説明

超薄切片試料作製方法および超薄切片試料作製装置

【課題】超薄切片試料を作製するための作業を簡単化でき、超薄切片試料を短時間で効率よく作製することができる超薄切片試料作製方法および超薄切片試料作製装置を提供すること。
【解決手段】標本Pと標本ホルダ11を冷媒Fに浸漬して冷却する。そして、冷媒F中から標本Pと標本ホルダ11を取り出して、標本Pを標本ホルダ11に当接させ、その当接部分に液体Wを滴下する。そして、標本ホルダ11と標本Pの冷熱により液体Wを凍結させて、標本Pを標本ホルダ11に固定する。これにより、標本Pを標本ホルダ11に簡便かつ強固に保持させることができる。また、標本Pを冷媒F中に浸漬して冷却するので、標本Pを十分に冷却でき、完全に凍結硬化させることができ、標本Pの薄切りが容易であり、平滑な切断面を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本ブロックを薄切りして電子顕微鏡用の超薄切片試料を作製する超薄切片試料作製方法および超薄切片試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷却チャンバ内にミクロトームを収容して、冷却チャンバ内で標本を凍結させたまま薄切りして超薄切片試料を作成するクライオスタットミクロトームが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
クライオスタットミクロトームは、冷媒の流入によって冷却可能な所定の室内空間を有する冷却チャンバと、冷却チャンバ内に切断すべき標本を保持する標本ホルダと、標本ホルダに対して相対的に移動するカッタホルダと、カッタホルダに装着されて標本ホルダとカッタホルダとの相対的な移動によって標本を薄切りするカッタを有している。
【0004】
そして、冷却チャンバ内を冷却し、冷却チャンバ内で標本ホルダに保持された標本を凍結硬化させ、標本ホルダとカッタホルダとを相対的に移動させて、カッタで標本を薄切りし、例えば電子顕微鏡用の超薄切片試料を作製するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−71841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のクライオスタットミクロトームでは、冷却チャンバ内に液体窒素ガスを流入させて、冷却チャンバ内の温度を極低温まで低下させ、冷却チャンバ内の標本を冷却し、凍結させた極低温の環境下で切断を行っている。
【0007】
このような従来方法の場合、冷却チャンバ内の室内空間全体を冷却する必要があり、冷却する体積が大きいことから、例えば一般的な装置では約3時間程度の冷却時間が必要とされ、冷却時間が長くかかるという問題がある。
【0008】
そして、冷却チャンバ内の室内空間を冷却して間接的に標本を冷却しているので、標本の冷却効率が悪く、標本が完全に冷却されずに凍結硬化が不十分となるおそれがある。例えば、標本の凍結硬化が不十分の場合には、薄切りが困難であり、所定の厚さの超薄切片を得ることができないという問題や、切断中に標本ブロックが弾性変形して切断面の面形状が粗く乱れるという問題が発生する。
【0009】
また、切断中に標本が動いてしまうのを防ぐために、標本を標本ホルダに確実に固定する必要があり、従来は、ねじやボルトナット等の締結手段によって固定していた。従って、標本の標本ホルダへの取り付けおよび取り外し作業が煩雑で時間がかかり、使い勝手がよくなかった。
【0010】
また、標本を他の標本に取り替える場合には、冷却チャンバ内の温度を極低温から常温に戻した後で取り替え作業を行う必要がある。例えば一般的な装置では約3時間程度の解凍時間が必要とされ、次の超薄切片試料の作製に取り掛かるための待ち時間が長いという問題がある。従って、従来の装置および方法は、作業効率が悪く、より多くの超薄切片試料を作製することはできなかった。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、超薄切片試料を作製するための作業を簡単化でき、超薄切片試料を短時間で効率よく作製することができる超薄切片試料作製方法および超薄切片試料作製装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の超薄切片試料作製方法は、標本を冷却した状態で薄切りして超薄切片試料を作製する超薄切片試料作製方法であって、標本と、標本を保持するための標本ホルダとを冷媒に浸漬して冷却する工程と、冷媒中から標本ホルダと標本を取り出して、標本ホルダに標本を当接させ、その当接部に液体を滴下し、標本ホルダと標本の冷熱により液体を凍結させて、標本を標本ホルダに固定する工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
