説明

超音波診断装置及び制御プログラム

【課題】静止観察モードが選択された場合における連続性に優れた最高流速データの生成
【解決手段】被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置100は、リアルタイム観察モードの途中で静止観察モードを選択する入力部13と、静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて算出した閾値を保存する閾値記憶部6と、閾値記憶部6から読み出した前記閾値とリアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータとに基づいて最高流速データを生成する画像データ生成部9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体に対する超音波送受信によって得られたドプラ信号の血流成分に基づいて画像データを生成する超音波診断装置及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブに内蔵された振動素子から発生する超音波パルスを被検体内に放射し、被検体組織の音響インピーダンスの差異によって生ずる反射波を前記振動素子により電気信号に変換してモニタ上に表示するものである。この診断方法は、超音波プローブを体表に接触させるだけの簡単な操作で各種の画像データを容易に収集することができるため、各種臓器の機能診断や形態診断に広く用いられている。
【0003】
生体内の組織あるいは血球からの反射波により生体情報を得る超音波診断法は、超音波パルス反射法と超音波ドプラ法の技術開発により急速な進歩を遂げ、上記技術を用いて得られるBモード画像データ及びカラードプラ画像データは、今日の超音波診断において不可欠なものとなっている。
【0004】
一方、被検体の任意の位置における血流情報を定量的且つ正確に得る方法としてスペクトラムドプラ法がある。このスペクトラムドプラ法では、被検体の同一方向に対して複数回の超音波送受信を行ない、血球などの移動反射体において反射した超音波反射波に対し、超音波送受信に使用した圧電振動子の共振周波数と略等しい周波数の基準信号を用いた直交位相検波を行なってドプラ信号を検出する。そして、このドプラ信号の中から所望部位におけるドプラ信号をレンジゲートによって抽出し、得られたドプラ信号をFFT分析することによってドプラスペクトラムデータを時系列的に生成する。そして、このような手順により得られた複数のドプラスペクトラムデータを時間方向に配列することにより生成されるスペクトラム画像データでは、通常、縦軸に周波数(f)、横軸に時間(t)が示され、各周波数成分のパワー(強さ)が輝度(階調)によって示される。
【0005】
一方、時系列的に得られるドプラスペクトラムデータの周波数軸方向に分布するドプラ信号成分の最高周波数を検出し、この最高周波数の値を時間軸方向に配列することによって生成した最高血流速の時間的変化を示す最高流速データを上述のスペクトラム画像データと共に表示する方法も行なわれている。
【0006】
又、上述したドプラスペクトラムデータの最高周波数を正確に検出する方法として、前時相のドプラスペクトラムデータが有する所定ノイズレベル計測区間のノイズレベルに基づいて得られた閾値を後時相のドプラスペクトラムデータに設定することによりこのドプラスペクトラムデータの最高周波数を検出すると共に、得られた最高周波数に基づいて新たに設定したノイズレベル計測区間におけるノイズレベルを用いて更に後続する時相のドプラスペクトラムデータに対する閾値を設定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−229039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した前時相のドプラスペクトラムデータが有するノイズレベルに基づいて得られた閾値を後時相のドプラスペクトラムデータに設定することにより最高周波数を正確に検出することが可能となる。しかしながら、ドプラスペクトラムデータが連続して得られるリアルタイム観察モードがフリーズモード等の静止観察モードの選択によって中断され、更に、所定時間後に再開される場合、再開直後に得られたドプラスペクトラムデータの最高周波数を前時相の最高周波数に基づいた閾値を用いて検出することが不可能となるため、特に、再開直後のドプラスペクトラムデータに大きなノイズ成分が含まれている場合等においては、正確な最高周波数の検出が困難となり連続性に優れた最高流速データを生成することができないという問題点を有していた。
【0009】
本開示は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られるドプラスペクトラムデータの各々に対して閾値を設定することによりドプラスペクトラムデータの時間的変化を示すスペクトラム画像データや最高血流速の時間的変化を示す最高流速データを生成する際、静止観察モードの直前に計測されたリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータにおけるノイズレベルあるいはこのノイズレベルに基づいて算出された閾値を静止観察モードの直後に収集されたリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに適用することにより、連続性に優れ折り返り現象が排除された良好なスペクトラム画像データや最高流速データを得ることが可能な超音波診断装置及び制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の超音波診断装置は、被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置において、前記ドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて閾値を算出する閾値算出手段と、前記閾値を保存する記憶手段と、前記閾値と前記ドプラスペクトラムデータとに基づいて前記最高流速データを生成する最高流速データ生成手段と、観察モードを選択する観察モード選択手段とを備え、前記観察モード選択手段によりリアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合、前記閾値算出手段は、静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータに基づいて算出した閾値を前記記憶手段に保存し、前記最高流速データ生成手段は、リアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータと前記記憶手段から読み出した前記閾値とに基づいて前記最高流速データを生成することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態における超音波診断装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態の超音波診断装置が備える送受信部の具体的な構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態の超音波診断装置が備える受信信号処理部の具体的な構成を示すブロック図。
