説明

路車間通信システムおよび路側通信装置

【課題】路車間通信システムにおいて、危険度の高い車両と路側通信装置の間での通信成立の確率を向上させるための技術を提供する。
【解決手段】通信装置を備える車両と、前記車両と通信を行って情報を送受信する路側通信装置とを有する路車間通信システムであって、前記車両は、少なくとも位置および速さを含む自車の走行状態を取得して前記路側通信装置に送信し、前記路側通信装置は、前記車両から受信した走行状態に基づいて車両ごとの危険度を判定し、当該危険度が高い車両に対して多くの通信リソースを割当てる割当て制御部を備えることを特徴とする路車間通信システムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各車両に対して通信リソースの割当てを行う路側通信装置、および、それを用いる路車間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両と路側通信装置が情報交換を行うインフラ協調システムにおいて、車両の数が増えてトラフィック量が多くなった場合に、各車両と通信を行うチャンネルを割り当てることにより、チャンネルごとのトラフィック量を平均化する技術が、特開2008−010920号公報(特許文献1)に記載されている。また、通信内容の緊急性に応じて通信パケットに優先度を設定することにより、緊急時に車両と路側通信装置の間の通信を低遅延に成立させるための技術が、特開2006−352191号公報(特許文献2)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−010920号公報
【特許文献2】特開2006−352191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている方法は、トラフィックの許容量を超えた場合に、サービスの品質を確保できないという問題があった。また、特許文献2に記載されている方法は、車両からの緊急通信の要求に応じて通信を行うものであり、言わば緊急通信の都度行われるその場限りのものであった。そのため、車両ごとに通信の成立する確率を高めるような操作をすることはできなかった。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、路車間通信システムにおいて、危険度の高い車両と路側通信装置の間での通信成立の確率を向上させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では以下の構成を採用する。すなわち、
通信装置を備える車両と、
前記車両と通信を行って情報を送受信する路側通信装置と
を有する路車間通信システムであって、
前記車両は、少なくとも位置および速さを含む自車の走行状態を取得して前記路側通信装置に送信し、
前記路側通信装置は、前記車両から受信した走行状態に基づいて車両ごとの危険度を判定し、当該危険度が高い車両に対して多くの通信リソースを割当てる割当て制御部を備えることを特徴とする路車間通信システムである。
【0007】
このような路車間通信システムにおいて、路側通信装置はサービスを提供する範囲内にある車両ごとに、位置および速さに基づいて危険度を判定している。そして、危険度に応じて車両ごとに通信リソースの割当て量を変化させるので、従来の路車間通信システムとは異なり、通信が成立する確率を車両ごとに制御することが可能になる。
【0008】
本発明はまた、以下のような構成を取ることができる。すなわち、
車両と通信を行って、少なくとも前記車両の位置および速さを含む走行状態を取得する情報取得部と、
受信した走行状態に基づいて前記車両の危険度を判定し、危険度が高い場合は前記車両に対して多くの通信リソースを割当てる割当て制御部を備える
ことを特徴とする路側通信装置である。
【0009】
このような路側通信装置は、サービスを提供する範囲内にある車両と通信を行い、各車両の危険度に応じて通信リソースの割当て量を変化させるので、通信が成立する確率を車両ごとに制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、路車間通信システムにおいて、路側通信装置と危険度の高い車両との間での通信成立の確率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】路側通信装置および車両のブロック図。