上記課題を解決する本発明の超薄切片試料作製方法によれば、標本ホルダと標本を冷媒に浸漬して冷却し、標本ホルダと標本を冷媒から取り出して標本ホルダと標本との間に液体を滴下し、標本ホルダと標本の冷熱により液体を凍結させて、標本を標本ホルダに固定するので、標本を標本ホルダに簡便かつ強固に保持させることができる。
【0014】
そして、例えば試料作製後に流水を掛ける、あるいは水槽の常温水に浸漬する等によって極低温から常温に迅速に戻すことができ、標本ホルダから標本を簡単に取り外すことができる。
【0015】
また、従来のように、チャンバ内の温度が常温から極低温となるまで待つ必要がなく、同様に、極低温から常温となるまで待つ必要がないので、チャンバ内を冷却する冷却時間とチャンバ内を常温にする解凍時間を削減できる。従って、従来と比較して、標本の標本ホルダへの取り付けおよび取り外し作業が容易であり、作業効率が非常によく、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。また、従来のようにチャンバ内全体を冷却する必要がないので、冷媒の使用量も少なくすることができる。
【0016】
また、本発明によれば、標本を冷媒中に浸漬して冷却するので、標本を十分に冷却でき、完全に凍結硬化させることができる。したがって、標本の薄切りが容易であり、平滑な切断面を得ることができる。
【0017】
本発明の超薄切片試料作製方法は、標本が固定された標本ホルダに、冷媒の貯留された冷却手段を取り付けて、冷媒の冷熱により標本ホルダと標本を直接または間接的に冷却した状態で標本を薄切りする工程を含むことを特徴としている。
【0018】
本発明の超薄切片試料作製方法によれば、標本が固定された標本ホルダに、冷媒の貯留された冷却手段を取り付けて、冷媒の冷熱により標本ホルダと標本を直接または間接的に冷却した状態で標本を薄切りするので、標本ホルダと標本を継続して冷却することができ、冷却状態を長時間に亘って維持することができる。従って、適切な微小厚さの超薄切片試料を複数作製することができ、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【0019】
上記課題を解決する本発明の超薄切片試料作製装置は、標本ホルダに保持された標本を冷却した状態で薄切りして超薄切片試料を作製する超薄切片試料作製装置であって、標本ホルダは、装置本体に着脱可能に設けられ、装置本体から取り外された状態で予め冷媒に浸漬されて冷却され、冷媒から取り出されて標本との当接部に液体が滴下され、液体の凍結によって標本が接着固定される構成を有することを特徴としている。
【0020】
本発明の超薄切片試料作製装置によれば、標本ホルダは、装置本体に着脱可能に設けられ、装置本体から取り外された状態で予め冷媒に浸漬されて冷却され、冷媒から取り出されて標本との当接部に液体が滴下され、液体の凍結によって標本が接着固定される構成を有するので、簡便かつ強固に標本を保持することができる。
【0021】
そして、標本ホルダを装置本体から取り外して、例えば標本ホルダに流水を掛ける、あるいは水槽の常温水に標本ホルダを浸漬する等によって極低温から常温に迅速に戻すことができ、標本ホルダから標本を簡単に取り外すことができる。
【0022】
また、従来のように、チャンバ内の温度が常温から極低温となるまで待つ必要がなく、同様に、極低温から常温となるまで待つ必要がないので、チャンバ内を冷却する冷却時間とチャンバ内を常温にする解凍時間を削減できる。従って、従来と比較して、標本の標本ホルダへの取り付けおよび取り外し作業が容易であり、作業効率が非常によく、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【0023】