【図4】本実施形態の超音波診断装置が備える閾値算出部の具体的な構成を示すブロック図。
【図5】本実施形態における閾値の算出方法と最高周波数の検出方法を説明するための図。
【図6】本実施形態における閾値の算出手順と最高周波数の検出手順を示すフローチャート。
【図7】本実施形態の超音波診断装置が備える折り返り補正値算出部の具体的な構成を示すブロック図。
【図8】本実施形態の超音波診断装置が備える画像データ生成部及び表示データ生成部の構成を示すブロック図。
【図9】本実施形態におけるスペクトラム画像データ及び最高流速データの生成手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の実施形態を説明する。
【0013】
(実施形態)
以下に述べる本実施形態の超音波診断装置では、被検体に対する超音波送受信により時系列的なドプラスペクトラムデータを収集し、これらドプラスペクトラムデータの各々に閾値を設定することによりドプラスペクトラムデータの時間的変化を示すスペクトラム画像データや最高血流速の時間的変化を示す最高流速データを生成する際、フリーズモード等の静止観察モードの直前に計測されたリアルタイム観察モードにおけるドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づく閾値を一旦保存し、静止観察モードの直後に収集されたリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに上述の閾値を適用することにより、連続性に優れ折り返り現象が排除されたスペクトラム画像データや最高流速データを生成する。
【0014】
尚、本実施形態では、静止観察モードの直前に収集されるドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて算出された閾値を静止観察モードの間保存し、この静止観察モードの直後に収集されるリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに上述の閾値を設定する場合について述べるが、静止観察モード直前におけるドプラスペクトラムデータのノイズレベルを保存し、このノイズレベルに基づいて算出された閾値を静止観察モード直後のドプラスペクトラムデータに設定してもよい。
【0015】
(装置の構成)
本開示の実施形態における超音波診断装置の構成と機能につき図1乃至図8を用いて説明する。尚、図1は、本実施形態における超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。又、図2乃至図4と図7及び図8は、この超音波診断装置が備える送受信部、受信信号処理部、閾値算出部、折り返り補正値算出部及び画像データ生成部/表示データ生成部の具体的な構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示す超音波診断装置100は、被検体の体内に超音波パルス(送信超音波)を放射し、この送信超音波によって体内から得られた超音波反射波(受信超音波)を電気信号(受信信号)へ変換する複数個の振動素子が配列された超音波プローブ2と、前記被検体の所定方向に対して送信超音波を放射するための駆動信号を前記振動素子へ供給し、これらの振動素子から得られた複数チャンネルの受信信号を整相加算する送受信部3と、Bモード、カラードプラモード及びスペクトラムドプラモードの各撮影モードにて得られた整相加算後の受信信号を処理してBモードデータ、カラードプラデータ及びドプラスペクトラムデータを時系列的に生成する受信信号処理部4と、ドプラスペクトラムデータに対してノイズレベル計測区間を設定し、このノイズレベル計測区間において計測した最大ノイズパワー値(ノイズレベル)に基づいて閾値を算出する閾値算出部5と、静止観察モードの直前に収集されたドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて算出された閾値を保存する閾値記憶部6と、受信信号処理部4から供給される前時相のドプラスペクトラムデータに基づいて閾値算出部5が算出した閾値を後時相のドプラスペクトラムデータに設定することによりこのドプラスペクトラムデータの最高周波数を検出する最高周波数検出部7と、受信信号処理部4から供給されるBモードデータ、カラードプラデータ及びドプラスペクトラムデータに基づいてBモード画像データ、カラードプラ画像データ、スペクトラム画像データを生成し、更に、最高周波数検出部7から時系列的に供給されるドプラスペクトラムデータの最高周波数に基づいて最高流速データを生成する画像データ生成部9と、画像データ生成部9において生成されたスペクトラム画像データ及び最高流速データに発生する折り返り現象を排除するための折り返り補正値をドプラスペクトラムデータに対する前記閾値の設定によって得られた後述の−MAPデータに基づいて算出する折り返り補正値算出部8を備えている。
【0017】
更に、超音波診断装置100は、画像データ生成部9において生成された各種の画像データを合成することにより表示データを生成する表示データ生成部10と、得られた表示データを表示する表示部11と、被検体に対する超音波送受信の方向を制御する走査制御部12と、撮影モードの選択、観察モードの選択、超音波送受信条件の設定、各種指示信号の入力等を行なう入力部13と、上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部14を備えている。
【0018】
超音波プローブ2は、配列されたN個の図示しない振動素子をその先端部に有し、前記先端部を被検体の体表に接触させて超音波の送受信を行なう。振動素子は電気音響変換素子であり、送信時には電気的な駆動信号を送信超音波に変換し、受信時には受信超音波を電気的な受信信号に変換する機能を有している。そして、これら振動素子の各々は、図示しないNチャンネルの多芯ケーブルを介して送受信部3に接続されている。尚、本実施形態では、N個の振動素子を有するセクタ走査用の超音波プローブ2を用いた場合について述べるが、リニア走査やコンベックス走査等に対応した超音波プローブであってもよい。