【図2】路車間通信システム全体の構成を示す図。
【図3】路側通信装置の処理の概要を示すフローチャート。
【図4】車両の処理を示すフローチャート。
【図5】路車間通信に用いられるデータの構成を示す図であり、図5(a)は1秒単位の構成図、図5(b)は個々のフレームの構成図である。
【図6】車両ごとの重み付けに用いるテーブルであり、図6(a)は車両状態判断テーブル、図6(b)は車両テーブルである。
【図7】タイムスロット割当てを示すフローチャート。
【図8】実施形態3の通信リソースの割当てを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。まず、図1のブロック図に路車間通信システム全体の構成を示す。路車間通信システムは、サービスを提供する範囲(以下、セルとも呼ぶ)の中にある路側通信装置1と車両2からなる。路側通信装置1は、セル内の車両2に対して事故を防止するための情報を提供するために、車両2などから収集した情報に基づいて総合的に危険性を判断し、限られた通信リソースをどの車両に割当てるかを判断し、スケジューリングを行う。以下の説明においては、1つのセル内に1台の路側通信装置と複数の車両がある場合を例にしているが、実際はこれに限らず、複数の路側通信装置が連携して処理を行っても構わない。
【0013】
路側通信装置は、割当て制御部11、アンテナ12、送信制御部13、情報取得部14、地図DB15、カメラ16を備えている。
割当て制御部11は、車両に送信する情報をスケジューリングする。送信制御部13は、アンテナ12を経由して各車両と無線通信を行う。情報取得部14は、アンテナ12経由で車両から受信したデータから、割当て制御に必要な情報を抽出する。地図DB15にはセル内の地図情報が格納されている。カメラ16はセル内を撮影する撮影装置であり、画像を分析して歩行者を検出するために用いられる。
【0014】
地図DB15には、例えば、道路の位置、幅や制限速度、建築物や障害物の位置と大きさのように車両の運行に影響を与える事柄が記憶されている。また、事故が起った地点や回数の情報、交通規制、工事個所の情報などの情報が随時更新されて格納されている。また、システムの外部、例えばVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システムセンターの商標)と連携して情報を取得することも可能であり、これにより情報の正確性を高めて判断の信頼度を向上させることができる。以下の実
施例ではカメラ16を歩行者の検知のためだけに用いているが、撮影した画像を解析して車両の位置や速度を取得しても良い。これにより、通信装置を備えていない車両を考慮に入れた判断が可能になる。
【0015】
同じく図1のブロック図において、車両2は、車載通信装置21、アンテナ22、車両情報収集部23、GPS24、速度計25、ABS26、VSC27、方向指示器28を備えている。
車載通信装置21はアンテナ22を経由した無線通信により、路側通信装置との間で情報を送受信する。車両情報収集部23は、車載ネットワークにて接続された自車の各部位からデータを取得し、車載通信装置に送信する。GPS24は、衛星測位システムの端末であり、GPS衛星から信号を受信して車両の現在位置を取得する。速度計25は、車両の速さを検出する。ABS26(Antilock Brake System)は、急ブレーキ時に車輪のロ
ックを防ぐ装置であり、ABSが動作した回数は不図示のメモリに保存される。VSC27(Vehicle Stability Control)は、急激なハンドル操作が行われた時に横滑り等を防
ぐ装置であり、VSCが動作した回数は不図示のメモリに保存される。以降、車載通信装置が送信する自車の情報を走行状態とも呼ぶ。方向指示器28は車両の運転者の操作により点灯し、進行方向を表示する。また、不図示のCPUが処理の全体を制御し、各ブロックに指示を与えている。
【0016】