本発明の超薄切片試料作製装置によれば、標本ホルダに着脱可能に取り付けられ、冷媒を貯留して冷媒の冷熱により標本ホルダと標本を直接または間接的に冷却する冷却手段を有するので、標本ホルダと標本を継続的に冷却することができ、冷却状態を長時間に亘って維持することができる。従って、適切な微小厚さの超薄切片試料を複数作製することができ、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【0024】
本発明の超薄切片試料作製装置では、標本ホルダは、装置本体に基端が保持されて略水平に延在し、先端に標本ホルダが取り付けられる棒形状を有し、冷却手段は、冷媒を貯留可能な上部開放された冷媒容器と、冷媒容器から上方に延出して標本ホルダに引っ掛けることにより冷媒容器を標本ホルダの下に吊り下げ可能な吊り下げ部とを有することが好ましい。
【0025】
本発明の超薄切片試料作製装置によれば、冷媒容器を標本ホルダの下に吊り下げて配置できるので、冷媒容器の上方から放出される冷媒の冷熱によって、標本ホルダと標本を間接的に冷却することができる。
【0026】
本発明の超薄切片試料作製装置によれば、標本ホルダに掛けられて垂下し、下端部が冷媒容器の上方から冷媒容器内に挿入されて、冷媒容器内の冷媒に浸漬され、冷媒の冷熱を標本ホルダに伝達する冷熱伝達手段を有するので、冷媒の冷熱を標本ホルダに直接伝達することができる。従って、標本ホルダを積極的に冷却することができ、標本を間接的に冷却し、冷却状態を長時間に亘って維持することができる。従って、標本を所望の微小厚さに薄切りすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の超薄切片試料作製方法によれば、標本ホルダと標本を冷媒に浸漬して冷却し、標本ホルダと標本を冷媒から取り出して標本ホルダと標本との間に液体を滴下し、標本ホルダと標本の冷熱により液体を凍結させて、標本を標本ホルダに固定するので、標本を簡便かつ強固に保持させることができる。そして、例えば試料作製後に標本ホルダに流水を掛ける、あるいは水槽の常温水に浸漬する等によって常温に迅速に戻すことができ、標本ホルダから標本を簡単に取り外すことができる。
【0028】
また、従来のように、チャンバ内の温度が常温から極低温となるまで待つ必要がなく、同様に、極低温から常温となるまで待つ必要がないので、チャンバ内を冷却する冷却時間とチャンバ内を常温にする解凍時間を削減できる。従って、従来と比較して、標本の標本ホルダへの取り付けおよび取り外し作業が容易であり、作業効率が非常によく、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【0029】
また、標本を冷媒中に浸漬して冷却するので、標本を十分に冷却でき、完全に凍結硬化させることができる。したがって、標本の薄切りが容易であり、平滑な切断面を得ることができる。
【0030】
そして、本発明の超薄切片試料作製装置によれば、標本ホルダは、装置本体に着脱可能に設けられ、装置本体から取り外された状態で予め冷媒に浸漬されて冷却され、冷媒から取り出されて標本との当接部に液体が滴下され、液体の凍結によって標本が接着固定される構成を有するので、簡便かつ強固に標本を保持することができる。
【0031】
そして、標本ホルダを装置本体から取り外して、例えば標本ホルダに流水を掛ける、あるいは水槽の常温水に標本ホルダを浸漬する等によって極低温から常温に迅速に戻すことができ、標本ホルダから標本を簡単に取り外すことができる。
【0032】
また、従来のように、チャンバ内の温度が常温から極低温となるまで待つ必要がなく、同様に、極低温から常温となるまで待つ必要がないので、チャンバ内を冷却する冷却時間とチャンバ内を常温にする解凍時間を削減できる。従って、従来と比較して、標本の標本ホルダへの取り付けおよび取り外し作業が容易であり、作業効率が非常によく、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態における超薄切片試料作製装置の要部を示す斜視図。
【図2】本実施の形態における超薄切片試料作製方法を説明するフローチャート。
【図3】本実施の形態における超薄切片試料作製方法の各工程を示す概念図。
【図4】本実施の形態における超薄切片試料作製方法により作製した超薄切片を電子顕微鏡で観察した観察結果を示す画像。
