ、ミクロン・サイズの隆起構造は、規則的である必要も、一定の形態である必要もない。
【0019】
したがって、先に述べた生物体のミクロン・サイズの隆起構造をバイオミメティック的に実行するため、本開示の一実施形態において、規則的で一定の形態の隆起構造を形成する代わりに、テンプレートを化学的にエッチングすることによってミクロン・サイズのテラス構造を形成する。それゆえ、規則的で一定の形態の隆起構造を形成するためのテンプレートの作製に関連する複雑な手順が回避される。
【0020】
テンプレートが化学的にエッチングされる場合、別途の複雑な手順を必要とすることなく、ミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造がテンプレートの表面上に形成される。
【0021】
テンプレートが化学的にエッチングされる場合、材料により、ミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造をテンプレートの表面上に形成することが可能となる限り、任意の好適な材料を用いて、超疎水性表面ポリマー加工物を作製するためのテンプレートを形成することができる。さらに、以下の特徴、すなわち、取扱いが容易である、比較的安価である、ならびにテラス構造および溝構造が合わさった階層構造の形成が容易になることを1つ以上呈する材料を用いることは、さらに有利になり得る。
【0022】
一実施形態において、テンプレートは、金属で形成することができる。金属テンプレートの場合、化学エッチングを短時間で容易に実施することができ、階層構造を容易に形成することができる。例示であって限定するものではないが、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、タングステンまたはその合金などの任意の金属をテンプレートを形成するのに用いることができる。テンプレートを形成するための金属は、取扱いが容易であり、軽量であり、表面処理を容易にし、安価であり、作製プロセスの間にインプリントが繰り返し行われる場合でも、高い耐摩耗性を有しなければならない。例えば、アルミニウムを用いることができるが、その理由は、これが非常に軽く、満足な耐摩耗性を有し、比較的安価であり、化学エッチング時にバイオミメティック階層構造を明瞭に形成させるためである。
【0023】
一実施形態において、好適なエッチング液を使用する化学エッチングを用いて、テンプレートの表面上にテラス構造および溝構造を形成することができる。エッチング液は、テラス形状の組織(texture)を表面上に形成できるものであることができる。エッチング液は、以下の溶液、すなわち、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2CrO4、HCl、HF、NH4OH、NaOH、KOHなどのうちの少なくとも1種の混合物を含むことができる。エッチング液は、テンプレートを形成するために用いられる材料の種類によって変更してもよい。金属に対して用いることのできるエッチング液の組成は、「Vander Voort、G.F.、「Metallography:Principles and Practice」、McGraw−Hill、New York、1984」に例証されており、その全体を参照により本明細書に取り入れる。例えば、Alをエッチングするためのエッチング液には、HCl、HNO3、およびHF(50:47:3)の混合物、無水酢酸と過塩素酸(2:1)との混合物、メタノール、HNO3、HCl、HF、および水(50:50:32:2:50)の混合物、HCl、水、およびHF(80:25:5)の混合物などを挙げることができ、Cuをエッチングするためのエッチング液として、FeCl3、HCl、酢酸、およびBr2(20:20:5:2)の混合物、H3PO4と水(60:40)との混合物、NH4OH中の過硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウム(70:0.5)の混合物などを挙げることができる。
【0024】
例えば、塩化水素(HCl)およびフッ化水素(HF)を含むエッチング液をアルミニウムに対するエッチング液として用いる場合、HClは、アルミニウムを直接エッチングするように作用し、HFは、FeまたはSiなどのアルミニウム中に含有する少量の不純物を除去するように作用して、HClがテンプレートの表面を均一にエッチングするのを助ける。テンプレートを形成する材料が変更される場合、そのような作用を実施するためのエッチング液の成分をそれに応じて変更することができる。
【0025】
一実施形態において、テンプレートのテラス構造および溝構造の形成は、エッチングの温度および持続時間を調節することによって制御することができる。例えば、金属をテンプレートとしてエッチングする場合、ミクロン・サイズのテラス構造を0℃から室温の範囲の低温で形成することができる。金属とエッチング液との間の発熱反応により、反応温度が経時的に上昇し、これにより、ナノ・サイズの溝構造を60℃から100℃の範囲の高温で形成することが可能になる。したがって、温度またはエッチング時間を適切に調節して、テンプレートの表面上に所望の階層構造を形成することができる。エッチングが行われる温度は、例えば0℃から100℃の範囲内で調節することができ、エッチングが実施される時間は、例えば、1秒から10分の範囲内で調節することができる。