なお、電波状況によってはGPSによる測位の信頼性が低いことがある。そのような場合は以前の位置検出結果からの変位を速度や進行方向によって推定する自律型航法装置を用いても良い。また、上で示したABSとVSCの他にも、車両は様々な安全装置を備えることができるので、車両情報収集部はそれらの動作状況を取得しても良い。例えばTRC(Traction Control)は駆動時の空転を検出するとブレーキやエンジン・モーターを制御する。また、かかる安全装置を統合制御するVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management:トヨタ自動車株式会社の商標)の動作状況を取得しても良い。
【0017】
<実施形態1>
ここでは、図2に示したセルを例として、本発明の処理の流れ、すなわち、路側通信装置が車両からの情報やカメラによる撮影画像に基づき、通信リソースを車両ごとに割当てる方法について説明する。
【0018】
路側通信装置と車両の間での通信方法は、変調方式、符号化と復号の方法、ノードを多重化する方法や、それらの組合せにおいて様々なパターンが考えられる。本実施形態においては、アップリンク通信とダウンリンク通信は、路車間通信用に確保された同じ周波数帯を利用して送受信されるものとし、時分割により通信方向の制御がなされる。このような通信で用いられるデータ構造を図5に示す。
図5(a)は、車両から路側通信装置への通信であるアップリンク通信と、路側通信装置から車両への通信であるダウンリンク通信が同じ周波数帯を用いてなされる際に、通信の方向が時分割によって制御される様子を示している。本実施形態では、1回のアップリンク通信またはダウンリンク通信は50msecの期間で行われる。言い換えると、50msecごとに通信方向が入れ替わっている。その結果、1秒間の中に、アップリンク通信とダウンリンク通信の組合せが10回現れる(1u1d,2u2d,…,10u10d)。
【0019】
アップリンク通信に対応する上りフレームは、さらに所定数のタイムスロットに区切られており、各車両は自車に割当てられたタイムスロットを利用して路側通信装置に情報を送信する。本実施形態では、図5(b)に示すように上りフレーム1つにつき10個のタイムスロットが割当てられている。従って、タイムスロットの期間は1つ当たり5msecとなる。一方ダウンリンク通信の時間帯には、路側通信装置が下りフレームを作成して
情報送信する。本実施形態においては、下りフレームは特定の車両を送信先として指定するのではなく、セル内の全域に同報的に送信され、全車両に同じ情報が届けられる。
なお、ここではアップリンク通信とダウンリンク通信が同じ時間ずつ交互に行われているが、実際はこれに限る必要はない。セル内の通信状況や上りと下りの情報量の差に応じて時間を非対称としても良い。例えば、路車間通信システムでは通常、下りフレームの情報量の方が上りフレームと比べて多いので、ダウンリンク通信に長い時間を割当てることも考えられる。また、上りフレーム中のタイムスロットの数や期間についても、通信の実情に応じて変更して用いることができる。
【0020】
路側通信装置は、初めて通信が成立したセル内の車両に対して、まず、1秒間に1個のタイムスロットを割当てる。これにより、図2の車両A、BおよびCが情報送信の対象であれば、それぞれの車両について、少なくとも1秒間に1回のアップリンク通信期間が確保される。なお、この1秒間に1個というタイムスロット数は本実施形態における初期値であり、システムの実情に照らして設定すべきものである。上りフレーム内に初期値のタイムスロットが設定された様子を図5(b)に示す。ここではフレーム1uの先頭から順に割当てがなされているが、実際にはフレーム1u〜10uのいずれかに割当てられれば良い。各車両は割当てられたタイムスロットを使ってアップリンク通信を行う。各車両が送信する情報は1つのスロットで十分に伝送可能なサイズとする。例えば、100byte程度である。そして、初期割当てに引き続いて、車両の危険度に応じた追加割当てが行われる。これらの処理については後に詳述する。
下りフレームは、上述したようにセル内の全域に、同じ情報を送信する。本実施形態においては、路側通信装置が各車両から受信した走行状態、および、カメラで撮影した画像を解析して得られた歩行者の位置情報をまとめ、必要に応じて編集して送信する。なお、ダウンリンク通信期間中に、ヘッダとデータの組み合わせからなる下りフレームを複数回繰り返し送信すれば、車両に情報が届く確率を高めることができる。
【0021】
図3のフローチャートを用いて、路側通信装置の動作の概要を説明する。
ステップS101で、路側通信装置の情報取得部は、セル内の各車両から情報を受信して、走行状態を取得する。また、カメラによりセルの様子を撮影する。