【図5】従来の超薄切片試料作製方法により作製した超薄切片試料を電子顕微鏡で観察した観察結果を示す画像。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態における超薄切片試料作製装置の要部を示す斜視図である。本実施の形態における超薄切片試料作製装置は、既知のクライオスタットミクロトームを利用して、その一部に改良を施したものであり、図1には、既知のカッタ21と、本発明の特徴的な構成要素の一つである標本ホルダ11が示されている。
【0035】
標本ホルダ11とカッタ21は、超薄切片試料作製装置の図示していないクライオスタットチャンバ内に設けられている。なお、チャンバは、チャンバ自体が冷却機能を備えている必要はなく、外部から断熱された所定の室内空間を有しているものであればよい。
【0036】
標本ホルダ11は、熱容量が比較的大きい材料からなる中実丸棒形状を有している。標本ホルダ11は、ミクロトームの装置本体(例えば図3(d)を参照)1に基端が着脱自在に保持されて、チャンバ内で略水平に延在するように取り付けられている。そして、装置本体1(例えば図3(d)を参照)によって略水平の姿勢状態を維持したままで上下に往復移動され、上下移動する毎に軸方向前側に向かって予め設定された距離(微小厚さ分)だけ前進移動されるようになっている。
【0037】
標本ホルダ11の先端部分には、標本Pを保持するための保持部12が形成されている。保持部12は、標本ホルダ11の軸方向に沿って略水平に延在する平滑な当接面12aを有しており、標本Pを安定した姿勢状態で載せることができるようになっている。標本Pは、断面が略一定の棒形状を有しており、基端部が標本ホルダ11の当接面12aの上に載せられて、先端部が標本ホルダ11の先端部分から突出して標本ホルダ11の軸方向に沿って延在するように固定される。標本Pを標本ホルダ11に固定する固定方法については後述する。
【0038】
カッタ21は、図示していないカッタホルダに取り付けられており、標本ホルダ11よりも軸方向先端側の位置に配置されて、標本ホルダ11の先端部分に対向している。カッタ21は、標本ホルダ11から離反する方向に移動するに従って漸次下方に移行する傾斜面22と、標本ホルダ11の先端部分に対向して垂直に延在する垂直面23を有している。そして、傾斜面22と垂直面23とが交わる部分には、標本ホルダ11の軸方向に直交して水平方向に延在するように稜線が形成されており、その稜線に沿って刃24が設けられている。
【0039】
カッタ21は、標本ホルダ11の下方への移動により、標本Pの先端部下面に当接して、標本Pをその軸方向に微小厚さに薄切りし、超薄切片試料を作製する。作製された超薄切片試料は、カッタ21の傾斜面22上を下方に滑動して図示していないポートに収容される。
【0040】
そして、本実施の形態における超薄切片試料作製装置は、標本Pの薄切りを行っている間中、標本ホルダ11および標本Pを冷却するための冷却手段31を有している。冷却手段31は、標本ホルダ11に着脱可能に取り付けられ、例えば液体窒素等の冷媒Fを貯留して、冷媒Fの冷熱により標本ホルダ11と標本Pを直接または間接的に冷却する構成を有している。
【0041】
冷却手段31は、本実施の形態では図1に示すように、冷媒Fとして液体窒素を貯留可能な上部開放された冷媒容器32と、冷媒容器32から上方に延出して標本ホルダ11に引っ掛けることにより冷媒容器32を標本ホルダ11の下に吊り下げ可能な吊り下げ部33を有している。
【0042】
冷媒容器32は、標本ホルダ11の直径よりも若干大きな直径を有する上部が開放された有底円筒形状を有しており、所定量の冷媒Fを貯留し、さらに上方から冷媒Fを注ぎ足すことができるようになっている(例えば図3(f)を参照)。
【0043】
吊り下げ部33は、冷媒容器32の上部から放出される冷媒Fの冷熱を、標本ホルダ11および標本Pに間接的に伝達できるように、標本ホルダ11の下方でかつ、より接近した位置に冷媒容器32を配置する構成を有している。
【0044】
吊り下げ部33は、本実施の形態では、標本ホルダ11を挿通可能な大きさを有する逆さU字形状を有しており、吊り下げ部33の両端部が冷媒容器32の上部にそれぞれ接続されている。吊り下げ部33は、例えばピアノ線や針金などの線状部材からなり、冷媒Fによって冷却された冷媒容器32の冷熱を標本ホルダ11に効率よく伝達できるように、熱伝達率の高い金属製材料によって構成されている。
【0045】