【0019】
次に、図2に示す送受信部3は、被検体の所定方向に対し各種撮影モードの送信超音波を放射するための駆動信号を超音波プローブ2の振動素子へ供給する送信部31と、これらの振動素子から得られた複数チャンネルの受信信号を整相加算する受信部32を備え、送信部31は、レートパルス発生器311、送信遅延回路312及び駆動回路313を備えている。
【0020】
レートパルス発生器311は、被検体内に放射する送信超音波の繰り返し周期を決定するレートパルスを、システム制御部14から供給される基準信号を分周することによって生成し、得られたレートパルスを送信遅延回路312へ供給する。この場合のレートパルス周波数(PRF)は、入力部13において初期設定される超音波送受信条件の標準レートパルス周波数と折り返り補正値算出部8からシステム制御部14を介して供給されるPRF増減値に基づいて決定される。
【0021】
送信遅延回路312は、例えば、超音波プローブ2に内蔵されたN個の振動素子の中から選択されたNt個の送信用振動素子と同数の独立な遅延回路から構成され、送信において細いビーム幅を得るために所定の深さに送信超音波を集束するための集束用遅延時間と所定方向に対して前記送信超音波を放射するための偏向用遅延時間をレートパルス発生器311から供給された上述のレートパルスに与える。
【0022】
駆動回路313は、超音波プローブ2に内蔵されたNt個の送信用振動素子を駆動する機能を有し、送信遅延回路312から供給されるレートパルスに基づいて送信超音波を所定の深さ(距離)に収束するための集束用遅延時間と所定方向へ放射するための偏向用遅延時間を有する駆動用パルスを生成する。
【0023】
一方、受信部32は、超音波プローブ2に内蔵されたN個の振動素子の中から選択されたNr個の受信用振動素子に対応するNrチャンネルのプリアンプ321、A/D変換器322及び受信遅延回路323と加算器324を備え、Bモード/カラードプラモード/スペクトラムドプラモードにおいて受信用振動素子からプリアンプ321を介して供給されたNrチャンネルの受信信号はA/D変換器322にてデジタル信号に変換され、受信遅延回路323へ送られる。
【0024】
受信遅延回路323は、所定の深さからの受信超音波を集束するための集束用遅延時間と、所定方向に対して強い受信指向性を設定するための偏向用遅延時間をA/D変換器322から出力されたNrチャンネルの受信信号の各々に与え、加算器324は、受信遅延回路323から出力されたNrチャンネルの受信信号を加算合成する。即ち、受信遅延回路323と加算器324により、所定方向からの受信超音波に対応した受信信号は整相加算される。
【0025】
次に、図3に示す受信信号処理部4は、受信部32の加算器324から出力されたBモードの受信信号を処理してBモードデータを生成するBモードデータ生成部41と、カラードプラモード及びスペクトラムドプラモードの受信信号を直交検波することによりこれらの受信信号に混在しているドプラ信号を検出するドプラ信号検出部42と、カラードプラモードにおいて検出されたドプラ信号に基づいてカラードプラデータを生成するカラードプラデータ生成部43と、スペクトラムドプラモードにおいて検出されたドプラ信号に基づいてドプラスペクトラムデータを生成するスペクトラムデータ生成部44を備えている。
【0026】
Bモードデータ生成部41は、包絡線検波器411と対数変換器412を備え、包絡線検波器411は、受信部32の加算器324から供給された整相加算後の受信信号を包絡線検波し、対数変換器412は、包絡線検波された受信信号の振幅を対数変換してBモードデータを生成する。
【0027】
ドプラ信号検出部42は、π/2移相器421、ミキサ422−1及び422−2、LPF(低域通過フィルタ)423−1及び423−2を備え、受信部32の加算器324から供給された受信信号を直交検波して実部と虚部とからなる複素型のドプラ信号を検出する。
【0028】
一方、カラードプラデータ生成部43は、ドプラ信号記憶回路431、MTIフィルタ432及び自己相関演算器433を備え、同一方向に対する複数回の超音波送受信においてドプラ信号検出部42のLPF423−1及びLPF423−2から出力されたドプラ信号の複素成分、即ち、実成分(I成分)と虚成分(Q成分)はドプラ信号記憶部431に保存される。
【0029】
低域成分除去用のデジタルフィルタであるMTIフィルタ432は、当該被検体の同一部位にて収集された時系列的なドプラ信号をドプラ信号記憶部431から順次読み出す。そして、これらのドプラ信号に含まれている血流に起因した成分(血流成分)を抽出し、臓器の呼吸性移動や拍動性移動等に起因した成分(クラッタ成分)を除去する。具体的には、MTIフィルタ432のカットオフ周波数等を好適な値に設定することにより、上述の血流成分とこの血流成分より低い周波数を有するクラッタ成分とを分離する。
【0030】
自己相関演算器433は、MTIフィルタ432によって抽出されたドプラ信号の血流成分に対し自己相関演算を行なって血流の平均流速値や血流速度の乱れを示す速度分散値、更には、血流成分の大きさを示すパワー値等をカラードプラデータとして算出する。
【0031】
尚、MTIフィルタ432の周波数特性を決定するフィルタの次数やカットオフ周波数、更には、フィルタリング処理に用いる離散的なドプラ信号のデータ数等のフィルタ定数は画像データ生成条件として入力部13において設定あるいは更新される。
【0032】
次に、図3のスペクトラムデータ生成部44は、SH(サンプルホールド回路)441、BPF(帯域通過フィルタ)442及びFFT(Fast-Fourier-Transform)分析器443を備え、ドプラ信号検出部42から供給されたスペクトラムドプラモードのドプラ信号を周波数分析してドプラスペクトラムデータを生成する機能を有している。
【0033】
即ち、SH441は、ドプラ信号検出部42のLPF423−1及び423−2から出力されたドプラ信号の実成分及び虚成分と、入力部13において設定された関心領域(レンジゲート)の位置情報を受信する。そして、所定方向に対する複数回の超音波送受信によって時系列的に収集されるドプラ信号の中から前記関心領域に対応するドプラ信号を抽出(サンプリング)する。
【0034】
BPF442は、SH441から出力された関心領域におけるドプラ信号をフィルタリング処理することにより、このドプラ信号に含まれている臓器の呼吸性移動や拍動性移動等に起因した低周波のクラッタ成分や高周波のサンプリングノイズを除去する。
【0035】