【0026】
このようにして、化学エッチングによりテンプレートの表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造および該テラス構造内のナノ・サイズの溝構造を有するテンプレートを用いて、バイオミメティック表面を有する超疎水性ポリマー加工物を形成することができる。
【0027】
この目的のために、エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかける工程、エッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製する工程、およびテンプレートから複製されたポリマー加工物を取り外す工程を含む手順を行うことができる。
【0028】
ポリマー加工物をインプリントするためのテンプレートは、任意の形状を有することができる。テンプレートの形状は、作製されるポリマー加工物の所望の形状によって変更することができる。例えば、テンプレートは、限定することなく、プレートまたは円柱のような形状にすることができる。ポリマー加工物がプレート形状を有するテンプレートから複製される場合、プレートの形状を適切に設定することによって、所望の外部形状を有するポリマー加工物を作ることができる。さらに、ポリマー加工物が円柱形状を有するテンプレートから複製される場合、例えば、ロール・ツー・ロール・プロセスを適用して、大きな面積にわたるポリマー加工物の大量生産を行うことができる。
【0029】
上述した方法によってテンプレートから複製されるポリマー加工物は、ポリマー加工物の表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造上にナノ・サイズの繊維構造を有することができる。化学エッチングにより凹部が作製されたミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの溝構造を有するテンプレートの表面がポリマー表面上にインプリントされる場合、ポリマー加工物の表面は、反対方向に突起するミクロン・サイズのテラス構造およびナノ・サイズの繊維構造を有する。
【0030】
テンプレートからポリマー加工物の表面への複製が容易かつ正確に行われることを可能にし、得られる構造が無傷のままであることを可能にする特性を有するポリマーを用いることが有利である。可撓性で、適正な強度を有する限り、任意のポリマーを用いることができる。
【0031】
一実施形態において、ポリマーは熱可塑性ポリマーである。熱可塑性ポリマーは、加熱されると塑性変形するが、冷却されると可逆的に堅くなるポリマーである。テンプレートを複製するために熱可塑性ポリマーを用いる場合、ポリマーは熱および圧力によって可撓性となり、ゆえに、テンプレート上に凹部が作製された構造などの構造を複製することが容易である。冷却によってポリマーが堅くなり、次いでテンプレートから取り除いたとき、複製によって形成された構造は維持され得る。
【0032】
熱可塑性ポリマーには、限定するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)を含めたポリエステル、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)を含めたポリアルキレン、ポリ塩化ビニル(PVC)を含めたビニルポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含めたポリアクリレート、ポリカルボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、ハロゲン化ポリアルキレン、ポリアリーレンオキシド、ならびにポリアリーレンスルフィドが含まれてもよい。
【0033】
上記方法によって作製される超疎水性ポリマー加工物は、大きな面積にわたって迅速かつ容易に大量生産することができる。超疎水性ポリマー加工物は、超疎水性を必要とする任意の分野に適用することができる。例えば、水による損害の防止、異物混入の防止または遮断などの用途に広く適用することができる。超疎水性ポリマー加工物は、限定するものではないが、コーティングまたは塗布することによって、防水、防汚損、凍結防止、曇り防止(anti-fogging)、または自浄性(self-cleaning)であることなどの特性を提供することができる。例えば、超疎水性ポリマー加工物は、異物混入を遮断し自動車が蒸気で曇るのを防止するために車体上にコーティングする、船がめば土で覆われるのを防止するために船底上にコーティングする、雪または氷の形成を防止するために大きなサイズのアンテナの表面上にコーティングする、腐食および異物混入を防止し水の流動性を高めるために水輸送管の内部表面上にコーティングする、あるいは温室内の撥水システムに塗布することができる。
【0034】
以下に、超疎水性ポリマー加工物を作製する方法を特定の実施例について説明する。さらに、実施例の方法を通じて作製されたポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を測定することによって、ポリマー加工物表面が超疎水性を呈するかどうかを判定するための実験を開示する。実験結果は、階層構造を有するポリマー加工物の表面が良好な超疎水性を呈することを示している。