そして、冷却手段31は、冷媒Fの冷熱を標本ホルダに直接伝達する冷熱伝達手段34を有している。冷熱伝達手段34は、標本ホルダ11に掛けられて垂下し、冷媒容器32の上方から冷媒容器32内に挿入されて、下端部34aが冷媒容器32内の冷媒に浸漬される帯状もしくはひも状の部材からなる。冷熱伝達手段34は、例えばアルミ箔や、金属メッシュのように、可撓性もしくは屈曲性を有する熱伝達率の高い材料によって構成されている。
【0046】
次に、標本Pを標本ホルダ11に固定する方法および上記構成を有する超薄切片試料作製装置を用いた超薄切片試料作製方法について図2および図3を用いて以下に説明する。図2は、本実施の形態における超薄切片試料作製方法を説明するフローチャート、図3は、本実施の形態における超薄切片試料作製方法の各工程を示す概念図である。
【0047】
まず、標本ホルダ11と標本Pを冷媒Fに浸漬して冷却する(ステップS101、S102)。標本ホルダ11と標本Pは、図3(a)、(b)に示すように、貯留槽41に貯留された冷媒Fである液体窒素ガスの中に浸漬されて、極低温となるまで冷却される。
【0048】
そして、標本Pを標本ホルダ11に保持させる(ステップS103)。ここでは、貯留槽41の冷媒Fから標本ホルダ11と標本Pを取り出して、標本Pを標本ホルダ11の当接面12aに当接させる。そして、図3(c)に示すように、標本ホルダ11と標本Pとの当接部分に、例えば水などの液体Wを滴下する。液体Wは、標本ホルダ11と標本Pの冷熱により凍結し、標本ホルダ11と標本Pとを互いに接着固定する。すなわち、標本ホルダ11と標本Pは、標本ホルダ11と標本Pとの当接部分に液体Wを滴下し、その液体Wを標本ホルダ11と標本Pの冷熱により凍結させることによって、互いに接着固定される。従って、標本Pを標本ホルダ11に簡便かつ強固に固定させることができる。
【0049】
次に、図3(d)に示すように、標本ホルダ11を装置本体1に保持させて、チャンバ内で略水平に延在するように取り付ける(ステップS104)。装置本体1には、標本ホルダ11を着脱可能に保持するチャック(図示せず)が設けられており、標本ホルダ11を簡単に取り付けおよび取り外しできるようになっている。
【0050】
そして、標本ホルダ11に冷却手段31を取り付けて、冷却手段31による冷却を行う(ステップS105)。ここでは、略水平に保持された標本ホルダ11に吊り下げ部33が吊り下げられて、標本ホルダ11の下方に冷媒容器32が配置される。そして、冷媒容器32の上方から冷媒容器32内に冷媒Fが注ぎ入れられ、所定量の冷媒Fが貯留される。なお、冷媒容器32に冷媒Fを貯留してから、標本ホルダ11に吊り下げる作業を行ってもよい。
【0051】
冷媒容器32に貯留された冷媒Fの冷熱は、冷媒容器32から上方に向かって放出され、標本ホルダ11と標本Pを間接的に冷却する。また、吊り下げ部33を介して標本ホルダ11に伝達することができ、標本ホルダ11を効率よく冷却し、標本ホルダ11を介して標本Pに伝達し、標本Pを間接的に冷却することができる。
【0052】
冷熱伝達手段34は、標本ホルダ11に掛けられて垂下し、冷媒容器32の上方から冷媒容器32内に挿入されて、下端部34aが冷媒容器32内の冷媒Fに浸漬される。従って、冷熱伝達手段34を介して、冷媒Fの冷熱を標本ホルダ11に伝達することができ、標本ホルダ11を直接冷却し、標本ホルダ11を介して標本Pに伝達し、標本Pを間接的に冷却することができる。
【0053】
そして、標本Pを薄切りして超薄切片試料を作製する作業が行われる(ステップS106)。ここでは、図3(e)に示すように、カッタ21に対して装置本体1を下方に移動させて、標本Pの先端部下面にカッタ21の刃24を当接させて、標本Pを微小厚さに薄切りし、超薄切片試料を作製する。超薄切片試料は、装置本体1の上下移動および前進移動を繰り返し行うことによって、複数枚を作製することができる。
【0054】
そして、作製中に、冷媒容器32内の冷媒Fが減少してきた場合には、図3(f)に示すように、冷媒容器32の上方から冷媒容器32内に冷媒Fを注ぎ入れて補充することができる。従って、標本ホルダ11と標本Pを継続的に冷却することができ、標本Pの凍結状態を長時間に亘って維持することができる。
【0055】
カッタ21によって薄切りされた超薄切片試料は、カッタ21の傾斜面22上を下方に滑動して図示していないポートに収容され、作製完了となる(ステップS107)。
【0056】