一方、FFT分析器443は、図示しない演算回路と記憶回路を備え、HPF442から出力された関心領域のドプラ信号は記憶回路に一旦保存される。一方、演算回路は、この記憶回路に保存された所定期間のドプラ信号を周波数分析してドプラスペクトラムデータを生成する。尚、ドプラスペクトラムデータの具体的な生成方法については特開2005−81081号公報等に記載されているため詳細な説明は省略する。
【0036】
次に、図1の閾値算出部5は、図4に示すようにノイズレベル計測区間設定部51、ノイズレベル計測部52及び演算部53を備えている。
【0037】
ノイズレベル計測区間設定部51は、先ず、入力部13からシステム制御部14を介して供給される基準周波数fb及び基準ノイズ計測幅f0に基づき、受信信号処理部4のスペクトラムデータ生成部44から供給される最初の時相(第1時相)のドプラスペクトラムデータに対してノイズレベル計測区間を設定する。
【0038】
次いで、第1時相のドプラスペクトラムデータに後続して上述のスペクトラムデータ生成部44から時系列的に供給される第2時相以降のドプラスペクトラムデータに対しては、上述の基準周波数fbと最高周波数検出部7から供給される当該ドプラスペクトラムデータの最高周波数に基づいたノイズレベル計測区間を設定する。
【0039】
一方、ノイズレベル計測部52は、各時相にて収集されたドプラスペクトラムデータのノイズレベル計測区間における最大ノイズパワー値をノイズレベルとして計測し、演算部53は、このノイズレベルに基づいて閾値を算出する。この場合、ノイズレベルよりαdB(例えば、α=2)だけ大きな値を有する閾値が演算部53によって算出される。そして、フリーズモードのような静止観察モードによってリアルタイム観察モードが中断される場合、上述の演算部53により静止観察モードの開始直前に算出された閾値はリアルタイム観察モードが再開されるまで閾値記憶部6に保存される。
【0040】
最高周波数検出部7は、受信信号処理部4のスペクトラムデータ生成部44から時系列的に供給されるドプラスペクトラムデータを受信し、時間方向に直接隣接あるいは静止観察モードの期間を介して隣接する前時相のドプラスペクトラムデータに基づいて閾値算出部5が算出した閾値を後時相のドプラスペクトラムデータに設定することによりこのドプラスペクトラムデータに含まれたドプラ信号成分の最高周波数(以下では、ドプラスペクトラムデータの最高周波数と呼ぶ。)を検出する。そして、得られた最高周波数の検出結果を図示しない自己の検出データ記憶部に保存する。
【0041】
次に、上述の閾値算出部5による閾値の算出方法と最高周波数検出部7による最高周波数の検出方法につき図5及び図6を用いて説明する。尚、図5は、第1時相において収集されたドプラスペクトラムデータD(1)(図5(a))と第1時相に後続する第2時相において収集されたドプラスペクトラムデータD(2)(図5(b))を示しており、ドプラスペクトラムデータD(1)及びD(2)には、超音波プローブ2の方向へ流れる血流の速度成分に対応したドプラ信号成分s(1)及びs(2)と各種のノイズ成分n(1)及びn(2)が含まれている。一方、図6は、ドプラスペクトラムデータD(1)及びD(2)に対する閾値の算出手順と最高周波数の検出手順を示すフローチャートである。
【0042】
即ち、図5(a)に示すドプラ信号成分s(1)とノイズ成分n(1)とが混在した第1時相のドプラスペクトラムデータD(1)が受信信号処理部4のスペクトラムデータ生成部44から閾値算出部5及び最高周波数検出部7へ供給された場合、閾値算出部5のノイズレベル計測区間設定部51は、入力部13において初期設定され(図6のステップS1)、システム制御部14を介して供給された基準周波数fbと基準ノイズ計測幅f0によって決定されるノイズレベル計測区間[fb〜fb−fa(1)](fa(1)=f0)をドプラスペクトラムデータD(1)に対して設定する(図6のステップS2)。
【0043】
次いで、閾値算出部5のノイズレベル計測部52は、上述のノイズレベル計測区間[fb〜fb−fa(1)]に存在するノイズ成分の最大パワー値をノイズレベルN(1)として計測し(図6のステップS3)、演算部53は、このノイズレベルN(1)よりαdBだけ大きな閾値L(1)を算出する(図6のステップS4)。
【0044】
一方、最高周波数検出部7は、スペクトラムデータ生成部44から供給された第1時相のドプラスペクトラムデータD(1)に対して閾値算出部5から供給された閾値L(1)を設定する(図6のステップS5)。そして、この閾値L(1)とドプラスペクトラムデータD(1)のドプラ信号成分S(1)との交点を計測することによりドプラスペクトラムデータD(1)の最高周波数fmax(1)を検出し、得られた最高周波数fmax(1)を自己の検出データ記憶部に保存する(図6のステップS6)。
【0045】
次に、図5(b)に示すドプラ信号成分s(2)とノイズ成分n(2)とが混在した第2時相のドプラスペクトラムデータD(2)がスペクトラムデータ生成部44から閾値算出部5及び最高周波数検出部7へ供給された場合、最高周波数検出部7は、閾値算出部5が算出した上述の閾値L(1)をドプラスペクトラムデータD(2)に対して設定する(図6のステップS7)。そして、この閾値L(1)とドプラスペクトラムデータD(2)のドプラ信号成分S(2)との交点を計測することによりドプラスペクトラムデータD(2)の最高周波数fmax(2)を検出し、得られた最高周波数fmax(2)を上述の検出データ記憶部に保存する(図6のステップS8)。
【0046】
一方、閾値算出部5のノイズレベル計測区間設定部51は、上述の最高周波数fmax(2)と入力部13からシステム制御部14を介して供給された基準周波数fbを次式(1)へ代入することによってノイズ計測幅fa(2)を算出し、この算出結果に基づいたノイズレベル計測区間[fb〜(fb−fa(2))]をドプラスペクトラムデータD(2)に対して設定する(図6のステップS9)。尚、式(1)に示したKは比例定数であり、例えば、K=0.8が用いられる。
【数1】

【0047】
次いで、閾値算出部5のノイズレベル計測部52は、ノイズレベル計測区間[fb〜(fb−fa(2))]に存在するノイズ成分の最大パワー値をノイズレベルN(2)として計測し(図6のステップS10)、演算部53は、このノイズレベルN(2)よりαdBだけ大きな閾値L(2)を算出する(図6のステップS11)。
【0048】
即ち、上述のように、第1時相のドプラスペクトラムデータD(1)を用いて算出した閾値L(1)を第2時相のドプラスペクトラムデータD(2)に設定することによりその最高周波数fmax(2)を検出し、この最高周波数fmax(2)によって新たに設定されたノイズレベル計測区間におけるドプラスペクトラムデータD(2)のノイズレベルN(2)に基づき、ドプラスペクトラムデータD(3)の最高周波数fmax(3)を検出するための閾値L(2)を算出する。
【0049】