【0035】
さらに、以下の実験例は、様々なpHを有する様々な溶媒および溶液中でのポリマー加工物表面の安定性および自浄効果を例示する。
【0036】
本開示は、ポリマー加工物上にバイオミメティック超疎水性表面を簡単かつ容易な様式で形成するための方法を提供する。当該方法によれば、超疎水性ポリマー加工物を迅速かつ容易に作製することができ、超疎水性表面をテンプレートを用いて繰り返しインプリントすることができ、ゆえに、大きな面積にわたる超疎水性ポリマー加工物の大量生産を経済的に行うことができる。さらに、当該方法によって形成される超疎水性ポリマー加工物は、様々なpHの様々な溶液および溶媒中で表面構造を変化させることなく超疎水性を維持し、良好な自浄効果を有する。
【0037】
本開示は、詳細に説明される以下の実施例からさらに明瞭にされるであろう。しかしながら、本開示は、それに限定されるものではなく、他に様々に具体化し、実施することができると理解されるべきである。
【0038】
当業者は、本明細書で開示される本プロセスおよび方法および他のプロセスおよび方法について、当該プロセスおよび方法において遂行される機能は異なる順序で行うことができることを理解するであろう。さらに、概略の工程および操作は例示としてのみ提供され、いくつかの工程および操作は、本開示の本質から逸脱することなく、任意選択によるものとするか、より少ない工程および操作に集約するか、あるいは拡張して追加の工程および操作を含めることができる。
【実施例】
【0039】
超疎水性ポリマー加工物の作製
図1は、超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法の例示的実施例の概略図である。図1に示したように、Alプレートをエッチングして、階層構造を有するアルミニウム・テンプレートを形成する。次いで、テンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかける。次いで、テンプレートからポリマー加工物を複製して、超疎水性ポリマー加工物を作製する。
【0040】
(1)アルミニウム・テンプレートの作製およびテンプレートの表面構造変化の分析
超疎水性ポリマー加工物を作製するためのテンプレートとして、アルミニウム(Al)プレートを用いた。
【0041】
市販のAlプレート(99.0%、2×3×0.3cm)をHClおよびHF(HCl:HF:H2O=40ml:2.4ml:12.5ml)を含むエッチング液中に浸漬し、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒、120秒、240秒、480秒のそれぞれについて、室温でエッチングを行った。エッチング後、プレートを水で数回浄化し、N2ガスで乾燥させ、次いで保管した。
【0042】
FE−SEM(日立、s−4300)を用いて、Alプレートの表面を分析した。
【0043】
図2は、未処理のアルミニウム表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。アルミニウムは、表面全体にわたって滑らかな構造を有していないが、アルミニウムは実質的に平坦な構造を有していることが分かる。
【0044】
図3は、それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlの表面構造の変化を例示するFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。図3に示したように、短時間エッチングされたAlの表面はミクロン・サイズのテラス構造を有する。しかしながら、初期段階で形成されたミクロン・サイズのテラス構造は、エッチング時間が徐々に増加すると変形することが分かる。ナノ・サイズの溝構造がミクロン・サイズのテラス構造の表面上に形成され、ゆえに階層構造が徐々に増大する。
【0045】
(2)アルミニウム・テンプレート表面の構造変化と温度との間の相関の分析
エッチング液は、Al表面に露出した欠陥およびAl結晶の不完全な部分を最初に攻撃することによって、エッチングを行う。これにより、エッチング時間にかかわらず、ほとんど同様の構造を有するAl表面になるはずであるが、図3によって例示したように、Alの表面構造はエッチング時間によって変化する。エッチング時間の増加によってミクロン・サイズの構造がナノ・サイズの構造に変形される理由を判定するために、温度と構造変化との間の相関の分析を行った。
【0046】
図4は、エッチング時間に対する反応温度の上昇を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図4に示したように、最初のエッチングは室温で開始し、反応温度はエッチング時間が増加するにつれて最高約100℃まで上昇する。エッチング反応は室温では活発に行われないゆえに、ミクロン・サイズの構造が生成し、次いで、エッチング時間の経過につれて反応温度が上昇することによってエッチング反応が活発に行われるゆえに、より小さなサイズにより活発にエッチングされ、それによりAl表面上でナノ・サイズの構造になると仮定することができる。
【0047】