ステップS102で、路側通信装置の割当て制御部は、各車両の危険性がどの程度かを判断し、車両テーブルのスコアとして記録する。この処理の詳細については後述する。
ステップS103で、路側通信装置の割当て制御部は、前ステップで判断した危険性に応じて、各車両に通信リソース(上りフレームでのタイムスロット)の割当てを行う。また、セル内に送信するための下りフレームを作成する。この処理の詳細については後述する。
ステップS104で、路側通信装置の送信制御部は、アンテナを経由して情報送信を行う。
路側通信装置は、以上の動作を定期的に繰り返す。
【0022】
図4のフローチャートを用いて、車両の動作について説明する。
ステップS901で、車両情報収集部は、自車の走行状態を取得する。すなわち、GPSから位置を、速度計から速さを、方向指示器から進行方向を、ABSとVSCから動作回数を取得する。
ステップS902で、車載通信装置は、走行状態を送信する。
ステップS903で、車載通信装置は、路側通信装置から情報を受信する。
ステップS904で、車両のCPUは、受信した情報を分析し、周囲の車両の走行状態や歩行者の有無に基づいて後続処理が必要かどうかを判断し、必要であれば適切な処理を行う。
車両は、セル内にいる間、以上の動作を定期的に繰り返す。
【0023】
続いて、図6を参照しつつ、上述したステップS102で割当て制御部が行う処理の詳細を説明する。図6(a)は車両状態判断テーブルであり、車両の様々な状態と、その状態の危険度を表すスコアが格納されている。図6(b)は車両テーブルであり、車両ごとに1つのエントリーが格納される。車両状態判断テーブルおよび車両テーブルは、割当て制御部によって保持されており、装置の特性に合わせてRAM、フラッシュメモリなどを用いて構成することができる。
割当て制御部は、まず、上述したステップS101で各車両から受信した走行状態を用いて、車両テーブルの各コラムを更新する。初めて通信が成立した車両であれば新しいエントリーを作成する。続いて、車両ごとに累積スコアを算出する。具体的には、車両状態判断テーブルの各項目と、車両テーブルに格納された値を比較し、一致した場合はスコアを累積加算していく。その際に、地図DBのデータ、カメラによる撮影画像、他の車両の走行状態も適宜利用する。
【0024】
続いて、図7のフローチャートを参照しつつ、上述したステップS103で割当て制御部が行う処理の詳細を説明する。
ステップS501で、割当て制御部は、全ての車両について、本実施形態での初期値として、1秒間に1個のタイムスロットを割当てる。これにより、図5(a)における上りフレーム1u〜10uのいずれかに、1個のアップリンク通信期間が確保される。結果として、セル内の全車両について最小限の通信リソースが保証される。本実施形態における最小限の通信リソースは1秒間に1個のタイムスロット(5msec)となる。
ステップS502で、割当て制御部は、車両テーブルにエントリーがある各車両の累積スコアを合計する。
ステップS503で、割当て制御部は、各車両の累積スコアを前ステップで求めた合計値で割ってスコア比を求める。
ステップS504で、割当て制御部は、スコア比に応じてタイムスロットを割当てる。各車両が使用できるスロット数は、初期値として割当てられた1秒あたり1個に、本ステップでの割当て値を加算した数となる。
【0025】
なお、この割当て処理には様々な計算方法が考えられる。例えば、累積スコアをレンジに分類し、レンジごとに決まったスロット数を割当てても良い。つまり、累積スコアが1〜5なら1秒間につき1個のタイムスロットを追加で割当て、6〜10なら2個のタイムスロットを追加で割当てる、というような方式である。あるいは、追加のタイムスロット割当ての際には、各車両の累積スコアをそのままタイムスロットの1秒あたり割当て数とし、タイムスロットの数が足りない場合のみスコア比に応じた割当てを行うようにしても良い。
また、セル内の車両の累積スコアを比較して、最大のスコアを持つ車両には図5(a)のアップリンク通信期間1u〜10uのそれぞれに1個ずつのタイムスロットを割当てても良い。この場合、最大のスコアを持つ車両には100msecに1回の通信機会が提供される。そして、他の車両には、最大のスコアを持つ車両とのスコア比に応じてタイムスロットを割当てる。以上のような方式によれば、どの車両についても1秒当たり1スロットの最小限の通信機会は確保しつつ、スコアに応じた通信リソース分配を行うことが可能になる。