そして、スペクトラムデータ生成部44から時系列的に供給されるn時相(n>2)のドプラスペクトラムデータD(n)に対して上述のステップS7乃至ステップS11の手順を繰り返すことにより、n−1時相の閾値L(n−1)を用いたドプラスペクトラムデータD(n)における最高周波数fmax(n)の検出とこのドプラスペクトラムデータDnに基づいた閾値L(n)の算出が順次行なわれ、このとき得られた最高周波数fmax(n)は、最高周波数検出部7が備える検出データ記憶部に一旦保存された後、画像データ生成部9が備える後述の最高流速データ生成部94へ供給される。
【0050】
一方、各時相のドプラスペクトラムデータが時系列的に収集されるリアルタイム観察モードの途中でフリーズモード等の静止観察モードが選択された場合、リアルタイム観察モードの再開直後における最高周波数の検出は、このとき得られたドプラスペクトラムデータに静止観察モード開始直前に算出され閾値記憶部6において保存された閾値を設定することによって行なわれる。
【0051】
ところで、上述の最高周波数検出部7における最高周波数の検出により測定可能な血流速の上限値(高流速検出能)Vmaxは、送受波繰り返し周波数(レート周波数)frの1/2で定義されるナイキスト周波数によって決定され、次式(2)によって示される。但し、Cは、被検体内の音速値、f0は、受信超音波の中心周波数、ξは、超音波送受信方向と血流方向のなす角度である。
【数2】

【0052】
そして、ドプラ周波数の偏移量が上記ナイキスト周波数を超えた場合、ドプラ信号の周波数スペクトラムに折り返り現象が発生し正確な血流計測が不可能となる。このような問題点を解決するために、レート周波数frを許容可能な範囲で増加させ、更に、画像データ生成部9において生成される後述のスペクトラム画像データや最高流速データにおける周波数軸をシフトさせる方法が従来から行なわれてきた。
【0053】
上述した折り返り現象の排除を目的として図1の超音波診断装置100に設けられた折り返り補正値算出部8は、図7に示すようにMAPデータ生成部81、PRF増減値算出部82及び周波数シフト量算出部83を備えている。
【0054】
MAPデータ生成部81は、スペクトラムデータ生成部44から時系列的に供給されるドプラスペクトラムデータの中から隣接する複数の時相におけるドプラスペクトラムデータを抽出し、これらドプラスペクトラムデータの各々を、閾値算出部5から直接あるいは閾値記憶部6を介して供給される各時相の閾値を用いて2値化処理することによりs−MAPデータを生成する。そして、得られた複数のs−MAPデータに対して論理和(OR)演算を行なうことにより−MAPデータを生成する。
【0055】
PRF増減値算出部82は、上述の−MAPデータにおけるドプラ信号の存在領域と非存在領域との割合を示す信号存在比率を算出し、この信号存在比率が所定の値になるようなPRF増減値Δfrを算出する。
【0056】
一方、周波数シフト量算出部83は、PRF増減値算出部82が算出したPRF増減値Δfrに基づいて更新されたレート周波数fr+Δfrによる超音波検査においてMAPデータ生成部81から供給される−MAPデータにおけるドプラ信号存在領域の中心が周波数軸の中央に位置するような周波数シフト量Δηを算出する。尚、上述のPRF増減値Δfr及び周波数シフト量Δηの具体的な算出方法については特開平8−308843号公報等に記載されているため図面を用いた詳細な説明は省略する。
【0057】
次に、図1に示した画像データ生成部9及び表示データ生成部10の具体的な構成につき図8を用いて説明する。
【0058】
画像データ生成部9は、受信信号処理部4において生成されたBモードデータ、カラードプラデータ及びドプラスペクトラムデータと最高周波数検出部7によって検出されたドプラスペクトラムデータの最高周波数に基づいて各種の画像データを生成する機能を有し、Bモード画像データ生成部91、カラードプラ画像データ生成部92、スペクトラム画像データ生成部93及び最高流速データ生成部94を備えている。
【0059】
Bモード画像データ生成部91は、受信信号処理部4のBモードデータ生成部41から送受信方向単位で時系列的に供給される対数変換後の受信信号(Bモードデータ)を自己の記憶回路に保存してBモード画像データを生成する。
【0060】
カラードプラ画像データ生成部92は、受信信号処理部4のカラードプラデータ生成部43から供給されるカラードプラデータに基づいてカラードプラ画像データを生成する。例えば、血流の平均流速値に対応した明度情報と速度分散値に対応した色相情報を各々の画素値として設定することにより平均流速値と速度分散値の同時観測が可能なカラードプラ画像データを生成する。
【0061】
スペクトラム画像データ生成部93は、受信信号処理部4のスペクトラムデータ生成部44が関心領域(レンジゲート)から得られるドプラ信号に基づいて生成した時系列的なドプラスペクトラムデータを時間軸方向に配列することによりスペクトラム画像データを生成する。
【0062】
最高流速データ生成部94は、最高周波数検出部7が検出した前記ドプラスペクトラムデータの最高周波数を時間軸方向に配列することにより最高血流速の時間的変化を示す最高流速データを生成する。
【0063】
但し、上述のスペクトラム画像データ生成部93及び最高流速データ生成部94は、折り返り補正値算出部8の周波数シフト量算出部83から供給される周波数シフト量Δηを受信し、この周波数シフト量Δηに基づいてスペクトラムデータ生成部44から供給されるドプラスペクトラムデータ及び最高周波数検出部7から供給される最高周波数の周波数軸をシフトさせることにより折り返りの無いスペクトラム画像データ及び最高流速データを生成する。
【0064】
一方、表示データ生成部10はデータ合成部101を備え、画像データ生成部9から供給されたBモード画像データ、カラードプラ画像データ、スペクトラム画像データ及び最高流速データを所定の表示フォーマットに変換した後合成して表示データを生成する。そして、表示部11は、図示しない変換処理部とモニタを備え、前記変換処理部は、表示データ生成部10において生成された表示データに対しD/A変換やテレビフォーマット変換等の変換処理を行なって前記モニタに表示する。
【0065】
走査制御部12は、当該被検体の診断対象部位を含む2次元あるいは3次元の撮影領域に対してBモード、カラードプラモード及びスペクトラムドプラモードの超音波送受信を行なうための遅延時間制御を送信部31の送信遅延回路312及び受信部32の受信遅延回路323に対して行なう。尚、カラードプラモード及びスペクトラムドプラモードにおける超音波送受信の具体例については特開2004−329609号公報や特開2005−81081号公報等に記載されているため詳細な説明は省略する。