そのような仮定に基づき、反応温度を調節することによって構造変化を観察した。図5は、それぞれ、低温および高温で短時間エッチングされたAlの表面構造の写真の例示的実施形態を示す。図5に示したように、Alを低温で短時間エッチングした場合にはミクロン・サイズの構造が得られ、Alを高温で短時間エッチングした場合には、ナノ・サイズの構造が得られる。実験結果により、高い反応温度(約70℃以上)で短時間(1秒から10秒)エッチングを行った場合には、ミクロン・サイズの構造のないナノ・サイズの構造を得ることができたが、低温(約0℃)で長時間(約30秒以上)エッチングを行った場合でも、ナノ・サイズの構造を生じることなく、ミクロン・サイズの構造が維持されたことが確認された。さらに、ミクロン・サイズの構造が既に形成されたAlテンプレート上に高温(約70℃)で短時間(5秒から10秒)エッチングを行った場合には、ナノ・サイズの構造が形成され、そのようなナノ・サイズの構造を有するAlテンプレート上に低温(約10℃)でエッチングを行った場合には、ミクロン・サイズの構造が再び形成されたことが示された。上述した手順を繰り返し行った場合でも、同じ現象が観察されたことが確認された。したがって、ミクロン・サイズの構造またはナノ・サイズの構造の形成は、温度またはエッチング時間を調節することによって制御することができる。
【0048】
さらに、エッチング液の成分がどのようにAlのエッチングに影響するかを判定するための実験を行った。実験により、HClはAlを直接エッチングしたが、HClのみがAlをエッチングする場合には、Alの面積全体にわたって均一にエッチングを行うことができなかったことが示された。しかしながら、HFのみでエッチングを行った場合、Alはほとんどエッチングされなかった。Alプレートの場合、少量のFeおよびSiがAlと均一に混合されている。それゆえ、HFがそのような不純物を除去して、HClがAl表面を均一にエッチングすることの助けになることが確認された。
【0049】
(3)ポリマー加工物の作製およびポリマー加工物表面の構造変化の分析
上述したように製造したAlテンプレートを用いて、熱および圧力を用いる方法により、約20分間、HDPEのポリマー複製を行った。HDPEの場合、約150℃でポリマー複製を行い、次いでこれを室温に冷却し、ストリッピング法(stripping method)によってテンプレートを複製物から取り除いた。
【0050】
FE−SEM(日立、s−4300)を用いて、ポリマー複製物の表面を分析した。
【0051】
図6は、未処理のHDPE表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。表面全体にわたって表面はほとんど平坦であることが分かる。
【0052】
図7は、それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物の表面変化のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す。
【0053】
図7に示したように、テラス様ミクロン・サイズの構造が形成されているAlテンプレート(すなわち、10秒から30秒間エッチングされたAlテンプレート)が用いられる場合、テンプレートの形状は、対応して、複製されるポリマー加工物に複製される。しかしながら、テンプレートのナノ構造は、ナノ・サイズの構造が発生し始めるAlテンプレート(すなわち、40秒から480秒エッチングされたAlテンプレート)から、草様のナノ・サイズの繊維構造に複製されることが分かる。エッチング時間が増加するにつれて、反応温度が上昇し、ナノ・サイズの構造だけでなく、Al表面の階層構造も徐々に形成される。ポリマー複製手順の間に融解したポリマーを、テンプレート全体にわたって配置し、次いで冷却する。テンプレートからポリマー複製物を取り外すためにストリッピング法を用いる場合、ポリマーは延ばされ、取り除かれ、このようにして草様のナノ・サイズの繊維構造になる。
【0054】
(4)複製されたポリマー加工物の超疎水性の確認
ポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を測定することによって、複製されたポリマー加工物の表面が超疎水性を呈するかどうかを確認した。Florian Exlらによる文献「Proceedings of the XIVth International Symposium on High Voltage Engineering、2005、D−47」に開示された方法を測定方法として使用した。図8および9は、それぞれのポリマー加工物に関して、9つの異なる点で測定した平均接触角を例示する。
【0055】
図8は、HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す。表1および図9は、HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角(θs)、前進接触角(θa)、後退接触角(θr)、および接触角ヒステリシス(θa−θr)を例示するグラフの例示的実施形態を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