上記した超薄切片試料作製方法および作製装置によれば、標本ホルダ11と標本Pを冷媒F中に浸漬して冷却し、標本ホルダ11と標本Pを冷媒Fから取り出して標本ホルダ11と標本Pとの間に液体Wを滴下し、標本ホルダ11と標本Pの冷熱により液体Wを凍結させて、標本Pを標本ホルダ11に固定するので、標本Pを標本ホルダ11に簡便かつ強固に保持させることができる。
【0057】
そして、例えば試料作製後に流水を掛ける、あるいは水槽の常温水に浸漬する等によって極低温から常温に迅速に戻すことができ、標本ホルダ11から標本Pを簡単に取り外すことができる。
【0058】
また、従来のように、チャンバ内の温度が常温から極低温となるまで待つ必要がなく、同様に、極低温から常温となるまで待つ必要がないので、チャンバ内全体を冷却する冷却時間とチャンバ内を常温にする解凍時間を削減できる。
【0059】
例えば、従来の一般的な装置の場合、チャンバ内を冷却するのに約3時間程度の冷却時間を要し、また、チャンバ内を常温に戻すのに約3時間程度の解凍時間を要することから、半日で1試料程度のサンプリングしかできず、作業効率が非常に悪い。
【0060】
これに対して、本実施の形態の場合、ステップS101の標本Pの冷却は約1時間程度、ステップS102の標本ホルダ11の冷却は約5分間程度で行うことができる。そして、ステップS103の標本Pを標本ホルダ11に保持させる作業、ステップS104の標本ホルダ11を装置本体1に取り付ける作業、ステップS105の冷却手段31の取り付け作業は、ステップS103からステップS105までを約5分間程度で行うことができる。そして、ステップS106、S107の超薄切片作成作業は、約30分間程度で行うことができる。
【0061】
従って、従来と比較して、標本Pの標本ホルダ11への取り付けおよび取り外し作業が容易であり、作業効率が非常によく、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。特に、予め複数の標本Pを貯留槽41内の冷媒Fに浸漬しておくことによって、標本Pを簡単に取り替えることができ、短時間でより多くの超薄切片試料を作製することができる。また、従来のようにチャンバ内全体を冷却する必要がないので、冷媒Fの使用量を大幅に抑制することができ、コストを低減することができる。
【0062】
また、本発明の超薄切片試料作製方法によれば、標本Pを冷媒F中に浸漬して冷却するので、標本Pを十分に冷却でき、完全に凍結硬化させることができる。したがって、標本Pの薄切りが容易であり、平滑な切断面を得ることができる。
【0063】
また、標本Pが固定された標本ホルダ11に、冷媒Fの貯留された冷却手段31を取り付けて、冷媒Fの冷熱により標本ホルダ11と標本Pを直接または間接的に冷却した状態で標本Pを薄切りするので、冷却手段31が有する冷媒Fの冷熱によって標本ホルダ11と標本Pを継続して冷却することができ、冷却状態を長時間に亘って維持することができる。従って、適切な微小厚さの超薄切片試料を複数作製することができ、超薄切片試料の生産性を向上させることができる。
【0064】
また、本発明の超薄切片試料作製装置によれば、冷却手段31は、冷媒Fを貯留可能な上部開放された冷媒容器32と、冷媒容器32から上方に延出して標本ホルダ11に引っ掛けることにより冷媒容器32を標本ホルダ11の下に吊り下げ可能な吊り下げ部33とを有しているので、冷媒容器32を標本ホルダ11の下に配置でき、冷媒容器32の上方から放出される冷媒Fの冷熱によって、標本ホルダ11と標本Pを間接的に冷却することができる。
【0065】
また、本発明の超薄切片試料作製装置によれば、標本ホルダ11に掛けられて垂下し、下端部34aが冷媒容器32の上方から冷媒容器32内に挿入されて、冷媒容器32内の冷媒Fに浸漬され、冷媒Fの冷熱を標本ホルダ11に伝達する冷熱伝達手段34を有するので、冷却手段31が有する冷媒Fの冷熱を標本ホルダ11に直接伝達することができる。従って、標本ホルダ11を積極的に冷却することができ、標本Pを間接的に冷却し、冷却状態を長時間に亘って維持することができる。従って、標本Pを所望の微小厚さに薄切りすることができる。
【0066】
なお、上述の実施の形態では、冷熱伝達手段34を標本ホルダ11に掛けた場合を例に説明したが、冷熱伝達手段34を標本Pに掛けて、標本Pを直接冷却し、標本ホルダ11を間接的に冷却してもよく、また、冷熱伝達手段34を標本ホルダ11と標本Pの両方に掛けて、標本ホルダ11と標本Pの両方を直接冷却してもよい。