【0066】
一方、入力部13は、操作パネル上に表示パネルやキーボード、トラックボール、マウス、選択ボタン等の入力デバイスを備え、被検体情報の入力、撮影モード及び観察モードの選択、超音波送受信条件の設定、画像データ生成条件及び表示データ生成条件の設定、基準周波数fb及び基準ノイズ計測幅f0の設定、各種指示信号の入力等を上述の表示パネルや入力デバイスを用いて行なう。尚、撮影モードとしてBモード、カラードプラモード、スペクトラムドプラモード等があり、観察モードとしてリアルタイム観察モードや静止観察モード(フリーズモード)等がある。
【0067】
システム制御部14は、図示しないCPUと記憶回路を備え、記憶回路には、入力部13において入力/選択/設定された各種の情報が保存される。そして、CPUは、これらの情報に基づいて超音波診断装置100の各ユニットを統括的に制御することによりBモード、カラードプラモード及びスペクトラムドプラモードにおける各種画像データの生成及び表示と、スペクトラムドプラモードにて収集されたドプラスペクトラムデータの最高周波数に基づく最高流速データの生成及び表示を実行させる。
【0068】
(画像データの生成手順)
次に、リアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合における画像データの生成手順につき図9のフローチャートを用いて説明する。但し、以下では、説明を簡単にするために、装置の初期設定においてスペクトラムドプラモードのみが選択された場合について述べるが、スペクトラムドプラモードの他にBモードやカラードプラモードが選択されてもよい。又、折り返り補正値としての周波数シフト量Δηをn1+1個のドプラスペクトラムデータに基づいて算出する場合について述べるが、これに限定されるものではなく、折り返り補正値は、PRF増減値Δfr等であってもよい。
【0069】
即ち、図6のステップS1乃至ステップS11の手順により所定期間(例えば、1心拍周期)の第1時相乃至第n1時相において収集されたドプラスペクトラムデータD(1)乃至D(n1)に基づく最高周波数fmax(1)乃至fmax(n1)の算出及び保存、ノイズレベルN(1)乃至N(n1)の計測及び閾値L(1)乃至L(n1)の算出を行ない、更に、ドプラスペクトラムデータD(1)乃至D(n1)への閾値L(1)乃至L(n1)の設定によるs−MAPデータの生成を行なう(図9のステップS20)。
【0070】
そして、これらの計測や算出が終了したならば、受信信号処理部4のスペクトラムデータ生成部44は、引き続いて行なわれる(n1+1)時相の超音波送受信によって得られた受信信号を処理してドプラスペクトラムデータD(n1+1)を生成する(図9のステップS21)。
【0071】
次いで、最高周波数検出部7は、スペクトラムデータ生成部44から供給された(n1+1)時相のドプラスペクトラムデータD(n1+1)に対して閾値算出部5の演算部53から供給された閾値L(n1)を設定し(図9のステップS22)、閾値L(n1)とドプラスペクトラムデータD(n1+1)のドプラ信号成分S(n1+1)との交点を計測することによりドプラスペクトラムデータD(n1+1)の最高周波数fmax(n1+1)を検出する。そして、得られた最高周波数fmax(n1+1)を自己の検出データ記憶部に保存する(図9のステップS23)。
【0072】
一方、折り返り補正値算出部8のMAPデータ生成部81は、閾値算出部5から供給された閾値L(n1)をドプラスペクトラムデータD(n+1)に設定して(n1+1)時相のs−MAPデータを生成し、更に、上述のステップS20において得られた第1時相乃至n1時相のs−MAPデータ及び(n1+1)時相のs−MAPデータに対して論理和(OR)演算を行なうことにより−MAPデータを生成する。次いで、折り返り補正値算出部8の周波数シフト量算出部83は、上述の−MAPデータに基づいて折り返り補正値(周波数シフト量)Δηを算出する(図9のステップS24)。
【0073】
次に、画像データ生成部9のスペクトラム画像データ生成部93は、スペクトラムデータ生成部44によって収集されたドプラスペクトラムデータD1乃至D(n1+1)の周波数軸を折り返り補正値算出部8の周波数シフト量算出部83から供給される折り返り補正値Δηに基づいて補正し、補正後のドプラスペクトラムデータD1乃至D(n1+1)を時間軸方向に配列することにより折り返りが無いスペクトラム画像データを生成する。
【0074】
一方、画像データ生成部9の最高流速データ生成部94は、最高周波数検出部7の検出データ記憶部から読み出した最高周波数fmax(1)乃至fmax(n1+1)を折り返り補正値算出部8の周波数シフト量算出部83から供給された折り返り補正値Δηに基づいて補正し、補正後の最高周波数fmax(1)乃至fmax(n1+1)を時間軸方向に配列することにより折り返りの無い最高流速データを生成する。そして、得られたスペクトラム画像データ及び最高流速データは、表示データ生成部10おいて合成され表示部11のモニタに表示される(図9のステップS25)。
【0075】
一方、閾値算出部5のノイズレベル計測区間設定部51は、上述の最高周波数fmax(n1+1)と入力部13からシステム制御部14を介して供給された基準周波数fbに基づいてノイズ計測幅fa(n1+1)を算出し、このノイズ計測幅fa(n1+1)に基づいたノイズレベル計測区間[fb−(fb−fa(n1+1))]をドプラスペクトラムデータD(n1+1)に設定する(図9のステップS26)。
【0076】
次いで、閾値算出部5のノイズレベル計測部52は、上述のノイズレベル計測区間[fb−(fb−fa(n1+1))]に存在するノイズ成分の最大パワー値(ノイズレベル)N(n1+1)を計測し、演算部53は、このノイズレベルN(n1+1)よりαdBだけ大きな閾値L(n+1)を算出する(図9のステップS27)。
【0077】
そして、上述のステップS21乃至ステップS27を繰り返すことにより時相n=n1+1、n1+2、n1+3、・・・、n2−1におけるドプラスペクトラムデータD(n)の収集、ドプラスペクトラムデータD(n)に対する閾値L(n−1)の設定、ドプラスペクトラムデータD(n)及び閾値L(n−1)に基づく最高周波数fmax(n)の検出/保存、折り返し補正値Δηの算出、スペクトラム画像データ及び最高流速データの生成/表示、ドプラスペクトラムデータD(n)に対するノイズレベル計測区間の設定、ノイズレベルN(n)の計測及び閾値L(n)の算出が順次行なわれる。
【0078】