HDPEポリマー加工物が約150°の静止接触角および5°以下の接触角ヒステリシスを有する場合、このポリマー加工物は超疎水性表面を有するものとして見なすことができる。図8に示したように、30秒より長い時間エッチングされたAlテンプレートを用いてHDPEポリマー加工物を作製した場合、これが、超疎水性表面を有したことが分かる。さらに、超疎水性表面を有するHDPEポリマー加工物の場合、これは、平坦なHDPEポリマープレートに対して、約65%のθsの効果の向上を達成することができた。HDPEポリマー加工物の場合、超疎水性表面を有する複製物(30秒から60秒)において接触角ヒステリシスは3°以下であり、ゆえに複製物は紛れもなく超疎水性表面を有することが判定された。図8および9に例示された結果は、ポリマー表面の構造を変化させることによって階層構造が徐々に形成される場合、材料にかかわらず、超疎水性が高められることを示唆する。
【0058】
実験例1:複製された超疎水性ポリマー加工物の安定性の確認
超疎水性ポリマー加工物を実際に適用するために、ポリマー加工物の超疎水性は外部環境または混入物によって損傷しないように安定である必要がある。それゆえ、超疎水性ポリマー加工物が様々なpHを有する様々な溶媒および溶液中でその安定性を維持するかどうかを判定する実験を行った。
【0059】
最初に、様々な溶媒での超疎水性ポリマー加工物の安定性を試験するために、エッチング液中で60秒間エッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物をヘキサン、石油エーテル、トルエン、Cl−ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、THF、EtOH、アセトン、MeOH、および水中に5日間浸漬し、ポリマー加工物の表面形状を観察し、次いで接触角を測定した。
【0060】
HDPEポリマー加工物を様々な溶媒で処理した後、HDPEポリマー加工物の表面をFE−SEMを用いて分析し、HDPEポリマー加工物の処理表面と未処理表面との間に変化のないことが判明した。
【0061】
図10は、様々な溶媒を用いて処理されたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角の測定を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図10に示したように、様々な溶媒にさらされるHDPEポリマー加工物は、HDPEポリマー加工物が様々な溶媒で処理された場合でも、約160°の接触角を有する。したがって、ポリマー加工物の表面は、これを様々な溶媒で処理した場合でも変化せず、ゆえに安定な超疎水性特性を有する。
【0062】
次に、様々なpHの溶液中での超疎水性ポリマー加工物の安定性を試験するために、エッチング液中で60秒間エッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物を1から13のpHの溶液中に3日間浸漬し、次いでこれを水で数回浄化し、接触角を測定した。
【0063】
HDPEポリマー加工物を1から13のpHの溶液にさらした後、HDPEポリマー加工物の表面をFE−SEMを用いて分析し、HDPEポリマー加工物の処理表面と未処理表面との間に変化のないことが判明した。
【0064】
図11は、様々なpHを有する溶液にさらしたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角の測定を例示するグラフの例示的実施形態を示す。図11に示したように、HDPEポリマー組成物を様々なpHを有する溶液に3日間さらした場合でも、水滴の接触角はほとんど変化しない。したがって、ポリマー加工物の表面は、これを様々なpHを有する溶媒で処理した場合でも変化せず、ゆえに安定な超疎水性特性を有する。
【0065】
実験例2:複製された超疎水性ポリマー加工物の自浄効果の確認
超疎水性表面は、それ自体によって混入物を除去することができる自浄効果を呈する。上述したように作製したポリマー加工物の表面が自浄効果を呈するかどうかを確認するために、HDPEポリマー加工物の表面上に活性炭を均一に置き、次いで注射器を用いて水滴を1滴ずつ表面上に滴下した。結果として、所定の角度(2°から5°)で傾けられたポリマー加工物の表面上で、活性炭は水滴によって除去された。上記手順をデジタル・カメラによって記録した。
【0066】
図12は、HDPEポリマー加工物の表面上に置かれた活性炭が水滴によって除去される手順の連続写真の例示的実施形態を示す。図12に示したように、実施例によって形成されたHDPEポリマー加工物の超疎水性表面は自浄効果を呈する。
【0067】
前述から、本開示の様々な実施形態が例示の目的のために本明細書に記載され、本開示の範囲および真意から逸脱することなく、様々な改変を行うことができることが理解されよう。それゆえ、本明細書に開示された様々な実施形態は、以下の特許請求の範囲によって示されている真の範囲および真意を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法の例示的実施形態の概略図である。
【図2】未処理のアルミニウム表面の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真の例示的実施形態を示す図である。