また、下りフレームの中には、図5(b)に示したようにヘッダ部と同報データ部を作成する。ヘッダ部には、下りフレームであることを特定する情報や、上述の方法で作成したタイムスロット割当て情報などが含まれる。また、同報データ部には、本実施形態においては、セル内の各車両の走行状態や撮影装置で撮影した画像から得られた歩行者の情報、その他通知すべき情報が含まれる。1つのダウンリンク通信期間は50msecであるので、この時間内に収まるのであれば、ヘッダ部と同報データ部の組合せを1期間内で複数回送信して、車両側の受信確率向上を図っても良い。
【0026】
続いて、図2のようなセルを例に取って、路車間通信システムで行われる一連の処理について述べる。なお、この例での路側通信装置は、アップリンク通信においては図中に示した全ての車両から情報を受信するものの、説明を簡明にするために、ダウンリンク通信においては車両A、BおよびCの3台のみを情報送信の対象とする。したがって、危険性のスコア判定もこの3台についてのみ行っている。
【0027】
まず、図4のS901、S902において、車両A、BおよびCの車両情報収集部は、自車の走行状態を取得する。そして車載通信装置から路側通信装置に送信する。このアップリンク通信においては上述した初期状態のタイムスロットが利用されるので、1秒に1回の情報送信がなされる。
【0028】
次に、図3のS101において、路側通信装置の情報取得部は上りフレームを分析して走行状態を取得し、また、カメラによる撮影画像に基づく歩行者の位置を取得する。そしてS102において、まず車両テーブルの各車両のエントリーを更新する。ここでは、車両A、BおよびCについて、図6(b)に示したように、位置、速さ、進行方向、ABSとVSCそれぞれの動作回数が記録される。
続いて各車両について、図6(a)の車両状態判断テーブルの各項目との対比が行われ、累積スコアが算出される。例えば車両Aについて見ると、速さが85km/hなので「高速(80km/h以上)」に該当してスコアがプラス2、同じ交差点に車両甲が進入しようとしているのでプラス1、ABSが1回動作しているのでプラス1となり、累積スコアは4となる。同様に、車両Bの累積スコアは進路に歩行者がいるのでプラス1となる。また、車両Cは、混雑車群の中にいるのでプラス1、車両乙が車線変更しようとしているのでプラス1となり、累積スコアは2となる。判定後、累積スコアは図6(b)の車両テーブルに書き込まれる。
【0029】
次に、図3のS103において、路側通信装置の割当て制御部が、各車両への通信リソースの割当て、すなわちタイムスロットのスケジューリングと、下りフレームの作成を行う。通信リソース割当ては図7のフローに沿って行われる。本実施形態では、S501で、車両A〜Cのそれぞれに、1秒間に1個のタイムスロットが割当てられる。そして、S502およびS503で、車両ごとの累積スコアの比率を求める。この場合、図6(b)より車両A:B:C=4:1:2である。そしてS504で、この比率に応じて、上りフレームにおける残りのタイムスロットを割当てる。図5の例であれば10回のアップリンク通信期間(1u〜10u)それぞれに10個のタイムスロットがあるので、1秒回に100個のタイムスロットがある。分配方法としては、例えば、最大の累積スコアを持つ車両Aが100msecに1回の通信機会を確保できるように、アップリンク通信期間1u〜10uのそれぞれに1回ずつのタイムスロットを分配し、車両B,Cに対しては比率に応じた分配を行うこととすれば良い。
【0030】
そして図3のS104で、送信制御部がデータ作成と変調処理を行いアンテナ経由で実際に情報を送信する。このときの下りフレームの構成が図5(b)に示されている。ヘッダ(H)の部分に、各車両がどのタイムスロットの使用を許可されているかが記述されている。データの部分に、セル内の各車両から収集した走行状態と、歩行者の位置情報が、同報データとして格納されている。
【0031】
そして、図4のS903で、車両A、BおよびCが情報を受信する。S904において、各車両のCPUは情報に応じて適切な後続処理を判断し、実行する。受信した情報をどのように利用するかは、各車両の仕様として定められているが、例えば次のような制御が考えられる。