次いで、上述の時相に後続する時相n=n2において静止観察モードが入力部13において選択された場合(図9のステップS28)、静止観察モード直前の時相n=n2−1において収集されたドプラスペクトラムデータD(n2−1)に基づいて閾値算出部5が算出した閾値L(n2−1)の値は閾値記憶部6に保存される(図9のステップS29)。又、時相n2−1において生成されたスペクトラム画像データ及び最高流速データは表示部11のモニタに静止表示され、更に、これらの静止画像データを用いた各種の計測が必要に応じて行なわれる(図9のステップS30)。
【0079】
次いで、期間ΔTにおいて静止観察モードの超音波検査が行なわれた後、時相n=n3においてリアルタイム観察モードが選択されたならば(図9のステップS31)、最高周波数検出部7は、図9のステップS32において閾値記憶部6から読み出した上述の閾値L(n2−1)をドプラスペクトラムデータD(n3)に設定することにより時相n3における最高周波数fmax(n3)の検出/保存、折り返し補正値の算出、スペクトラム画像データ及び最高流速データの生成/表示、ドプラスペクトラムデータD(n3)に対するノイズレベル計測区間の設定、ノイズレベルN(n3)の計測及び閾値L(n3)の算出が順次行なわれ、更に、ステップS21乃至ステップS28の手順を繰り返すことにより時相n3+1以降のドプラスペクトラムデータに対しても同様の処理が行なわれる。
【0080】
以上述べた本実施形態によれば、被検体に対する超音波送受信により時系列的に得られるドプラスペクトラムデータの最高周波数に基づいて最高血流速の時間的変化を示す最高流速データを生成する際、静止観察モードの直前の時相において計測されるドプラスペクトラムデータのノイズレベルあるいはこのノイズレベルに基づいて算出される閾値を静止観察モードの直後の時相において収集されるリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに適用することにより、連続性に優れ正確な最高流速データを得ることができる。
【0081】
更に、上述のドプラスペクトラムデータを用いたスペクトラム画像データや最高流速データの生成時に発生する折り返り現象を排除するための補正値(折り返り補正値)を算出する際、静止観察モードの直前の時相において計測される上述のノイズレベルあるいは閾値を静止観察モードの直後の時相において収集されるリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに適用することによりスペクトラム画像データや最高流速データにおける折り返り現象を安定して排除することが可能となる。
【0082】
以上、本開示の実施形態について述べてきたが、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、変形して実施することが可能である。例えば、上述の実施形態では、静止観察モードの直前の時相において収集されたドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて算出される閾値を一旦保存し、静止観察モードの直後の時相において収集されるリアルタイム観察モードのドプラスペクトラムデータに上述の閾値を設定することにより連続性に優れた最高流速データあるいは折り返り現象が排除された最高流速データやスペクトラム画像データを生成する場合について述べたが、静止観察モード直前のドプラスペクトラムデータにおけるノイズレベルを一旦保存し、このノイズレベルに基づいて設定された閾値を静止観察モード直後のドプラスペクトラムデータに設定することにより上述の画像データを生成してもよい。
【0083】
又、最高周波数検出部7は、スペクトラムデータ生成部44から供給されるドプラスペクトラムデータと閾値算出部5から供給される閾値に基づいて検出した前記ドプラスペクトラムデータの最高周波数を自己の検出データ記憶部に保存する場合について述べたが、最高周波数を保存する検出データ記憶部は、これらの最高周波数に基づいて最高流速データを生成する画像データ生成部9の最高流速データ生成部94に備えられていてもよい。
【0084】
更に、リアルタイム観察モードの各時相における閾値は、閾値算出部5から直接供給される場合について述べたが、静止観察モード前後の時相における閾値と同様に閾値記憶部6を介して供給されても構わない。
【0085】
又、ドプラスペクトラムデータに対する基準周波数fbの設定は、入力部13の入力デバイスを用いて行なわれる場合について述べたが、上述のドプラスペクトラムデータのドプラ信号成分に基づいて基準周波数を自動設定する基準周波数設定部を新たに備えてもよい。
【0086】
尚、本実施形態の超音波診断装置100に含まれる各ユニットは、例えば、CPU、RAM、磁気記憶装置、入力装置、表示装置等で構成されるコンピュータをハードウェアとして用いることでも実現することができる。例えば、超音波診断装置100のシステム制御部14は、上記のコンピュータに搭載されたCPU等のプロセッサに所定の制御プログラムを実行させることにより各種機能を実現することができる。この場合、上述の制御プログラムをコンピュータに予めインストールしてもよく、又、コンピュータ読み取りが可能な記憶媒体への保存あるいはネットワークを介して配布された制御プログラムのコンピュータへのインストールであっても構わない。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
2…超音波プローブ
3…送受信部
31…送信部
32…受信部
4…受信信号処理部
41…Bモードデータ生成部
42…ドプラ信号検出部
43…カラードプラデータ生成部
44…スペクトラムデータ生成部
5…閾値算出部
6…閾値記憶部
7…最高周波数検出部
8…折り返り補正値算出部
9…画像データ生成部
10…表示データ生成部
11…表示部
12…走査制御部
13…入力部
14…システム制御部
100…超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置において、
前記ドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて閾値を算出する閾値算出手段と、
前記閾値を保存する記憶手段と、
前記閾値と前記ドプラスペクトラムデータとに基づいて前記最高流速データを生成する最高流速データ生成手段と、
観察モードを選択する観察モード選択手段とを備え、