【図3】それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlの表面構造の変化を例示するFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図4】エッチング時間に対する反応温度の上昇を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図5】低温および高温で短時間エッチングされたAlの表面構造の写真の例示的実施形態を示す図である。
【図6】未処理の高密度ポリエチレン(HDPE)表面のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図7】それぞれの時間について、エッチング液によってエッチングされたAlテンプレートを用いて形成したHDPEポリマー加工物の表面変化のFE−SEM写真の例示的実施形態を示す図である。
【図8】HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図9】HDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の静止接触角(θs)、前進接触角(θa)、後退接触角(θr)、および接触角ヒステリシス(θa−θr)を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図10】様々な溶媒で処理されたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図11】様々なpHを有する溶液にさらしたHDPEポリマー加工物の表面に対する水滴の接触角を例示するグラフの例示的実施形態を示す図である。
【図12】HDPEポリマー加工物の表面上に置かれた活性炭が水滴によって除去される手順の連続写真の例示的実施形態を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超疎水性ポリマー加工物であって、前記ポリマー加工物の表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内に形成されたナノ・サイズの繊維構造を含む超疎水性ポリマー加工物。
【請求項2】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の超疎水性ポリマー加工物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリエチレンナフタレート(PEN)を含めたポリエステル、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)を含めたポリアルキレン、ポリ塩化ビニル(PVC)を含めたビニルポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含めたポリアクリレート、ポリカルボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、ハロゲン化ポリアルキレン、ポリアリーレンオキシド、ならびにポリアリーレンスルフィドからなる群から選択される、請求項2に記載の超疎水性ポリマー加工物。
【請求項4】
化学的にエッチングされたテンプレートであって、
前記テンプレートの表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造、および
前記テラス構造内に形成されたナノ・サイズの溝構造を含むテンプレート。
【請求項5】
前記テンプレートが金属で形成される、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項6】
前記金属が、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、タングステン、およびそれらの合金からなる群から選択される、請求項5に記載のテンプレート。
【請求項7】
前記テンプレートの表面上に形成された前記テラス構造および前記溝構造が、エッチング液によって化学的にエッチングされる、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項8】
前記エッチング液が、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2CrO4、HCl、HF、NH4OH、NaOH、およびKOHからなる群から選択される少なくとも1種の溶液の混合物を含む、請求項7に記載のテンプレート。
【請求項9】
前記テラス構造および前記溝構造の形成が、温度または時間を調節することによって制御される、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項10】
前記温度が0℃から100℃の範囲である、請求項9に記載のテンプレート。
【請求項11】
前記時間が1秒から10分の範囲である、請求項9に記載のテンプレート。
【請求項12】
前記テンプレートがプレート形状または円柱形状を有する、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項13】
超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法であって、