【0067】
また、上述の実施の形態では、冷媒Fとして液体窒素の場合を例に説明したが、他の冷媒を用いてもよく、また、液体Wとして水の場合を例に説明したが、他の液体を用いてもよい。
【0068】
[実施例]
図4および図5は、超薄切片試料を電子顕微鏡で観察した観察像であり、図4は、本実施の形態に係わる超薄切片試料作製方法および作製装置を用いて作製した超薄切片試料の観察像、図5は、従来装置を用いて従来方法により作製した超薄切片試料の観察像である。図4(a)は、倍率20000倍、図4(b)は、倍率50000倍の画像であり、図5(a)は、倍率15000倍、図5(b)は、倍率7000倍の画像である。
【0069】
標本は、樹脂部材(ブチルゴム部材)を包埋樹脂101で包埋することによって構成されている。従来装置で標本が完全に凍結していない場合には、標本を薄切りすることができず、超薄切片試料の厚さが200〜300ナノメートルになっている。従って、電子顕微鏡で観察するには厚すぎであり、図5に示すように、組織を正確に把握することができない。
【0070】
一方、本実施の形態における超薄切片試料作製方法および作製装置によれば、標本を完全に凍結させた状態で薄切りするので、超薄切片試料の厚さを100ナノメートル以下となるように薄切りすることができる。従って、図4に示すように、ゴム成分102内に分散する金属粒子103を明確に認識することができ、樹脂部材の組織を正確に把握することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 装置本体(ミクロトーム)
11 標本ホルダ
12 保持部
12a 当接面
21 カッタ
24 刃
31 冷却手段
32 冷媒容器
33 吊り下げ部
34 冷熱伝達手段
F 冷媒
P 標本
W 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本を冷却した状態で薄切りして超薄切片試料を作製する超薄切片試料作製方法であって、
前記標本と、該標本を保持するための標本ホルダとを冷媒に浸漬して冷却する工程と、
前記冷媒中から前記標本ホルダと前記標本を取り出して、前記標本ホルダに前記標本を当接させ、該当接部に液体を滴下し、前記標本ホルダと前記標本の冷熱により前記液体を凍結させて、前記標本を標本ホルダに固定する工程と、
を含むことを特徴とする超薄切片試料作製方法。
【請求項2】
前記標本が固定された標本ホルダに、冷媒の貯留された冷却手段を取り付けて、前記冷媒の冷熱により前記標本ホルダおよび前記標本を直接または間接的に冷却した状態で前記標本を薄切りする工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の超薄切片試料作製方法。
【請求項3】
標本ホルダに保持された標本を冷却した状態で薄切りして超薄切片試料を作製する超薄切片試料作製装置であって、
前記標本ホルダは、装置本体に着脱可能に設けられ、前記装置本体から取り外された状態で予め冷媒に浸漬されて冷却され、該冷媒から取り出されて前記標本との当接部に液体が滴下され、該液体の凍結によって前記標本が接着固定される構成を有することを特徴とする超薄切片試料作製装置。
【請求項4】
前記標本ホルダに着脱可能に取り付けられ、冷媒を貯留して該冷媒の冷熱により前記標本ホルダと前記標本を直接または間接的に冷却する冷却手段を有することを特徴とする請求項3に記載の超薄切片試料作製装置。
【請求項5】
前記標本ホルダは、装置本体に基端が保持されて略水平に延在し、先端に標本ホルダが取り付けられる棒形状を有し、
前記冷却手段は、冷媒を貯留可能な上部開放された冷媒容器と、該冷媒容器から上方に延出して標本ホルダに引っ掛けることにより冷媒容器を標本ホルダの下に吊り下げ可能な吊り下げ部とを有することを特徴とする請求項4に記載の超薄切片試料作製装置。
【請求項6】
前記標本ホルダに掛けられて垂下し、下端部が前記冷媒容器の上方から該冷媒容器内に挿入されて、前記冷媒容器内の冷媒に浸漬され、前記冷媒の冷熱を前記標本ホルダに伝達する冷熱伝達手段を有することを特徴とする請求項5に記載の超薄切片試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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