前記観察モード選択手段によりリアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合、前記閾値算出手段は、静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータに基づいて算出した閾値を前記記憶手段に保存し、前記最高流速データ生成手段は、リアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータと前記記憶手段から読み出した前記閾値とに基づいて前記最高流速データを生成することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記ドプラスペクトラムデータに対し前記閾値を設定することにより折り返り補正値を算出する折り返り補正値算出手段を備え、前記観察モード選択手段によりリアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合、前記折り返り補正値算出手段は、リアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータに前記記憶手段から読み出した前記閾値を設定することにより前記折り返り補正値を算出し、前記最高流速データ生成手段は、前記折り返り補正値に基づいて前記ドプラスペクトラムデータの最高周波数を処理することにより前記最高流速データを生成することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置において、
前記ドプラスペクトラムデータのノイズレベルを計測するノイズレベル計測手段と、
前記ノイズレベルを保存する記憶手段と、
前記ノイズレベルに基づいて算出した閾値と前記ドプラスペクトラムデータとに基づいて前記最高流速データを生成する最高流速データ生成手段と、
観察モードを選択する観察モード選択手段とを備え、
前記観察モード選択手段によりリアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合、前記ノイズレベル計測手段は、静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータに基づいて計測したノイズレベルを前記記憶手段に保存し、前記最高流速データ生成手段は、リアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られるドプラスペクトラムデータと前記記憶手段から読み出した前記ノイズレベルとに基づいて前記最高流速データを生成することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
前記ドプラスペクトラムデータに対し前記閾値を設定することにより折り返り補正値を算出する折り返り補正値算出手段を備え、前記観察モード選択手段によりリアルタイム観察モードの途中で静止観察モードが選択された場合、前記折り返り補正値算出手段は、リアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータに前記記憶手段から読み出した前記ノイズレベルに基づく前記閾値を設定することにより前記折り返り補正値を算出し、前記最高流速データ生成手段は、前記折り返り補正値に基づいて前記ドプラスペクトラムデータの最高周波数を処理することにより前記最高流速データを生成することを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
最高周波数検出手段を備え、前記最高周波数検出手段は、時間方向に直接あるいは前記静止観察モードの期間を介して隣接する前時相のドプラスペクトラムデータに基づいて得られた前記閾値を後時相のドプラスペクトラムデータへ設定することにより前記ドプラスペクトラムデータの最高周波数を検出することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載した超音波診断装置。
【請求項6】
前記折り返り補正値算出手段は、前記閾値を用いた前記ドプラスペクトラムデータの2値化処理によりMAPデータを生成するMAPデータ生成手段と、前記MAPデータにおけるドプラ信号の存在領域と非存在領域との比率が所定の値になるようなレート周波数の増減値を算出するPRF増減値算出手段あるいはMAPデータにおけるドプラ信号存在領域の中心が周波数軸の中央に位置するような周波数シフト量を算出する周波数シフト量算出手段の少なくとも何れかを有していることを特徴とする請求項2又は請求項4に記載した超音波診断装置。
【請求項7】
前記時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいてスペクトラム画像データを生成するスペクトラム画像データ生成手段を備え、前記スペクトラム画像データ生成手段は、前記折り返り補正値算出手段が算出した前記折り返り補正値に基づいて前記ドプラスペクトラムデータを処理することにより前記スペクトラム画像データを生成することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載した超音波診断装置。
【請求項8】
被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置に対し、
リアルタイム観察モードの途中で静止観察モードを選択する観察モード選択機能と、
静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータのノイズレベルに基づいて算出した閾値を保存する記憶機能と、
保存された前記閾値を読み出し、この閾値とリアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータとに基づいて最高流速データを生成する最高流速データ生成機能を
実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項9】
被検体に対する超音波送受信によって時系列的に得られたドプラスペクトラムデータに基づいて最高流速データを生成する超音波診断装置に対し、
リアルタイム観察モードの途中で静止観察モードを選択する観察モード選択機能と、
静止観察モード開始タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータにおいて計測したノイズレベルを保存する記憶機能と、
保存された前記ノイズレベルを読み出し、このノイズレベルに基づいて算出した閾値とリアルタイム観察モード再開タイミングに基づいて定まる所定の時相にて得られたドプラスペクトラムデータとに基づいて最高流速データを生成する最高流速データ生成機能を
実行させることを特徴とする制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−99388(P2013−99388A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243991(P2011−243991)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】