車両Aは、同じ交差点に車両甲が進入しつつあるという、目視では分からない情報を得られるので、音声メッセージやカーナビ等の表示部への画像出力によって運転者に通知す
る。また、車速が速すぎるという警告を発しても良い。また、車両Bは、左折した先に歩行者がいるという情報を得られるので、その旨を運転者に通知したり、場合によっては制動装置に指示を送って車体を停止させる。また、車両Cは、車両乙が車線変更するという情報を得られるので、その旨を運転者に通知できる。また、車両Cと後方の混雑車群の車両との車間距離が詰まっている場合、それに応じてアラート等の制御を行う。
【0032】
そして、次回のアップリンク通信では、危険度を表すスコアが高いと判定された車両は、スコアが低い車両と比較して多くのタイムスロットを利用して、路側通信装置に情報を送信することができる。ある車両に複数のタイムスロットが割当てられれば、走行状態を繰り返し送信することができる。これにより、スコアが高い車両と路側通信装置の間で通信が成立する確率が高くなるので、路側通信装置が情報を的確に収集して同報データを作成することが可能になり、セル内の安全性を高めることが可能になる。なお、上記記載においては、タイムスロット割当ての初期値として1秒間に1回を指定しているが、実際はこれに限らない。例えば、初めて通信が成立した時に車両の危険度が把握できていれば、最初からその危険度に応じた個数を割当てても構わない。
【0033】
<実施形態2>
本実施形態では、ダウンリンク通信のために作成される下りフレームの構成の異なる形態について説明する。
上記の実施形態1のように、下りフレームを同報データとして作成する場合、言い換えると、下りフレームの中にセル内の全車両の走行状態と、歩行者の位置情報を含める場合、セル内の車両や歩行者の数によっては問題が生じ得る。つまり、セル内に車両や歩行者が多数存在すると、下りフレームの1期間(例えば50msec)に伝送しきれないサイズになる可能性がある。こうして下りフレームからあふれたデータは、伝送されなかったり、次回の下りフレームに回されたりするので、車両への情報提供に不足や遅れが生じてしまう。
このような事態への対処法として、下りフレームの期間をデータサイズに合わせて柔軟に変更することが考えられる。例えば、全車両と歩行者のデータを収めた下りフレームを送信するのに70msecの通信期間が必要であれば、ヘッダ部にデータ長を記録して情報送信を行う。これにより、データのあふれを起こすことなくダウンリンク通信を実行できる。
【0034】
ただし、上記のような可変長のフレームを用いた場合であっても、車両におけるデータ処理の際に問題となる可能性がある。すなわち、車両の側から見ると、セル内の車両や歩行者の数が増えて処理すべきデータが多くなると、データ処理時間が増大したり、CPUの性能によっては処理能力を超えることになったりすることが起こり得る。その結果、車両の側で必要な後続処理が間に合わないという事態が発生しかねない。
このような事態への対処法として、下りフレームのデータサイズを削減することが考えられる。つまり、他の車両に影響を及ぼす可能性が低い車両の走行状態や、歩行者の位置情報は、同報データの中に含めないような下りフレームの作成である。
具体的な方法の1つの例は次のようになる。まず、図6(b)の車両テーブルに、「自車から50m以内に他の車両がいるか」という項目を追加する。そして、「他の車両がいない」のであれば、その車両の走行状態は下りフレームに含めない。なお、下りフレームから除外する閾値は単純に距離であっても良いが、車両の速さや進行方向を考慮しても良い。これにより、下りフレームの期間からデータのあふれを起こすことを防止できる。また、車両のCPUの処理能力が低い場合であっても他の車両との関係を判断することができるので、適切な後続処理を選択することが可能になる。
【0035】
<実施形態3>
本実施形態では、路側通信装置と車両の間の通信方式が異なる形態について説明する。
ここでは、無線通信のアクセス方式としてOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access:直交周波数分割多元接続)を用いて、路側通信装置と多数の車両