化学エッチングによって、テンプレートの表面上にミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内にナノ・サイズの溝構造を形成する工程、
前記エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかけて、前記エッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製する工程、および
前記複製されたポリマー加工物を前記テンプレートから取り外す工程を含む方法。
【請求項14】
前記ミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内の前記ナノ・サイズの繊維構造が、超疎水性ポリマー加工物の表面上に形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項1】
超疎水性ポリマー加工物であって、前記ポリマー加工物の表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内に形成されたナノ・サイズの繊維構造を含む超疎水性ポリマー加工物。
【請求項2】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の超疎水性ポリマー加工物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリエチレンナフタレート(PEN)を含めたポリエステル、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)を含めたポリアルキレン、ポリ塩化ビニル(PVC)を含めたビニルポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含めたポリアクリレート、ポリカルボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、ハロゲン化ポリアルキレン、ポリアリーレンオキシド、ならびにポリアリーレンスルフィドからなる群から選択される、請求項2に記載の超疎水性ポリマー加工物。
【請求項4】
化学的にエッチングされたテンプレートであって、
前記テンプレートの表面上に形成されたミクロン・サイズのテラス構造、および
前記テラス構造内に形成されたナノ・サイズの溝構造を含むテンプレート。
【請求項5】
前記テンプレートが金属で形成される、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項6】
前記金属が、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、タングステン、およびそれらの合金からなる群から選択される、請求項5に記載のテンプレート。
【請求項7】
前記テンプレートの表面上に形成された前記テラス構造および前記溝構造が、エッチング液によって化学的にエッチングされる、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項8】
前記エッチング液が、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2CrO4、HCl、HF、NH4OH、NaOH、およびKOHからなる群から選択される少なくとも1種の溶液の混合物を含む、請求項7に記載のテンプレート。
【請求項9】
前記テラス構造および前記溝構造の形成が、温度または時間を調節することによって制御される、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項10】
前記温度が0℃から100℃の範囲である、請求項9に記載のテンプレート。
【請求項11】
前記時間が1秒から10分の範囲である、請求項9に記載のテンプレート。
【請求項12】
前記テンプレートがプレート形状または円柱形状を有する、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項13】
超疎水性ポリマー加工物を作製するための方法であって、
化学エッチングによって、テンプレートの表面上にミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内にナノ・サイズの溝構造を形成する工程、
前記エッチングされたテンプレート上に配置されたポリマーに熱および圧力をかけて、前記エッチングされたテンプレートからポリマー加工物を複製する工程、および
前記複製されたポリマー加工物を前記テンプレートから取り外す工程を含む方法。
【請求項14】
前記ミクロン・サイズのテラス構造および前記テラス構造内の前記ナノ・サイズの繊維構造が、超疎水性ポリマー加工物の表面上に形成される、請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−234249(P2009−234249A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−240313(P2008−240313)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240313(P2008−240313)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]