の通信を成立させている。本実施形態における通信リソースの割当ての概念を、図8に示す。路車間通信に利用できる1.0MHz幅の周波数を、100本のサブキャリアに分割し、この帯域幅にデータを拡散させて伝送する。さらに、ここでは時分割の考え方も取り入れ、1つのフレーム期間(5msec)を等間隔にn個に分割している。こうしてサブキャリアと時間で表されるスロットが、本実施形態における通信リソースとなる。
【0036】
通信リソースを上記のように構成することにより、柔軟に構成を変更できるので、路車間通信システム内の通信を効率的に行うことが可能になる。また、本実施形態では、下りフレームについても図8に示したように通信リソースの割当てが行われる。これにより、例えば危険度を表すスコアが高い車両に対しては路側通信装置から指示する内容が増えると考えられるので、多くの通信リソースを割当てて、通信が成立する可能性をアップリンク通信、ダウンリンク通信共に高めることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 路側通信装置
11 割当て制御部
13 送信制御部
14 情報取得部
2 車両
21 車載通信装置
23 車両情報収集部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置を備える車両と、
前記車両と通信を行って情報を送受信する路側通信装置と
を有する路車間通信システムであって、
前記車両は、少なくとも位置および速さを含む自車の走行状態を取得して前記路側通信装置に送信し、
前記路側通信装置は、前記車両から受信した走行状態に基づいて車両ごとの危険度を判定し、当該危険度が高い車両に対して多くの通信リソースを割当てる割当て制御部を備える
ことを特徴とする路車間通信システム。
【請求項2】
前記割当て制御部は、車両の速さが速いほど危険度が高いと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の路車間通信システム。
【請求項3】
前記割当て制御部は、車両が事故多発地点にいる場合は危険度を高めるように判定を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の路車間通信システム。
【請求項4】
前記走行状態は、車両の安全装置の動作履歴をさらに含み、
前記割当て制御部は、安全装置が動作した回数が多いほど危険度が高いと判定する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の路車間通信システム。
【請求項5】
前記割当て制御部は、
通信が成立した車両の走行状態に基づいて、各車両が混雑した状況にあるかどうか、および、他の車両と接触する可能性があるかどうかを判断し、前記判断の結果に基づいて前記危険度を判定する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の路車間通信システム。
【請求項6】
サービスを提供するセル内を撮影して歩行者を検知する撮影装置をさらに有し、
前記走行状態は、車両の進行方向をさらに含んでおり、
前記割当て制御部は、車両の進行方向に歩行者が存在する場合は危険度を高めるように判定を行う
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の路車間通信システム。
【請求項7】
前記通信リソースは、周波数分割および/または時間分割により多重化された通信を行う際のタイムスロットである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の路車間通信システム。
【請求項8】
車両と通信を行って、少なくとも前記車両の位置および速さを含む走行状態を取得する情報取得部と、
受信した走行状態に基づいて前記車両の危険度を判定し、危険度が高い場合は前記車両に対して多くの通信リソースを割当てる割当て制御部を備える
ことを特徴とする路側通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−35721(P2011−35721A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180754(P2009−180754)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】